それと皆さまがちょくちょく見てくださるおかげでUAも3600まで到達しました。感謝に堪えません。まだトータスに行ってないんですけどね……頑張る。うん。
(あぁ、もう。どうしてこんなことに……)
ハジメと交友関係を持ってから十日余り。午後のホームルームが終わり、恵里は『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の面々と一緒に教室で先生にまた叱られている。事の発端は昼休み、光輝の取り巻きであった少女がいちゃもんをつけに来たことであった――アンタのせいで光輝くんがおかしくなった、と。
いきなりそんな事を言われて何それと首をかしげざるを得ず、近くにいた『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の子達もムッとした様子でその子を見ていた。
曰く、ハジメと交友関係を持った辺りから光輝から自信のある様子が見られなくなったらしく、何かにつれて妙に慎重になったらしい。聞いた当初は馬鹿馬鹿しいと一蹴したくなったが、いきなり謝ってきた光輝の様子と目の前の少女ががなり立ててる様子からしてどうも嘘には思えなかったのだ。
そうして言いよどんだ結果、自分そっちのけでその女の子と『見守り隊』がケンカを始めたのである。そこを運悪く先生が通りがかったのがまずかった。その場では軽く口頭で注意するだけにとどまったが、放課後に改めて説教することを伝えられ、こうしてありがたいお話を聞く羽目になったのである。
「恵里ちゃんごめんねー」
「恵里ちゃんは悪くないってせんせーに言ったのにさー。話聞かないよねー」
「いや、いいよ……はは」
「でもさー、恵里ちゃんはまきこまれただけじゃない。私たちのせいなんだよ?」
数十分に渡るとてもありがたいお説教の後、一緒にガミガミ叱られた子達から恵里は謝罪を受けていた。あまり気にしないでいいと何度も伝えるものの、誰も一歩も譲らない。だったら勝手にケンカなんかするなと言いたくなったが、それを口にして反感を買うつもりもない。いつものように我慢し、適当なところで切り上げて教室を出ようとした時であった。
「あ、中村さん。だいじょうぶ? なんか先生からおこられてたみたいだったけど」
その途端、心配そうな様子のハジメがこちらの様子で恵里を見てきたのである。
「あ、南雲くん。別に、大したことじゃないよ」
「でも中村さんのクラスの先生がほかのクラスの子がどうの、って言ってたの聞いちゃった。その子のことで何かあったんだよね?」
今日は特に間が悪い。それを痛感しつつ、恵里は説教の内容をハジメにわかりやすく教えてやる。別に無視してもいいのだが、それはハジメの不信感を買うことになるから出来ない。なら今心配しているのを同情に変えれやれと考えたのだ。光輝のストーキングやそれに対する謝罪、そして取り巻きの子があーだこーだ言ってきたことを伝え終えると、ハジメはちょっとムッとした表情で恵里の方を見つめてきた。
「中村さんはなにも悪くないのに……」
「南雲くんがそう思ってくれるだけでいいよ。帰ろ?」
何でもない風にハジメに言ってみるものの、当の本人はその場で突っ立ったままいかにも不満げな雰囲気である。自分の取り巻きと同様、とばっちりを食らったことが我慢ならないらしいようだ。
「なーぐーもーくーん! 帰ろー!……ええい、こうなったら」
それから何度も声をかけるものの、てこでも動かない様子のハジメを見て業を煮やした恵里は強硬手段に出る。ハジメの手を握り、そのまま引っ張っていったのだ。
「な、中村さん!? ちょ、ちょっと、は、はなして!」
流石にそれは面食らったらしく、りんごのような顔になったハジメは手を放すよう懇願してくるが恵里は聞く耳を持たない。そんなの知ったことかとばかりに玄関まで歩いていく。
「放したら何するかわからないからね。強引だけど、こうさせてもらったよ」
「わ、わかったから! もうなにもしないから! は、はずかしいよぉ!」
今にも湯気が出そうなぐらいに全身を真っ赤に染めたハジメが何度もお願いしてようやく恵里はその手を離した――この日はもとより、数日ほどハジメがマトモに受け答え出来なくなってしまい、恵里が頭を抱えたくなったのは言うまでもない。
