あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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なんとか一週間以内に仕上げられましたぁ!!
……こほん。では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも258850、感想数も836件(2026/2/28 17:39現在)となりました。誠にありがとうございます。

そしてAM9さん、拙作を再評価してくださり誠にありがとうございます。次の話を書く気力をいただきました。

今回の話を読むにあたっての注意点としてちょっと短く(8000字足らず)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


百十五話 今、影と向き合って(後編)

『結局ボク(お前)は変われてないんだよ。怖くて、どうすればいいかわからなくて、そのせいで全て取りこぼす。無力な子供のままなんだ』

 

 氷雪洞窟最後の試練。氷で出来たミラーハウスの中で行われる、目をそらし続けた自分自身との対決。その中で恵里は己の影のささやきによって、拘束用のアーティファクトであるボーラを落としてしまう。

 

『もう抵抗する気力も消えちゃったぁ~?――だったらこの場でうずくまってたら? ボクも負け犬相手に構う気はないしさぁ~』

 

 軽くうつむいてしまった恵里に、彼女の虚像は追撃をかけるようにねばつく声で話しかけてきた。恵里はただすすり泣くだけで、落としたボーラを手に取ることもしない。故に黒い恵里はケラケラと嗤いながら恵里に背中を向けようとする。

 

「……ってるよ」

 

『うん?』

 

「そんなの、ボクはイヤになるくらい知ってるんだよ!!」

 

 その時、恵里の慟哭が氷の鏡に埋め尽くされた部屋に響く。鼻水を垂らし、涙もこぼしながらも前を向いて恵里は再度叫ぶ。

 

「何度も何度も失敗した。お父さんとお母さんに会うのは今でも怖い。鈴も自分の手で壊しそうになったし、やっぱり別れたくなんてない。ハジメくんの苦しみもわかってあげられなかったことも後悔してる。お前の言う通りだよ」

 

 恵里の頭を幾つもの恐れや失敗がよぎっていく。

 

 この世界の『中村恵里』を奪ってしまったことを両親に明かすのが怖い。向こうの世界の鈴を別物に変えてしまいそうになったことの後悔は今でもある。皆の前でああは言ったものの、鈴とも別れたくなんてない。愛する人が苦しんでいるのに、結局自分は何も出来なかったことを悔やんでいる。

 

「でも! それでもお父さんとお母さんに会いたい! 謝りたいから! 償いたいから!」

 

 だが恵里は恐怖と後悔を抱えたまま、前に進むことを誓う。二人の『娘』として本当のことを話したい。その上でやったことを償いたい。その意思を声高に叫ぶ。

 

「鈴に会いたい! もう一度友達としてやり直したい! やったことを謝りたいよ!」

 

 親友である鈴との再会を恵里は願う。どれだけ自分が悪行を重ねても、最期まで何度も手を伸ばしてくれた最高の友達への思いを赤裸々に語る。

 

「ハジメくんも! 今度こそ絶対に聞き出す! だってボクのことを救ってくれた、愛してくれた人だから! 一緒に未来を歩みたい人だから!」

 

 愛する人をなんとしても救うのだと恵里は声を張り上げる。今では自分の存在意義となった男の子への愛を何度となく口にする。

 

「だからお前に負けられない……! 全部受け入れてでも、地べたを這ってでも進んでみせる!」

 

 そして不退転の覚悟を言葉にする――同時に恵里は“覇潰”を発動した。深紅の光が氷の鏡で満たされた部屋全てを覆い尽くすほどにあふれていく。

 

『まずっ! “禁域解放”! “蒼龍”っ!』

 

 途端に黒い恵里の顔が一気に青ざめていく。即座に“覇潰”を使ったのか虚像の恵里も赤黒いオーラを吹き出し、また自分を強化する昇華魔法と共に“蒼龍”を発動。龍を形作る青き炎がとぐろを巻いて黒い恵里の近くに出現する

 

「お前を倒して、ボクは先に行く――“禁域解放” “()()()”っ!」

 

 そして恵里も同様に“禁域解放”を発動し、拡大した知覚をフル活用して()()の青い龍を両横に顕現させる。青白い光に照らされ、かすかな熱を浴びながらも恵里は己の影をじっと見つめていた。

 

「いけぇー!!」

 

『くそ、がぁー!!』

 

