あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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ときがすぎるのははやいですね(しろめ)
ようやく完成しました。では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも247860、お気に入り件数も1014件、感想数も808件(2025/8/29 23:29現在)となりました。誠にありがとうございます。いやもうホント王道からかけ離れた拙作をひいきにしてくださる皆様のありがたさよ。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価して下さり誠に感謝いたします。また執筆するエネルギーをいただきました。

では今回の話を読むにあたっての注意点ですが、今回の話も長く(約14000字)なっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


百十話 思い出は影のように(後編)

「へへっ。今度こそティオさんをメロメロにしてやる」

 

「せいぜい空回り――」

 

「だからさ、俺達に構わないでくれよ」

 

 人気がまばらながらも活気の戻ったフューレンを訪れていた恵里達は、散策のかたわら見かけた喫茶店に入ろうとした。だが礼一が店の扉に手をかけた瞬間、中から相川昇の軽い苛立ちが伴った声が響く。

 

「どうする? 見送る?」

 

「えぇー……あ、いや、入ろうぜ。先生と谷口より先に俺がなんとかしてやるよ」

 

 ハジメ達とすぐに目配せをした後、恵里達は一度路地裏へと駆け込んだ。そして立ち寄るかどうか相談に移れば、礼一が一瞬嫌そうな顔をしつつもいきなり得意げな表情を浮かべた。そして立てた親指を喫茶店へと向けて自信満々な顔をしたのである。

 

「ホントわかりやすいね……まぁハジメくんと鈴ならお節介焼くよね」

 

 ティオにアピールしようという魂胆が見え見えであったため、恵里は礼一を呆れた目つきで見た。

 

 恵里としては昇と連れの相手ぐらい別に放置してもいいとは思っている。下手に引っかきしたらどうなるかわからないと懸念したからだ。同時に恵里は二人が必ずなんとかしようとするだろうとも予測しており、どうする気なのかとハジメと鈴を流し目で見る。

 

「礼一君ってば。恵里も……まぁ、否定はしないけど」

 

「まぁ、ね」

 

 ほほをかいて目を泳がせはしていたがハジメは否定しなかった。鈴も苦笑いだけで何も言わず、こちらを見つめ返している。やっぱりお節介を焼く気なんだと恵里も大いに呆れ、半目で二人をじっとりと見つめた。

 

「先の声は相川昇とやらだったかの。まぁどうするかはお主らに任せるとしよう。して、どうする?」

 

「決まってらぁ。早速店に――」

 

「やっぱり戻ります。十分息抜きは出来たと思いますから」

 

 思いっきり目を背けるハジメと鈴を恵里が凝視していると、ふとティオが選択をこちらに預ける旨の発言をしてくる。意気揚々とした様子で礼一が発言するのに被さる形で今度は愛子の声が通りに響く。

 

「……えーと、今のって」

 

「昨日倒れそうになるまで鍛錬していただろう。頼むから休んでくれないか、愛子」

 

「疲れもちゃんととってますよ。ですから」

 

「再生魔法や魂魄魔法でどうにかするのは休んだ内に入らないんだよ、愛子ちゃん……」

 

 気勢が削がれて間の抜けたの声を出した礼一と一緒に、恵里は自分達の後方を見た。案の定、こちらに背を向けて歩こうとしている愛子の前に、悲痛な表情を浮かべたデビッド達、カムそしてパルが立ちはだかっていたのである。

 

「駄目です愛子殿。本懐を果たすことに囚われて、それ以外の気持ちを押し殺し続けたらきっと二度と立てなくなります」

 

「私の気持ちなんて、そんなの……」

 

「そうだよ愛子姉ちゃん。愛子姉ちゃんが他にやりたかったこと、ちょっとでいいからやろうよ。ね?」

 

 愛子の手を握りつつ、カムが悲しげな顔で説得をする。少しうつむいて目をそらす愛子にパルがすがりつき、悲しげな声で訴える。その様を見た恵里はデビッド達に同情の眼差しを送った。

 

「さて。先日妾がお主達をどう評価したか覚えておるかの?」

 

 そこでティオが冷ややかな声でこちらに問いかけてきた。ティオにはああ見えていたという質問の意図を察し、恵里は思いっきり渋い表情を浮かべながら彼女の方へと顔を向ける。

 

「「えっと、そのぉ……」」

 

「俺ら、ああ見えてたんだな……」

 

 その際恵里はハジメ達も見ていた。やはり後ろめたい表情をハジメと鈴は浮かべてたし、礼一もシュンとした様子で落ち込んでるのがわかる。

 

 事実、ベヒモスを撃破してオルクス大迷宮を潜っていく頃から心を落ち着ける魔法をちょくちょく頼っていた。それに再生魔法がなくとも治癒魔法でハードな訓練を続けてもいた。それを考えれば自分達が相当無茶を続けていたというのが嫌でもわかる。ティオが苦言を呈したのも仕方ないと恵里も理解を示す。

