いやもうマジでなんとか仕上がりました。あとタイトルから色々とお察しください(白目)
では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも243317、しおりも509件、感想数も794件に上り、またお気に入り件数も1005件をキープ(2025/6/15 22:24現在)出来ております。誠にありがとうございます。大分日が開きましたがそれでも多くの方がひいきにしてくださることがとても嬉しいです。
またAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり感謝いたします。芸が無いと言われてしまいそうですがまた話を書き上げる力をいただきました。
今回の話を読むにあたっての注意点として少し短く(9000字足らず)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。
「あーもう。あの女と竜、いったいどこにいるんだか」
恵里が文句を垂れたのは黒髪の女と黒い竜のことについて語った日、その日の夕方であった。ガラス製の器に盛られたサラダにフォークをぶっ刺し、突っ込んだ野菜をもっしゃもっしゃと不機嫌さを露わにしながら恵里は食べる。
――香織が女子会を提案した後、残ったメンバーで恵里達は会議を続けた。戦力増強のためにも例の女と竜を探すことを決めたのである……結果、いつもならそこそこ盛り上がってる食堂の空気はややどんよりとしていた。
「まぁまぁ恵里。流石にまだ一日目だし……」
「焦るのはわかるよ。でもハジメくんの言う通りだよ。すぐには見つからないってば」
「えー」
結果が振るわなかったことを恵里がボヤくと、すぐさま隣の席のハジメ、彼の隣にいた鈴がなだめてくれた。しかし恵里はそのことを嬉しく思いつつも、眉間に寄せたしわはわずかたりとも緩ませはしない。むしろ二人に不満を垂らしながら半目で見つめ返すだけであった。
「だよなー。マジ見つからねぇし」
「先生もよー、別にいい子ちゃんにならなくっていいだろー。あのアマ見つかってねぇのは事実だしよー」
愚痴を垂らした途端、礼一と良樹もそれに乗っかってきた。一緒に食事をしていたハジメや光輝達のため息が食堂に響く中、恵里は同意した二人を見ながらうんうんとうなずく。
「でももう何日かやればきっと見つけられるんじゃないか。めぼしいところは大体行ったんだから」
食堂の空気が軽く重苦しくなっている中、光輝がほんのり苦笑しながらもこちらをなだめてきた。彼の言う通り王国近辺や帝国、公国にフューレンなどには既に調べていた。偽の神の使徒となって訪れたことのある村や集落の半分ぐらいにも足を運んでいたのである。
光輝の言葉にふと恵里はエジソンの電球関連のエピソードを思い出したのだが、あんまりなぐさめにならないなぁと内心軽くふてくされていた。
「だな。メルドさん、明日もハウリアを何人か借りるけどいいか?」
「構わん。あ、いや、団員とハウリア達の連携の訓練も兼ねたい。後でリストを作るからそいつらも連れて行け」
また龍太郎が光輝に同意し、やや申し訳なさそうな声色でメルドに頼み込んだ。するとメルドの方から追加の人員をよこしてくれると言ってくれた。見ればやれやれといった様子でこちらを見ており、彼の心遣いに恵里も少しだけ気持ちが軽くなる。
「……永山君達には悪いことをしました」
「いや、俺達はいい……あまり悠長なことを言ってられないのはわかっている」
すると今度は額に手を当てて愛子が深くため息を吐く。そんな彼女に重吾だけでなく相川昇や仁村明人らも彼女を気遣う言葉をかけており、恵里も会議の時のことを思い返していた。
(ま、仕方ないか。同情はしないけど。こっちがあえて隠してたの暴いたし、それで永山君達煽ってたしね)
実は会議を続行した際、愛子は恵里にある質問を投げかけていた。魔王城に向こうの
玉座の間の一角に設置されたオリの中に向こうの世界の愛子や重吾達は囚われていた。もちろん人質として使うためだったが、そういえばミュウとレミア以外は戦力分散以外に使えなかったことを恵里は思い出す。
(このまま放っとくとあっちの二の舞だろうしね。そうなるとこっちとしても厄介だし)
この事実を馬鹿正直に明かせば重吾達が萎縮すると思い、ハジメ達と話し合ってある程度