 恵里が号令をかければ二匹の業火の龍が黒い恵里目がけて駆け抜けていく。黒い恵里も同じ龍を動かすが、あっという間に双子の龍に食らいつかれてしまう。

 

『クソッ。今のボクの力じゃあいつには――っ!?』

 

 黒い恵里がきびすを返して走ろうとした瞬間、恵里は落としたボーラを拾って投げつけた。黒い恵里は避けることすら出来なかったかあっさりとがんじがらめになり、その場で思いっきり倒れ込んでしまう。

 

「……感謝、してあげるよ。おかげで目が覚めたから」

 

 そして恵里が使役する双子の龍が黒い恵里の龍を喰らい尽くすと、揃って彼女の方へと突き進んでいく。涙と鼻水が乾いた、穏やかな顔をしながら恵里は死ぬ間際の自分の影に感謝を述べる。

 

『ハッ。最低のお礼だね――』

 

 黒い恵里もまたどこか憑きものが落ちたような顔つきで、嫌みをぶつけてくる。恵里が皮肉げに笑うと二匹の龍は黒い恵里にぶつかった。魔力の残滓すら残さずに恵里の鏡像は灼熱の龍と共に消えていく。

 

「――っはぁ~~!……終わったぁ~」

 

 感知系の技能を使って周りに他の敵がいないことを確認すると、恵里は大きくため息を吐いてその場にしりもちを着く。このまま“瞬光”も“覇潰”も、“禁域解放”も全て解除したくなるが、ある理由で恵里は思いとどまる。

 

「あ~……“絶象”」

 

 さっき服用した薬で完全に回復しきってなかったのか、まだ右腕全体がヒリヒリするのと服が破けたままだったからだ。ひとまず再生魔法で全て元通りにすると、恵里は発動していた技能を全て解除する。

 

「……いろんな意味でキツかったなぁ。もう二度とやりたくないや」

 

 緊張感が途切れ、また技能の反動ですさまじい倦怠感に襲われた恵里はそのまま床に大の字になった。そして寝転んだまま宝物庫から魔力回復薬を何本か取り出すと、のろのろと手を動かしながら全部に口をつける。

 

「っはぁ~……これで少しは動ける、かな」

 

 体に魔力が行き渡っていく感覚にしばし浸った後、恵里は体を起こして周囲を見やる。すると壁の一部がいつの間にか溶けており、試練がちゃんと終わったことを改めて実感していた。

 

「よし……じゃあハジメくんと鈴、迎えに行くかぁ~」

 

 まだ若干の倦怠感が残っていたものの、恵里は立ち上がって新たに出来た通路へと向かう。試練を全てこなしたことでハジメと鈴、そして幼馴染み達のことが気がかりになったからだ。きっと大丈夫、と心の中で何度となくつぶやきながら恵里は歩き続ける。

 

「……突破おめでと、鈴」

 

「恵里……うん。恵里もおめでとう」

 

 そうして歩いていると、先程自分がいたような部屋の中で静かにたたずんでいる鈴を見つける。一メートル近くまで足音を立てながら近づくと、恵里は意識して微笑みを浮かべながら声をかける。するとどこか遠くを見ていた様子の鈴も、やや穏やかな表情で返事をしてきた。

 

「鈴はさ、何て言われたの?」

 

「……ハジメくんのこと、だよ。長い付き合いを理由にして踏み込まなかったよね、って」

 

「はは……ボクもそれ言われたよ」

 

 そして一緒にゆっくりと通路を歩きながら二人は試練のことについて話し合った。互いにハジメの抱える問題に踏み込むのを躊躇したこと、家族に受け入れられるか不安であったことを語り合い、奥へ奥へと進んでいく。

 

「大丈夫、かな」

 

「うん……やっぱり不安、かな。いつになく思い詰めてたし――今の音って!」

 

 また話題がハジメのことになり、恵里も鈴も不安そうに通路の奥を見つめる。すると前方から爆音が響き渡り、恵里は鈴と顔を合わせるとすぐに一緒に駆け出していく。

 

「手りゅう弾の音とは違うはずだけど!」

 

「場所が場所だもんね! 私達が普段聞いてる音とは違うかもしれないし!」

 

