コホン。では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも245338、お気に入り件数も1008件、しおりも513件、感想数も803件(2025/7/19 16:30現在)となりました。皆々様、拙作をひいきにしてくださり本当にありがとうございます。愛想を尽かさず見てくれる皆様には頭が上がりません。
そしてAitoyukiさん、snaketailさん、ゆうきかずまさん、拙作を評価及び再評価してくださり誠に感謝いたします。おかげでモチベーションが少しも下がらず執筆を続けられました。
今回の話を読むにあたっての注意点としてちょっと長め(約11000字)であること、特定のキャラへのアンチの意図はないこととなります。では上記に注意して本編をどうぞ。
(さて、どうしたものかの)
海を越え、山脈地帯の中でも比較的開けた場所で黒い竜は思案していた。ある目的のために山脈を超え、人の姿となって市井に紛れ込むつもりであった。
「えーっと、その……話、したいんだけど」
その前にひと休みするつもりであったものの、それもあっという間にご破算になってしまう。彼女の目の前に三人の人間族と魔人族の男、そして自分よりもひと周り大きい白竜がこの場に現れたからである。
(武器を構えてはおる。しかし戦う気配はあまり見えぬ……もしや)
自身と対峙している人間族は
「お、俺達! あ、あんたに話があって……」
「頼む! あんたのことを探してたんだ!」
相対する巨大な竜の背に乗る少年らの言葉に驚きつつも、黒い竜は黙ったまま様子をうかがう。まさか向こうが自分を探していたとは思わず、しかも普通に話しかけてきたせいで軽く面食らってしまったからだ。
相手の実力と腹づもりが見えないことから、黒竜は最悪交戦するつもりで身構える。
「らちが明かんな……仕方あるまい。単刀直入に言う! 私達は竜人族の貴様に用がある!! 私達と手を組め!!」
「ちょ、フリードさん!?」
すると魔人族の男が自分達と手を組むよう発言したことから、黒い竜は心の中でほぅと相づちを打った。こちらが何者かわかっており、その上で申し出てきたことから黒竜は相手の情報収集力がずば抜けて高いと感じた。
(……下手に申し出を断るのは危険じゃな。ここはあえて誘いに乗るべきか)
ならばあちらの申し出をあえて受けるべきかと考え、黒い竜は一度構えを緩める。本気で攻撃する気ならば既に向こうは仕掛けてきているであろうとも考えたからだ。
「す、すげぇ……あの竜、敵意が薄くなったぜ」
「賢明な判断に感謝する! ならば“竜化”もかい――ぐほぉ!?」
「「「フリードさぁん!?」」」
こちらが構えを緩めると共に少年達も武器を下ろしていった。最悪逃げることも勘定に入れつつ向こうからの指示を待っていると、はるか後方からカッ飛んできた何かに魔人族の男が押し倒されたのを黒竜も目撃してしまう。これには彼女も目が点になってしまった。
「グルゥ!? クゥゥ……」
「うぅ……やっとです。やっとフリードと一緒になれました」
「ご、ぉぉ……あ、アンファン貴様ぁ! 私はあの竜人族と話をしていたのだぞ!!」
「知りません。全部、中村恵里が悪いんです。勝手に私とフリードを別々にしたせいです」
「お前がいると緊張感に欠けるのを見越してたからだろう! ええい離れんか!!」
そして唐突に始まった寸劇に黒い竜は心底困惑してしまう。羽を生やした銀髪の美女が、泣きじゃくった子供が甘えるかのように魔人族の男にすがりついていたからである。目の前の白い竜もオロオロしているのがわかるし、話の腰をへし折ってくれた謎の女の存在に黒い竜は思わず頭痛を感じてしまう。
「ごめん皆! アンファンが逃げた!!」
「おい遠藤! コイツのせいで空気が変になったぞ!」
「こうくんを叱らないで! アンファンちゃん、ずーっとだだこねてたもの!」
「あ-、結局こうなっちゃったかぁ……やっぱり鷲三さん達に任せた方が良かったかなぁ」
「あらあら。恋する女の子は一直線だものね。香織ちゃんみたいに」
どうしたものかと内心頭を抱えているとぞろぞろと無数の人間がこの場に集まって来た。空を駆け抜ける人間が数人、また船のような空を飛ぶ何かから四人の男女も降りてくる。そして唐突に増えた気配を追えば、いつの間にかこの場に現れた人間と名伏しがたいナニカも何十人と現れていたのである。
“あー、こほん。その者達もお主らの仲間かや?”
