……コホン。では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を
おかげさまでUAも245982、お気に入り件数も1010件、しおりも515件、感想数も805件(2025/7/27 21:45現在)となりました。誠にありがとうございます。いやもうこうして多くの方に見ていただけることのありがたさよ。毎度毎度頭が上がりません。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり感謝いたします。また執筆する力をいただきました。
今回の話を読むにあたっての注意点として本文だけでも長め(約13000字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。
「……正気か?」
礼一達に振り回されたその日の晩、話し合いの末にティオは恵里達と手を結ぶことを決めた。その翌日、ティオは彼らに連れられて練兵場を訪れていた。連れられた当初、兎人族の面々が人間族を超える素早さを活かしてかく乱しながら騎士達と模擬戦をしていたのである。
この兎人族は元々争いが苦手な一族で訓練をやり始めたのもまだ日が浅いというのをティオは聞いている。しかし見事な連携と共に相手に食らいつく様を見てティオは思わずうなった。そこまでは素直に感心していたのだ。
「香織もあったまってきたんじゃない? そろそろ行く?」
「そうだね。じゃあ
今は愛子と大差ない小柄な谷口鈴、そして坂上龍太郎という少年にべったりな白崎香織という二人の少女が模擬戦をしている。
(本番?……“炎槍”や“風灘”はともかく、“炎天”や“嵐帝”の撃ち合いがまだ肩慣らしじゃというのか?)
「“聖壁・桜瀑布”」
中級、上級の魔法のぶつけ合いすら準備運動でしかないということにティオは軽く戦慄する。すると今度は中級の結界魔法である“聖壁”の名を含んだ謎の魔法を鈴がつぶやく。鈴が杖を前へ突き出すと同時に、香織を取り囲むように無数の花びらのような光が現れる。
「――この程度! “瞬速”!」
しかもその光は四方八方から飛び交い、香織を襲う。光が地面に突き刺さって消えたのを見れば、鋭くえぐれていることからすさまじい一撃であることはティオも容易に想像が出来た。
「っ!! “聖絶”っ!!」
「“聖壁・瞬乱刃”っ!」
全身を赤く発光したとほぼ同時に姿をくらませた香織を探せば、いつの間にか鈴の背後をとっていた。鈴が最上位の防御魔法を詠唱してすぐ、香織も“聖壁”の名を冠する謎の魔法を口にする。刹那、ガリガリと最強の結界を削る音が練兵場に大音量で響いた。
「強すぎるよ、香織ぃ……私じゃなきゃ防げなかったって」
「うん。それは鈴ちゃんの腕を信じてたから。じゃあ続き、行くよ」
「もちろん!」
そうして模擬戦は続く。縦横無尽に動いては謎の攻撃を続ける香織。その場に留まったまま攻撃を捌いては光の花弁を瞬時に出す鈴。魔法の撃ち合いにしてはあまりに異質な戦いに、一体何がどうなっているのかとティオは必死に目で追い続けていた。
(わからぬ。おそらく神代魔法を使っているか、或いは既存の魔法と交えて使ってるぐらいか)
あまりに次元が高く、彼女達が一体どのように戦っているかも推測する以外ティオには出来なかった。ならば先程からこちらをチラチラ見ている金髪の少女にでも声をかけ、説明でもしてもらうべきかとティオは考える。
「あの、ティオさん。もし良かったら鈴と香織が何をしてるか解説しましょうか」
だがそんな時、雫が小声で話しかけてきたのである。それもひどく都合のいい内容でだ。
「っ!……すまぬ。頼めるかの」
「わかりました。まず鈴は――」
いきなり話しかけられたことに少し驚きはしたものの、ありがたいことには違いない。ティオは苦笑しながら雫の方に振り向き、その提案を受け入れる。そして光輝とアイコンタクトをすると、雫がティオの隣へとやって来て一つ一つ丁寧に説明を始めたのである。
「二人は訓練用に“聖壁”を使ってます。それをベースに鈴が空間魔法、香織が再生魔法でアレンジしたものですね」
(確かそれぞれ空間と時間に干渉するものじゃったか……恐ろしいのう)
やはりティオが推測した通り、二人は神代魔法を活用していた。ただし鈴は空間魔法、香織は再生魔法と違いがあったが。
二人の魔法の原理は、“聖壁”で展開される魔法の障壁を『あらゆるものを断ち切る刃』として活用するものであった。それを『空間をゆがめて一斉に大量配置』するのが鈴であり、『時間を極限まで早めて飛ばす』のが香織のやり方なのだと雫から聞く。
