……間違って最新話に投稿してたんでやり直しましたorz
「そんな……」
「南雲君は……違う世界の、南雲君なの?」
「流石に断言は出来ないけれどね。けど、最初に出たのが向こうの僕で、次に出たのが白崎さんだったから。これが順序が逆だったら同じ世界から来たとだけ思ってたよ……」
呆然とする二人に対し、ハジメもショックを隠し切れないながらもどうして別々の世界から来たと考えたかについての理由を述べる。
これがベヒモスとの戦いが終わった直後の白崎から来て、その後にベヒモス戦から幾らか時間が経過しているはずの南雲が現れたのなら理解は出来たのだ。なにせ時の流れに
だが、実際は違う。時間を遡るようにして二人が現れた以上、ただ空間に干渉するだけの空間魔法にそんなことが出来るとは思えなかったのだ。
「まぁハジメくんが語ってくれた方のケースならタイムパラドックスを考えなくて都合がいいよ。だって二人が元の世界に戻った時にさ、そっちの香織が何かしたらそっちの南雲君が消えちゃうかもしれないからね」
「「あっ」」
恵里の指摘に南雲と白崎はハッとする。確かにその通りであった。
もし仮に同じ並行世界から時間を遡って現れたのだとしたら、行動一つで南雲の存在が消えてしまうことになりかねない。はるか奈落の底に落ちた以上、白崎がちょっと何かをした程度で彼の存在が消えるということは無いだろう。だがもし、南雲が腕を失う前に助けてしまったりしたら彼の存在は消える。それはとても恐ろしいと感じたし、そうであってほしくないと二人は思った。
「まぁ二人が同じ世界出身なのか違う世界から来たのかを証明するのはまず不可能だろうな。差がほとんどない世界から来た可能性もあるからな」
とはいえ幸利が述べたようにそれを立証することは出来ないと一番友人になって日が浅い大介達四人以外の地球出身の皆は思っていた。並行世界である以上何かしらが違うせいで分岐しているのは間違いない。だがその条件が「ある人物がある日石ころを蹴ったかどうか」程度の可能性だってある。そうなると同じか違うかを証明するのは難しいと考えたからだ。
なおアレーティアとリリアーナは幸利の言い分をなんとなく理解していたものの、ヘリーナとメルド、フリードそして大介達は話についていけず遥か遠くを見るような目つきであったりする。
「幸利ぃ~、二人を絶望させるようなこと言うのやめようよ~。もしかすると二人とも同じ世界にいたかもしれないんだからさ。ね?」
「……悪い。ちょっと無神経だった」
「う、ううん……そっか。私達、まだ本当に違う世界の人間かわからないもんね。じゃあ、私の世界のことを言ってみる! 南雲君もそっちの世界のことについて話して!」
「う、うん。わかった」
そうしてお互いの知っている流行したものやアニメに漫画、そして学校の様子やクラスメイトについて二人は語っていく。やはり挙がったものはどちらも同じものばかりであり、世界が違うかどうかを断定できるかは中々難しそうであった。
「えっと、他に転移してないクラスメイトの人は小寺君と緒上さん。その二人の名前に聞き覚えはあるかな?」
「……うーん。ない、と思う。でも体育以外の授業中はよく寝てたし、他人と関わることは白崎さん以外でまず無かったから」
が、ここでそれらしい可能性は見えてきた。トータスの転移に巻き込まれなかったクラスメイトの名前を挙げていった際、ようやく南雲も聞き覚えのない人物の名前が出てきたのだ。そこで白崎が当の二人の見た目や性格などについて語り、反対に南雲も彼の覚えている範囲でクラスメイトについて色々と話していく。
「他に僕が覚えているのは……
「……ごめんね、南雲君。私、その人を知らない」
そして南雲が挙げた人物の名前に白崎が申し訳なさそうに返したことでようやく証明が出来た。出来てしまった。
トータスに来て二週間ほど時間が経過した程度ではクラスメイトを忘れるほど白崎は薄情ではなかったし、無関心でもなかった。忘れるほどキツい訓練を課された訳でもなかったからなおさらだ。つまり二人は、別の並行世界からやって来た同士だということが判明したのである。