これほどの数の人間が自分を探していたのかと竜は感心すると同時に、どれだけの力を持っているのやらと警戒を抱く。だが下手に敵意を向けるのもまずいとも考え、竜はなるべく落ち着いた声色で彼らに問いかけた。魔人族の男が『話がしたい』と言ったことから対話の意思はあると思ったからである。
「この感じ……“念話”の派生かな」
「恵里、分析している場合じゃ無いだろう」
「中村さん、TPOを考えて下さい……そうですが、あなたは
黒竜の問いかけに答えたのは、集まった人間の中で一際小さい白髪赤目の
目を細めてじっと見つめていることからこちらの魂胆を見抜こうというのがありありと感じる。だがそれだけでなく、その瞳から薄らと憎悪が見え隠れしているのを黒竜は察してしまう。
“少なくとも今は敵対する気はない。少々待ってくれぬか”
かすかに感じる憎しみに戸惑いを覚えつつも、黒い竜は集まった集団に待ったをかける。そして彼らが武器を構えぬままこちらを見ているのを確認すると、彼女は自分の体を魔力で包んでいった。
「え、なんか黒い繭が!?」
「しかも小さくなってってる!? どうなってるのよユ……じゃなくてエリ!」
「知らないってそんなの!」
“竜化”を解くために黒色の魔力を繭のように編み込んでいき、出来上がるとすぐにその繭の大きさを彼女はスルスルと小さくしていく。
「ふぅ……あの姿は魔力をかなり使うのでな。それと、こちらの姿の方がお主らも話しやすかろう?」
そうして人間大程度の大きさにまで縮めると、彼女はその魔力を霧散させる。本来の姿である黒髪金眼の女の姿を表すが、軽いどよめきが走る程度でしかない。その反応の薄さから改めて彼らは自分のことを
「うわヤバ……す、すげぇ。マジの美人……」
「あ、あぁ。助かる……その」
「竜人族の
それでも黒竜ことティオは動揺を一切表に出さず、微笑みを浮かべながら悠然と白髪赤目の偉丈夫に問いかけた。右手を口元に、左手を右の二の腕に添えながらだ。すると向こうも軽く面食らったようで多くの者が目を泳がせたりざわつき出す。
「話ならボク達の拠点で。いい?」
「そうだな。そちらには悪いが、俺達についてきてくれるか?」
そこでナカムラという女と例の偉丈夫が一歩前に出て問い返してきた。
懐に飛び込むことのリスクが脳裏をよぎるも、探し求めていた人物――異世界からの来訪者の情報を得るのにこれほど都合のいいことは無い。そう判断したティオは微笑みを崩さぬまま、こくりとうなずいて返す。
「そうか。ならば妾ももう一度竜にもど――」
「あ、その必要ないよ」
空に浮かんだ船のようなものを見ればあちらの拠点は相当遠いのだろう。それを踏まえて再度竜になることを提案しようとしたティオであったが、ナカムラという女はしれっとそれを断ってきた。
一瞬眉をひそめつつもどういうことかと思案しようとした時、彼女が虚空からカギのようなものを取り出すと同時に近くに膜のようなものが現れたのである。
「……その、それは?」
「あ、これ? ボクが愛するハジメくんの作ってくれたアーティファクト。ここをくぐると別の場所に移動出来るの。じゃ、ついてきて」
目の前でいきなり妙なことが起きたのを目撃したティオはすぐさま身構える。一体何が起きたと驚いたのもつかの間、ナカムラという少女の発言と次々と光の膜へと向かって姿を消していく人間達を見てピシリと固まってしまう。
「……警戒するのもわかるけどさぁ、そっちが来ないと話が始まらないんだから早く来てよ」
「中村ァ!! おま、お前、ティオさんに何抜かしてんだよぉ!!――あ、ティオさん。よ、良かったら俺とつ、付き合ってくれぇ!!」