「さっきから香織がちょくちょく光ってますけど、あれは技能の“金剛”っていって――」
(じゃが、ここまでやるべきものか? 一歩間違えればあれは体がバラバラになってしまうぞ……)
あまりに異質であり、それを実現する二人の技量の高さと
「あ、終わったみたいね。お疲れ様。鈴、香織」
そうしてあれこれ考えている内にいきなりピタリと攻撃が止む。いつの間にか下げていた顔を上げれば、練兵場の中心にいた二人は互いに頭を下げていたのが見えた。隣の雫が二人に声をかけたのを聞き、模擬戦が終わったのだということにようやくティオも気づく。
「お疲れ様。おとといに見せてもらったけど、もう出来るようになったんだ。流石鈴だね」
「ホント。鈴が結界魔法と空間魔法に適正あるのはわかってたけど、よくモノに出来たよ……ちょっと悔しい」
「ありがと。ハジメくん、恵里。空間魔法はもう使い慣れてたし、上手く使う方法を二人に考えてもらったからだよ」
「ね、龍太郎くん。どう、だったかな?」
「いやよくやれたな本当に……あ、でも杖だと取り回しが面倒に見えたな。ハジメに頼んで俺みたいな籠手を作って――」
「する。絶対する!! どうせならおそろいのデザインをハジメ君に作ってもらう!!」
こうして思い思いに談笑する姿を見れば年相応だとティオも感じていた。しかし彼女達は数ヶ月前は魔法すら無い世界で平和に暮らしていたのだ。そのことを知っているが故にティオは今の鈴達の姿にいびつさを感じ、本当に何があったのだと腕を組んで考え込んでしまう。
(……やはり妾達と同じか。いや、ここではない世界から来たことを踏まえればもっと――)
「そういやよ。ティオさんってどれぐらい強いんだ?」
それもこれもあの神の策略のせいだろうかと考えていると、不意に良樹がある質問を投げかけてきた。ティオはハッとすると考えてたことがバレないよう笑みを浮かべ、彼のいる方向へわざとゆっくりと顔を向ける。
「うむ。昨晩お主らからステータスプレートをもらった際に確認したと思うが、戦ってみるのが一番早かろう」
ティオがステータスプレートを受け取ったのは昨日の夕食前のことだった。渡しに来たメイドが軽く汗ばんでいたことを考えればどれだけ急いで手配してくれたのかもわかる。そのメイドを含め、ティオは彼らに礼を述べていた。
その後、夕食の席でステータスプレートの交換会もやって自分と異世界から来た少年らのステータスの把握に努めた。なお、書かれた情報越しとはいえ実力の差を知って肝を冷やしており、一層慎重に動かなければとティオは決意する……自分が息を荒くしていたことにも気づかないまま。
「今のままなら永山達に軽く余裕で勝つのはわかんだけどよ。本気出したら……シアがギリ勝つぐらいか」
良樹がシアを抱きかかえ、頭をなでながら述べた意見にティオも心の中でうなずく。
人の姿のティオのステータスは一番高い数値が800そこらの重吾達よりは基本上回っている。魔力に関しては4590と歯牙にもかけない程だ。近くにいて軽くげんなりしている重吾達に悪くは思いはしたものの、その意見はティオも否定する気にはなれなかったのである。
「良樹お前、露骨にシアのことひいきしやがったな。まぁわかんなくもねぇけど」
ただ他の面々に関しては話が別だ。今のままならば各種ステータスが10000近くの彼らには敵うとは思ってはいない。しかし竜化した状態ならば違うとティオは考えている。自分の鱗を貫く攻撃などない。攻撃に関してもそう見劣りはしないという自負があったからだ。
「もう良樹さん……うへへぇ~」
とはいえ戦ってみなければわからないという思いも同時にあった。“身体強化”という技能で自分に匹敵するほどのステータスをこの兎人族の彼女は持っている。ならば後は実際に試す他は無いと冷静に考えていたのである。
……とはいえ軽く冷めた目の信治が述べたように、ひいき目で見られていささか侮られていることに不満を抱いていない訳でもなかったが。ふにゃふにゃの笑顔を浮かべてされるがままになっている兎人族の少女に負けるのも微妙に納得がいかないという思いを抱いていたりする。
「それほどの自信があるか。よかろう。なら両方の姿でどれだけやれるか、試したいのじゃがよいか?」
そんな思いをすぐに腹の内に押し込み、ティオは薄らと笑みを浮かべながら良樹達に問い返す。すぐさま模擬戦のセッティングが組まれ、一行は練兵場から王国の郊外へとゲートキーで移動していく。
(……愛子とやらの言葉は本当のようじゃな)
