あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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ようやっと仕上がりました(しろめ)
……こほん。では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも246886、お気に入り件数も1011件、しおりも516件、感想数も806件(2025/8/15 19:12現在)となりました。誠にありがとうございます。いやもう長いこと放置してたのにこうして贔屓にしてくださる方々のおかげで作者は突っ走れております。

あと個人的な話なんですが、このままだとまた20000字超えそうなので分割しました(いつもの)

では皆様、本編をどうぞ。


百九話 思い出は影のように(前編)

「あぁ、サウスクラウドの」

 

「はい。近況の視察と商品をおろしに来ました」

 

 ステータスプレートを見てハッとした様子の門番に、魔法で姿を偽った恵里はニコニコと笑みを浮かべて愛想よく答えていく。

 

 ティオからひと休みするよう説得されてから三日。スケジュールの調整やアリバイ作りのための商品の作成などを経て、遂に恵里達はフューレンへ遊びに来ることとなったのである。

 

「てことは今日も食料の」

 

「それとお薬も少し。ギルドの方に持ってくだけですけれどね」

 

 ちなみに建前は『サウスクラウド商会に属する商人と護衛が商業ギルドに運んだ品を納めに来た』というものであった。自分達の商会の刻印がついた革鎧を身につけた門番は一層笑みを深め、そうかそうかと何度もうなずく。

 

「わかった。ありがとうな」

 

「はい。お仕事お疲れ様です」

 

「いやいやあんた達には負けるさ……俺達が生きてられるのもあんた達のおかげだよ」

 

 アーティファクトで偽の情報を映したステータスプレートを返却された後、恵里は軽く会釈してハジメ達と一緒に門をくぐっていく。いい一日を、とすれ違いざまにつぶやいた彼に恵里もありがとうと短く返してそのまま歩いて行った。

 

“嘘じゃないけどだましちゃったね”

 

“ハジメくんはさぁ~”

 

 そうして大通りにさしかかったところでハジメが“念話”でぽつりと漏らす。彼のお行儀の良さとお人好しぶりに恵里は思わず苦笑してしまい、目をつむって大いにため息を吐いてしまう。

 

“……次来る時はもう少し持ってくる商品多くしようか”

 

“商業ギルドにも新しいゴーレム、持って行った方がいいかもしれないわね”

 

「やっぱり農業用がいいでしょうか。それと薬と食料の方は、えーっと……」

 

 しかも光輝と雫までどこか気まずそうにつぶやき、またリリアーナも指折りしながら計算していた。“念話”でハジメにツッコミを入れた恵里は、その発言を聞いてすぐさま三人にジト目を送る。

 

「あのさぁ……」

 

『いや、その……』

 

「……今日は休養日にするとあなた達は言っていたはずですが。仕事のことを何故考えているのです?」

 

 だが三人はすかさず目をそらして口笛を吹いてごまかそうとしたし、優花達は無言でうなずくなり苦笑いを浮かべていたりしていた。そんな時、髪を赤く偽装したアンファンが白けた目つきで至極真っ当なことを口にする。

 

「そうだよ。アンファン、もっと言って――」

 

「アンファン、先程からやたらと目移りしている貴様が言うな。浮かれてるのが丸わかりだぞ」

 

 いいタイミングでツッコんでくれたアンファンに恵里は内心ガッツポーズをし、彼女を煽ろうとした。

 

 だが銀髪に白い肌で姿を偽っているフリードが白眼視しながらツッコミを入れれば、プイと顔を思いっきり背けてしまう。真っ赤な顔でほっぺを膨らませて黙り込んだアンファンを見て、コイツ本当に役に立たないなと恵里は即座に手のひらを返す。

 

「リリィ、お前なぁ……」

 

「……お主らはいつもこうなのかの?」

 

“まぁね。ハジメくん達お人好しだし、そこのお姫様は仕事の虫だしねぇ~”

 

 信治がボヤき、後ろを歩いていたティオも半目で問いかけてくる。恵里もため息を我慢しながら“念話”でそれに答えれば、ハジメも鈴も浩介達も一斉に目をそらしていった。

 

“良心がとがめるのはわかるがの。心も休まらなければ無意味じゃろう。すべきことを考えよ”

 

“いやそれな。こういう時までいい子ちゃんとか息苦しくねぇのかよ”

 

“そりゃお前らがいい子ちゃんだったから俺らもいい思いしてるけどよ。それはそれ、これはこれだろ”

 

“うんうん。ティオや檜山君達の言う通りだと思うけど?”

