あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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一週間と六日以内なのでセーフにしてください(ならねぇんだよ普通)
……コホン。では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも244148、お気に入り件数も1006件、しおりも512件、感想数も796件(2025/6/28 18:01現在)となりました。誠にありがとうございます。いやもうホント愛想つかさないで見て下さる皆様には頭が上がりません。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり本当に感謝いたします。いつもいつも面白いと評価して下さることが作者の力になります。ありがたい限りです。

今回の話を読むにあたっての注意点としてちょっと長く(約11000字程度)なっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


百八話 あなたは陽炎?(後編)

 健太郎が「どこかから竜人族が飛んでやって来た」という指摘と共に食堂は一瞬静まりかえる。だがそれも般若のような形相を浮かべた恵里が健太郎を視線で射貫くまでの話であった。

 

「ひぃ……っ!」

 

「……あのさぁ。どこかから飛んできた、ってどこ? ボク達トータスのほとんどの場所探したんだけど」

 

 恵里からすれば健太郎の発言はある種のちゃぶ台返しに等しい。手品みたいに()()()()()()()()()()()から出てきたというようなものであったし、何より自分達の努力が否定されたようで納得がいかなかったのである。

 

「え、恵里。落ち着こう。ね?」

 

「ち、“鎮魂” “鎮魂” “鎮魂”!」

 

「……二人ともさぁ、止めないでくれるぅ?」

 

 恵里が憎悪のこもった視線を健太郎に向けてすぐ、ハジメの制止する声や鈴が“鎮魂”を自分に飛ばしてきたことに気づく。だが今の自分にとっては神経を逆なでするものでしかなかったため、恵里は二人に怒りと恨み、呆れが混じった視線を向ける。

 

「どこ探しても見当たらなかったんだよ? じゃあ他にどこを探せっていうの。空の遙か彼方? 地下にでも潜ってる? この世界にいなくったっておかしく――」

 

「ま、待ってくれ中村!」

 

 トータス中を探し回ってこのザマなのだ。竜人族とやらは最初から戦力として数えない方がいいんじゃないかと半分八つ当たりの意見を二人にぶつけようとした時、健太郎が再度制止の声をかけてくる。

 

「……何? 何が言いたいの?」

 

「お、落ち着いて! け、健太郎くんの話ちゃんと聞いて!」

 

「中村さんが私達のこと気に食わないのはわかってる! でもお願い!」

 

「そ、その……あっちの世界だって条件はそんなに変わらないんだろ? だ、だったら、アイツがわからないところにそいつらが島を造って住んでるかもしれないじゃないか!」

 

 不機嫌さを露わにしながら恵里は健太郎の方を見やる。彼に抱きつく綾子と真央が涙目で震えながら訴えてすぐ、健太郎も青い顔をしながらも意見してきた。

 

「あのさぁ……大体どこにあるのその島。だいたいエヒトのヤツが認識してない場所なんて――」

 

 だがそれを聞いた恵里はその理屈に大きな穴があると考え、一層眉をひそめてしまう。それはエヒトの存在だ。奴がこの()()()()()()に自在に神の使徒を派遣出来るからこそ、そんな都合のいい場所なんてありはしないと思っていたのである。

 

「待て中村。アレーティアがそうだったろ」

 

 だからこそ『あるはずなんてない』と健太郎の言葉を否定しようとした瞬間、即座に大介が真剣な声色で意見をはさんできた。直後、恵里の頭は即座に真っ白になってしまい、食堂がざわつき出したのに気づくのすら何秒かかかってしまう。

 

「……ん。私がどこにいたか、エヒトは見つけてなかった」

 

「言われてみれば……だよな。アレーティアの居場所わかってんならここまでハジメや中村達を追い詰める必要なんてなかったろ」

 

 アレーティアの落ち着きつつも驚きが混じった声が、納得したことでテンションとオクターブが上がった良樹の声がこだまする。そして食堂の中で声が爆発した。

 

「盲点だった……ここがどんな世界なのか俺達は確認してないじゃないか!」

 

「ここ以外に()()がある可能性も……すごいよ野村君!」

 

「まだ諦める必要はなさそうですね……南雲君、それと王女様。新たなゴーレムの製造と手配を――」

 

 想定外のことへの驚き、漏れたひらめき、可能性に手を伸ばそうとする声がそこかしこから出る。どんよりとした食堂の空気はもう消えて無くなってしまった。

 