やや呆れた様子のナカムラという少女に促され、ごくりとつばを飲み込みながらもティオは一歩前に出ようとする。緊張しつつも光の膜をくぐろうとした瞬間、白髪赤目の少年からいきなりナンパのお誘いも受けてしまう。結果、緊張もクソも無くなりティオは冷静さを取り戻すことが出来た。
「…………少々待っておれ」
「おい礼一ぃ! なんかあの人ゴミかなんかに向ける目でこっち見てくるんだけどぉ!」
「死んだら?」
「マジすいませんでしたぁーーーー!!!」
スンと感情が抜け落ちた表情で光の膜をくぐれば、どこかの城の中庭らしき場所へと出た。同時に仲間から汚物や敵を見るような目を向けられ、すぐに土下座する少年も目撃する。例の少女の発言が真実であることを認識しつつ、愉快な集団じゃのとティオは彼らに軽く冷めた目を向けた。
(なるほどのう。そのハジメとやらは希代の職人じゃな。神代魔法さながらの力を発揮する道具を作る仲間がいる。それだけでも近づくに値しそうじゃ)
ナカムラという少女に案内されつつ、ティオはハジメという名前とアーティファクトという単語に考えを巡らせる。先程のカギはもしや希代の職人が作ったアーティファクトであり、この世に
また軽薄そうな言動をする女がそんな人物と関係を持ってる人間だということにも驚いており、その職人はどんなひととなりなのかと思いをはせる。
「――んでさっきティオさんをナンパした馬鹿が近藤礼一。よろしくね」
そうして例の少女達と自己紹介を交えつつ、歩きながらティオは話をしていた。この場にいないハジメや幸利、鈴といったメンツもいるのも聞きながら、心の中で『この者達か』とつぶやいて一人納得する。
「優花じゃったな。よろしく頼む……さて。お主らならば妾の目的もわかるのではないかのう?」
「ボクらを探しに、でしょ」
「うむ。流石にそちらから接触してきたのには驚いたがの」
歩くときの体のブレなさやあまり立たない足音、そして自分を逆に探していたということ。これらの要素からティオはある予測を立てた――この年端もいかない彼らこそが探していた相手であるということだ。
「ねぇフリードぉ。頼んでたの、やってくれたぁ~?」
「……一応従えはしたぞ。全く、アレの何がいいんだか」
(異世界からの来訪者、か。おそらくそうじゃろうな)
数ヶ月前、彼女の同族からの知らせで大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たということを知った。竜人族は表舞台には関わらないという掟はあったものの、知らないまま野放しにするのはまずいということで議論の末にティオはトータスへと
「いいじゃない。水族館の新しい目玉になるし、かわいいんだから。地球でも目玉だったのよ」
「ウラノスのことを考えると頭も良くなるんだよね? じゃあタップダンスとか覚えさせたらもっとかわいくなるよ!」
「園部、宮崎、貴様ら正気か?……本当に理解に苦しむな。お前達のセンスは」
(調査の手間が省けたのはよい。しかし、この者達の見極めは慎重にせねばなるまい)
来訪者の確認、来訪者であろう彼女達の行く末を確かめるために。
「そういえばさ、そっちはどうやってボク達のことを調べるつもりだったの?」
「もちろんこの姿となって、素性を隠して市井に紛れるつもりじゃった。腕には覚えがあるし、傭兵にでもなるつもり……うん? メルドといったかの。どうしたのじゃ?」
そのためにも彼らの懐に潜り込む必要があると考え、ティオは投げかけられた質問にもしっかり受け答えしていた。