 ハジメがもしや苦戦しているのではと不安を露わにしながら二人は走る。どうか無事でありますようにと祈りながら疾走していると、恵里はある仲間を見かけた。

 

「檜山君!」

 

「中村か!――近ぇな! 急ぐぞ!」

 

 自分達と同じく通路を駆けていた大介だ。彼に声をかけて間もなくまた爆音が通路に響く。余計に不安が強まり、大介の声がけにうなずきつつ恵里は鈴と一緒に走って行く。

 

「――アレーティア!?」

 

「おいアレーティア、無事か!!」

 

 その途中、三度目の爆音と共に通路の方へと吹き飛んできたのはボロボロのアレーティアであった。髪の毛や体のあちこちが焼け焦げており、また服もそこかしこが焦げたり無惨に切り裂かれるなどしている。そんなアレーティアは恵里達の声がけにも反応しない。ただ横たわった体を両手で支えるようにして起こそうとしていた。

 

『……永遠に過去から、罪からは逃れられない。だから(お前)は大介にすがっていた。なのにどうして大介の名前を呼ばない? 大介達の呼びかけに答えない?』

 

 声のする方を振り向けば、そこには黒いアレーティアの姿があった。まだアレーティアが罪悪感に囚われてることにちょっとイラつき、恵里は軽く青筋を浮かび上がらせながらアレーティアの方を向いた。

 

「あのさぁ、だからボクは許し――」

 

「大介は、止まり木じゃない!」

 

 声をかけようとした瞬間、アレーティアが叫んだことに恵里は思わず面食らってしまう。恵里は何度も目をパチパチさせ、鈴と大介とも顔を合わせて仲良く間抜け面を浮かべていた。

 

『なら何?……(お前)が大介に依存していることは変わらない。それは事実』

 

「私は、大介と一緒に歩きたい! 私を許してくれた人達と一緒に生きたい!」

 

 あわれみのまなざしを向けるアレーティアの虚像に、アレーティアは体をかすかに震わせながらも声高に叫ぶ。そして体を震わせたまま立ち上がったアレーティアは、声を張り上げながらある魔法を詠唱する。

 

「私はもう、すがらない!――“五天龍”!」

 

 それは氷雪洞窟攻略前に開発したアレーティアのオリジナルの魔法であった。火、氷、風、雷、土の属性魔法と重力魔法、そして昇華魔法によって形作られた五匹の龍を顕現させたのである。

 

『――っ! “五天龍”!』

 

 虚像の方も焦った様子で同じ魔法を発動する。アレーティアのものとは違ってどれもが黒い色合いを放つ龍がとぐろを巻いて現れた。そして鏡合わせのように十匹の龍が互いの分身と喰らい合っていく。

 

『……おめでとう。あなたならちゃんと隣に立って歩いて行ける』

 

 だが、勝ったのは虚像の方では無くアレーティアの方であった。わずかに拮抗した後、五色に彩られた龍がまがい物を食い破って黒いアレーティアへと迫ったのである。自分と同様に目をそらしていた部分を呑み込んだことに恵里は若干驚き、感心していた。

 

「……ん。やってみせる。お父様にも、大介達にも恥じない存在になってみせる」

 

(ん? なんでまた誓ったんだろ? 黒いの、何か言ってた?)

 

 そのため恵里は彼女の鏡像の言葉を聞き逃してしまい、何故アレーティアがこんなことをつぶやいたかを疑問に思ってしまう。ただアレーティアが穏やかな表情をしていたから別にいいかと流そうとした。

 

「っ! アレーティア、しっかりしろ!」

 

「ちょ、アレーティア! 大丈夫なの!」

 

「アレーティアさんしっかり!」

 

 だがその瞬間、アレーティアがその場で倒れ込んでしまったのだ。後ろからずっと見ていた恵里も思わず鈴と大介と一緒に駆け寄り、即座に魂魄魔法で死んだかどうかのチェックに移る。

 

「とりま死んでない! 鈴、早く“絶象”使って! それと檜山君、呼びかけて!」

 

「わかってる! “絶象”!」

 

「アレーティア、大丈夫か! 俺の血を飲め! 早く!」

 

 ひとまず体から魂が出てないことに安心しつつ、恵里は焦りながらも鈴と大介に声をかける。すぐさま鈴も再生魔法でアレーティアを治療し、大介も彼女の口元に自分の左腕を押しつけていた。