(まったく。ボクの体は安くないし、何度も悩ませた分のツケはちゃんと返してもらうからね。お返しはエヒトのヤツをブチ殺せる兵器を最優先で支給してくれるんだったら許してやるよ)
なお、恵里は無駄にたくましかった。がめつさ全開で未来のハジメにたかる気満々である。単に開き直ったとも言う。
それから更に五日が経過。学校からの帰りでお邪魔した際にたまに出くわすハジメの両親や、ハジメの部屋で本を読んではその作品についてのトークをするようになったりと奇妙な時間の過ごし方にも少し慣れた頃にあることをハジメが提案してきた。
「え、私の家に行ってみたい?」
「うん。中村さんの家ってどういう感じなのかなー、って」
急にハジメが恵里の家に行ってみたいとお願いしてきたのだ。今までハジメの家にお邪魔してばかりだったし、こちらの家に興味を持つのは自然だろうとは恵里も考えた。だが、実際に招くとなるとこれには恵里も渋い顔を浮かべざるを得なかった。
「いつも南雲くんの家に行ってばっかりだし、申し訳ないとは思ってるんだけどさ……私の部屋って、南雲くんの部屋と違ってそんなに本もないし、ゲームもないからつまらないと思うんだけど」
要はハジメと遊んだり話をするためのツールがないから来たところで大して楽しむことがないのだ。一度ハジメに外で遊ぶことはあるかどうか尋ねてみたが、それよりも本を読んだりゲームしてるよと期待通りの答えが返ってきている。そのため公園で遊んで時間をつぶすということも出来ないため、このことには恵里も大いに頭を抱えた。
だから恵里は自分の家にハジメを呼ばず、これまでずっとあちらの家で遊んでいたのである。やってることが同年代のそれとは大きく異なることはともかくとして。こうして理由を話したものの、何故かハジメは引き下がろうとはしなかった。
「でも、一回くらい行ってみたいし、中村さんのお父さんとお母さんにも会ってみたいって思ったんだけど……ダメ?」
申し訳なさそうにつぶやくハジメを見て、恵里はあの両親の入れ知恵だろうと勘繰った。ちなみに大正解である。
中村夫妻に顔合わせをしておいた方がいいというのは愁と菫だけでなく、ハジメもまた恵里と過ごしている内に感じていた。彼女の両親がどういった人なのか、彼女はどういうところに住んでいるのかに興味を持ってしまったのだ。しかもそれを自分の両親に言ってしまい、これ幸いとばかりに二人に言いくるめられてしまったのが事の真相である。
流石にそこまでは恵里もわからなかったものの、流石に何度も一方的にお邪魔ばかりで大丈夫だろうかとは考えていた。それに正則と幸からも『たまには南雲君を家に呼んだらどうだ』とも言われているため、割と本気で恵里は悩んでいる。そこでハジメに確認することにした。
「南雲くんが来たいのはわかった。わかった、けど……本当に何もないからね? 南雲くんが暇になるだろうから家には呼ばないでおこうと思ってたんだけど」
そう言って念を押すと、ハジメが少し考える仕草をした。そして何かを思いついたらしく、表情を明るくして恵里に質問をぶつけてきた。
「うん、わかった。じゃあ僕のものを持ってくるのはいいんだよね?」
とんちを利かせてきたハジメに恵里もその手があったかと軽く呆れてしまう。狙い通り自分のことがどんどん好きになっているのはわかったのだが、そこまでして来たいのかと恵里は軽く頭を抱えたくなる心地であった。
(まぁ、そこまでして来たいのならなぁ……まぁ、いいか。ここで断ったら面倒だろうし、お父さんと
「わかった、いいよ。それじゃ何冊本を持ってくるの?」
「え、ゲーム機はダメ? プレス○とか」
諦めと呆れを可能な限り表情に出さないようにし、どれだけ本を持ってくるかを試しに聞いてみたら斜め上の回答がカッ飛んできて恵里は文字通り頭を抱えた。それを見て本気でハジメが慌てだしたが、だったらそういうことを言わないで欲しい。そんなことを思いつつ、恵里はハジメに言う。
「いや、あのさ……せめて持ってくるものぐらい考えてくれない? 予想外の答えを出されるボクの身にもなってよ」
「ご、ごめんね! もしよかったらいっしょにゲームしようかと思って……」