「……俺達だってこのままでいいわけじゃ無い、ってのぐらいわかるよ」
「俺達が人質になるかもしれない、って言ってくれたんだもんな」
「もう嫌なんだ。何も出来ないなんてさ」
暴かれた際、愛子は重吾達に人質にされる危険性を真っ向から突きつけていたのも恵里は覚えている。そのことに彼らが理解を示していたこともだ。
ふと愛子に声をかけていた玉井淳史らの方を見やれば、申し訳なさそうな顔を時折しながらチラチラと見てきている。恵里としても頭数になるだけ農作業だけやってるよりはマシかと思いつつ、明日はどう動くべきかと考えを巡らせていく。
「光輝君が言ったけど、もう大体のところは行っちゃったしねぇ~。もう砂漠でもテキトーに探せっての? ヤだなぁメンドくさい」
「おい中村やめろよ。縁起でもねぇ」
視線をテーブルの上のスープ皿へと落としつつ、恵里は具がほとんどなくなったスープをすくう。ボヤいた直後にスプーンを口に突っ込めば同時に信治がうんざりした声で恵里にツッコミを入れてくる。
それぐらいわかってるとばかりに軽いジト目を信治に送ると、不意に恵里の頭に手が乗った。
「しばらくは“仙鏡”で、かな。時間をかけすぎるのもそうだけど、でも焦り過ぎるとよくないしね」
「……うん」
声をかけられる前にハジメが頭をなでるためにやってくれたことに恵里は気づいていた。軽く脱力してため息を吐きながら恵里はされるがままになる。
アレーティアが全ての神代魔法を手にするまで、こちらを急かしはしても本気でエヒトがトータスを滅ぼすことはない。そのことも恵里はわかっていたため、しばらくは神代魔法の取得と並行してトータス中を“仙鏡”でチェックするしかないだろう。そう恵里は考えていた。
(……これで永山君達がもうちょいステータス高かったらなぁ。空間魔法を取得させて即戦力に出来るんだけど)
とはいえその作業を受け持つのは空間魔法に高い適性を持つ鈴に香織、光輝とこの三人と協力して造ったアーティファクトを使う面々しかいない。
自分達とのステータスの差を考慮し、人海戦術以外で重吾達はあまりアテに出来ないだろうと恵里は軽くあきらめていた。
「おいアレーティア。いい加減腹くくれ」
「……だいすけぇ。でも、でもぉ」
そうして食事をしながら明日の自分達の動きについて恵里は考えを巡らせていた。だが不意に大介がアレーティアを呆れた様子で叱り飛ばしたのに気づき、二人の方へと視線をやる。すると大介を見たり、こちらやテーブルの上に視線を向けるのを何度もしているアレーティアの姿が恵里の目に映った。
「ぁぅっ……そ、その」
「……話があるんでしょ? 頼りにしてるんだし、どうするかは聞いてから決めるから」
軽く目を細め、軽く呆れつつも恵里はアレーティアに話をするよう促す。やたらとビクビクするようになっただけで会った当初から色々とアテにしているのだ。だから問題ない、と恵里はハジメに頭をなでるのを“念話”で催促しながら微笑みを向ける。
「……んっ。わかり、ました。その、皆さんにお伝えしたいことがあります」
ギュッと大介の腕にしがみついたことで安心したのか、アレーティアが真剣な表情でこちらを見渡してきた。一体どんな役に立つ話やら、と軽く前のめりになりながら恵里は彼女をじっと見つめる。彼女の口から出た推測に目をむくまでそう時間はかからなかった。
「うっわぁ……それは思いつかなかった」
それは黒髪の女と黒い竜が同一人物であること――太古に滅びたとされる竜人族という種族ではないかというものだ。食堂内は一瞬にして騒然となり、頭を抱えた恵里がふと左横を見やればハジメが机に突っ伏した姿と鈴の呆然とした様が視界に映った。
「そうじゃん……だってここ剣と魔法のファンタジーの世界じゃん。竜に変身する人とか割と定番だってのに」
「そっか……そうだよね。生き物に干渉する魔法があるんだから、姿を変えるのも出来るはずだよね」
自分達が手にした力は有機物や無機物の操作、はたまた空間や時間に干渉出来るものだ。姿を変化させられるぐらいやれないでどうするとショックを受けていた恵里であったが、それはハジメと鈴も同様だったらしい。イスがなかったら自分と一緒に仲良くそのまま地面にくずおれているであろう二人の様を恵里は幻視してしまう。
「そんなのアリかよ……」