またしても投げかけられた恵里からの質問に対し、ティオはかつての腹づもりを語っていく。その途端、メルドという偉丈夫が信じられないようなものを見るような目つきでティオを凝視してきたのである。
「いや、その……ステータスプレートはどうやってごまかすつもりだったんだ? アレで隠ぺい出来るのはステータスの数値と技能だけだぞ」
「何、全ての村や町で提示を求めてくることもなかろう? それに道行く者に話を聞くなり……」
「多分無理だね。エヒトのクソ野郎のせいか知らないけどさ、どの村も見張りを立てたみたいでさ。変なヤツを入れないように、ってえらく熱心に話してるのを皆聞いてるよ」
メルドの質問にもあったケースに関してはティオもある程度想定していた。情報の集め方には色々あるのだから。そう自信満々に返すと、恵里という少女がうんざりした様子でティオの考えを否定してくる。
「待たぬか。何も全ての村や町を調べた訳じゃ――」
「わかっちゃってんの。とっくにね。エヒトのヤツに好き勝手されちゃってさぁ~。どこもかしこもぐっちゃぐちゃなの」
数カ所でそういった話を聞いたことから気がはやったのかと考え、ティオは恵里と名乗った少女をたしなめようとする。だが彼女は眉根を寄せたままティオをにらみ返し、反論してきたのだ。もしやと思ってティオが周りを見やると、他の面々もため息を吐くなりげんなりした表情で見つめ返してきたのである。
「知らない人と話さなくなった、って言ってたわね……」
「……どうやられたのかの?」
「……聞きたい? ま、いいけど。実はさぁ~――」
自分達竜人族がトータスを去ってから一体何があったのか知らねばならない。そう判断したティオは冷や汗をタラリとかきながらも恵里に何があったかを尋ねる。すると彼女も長めのため息を吐きながら色々と語ってくれた。召喚された後や世界の敵認定されたこと、また国と戦う羽目に遭ったり食糧事情が恐ろしく悪くなったことなどもだ。
「まぁ色々あったワケだけどさぁ~……どうする気だったの? そこんとこ知りたいんだけどぉ~」
「い、いやー、そのぉ……ず、随分昔にステータスプレートを紛失してしまってのぅ」
説明を終えた恵里からジト目で見つめられたティオは、青くなった顔を背けて心底気まずそうに答える――何百年も昔、竜人族が国を統治していた頃はもちろん彼女もそれを持っていた。だがある理由で迫害を受け、国を追われる羽目に遭った際に
その後、トータスから遙か彼方にある離島で暮らしていたが、そこでステータスプレートが必要となることもなかった。そのせいでティオの頭の中からそれがスパッと抜け落ちてしまっていたのである。
「……こんな間抜けがアイツの仲間かぁ。なんかすごい不安になってきたんだけど」
「いや、えぇ……こんなヤツかよぉ」
苦し紛れの弁解をした途端、向けられる目つきが変わってしまったことにティオは気づいてしまう。警戒や猜疑心が見え隠れしていた視線が、『残念な人』を見るそれや不安に満ちたものに変容したことにだ。あまりのいたたまれなさにティオは耳の端まで真っ赤になり、その場でもだえてしまう。
「え、恵里! ちょっと辛辣すぎるでしょ!……えっと、ティオさん。その、何か事情があったんでしょ? なら仕方ないと思います」
「やめてくれぬか。その気遣いが一番辛いのじゃ……」
また雫が気遣ってはくれたものの、そのせいで一層ティオの心は傷ついてしまう。知らず知らずのうちに行き当たりばったりな計画を立てていたことを思いっきりなじってもらった方がよっぽどマシだったからである。
(いや、これで良かったのじゃろう。お尋ね者になるより遙かにマシじゃ……マシなんじゃぁ)