今度はメルドが取り出したもので移動している。また特定の誰かに声がけをしない辺り本当に誰でも持っているのであろうことが容易にわかった。だからこそティオは改めて不思議に思う。どうしてこれほどの力を持っているのにあぐらをかいていないのかと。
「よーしシア。谷口と光輝がバリア張ってるから思いっきり暴れてやれ。」
「はいですぅ!……えーと、ティオさんがあの姿の時は身体強化は大丈夫で、直接攻撃とアーティファクトの使用は禁止。でも指弾なら一応アリなんですよね」
良樹がニマニマしながらシアに発破をかければ、彼女も両手に握りこぶしを作って意気込んでいる。良樹の方はともかくシアの方には油断も何もない辺り、おごりを砕かれるような何かがあったのだろうとティオは推測していた。
「うむ。しばらくは傭兵として活動するつもりじゃったからの。この姿でも動けることがわかれば色々とやりやすいじゃろう?」
とはいえ勝手に推測を突きつけられても向こうも不快だろうと考えており、ティオは涼しげな笑みを浮かべるだけだった。試合開始の前に取り決めていたことやその理由をシアと共に再度口にしていく。
「わかりました!――じゃ、構えてくださいティオさん」
「うむ。では」
「あぁ――では試合開始だ!」
そうして互いに構えをとり、メルドの号令と共にティオはシアの懐へと潜り込んでいく。
「ふっ、はっ、せいっ!」
貫手、掌底、蹴り上げと一気呵成に攻めかかるが、シアはほんのわずかに体を反らすだけでかすりすらしない。それどころかその場から一歩も動いてはおらず、彼女がステータス頼りなだけの相手でないことをティオも理解する。
「流石に近接戦は無理か――“風壁”! “炎槍”っ!」
ならば、とティオは飛び退くと同時に“風壁”を発動する。追撃を防いで自分とシアの距離を離す一挙両得の手を打つと、体勢を崩すべく三本の炎の槍を彼女に向けて叩き込もうとした。
「ふんっ!」
「えっ」
……だが、それもシアがその場で拳を一度突き出しただけで全てかき消えてしまう。にもかかわらず彼女の体には一切のやけどの跡すら無い。あまりの非現実っぷりにティオは思わず間抜け面をさらし、しばし突っ立ったままであった。
「これぐらい、信治さんとの訓練で慣れてますよぉ。てぃっ」
「いやおかしいじゃろう普通!? くっ!」
隙をさらした間に拾ったのか、今度はシアが小石を弾いてくる。親指で弾き出されたそれはすさまじい勢いでティオへと迫るが、かすり傷を幾つも作りながらもティオはそれを紙一重で避けていく。
「このままではらちが明かぬか。ならば!」
するとティオは両手を突き出すと同時に二筋の黒い極光を放つ。竜化せずとも使えるブレスである。放った黒き炎は射線上の全てを跡形も無く焼き尽くしながら進んでいく。
「っ! これはちょっと、無理ですね!」
“少々余裕を見せすぎたの。では反撃開始と行くか!”
流石に耐えられないと直感したのか、シアは大きく横っ飛びして回避する。だが目的はけん制であり時間稼ぎだ。その隙にティオは“竜化”を発動し、跳躍すると同時にシアに向けて右手を振り下ろす。
「っ! なん、のぉ!」
すぐに恵里達が治療してくれることを祈って放ったのは、そこらの岩すらなで切りに出来るほどの爪の一撃だ。それがシアに迫った時、ふと右手に強いしびれと痛みと共に弾き飛ばされたのをティオは感じていた。
“本当にとんでもないのぉ! まったく、末恐ろしいものじゃ、なっ!”
シアの方を見れば、彼女はどこからか取り出した大槌を振り抜いていたのである。こちらの爪が当たる直前に打ち上げたかと察し、シアのすさまじい強さにティオは思わず舌を巻いた。
だがそれで終われはしないと目を細め、こちらに向けて大きく踏み込んでくるシアに向けて今度は巨大な尾を叩きつけようとする。
「でしたらぁ!」
いつの間にか形の変わった大槌から妙なモノがすさまじい勢いで出てきた。それとぶつかったことで尻尾の勢いがいくらか相殺されてしまう。
「よい、しょおっ!」
しかもそれに合わせてシアはティオの尾を足場にして斜め上に飛んでいった。いきなり現れた鈍色の円盤を掴んでその上に乗るという曲芸までこなしたのである。
“ええい! 毎度毎度どこからともなく物を出してくるのう、お主らは!”
あまりに多芸な少女を見て、恵里達を敵に回すことの恐ろしさを改めてティオは痛感する。シア自身も相応に強い。だがそれ以上に恐ろしいのは彼女の戦い方の幅を広げる道具を作っている存在だ。やはりうかつなことは出来ないと背筋が凍りそうになる。
“このままやられっ放しは竜人族の沽券に関わるのでな!”