「ふざ……ふっざけんなぁあぁあぁあぁぁ!!! それはハジメくんの役目だろうがぁあぁあぁぁぁあぁあ!!!」

 

 ……そして愛する人の活躍の場を奪われたことに対する場違いの怨嗟がそこにこだまする。青筋を浮かべて激昂した恵里が叫べば、自然と視線も彼女へと集まっていく。呆れに冷めた目、困惑にうろたえと様々なものが寄せられたが、恵里は一層怒りを募らせるばかりであった。

 

「うっわ引くー」

 

「あぁもう恵里は……僕のことはいいから。ね? 野村君ありがとう」

 

「はい“鎮魂”……いい加減ハジメくんと私、それと家族と雫達以外どうでもいいっていうのやめたら。みっともないよ」

 

「だって、だってさぁ!! コイツらボクとハジメくんと鈴の関係に口出ししてきたじゃんか! 許せるワケないでしょ!」

 

 ハジメに諭された上に彼が健太郎に感謝の言葉をかけ、また鈴にたしなめられたことで恵里は軽く涙目になってしまう。うなり声を上げながら勢いのまま机を叩こうとした時、即座にその腕が隣のハジメによって掴まれてしまった。

 

「恵里、ダメだよ。気持ちはわかるけど、イライラは後で僕にぶつけて。恵里から人が離れる原因を作りたくないから」

 

 真剣な表情でじっと見つめてくるハジメを前に恵里も思わずひるんでしまう。その上不満の矛先も用意してくれた上、止めた理由からも彼の愛が存分に伝わってくる。しどろもどろになった恵里は何度も目を泳がせた後、深いため息を吐きながらその手をそっと下ろす。

 

「……ハジメくんのお人好しぃ」

 

「うん。すごい恵里の気持ちはわかるよ。思い出してなんかムカムカしてきたから」

 

「鈴、お願いだから流されないで……」

 

 恵里が出来たのは恨み言をつぶやくだけしかなかった。せめてもの仕返しにじっとりとした目つきでハジメを見やると、鈴も自分の思いに同調してくれたことを話してくれた。冷や汗を流しながら鈴をなだめる彼の姿のせいでもう怒りも何も湧かず、恵里はただため息を吐く。

 

「コホン……なぁ野村、その話を思いついたのって」

 

「……まぁその、アレーティアさんを見て俺も腐ってる場合じゃ無いって思っただけだよ。それと俺、土術師だし」

 

 光輝がせき払いをしてから健太郎に話しかけると、彼もどうしてこれを思いついたのかについて短く語る。土に関連した魔法の使い手であること、またエヒトが把握出来る領域の限界からのアイデアなのだろう。よくもまぁ考えたものだと恵里はハジメにバレない程度に目を細めて彼を見やった。

 

「……竜人族ひとりひとりが皆さん、それか私と同等の魔力の持ち主で、一斉に土魔法を使ったのなら造るのはそこまで難しくないはず」

 

 すると今度はアレーティアが右手をあごに当て、真剣な表情を浮かべながら健太郎のアイデアを評価してくる。条件はある程度厳しくはあったものの、それでも可能であることを彼女が示せば食堂はまたざわつき始めた。

 

「……アレーティア、それ本当?」

 

 向こうのハジメ(化け物)と一緒に引き連れていたことを考えれば、最低でも元いた世界のクラスメイト並に強いはず。竜人族(仮)について推測すると、恵里は真剣な表情を浮かべながらアレーティアへと問いかける。

 

「……あ、あくまで仮の話、です。でも」

 

「賭けてみる価値はありそうだね」

 

 そのアレーティアも大介の腕にひっつき、声を若干震わせながらも答えを返してきた。ちゃんとこちらを見つめ返していたのも含めて信じてみてもいいと恵里が考えていると、ハジメも同様の意見を口にする。

 

「ところで皆、ちょっとしたアイデア――向こうの僕が作ったアーティファクトに面白いものがあったんだけどさ、いい?」

 

 ハジメと同じであったことで表に出さなかったものの、恵里は内心テンションがブチ上がってしまう。続く彼の口にしたアイデアの元、それを基にして作るであろうものを思いついたことで青天井に。恵里は目を輝かせ、興味深そうに見つめていたりいぶかしげに視線を送る皆と共にハジメが具体案を語るのを心待ちにしたのであった……。