「いくらファンタジーの世界だからって……ねぇ?」
幼馴染み達の方を見れば自分達と同様にひどく動揺しているのが嫌でもわかり、皆のうろたえる様を見て恵里はちょっとだけホッとする。なお『ドラゴンに変身とか何でもありだな』、『え何それ。カッコよくね?』とのんきにのたまう大介達の発言は聞かなかったことにした。
「あ、あくまで、あくまで可能性の話ですから……」
しばし呆然としていた恵里であったが、ふと彼女の耳にアレーティアの焦りに満ちた声が届く。チラッとアレーティアの方に目を向ければ汗をダラダラ流してカタカタ小刻みに震えながら弁明していた。それを見て恵里は一層頭痛が強まった気がしたが、お礼ぐらい言わなきゃとゆっくり頭を上げる。
「いい加減、自信の一つぐらい持ってほしいんだけど……アレーティアが役に立たなかったことなんてないんだしさぁ」
「そ、その……ぁぅ」
頭痛を堪えながらも恵里はグチ混じりにアレーティアを褒める。するとアレーティアの震えはピタリと止まり、代わりに顔がほんのりと赤く染まってやたらと目を泳がせるようになった。
「一つ見つければ解決できる可能性を言ってくれたでしょ。萎縮されてもこっちが困るんだってば」
「そうだよアレーティアさん……そういえば恵里ちゃんの記憶に映ってたあの人、アレーティアさんやシアにも引けを取らなかったよね」
「あー。確かにな。海底遺跡の記録のことを考えると、エヒトが何かしてるかもな。一応世界が違うってのはあるが、無事なのを考えたらどうにか逃げたのかもしれねぇし」
そんな彼女に追撃とばかりに恵里が持ち上げれば香織がそれに続く。また龍太郎が香織の意見に賛同した後、彼なりの考えを述べたことで場が大いにわいた。
「皆さん、盛り上がってるところ申し訳ないのですが」
「ほれみろアレーティア。お前ならやれるって言っただろ」
「あぁ。大介の言う通りだよ。もしかするとアレーティアさんの情報が突破口になると思う。いつもありがとう」
「あの皆さん、話の腰を折るのは十分承知してるんですけど」
「も、もぅ……みんなやめてぇぇ……」
またしても自分達をアシストしてくれたアレーティアを皆が口々に持ち上げれば、いつものように彼女は全身を真っ赤にして涙目で悶えている。呆れの眼差しを送ってくる面々がいたものの、恵里達はそれを無視してぷるぷる震えるアレーティアに感謝や褒め言葉をぶつけまくったのである。
「……リリアーナ様」
「……ぐすっ。あの、皆さん。わ、私の話を聞いてほしいんですけどぉ……」
そんな折、ふとアレーティアの近くからリリアーナのすすり泣く声が恵里の耳に届いた。他の皆と一緒に顔を見合わせ、声のする方を見やる。すると右手で目元をぬぐうリリアーナと彼女にそっとハンカチを差し出すヘリーナがいたのである。
「すまんリリィ!! 大介達と一緒にアレーティア褒めるの楽しくて気づかなかった!」
「おう信治テメェ後で殺すぞ」
「いや大介が一番楽しんでなかったか!?……って、ごめんリリィ! 気づくのが遅くなった!」
「いやもういいですけどぉ……わたしおうじょなのになぁ」
いの一番に信治が謝罪し、光輝に続いてハジメ達も彼女に頭を下げる。恵里もまた同様だ。リリアーナが何の用もなしにこうして話しかけてくることもないし、重要な要件だったら一刻も早く取り組まないといけないことぐらい恵里もわかっていたからである。
「……その、少し相談があるんです」
「もしかして急な話なのかい?」
「まぁ、はい……その、帝国と公国の会談が明日組まれることになりました」
どこか気まずそうに声をかけてくるリリアーナに対し、光輝が話を促せば彼女はその理由をすぐに語ってくれた。いったいいつ頃やるんだか、と頭の片隅で思ってたことであったがどうしてこのタイミングで? と恵里は疑問を抱く。
「……公国はともかく、帝国に戦争の結果が伝わるのがそろそろだから」
するとアレーティアが唐突に意味深なことをつぶやき、それにリリアーナが深々とうなずいて返してくる。二人が通じ合ったのを見て恵里はますますわからなくなってしまい、思わずハジメや幸利達の方を見やったが彼らも首をかしげるばかりであった。
「流石アレーティア様です。両国の連合軍と王国の数字の上での戦力の差は皆さんもご存じですよね。普通ならば既に勝利してますし、伝令もほぼ休まずに帝国へと向かっているはずですから」