とはいえ今は恐怖に震えている場合では無い、と一度強く歯がみした後でティオはブレスを放つ。狙いは何故か宙に浮く円盤だ。恵里達には悪いと思いつつもこの足場を壊し、少しでも有利に戦いを進めようとティオはもくろんだのである。
「それなら、こうですぅ!!」
するとシアは大きく跳躍してブレスをかわすと共にもう一枚円盤を出現させた。その円盤に
“やれるとでも!”
「当然ですぅ!」
下手に加減しては負けると直感し、鬼気迫る目つきで迫ってくるシアに向けてティオは左手で貫手を叩き込まんとした。カシュッとどこか気の抜けた音と共に振りかぶった大槌が爪に当たる。瞬間、シアが吹き飛ぶと同時に指先が砕けるような痛みにティオは襲われてしまう。
“ぐ、おぉおぉぉ!?”
山ほどの岩をぶつけられたかのような激痛にティオは思わず悶え苦しむ。せめて何が起こったかを確認しなければと左手に目を向ければ、ティオは目を大きく開いてしばし固まってしまった……中指の先が潰れ、他の指の爪も、先端に生えた鱗ですらも全て砕け散っていたのだ。
(正気、なのか!? あくまで模擬戦じゃぞ!?)
今この場はあくまで腕試しに過ぎない。いくら治療の態勢が整ってると言ってはいても、ここまで後先も相手の命も考えずにやるものなのか。さっき目をギラギラと輝かせながら迫ってきていたシアの姿を思い出し、どこか底知れぬ何かを感じたティオは息を震わせていた。
「――いっだぁ!?……し、死ぬかと思いましたぁ」
シアの声がする方を見れば彼女も地面に叩きつけられており、口から勢いよく血を吹き出していた。だがすぐに上半身を起こし、プッと血を吐き出してこちらを凝視してきたのである。
「シア! 大丈夫なのか?」
「まだ、やれますよ。良樹さん……こんな傷、再生魔法で――」
“もう、良かろう。妾は降参する”
まだ戦意をたぎらせるシアを横目にティオは降参を宣言する。これ以上は試合ではなく
「あっ……あ、あはは。
「えっと、ティオさん大丈夫?……ごめんなさい。最近、ちょっと訓練が
(……やはり、か)
そしてティオはシアと香織の言葉を聞いて確信してしまう。簡単には拭い去れない過去が彼女達を苦しめているのだと。それ故に死ぬ一歩手前の次元で訓練を続けているのだと。そんな彼らに戦慄すると同時に憐れみが浮かぶ。
(いかんな。このままでは)
張り詰め続けた弓弦はいずれ切れる。しかし簡単に明かしてくれるような問題でもないだろうし、それが出来るほど関係が深い訳でもない。出会ってたった二日の人間にそれを語ってくれなどと言うのもおこがましいことぐらいティオもわかっていた。
(彼らが目的を果たすまで保っていられればよい。じゃがおそらく……探らねばなるまい)
だが彼らのただならない様子を見れば、放っておいて済む問題では無いとティオは確信している。また死合いを始めた彼らをながめつつ、ティオは覚悟を固めていた。
「皆ごめん。ティオさんのことで話があるんだ」
皆と共に食事を終えて一段落した頃、光輝が話を切り出してきた。食堂にいた他の皆も光輝の言葉と共にぴたりと雑談を終え、真剣な表情を浮かべている。自分の話に耳を傾けてくれる彼らの姿勢を見て、ティオは心の中で光輝達に感謝を述べた。
「俺達がトータスに来てからのこと、それをティオさんに明かすかどうか。そのことについて話し合いをしたい」
恵里達の事情を昨日の話し合いの中でティオも聞いてはいた。だがそれも大まかなことでトータスに来てからの詳しいことは聞いてなかったのである。だからティオはそのことについて話してほしいと光輝らに持ちかけたのだ。
(やはり光輝と雫辺りが既に話を通しておったか……まぁおかげで助かりはしたがの)
続く光輝の話でも一部を除いてざわつく様子も無く、ちゃんと話を聞いてくれているのがわかる……
(しかしあの吸血姫、大丈夫なのかの……あの者達と合流した際に一体何があったんじゃ)
……実はティオ、光輝達に直接声をかけて頼み込んだ訳ではなかった。ずっとこちらをちょこちょこ見ていたアレーティアに先に話を聞こうとしたのである。
なお声をかけると同時にいきなり顔色が悪くなり、『私みたいなのが王になってごめんなさい。ごめんなさい……』とひたすら謝りだしたことで騒ぎとなってしまった。すぐに彼女の対処を一緒にいた大介に任せた後、カッ飛んできた光輝と雫に経緯の説明がてらお願いをしたのである。