 

「うむ。そうじゃ。あまり力に溺れるでない」

 

「うっさい陰険年増」

 

「誰が陰険年増じゃぁ!!」

 

 それはそれとして上から目線なのは心底気に食わないし、ハジメと鈴に申し訳なさそうな顔をさせたことに恵里は軽く苛立っていた。そこで恵里は軽く鼻で笑いながらティオに嫌みを叩き込む。直後、怒りで顔が真っ赤になったティオが怒鳴り散らした。

 

「すいませんすいません! ウチの恵里が本当にすいません!」

 

「ほら恵里、早く謝って! どうせ私達が言い負かされたことが気に食わなかったんでしょ!」

 

「よくわかってるじゃん。だって頑張ってるハジメくんと鈴を否定したんだよ?」

 

「怖いくらいブレってもんがねぇな中村」

 

「惚れた相手と親友が頭を下げとるというのに、反省のひとつもせんのかお主はぁー!!」

 

 やはりハジメが何度も何度も頭を下げ倒しており、また鈴に頭を掴まれてそのまま頭を下げさせられてしまう。しかし恵里は謝罪の言葉を一切口にせず、鈴から言われたことに言及するだけであった。礼一の心底呆れた声が耳に届き、ティオの怒声が再度恵里の鼓膜を揺らした。

 

「あのー……衛兵さん呼びますよ?」

 

「すまんお前達。頼むから愛……アイの説得をしてくれないか?」

 

 大声で叱り飛ばしてきたティオを単にうるさいと思っていると、いきなり前後から二つの声が彼女の耳に届く。スッと顔を上げれば口元がヒクヒクしている喫茶店の従業員らしい女性、そして困り果てた様子のデビッドがこちらを見ていたのである。

 

「お前ら……」

 

「……とりあえず、場所移そっか。来る?」

 

 しかも開いた喫茶店の扉から相川昇に仁村明人、玉井淳史に三人のハウリアが顔をのぞかせていた。明人の怒りに満ちたぼやきを聞き、恵里は周りにいたハジメ達を見渡してから移動を提案する。誘われた淳史達と一緒に恵里達はそそくさとその場を後にしたのであった……。

 

 

 

 

 

「全くお主達は……で、どうするのじゃ?」

 

 そうして昇や愛子達とも合流してしまった恵里達はそのまま観光区の通りを進んでいた。やはり空気は気まずいままであり、恵里もティオからじっとりと恨みのこもった視線をずっと受け続けている。

 

「あー、うん。一応ハジ、じゃなかった。レンくん達と一緒に水族館行くつもりだったけど」

 

 だが数メートル歩いた辺りでため息と共にティオからの視線の圧がやわらいだ。そして今後の予定を尋ねられ、恵里はハジメ達と一度目を合わせてから自分達の予定を明かす。

 

「あ、あそこか。俺も一応そのつもりだったけど、みやざ……ナナリーの思いついたのでも見に行くのか?」

 

「うん。どんな感じなのか気になって。それに二人とのデートコースで何度か利用したこともあったから」

 

 こちらとティオと何度か視線を行き来させながら礼一が話すと、ハジメが代表して自分達が見に行く理由も語っていく。ハジメが連れて行ってくれる場所、というのもあったが恵里自身も水族館自体は好きであった。

 

「私もちょっと楽しみなんだ。なな……ナナリーのショーはどんな感じなんだろうって」

 

「「ねー」」

 

 そのため奈々が目玉として作ったあるプログラムが恵里も気になっており、恵里は鈴と顔を合わせると一緒に首を何度も縦に振った。するとティオがあごに手を当て、考える素振りをしながらこちらに問いかけてくる。

 

「ふむ。()()の芸が人目を引くのはわかるんじゃがな。面白みのあるものなのかの」

 

「まぁ人目も引きますし、かわいらしいでしょうね。きっと」

 

 見慣れていないティオからすれば当然かと思いつつ、どう答えようかと恵里は思案する。だが先に静かな声で愛子が例のプログラムのことに触れ、何が目玉であるかについても簡単に語っていった。

 

「よし見ましょう愛子さん! デビッドもクリスもジェイドも、それにカムさんとパル君も、構いませんよね?」

 

「「「もちろん!!」」」

 

「えぇ。どんな施設か耳にしたことがあるだけですが、愛子殿の気が紛れるならば!」

 

「うん! 行こう行こう!」

 

 するとキラキラした目のチェイスがデビッド達だけでなくカムとパルにまで同意を求めたのを見て、恵里は内心わずかに驚いていた。いつの間に仲睦まじくなったのやらと少し恵里委は不思議がったが、不意に昇達はどうするのか少しだけ気になってしまう。

 

「さっきはその、悪かった」

 

「いいえ。昇さん達のことは聞いていますから」

 

「どうしてそこまで構うんだよ。俺達なんかにさ」

 

