おかげさまでUAも255339、お気に入り件数も1027件、感想数も825件(2026/1/3 16:57現在)となりました。誠にありがとうございます。心の広い皆様のおかげでこうして続けられております。
では今回の話を読むにあたっての注意点として少し短く(約9000字)となっております。いつもの分割癖のせいです(白目)
では上記に注意して本編をどうぞ。
「……え? 私、何を」
頭の中がどこかクリアになっていく感覚と同時にアンファンは戸惑いを覚えた。自分が巨大な枝の足場に二人がかりで押さえつけられていること、そしてフリードを見上げていることにだ。
(先程私は――あっ)
周りをキョロキョロと見回したことで自分を押さえつけているのは遠藤浩介の分身だということはアンファンも把握した。そしてその理由を思い出した途端、彼女の顔から一気に血の気が引いていく。
「わ、私は、そんな……」
――自分がどす黒い感情を向けながらフリード・バグアーを殺そうとした時の記憶がよみがえったからだ。
ハルツィナ樹海の試練の最中、無数に浮かぶ茶色の虫が魔方陣の形に集合すると共に光を放った。その瞬間、アンファンは視界に入っていたフリードを是が非でも『殺さねば』ならないと確信してしまう。
「ようやく正気に戻ったようだな」
だがそれは失敗に終わった。双剣を構えてそのままフリードを切り捨てんとした跳躍した直後、遠藤浩介の分身が罵声と共に自分を押し倒したからだ。その間何度となく分身から止まるよう罵声と大差ない呼びかけを受け続けたが、それでもアンファンはもがいて拘束を振り払おうとしていた。
「そうみたいだ」
「いやーホント焦ったよ。ノータイムでフリードさんに斬りかかろうとしたし」
運良くフリードは傷付くことはなかった。しかしそれでも自分が『フリードを殺そうとした』という事実にアンファンはすさまじいショックを受けてしまう。フリードの安堵した声も、浩介の分身達が彼とやりとりしていることすらアンファンの頭には入らない。
「そんな、私は……」
頭が割れるような痛みに、すさまじい吐き気に襲われていたアンファンの瞳が何度も揺れる。両目がうるむのにさほど時間はかからず、うつむくと共にアンファンは何度も鼻をすすって後悔を漏らす。
「アンファン、大丈夫か。おい」
「あの光の、虫たちのせいで私は……私はっ」
するとアンファンは顔をしかめながら恨み言をつぶやいた。自己嫌悪に耐えられず、無意識に逃げ道を求めて試練に出てきた虫どもへと責任転嫁したからである。恨むべき相手は全て燃え尽きてしまっていたことも、自分を押さえ込んでいた浩介の分身が消えたことにもアンファンは気づかない。爪が食い込むほど手を強く握り、歯を食いしばって忌々しげに枝を凝視するだけだった。
「そうだな。あの虫どものせいで面倒なことになった」
そんな折、頭上から聞こえた声にアンファンは顔を上げる。いつの間にかフリードが片膝をついており、アンファンを見ながら少しくたびれた様子で彼女の言葉に同意してきた。自分の意見に同意してくれたことへの嬉しさを感じはしたものの、アンファンはひどく胸がしめつけられる思いに駆られてしまう。
「ふ、りーど」
「立てるか、アンファン」
それ故にアンファンはフリードの顔を直視することが出来ず、すぐさま顔を伏せて彼の名をつぶやくだけ。それでも彼は優しい声色でそっと手を差し伸べてくる。それを見た途端、ぽたぽたとアンファンは涙を流し始めた。
「もう試練は終わった。後は神代魔法を取得するだけだからな……その、行くぞ」
彼の優しさを真正面から受け止めるのが怖かった。それ以上にフリードが『神代魔法の取得』と言ったことから、また自分も彼もこんな目に遭うのではという恐れがアンファンの中を駆け巡ったのだ。
「……やだ」
「やだとはなんだやだとは」
だからアンファンは鼻をすすりながらそれを拒む。もう苦しい思いをしたくない。させたくない。うつむきながらゆっくりと首を横に振って嫌だと伝えるも、フリードは呆れを多分に含んだ声で言い返すだけ。
「わがままを言ってる場合か。ほら立て――」
「もうやだぁーーーーーーー!!!」
その上ちょっと苛つきも含んだ声で立つよう促し、そのまま手を差し出し続けていたことでアンファンは耐えきれなくなってしまった。顔を上げて思いっきり叫んだのである。