 

 

 

 

 

「じゃあ行くよー。“崩軛”」

 

 恵里が号令をかけると同時に、王国の郊外で三つの大きな箱が音も立てずに空へと登っていく。恵里が重力をカットする魔法をかけ続けているのは、ハジメと幸利がタッグを組んで徹夜で造ってくれたアーティファクトだ。

 

 もし打ち上げが失敗したら二人の頑張りが無駄になってしまう。頼むから成功してよと心の中で恵里は祈りながら魔法を使い続ける。

 

「いやー流石だな中村。あっという間に小さくなりやがった」

 

「後は谷口達が上手くやってくれるかだな……」

 

「鈴達ならきっと大丈夫――っ!!」

 

 ()()()()事態は問題なく、飛んでいった三メートルそこらの正方形の箱はもうシャツのボタン程度の大きさにしか見えなくなった。後ろにいた大介達ガヤの声を聞きつつ空を見つめれば、不意に空に打ち上げた箱と同数のゲートが現れる。

 

「こ、鼓膜破れっかと思った……」

 

「覚悟はしてたけど、キツい……」

 

「……良かった。成功したみたいだね」

 

 瞬間、ゴッ! と爆音を上げて体が吸い上げられそうになってしまう。だがそれもそれぞれの箱がゲートをくぐるまでの間だった。箱もゲートも消えたのを確認し、恵里はふぅと短く息を吐く。

 

“鈴、香織に光輝君もお疲れ様。もう休んでいいからね”

 

“ありがとぉ恵里ちゃん……”

 

“うん……あと、頼むからね……”

 

“あぁ。後は恵里達に任せるよ……”

 

 上空でゲートを展開してくれた鈴達に“念話”を送れば、三人のグロッキーな声が恵里の脳裏に響く。三人は他の皆と一緒に夜通しでアーティファクトを三つも作ってくれただけでなく、打ち上げのための手伝いまでしてくれたのだ。それを思い返して恵里は申し訳なさで胸がいっぱいになってしまう。

 

“わかってるよ。後はボクとフリード、あと永山君達の番だから”

 

“フリードさんや永山達をこき使うなよ、恵里”

 

“わかってるって”

 

 後は自分達に任せてほしいと三人に伝えれば、光輝が弱々しい声で忠告を飛ばしてきた。考えを見透かされていたことに心の中で舌打ちしつつも恵里は返事をし、空から降りてくる武装戦闘艇を見つめる。

 

“中村さん、天之河君達は既に移動しました”

 

 今回武装戦闘艇を使ったのは鈴達が“界穿”を使う際の魔力の消費、それとゲートを開いた際の座標のズレを抑えるためだ。障壁も張らずに浮かんでいたそれが着陸すると同時に、今度は愛子からの“念話”が飛んでくる。

 

“はいはーい。じゃあ今度はボクの番だねぇ~”

 

 タラップが降りると恵里も軽い返事をし、そして後ろにいた大介達の方へと振り向く。

 

「じゃあここからはボク達の番だねぇ~。指示通り動いてよ」

 

 ここにいないハジメや鈴、幸利達は精一杯頑張ってくれた。だから今度は自分達の番だと捜索隊に選ばれた面々を見ながら恵里は言う。絶対に見つけるという思いを軽い口調で隠しながらだ。

 

「へいへーい。わーってるよ」

 

「オーケーオーケー。やればいいんだろ?」

 

「わかりました恵里殿!」

 

 大介達は気のない返事をしつつも口元をつり上げてる辺り、やる気はありそうだと恵里は見ている。ハウリアに至っては馬鹿みたいに高いテンションで受け答えしており、そちらは問題ないだろうと恵里は考える。

 

「任せてちょうだい♥ 香織ちゃん達の頼みだもの」

 

「そうよん♥――ここでやらなきゃ漢女がすたるってもんよ。やるぞぉぉおおおぉぉぉ!!!」

 

 ……ちなみに漢女達(バケモノ共)も参加を表明しており、それぞれポージングを決めながらやる気のある答えを返していた。コイツらに思いっきり圧倒されて恵里は口元が思いっきり引きつりそうになったが、頭数が多いに超したことは無いのだからと必死に堪える。

 

「ここで決めるぞ」

 

「御意」

 

「あぁ」

 