「さっきも言ったじゃないですか。放っておけないと。仲間に、共に戦う人に手を差し伸べるのはいけませんか?」

 

「……裏切られても、知らねぇぞ」

 

「それを嫌っているのは私達も知っていますから」

 

 下手にちょっかいを出すのも面倒だし、来ないのなら適当な理由で置いていこうと恵里は考えていたのだ。だが見た感じ明人達と三人の()のハウリアの間の空気はそう悪くは無い。それに六人ともこちらをチラチラと見ており、時折視線が合うこともあった。

 

「んー、そっちはどうするの? ボクとしてはどうでもいいけど」

 

「「「えーっと……」」」

 

「「「ぜひ!」」」

 

 これならハジメと鈴がお節介を焼くこともないだろうなぁと思いつつ、恵里は迷う素振りをしながら淳史達に問いかける。案の定昇達クラスメイトは目を泳がせ、ハウリア達はキラキラした目でうなずき返した。

 

「だってさ。大人数だね」

 

「僕達は別にいいけど……畑山先生、それにティオさんと礼一君は?」

 

「……あまり騒がないように。マナーは地球でも守ってほしいですから」

 

「気になどせんよ。で、どうするのじゃ?」

 

「あー……ま、いっか。にぎやかな方が面白いかもしれねぇし」

 

 ハジメ達の方を振り向き、恵里は少し肩をすくめながらどうするのと暗に問いかける。ハジメと鈴はすぐにアイコンタクトをしてからうなずき、また愛子達も理由は違えど前向きな答えを出してきた。

 

「じゃあ行こう。相川君、仁村君、玉井君」

 

「では皆様。アル、ルー、ライラもお願いします」

 

 ハジメが昇達を誘い、カムが三人のハウリアの同行を頼み込む――かくして大所帯となった恵里達は水族館へと向かっていく。

 

 途中、数人の大道芸人が披露した芸を歩きながらながめたり、区画整理か新たな建物を建てるためか行き交う工事の作業員を目撃するなどした。また通りを歩く人達が水族館の新しい展示物やショーが面白かったなどと言ってるのを聞きつつ、一行は無事に水族館にたどり着く。

 

「わぁ……」

 

 少しくすんではいたものの、海をイメージしたかのような全体的に青みがかった建物の前には十人足らずの人間の行列が出来ている。とはいえそこまで待つことも無く、恵里達はすぐに受付を済ませて中へと入る。その瞬間、地球のそれとよく似た内装が恵里達を出迎えてくれた。

 

(流石に地球の水族館と同じ感覚で見るのは無理かー。でも)

 

 流石に地球の水族館で使われるような水槽はそこにはなかったが。大質量の水の圧力に耐える透明な水槽を作る技術はトータスにはないようで、代わりに格子状の金属製の柵に分厚いガラスがタイルのように埋め込まれているのである。

 

「地球じゃ見ない魚ばかりだけど、きれいだねハジメくん」

 

「……うん。すごいね」

 

 そのため柵やタイルの継ぎ目に魚が隠れたり、またガラスが分厚い分あまり透明じゃないことから若干見にくくなっている。だがそれでも水槽に生える水の青さが、その中を泳ぐ魚の美しさはそう見劣りはしない。鈴が述べた通り、目の前に広がる光景に恵里も思わずため息が出てしまう。

 

「……皆の頑張りが、ちゃんと形になってるんですね」

 

「今言うタイミングじゃないよ愛ちゃん……まぁ、ありがと」

 

「すごい……いい場所ですね、愛子殿」

 

「ふ……リディ、リディ。あのきれいな魚はなんですか。あの丸い殻から手足を出した生き物は?」

 

「だからそこに解説が書いてあるだろうが。なんでもかんでも私に聞くな」

 

 その横で声をかすかに震わせてピントのズレた感動を愛子が口にしたり、そんな彼女に明人達がツッコミを入れつつも感謝を述べた。またカムが静かに感激の声を漏らしたのを聞いたり、いつの間にか来ていたアンファンがどこか興奮した様子でフリードにやたらと尋ねたりするのを恵里は目撃したりした。

 

 ――ねぇねぇエリリン、あっちのお魚さんもキレイだよねぇ~。

 

 ――どうエリリン。かわいいでしょ。せっかくだし鈴とおそろいのキーホルダー買っちゃお。ね?

 

「っ」

 

 ……誰かの談笑する様を見て、楽しむ様を見て、その都度過去が恵里の脳裏によみがえる。胸にズキリと来る痛みをこらえ、それをハジメにも鈴にも悟られないよう必死に笑みを浮かべ続けながら恵里は通路を歩く。

 

“恵里、具合悪いの?”

 

“さっきからずっと辛そうだよ? どこかで休む?”