それでも調べるどころかトータス中を逃げ回る羽目に遭わなくて済んだ。そうティオは考えようとする……その瞳は涙でにじんでいたのであった。
「ティオには悪いけどボクもう部屋戻るよ。ハジメくんと鈴の面倒見たいし」
「俺も。部屋でリリィとヘリーナに甘やかしてもらうんだ……へへ」
「すまねぇシア。後頼んだわ」
そうして中庭らしき場所を通り、ティオは王宮の中へと足を踏み入れた。すると恵里を含む三人がここで別れる旨を告げたのである。
「わかった。ハジメ達頑張ったしな」
「後は私達が案内するわ。お疲れ様。恵里、中野君、斎藤君」
道中のやりとりからしてハジメと幸利という人物が夜通しで何かをやっていたこと、恵里らがどこか疲弊しているのはティオも理解していた。部屋へ戻ると言った三人の声に張りが無いこと、また微妙な姿勢の悪さを見抜いていたからである。
ふむ、と軽く目を細めながら三人と他の皆を一瞥し、彼らの中で拾うの度合いにバラつきがあることを改めて確認する。
「そういえば聞きそびれたがの。お主らは妾を探してどれぐらい経ったのじゃ?」
ティオの見立てでは何日も疲労困憊になるまで探していたようには思えなかった。各自持ち回りでやっていた可能性も見越してはいたものの、それも各人の声や話からしてそれは低いだろうとティオは考えている。
「今日と昨日、二日間です」
せいぜい二日三日程度だろうかとあたりをつけつつ問いかければ、後ろで髪をまとめた少女こと雫がそれに答えてくれた。やはりと思いはしたものの、彼らはたった二日で自分を探し当てていたのだ。その事実を改めて認識し、背筋に冷たいものが走ったのをティオは感じていた。
「で、どうするの? まだご飯まで時間あるし、休む?」
「それも良いがの。その前にお主らがどれほどやれるのかを知りたいのじゃ」
優花から休憩を提案されるも、ティオは目をつむって微笑みながら首を横に振る。そしてうっすらと目を開けながらどれほどの実力があるのかを問いかけた。
「ほう。俺達と模擬戦か?」
体の動きからある程度察することは出来るにせよ、それでも全てを見通せるとはティオも思ってはいない。模擬戦が一番いいとは思っていたが、メルド達が自分を探して疲れてしまっていることを踏まえると流石に悪いとティオも考えている。
「無理強いはせんよ。妾を探した疲れもあるじゃろう? 他に何か実力を示せるものがないか知りたいのじゃ」
そこでどこかの大迷宮を突破した証や倒した魔物の魔石でも見せてもらえないだろうかと試しに言ってみたのだ。
「だったら俺らの研究の成果でも見せた方が早くね?」
「ふむ。近藤君の案は悪くは無いと思うが。雫達はどうする」
「研究、って言っても色々あるもの。大丈夫なところならいいと思うわ」
「私も必要だと思います……あちらが下手な気を起こさないようにするために」
すると向こうもワイワイガヤガヤと騒ぎ始める。ニヤつきながら案を出したり、それを受け止めつつも堅くない表情で伺ったり、また条件付きやこちらに対するけん制のためなど様々ではあったが誰もが前向きに検討しているのがティオにもわかった。
「えーっと、時間もあまりないですし本格的なのは明日以降になりますけど。いいですかティオさん」
そして話がまとまると雫がおずおずといった様子でこちらに話しかけてくる。それに対しティオは微笑みを浮かべたまま、こくりとゆっくりとうなずいて返す。
「構わぬよ。妾とて無理を言ったことぐらいわかっておる。見せてもらえるだけでも十分ありがたい」