(この様子だと割とよくあることかのう?……妾が声をかけたら一層ひどくなったし、やはり彼らに任せるのが一番じゃな)
そんな二人のことが気がかりではあったものの、他の皆がそこまであわててはいない様子である。下手に自分が口を出したら
「皆の意見を聞きたい。理由も含めて言ってくれ」
「ボクは反対。協力してくれるって言ってくれたけどそれとこれとは別でしょ」
「俺も中村と同じだわ。だってよ、厚かましすぎねぇ? いや先生に厄介になった俺らが言えた義理じゃねぇけどさ」
「私も反対です。あくまで協力関係、それもまだ知り合って日の浅い人を相手に言う必要はありません」
光輝がうながすと嫌そうな顔をした恵里と信治が、そして敵意を露わにした愛子がすぐに反対を申し出てきた。ティオが周囲を見渡せば、良樹や大介、幸利に優花といった面々も渋い表情を浮かべているのが見える。
しかし信治や愛子が主張した通りなのは尤もであり、こうなるのも仕方あるまいとティオは目をつむってため息を吐く。
「……ティオさんの話をちゃんと聞いてから、かな。理由があるんですよね」
「きっとな……ティオさん。さっき俺達に語ったこと、全部教えてくれますよね?」
だからこそハジメと光輝がおそるおそるでありながらも尋ねてきてくれたことにティオは感激する。無条件では信じず、けれども対話を続けようとする彼らの思慮深さにいくらかの安心を覚えたのである。
「うむ……先程光輝や雫には軽く説明した。おそらくそちら経由でお主らにも伝わっておろう?――妾達もまた神、いやエヒトに運命を狂わされた者じゃ」
それに報いるために、彼らの心に思いを届けるためにティオは決心する。自分もまた同じ痛みを抱える者だと明かすことをだ。席から立ち上がり、彼らを一瞥してからティオは自身の過去を語っていく。
「何百年も昔、妾達竜人族はこのトータスで国を築いておった。種族問わず力なき者を守り、支え、悪しきを討つ。それを是とした国をな」
竜人族の数の少なさ、そして自分達の誇り故に人間や亜人を問わず様々な種族が共存繁栄していたことを。道徳と善性で出来た理念を真っ正面から掲げ、それを守り続けたことを。それ故に自国からも他国からも称えられ、畏敬の念を持って慕われていた頃のことを。
「じゃが、それもそう長くは続かなかった……『竜人族は魔物である』と教会がお触れを出した。しかも各国がおそろしい勢いでそれに賛同していったせいでの」
……あまりにも馬鹿げた考えが、まるで悪夢のように人々の中へ急速に浸透していったことも。それを口にした途端、ハジメ達異世界人の多くの視線が同情のそれへと変わっていく。
「……ふーん。それでアイツと」
「また教会……イシュタルが死んだのとデビッドさん達がいてくれたことに感謝しないとですね」
恵里がどこか興味深そうに見つめてたり、愛子が視線をそらして何かつぶやいていたが、ティオは気に留めない。今自分がすべきことは二人の女の真意を見抜くことではないとせき払いをし、ティオは話を続けていく。
「こほん……お主らも世界中の国と敵対していたと申しておったな。妾の時とうり二つ、いや妾達はまだ逃げることが出来た。失言じゃったな。すまぬ」
その際自分達と恵里達の状況が酷似していることに言及するも、恵里達はマトモに逃げることすら出来なかったことにティオは思い至った。すぐさま頭を下げ、自分の非礼を彼らへとわびる。
「……それで? 同情でもしてほしかったの? それとも力でも欲しいとか?」
「違う。お主らに言いたかったのは無理をするな、ということじゃ」
若干苛立った調子の恵里の声と共に頭を上げると、ティオは全員の顔を見ながら今回話し合いの席を設けてもらったことの真意を語る。一瞬静まりかえった後、どういうことなのかと一斉に場がざわつき始めた。
「訓練の時もそうじゃった。いくら神代魔法があるからといっても殺すのと大差ないほどに戦うのは間違っておる。先の研究も根を詰めてるようには妾には見えた」
すぐにティオは訓練、その後見学させてもらった神代魔法の研究について思ったことを述べていく――殺し合いとどこが違うかわからない模擬戦の後、昼食をはさんでからティオは彼らが神代魔法の研究を見学したのである。
「正直のう、
光輝や幸利のレクチャーを受けつつ恵里達が研究している様を見ていたが、ティオは密かに恐怖していた。神代魔法の真髄が何か、その力を使って何がやれるか、他に何が出来るかと常に話し合い、実験を一心不乱に繰り返す。そんな彼らの異常なのめりこみ振りにだ。