「もうなにもしたくない! なにもやりたくないんですぅ! やだやだやだやだやだやだぁーーーー!!!」
そしてひっくり返って仰向けになると、涙と鼻水を散らしながら思いっきり駄々をこね出す始末。地団駄を踏んで泣きじゃくる彼女の耳に周囲のため息とぼやきは届くことはなかった……。
「なるほど。神代魔法は手に入れたが、アンファンが駄々をこねたか」
「あぁ……まったく。私をぬいぐるみか何かと勘違いしてるようでな」
フリードが返事をすると共に
「だって、フリードが、フリードが」
テーブル越しにメルドと向かい合っていたアンファンは、フリードを抱きかかえて鼻を鳴らしながら何度も首を横に振る。彼を苦しませたくないし、自分も苦しみたくない。だから頭がぐちゃぐちゃで、その上言葉を詰まらせながらもアンファンは必死に伝えようとしていた。
「重症ですね……」
しかしアンファンは声のトーンからメルドとクゼリーがどこか困っている様子なのも見抜いていた。チラッと二人の方を見ればメルドは頬杖をついて苦笑しているし、クゼリーも口の端を引きつらせながらアンファンの方を見ている。故にアンファンは二人も自分を理解してくれないと考え、また涙を一筋流す。
「だな。ま、最悪俺が引きはがせばいいんだろうがな」
「やだぁー!!」
「ぐぇー!?」
そんな時、メルドの放った言葉にアンファンは過敏に反応してしまう。金切り声を上げながら思いっきりフリードを抱きしめたのだ。その際フリードがカエルが潰れたような声を上げるも、自分のことで頭がいっぱいだったアンファンはそれに気づけない。
「もう嫌です! 戦うなんてあなた達がやればいい! 私はフリードと一緒に部屋にいるんです! もう外になんて出ません!」
フリードを強く抱きしめながらアンファンは力説する。ずっと自分の心の中にいて、離れてくれない存在。そんなフリードを自分から取り上げる奴なんて敵でしかないと怒りを露わにし、アンファンはメルドを思いっきりにらみつける。
「話を聞かないか! メルドさんはそう言ってない!」
「ああもう世話の焼ける! だからフリードがお前の部屋とここを繋いで逃げたんだろうが!」
するとクゼリーも少し眉をひそめ、メルドも目つきがほんのり鋭くなった。そして軽く声を荒げながらも二人はアンファンに告げる――実はアンファンは大迷宮攻略を終えて王宮へ戻る際、フリードを抱きかかえたまま自室へと戻っていたのだ。
「やっぱり戻ります! あなた達に話して何も得なんてしなかった!」
大迷宮の愛憎が反転する試練が終わってから駄々をこねたアンファンはその後、フリードによって岩の鎖で簀巻きにされていた。そして彼に担がれたまま解放者の住処へと行き、恵里達と一緒に神代魔法の取得に移ったのである……結局アンファンは取得出来ないままびーびー泣いていたが。
「お前が意固地になりすぎているからだ! ちゃんとフリード殿の意見も聞いてやれと言ってるんだ!」
「い、いかん、意識が……」
その後、解放者の住処から王宮までを中村恵里が直接ゲートで繋いだ際、アンファンは凶行に走った。もう自分も彼も辛い思いをしないで済むように、と。だがそれも部屋に入ってすぐにフリードが“界穿”を発動し、アンファンの部屋とここを繋いでしまったのである。
「駄目だって言ってました! 何度も何度も言ってました! だからこうするしかなかったんです! フリードをもう苦しまなせないために、もう嫌な思いをしないで済むために!」
アンファン達が乱入してすぐにフリードが助けを請い、即座にメルドが“鎮魂”をかけてきたのだ。しかしそこで心が落ち着いたことで逆にアンファンはパニックを起こしそうになってしまう。
すぐにメルドが事の詳細を尋ねてきたことからフリードと共に語っていき、しばし話し合いを続けていた。だがそれも破局を迎えようとしている。
「お、おい待てアンファン! フリードの奴が口から泡を吹いてる! いい加減放せ!」
「っ! わ、私を惑わせようなんてそんな……ふりー、ど?」
……フリード本人が死にかけていたせいで、である。白目をむいて口から泡を吐き、顔色も段々と悪くなってしまっている。メルドからの指摘にまさかと思いつつ視線を落とすと、アンファンの顔も一気に血の気が引いていく。