まだ『話し合い』に同意しただけだというのに、彼らはこうもあっさりと手札を見せることに同意している。愛子が向けてくる敵意もそうであったが、彼らのお人好しぶりにティオは内心ほんの少しだけ不安を覚えていた。
しかし彼らの力量、扱う力に対して精神が未熟かどうかを見極めるためにも飛び込まねばならない。涼やかな顔をしつつもティオは心の中で決意を固めていた。
「じゃあ近くの部屋だと……近藤、アンタの部屋借りるわよ」
「えー、俺ぇ? まぁいいけどよ」
「流石に全員が入るには
『了解です。団長』
そうして数名の人間と兎人族の集団と別れた後、ティオは優花らと共に近くの部屋へと足を踏み入れた。天蓋付きのベッドに品のいい彫刻を施された鏡台やテーブルなどが備わっており、相当重宝されているのだろうとその待遇からティオは推し量る。
(話しぶりからしてここはエヒトのお膝元のはず。ということは
また自分が今いるハイリヒ王国はエヒトを崇める聖教の総本山であることもティオは聞いている。過去に一体何があったのかと考えを巡らせようとしたティオであったが、それもあっさりと止まってしまう。
「んじゃぁ神代魔法でも見せたらよくね? “絶禍”」
「えっ」
礼一達がしれっと神代魔法をデモンストレーションに使い出したからだ。礼一が何かの名前をつぶやくと同時に右手の上に黒い渦が現れ、ほこりやら何やらがそこへ吸い込まれていくのが見えた。
「あ、名案だな礼一。大迷宮攻略の証だと微妙だしな」
「そうね。近藤にしてはさえてるわ。ま、私達だとそんなに適正ないから派手なの見せられないけどね。“界穿”」
「えっ」
浩介と軽く雑談をした後、優花がまた別の魔法を詠唱する。先程恵里が使ったカギのように二つの膜が現れ、その一つに優花が腕を通せば別の膜からニョキッと生えるのが見えてしまう。
先程見たあのカギの仕組みはこうなっていたのかとティオはすぐに理解する。だがそれと同時に既存の魔法では絶対ありえない力を目撃してしまい、ティオは考えるのを止めそうになってしまった。
「ハジメっち達ならもっと派手なのやれるんだけどねぇー。“崩陸”」
「ま、待ってくれぬか?」
“えっとねぇ~、今優花達が披露したのが重力魔法と空間魔法、それと生成魔法だよぉ~。あ、今私が使ってるのは魂魄魔法なんだ~。心導っていうの”
「いやだから待ってくれと言っておる!?」
奈々が手を当てると床の一部がサラサラと崩れて砂のようになっていく。いきなり
「“絶象”……そこにいる永山君達以外、全員が神代魔法を扱えますよ」
「私は生成魔法はまだだが、生物に干渉する変成魔法も扱える。他の魔法も同様だ」
「え、えぇ……」
そして愛子がつぶやき、赤い蛍火が床に落ちると同時に元に戻る。その直後にフリード共々エグいカミングアウトしたのを聞いて遂にティオは絶句してしまう。フリードの述べたものは実物を見てないにせよ、まさかこれほどの力をほぼ全員が五つずつ持ってて使いこなせるなんて考えてもいなかったからだ。
「あぁそれと一つ付け加えておきますね。中村さんが出したゲートキー、これ私達も持ってますからね」
「……はい?」
「ハジメ様々だよなぁ。あ、そっち見つけるのに使った人工衛星はよ、ハジメに幸利それと光輝が造ったんだぜ。あれ信治に良樹、それと中村で動かしたんだよ」
「あれ一つでトータスのほとんどを見渡せるもんなぁ。あ、気になるなら後で使い方教えてやるよ」
「いや、あの」
更にとんでもない事実を叩きつけられ、ティオは一層混乱してしまう。
別の場所へと移るアーティファクトは一つだけじゃない? 自分を見つけたものは幾つもの神代魔法を使える人間の合作で、このトータスの大部分を見渡せる? しかも誰でも使える?