「いや、その、あくまで寝る時間増やすためだぞ? 一応訓練とかにも使えたらな、って思ってたけど」
『うんうん』
「貴様らは本当にそういうところはズレているな」
目的は幸利が語った通りであり、恵里達も何度もうなずいている。時間を引き延ばすアーティファクトが完成した時の彼らのリアクションもそうであり、それが偽りない本音であることはティオもわかっていた。
「そこじゃ――神の力を手にしてもまだその先を求める。何かに怯えているようにしか妾には見えん」
考えがひどくズレてる様を目撃してティオは思わずズッコけそうにはなったし、思い出せば頭痛を感じてしまうが。だがその先にずっと手を伸ばし続ける彼らを見てティオは悟った。目の前の少女達は何かに怯え続けているのではないかということにだ。
『それは……』
『でも……』
「憎しみ、怯え、焦りが妾の目に映った……会って数日の相手に信用も何も無い。土足で踏み込んでくるな、と言われるのも理解しておる。しかしな、妾とお主らは互いに力を合わせることを誓っておるじゃろう?」
互いに顔を突きつけ合い、戸惑いを口にする恵里達にティオは更に言葉を紡ぐ。たとえ知り合ってほんの数日であっても、信用も信頼も勝ち取っていなかったとしても、けれども自分達は協力関係を結んでいる。そのことをティオは突きつけた。
「これもまた、協力のひとつと思ってくれればよい。妾もまた無関係でなどいられんのじゃ――頼む」
場合によっては命を賭してでも恵里達を止める必要が、覚悟がティオにはある。しかし彼女達から離れようなどとは考えていない。再度頭を下げ、暗に事情を語って欲しいと訴えればざわつきも次第に収まっていく。
「頭を上げてくださいティオさん!……皆、いいか?」
すぐに光輝に頭を上げるよう頼まれ、ゆっくりと顔を上げれば彼の申し訳なさそうな顔がティオの視界に飛び込んでくる。振り返った光輝が遠慮がちに問いかければ、その場にいた誰もが渋い表情や乾いた笑いをしながらもうなずいたのをティオも目撃した。そして――。
「……お主らが過去を明かしてくれたことに、感謝する」
恵里達の身に何が起きたかを知り、ティオは顔を青ざめさせながらうつむく。心配そうに見つめてくる光輝達にそっと右の手のひらを前に出し、顔を横に振って気遣わなくても良いと暗に伝えた。
(あの女、自業自得ではあるのじゃろう……だが、あまりにむごい)
話を聞いた限りでは恵里の過去の行いがかなり後を引いているのがわかる。少なくとも恵里が願いを叶えるために別世界のエヒトに服従することが無ければ、ここまでひどいことにはならなかっただろう。そうティオは考えている。
(あんな過去があって、真っ当に生きれる人間もそうはおらぬ……今あやつが罪を悔いて、周りに善良な人間ばかりがいることが奇跡のようなものじゃな)
だが同時に明かされた恵里の過去を考えれば仕方ないだろうと理解を示してもいた。そのことを心底悔いていることや彼女の周りの人間が止めるであろうこと
(じゃが問題はそれではない……あまりに、あまりに妾は軽率じゃった。エヒトが暗躍していただけでなく、手駒まで動かして潰してくるとは)
ティオがショックを受けたのは恵里の過去だけではない。エヒトが直接動かした手駒に何度となく襲撃されていたことを知ったからだ。
想像を遙かに超える苦境に恵里達が立たされていたことを知り、己の認識が甘過ぎたことを理解する。無理解故に彼女達を傷つけてしまっただろうとティオは心の底から自分の行いを恥じた。
「ハァ……わかったでしょ。エヒトのヤツに散々してやられたことぐらいね」
「そうじゃな……本当に申し訳なかった。じゃが、一つ言わせてくれぬか」
同時にどうして恵里達がここまで焦るかを理解し、半目で見つめてくる恵里に向けてティオは頭を下げる。そして頭を上げると共に静かな声で恵里達に問いかけた。
「何、一体? 説教とかされても困るんだけど」
「そうではない。お主らは立派だと伝えたかったのじゃ」
相変わらず不機嫌そうに問いかけてくる恵里に対し、首をゆっくり横に振ってからティオは彼女達に抱いた思いを明かす。すると恵里達は一斉にきょとんとしてしまい、メルドやデビッド達だけが静かにうなずくだけであった。
「本来ならこの世界が見捨てられてもおかしくないからの。そこの魔王とやらのように警戒されたところで文句も言えんのじゃ」