その理由を聞いて恵里は目を軽く見開き、なるほどと軽くうなずく。
公国は既にトップを味方につけているが帝国は別だ。偽者の神の使徒として向かったハジメと光輝の話では皇太子が暫定的に上に立っているだけでしかない。
「なるほど。帝国が下手な動きをする前に終わらせる、ってこと」
「察していただいて助かります、中村様。帝国が次の動きを見せる前にこちらの下についたことを示すためです……急な話になったのはこちらの不徳の至すところですけれど」
先手を打つ。リリアーナが最後にボソッとつぶやいたようにいきなりねじ込まれたのはともかく、それ以外は恵里も納得が出来た。そのためまだ首をかしげたままの龍太郎や優花、また礼一達にハジメ達と手分けして説明をしていく。
「あー、まぁわかったっちゃわかった。じゃあ俺もアレーティアと――」
「も、申し訳ありません!…………そのぉ、檜山様は、別の方面で活躍していただければ、と思いましてぇ」
となるとやはり大介も必要になるだろう。そう恵里も思いながらリリアーナの話を聞こうとしたら真逆の答えが飛んできて一瞬目が点となってしまう。だが目を泳がせている彼女を見てすぐ理由がわかった恵里は、ほんのり口の端をひきつらせながらその答えを口にする。
「……檜山君のせいで会談がめちゃくちゃになりそうだから?」
「………………この埋め合わせはいつか必ず、とだけ」
途端、リリアーナが思いっきり顔を背けながら小声でつぶやいた。
リリアーナに止められたと同時にフリーズしたままであった大介が思いっきり肩を落とす。隣のアレーティアは震えたままだったが今度は顔が真っ青になっている。恵里も思わず天を仰ぎそうになってしまった。
「だ、だだ、だいすけがいなくても、わ、わたしがんばれるから……がんばる、から……」
「いい加減自信を持てってお前は……なぁ皆、明日俺サボっていいか? いいよな?」
気の毒になるレベルで震えている上、涙と鼻水を垂らすアレーティアに恵里も思わず同情してしまう。また大介がサボると言い出したのも仕方ないなとは思ってしまった。
「お願いします檜山様。どうか同席だけはしないでください。近くにいたらいたでほぼ確実に利用されますので」
「お、おぅ……」
ただリリアーナが彼の肩を掴んで青い顔をしながら止めようとしているのも恵里にはわかる。以前フューレンの街で相対した時のトレイシーのことを思い出したからだ。あちらは自分達よりも『上手』であることを。
(最初からこっちを潰すつもりだったし話運びも上手かったしね。まぁこっちが逆に潰せたけどさ。それでも檜山君達のせいで面倒なことになりそうだったし)
計画こそ破綻しなかったものの、向こうのかまかけにあの時同席していた大介と信治が見事引っかかっている。会談の場にトレイシーがいるとは限らないものの、彼女か同等レベルで駆け引きの上手い相手が同席する可能性は十分にあった。
「サボりたいのはわかるけど……だったらこっちの黒竜と女の捜索手伝って。どれだけ猶予があるかわかんないし」
だからこそリリアーナは同席を止めようとしている。そう理解した恵里は助け船を出すついでに彼をこっち側に引っ張り込もうとした。少なくとも明日一日はアレーティアの力をアテに出来ない。だからこそ一人でも空間魔法が使える人間がいて欲しかったからである。
「中村お前ぇ……」
「「……恵里ぃ」」
案の定、大介はアレーティアを抱き寄せながら苦虫をかみつぶしたような顔をしている。ハジメと鈴からじっとりとした視線を向けられ、また光輝達も若干引いた様子でこちらを見ているのに恵里も気づく。
「いや皆の言いたいことはわかるよ。でもさ、エヒトの気まぐれで色々やられるのも頭に来ない?」
それでも恵里は自分の考えを強引に押し通そうとエヒトの名前を出すと、軽くピリついた空気がしぼんでいくのを恵里は余裕で感じとれた。
「……ズリぃっつの」
「エヒトの暗躍が恵里の記憶のそれと違いすぎるしね……それを出されるとなぁ」
思わず見渡せば全員が渋い表情を浮かべており、またハジメが伏し目がちに答える様を見て恵里も流石に罪悪感に駆られてしまう。
エヒトのことを挙げて黙らせることが卑怯なのはわかっている。けれども行動しなかったことで後悔するより、仲間のひんしゅくを買ってでも皆の被害を抑えることを恵里は優先したからだ。それでも自分がズルいことをしたことの自覚と罪悪感は消えなどしなかったが。