 

“気にしすぎだよ二人とも。ま、久々にこういうところに出たし、気疲れしたのかもねぇ~”

 

 だがすぐにその偽装も二人に気づかれてしまう。ハジメと鈴の勘の良さに納得とかすかな苛立ちを感じつつも、恵里はなんてことない風に装えばもう二人も何も言わなくなった。

 

「あっ……ふふっ。ハジメくんと密着出来るのは嬉しいかなぁ~」

 

「うん。僕も今はそういう気分、ってことで」

 

「そうだね。()は私もそういう気分だから」

 

「そっかそっかー。鈴もそういうケがあったんだねぇ~」

 

 代わりにハジメが腕を絡めてきて、また鈴に後ろから密着されてしまったが。自分を心配してくれる二人に嬉しさを感じつつも、あえて気づかないフリをしながら恵里達は展示された生き物をながめて歩く。あれキレイだね、地球でもいそうなのがいるんだね、と他愛の無い会話を繰り返して。そして――。

 

「なぁ、確かショーが始まったのって昨日だろ?」

 

 半分ほど水族館を回った後、恵里達は屋外のステージへと向かう。盛り上がった土の上に木板をしいた舞台、木のベンチばかりでなく革張りのものだったり簡素なつくりの一人用のイスなども置かれている急ごしらえ感がとてつもなく強い場所だった。

 

“うん。幸利君達が頑張ってあの子達に芸を仕込み終えたのが昨日の朝だったはず。なんだけど……”

 

“一応あのお姫様が三日前には宣伝したみたいだけどねぇ~。にしたってこんなに多いのは聞いてないんだけど”

 

 だが会場に来た時点で人がごった返していたし、そこに座っていた人達が楽しげに話をしているのが嫌でも目に飛び込んでくる。自分達だけで目玉のショーをながめてワイワイはしゃぐつもりだったのだが、これは無理だと恵里は結論づける。

 

“あ、恵里ちゃん! こっちこっち!”

 

“あ、香織ももう来てたんだね。わかった”

 

 皆と一緒に思わず苦笑いしつつ見るのに良さそうな空いてる席を探すもなかなか見つからず。結局香織や雫達が陣取っていた最後尾近くに座るしか出来なかったのである。

 

「食事が十分にとれるようになって余裕が出来たからでしょうね。お腹が満たされたなら心の方も……いいタイミングだった、ということでしょう」

 

「ふむ。生きるだけなら食事と家があればよい。しかしそれでは人として生きるのは難しいからのう。色々あったことを考えれば尚更じゃな」

 

 そうして開演まで色々と話をする中、恵里は愛子とティオの話に思わずうなずく。そして恵里はオルクス大迷宮を潜っていた頃のことを思い出した。少しでも寝るのを楽にするために魔物からはぎ取った皮をなめして敷物にしようとしたこと、信治がいらんことを言い出したことがきっかけでベッドを作った時のことをだ。

 

「はいみなさんこんにちは~! メアシュタット水族館へ来てくれてありがとうございま~す!」

 

「あ、始まった」

 

 心の中でなるほどと恵里がうなっていると、ステージに一人の男性が現れる。客席を見渡しながら声をかけてきたことから、これからショーが始まるのかと恵里はふふっと笑みをこぼしながらステージを見つめた。

 

「それでは、この水族館に新しく来てくれたメンバーを呼びたいと思いま~す」

 

 進行役であろう男性があいさつを終えると首から提げていたホイッスルを吹く。すると地球にいた頃にテレビや水族館などでよく見たペンギン……のようなものが奥から何匹も出てきたのである。

 

「ご安心ください。この子達は人なつっこくて、私達人間族に危害を加えません――ではただいまよりこの“ペンギン”たちのダンスを披露いたします!」

 

『グワー!!』

 

 フリードが言うには元はシュネー雪原にいた魔物とのことだ。そんな七匹の魔物は()()の体をひょこひょこと揺らしながらステージ中央へと歩いて行く。そして男性の目の前で横に整列すると、号令と共に鳴き声を上げる。同時に彼らのステージが始まった。

 

「わぁ……」

 

「み、見たことの無いダンスだぞ!?」

 

「か、かわいい~!」

 

 時折両腕をばたばたと揺らし、ぺちぺちと音を鳴らして軽快な音を奏でる。七匹が一糸乱れなく踊る様に会場はどよめき、黄色い声がそこかしこから上がっていく。会場から上がる『かわいい』という声に恵里は笑みを深めていた。

 

“大成功じゃん。妙子もだけど奈々の思いつきのタップダンスが特にね”

 

“えへへ……恵里っち褒めないでよぉ~”

 

 “念話”で感想を漏らしながら恵里は周りを見渡す。するとにやけた奈々だけでなく、ハジメ達もくすっと笑いながらそれにうなずいて返してくれた。実はこのショー、奈々と妙子のあるひらめきがきっかけだったのだ。

 

“謙遜することではありませんよ宮崎様。私もこんなに愛らしいとは思いませんでしたから”

 

“うんうん。やっぱりかわいいもんねペンギンさんは~”

 