どうせだからとハジメとしては今回の訪問をきっかけに一緒にゲームをしてみたいと思ったのだが、残念ながら恵里はそれがわからなかったしそれを受け止めるほど心の余裕がない。それならせめてお前の家でやってくれ。まだやったこともないのに思い付きだけで言うな。心の中でそう吐き捨てつつ、恵里は半目でハジメを見つめるのであった。
ハジメの要望もあり、中村家訪問は今週の日曜日となった。そうして迎えた週末、ハジメは緊張した面持ちで中村家のインターホンを押す。少しするとパタパタとやや足早に駆け寄ってくる音が聞こえ、玄関から恵里の母である幸が顔を出した。
「あなたが南雲君ね。はじめまして、恵里のお母さんの幸よ。どうぞ上がって」
「お、おじゃまします……」
唾をのみ、おずおずと家の中に入ると、恵里と父の正則がハジメを出迎えてきた。
「君が南雲ハジメ君か。私は恵里のお父さんの正則だ。いつも娘と遊んでくれてありがとう」
「え、えっと……はい」
「こんにちは、南雲くん。お菓子とかも私の部屋に用意してあるから早く上がって」
柔和な笑みを浮かべている恵里に手を引かれ、ハジメは恵里の両親へのあいさつもそこそこに部屋へと連れていかれる。
「えっと、ここが私の部屋だよ。南雲くんのと比べるとあまり物がないけどよかったら」
だからやりたくなかったんだと心の中でボヤきつつ、恵里は緊張しているハジメをクッションの上に座らせた。そして向かい合うように置かれたもう一つのクッションに恵里は腰を下ろし、二人の間に置いてあった菓子入れをハジメの方へと押す。中身は幸がこの日のためにわざわざ買ったちょっとお高めのクッキーである。
「えっと、確かここに……はい、ティッシュ」
「あ、ありがとう中村さん。いろいろ用意してくれてたんだね」
「……お父さんとお母さんがなんかえらく張り切っちゃってね」
遠い目をしながら恵里は語る。日曜に友達を家に呼びたいとお願いしたらやたらと両親が感激し、恵里の言った通り張りきったのである。家の掃除はいつもより念入りに。よく使っているクッションも昨日洗ったばかりのものをまた洗濯、終いにはハジメはどういう菓子を食べるかまでも恵里にしつこく聞き倒したのである。それを恵里が語る事はなかったものの、その眼差しから親と言うのはどこもそういうものなのだろうかと思ったハジメも遠い目になった。
それもこれも正則と幸が恵里の子供離れした様子を見る度によく心配していたことが原因であった。このままでこの子は幸せになれるのだろうか、と。
流石に恵里を矯正しようという考えはないが、このままで恵里は幸せになれるのかという懸念は常に頭にあったのだ。だがらこそ、ハジメという少年を気にかけたというのが二人にとって救いとなった。幾らか早い気がするとはいえ、自分の子が人並みのことをしたために安堵したのだ――そのためにタガが外れてしまったことを恵里とハジメは知らない。
そんな中村夫妻のことはよそに、ハジメはほとんどしわのない手提げかばんから本を取り出す。もちろんハジメの持ち込んだ小説であり、恵里も好きそうだと考えてチョイスした代物である。それを微笑みながら手渡し、恵里がお礼を言うと、いつものように二人は静かにページをめくっていく。
――こうして友達の家に遊びに来たにもかかわらず、二人が静かに本を読むスタイルが定着したのも理由がある。ハジメは同年代の友人が出来たのが恵里が初めてなためなのが原因であった。
何かあると菫が自分の仕事場を託児所代わりに使ってたことがあって、ハジメの交友関係は両親を除けば菫の仕事場のスタッフぐらいしかいない。そのため年上の人たちとの接し方はこの歳にしてはこなれているのだが、同年代の友達がいないためやり方がわからない。せいぜい漫画や小説でどうしてるかを知った程度でしかない。
しかしハジメは別にアウトドア派ではないし、好きな分野であるゲームからアプローチをかけようとしても恵里はゲーム機そのものを持っていない。そのためお互いに興味のあるものは小説ぐらいしかなく、そこから恵里の反応を探っているのである……とは言うものの、あくまで『中村さんが気に入ってくれるかな。楽しんでくれるかな』といった微笑ましいものであるが。
対して恵里の方は一度だけ、それも交友関係を持って数日の頃にハジメに話しかけたことがあり、それを後悔しているからであった。