「確定だね」
「とりあえずタイムパラドックスに関しては考えなくてもいいということはわかりました。けれども――」
「うん。そうでなくっても早めに戻った方がいいよね」
恵里や龍太郎、大介達が首を縦に振り、ハジメもまた結論が出たことに軽く安堵する。だが口をはさんできた鈴と同様に時間の経過を危惧していた。
「そうか。確かに二人ともここに来てからそれなりに時間が経過してる」
「えぇ。南雲君はともかく、白崎さんは早く戻らないとまずいんじゃないかしら」
光輝と雫が補足したことで全員が危機感を覚えた。南雲の場合は彼が語った経緯を考えれば爪熊と思しき魔物から逃げて壁の中にいたのだ。腕の断面が塞がっていることからして神結晶からあふれる神水を摂取したのは間違いないだろうし、多少時間が経過しようがその量が多くなってることぐらいしか懸念する要素は無いだろう。だが白崎は別だ。
「白崎がこっちに来てもう数十分は経っちまってる。下手したらもうオルクス大迷宮にいる奴らもいなくなってる可能性が高い」
「まだ残ってくれてるかもしれないけれど、それも時間が経てば経つほど絶望的になっていくな」
幸利と浩介の補足に南雲も白崎も顔を青ざめさせる。このままでは、いやもしかすると既にもうクラスメイトも騎士団も撤退しているかもしれない。そうなれば白崎が無事に帰れる可能性はゼロとなるだろう。
「いや、もう既にいないと見た方がいいかもしれん。わし達の時よりもそちらの戦力はまだ多いかもしれんが士気は最低に近いだろう。そんな状況で長居をするとは到底思えん」
「えぇ。いくら戦う力があると言っても引け腰の人間ではやれることには限りがあります。それに一度くじけた心を立ち直らせるのも難しいでしょうし」
更に鷲三と霧乃が現実的な状況を述べたことで二人の顔に絶望が浮かぶ。もう戻る意味もないかもしれない。何の意味も無く死ぬかもしれない。だがそんな時、鷲三はハジメの方を振り向き、あることを提案する。
「ハジメ君、それに恵里さん。
「おみやげ、って……そんな、修学旅行じゃないんですよ!!」
その場違いとしか思えない提案に南雲は思わずキレたものの、恵里とハジメ、そして二人の仲間達は鷲三の言わんとしていることがわかったためポンと手を打った。確かにそれならどうにかなる、と。
「わかりました。だったらある程度数と強さを兼ね備えたものが必要ですね」
「流石に魂込めるのも魔力を食うからねぇ~。誰か、魔晶石に魔力込めといて」
「オッケー。んじゃ俺と良樹の魔力持ってけ」
「勝手に巻き込むんじゃねぇよ。まぁ、別にいいけどな」
「鈴は俺と一緒に宝物庫を作ろう。ハジメにゴーレム作りは任せて、俺達で格納する道具を用意するんだ」
「わかったよ光輝君」
そうしてすぐに皆で段取りを組んでいく。戻った際にまだ残ってくれている可能性はあれど、それでもあまりに低い確率に誰もベットする気はさらさらない。白崎が確実に生き残れる未来のために力を尽くすことを彼らは惜しまなかった。
「何を……皆さん何を言って――」
「信じて。私達を信じて。南雲さん。白崎さん」
その余裕がどこから来るかわからずにやや苛立ちを伴いながら問いかければ、アレーティアが彼らに向けて穏やかに微笑んだ。深く、優しい微笑に思わず南雲も白崎もみとれてしまい、しばし意識を持っていかれた間に恵里達はお土産造りに取り掛かっていた。
「形は何がいいかな? 猿とかゴリラだと色々手伝いも出来ると思うけど」
「いや可愛い方がいいよハジメっち。だって白崎さん女の子だよ?」
「いや奈々、そこはどうでもいいだろ。実用性考えろよ……」
「でも幸利ぃ~。使うのは私達じゃなくて向こうの香織だよぉ~? やっぱり見た目はこだわろうよぉ~」
「多分向こうの私なら南雲君助けに行くよね。だったら崖を登ったり降ったり出来る動物、それと向こうの私が乗れて可愛いのにしようよ!」
「そうなると山羊だよね。崖とかにしれっといたりするし」
「お前ら……まぁ登り降りを考えれば山羊はいい着眼点だ。ハジメのことだから無駄に見た目はこだわるだろうし、またいで乗るならある程度スラっとした体躯がいいな。やはり山羊か」