縁もゆかりもない世界に連れてこられ、故郷には戻れない。その上現地の人間から同郷どころか友人同士での不和まで煽られたのだ。更に死地にまで何度となく追い込まれている。また口先だけで約束を守らず、利用するだけして捨てようとまでしていた。
「……ま、その魔王を含めた何人かは利用するだけして捨てる気なのが見え見えではあるがな」
この世界全てを恨み、あらゆるものを利用しようと考えたところで無理は無いだろうとティオも流石に考えてしまう。うんうんとうなずく恵里や愛子、大介らを見たことでそれは確信となった。
「あれだけ手ひどく裏切られたというのにこの世界の者達に手を差し伸べておる……ま、褒められはしないこともやってはおるようじゃが。しかし、それが立派でなくて何だというのじゃ?」
だが彼らの多くはそうしなかった。
憎悪と打算が見え隠れしている者もいるし、洗脳などろくでもないことをやってはいた。それでも大多数が『善意』を以てこの世界の者達を助けているのだ。彼らの話だけでなく、あからさまに場違いな
「憎悪と憤怒を飲み下し、未来のために動いている。それを誇らずして何を誇る?」
「あぁ、そうだな。ま、恵里や愛子はともかく、コイツらが底抜けの善人であるのは俺が保証する」
そうしてティオが微笑みながら恵里達へと再度問いかければ、次第に彼らの表情が緩んでいくのが見えた。そしてこの国の騎士団長であるメルドの一声と共に、食堂の空気がどこか弛緩していくのをティオは感じ取る。
「だからこそ、その誇りが重荷になってはならぬ。焦るのはわかるが、一息ついたところで文句はあるまい? それすらエヒトの策略やもしれんぞ?」
「そうね。あたしもティオさんの言う通りだと思うわん」
続けざまにティオは優しい声色で恵里達に休むよう提案する。すると今度は例の性別不詳なナニカの一人がティオの言葉にうんうんとうなずき、同意を示した。
「最近のアレーティアちゃん達、ちょっと怖かったもの。いたわりましょ、自分を。ね?」
「「「「クリスタベルさん……」」」」
そうしていたわりの言葉をかければ、アレーティアら四人が瞳を潤ませていく。程なくして恵里達が話し合いを始めたが、今度は『そろそろ休んでもいいんじゃないか』と休みをとることに前向きな発言が飛び交うようになっていた。
「……本当なら私達が救世主である皆様をいたわるべきだった。しかし私達も渦中にいたせいで目が曇ってしまっていたようだ。感謝するぞ、ティオ」
「構わぬ。妾とてただ長生きしただけで訳知りになった気でおったからの」
王国騎士団の副団長であるクゼリーが席を立ち、ティオに向かって頭を下げてくる。しかしティオは目をつぶりながら首を横に振り、自分が未熟であったと返すだけであった。
「うん? 何か用かえ?」
「……俺、もう無理かも。カッケぇよティオさん」
そしてふと、ティオは誰かからじっと見つめられてるのに気づく。振り向いてみれば昨日自分にナンパしてきた礼一が熱病にうなされたようにじっとティオを見ていたのである。
「お、惚れ直したか礼一クンよぉ~?」
「ぁ、その……う、うっせぇ!! 黙ってろよ!」
自分が顔を向けたのに気づくとその礼一は、一層顔を赤くしながら目をそらした。その直後に良樹や信治らにからかわれた様を見て、ティオは面白げに目を細める。故郷にいた自分を慕う竜人とはまた違う、やんちゃな少年にどこか可愛げを感じたからである。
(ひとまずはこれで大丈夫かの)
そうして恵里達がいつ休みを入れるかなどの話し合いに耳を傾けつつ、ティオは心の中でつぶやく。これなら何かの拍子に緊張の糸が切れてしまうこともないだろうと安堵のため息を吐いた。
(ちゃんと言葉を交わしておる。ならばあの者達はもう問題あるまい。問題は妾か)
話し合いがスムーズに進んでいる以上口出しする必要は無いと考え、ティオは今後の身の振り方の方に考えを切り替える。
(あれ程の力があっても神の相手には力不足。ならば妾などでは話にならん……頭をこすりつけてでも頼み込む他あるまい)
彼女達の話や昼に目撃した訓練の様子から、遠藤浩介という少年がより強くなって無数に数を増やせるという訳のわからないことをティオも把握している。その彼が神の使徒を名乗る銀髪の女の集団に圧倒されてしまったこともだ。
ならば彼らのステータスに遠く及ばない自分、神代魔法すら手にしてない自分では戦力となるかどうかすら危ういと感じていたのである。