 事の発端は五日ほど前のこと。メアシュタット水族館にお客が来るようにはなったものの、経営があまり芳しくないことから何かいい案はないかとリリアーナが頭を下げてきたのである。そこで奈々と妙子がペンギンに似た魔物を連れてくるのはどうかと言い出したのだ。

 

「ふわぁ……」

 

“何度も己の耳を疑ったがな。だが、アンファンが黙って見ていることを踏まえると撤回せざるを得んな。()()()()()慧眼だったぞ。宮崎、菅原”

 

“あっはは~。それほどでもぉ~”

 

“まぁね~。えへへ……”

 

 トータス各地に現れた魔人族を叩きのめしに行った際、体毛の色こそ違えど恵里達はその魔物を目撃していた。いささか気性が荒くはあったが、地球で見てたペンギンのかわいらしさを考えればきっとウケる。

 

 恵里達はすぐに顔を合わせてうなずき合った後、フリードに変成魔法で引っ張ってくるよう頼み込んだのだ。またトータス各地を襲った魔物の一匹であったため、変成魔法を使って体毛も灰から黒と白にして印象も変えることを妙子や優花が提案。また賢くなったこの子達にタップダンスを仕込もうと奈々が思いつき、それに恵里達が賛同したのである。

 

“これで奈々がタップダンスのことをちゃんと知ってたら焦らなかったんだけどな”

 

“もう、幸っちぃ~!”

 

 ……なお、その肝心なタップダンスを奈々どころか誰も詳しく知らなかったという大問題が発生し、いきなり頓挫しかかったのを思い出して恵里も思わず苦笑してしまう。

 

 そこで恵里達の間でタップダンスについて情報を整理し、似たような踊りを知っていた漢女の一人に教えてもらってそれを幸利達がアレンジ。また雫達に媚び媚びのダンスをよく踊るイナバに魔物達のコーチを頼んで仕込んで貰った。こうして『もどき』ではあったものの、ペンギン似の魔物達は踊れるようになったのである。

 

(流石に地球で見たタップダンスと比べたらまだまだ雑な気はするけどねぇ~。でもこの盛り上がりを考えたら大成功かな)

 

 自分達の知っているタップダンスと比べたらやはり微妙だろう。しかし魔物達の愛らしさを存分にアピール出来ていること、そこかしこから上がる熱狂の声を考えれば誤差で済む。そう恵里は冷静に計算していた。

 

“いいじゃん幸利君。ここまで盛り上がってるんだし。水差さなくっても平気だって”

 

「……わーったよ」

 

“今は皆楽しもう。それでいいでしょ。ね?”

 

 だから恵里は微笑み、あきれ顔でツッコミを入れた幸利にカリカリしなくていいよとやんわりと返す。すると彼も観念した様子で軽く息を吐いてからイスに深く座り直した。その直後に柔らかい声でハジメが提案してくれば、もう誰も反対の声を上げることは無かった。

 

“可愛いだけじゃなくてカッコいいね。雫が飼いたいって言うのもわかるなぁ”

 

“うんうん。戦力としてもアテに出来るし。ちょっと匂うなんて言わなきゃあの子達も雫とずっと一緒だったかもねぇ~”

 

“鈴も恵里も! もうっ!!”

 

 雫の抗議を無視して恵里は魔物達をながめ続ける。会場中に響くよう大きめの音を出しつつ、一糸乱れぬステップを魔物達は披露している。そして時折仲間同士向き合って鏡合わせのように、一斉に横に体を向けながらステップをキメて踊り続けていた。

 

“しかし、本当に見事じゃな……魔物をああも手懐けたのはもちろんじゃが、あの踊りの美しさよ。優雅さからはかけ離れておるがこう、腹の底から熱意がわき上がってくるのじゃ”

 

“ま、そこはボクらの努力、ってことで……あ、そろそろかな”

 

 持たせたアーティファクト経由でティオがこっそり“念話”を送ってくる。感嘆する彼女の方を見れば感心した様子で目を細めており、そんなティオに恵里はドヤ顔をしつつ返事をした。そして魔物達のステップが一段と激しくなったことからもうそろそろ終わりだろうかとアタリをつけ、ステージの方へと再度視線を向ける。

 

「――ありがとうございました! ではこの子達に大きな拍手をお願いします!」

 

 揃ってクルッと一回転し、最後に一回大きくステップの音を会場中に響かせる。数秒の静寂の後、進行役の男性がアナウンスをすると同時に会場中から万雷の拍手が響く。終わってしまったことにちょっとだけさみしさを感じつつも、恵里もハジメ達と一緒に拍手する。

 

 ――鈴は、恵里と一緒にいたい。これからもずっと一緒がいい。今度こそ、本当の親友になりたい。

 

 ――私は、恵里と親友で良かった! たとえ偽りでも、歪でも、楽しかった! 私はっ。

 

「……見たかったな、鈴と」

 