「見た目はいいけれど、向こうの南雲まで白崎を迎えに行きたいって言ったらどうする気? やっぱり南雲の方も造った方がいいでしょ」
「あ、そっか。確かに盲点だったね。じゃあ彼の分も造ろう」
「待った、ハジメくん。ちょっと話があるんだけど――」
「うわ、恵里っちぃ……ねぇ鈴っち、止めようよ」
「うーん、こればっかりは鈴も恵里に賛成かな。
「そういや先生、どこにレールガン搭載すんだ? やっぱ首の辺りか?」
「普通に腹の下からニョキって生やすんじゃねぇの? 先生どうすんだ?」
「いや口から出すとか面白くねぇ?」
「頭はライトを搭載したいところだしごめん、却下で。搭載するのはお腹の中で、礼一君が言った通り首周りを展開する形かな」
「ゴーレム以外なら白崎用に“錬成”が使えるガントレットも欲しいよな。でも俺達みたいに“魔力操作”が使えないから……」
「二層構造だな。ハジメと光輝は手が空いてないし、幸利頼む」
「オーケー、わかった」
アレーティアに説得された南雲と白崎はその場でただじっと彼らの話し合いを見ていた。事実、議論はすれど彼らは仲違いもすることなく話を進めていき、話し合いを終えた途端にすぐに作業にかかった。
「――ぁっ」
いきなり現れた幾つもの金属の塊が紅の光と共に無数のパーツに変わり、それぞれが生成魔法の効果を付与する光を受けては組み合わさっていく。そして全てのパーツが組み合わさって六体の山羊の姿になると、今度は恵里が魂魄魔法によって魂を次々と吹き込んでいく。
どこか幻想的な光景をさも当然のように行う彼らに南雲と白崎はポカンと呆けてしまっていた。
「――ふぅ。誰か、魔晶石ちょうだい……あと一体だけだから」
「オッケ。そらっ中村」
「ありがと、斎藤君――よし」
「……なんか、あのゴーレム? 生まれたばかりの動物みたいにフラフラだね」
「赤ちゃんなのかな。きっとそうだからかも」
良樹から投げ渡された腕輪タイプの魔晶石を使って魔力を補充し、最後の一体にも魂を入れる。先に動き出した五体と同様に金属製の山羊はその場で足をつき、フラフラとした足取りでなんとか立ち上がろうとしている。生き物でもゴーレムでも生まれたては変わらないんだなとぼんやりと二人は現実逃避気味に思っていた。
「なぁ鈴、こっちも勢いで作っちゃったけどこれモンスターボー……」
「しーっ! 使いやすくてわかりやすい方がいいんだし光輝君は黙ってて!」
そしてゴーレムを格納するための宝物庫を六個仕上げた光輝と鈴であったが、どこかで見たことのあるようなデザインのものに仕上がってしまっていた。これには地球出身の皆が思わず苦笑いを浮かべ、南雲と白崎も軽く引きつった笑みを浮かべて例の物体をながめていた。
「ガントレットの方も完成したぜ。作動するかどうかチェックするぞ」
「オーケー。“錬成”」
「「えっ」」
「よし、なんとかなったな。でも“錬成”使えないのによく付与出来たな、幸利」
「“錬成”のルーツが生成魔法だってわかったからだ。実際付与したのは錬成モドキだし。ま、流石に本職のハジメには及ばねぇだろうが、それでもこれぐらいなら十分だろ」
そして先程どうこう言っていたガントレットの方も完成しており、それを身に着けた浩介が床に手を置いて“錬成”を発動する。まさか彼も錬成師なのか!? と南雲も白崎も驚きを露わにし、その上訳の分からない言葉のオンパレードで『みんなしゅごい』と思考停止するばかりであった。
「二人分の普通の宝物庫も完成しました」
「ゴーレムも普通に動けるようになりましたし、後は持ち主の登録をするだけですね」
「よし、実質全部完成だな――南雲、白崎。こっちに来い」
光輝とリリアーナが報告を上げ、もう大丈夫だと判断したメルドに二人は手招きされる。もうなるようになれと考えることを放棄した二人はそれに従い、六体の金属の山羊の前まで歩いていった。
「じゃあ最後に使用者と味方の登録だね」
「この指輪に込められた魔法を使えば指示が出せるようになるからね。流石に誰彼構わず命令聞いたら使えないし――“