 またメルドとクゼリー、そしてフリードも静かな返答であったが、語気からやる気が感じ取れる。こちらに関しても心配することはないだろうと思い、恵里はある方へサッと目を動かす。

 

「……あぁ」

 

「わ、わかった」

 

「今日こそ見つかるといいな」

 

 視線を向けたのは重吾ら、王国に残留したクラスメイト達の方であった。返事はまばらであり、戸惑いや不安が顔を見ずとも余裕でわかってしまう。とはいえ声色や表情からやる気がないようには見受けられず、恵里はそこにかすかな違和感を抱く。

 

「じゃあ打ち合わせ通り。ボクと中野君、それと斎藤君が船に。他の皆はひとまず指定したポイント、それとボク達が指示した場所を探してよ」

 

「オーケー中村。先生にアピールよろしくぅ」

 

「わーってる。そんじゃ、最後のひと仕事だな」

 

 とはいえ頭数としての役割をこなせはするだろうと考えるのをやめ、恵里は信治と良樹に声をかける。二人は自分と一緒にアーティファクトの操作をしてもらうためだ。信治も良樹も不適な笑みを浮かべて返したのを見て、すぐに恵里は大介達に背を向けてタラップへと歩いて行く。

 

「じゃあ先生。運転よろしく」

 

「大人をあごで使うような言い方だけはやめましょう中村さん。では、行きますよ」

 

 そして武装戦闘艇の操舵室へと三人で向かい、舵輪を掴む愛子に恵里は後ろから声をかける。実は彼女、会議の最中にどうしてもこの船を動かしたいと必死にアピールしてきたのだ。大方自分達がミレディにどんな目に遭わされたかを察したのだろうと考え、折れる気配も無かったことから恵里も愛子の説得に加わったのである。

 

「ミレディ殺すのだけはやめろよクソ教師」

 

「そうそう。一応俺らに協力する、って言ってるしな」

 

「……努力はしますよ。斎藤君、中野君」

 

 良樹と信治が釘を刺すが、愛子は淡々とした声で返すだけ。恵里は返事をする際の愛子の横顔をチラッと見たが、目を思いっきり細めてしかめっ面をしていた。返事の内容も相まってこちらの言うことを聞く気が無いのが嫌というほどわかってしまう。

 

「……ま、ミレディが死ぬかどうかは後回しでいいんじゃない? まずは面倒ごと終わらせようよ」

 

「ま、それもそうか」

 

「それもそうか。とっとと俺もリリィとヘリーナにだだ甘えしてぇし」

 

 とはいえそれも後回しでいいだろうと考え、恵里は宝物庫からバスケットボール大の石を取り出す。良樹と信治もそれにうなずき、自分と同様に大きな石――感応石モドキを手に取った。

 

「……へぇ~」

 

 目をつむって感応石モドキを操作すれば、アーティファクトを介して恵里の頭の中に広大な海原が映る――恵里達が打ち上げた三つのアーティファクトの正体は、()()()()()を搭載した人工衛星であった。

 

「うっわ、すげぇ……俺らのいるとこって、でっけぇ島なだけだったんだな」

 

「野村の言ってたのも間違いじゃなさそうだ。にしてもだだっ広い海だなー」

 

 “仙鏡”を付与した部品を感応石モドキを経由して動かしたことで、使用者の脳裏にその映像が浮かび上がる仕組みとなっている。しかも複数そのパーツを組み込むことで特定の場所を拡大して映すことも可能となっているのだ。

 

「……っとと。二人とも、感動するのはわかるけど早く仕事するよ。」

 

「「へいへーい」」

 

 ハジメ達の頑張りがちゃんと形になっていることに感動しつつ、恵里はすぐに二人に指示を出す。信治達のぞんざいな返事を流しつつ、恵里は頭の中に広がる大海原の中に島がないかを探していく。

 

「こっちはまだ見つからない。中野君達は?」

 

「んー。まだ見つからねぇ」

 

「いーや。今んとこ海だけだわ」

 

 探すのは竜人族がいる可能性のある島。そこから自分達や現地人がトータスと呼ぶ島の位置を照らし合わせ、例の黒い竜がとったであろうルートを割り出すためだ。また捜索隊のメンバーもただ待機させているワケでは無く、あらかじめ指定したポイントを探すよう頼んであった。

 

“中村。ポイントUの1、やっぱいない”

 

“俺も。昇と同じ。Uの2にはいなかった。淳史は?”