 ……ずっと手を伸ばしてくれた親友の言葉が、何度も何度も脳裏にフラッシュバックしたまま。けれどもふと漏らしたつぶやきに、一筋の涙を流してしまったこともわからないままで。

 

「っ!?……どうしたの二人とも? ボク、何かしたっけ」

 

 いきなり両脇から来た衝撃に驚いた恵里が振り向けば、ハジメと鈴が泣きそうな顔をして自分を抱きしめているのに気づく。しかし理由に思い至らなかった恵里はしばし困惑したままハジメ達を見つめ返すしか出来なかった……。

 

 

 

 

 

「ふぅ~。やっと一息吐けるねぇ~」

 

 水族館のショーを見終えた後、喫茶店で一息吐いてから恵里達は一足先に宿屋へと向かった。自分達の商会が融資した金持ち向けの場所であり、部屋へと案内されると恵里は備え付けのベッドに仰向けに倒れ込む。

 

「もう。お行儀が悪いよ」

 

「いいじゃん別にさぁ~」

 

 ハジメが注意してきたが彼の顔を見れば苦笑しながらであったし、トーンからして軽くたしなめようとした程度でしかないと恵里は見抜く。ほんのり唇をとがらせて気の抜けた声で反論すると同時にベッドが少し揺れ、顔を横に向ければ鈴が隣に腰掛けていた。

 

「まぁ今日は色んなところ歩いたしね。ハジメくんだって近藤君のアドバイスとかで疲れたんじゃない?」

 

「ちょっとは役に立ててるといいんだけどね。まぁ久しぶりに色々考えたし、その分は疲れちゃったかな」

 

 鈴の問いかけに答えながらハジメもベッドの方へとやって来ると、恵里を鈴と挟み込む形でそっと座る。自分を見下ろしてきたハジメと顔を合わせ、互いにクスッと笑った。

 

「どうせ色々詳しくアドバイスしたんでしょ? もしそれを活かせなかったらぁ~……近藤君のおかず減らそっか」

 

 当の礼一や愛子達はまだ町をぶらぶらする気らしく、カフェで一旦分かれることになった。別れ際に見た妙に息巻いている礼一とどこか呆れた様子で彼を見つめるティオの横顔を思い出しつつ、恵里は軽口を叩く。

 

「駄目だよ恵里。礼一君だって成功する……するかも、しれないんだから」

 

「恵里、ちょっとやり過ぎじゃない? ハジメくんと違って近藤君そんなに女の人に慣れてないみたいだから」

 

 ハジメは軽く顔をしかめながら恵里を叱り礼一のフォローをしようとする。だが一瞬彼の目が泳いだのを恵里は見逃さなかった。そのことをツッコもうとした時、隣の鈴からたしなめられてしまう。

 

「ちょっとしたジョークだよジョーク。そんなに目くじら立てないでってばぁ~」

 

「鈴、言い過ぎ。それと恵里も。言っていいことと悪いことがあるでしょ」

 

「そういうハジメくんだってさっき断言出来なかったでしょぉ~?」

 

「いや、その……礼一君、ごめんね」

 

 とはいえ礼一がエスコート出来ないだろうという見解は一致していたため、恵里は軽く肩をすくめるだけに留める。単なる冗談だと述べればハジメから鈴と一緒に叱られてしまう。だが即座に恵里はハジメにツッコミを入れれば、向こうもうろたえた後で礼一にわびていた。

 

「――それでさ恵里。聞きたいことがあるんだけど」

 

「……なんのこと?」

 

 そうして恵里達はしばし雑談を楽しんでいたが、不意に鈴が真剣な声色で問いかけてくる。恵里も一度うつむいてから鈴の方に向き直れば、どこか苦しげな表情で恵里を見つめていた。

 

「今日三人で一緒にフューレンを楽しんでたけどさ、恵里はたまに上の空になってたよね。どうして?」

 

「別に。何でも無いけど」

 

「恵里、嘘だけはやめて」

 

 いきなり鈴が核心を突いてきたため、恵里は一瞬目をそらしながらもそれに答える。すると後ろにいたハジメに切なげな声で懇願されたせいで恵里の心は罪悪感でしめつけられてしまう。そのせいでもう鈴の顔を見れなくなってしまい、恵里はただうつむくしか出来なくなってしまった。

 

「水族館で言ってたよね。鈴と見たかった、って……あっちの世界の私と、だよね?」

 

「う、そ……ハジメ、くんも?」

 

「……ごめん」

 

 その後鈴に肩を掴まれ、覚えの無い言葉を言われると共に恵里は大きく目を見開く。いつの間にそんなことを漏らしてしまったのかと息がかすかに荒くなる。ハジメの方も見やれば沈痛な面持ちで頭を下げてきた。

 

「なんで聞いちゃうかな……なんで言っちゃったかなぁ……」

 