手渡された指輪を受け取ると、すぐに恵里が二人の手を握りながら順番に魔法を発動していく。対象の魂を指輪に認識させ、持ち主以外に反応しないようにするためのものだ。ぶっつけ本番ではあったが上手くいった様子であり、紅の光が収まるとすぐに南雲と白崎に声をかけた。
「じゃあこの指輪に魔力を通して。そうすればゴーレムも動くから」
「え、えーっと……こ、“こっち来て”」
「えっと、山羊さーん。“こっちに来てくださーい”」
おそるおそる二人も魔力を通しながら指示を出せば、三体ずつ山羊型のゴーレムが二人のところへとゆっくり歩いてくる。問題なく起動したことに開発した恵里達はガッツポーズをして手ごたえを感じていた。
「このゴーレムを使ってどうするかは二人に任せるよ。ただ、搭載された兵器は弾数に限りがあるし、ゴーレムを造ったことはあるけれど戦いに運用したことは一切ないからどれだけ強いかは流石にわからない。けれど、下手な魔物よりはきっと強いと思う」
「ま、あくまでちょっとした障害物を払う程度だって考えて。奈落の底じゃこの子達が持ってるレールガンにしたってどこまで通用するかはわからないから。せいぜいちょっと強めのボディーガード程度」
中々物騒な言葉が出てきたことに驚きはするも、ハジメと恵里の言葉からして使い捨てが前提のちょっとした道具でしかないということは二人も理解した。出来ればちゃんとどれだけ使えるかが分かった上で渡してほしかったと思わなくはなかったものの、ハジメの悔しそうな顔からそれを検証する間もなかったということを南雲と白崎は理解して吞み込んだ。
「南雲様、白崎様。お待たせ、しました……っ」
「ありがとうヘリーナ。こちらの皆さんからの頼みでご用意した城の調理場で使われる調味料です」
「詰め込めるだけ、詰め込みました……どうぞ、お受け取り下さい」
その直後、いつの間にやら軽く汗をかき、軽く息を切らしながらこちらへと来たヘリーナから指輪を渡される。
渡してきた指輪は『調味料』と掘り込まれているだけのシンプルなデザインのものであり、軽く圧倒されながらも南雲と白崎は受け取った。その際使い方についても簡単に説明され、実際に中の調味料の出し入れをしてみて二人は大いに驚く。
「そんなに必要かな、調味料って」
「うん。別にいっぱいにする必要ないと思うんだけど」
……が、ここで二人はとんだ失言をしてしまう。あれば嬉しいのは間違いないとしてもどうしてわざわざこれのためだけに便利なアイテムを埋め尽くす程入れたのか。そうした理由がわからずにつぶやいた途端、ジトッとしたおどろおどろしい空気が漂っていく。
「必要だよ」
「ひっ!?」
「必要ない? 何言ってるのかな? かな?」
「あ、あわわ……」
ゆらりと幽鬼どもが南雲と白崎に視線を向ける。虚な眼窩が二人を捉える。呪詛に近い言葉が口から漏れる。ことここに至って二人は理解した。絶対に言ってはならないことを言った。触れてはならないものに触れてしまったという事に。
「俺らが何回似たような味に苦しんだと思ってんだ? あ?」
「ハジメや恵里や園部達が苦労してくれたけどなぁ、それでも限界ってもんがあったんだよ」
「アンタ達にはわかんないわ……現代っ子がどれだけ食に恵まれてるかどうか、ってのが。あと中野、斎藤。アンタ達後で潰す」
「「ヒッ」」
「甘い果物がね、スイカみたいな味の果物が出てきただけでどれだけ嬉しかったか。タガが外れて暴れ回ったことがないからそんなことが言えるんだよ」
「あ、あの、ご、ごめんなさ……」
「わからないでしょうね……肉。肉。毎日肉。たまに鮫。かまぼこ。これに塩をつけただけとか燻したものばっかりで甘いのも酸っぱいのも辛いのも満足に味わえなかったのよ」
「す、すいません……ど、土下座するから許して……」
『食事/飯を甘く見る奴は絶対に許すかぁー!!』
「「謝ります! 何度だって謝りますから許してぇー!!!」」
そうして本気でキレにキレ倒した恵里達に、南雲と白崎は本気で泣いて謝る羽目に遭うのであった……。