「い、嫌っ! フリード、フリード死なないで!」
「やらかした本人が言ってどうする!」
「ええい、とりあえずフリードを放せ! 殺す気か!」
これまで見たことも無いレベルの死相がフリードに浮かんでしまっていたせいで、アンファンは余計にパニックを起こしてフリードをより強く抱きしめてしまう。ボキボキと骨が折れる音が響く中、キレたクゼリーとメルドによってアンファンの腕からフリードは引きはがされてしまった。
「……本当に何がしたかったのだ、アンファン?」
「……私、悪くないです」
すぐさまメルドが再生魔法と魂魄魔法を駆使したことでフリードは事なきを得た。とはいえアンファンの隣の席に座った当人は眉根を寄せてやや鋭い目つきを彼女へと向けている。そのアンファンも気まずそうな表情を浮かべながらも、くちびるを軽くとがらせてフリードから顔を背けていた。
「いいかアンファン。お前のやろうとしていることはいらんお節介以外の何物でも無い。そもそも――」
「どうして、あんな場所に行こうとするのですか」
するとため息を吐いたメルドが説教を始めてきた。アンファンはメルドに恨めしげな視線を送り、腕を組んであきれ顔のまま説教してきた男に問いかける。
「あのな……だからエヒトを倒すために」
「痛くて苦しいだけの思いなんて、もうしたくないです」
問いかけた直後に口の端をヒクつかせ、メルドは言い返してくる。しかしアンファンはキッとした目つきで思いの丈をぶつけた。
「私だけじゃない。フリードも同じ思いをしてほしくもないんです!」
わめいた直後、アンファンの瞳は一気にうるんだ。鼻声になりながらもアンファンは抱いていたもう一つの思いもメルドへと叩きつける。途端に苦い表情を浮かべたメルドを見て、やっぱり理解なんてしてくれないんだと思い込んだアンファンは更に声を張り上げていく。
「やりたい人間が……やりたい愚か者だけがやればいいではないですか! そうでしょう!」
進んで痛い目を見るような奴だけやってればいい。私は違う。そう訴えると隣にいたフリードがため息を吐いており、どうしてそんなことをするのかと気に障ったアンファンはチラッと横目で見る。
「……そうだな。流石に生まれたばかりの赤子を連れて行く私がどうかしていたか」
「言ってやるな。戦力目当てに何も言わなかった俺だって同罪だ」
落胆と自己嫌悪の混ざった表情を浮かべたフリードがつぶやけば、メルドも渋い表情を浮かべてそれに答えた。
「……赤子でもいいです。私とフリードがあんな場所に行かなくて済むなら、それで」
赤子扱いされたことにアンファンはカッとなってしまうも、自分とフリードがもう苦しい目に遭わなくて済むかもしれないと考え直す。そして背中を丸めて口をとがらせながらアンファンはつぶやく。
「貴様が私の身を案じているのは理解しているつもりだ。だがな、それに付き合うわけにはいかん」
しかしフリードのやや重苦しいトーンで発せられた言葉に、アンファンは思わず顔を上げる。すると何度か目を泳がせながらも時折チラッと見てくるフリードの姿がアンファンの視界に入った。
「どう、して」
「私が戦わねば魔人族の未来が途絶える。それが理由だ」
何度訴えても考えを曲げないフリードにアンファンは呆然としてしまう。思わず口から漏れた自分の言葉に、真剣な表情と声色で返すフリードにアンファン一層はショックを受けた。
「私達がすること、すべきことはトータスをもてあそぶエヒトを完全に討ち滅ぼすことだ。魔人族と人間族、両方の信仰の対象となっているあやつをな」
「わ、わかって、ます。でも」
視線を窓の外へと向け、テーブルを見下ろしながらフリードは自身の指名を口にする。そのことはアンファンもわかっているが、そのせいでフリードだって傷付いてしまう。だからアンファンは話を相づちを打ちながらも、彼を止めるためにどうすればいいかと目を何度もキョロキョロとさせながら考える。
「……いいか。魔人族は未だエヒトの支配下だ。それ故に同胞を討ったこともあるし、
その時、フリードが苦虫をかみつぶしたような顔をしながら語る。同族を討ったことをアンファンは知らなかったため、ぽかんと口を開けながらメルドとクゼリーの方を見やる。すると二人も目をそらしながらもうなずき、フリードにどう言葉をかければいいのかと戸惑ってしまう。