一緒にいるのにいつも黙ってばかりでいいのかと思い、読んでいた作品の面白かったところを幾つか挙げてハジメに言ってみたことがあったのだ。するとハジメもそれには共感したのか怒涛の勢いで同意したり、恵里が他にも好きそうなところをつらつらとしゃべったり、挙句の果てにはネタバレをかますなどしたものだから恵里が辟易してしまったのである。以降は読んでる最中だけは絶対に話しかけないようになった。流石にお互い本を読み終わった後は良かったところや不満のあった箇所を列挙して色々と言い合うぐらいはやっていたが。
余談だが、その時ハジメが語った恵里が好きそうな展開やシーンについては大方本人がハマったため、自分の部屋で心底悔しがっていたりする。
「……鈴も、いたらな」
――こうして妙な過ごし方になれてしまったせいなのか、それとも自分の家にいるために気をあまり張ってなかったためか。ふと恵里は昔を思い出してしまっていた。学校や鈴の家で一緒に過ごした頃の打算塗れで、ちょっとだけ心が安らいでいた頃の記憶である。
あの頃は光輝に取り入るために彼と親しく、かつ明るくノリのいい鈴とかりそめの友情を結んでいた。実際、“谷口鈴の親友”というのは使い勝手の良い立ち位置であり、光輝と慕っていた香織と雫以外の女の目をあざむくには心底都合が良かった。それだけのはず、であった。
しかし“谷口鈴”という存在は恵里にとって単に好都合なだけではなかった。何を言われても笑顔を絶やさず、いつも周囲を盛り上げていた彼女の側にいるのは決して不快ではなかったから。内心見下しながらも一緒にいることは決して嫌ではなかったのだ。
神域での戦いを経て光輝への執着もなくなり、父も生きていて家族仲が一応円満となった。エヒトという懸念材料こそあったものの、心が安息でほぼ満ちていた恵里は自然と最後のひとかけらにも手を伸ばしたくなった。もしこの場に鈴がいてくれたら。一緒に下らない話をして、自分がそれに呆れながら一言二言言い返したり出来たら。それを思ってしまったのだ。
「ねぇ、中村さん。すず、って誰?」
そのせいか心の声が漏れてしまい、この静かな空間にいたハジメはそれを聞き逃しはしなかった。
「――!? 、いや、何でもないよ! 何でも!」
ハジメの問いかけに恵里は大いに慌て、何もなかったのを装おうと持っていた本をじっと凝視した。そんな恵里の様子があまりにも怪しくはあったものの、反応からして触れてほしくないんだろうとハジメは解釈した。方向性こそ違えど、自分だって好きな人のことをつぶやいたのを他人に聞かれたくはないと考えているからである。ふとした拍子に親に聞かれ、その都度からかわれて涙目になったという事実は恐らく関係ないだろう。
そうして読書に戻ろうとすると、ハジメはあることを小耳にはさんだことを思い出した――恵里が探していた子は二人いる、ということを。
その一人が自分であったが、そのもう一人は誰なのだろうかとハジメも気にかかったことはあった。時折誰かを探しているかのような素振りを恵里がしているのも気づいていた。流石に自分と一緒に本を読んだり話をしたりしている時はそんなことをしないものの、間が出来た時にはたまにやってるのを見ているため、きっと“すず”という人を探していたんだろうとハジメは一人納得する。
一体どんな人なんだろうと考えるとなぜか胸がもやもやする心地であったが、やはり気になってしまうし、もしその子と出会えたら笑ってくれるかなとハジメは想像する。そして意を決したハジメは恵里に声をかけた。
「その、な、中村さん」
「うひっ!? ボ、ボクに何の用!?」
またしても恵里の一人称がおかしくなっていることも少し気になったものの、ハジメは恵里に問いかける。
「えっと、その、ね……」
「な、何……? い、一体何なの?」
「な、中村さんがよかったら、その……すずって人を探すの、てつだうよ?」
思いがけない言葉に一瞬恵里は真顔になり、その後すぐにハジメの両肩を勢いよく掴む。
「ほ、ホント!? す、鈴のこと探してくれるの!?」
「う、うん! て、てつだう! てつだうから――」
「ありがとう南雲くん!」
感激のあまり恵里はハジメに抱き着き、そのまま押し倒してしまう――こんな形で助け舟が出るとは思わなかった。しかも利用しようと思っていたハジメから、である。こうしてご機嫌とりをしていてよかった、と感謝のあまりハジメを遠慮なく強く抱きしめる。だが、やられているハジメはそれをこらえることが出来なかった。