 

「だい、すけ……ん。んぅ」

 

 するとアレーティアも息も絶え絶えにしながらも大介の腕を両手で掴み、そして牙を立てる。次第に顔色が良くなっていくアレーティアを見て、恵里は大きなため息を吐いた。

 

「あーもう心配した。ま、これでアレーティアも突破出来たかな?」

 

「多分ね。私達が助けたのも試練を終わらせてからだから大丈夫だと思う」

 

「そうでなきゃここ造った解放者を恨むぜ……アレーティア、大丈夫か?」

 

「……ん。大じょ――ぇ?」

 

 やれやれといった様子で恵里が三人を見ながら軽い憎まれ口を叩く。鈴も安心したのか少し緩んだ表情で恵里を、そしてアレーティアを見やった。大介もまた気の抜けた様子でアレーティアに話しかける。すると回復直後でまだぼんやりしていたアレーティアがどこか間の抜けた表情でこちらを見つめ返してきた。

 

「……見ま、した?」

 

「おう。やっぱお前は最高だよ、アレーティア」

 

「うん。普段からあれくらいだったら頼れるんだけどねぇ~」

 

「うん。昔のアレーティアさんみたいでカッコ良かったよ」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」

 

 アレーティアはわなわなと震えており、相当恥ずかしいのか既に顔は赤くなっている。羞恥と緊張で声も震わせながらアレーティアはつぶやくように恵里達に質問をした。即座に大介、恵里、鈴が持ち上げると、トマトよりもはるかに赤い顔になったアレーティアは這うようにして瞬時にその場を離れていった。

 

「大介のあほぅ。中村さんのあほぅ。谷口さんのあほぅ……いっそ殺して」

 

 部屋の隅でひざを抱え、顔をひざの間に埋めたアレーティアは震える声で恨み言をつぶやいてくる。指の先まで真っ赤になったアレーティアを見た恵里達は、互いに顔を合わせてニヤついたり微笑ましいものを見る目つきで彼女をしばしながめていた。

 

「んじゃ檜山君、アレーティアの子守りよろしく。ボクも鈴もハジメくん探したいしさ」

 

「子守り言うな、ったく……いいぜ。俺も不安だったし、こんなとこにいるのも退屈だからな」

 

 その後恵里と鈴はまだ身もだえするアレーティアの扱いを大介に丸投げしつつ、再度通路を進むことを選ぶ。当のアレーティアは今は大介に横抱きされており、顔を隠すように彼にしがみついていた。そうして四人で代わり映えのしない通路をしゃべりながら歩いていると、不意に激しい銃撃音と爆発する音が恵里の耳に入った。

 

「まさか――ハジメくん!」

 

 聞き慣れたドンナーにシュラーク、それとクロスビットらしき銃声と普段ハジメが使ってると思しき手りゅう弾の爆音。ここ最近のハジメの様子も相まってまさか苦戦しているのではと不安に駆られた恵里は脇目も振らずに走って行く。

 

「これ、ハジメの使ってる銃のやつだよな!」

 

「間違いないと思う! 恵里が聞き間違えるはずなんてないし!」

 

「……南雲さんっ!」

 

 鈴達の声も今の恵里の頭には残りはしない。ただハジメのことを案じて恵里はひたすらに氷の廊下を走る。そして――。

 

「まだ、まだぁ!」

 

『本当に、あがくね。心だって相当ボロボロのはずなのに』

 

 自分の虚像と戦ったあの大部屋と同じ場所にたどり着き、そこで恵里は見てしまった。ハジメの左腕のひじから先が無くなっているのを。体のあちこちから血が吹き出しているのを。

 

「それ、でも! そっちだって弱ってるだろっ!」

 

 ハジメがドンナーだけを握りしめてひたすら()()()()()いるのを。彼が使っているはずのクロスビット、ガーディアンと思しき残骸がそこかしこに転がっているのを。

 

『劣勢なのは君の方、でしょっ。“限界突破”もそろそろ切れるはずだし』

 

 ……黒いハジメが展開するヘカトンケイルの手に、複製されたメツェライやオルカンだけでなくハジメのものであろうそれらが収まっているのを。シュラークもまた奪われているのをだ。

 

「う、そ……」

 