「だからこそ私がいなくなる訳にはいかんのだ……操られている同胞を止め、解放するために」
途中、長く息を吐きながらもフリードは決意を述べる。語り終えた後、ギリッと歯を噛みしめたのを見てアンファンもフリードの決意が本心であることを理解する。
「それに私もエヒト討伐の功績を挙げた人間のひとりにならねばならん……そうせねば魔人族は『偽りの神の信奉者』と断ぜられて人間族に滅ぼされるだろうな。少なくとも大義名分にはなってしまう。だから――」
「そんなの知りません!」
更にフリードは自分が戦わねばならない理由をつらつらと並べていく。それを聞いて思わずアンファンは感情が高ぶり、ヒステリーを起こしながら口を挟む。
「おいアンファン」
「そんなの、そんなのどうだっていいです」
すぐにメルドとクゼリーの方から非難の視線が飛んで来るも、アンファンは二人を一瞥するだけであった。目に涙をためて鼻をすすりながらも、アンファンはフリードをじっと見つめながら彼の決意を容赦なく切り捨てる。
「どうだっていいなどと言うな! 私は同胞を救うために――」
「それはフリードが危険な目に遭っていい理由じゃないじゃないですか!」
案の定、フリードは怒りを露わにして叱り飛ばしてきた。すさまじい形相でにらまれながらもアンファンはイスから立ち上がり、涙をぼろぼろと流しながら自分の中にある思いをぶつけていく。
「フリードがそうする理由ぐらいわかります……でも、でも! あなたが死んだら意味が無いんです!」
生まれて一年と経ってないといえど、その優秀な肉体はフリードの言い分が何も間違ってないことをアンファンに理解
「あなたが死んだら!……あなたが死んだら、私は」
鼻水を垂らし、顔をぐちゃぐちゃにしながらアンファンはよたよたとフリードの方へと歩いて行く。困惑する彼の胸元に顔を何度も押しつけ、すがりつきながらアンファンは顔を上げる。
「……アンファン」
「あなたがしんだら、わたしはどうすればいいんですか?」
初めて『痛み』というものを知った時に優しくしてくれた彼が、勝手について行ってるとはいえずっと一緒にいてくれることを許してくれる彼が、ややぶっきらぼうながらも相手をしてくれる彼がいなくなってしまう。
胸の内からあふれて止まらない『恐怖』が今の自分を支配している。苦しげに見つめる彼に、アンファンはか細い声でそのことを伝えようとする。
「おねがいです。わたしを、ひとりにしないで」
弱々しい力でフリードの服を掴み、彼の胸に顔を埋めながらアンファンは懇願する。背中に腕が回されてもアンファンは嗚咽を漏らすだけであった。
「やはり、止めるべきだったんでしょうか」
「かもしれん……どうする、フリード」
「言う他ない、な。アンファン、私の話を聞け」
クゼリーとメルドが何をやり取りしたかもわからないまま、アンファンは静かに涙を流し続けていた。だが自分の背中に腕を回していたフリードが、ぽんと両肩に手を添えながら声をかけてきたことにアンファンも思わず上を見てしまう。
「なん、ですか」
「貴様が臆病になってしまうのも理解はしている。だがな、エヒトはどこまでも悪辣だ。私も貴様も逃がしはしないだろう」
少しびくびくしながら尋ねてみれば、フリードは真剣な表情で残酷なことを告げてきたのである。ずっと自分の目を見つめながらフリードが伝えてきたことからアンファンは嘘とは思えない。それと自分がこの世界で生きることになった理由を思い出し、ショックでアンファンはわずかに大きく目を見開いてかすかに体を震わせてしまう。
「そ、そんなこと知りません! た、戦わなければ関係ないでしょう!」
「“鎮魂”」
逃げ場なんてないと直接言われたことでアンファンは動揺し、声を震わせながらそんなはずはないと否定する。その直後、メルドが魔法を詠唱したことでアンファンの心は平静を取り戻す。
「悪いがアンファン、絶対にそんなことはないぞ。各地に現れた無数の神の使徒がトータスを引っかき回して、恵里達もボロボロにしたのを考えればな」
確か中村恵里達が使っている魂魄魔法の中にこの名前があったような、とアンファンが思い返していると横からメルドが口を挟んできた。再度自分が生まれた理由が頭に浮かんでしまい、アンファンはメルドを否定することも自分達が逃げることも叶わないことを理解させられてしまう。