 

“俺もだ……えっと、中村。じゃあ俺達別のポイントに行くよ”

 

“わかった。見つけ次第すぐに連絡するよ”

 

 恵里の班に割り振られたメンバーの内、ウル近辺の捜索を担当している相川昇、仁村明人、玉井淳史からも報告が上がる。流石にすぐには見つからないかと軽く気落ちしつつも恵里はすぐに気持ちを切り替えて三人に指示を出した。

 

“中村、私だ。今ウラノスと共に街道を探しているが目当ての女はいない”

 

“あっそ。フリードも次のポイントに移って。わかったら言うよ”

 

“あぁ。貴様らの腕に期待している”

 

 残りのメンバーであるフリードとウラノスの方からも連絡が届く。あちらにはフューレンからウルの街に続く街道を上空から調べてもらうよう頼んであったが、そちらにはいないようであった。すぐに恵里も次の捜索箇所であるフューレン近郊の方を探るよう頼む。

 

「――この島、ここだっ!」

 

 そうして昇達から連絡を受けつつ探し続けた結果、遂にそれらしいものを見つけた。うっそうとした森が広がり、またどこか()()()()()()()島を捉えたのである。こんな島なんてあるはずはないと即座に判断し、恵里は信治と良樹に“念話”で例の島の位置情報を伝える。

 

「ナイス中村! 方向から逆算すると……北か!」

 

「マジか! ってか北だと……見つけた! なんか飛んでるのがいやがった!」

 

 自分達が今いる大陸の遙か北にその島があったため、その進路上にあるのは北に連なる大山脈であった。進路をごまかしていなければここのどこかにいるはずだと恵里もすぐに探ろうとすると、それより早く良樹が何かを探り当てたのである。

 

「どこ!? どこら辺!?」

 

「ウルの近くだ! えっと……一つ目と二つ目の山の間!」

 

「マジだ! ったく、良樹お前俺の活躍盗ってんじゃねーぞ!」

 

「ケンカは後にして! 早く捜索隊に連絡!!」

 

 具体的な位置を尋ねれば、良樹はその場所をすぐに言ってくれた。信治に続いて恵里も確認すれば、黒いドラゴンのようなものが良樹の言及した場所へと向かっていくのが見える。からかい半分で良樹に文句を言う信治に軽くイラッとするも、恵里は二人に大声で注意してすぐ昇達へと“念話”を送った。

 

“――そこに目当てのヤツがいる! すぐ行って!”

 

“わ、わかった中村! 今すぐ行くよ!”

 

“フリードさんに連絡してくれねぇか! あの人のドラゴンに乗せてもらえばもっと早く着くだろ!”

 

“健太郎だって上手くやったんだ。俺だって!”

 

 端的に説明をすれば三人はやたらと意気込んだ様子で返事をしてきた。ふとそのことに恵里は違和感を覚えてしまう。つい昨日までは腐ってた彼らがどうしてここまでやる気を出しているかがわからなかったからである。

 

“……あのさ、三人とも。どうしてそこまでやる気出してるの?”

 

“……健太郎からさ、アレーティアさんの話聞いたんだよ”

 

 思わず恵里はそのことを三人に問いかければ、少しだけ意外な理由を明人が言葉にしてきた。ほんの一瞬きょとんとしていると、昇と淳史もそのことについて触れてきた。

 

“俺達とそんなに変わんないじゃん。中村達のこと、目の敵にしてたってのはさ”

 

“なのにずっと頑張ってるんだぜ。檜山に気に入られたいのかどうかはわかんないけど。でもなんか、カッコよくって”

 

 うんうんと答える明人の声が恵里の脳裏に響く。言われてみれば自分達と彼らがトータスで接する機会はそこまで多くなかったなと思い返す。それで昨日の女子会でアレーティアが語った言葉が、同席して彼女を見ていた健太郎経由で伝わったのかということにやっと思い至った。

 

“……ま、やる気が出たんならいいよ”

 

「中村、こっちも連絡終わったぜ。今からゲートキーでウルに向かうってよ」

 

「俺も。後はしらみつぶしだな」

 

「わかりました。では私も船をそちらへと向かわせます」

 

「そうだね。じゃ、最後の大詰めといこっか」

 