 

 呆れた目つきを浮かべつつ、恵里もティオに大介、良樹達に続いてハジメ達に注意する。

 

 根を詰めすぎないようティオに注意されたから休むと決めたはずなのだ。体はもちろん心が安まらなければ意味が無いのに、もう彼らは誰かのために気をもんでいる。

 

「ご、ごめんね?」

 

「いやでも、その……」

 

“はいはい。みんながどうしようどうしようって考えてるのも元はといえば全部エヒトのせいだからね。だからもう考えない。いいね”

 

 そのことをとがめればハジメ達は苦笑したまま謝罪したり、こちらを見ながら言いよどむなどしていた。そんな彼らを見て大きくため息を吐くと、恵里は“念話”で投げやり気味に責任転嫁しろと半目で訴える。そして前を向くとそのまま彼らの答えも聞かず、恵里は町を歩いて行くのであった……。

 

 

 

 

 

「なんか前より人多くない?」

 

 そうしてどこか気まずい空気になりながらも恵里達は町を歩き、ようやく各区につながるメインストリートへと到着する。何気なく恵里が目をやれば、まばらではあったが人が往来している様や呼び込みをしている人間が彼女の視界に入った。いつの間にこんなに人が出るようになったのかと思わず恵里はつぶやいてしまう。

 

「この前僕達が来た時はメインストリートじゃなかったからね……少しは僕達の頑張りが形になったかな」

 

 ハジメのつぶやきやそれに同意する光輝達を見て、またお人好しが始まったと恵里はほんのり苦笑する。とはいえここを含めたトータスの立て直しのために自分達が動いているのは事実であるため、マシになったのならいいかと恵里はやや他人事のように考えた。

 

「じゃあ運んできた商品は俺達が責任を持ってギルドに納めるから」

 

 そしてメインストリートに入ったところで光輝が話しかけてくる。

 

 昨日予定の取り決めなどをやった際、自分が商品の納入をやっておくよと光輝とリリアーナが言い出したのである。その際雫に龍太郎、香織も一緒に行って手伝うと立候補していた。また信治も『リリィが行くなら仕方ねぇな』とやれやれといった様子ながらも参加を決めている。

 

「じゃ、予定通り現地解散だな」

 

「あぁ。先に行っててくれ。俺達も俺達で楽しむさ」

 

 そのため他の面子はフューレンに着いたら解散という流れも決まっている。そのことを礼一が軽くニヤつきながら言えば、龍太郎が笑みを浮かべながら答えた。

 

「じゃハジメくん。鈴も」

 

「うん。じゃあ皆、あんまり羽目を外さないでね」

 

「特に斎藤君達がね。それじゃ」

 

 龍太郎が答えるとすぐに恵里は二人の方を見やる。二人も良樹達に注意をしたり声をかけ、また光輝達も一言二言口にしてそれぞれ分かれていく。恵里も何組か見送ってからハジメと鈴のを手を掴み、路地裏へと一緒に行く。

 

「じゃ、見た目も変えたし」

 

「うん。久しぶりのデート、しよっか」

 

「行こうハジメくん、恵里」

 

 誰もいないのを確認してから姿を変えるアーティファクトを操作し、全員冒険者らしく見えるような格好にする。髪色は金に赤に灰とバラバラに、少し痛んだ革鎧に日焼けして少し色あせた服、使い込まれた杖に鞘が見えるようなものへとだ。

 

 不自然な見た目にならないようお互いチェックしてから恵里達はメインストリートへと出て行った。

 

「あ、あそこ屋台出てるね」

 

「じゃ早速寄ってみる?」

 

「うん。行こ行こ」

 

 予定通り観光区へ向かって歩いて行けば、ちらほらと屋台が並んでいることに恵里は気づく。前に裏組織を摘発した時はこういう店もなかったはずだと思いつつ、恵里はハジメと鈴を誘って屋台巡りをしていく。