なおその様子を見てアレーティアは終始苦笑いを浮かべ、リリアーナとヘリーナは口元を引きつらせていた。またフリードは恵里達の苦悩をなんとなく感じ取りながらも半分冷めた目で見ており、南雲達に同情していた。
「後は鈴が魔法を使うだけ――最後に何か言いたいことがあるなら言っておいた方がいいよ」
そして南雲と白崎が謝り倒して恵里達の機嫌をどうにかした後、二人が軽く
そう、ここでお別れなのだ。きっともう会えない。元々別の世界の人間なのだから余程の偶然か何かが無い限りはこの出会いはこれっきりとなる。その上自分のいる場所は左腕を砕き、また切り裂いて喰らった魔物がいたところだ。
(戻らなきゃ、いけないのかな)
いくらお土産を持たされているとはいえ、そんな魔境に戻ることを思うと南雲は躊躇してしまっていた。
「僕、は……」
「ねぇ、南雲君」
そんな時、ふと隣にいた白崎が振り向いて声をかけて来た。どうしたんだろうとやや緊張した面持ちで彼女を見れば、ほのかに頬を染めながら白崎はあることを問いかけてきた。
「南雲君、あのね。オルクス大迷宮に入る前の日にそっちの世界の私が南雲君の部屋を訪れてたりしなかったかな」
「は、はい……来た、けど」
その答えを聞いて微笑んだ白崎は彼の体を抱きしめ、彼の目を見つめながら更に問いを投げかける。
「良かった……だったらきっと私が南雲君のことをどうして尊敬してるかも知ってるよね?」
「う、うん……し、白崎さん、その……」
「そっか。じゃあ待ってると思うよ。向こうの私も」
急に体を密着させてきた白崎にドギマギしていた南雲もその言葉ですぐにハッとした。そうであった。自分を尊敬していると言ってくれた彼女はまだ王国にいる。自分が奈落の底へと落ちた時にも悲痛そうな表情で見ていた。
(僕は、彼女を置いていくの?)
そう思ってしまった時、南雲の心がきしんだ。嫌だ。あの約束を無かったことにしたくない。砕け散ったはずの心が痛んだのだ。
「南雲君、お願い。向こうの私をひとりにしないで」
白崎の言葉に心臓が強く拍動する。そんなのは嫌だ。彼女を一人にしたくない。思いが少しずつ恐怖を押し出していく。体に熱が灯っていく。そんな時、ふと彼の額に温かな感触が一瞬よぎる。
「きっと、向こうの私も南雲君……ううん、ハジメ君のことを思ってるよ」
瞳を潤ませて、頬を赤く染めて。口から思いがあふれてしまいそうになるのを必死に堪えながら彼に伝える。
「尊敬なんかじゃない。憧れなんかじゃない。もっと、もっと強い、大切な思いを。きっと」
その瞬間、南雲の中で疑問が氷解した。どうしてあんな恐ろしい場所に戻りたいと願ったか。どうしてあの場所を切り抜けたいと思ったか。
(僕は、白崎さん……ううん、香織さんが――)
(私はやっぱり、ハジメ君のことが――)
好きだ。好きだったんだと。あまりに簡単で、何よりも大切な答えをずっと持っていたからだ。
(武術を修めている訳でもないし、スポーツや勉強が誰よりもすごい訳でもない。けれど香織さんは、香織さんはこんな僕のことをすごい人だって言ってくれた)
異世界に来る前だろうが来た後だろうが、何の取り柄もなかった自分のことを凄く強くて優しい人だと言ってくれた。守ると言ってくれた。自分に戦う意志を与えてくれた。
(あのお婆さんを助けた時も、ベヒモスに立ち向かった時もそうだった。怖くて仕方なくって、私だけじゃどうにもならない相手を前に果敢に立ち向かった。そんな彼がいなくなったと思って頭がおかしくなりそうだった)
中学生の時はただ傍観するだけだった。ベヒモスとの戦いは光輝達と共に立ち向かってもどうにもならず、結局南雲に任せるだけでしかも彼を助けられなかった。それ故に彼が目の前からいなくなってしまう様を見て狂乱してしまった。
ようやく二人は気づいたのだ。目の前の相手が好きで仕方なかったのだと。違う世界の相手を前にしたことで自分はこの人が好きだったんだとやっとわかったのだ。
「――さっきのは噓偽りない私の気持ちだよ。でも……」
「うん……言葉に、しちゃいけないよね」