(……っと、いかんな。説教をしておいて、妾が同じ過ちを繰り返してどうする)
だからこそ神代魔法を手にし、それの習熟に努めなければならないと考える。だがそれもほどほどにしなければ恵里達と同じ間違いを犯してしまう。そのことに思い至り、ティオは頭を振って今後どうするかを考えていく。
(手に入れやすさならば空間魔法と再生魔法か。重力魔法も強力であろうが厳しいか……すまぬが頼りにさせてもらうぞ)
恵里達がまだ攻略していない大迷宮の数、これまでの大迷宮で攻略にかけた時間を思い出しつつ自身はどう動くべきか。それらの計算を終えたティオは、休暇に関する話し合いを終わらせた恵里達に打診するべく席を立ったのであった……。
おまけ
「ティオ、大迷宮を攻略してみる」の巻
「のう
恵里達を説得した翌日、ティオはライセン大迷宮を攻略することとなった。メンバーはハジメに愛子、重吾ら王国に居残っていたメンバー、それと漢女達全員である。
「わたしのだいめいきゅう、こわれちゃった」
……ちなみに攻略法は空の遙か上に飛ばしたというアーティファクトから発射した、凶悪な熱線三本を直接大迷宮に叩き込む。そして夕方になって大迷宮が冷えてから突っ込むというあまりにも乱暴すぎるものであった。
「オーくんたちとがんばったのに。どんなコンセプトにするかもそうだんしたのに」
結果、ライセン大迷宮の六割が蒸発し、最後の試練を担当するはずの巨大ゴーレムまで半分融解。蛮行と形容することすらおぞましい行いを目撃したことで、ティオは額に青筋を立て、縦に割れた瞳で主犯である愛子達をにらみつけていた。
「そこの解放者の自業自得ですよ。南雲君はむしろ配慮してくれたと思いますが」
「いや、その……放っておくと、いつ何をやるかわからなかったんで」
一応ハジメが事前にミレディのところへ向かい、難易度を落とすよう交渉したらしい。ただそれでは試練にならないだろうという真っ当な反論を喰らったとのことだ。ハジメが戻ると同時にニコニコ笑顔の愛子がやらかし、大迷宮を露わにしたのである。
「誰がここまでやれと言った!! 見よ! 解放者のミレディがひざを抱えてたそがれておるではないか!!」
「……俺もティオさんの言う通りだと思う。南雲達のことはわかるが、やりすぎだ」
「あたしも思うわ。やっていいことと悪いことぐらいあるでしょう?」
一応ハジメが空間魔法を付与したアーティファクトでミレディを守りはしたらしい。ただ、その当人は上半身が融解したゴーレムの方を向きながら空虚な声でずっとつぶやき続けていた。
それについてティオが大声で言及すれば、重吾らも小声を震わせ、またクリスタベルらもティオの意見に同意してきた。
「魔法もロクに使えない環境で道具と武器を没収されたと園部さん達からうかがいました……彼女達がしばらく私達の前に姿を現さなかったことを考えると、手足を失うような事態になっていたと思います。それでどうなんですか南雲君?」
「黙秘権を行使します」
だがそれまでニコニコ笑っていた愛子が冷めた表情を浮かべると共にキレッキレの反論を叩き込んでくる。そしてハジメも死んだ目でぽつりとつぶやいたのを見て、ティオは激しい頭痛に襲われてしまう。
「……のぅ、ミレディ。お主まさか本当にやったのか? 嘘だと言ってくれんか?」
溶けたライセン大迷宮に突入したことで、魔法がロクに使えなくなる感覚にティオも襲われている。また最後の試練であの溶けた巨大ゴーレム以外にも何体もの金属のゴーレムが現れるとハジメから聞いた。そんな状況で道具も武器も失ったら勝つどころの話では無い。
「……だって、しんけんにみえなかったから。あそびはんぶんでしんだいまほうあつめてるようにしかみえなかったから」
だからティオは愛子達の話のどこかに嘘が無いかとすがるようにミレディに尋ねる。結果、それが真実であると知ってティオはその場でくずおれてしまった。どっちもどっちだとしか言い様がなく、愛子がここまで恨むのも当然だと理解してしまったからである。
(……早まったかのう。今すぐ故郷に戻ってじい様に報告するべきかのう)
とてつもない無力感に苛まれながらティオは思う。とっとと隠れ里に戻り、恵里達と二度と関わらないよう伝えるべきではないかと。沈む夕日を見ながらティオは迷いを抱くのであった……。
ウチの魔王だったらこれぐらいやる(本日の言い訳)
あとミレディかわいそう(他人事)