 

「上をちょいと切ればこの通り! 飲めば甘みがクセになる! アンカジのフルーツだよ~」

 

「あんた達、メシはまだか? ウチのはうめぇぞ!」

 

「なんかさ、お祭りの屋台と変わんないね」

 

 自分達を見かけたからか屋台の店主達はこぞってこちらに声をかけてくる。その様や並べられた商品を見て、恵里は思わず縁日の屋台を思い浮かべて口にしてしまう。するとハジメと鈴もくすっと笑い、冷やかしを含めて恵里達は屋台巡りを始めた。

 

“最初に買ったフルーツはおいしかったね”

 

“ま、どこぞの魔王が頑張ってたしね。サンドイッチモドキもそのせいか美味しかったし”

 

 そうして買ったものを恵里達は“念話”でこっそり評価し合う。やれあっちの店はけっこうぼったくってただの、ここの店のは良かっただのと善し悪し問わずだ。そうして話しながら歩く中、ふとハジメが苦笑しながら一瞬遠くを見つめたのに恵里は気づく。

 

“どうしたのハジメくん。何かあった?”

 

“ううん。さっき恵里が畑山先生のことを話したからさ、先生の頑張りもこうして形になってよかったって思って”

 

“ホーント、ハジメくんってお人好しのままだよねぇ~”

 

 そのことを恵里が尋ねれば、ハジメがまた遠くを見ながら理由を語ってくれた。また誰かが報われたことにホッとしているハジメに、恵里は軽く肩をすくめながら思ったことを口にする。

 

“いいでしょ恵里。私達がこうしていられるのもハジメくんが優しかったおかげなんだから”

 

“それはそうだけどさぁ~。本当のこと言っただけじゃん”

 

 するとサンドイッチに似た料理を食べていた鈴から一瞬ジト目を向けられ、お説教されてしまう。鈴の言ったことは事実であったため、恵里も顔をそらして唇をとがらせて言い返すしか出来なかった。

 

“もう、二人とも……まぁトータスの人達も僕らもさ、頑張りがいい方向に向かってくれたら嬉しいよね。そうでしょ?”

 

“ま、そりゃボク達が裏で手助けしてるんだしぃ~。良くなってくれなきゃ困るからねぇ~”

 

 苦笑しながら述べたハジメに対し、恵里も左の人差し指をくるくると回しながら少し得意げに答える。

 

 ――昨日の話し合いの際、フューレンの数十もの個人経営の店や商会の経営の立て直しに成功したとリリアーナは述べていた。訓練という体でオルクス大迷宮に潜り直しては手に入れた素材を売り払ったりしているのだ。努力が報われるのは当然でしょ、と自信ありげな表情で恵里はハジメを見つめる。

 

“そうだね恵里……やっぱりさ、父さんと母さんには誇れる息子でいたいし”

 

“うん。私も。恵里だってそうでしょ?”

 

“まぁ、ね”

 

 ハジメの言葉に鈴が乗っかり、鈴から同意を求められるが恵里は少し渋い表情で返事をするだけだった。二人の発言が本音半分、建前半分だと見抜いたからである。

 

(ここの人達を助ける理由にそれ使うんだ……ズルいよ、ホント)

 

 ハジメと鈴がそうありたいと思っているのは事実だということは恵里もわかっている。もちろん恵里とて両親によく思われたいとは考えているのだ。だからこそ二人の言葉には文句を言えず、反論も出来ない。心の中でむくれてささやかな抵抗をするしかなかったのだ。

 

(いーよいーよ。二人ともお人好しだもんねー。ボクがしっかりしてなきゃダメだもんねー)

 

「ちょっと止まって」

 

 そうして恵里が頭の中でぶつくさ文句を垂れ流していると、不意にハジメがこちらに向かって手をパーにして突き出してくる。一体何があったのかと考えるより先に恵里の耳は礼一の上ずった声をひろう。

 

「いやー、さっきの店どうだった?」

 

「まぁ悪くはないかの。酒に合うものばかりじゃったが、昼に食べるのもたまにはよかろう」

 

「そ、そっかー……あ、じゃあティオさんよ。あっちの店は……」

 