「……ごめん。出来る範囲でなら、何か一つぐらいやってもいいよ」
「マジでやってもらうからな……で、先生達は次どうする気だよ」
だからこそ何かおわびをしようと恵里は大介の目をじっと見つめながらそう訴える。大介に何度も人差し指を向けられ、面倒じゃないのだといいなと恵里はぼんやりと思った。そうして長いため息を吐いてから尋ねてきた大介に、恵里はハジメ達と一緒にこちらの捜索がどれだけ進んだかについて具体的に話していった。
「マジで大体のところは行ったんだな……あと小っさな村とかだろ」
「そうそう。他に行ってないのなんて砂漠とか火山ぐらいじゃねぇの」
「良樹君の言った通りかな。正直、ちょっと行き詰まってる」
頭を抱える大介に良樹もげんなりした顔つきで答えている。ハジメの言う通り行き詰まりを感じているのは恵里もその通りであり、また食堂を見渡した感じでは他の捜索隊のメンバーも同じなように見えた。
「恵里ちゃん、その人に関する手がかりも他に無いんだよね?」
「あったら流石に言ってる。だからハジメくんも頭抱えてるんだって」
すがるような表情で問いかけてきた香織に、息を長く吐いてから恵里は容赦なく返す。訪れるどころか目にしたという証言すらないのだ。情報が自分の記憶以外何一つ無いし、世界の違い故にこの世界ではアテにならない可能性がチラついていたがためである。
「そう、だよね……ごめんね」
どこかハッとした様子の香織がうつむきながら謝ったのを見て、恵里は思わず小声を漏らしそうになった。焦っているのは彼女だって同じだし、自分が別人であっても『親友』であることは変わらないと言ってくれた彼女を傷つけてしまったのだ。
「……ごめん香織。ボクもカリカリしてた」
「ううん。恵里ちゃん達が一番困ってるのに私も無神経だったから」
(……香織のお人好し。ボクなんかに気を遣ってさ)
軽く頭が冷えた恵里は何度か頭をかいてから香織に謝罪し、香織もすぐに首を横に振って気を遣ってくれた。そんな優しい彼女を見て、恵里は心の中で少し呆れてしまう。ほんのりと口元が緩んだことにも気づかないままでだ。
「ともかくよ。その竜人族ってヤツ、こっちの世界じゃいないんじゃね?」
「……最悪そう考えた方がいいかもね」
しかし恵里が柔らかい表情を保っていたのもほんのわずかな時間だけであった。礼一のボヤきを聞いて即座に渋い顔つきになり、頭を抱えながら弱音を漏らす。
「恵里のいた世界と僕達の世界のトータス、そんなに差はなさそうなんだけどね」
「まだ調査して一日しか経ってませんが、確証が無い以上はあまりこだわる必要は無いと私も思います」
「竜人族が無理なら亜人族か……明日の両国との交渉で奴隷となった亜人を回収できれば話し合いに持って行けるかもしれんが、難しいかもな」
ため息交じりにつぶやくハジメとあきらめが多分に含まれた愛子の意見に対し、ほとんど誰も反論どころか待ったをかけることもしなかった。メルドが別の案を出してはくれたが、あちらの見立てでもそう確率は高くないのがその声色から容易に察せられる。
「……あの、さ。その女ってドラゴンでもあるんだろ」
どうしたものかと頬杖を突き、眉間に軽くシワを寄せてほんのり目を細めていた恵里。周りも頭を抱えるなりイスの背もたれにもたれたりとどんよりとした空気が漂う中、いきなり健太郎の声が食堂に響いた。
「……アレーティアの見立てが間違ってなければね」
「「「ヒッ」」」
「ち、“鎮魂”っ!!……あ、あくまで私のいち意見ですから。えっと野村、さん?」
しかめっ面になった恵里が健太郎を凝視すれば、両隣にいた綾子と真央も仲良く悲鳴を上げる。しかも二人とも健太郎に抱きついて三人仲良くガタガタ震える始末であった。すぐさまアレーティアが三人に“鎮魂”を叩き込んだことで落ち着きを取り戻したのを確認すると、恵里は再度健太郎をじっと見つめる。
「だ、だったらどこかから飛んできた可能性だってあ、あるんじゃないか! その羽根で!」
健太郎が意見を言った直後、食堂は静まりかえる。また恵里もため息を吐きながら再度健太郎を凝視するのであった……。
続きは一週間以内にうp出来たらいいなー、と思っております。