 押さえつけられないほどにその思いが膨らんでしまったことにようやく恵里は気づいた。そして瞳をうるませながら顔を上げ、恵里は苦しげに見つめる二人の顔を見ながらつぶやく。

 

本当に大切な、絶対に捨てられないと思える二人だからこそこの思いは知られたくなかった。ハジメと鈴そして間抜けな自分を恨みながら、恵里は声を震わせて言葉を紡ぐ。

 

「……本当にごめん。恵里」

 

「辛いのも苦しいのもわかるよ。でも」

 

「わかってるよ……どう考えたって、ボクの方が悪いんだから」

 

 ハジメは心底申し訳なさげに頭を下げ、鈴も苦しみを堪えた様子で恵里をじっと見つめている。二人なりに自分を案じているのがわかり、恵里も首を横に振って自分が悪いのだと伝えた。

 

「恵里、でも……」

 

「ありがと、鈴……鈴の言う通りだよ。遊んでる時にさ、何度も元の世界の鈴のことがよぎっちゃって」

 

 なおも謝ろうとしていた様子のハジメに鈴が手を突き出し、細かく首を横に振った。ハジメを制止してくれた鈴に感謝を述べつつ、恵里は大切な二人に懺悔していく。

 

「うん」

 

「ハジメくんと鈴と一緒に楽しんでると、何度も鈴の声がよみがえてくるんだ」

 

「そっか」

 

「思い出す度に辛くて、苦しくて。()の手を取ればって、天之河君のことなんて放って友達として過ごせたらって思って」

 

 二人の相づちを受けつつ恵里はぽつりぽつりと胸の内を語る。その都度あふれる涙をこらえ切れず、うつむきながらシーツにシミを作り続けた。

 

「ボク、ハジメくんも鈴も、あっちの鈴も裏切り続けてる気がして」

 

「ううん、違うよ」

 

「二人にも、()にも嫌われたかもしれないって今思って……それが、こわくて」

 

 それでも恵里は思いを口にするのを止められなかった。こんな自分を受け止めてくれたハジメと鈴の優しさを踏みにじってる。多くの人間を殺して利用して傷つけてもなお手を伸ばしてくれた向こうの鈴すらも裏切り続けてしまってるのだと。その後悔をひたすら吐き出し続けた。

 

「それで私とハジメくんが、向こうの私が許せないって思うの?」

 

「だったら僕達を、きっと向こうの谷口さんも低く見過ぎてるよ。それだったら僕も怒るよ」

 

「うん。私とハジメくんがさ、それぐらいで恵里のこと嫌いになる訳ないでしょ」

 

 だが二人はかすかに声を震わせながらもそれを否定してきた。そのため恵里は思わず言葉を詰まらせ、しどろもどろになって二人を見やる。するとハジメも鈴も笑顔であったものの、口の端が震えて引きつっているのに恵里は気づく。

 

「ハジメくん、鈴……やっぱり、無理して」

 

「違う、よ。恵里のことをわかったつもりになってた自分が嫌いに、恵里に申し訳ないって思っただけ」

 

「私もだよ。そう簡単に割り切れるんだったらさ、私と友達になるのあきらめてたでしょ? そのことをわかってなかった、って今気づいたから」

 

 二人がどこまでも自分を大切に考えてくれることに恵里は嬉しくなるも、一層胸がしめつけられる思いに駆られる。ならば元いた世界の鈴のことはあきらめて、この世界の皆のことだけを考えるようにしよう。断腸の思いで過去を忘れようとした時、恵里の耳にある提案が入ってきた。

 

「だからさ、行こうよ。恵里のいた世界に」

 

「……えっ」

 

「恵里だってこの世界にやってこれたんでしょ? だったらさ、ミレディが言ってた概念魔法であっちの私に会いに行こうよ」

 

 それは紛れもなく悪魔のささやきであった。確かに自分はこの世界へと流れ着いた。それも概念魔法もなしに、だ。ならばトータスから地球に渡ることすら可能にする力なら?――そう考えた途端、恵里は『帰りたい』という願いが一気に膨れ上がったのを痛感する。

 

「行きたい……でも、いいの?」

 

「うん。好きになった女の子のお願いぐらいさ、叶えたいよ。僕だって男だから」

 

「私だって恵里の味方だよ? 私と一緒にいてくれたこと、感謝してる。だから、だから……」

 

「はじめくん、すずぅ……」

 

 無理に微笑みながらも言葉をかけてくるハジメを、鼻をグスグス言わせながらも思いを伝えてきた鈴を見て、恵里はもう涙があふれるのを止められなかった。何度も目元をこすってから恵里はつぶやく。

 

「ごめんね……ふたりともごめんね……」

 

 湧き上がってくる感謝と嬉しさのままに二人を抱きしめたい。けれども二人を傷つけて、気を遣わせて、結果的に利用してしまったことへの罪悪感がそれをためらわせた。何度か空を切った手を下ろしながら、恵里はただ二人に謝り続ける。

 

「いいよ、いいんだよ……」

 