「これで三軒目じゃが?……お主はそんなに腹持ちが悪いのか」

 

 ……声のする方を見てみればティオと礼一の姿がそこにあった。ただし、片方は腕を組みながら冷ややかな目で見つめており、もう一方は冷や汗をダラダラ垂れ流して『あー』『えー』と目を泳がせている有様であったが。すぐに恵里は目配せをし、ハジメ達と一緒に物陰へと隠れて見ることにした。

 

「え、いや、その、ほら、まだ宝石とかそういう店って開いてねーじゃん。だから飯屋とかでもって……」

 

「ていっ」

 

「いってぇ!?」

 

 礼一がエスコートに思いっきり失敗したであろう様をハジメ達と“念話”で言い合っていると、いきなりティオが人差し指で礼一の額を小突いた。なお、赤い光が一瞬光ったのとティオが手をぷらぷらさせた辺り、とっさに技能の“部分強化”を使って防いだのだろうと恵里は推測する。

 

「……とにかく、焦るでないわ」

 

「いや、でも俺、ティオさんに楽しんでもらいたくってよ……」

 

「それぐらいわからんと思うてか……心意気は認める。が、これでは落ち着く暇すらないじゃろう」

 

 ばつの悪そうな顔をしたのもつかの間、聞き分けの悪い子供を相手にするかのようにティオは礼一を諭そうとしていた。礼一の方も視線を落として言い訳をしたが、その表情もすぐに驚きに満ちたものへと変わる。

 

「て、ティオ、さん……っ」

 

「よかろう。年長者である妾が存分にエスコートしてやるとしよう……気があるのなら学んでみせよ」

 

 ティオが礼一の手を掴んで通りを歩き始めたのだ。礼一の顔は一瞬で真っ赤に染まり、目を大きく開いて口を何度もパクパクとさせているがそれだけ。ティオに手を引かれるまま、礼一はただ彼女の後ろを歩くだけであった。

 

「……礼一君、ちょっとかわいかったね」

 

「うん。でもティオさんすごかったね……あれが、大人の女なんだ」

 

 そんな二人を恵里はハジメと鈴と一緒に静かに見守っていた。そんな折、ハジメがちょっと顔をほころばせながら小声でつぶやく。鈴もまたほんのり顔を赤くしながらティオの方をじっと見ていた。

 

“ふふっ。昔のハジメくんみたい”

 

 すると恵里もクスッと笑いながら脳裏にハジメの背伸びした姿を思い浮かべる。するとハジメが顔を少し赤くしながら恵里の方を向いてきた。

 

「い、いつの話? 恥ずかしいからやめてよ」

 

「だってそっくりだったもん。小一の時の龍宮錬のマネしてた時とか、中二の時にこっそり魔法の練習してた時とか」

 

 ハジメがやめるようお願いしてきたものの、恵里は笑みを深めながら思い出を軽く語っていく。幼いながらもキザな真似をしてた時のことを。また一回目のトータス会議を終えた数日後にハジメの家に訪れた際に中庭でカッコいい詠唱をしてた時のことをだ。

 

「ぁ、が、がが……」

 

「恵里、ちょっと意地が悪いよ……まぁ、かわいかったのはわかるけど」

 

 耳の先までゆだる彼を見て恵里がニコニコしていると、鈴からツッコミを受けてしまう。なお何度か目を泳がせつつも自分に同意してくれたし、ハジメが一層顔を赤くしてかわいかったから恵里は許した。

 

「「は、ハジメくん!?」」

 

 だが次の瞬間、恵里は鈴と一緒にハジメに手を掴まれてしまい、そのまま人気の無い路地裏へと引っ張られていく。いきなりどうしてと思いながらハジメの顔を見やれば、涙目でぷるぷるしながらこちらを見つめ返しているのに恵里は気づく。やり過ぎた、ということにだ。

 

「だ、だったら二人も! 恵里と鈴だって中三の夏休みのデートで結構背伸びしてたでしょ! 覚えてるよ!」

 

 泣きべそをかきながらハジメが大声を上げる。突如、恵里の脳内にあふれ出した存在する記憶。

 

 ――あっれぇ~? ハジメく~ん、ボクからも鈴からも目を離してさぁ~。どうしたのぉ~?