「そん、な……どう、して」
「メルジーネ海底遺跡にな、エヒトがかつてやっていた悪行が記録されていたんだ。お前が生まれた理由と変わらんろくでもないものだった」
「そうだ。奴は己の思うままに世界を壊す。そんな存在だ。私も貴様も逃げ切れる保証は無い」
荒い息を吐きながらなぜとアンファンが問いかければ、メルドが上に視線を向けながら他の大迷宮であったことを挙げてきた。フリードも一度うなずくと再度逃げることは叶わないと伝えてくる。そのせいでアンファンの瞳はうっすらとにごり、体の震えを大きくしてしまう。
「追撃が甘かったとも言っていたな。それに神の使徒はこの王宮と城下町にも現れたことがある」
「メルドさんやフリード殿が申したように、どこにも逃げ場は無いな。最後の戦いで無数の神の使徒がトータス各地に現れてもおかしくなどないのだ」
「わかるか、アンファン。怯えて逃げるだけではどうにもならん。戦うしか、道は無いのだ」
そんなアンファンにメルド、クゼリー、フリードは微塵の容赦もせずに事実に推測、未来を切り開くための方法を提示してくる。それらが嘘であって欲しいと願いつつアンファンは三人の顔を見やるが、誰もが真剣な表情で見つめ返してくるせいで彼女は余計に体の震えを大きくしてしまう。
「ぁ、ぅ……」
「戦って無事でいられるなどと無責任なことは私も言えん。だがフリード殿が力を手に入れなければ死ぬ可能性は大きくなるぞ」
「や、だ……やだ、ぁ……」
そこでキッと目を細めたクゼリーに見つめられ、推論をぶつけられたことでアンファンのひざが笑い出す。ただでさえ合わなくなっていた歯の根がガチガチと音を立ててしまい、アンファンは恐怖から再びパニックを引き起こそうとしていた。
「“鎮魂”――お前は部屋にこもってても俺はもう文句は言わん。だがな、フリードだけは自由にしてやってくれ……フリードを、死なせたくないんだよ」
「メルド、貴様……」
だがメルドが再度魂魄魔法を唱えてくれたことでアンファンの心は再度フラットになる。それでも思い詰めた表情のメルドの訴えを聞きたくなくてアンファンはうつむき、自分の体をかき抱く。
(もう嫌です。戦いなんて、したくない。痛いのは、苦しいのは嫌)
メルド達の訴えをアンファンは理解していた。だがそれでもこれまで大迷宮で積み重ねた記憶のせいでアンファンは進むことを拒んでしまう。自分の抱いていた思いも書き換えられ、気を抜いたらフリード共々痛くて苦しい目に遭ってしまった過去のせいでだ。
(でも、どこへも逃げられない。逃げても、私と同じ姿の奴らがいっぱいやってくる)
けれどもこのままでは破滅が待っていることも、その優秀な頭脳が否応なしに見せつけてくる。立ち向かうしかないとはわかっていても、そうするための勇気をアンファンは出すことが出来ない。
「こわい、よ……いや、だよぉ」
だからアンファンは自分の中にある怯えを口にすることしか出来なかった。その場でうずくまり、声を押し殺してただ首を横に振るばかりであった。
「時間がなかったとはいえ、心構えもさせずに連れて行ったのは失敗だったな」
「そんな、こと……」
フリードの後悔に満ちた声に思わずアンファンも反応してすぐさま顔を上げるも、反論の言葉は出てはくれない。目を伏せているフリードに何も言えぬままアンファンも視線を落とし、自分の体をぎゅっと抱きしめるしか出来なかった。
「……こうなったら恵里達に頼るか。俺はともかく、アイツらならいいアドバイスが出来るだろうしな」
「いえ、折れてもなお立ち上がれた中村様がたでは厳しいと思いますメルドさん」
「となると……今もあがいている奴らか」
「そうするか」
どうすればいいかもわからず、アンファンはメルド達の会話をただ聞き流す。その途中でフリードが自分の頭にそっと手を添えてくれたことのみを意識する。しばし彼の手の温かさを感じていると部屋の外から幾つもの足音が響いたことにアンファンは気づいた。
フリードから面白い味しかしねぇ(小並感)(だいたい作者のせい)
続きは明日明後日になればいいな、と思ってます(遠い目)
2026/1/18 ちょっと修正しました。