あまりに荒唐無稽で普段ならばティオも適当に流して忘れただろう。しかし今見せられた人知を超えた力なら出来るかもしれないとティオは想像してしまい、もうどうすればいいのかわからなくなって口をもごもごさせることしか出来なくなっていた。
「待たんか。ティオさんが脂汗を流しているだろう」
「顔も青ざめてますね……えぇと、気分が悪いときの丸薬は」
「いやもう良い。これ以上は妾の頭がおかしくなる……」
だからこそ鷲三という老年の男性と霧乃と名乗った大人の女の気遣いにありがたみを感じはした。ただ、霧乃とやらが虚空からしれっと小瓶を幾つも取り出したせいでティオの頭に更なる痛みが走ったが。
「あぁ、俺達と同じ反応だ……」
「マジで頭おかしくなりそうになったもんなぁ」
小声で黒髪黒目の少年達がどこか喜んでいる様子でつぶやいているのをティオの耳は拾っていたが、それどころではない。里の者達でも扱えなかった領域の力を彼らは振るえるのだ。
「……ともかく、お主らがとてつもない力を備えているのは理解した」
つまり彼らが『悪意』を以て動いたらこのトータスどころか竜人族の存亡すら危うくなってしまう。そのことを悟ったからだ。ティオは何度か頭を横に振り、可能な限り平静を装いながら優花達の方を向く。そして彼女達の強さを把握した旨を伝える。
「……ごめんなさい。一気に説明しすぎたわね。悪かったわ」
「しかし、良かったかのう? それが全てかはわからぬが人知を超えた力じゃぞ」
すぐに優花達はどこか気まずそうな顔で口々に謝罪してきたり、頭を下げてきた。ティオも気にしてないと首を横に振ってアピールしつつも、あることを問いかける。まだ話し合いすらしてない自分にこんなに力を見せて良かったのかということをだ。
「構いませんよ。まだ見せ札ですから」
そして大人と魔王を自称する畑山愛子の発言にティオは空恐ろしいと感じ、無意識につばを飲み込む。優花や奈々の発言が本当ならば他の仲間はもっと上手く扱えるか、『別の魔法』も使うことが出来る、もしくはその両方である可能性が脳裏に浮かんだからだ。
(なるほどのぅ……本当に恐ろしい者達じゃな)
歩きがてらしていた自己紹介が真実なら、目の前の少年少女達はほんの数ヶ月前まで魔力すら持たない世界の住人だったはずなのだ。
経緯こそ詳しく語らなかったがこの力を手にし、扱えるようになったのは今見せつけられた。それを考慮すれば相当の努力を重ね、またそうしなければならなかったのだろうとティオは推測する。
「末恐ろしいのぅ……しかし優花じゃったか。先の魔法はもしやゲートキーの仕組みと同じではないかや?」
涼やかな表情を装って話を続けながらティオは思う。
(やはりエヒト絡みかの。だとすれば下手に対立すれば妾達も敵と見なされて滅ぼされるやもしれぬ)
ふとティオの脳裏に忌まわしい記憶がよみがえり、彼らも自分達と変わらないのではないかと一瞬考える。ならば彼らの味方であることを主張し、『導く』形で上手く立ち回った方がいいのではないかと計算する。
(……もうじい様とヴェンリ、里の者達には顔向け出来ぬな)
それがたとえ卑怯卑劣と罵られ、同族にすらさげすまれる未来と地続きになっていたとしても。竜人族を守るためならばと己の名誉など惜しくは無いとティオは覚悟を決める。
「あ、わかるんだ。えっと、さっきナナが披露した生成魔法で――」
「のう待ってくれぬか。今の発言が本当ならアーティファクト作り放題なんじゃが? 世界が何度も滅ぶ道具が作り放題にしか聞こえないんじゃが!?」
だが、その悲壮に満ちた覚悟も彼らのトンチキすぎる発言にあっさり砕かれそうになってしまう……ヤバいのに目をつけられた、とティオの心にはすさまじい不安が根付いてしまっていた。
ちなハジメと幸利が出なかったのは前話で二人が頑張ってアーティファクトを作ってたこと、あとそれを作者が描写するのを忘れてたせいです(白目)
続きは一週間以内に投稿できたらなーと思う次第です(やれるとは言ってない)
2025/7/21 色々間違ってたので修正しました(白目)