 

 ――いやその、えっとぉ……。

 

 ――そうだよハジメくん。ちょ、ちょっと恥ずかしいけど、鈴も頑張ったんだよ!

 

 ……二人してヘソ出しコーデとホットパンツでハジメに迫り、また下着もきわどいものを選んであえて見せびらかした時のものが、である。ハジメを悩殺するつもりで着てみたものの、当時としては恵里も何も考えられなくなるレベルで恥ずかしかったのだ。

 

「は、反則! そのことはいいでしょ別に!!」

 

「そ、そうだよ! だったらハジメくんだってパソコンの中にえっちな絵いっぱいあったでしょ!!」

 

「そうだよ! 前に送った自撮りと一緒に描いてたよね! ボクと鈴のそういう絵!! それぐらいお見通しだからね!!」

 

「わー!! わー!! わー!!!」

 

 今振り返ってもそこまでやらなくても良かったと思える記憶を掘り起こされ、恵里も顔が赤くなってしまう。そして鈴がハジメのパソコン内の隠しファイルのことを暴くと、また恵里もそれを知っていたことから追撃を叩き込んでいく。

 

「だ、だったら一昨年の温泉旅行の時に二人ともしれっと僕の布団に潜り込んでたよね! あの時浴衣がズレて――」

 

「ハジメくんのばかぁ!! じゃあいいよ! ランニング始めたばかりで足つった時とか――」

 

「はぁー!? よ、よくも言ってくれたなぁー!! だったら初めての水族館デートでボク達がイルカショーで水被った時の――」

 

 そうして互いに歯止めがきかなくなり、相手の恥ずかしいエピソードの暴露合戦に移っていく。偽名でなく本当の名前を大声で言い合っているのにも気づかず、揃って泣きじゃくりながら相手の心を血だらけにし続ける。

 

「“鎮魂”……何やってんだよオメーら」

 

 だがそれも長くは続かなかった。礼一が魂魄魔法を詠唱してすぐに恵里は落ち着きを取り戻すことが出来、ハジメと鈴もハッとした様子で互いに顔を見合わせたからである。

 

 そうして自分達のやらかしを冷静に顧みれるようになったことで恵里は血の気がサッと引いてしまい、また二人の顔色も赤から白一歩手前へと一気に変わったのを見てしまう。

 

「「「……えっとその、見てた?」」」

 

「おう。まぁ無意識に“威圧”使ってみたいだたから俺ら以外誰もいねぇけどな」

 

「馬鹿者。何をやっとるか」

 

 声のする方へと一緒に顔を向ければ呆れた様子の礼一とティオがいた。もしやと思って尋ねてみれば、じっとりとした目つきでそれに答えてきたために恵里は頭が真っ白になってしまう。

 

 終わった。よりによって弱みを握られたくない馬鹿に見られた。ティオからの信頼が薄まったと軽く絶望してその場にひざをついてしまった。

 

「もう殺せよぉ……」

 

「休みが……みんなの休みが台無しに」

 

「出来れば痛くしないでください……」

 

「何もしねぇし、ちょい探ってみたらそもそも人気がなかったわ。大丈夫じゃねぇの」

 

「お主もいい根性しとるの……ともかく、仲睦まじいのはいいが場所ぐらい選ばんか」

 

 手で顔を覆いつつ、ハジメと鈴と一緒に弱音を吐く恵里。しかし呆れた感じのトーンで言及した礼一の言葉にちょっとだけホッとする。その直後に叩き込まれたティオの説教にまたしても恥ずかしくて死にたくなってしまったが。

 

「仕方ねぇよ先生達らしいし。どうせ中村が口出したのが最初なんだろうけどな、っと」

 

「ぐぅ……」

 

 カラカラ笑いながらコメントした礼一に恵里は恨みがましい目を向けようとした。だがその時ふとあちらがハジメを凝視しているのに気づき、恵里は隣にいたハジメの方に顔を向ける。すると彼がいきなり少し苦い表情を浮かべたのである。

 

「……取引したいならいいけどさ、ハジメくんへの貸しはこれでナシにしてよね」

 

「いや気づくなよ怖ぇわ」

 