「叶えよう、絶対。会いに行こうよ」

 

「うっ、うぅ、うぇぇ……」

 

 だけれども二人は恵里の手をそっと手に取り、前から抱きつきながら言葉をかけてくる。何度となくかけられる赦しの言葉と激励に恵里は しばしすすり泣くばかりであった。

 

 

 

 

 

「……ありがとハジメくん。鈴も」

 

 しばし泣いた後、恵里はハジメと鈴の背に手を回して三人してベッドに倒れ込んだ。そうして抱きしめ合ってから二人へと感謝を口にする。

 

「二人がさ、いてくれて本当に良かった。ボクだけじゃきっと」

 

「ううん。お互い様でしょ。ね?」

 

「うん。僕だって恵里と鈴がいなきゃここにいないよ」

 

 目元が赤く腫れ上がったハジメと鈴に再度感謝の言葉を伝えれば、鈴もハジメも静かに首を横に振って返してくる。鈴がハジメを一瞥しながら問いかけ、ハジメもそれにうなずく。

 

 背中に回されたハジメの腕の力がちょっとだけ強くなり、それだけ自分を求めていることに恵里は嬉しさを感じる。そして二人がいなかったらあの時心が砕け散ってたままだろうと改めて思った。

 

「うん。嬉しい……あのさ、二人とも」

 

「「どうしたの恵里?」」

 

「元の世界に戻るの……鈴のことはさ、少しだけ考えさせて」

 

 声をかければ二人の存在が微笑みながら問いかけてくる。そのことにまた嬉しさを覚えつつも、恵里はうつむきながら二人の提案に待ったをかけた。

 

「……そっか」

 

「ありがと、鈴」

 

「いいの本当に?」

 

「うん」

 

 口の端をきゅっと噛みしめながら恵里は二人の答えを待つ。すぐに短く返してきた鈴に礼を述べ、また問いかけてきたハジメに恵里はうつむいたままうなずいて返事をする。そして恵里は顔を下に向けたままその理由を語った。

 

「迷うかもしれないから。きっと」

 

 ミレディの話が本当ならば、概念魔法の力で自分の元いた世界の特定と移動などやれるだろうと恵里も考えている。だがもし元の世界を探し当て、あちらの鈴の顔を見てしまったらきっと迷うだろうとも確信していた――どちらの世界へ()()べきなのかということに。

 

「僕達と谷口さんで、だから?」

 

「……こんな時まですぐに察しないでよ」

 

「嫌でも気づいちゃうよ……でも、それなら仕方ないよ」

 

「ごめん」

 

 即座に察してきたハジメに恵里は何秒かじっとりとした視線を送る。また軽く呆れた様子でつぶやき、理解を示してきた鈴に恵里は苦笑しつつも短く謝罪して返す。

 

「だからこの話は概念魔法を覚えてから、ってことで。それからでも遅くないでしょ」

 

 そして改めて先延ばしの意思をハジメと鈴に伝えれば、自分の背に回った二人の腕の力がまた強まる。そのことに恵里は愛しさや嬉しさよりも二人への申し訳なさが再燃するのを感じとっていた。

 

「先に言っておくよ。どんな答えでも僕達は受け入れる……それとさ、絶対離れないよ」

 

「えっ」

 

「うん。恵里がどっちを選んでも私も受け止めるから」

 

 その後二人が真剣なまなざしで自分について行くと訴えてきたことに恵里は思わず息が詰まってしまう。家族を捨ててでも自分と一緒になると言ってきたのでは、と考えてしまったからだ。

 

「あ、それとハジメくん。もし概念魔法で移動できるようになったらさ、向こうの世界に行く前に私の家に寄ってよ。お父さんとお母さんに話、しないと」

 

「そうだね。父さんと母さんにもちゃんと伝えないと」

 

 その予想は真剣な表情のままやりとりをする二人の姿で確信へと変わる。二人にとっても家族は大事な存在だし、恵里にとっても捨てがたい存在であった。そんな大事な人達を、自分の選択次第では二人が()()()()()()ことに恵里は気づいてしまう。

 

「……それでさ、恵里はどうするの?」

 

(そんな……ボクのせいで、ハジメくんと鈴が家族を捨てるの?)

 

 自分を何よりも優先してくれることを嬉しくは思う。けれど自分がどちらの世界を選ぶかで、二人には今自分が抱えている苦しみを背負わせてしまうかもしれないのだ。

 

「恵里? ねぇ恵里。恵里っ」

 

(お父さんとお母さんもだ……ボクは、どうすればいいの?)

 

 二人の両親だけではない。()の自分の両親もまた置き去りにしてしまうかもしれない。そのショックでハジメと鈴の話も恵里の頭には残らない。過去と今、どちらを選ぶべきなのかという絶望的な問いの答えに結論が出せないまま、恵里はただ呆然とするしかなかったのであった……。




2025/9/2 ちょっと修正しました。
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