「――きゅぅ」
「ありがとう! それじゃ、探す範囲なんだけど――あれ? 南雲くん? 南雲? おーい……またか!」
理由はどうあれ、好きな女の子に抱き着かれて押し倒される。しかも感謝までされるというのは年頃の男の子であるハジメの頭をオーバーヒートさせるには十分すぎた。結果、また気絶。コイツへの接触や言葉遣いは考えた方がいいかもしれない、と恵里は自分のやらかしを棚に上げてハジメの扱いを考えるのであった。
「もう。あまり南雲君を困らせちゃ駄目よ、恵里」
「はい。ごめんなさい……」
「きっと南雲君も女の子に慣れていないんだろう。好きな子にされたらなおさら、な。あ、でもな、人前でやると嫌がるかもしれないから気をつけるんだぞ恵里」
「うん……」
恵里は今、両親から軽いお説教をくらっていた。ハジメが気絶して倒れた後、運悪くお菓子の代えを持ってきた幸に見つかってしまい、それを弁明する間もなく正則に伝えらえてしまったからだ。
駆け付けた当初は大わらわだったのだが、恵里が必死になって要所要所を誤魔化しながら説明した途端に二人は困ったような嬉しいような甘酸っぱいような面持ちになってしまった。事の顛末を知ればとても微笑ましいものであったし、何より恵里がようやく子供らしいことを見せたのは両親としてもとても嬉しいことだったからだ。そのためやんわりとたしなめる程度に済ませ、ちゃんとハジメを見るよう言い残して正則と幸は部屋から出ていった。ニマニマと至極幸せそうな顔をしながら。
(あーもう、南雲の奴めぇ……お前のせいでこっ恥ずかしい目に遭ったじゃないか畜生め)
なお当の恵里は何とも言えない表情で目を回したハジメをにらみつけていたが。お前のせいでいい恥をかいたとじっとりとした眼差しを送り続けつつ、恵里はあることを考えていた。コイツは思っていた以上に女に弱いんじゃないか、ということだ。
最初につき合ってほしいと言った時、先日手を握った時、そして今日。とにもかくにも免疫がなさ過ぎる。実は超が何個もつくほどチョロいのではと考えていた時、クッションに横たわらせていたハジメがうめき声を上げた。
「……あれ? なかむら、さん?」
「目が覚めた? 南雲くん。とりあえず、大丈夫?」
「う、うん……ぼ、僕はその……だいじょうぶ、だから」
先ほど抱き着かれたことを思い出したらしく、答えている途中からハジメは伏し目がちになった。反応を見るからにやらかしたなと恵里が心の中で舌打ちすると、ハジメがぽつりと胸の内をこぼした――嫌じゃなかった、と。
「な、中村さんにだきつかれて、すごくドキドキして、それで頭のなかがまっ白になって、その、それで……」
顔をうつむかせながら話すハジメの様子を見る限り、やり過ぎではあっても失敗ではない様子である。とはいえこれは数日はマトモに話が出来ないパターンだな、と思いつつ恵里は尋ねる。
「えーと、それじゃまた本読む?」
「う、うん。そう、するね」
ぎこちないやり取りの後、ハジメは視線を本に向けた。だが、ちょくちょく見つめてくるのに恵里も気づいている。お互い、どことなく落ち着かないままにこの日の時間は過ぎていくのであった。
「それじゃあね南雲君。また来てちょうだい」
「いつでもいいからね。君なら歓迎だよ」
「あ、はい……」
日が暮れたことに気づいたハジメが慌てながらそろそろ帰ることを伝えると、正則と幸も見送りに出てきた。しかしこうして出てきた二人がハジメに言葉をかけるものの、当の本人はどこかうわの空な様子のまま。そこで恵里はため息を吐きながらその手を握った。
「な、中村さん!?」
「そんな状態じゃ家に帰れないでしょ。私が一緒に行ってあげるから」
ここでもし事故に遭うなどして怪我などしようものなら今後に響く可能性がある。なら何も起きないように目を光らせておく必要があると考えたのだ。その結果ハジメがもじもじしたり、両親が微笑んでいるのは仕方がない。自身も相当恥ずかしいのを我慢しつつ、その手を引いていく。
「ま、待ってってば! ひ、ひとりで歩けるよ!」
「あーはいはい。だったらちゃんと歩いてね」
これがトータスに行くまで続くのかと思うと憂うつになりながらも、恵里はハジメと一緒に手をつなぎながら南雲家へと向かっていくのであった。
ウチのエリリンいっつも叱られてんな(他人事)