 おそらくハジメに何か取引を持ちかけたと考え、恵里は軽く眉間にしわを寄せながら礼一に貸し借りを無しにするよう要求する。なおあちらは顔を軽く青ざめさせて後ずさるだけであった。

 

 反応からしてやはり何かやってたと確信し、恵里はジト目でハジメを見やる。しかし青い顔をしながらも首を何度も横にブンブンと振るばかりで何も答えてはくれなかったのである。

 

「全く……まぁお主がハジメに心酔しているのが改めてわかっただけでも良いかの」

 

 答えてくれないハジメにやきもきし、恵里の口角が下がってしまう。そうして不機嫌なのを露わにしていると不意にティオが口を出してきた。

 

「……何か言いたいワケぇ?」

 

「いやなに。少し安心しただけじゃ。南雲ハジメがよい方向にお主を導いてくれたことにな」

 

 恵里はティオから当然のことを言われ、何を言っているのやらと怪訝な目で見やる。するとほんのり目を細めてティオがやれやれといった様子で恵里を見つめ返してきた。

 

 上から目線で言ってきたことに恵里はイラッとくるも、ティオの言葉は事実であったため言い返すことはしない。ハジメとの出会いが無ければ、彼が自分を選んでくれなければ家族以外の誰かを本当に愛することはきっと無かったという確信があったからである。

 

「ま、そうだけどぉ~? ぜぇ~んぶハジメくんのおかげだしぃ~」

 

「えっとその……そうです」

 

 とはいえ言われっぱなしはしゃくに障るからと恵里はハジメの腕をとった。すると空いた左手でほほをかきながらも認めてくれたため、恵里は彼の満面の笑みを浮かべてハジメの腕に頭をくっつける。

 

「子供か全く……ま、それならばそれでよい。ハジメとやら、ひとつ尋ねるぞ」

 

 ティオが心底呆れた声色でつぶやいたがそれは恵里は気にはしなかった。が、その直後にいきなりハジメに直接問いかけてきたため、恵里はすぐに険しい表情を浮かべてでティオをじっと見つめる。

 

「ん、何? ハジメくんに何の用?」

 

「あ、はい。どうしましたティオさん」

 

「大方この男に入れ知恵でもしようとしてたのじゃろう?……ならそれを続けてくれぬか?」

 

 眉根を潜めた恵里がティオに問いかけるも、あちらは無視して用件を伝えてきた。だがそのおかげで恵里はティオの真意を理解し、眉間に寄せたしわが若干緩む。

 

「……ふーん」

 

 あくまで理由に納得しただけであるため、恵里はハジメと腕を組んだまま軽く鼻を鳴らして不機嫌であることをアピールする。

 

「ぇ……ぁ、ぇ?」

 

「話を聞いた限りでは異性の扱いには手慣れておると思うてな。ならば女の扱いがまだまだ甘いこやつの尻を叩いてくれると助かるのじゃ。よいか?」

 

「…………………………先生、俺死にてぇよ」

 

 だがティオは意に介さず理由を説明していくだけであった。恵里としても少しは罪悪感を感じてくれればいいだけであったため特に気にせず、むしろ礼一の方へと関心が向く。ティオが説明していくと共に顔が段々と赤くなり、その場でうずくまってしまったからだ。そんな彼に恵里は憐れみの視線を送る。

 

「そ、それはいいんですけど……も、もうちょっと手心ってものを……」

 

「こやつ、金か何かを理由に持ち上げてくれる女性としか相対しておらんと思うてな。口説くのであれば乙女心の扱いぐらい学んでほしいと思っただけじゃよ」

 

「あ、はい……」

 

「ハジメくん、頑張ったね。あとそこまでコイツ擁護しなくていいと思うよ。でしょ、鈴?」

 

 引きつった笑みを浮かべたハジメが礼一を擁護しようとしていたが、ティオは容赦なく切って捨ててくる。肩を落としたハジメにねぎらいの言葉をかけると、恵里は鈴と一度顔を合わせる。

 

「えーっと……近藤君。まだきっと大丈夫だよ」

 

「ま、本当に興味ないなら適当にあしらうだろうし。頑張ったら?」

 

「ありがと谷口。あと中村の鬼ぃ……」

 