 どんな理由であれ、やる気を出してくれたというのなら構わない。テキトーに『頑張れ』と昇達に声がけをしようとした時、横にいた信治と良樹が捜索隊を手配した旨を伝えてきた。愛子も目的地に向けて舵を切ったというのを聞き、恵里はほのかに笑みを浮かべて真ん前の大山脈を見据えるのであった……。

 

 

 

 

 

“そう。わかった。こっちの素性と目的を明かしといた方が少しはマシかな。あんま刺激しないようにね”

 

 目的の黒い竜を発見し、北の大山脈へと向かった恵里達はひとまず自分達を下ろせる場所を探した。今自分達が乗っている武装戦闘艇をそのまま差し向けたら相手が嫌でも警戒するだろうと考えたからである。

 

 そのため先行した昇達に細かく指示を出しつつ、恵里達は目標の地点へと歩いて向かっていたのであった。

 

“あ、あぁ。とりあえず俺達でどうにか説明しとくよ”

 

“私にウラノス、相川達をあちらは見ているがな。多少は警戒しているようだが上手く説き伏せてくれよう”

 

“はいはい。頼んだよ~”

 

 例の黒い竜がフリード達を乗ってるウラノスごと目撃していたらしく、それで身構えている様子であることも恵里は聞いている。それも含めて指示を出せば明人らはともかく、フリードの頼れる返事が恵里の頭に響く。フリードがいるならまぁ大丈夫だろうと考え、恵里は適当に相づちを打って“念話”を切った。

 

「……何? なんか文句でもあるの?」

 

「べっつにー。中村が玉井達のことお荷物扱いしてねーからよ」

 

「足引っ張るなよーとか言わなかったもんな。珍しいこともあるもんだって思ってな」

 

 そうして恵里は先ほどからニヤつきながらこちらを見ていた信治と良樹にジト目を向ける。すると自分でも気づかなかったことを二人に指摘され、恵里は思わず目が点となってしまった。

 

「ありがとうございます中村さん。彼らのことを敵視しないでくれて」

 

「……別に。少しは役に立ったな、って思っただけ」

 

 間髪入れずに愛子が柔らかい笑みを浮かべながら感謝してくる。そのせいで恵里はお尻の辺りがむずがゆい感覚に襲われてしまい、プイッと顔を背けながら思ったことを小声で口にした。

 

「はい行くよ行くよ。あの竜が暴れたらフリード達の手に負えないだろうしね」

 

クスクスと笑う信治と良樹、ふふっと笑みをこぼす愛子の声が届くせいで余計に気恥ずかしさが増してしまう。それをごまかそうと恵里はずかずかと歩いて三人の前へと出ていき、音頭をとった。向かう途中、フリード達から説得に成功した旨の連絡を聞き、恵里達はそのまま王宮へと戻る。そして――。

 

「ほーんと中野君も斎藤君もさ、自称魔王も意地が悪かったよ。ボクが恥ずかしがってるのに煽ってくるしさ」

 

「まぁまぁ。恵里が相川君達も認めたことに感心したんだと思うよ」

 

 無事に竜人族ことティオという女を迎えることが出来た。先程まで眠っていたハジメと鈴に恵里はそのことを伝える。薄暗くなった自室のベッドで仲良く横になりながら愚痴をこぼせば、隣のハジメに恵里は抱き寄せられてなだめられてしまう。

 

「それに近藤君もさー。なんか一目惚れしたみたいでいきなりナンパするし。あれで空気軽く死んだんだよ。死ねばいいのに」

 

「近藤君は……TPO考えてよぉ」

 

「……まぁ、礼一君はなぁ。でも注意とかしたんでしょ?」

 

「そりゃね。ちょっとにらんだら土下座したよ」

 

 その後の顛末も語ればハジメをはさんで隣り合った鈴も呆れと嫌悪の混じった声を出し、ハジメも左手で顔を覆う始末。礼一のやらかしを思い出して恵里は軽く舌打ちしていると、ハジメからその後の行動について尋ねられる。ため息をはきながら答えればすぐにハジメが遠い目をしてあらぬ方向に目を向けた。

 

「近藤君女の子の敵だね。毎日朝帰りしてるし」

 

「ホントそう。檜山君達はともかく、斎藤君とかも女が絡むとロクなことしなかったし」

 

「「ねー」」

 