けれどもその思いを口には出来ない。それは元居た世界の好きな人への裏切りだから。ここで別れることがあまりにも惜しくなってしまうから。だからその思いにふたをする。
「向こうの私に、よろしくね」
「向こうの僕を、お願いします」
ただ短くそう伝える。それだけで十分だった。もう一度戦いに身を投じるために。待っていてくれている人を迎えに行くために。
「あ、話がついたみたいだね」
互いに決意を固めて振り向くと恵里がホクホク顔で、ハジメや多くの面々が頭を抱えた様子で二人を待っていた。一体何事かと思って二人は恵里を見ると、さも傷ついたかのようにわざとらしく唇をとがらせながら向かってきた。
「ヒドくな~い? ちょっと二人に頼みたいことがあっただけなのにさぁ~」
「……本当に、そうなんですよね?」
「本当なの、恵里ちゃん……」
「本当だよ本当。あのね――」
そう言って手招きする恵里に怪しみながらも南雲と白崎は近づいていく。そして彼女から
「……お願い。もし
真剣な様子で頼み込む恵里に南雲も白崎も何も言えなくなる。本気だったからだ。例え世界が違えど大切な友人だと思っていた彼女の心を守りたい。その一心で頭を下げてきた恵里を見て二人もゆっくりとだが首を縦に振る。
「……わかりました。こうして便利な道具をいただいたんですし、本当にそうか確認してからやらせてもらいます。それでいいですか?」
「わかった、よ……絶対そんなことはないって思う。思いたい、けど……」
「そうだね。なら看破するための道具も用意した方がいっか。ハジメくん」
「……仕方ないなぁ。でもこれっきりだよ?」
だが南雲はしっかり確かめてから、白崎は友人への信頼と疑惑で揺れ動きながらだったが。そんな二人のために恵里はハジメにお願いをして更にもう一つずつアーティファクトを作ってもらう。そしてそれを十分に検証した後で二人に手渡せば、様々な覚書(金属製)の入れてある宝物庫に南雲と白崎はしまい込んだ。ゴーレムを格納するボール型の宝物庫もそちらに入っており、二人はもう元の世界に戻る準備は万全となった。
「じゃあ行くよ、二人とも――“界穿”っ!!」
「こっちは――香織! 早く!」
そして鈴が転移ゲートを作ると共に恵里が顔を軽く突っ込み、すぐに顔を出して白崎を手招きする。
「うん! ありがとうハジメ君! それと皆! 私、行ってくるよ!」
南雲に先に感謝を伝えてから恵里達に礼を述べると白崎はそのままゲートへ向かって走り、そのまま飛び込んでいった。遅れて一拍、ゲートを閉じると共に新たな異世界への道を鈴は開く。
「多分こっちが南雲君のほう! いつまで繋がってるかわからないから急いで!」
「はい!――皆さん、ありがとうございました!! もう閉じてください!」
こちらへと歩いてきていた南雲もゲートを通り、そのまま全身突っ込むとすぐにゲートを閉じるよう伝えてきた。鈴もそれに従い、“界穿”の発動を取りやめる――二人はいなくなった。新たに異世界からの来訪者が現れる様子も無く、遂にこの騒動が終わったのであると誰もが実感した。
「ハァ~……とりあえずどうにかなったと思うけど……」
「ま、後は向こう次第でしょ――大丈夫だよ。絶対二人が
「それが問題なんだってば……」
感慨深そうに消えた二人に思いを馳せる恵里に対し、他の面々は彼らの未来がとんでもないことになるであろう様を幻視して不安に襲われていた。
「……まぁ違う世界だ。魔人族の未来が明るいものであればそれでいい」
「色々と覚書も中に入れてましたけれどね……大丈夫でしょうか」
「信じるしかないでしょう。違う世界の彼らが最高の未来を勝ち取ると信じて」
フリードは違う世界の話だと割り切り、心配そうにしているリリアーナを励ます形でヘリーナは全員に声をかける。彼らの未来がブッ飛んだものにならないことを祈りつつ、ハジメ達は研究に戻るのであった……。
これで終わりではないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ(亀仙人感)
……いやすいません。いつものように書いてたら増えました(白目)
2024/10/28 ちょっと修正しました。