 鈴も困惑した様子で何度も目を泳がせており、迷いに満ちた表情のまま礼一に気遣いの言葉をかけた。恵里も振り返って雑に励ましたものの、うずくまったままの礼一は湿った声で返事をしただけである。

 

「まったく、シャンとせんか礼一。お主のことも妾は認めておるのじゃぞ? そうでなければこのような誘いなど断っておる」

 

「え、ウソ、マジ……俺頑張るぅ!!」

 

 すると今度はティオがかがんで礼一にそっと手を差し伸べた。そして励ましの言葉を贈った途端に礼一がとんでもないニヤケ顔をしながら立ち上がり、ティオの手を取ったのである。引いた様子のティオとやたらと浮かれまくってる礼一を見て、励まして損したと恵里は軽く舌打ちした。

 

「恵里、お行儀が悪い!……えーとその、礼一君はいい?」

 

「頼む!! いやマジで!! 一生のお願い!!!」

 

 即座にハジメに恵里は叱られてしょんぼりしてしまう。その後ハジメが同行してもいいのかを礼一に尋ねると、あちらが腰を直角に曲げて頭を下げてきた。あまりの熱意に思わず恵里は引いてしまい、口の端が引きつってしまう。

 

「ではよろしく頼むぞ……ところで、この町については詳しいのかの?」

 

「多分礼一君とそんなに……でもここ観光区ですし、どこかいいお店が空いてるかもしれません」

 

「よ、よーし! 頼むぞ先生! 次こそはいいとこ見せてぇんだ!」

 

「はいはい。じゃあ一緒に行こっか」

 

 そうして恵里達はティオと礼一とも一緒に動くこととなる。歩きがてらティオの方から前はどんな町だったのかと尋ねられ、最初に訪れた時のことや大捕物の時の話などを恵里達は語っていく。

 

「――で、ついでにトレイシー皇女も逃げ帰った、ってワケ。いやー面白かったなぁ~」

 

「ふぅむ。お主らといると本当に飽きんのう」

 

「だろー?」

 

「あんまり楽しくないことばかりですけどね……あ、あそこのお店再開してるみたいです」

 

 しかもティオが相づちを打つのが結構上手く、表情こそあまり変わらなかったもののよく話がよく盛り上げてくれるのだ。そのため恵里もスラスラと話をしてしまい、ハジメ達と一緒に表情をほころばせてしまっていた。

 

「ふむ、喫茶店か……さて礼一、そこの店ならば寄るのもやぶさかではないぞ?」

 

「い、いやいや行く行く行きまーす! 先生達もいいだろ? な!」

 

「もう礼一君は……どうする。恵里、鈴」

 

「うん。いいよ。鈴は――」

 

 そうして流し目で問いかけてきたティオに、挙手しながら食い気味で礼一が答えていく。振り返ってこちらに同意を求めてくる様が一周回って面白く感じてしまい、どこか困った様子のハジメからの問いかけに恵里はうなずいて返す。

 

「そうだね、私も」

 

 どうするのかと一応鈴の方を向いて尋ねれば、あちらも苦笑しつつも楽しげなトーンで答える。鈴のこんな顔を見るのも久しぶりだなぁとクスッと笑みをこぼした恵里であったが、ある理由が原因でその表情は曇ってしまった。

 

「恵里、どうかした?」

 

「どこか具合悪い?」

 

「……なんでもないよ、二人とも。じゃ行こっか」

 

 すぐに恵里は笑みを浮かべて大丈夫だと答えると、ハジメと鈴の前に出て喫茶店の入り口へと早足で向かっていく。

 

 ――ねぇねぇエリリン。今日はちょっと暑いしさ、あそこの喫茶店に寄ろうよ。

 

(……なんで、浮かんじゃうかな。昔の記憶がさ)

 

 ……元いた世界の鈴とうわべだけの付き合いを、けれどもどこか心が安らいだ時間を思い出したことを隠すために。この世界にいるハジメと鈴に対して感じた後ろめたさを否定するために恵里は作り物の笑顔をまた浮かべた。




何故かティオが無意識にサドっ気を出してる不思議。本家だとむしろ全面にアレな部分出してる変態なのに(自業自得)
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