 礼一はやっぱり女の敵だと鈴と一緒に盛り上がればハジメの深いため息が部屋に響く。同意してくれてもいいじゃんと思いながら恵里はハジメのほほを何度かつついた。

 

「ぁぅぁぅ……あーもう、礼一君のことは後で僕もお説教しとくよ。それと永山君達のこと、いいかな?」

 

 ハジメが恥ずかしげに声を漏らした後、彼からも叱ってくれると約束してもらったことで恵里はほんのり機嫌を良くする。そんな時、ハジメからやや不意打ち気味に重吾達のことを持ち出され、恵里は一瞬だけあっけにとられてしまった。

 

「ぁっ……あぁ、うん。いいよ」

 

「ありがとう恵里」

 

 短く息を漏らした後で話を承諾すると、感謝されながら恵里はハジメに強めに抱きしめられた。

 

「……私も抱きしめてほしいんだけど」

 

「ごめん鈴。次はやるから……それで、永山君達も戦ってくれそうかな?」

 

「どうだかねぇ~。でも、今回の作戦には前向きだったしなんとかなるんじゃない?」

 

 鈴が軽く嫉妬しているのを見てちょっぴり愉悦を感じつつ、ハジメからの問いかけに恵里も軽く思案しながら答えていく。先日フューレンで行われた地下組織撲滅作戦のことも考えれば、重吾達を戦力にカウントするのも問題ないだろうと恵里は思っていた。

 

「最後の戦いだけでもどうにか参加してくれればって思ってたけど、もしかすると神代魔法の取得とかもやってくれるかもね」

 

「流石にどうするかは畑山先生に聞いた方がいいんじゃないの。ハジメくん」

 

「だよねぇ~。鈴の言う通り。勝手にやったらキレそうだし」

 

 一瞬目を上に向けてから推測を述べてくれたハジメに、鈴がちょっとだけ呆れた様子でツッコミを入れてくる。こればかりは恵里も鈴の言い分が正しいと感じ、苦笑しながら愛子の顔を思い浮かべた。

 

「ま、使える戦力を遊ばせる必要もないよねぇ~。どうせならティオも連れて神代魔法全部覚えさせようよ」

 

「そうだね。いいと思う……それとさ、恵里」

 

 右手の人差し指をくるくる回しつつ、その場でサッと描いた絵図を恵里は口元を緩ませながら語っていく。ハジメもクスリと笑いながら賛同してくれたものの、不意に自分の名前を呼んできたことに恵里は小首をかしげる。

 

「どうしたのハジメくん?」

 

「ありがとう。永山君達のこともちゃんと()()として扱ってくれて」

 

 何かあったかなと思い当たる節を探しながら問いかければ、ハジメが良樹達のようなことを言い出したせいで一瞬頭がフリーズしてしまう。あの二人と違って気恥ずかしさはあれどもからかわれているようには聞こえなかったため、恵里は居心地の悪さからハジメに背中を向けた。

 

「僕ら以外にも優しさを向けてくれる恵里のこと、僕は好きだよ」

 

「……ホントハジメくんってばズルいよね。女たらし」

 

「恵里が口先で何度もハジメくんと私を丸め込んだせいでしょ。自業自得」

 

 しかも耳元で優しい声で追撃をかけてくるものだから恵里の顔は真っ赤になってしまった。苦し紛れに悪態を吐くと鈴が抑揚の効いた声で言い返してきたため、カチンときた恵里は枕を手に取ってハジメと鈴をぼふぼふと叩く。

 

「あほー! ハジメくんのあほー! 鈴のあほー!!」

 

「ごめ、ごめんって!」

 

「図星突かれたからってムキになっちゃってー。そういうところ変わんないよねー」

 

「うっさぁーい!!」

 

 涙目になりながら恵里はギャーギャー騒ぎ、ハジメと鈴はベッドの上で彼女をなだめたり煽ったりする。夕飯の支度が出来たとメイドが伝えに来るまで三人のたわむれは終わらないのであった。




Q.ティオ今までどうしてたの? なんかあった?

A.恵里達が早めに動いていたせいで単純に今まで出会えてなかっただけ。原作より十日ぐらい前倒しでライセン大峡谷出てたし、ブルックからフューレンへの馬車の旅もウルの街へのバイクツーリングもなかった。そのせいでタイムスケジュールが合わなかっただけなんです(ォィ)


2025/7/19 ハジメ達が不在であることが抜けてたので追記しました。
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