 レールガンの雨嵐、何発も迫り来るロケット、そして鋼の獣達の襲撃を紙一重でかわし、また“金剛”を発動して致命傷をどうにか避け続けている()()のハジメの姿に恵里は絶句してしまう。

 

 自分と同様、虚像が使うアーティファクトが彼を襲っているだけならまだ恵里もわかった。だがどうしてあの偽者がハジメの使うアーティファクトまで利用しているのか。それを恵里は理解()()()()()()()()()

 

「ハジメ、くん……?」

 

「先生が……嘘、だろ?」

 

「なんで、南雲さんが……」

 

 鈴のか細い声が、大介とアレーティアの驚愕で震える声が多種多様の爆音によってかき消されたことに恵里は気づかない。鈴達が既に近くに来ていることすら恵里は気づけない。逃げ回るハジメの姿と荒くなった自分の息づかいの方に意識が向いてしまい、恵里は他に何も考えられなくなってしまっていた。

 

「どうして、こんな……まさ、か」

 

 攻撃もマトモに出来ないままそこかしこを駆け抜けるだけのハジメを見ていた恵里は、ある懸念を今の光景と結びつけてしまう。ずっとハジメがひた隠しにしようとしていたことが今回の事態を招いたのだと。

 

「「――っ! ハジメくん!」」

 

「ハジメぇーっ!!」

 

「南雲さん!」

 

 何が彼を苦しめていたのかと思案する間もなく、ハジメが部屋の隅に追い詰められてしまったのを恵里は目撃する。そして気づかないまま鈴達と一緒に弾かれるように飛び出し、銃弾の雨の中へと突っ込んでいく。

 

「“蒼天”っ!!」

 

 この後指一本動かせなくなることをいとわずに恵里は“限界突破”を使い、その状態で最上級の炎属性魔法を発動。『面』で迫ってくる弾丸とガーディアン達を一気に溶かそうとする。

 

(ダメ、間に合わな――っ!)

 

「“聖絶”っ!――ハジメくん、しっかり!」

 

 それでも発射された弾丸の四割、何機かのクロスビットにガーディアンを燃やし尽くしただけ。ハジメを襲う殺意の群れは消しきれなかった。このままではまずいと焦る中、見慣れた障壁が彼の前を覆う。同時に最高の恋敵が彼に向かうのを恵里は目撃し、恵里は心の底から安堵した。

 

「だらぁーっ!!……死んでねぇよな? まだ生きてるよなハジメ!」

 

「“砲皇”――南雲さん、今助けます!」

 

 遅れて一瞬、恵里の攻撃を迂回して避けて襲いかかってきたクロスビットやガーディアンズ達を大介が横薙ぎに切り払った。またアレーティアの最強の風属性の魔法が吹き飛ばしていく。ひとまずハジメの無事が確保できたことで気が抜けそうになるも、恵里も遅れて彼の下へと走って行く。

 

「すず、えり……だいすけくん、アレーティア、さんも」

 

「鈴、早く!」

 

 息も絶え絶えにハジメは目を動かして自分達の名前を呼ぶ。だがその彼の顔は少し青ざめており、このままだとまずいと確信した恵里は鈴に治療をするよう促す。

 

「わかってる! 今治すから! 絶しょ――」

 

「ま、待って!……ここで完治させたら、試練が失敗するかもしれないです、から」

 

 鈴もそれに応えようと再生魔法を発動しようとした。だがアレーティアが声を張り上げ、制止したのを聞いて恵里は思わずハッとする。また鈴が詠唱を止め、代わりに下位の治癒魔法で傷をふさいでいくのを見て恵里もホッとする。

 

『良かったね。守ってもらえてさ』

 

 そんな時、ハジメと全く同じ声でつぶやかれた嫌みに恵里は思わず青筋を立てる。すさまじい形相で恵里が後ろを見やると、口元をつり上げたハジメの虚像が自分達を見ていた。軽く肩で息をしながら、侮蔑のこもった笑みを浮かべていたのである。

 

「黙れ! ハジメくんの偽者のくせに!」

 

 愛する人の声で絶対にありえない言葉を吐いてきた鏡像に対し、恵里は気炎を上げて黒いハジメをののしる。だが黒いハジメは軽く肩をすくめてドンナーなどの銃口を向けるだけ。

 

「ハジメくん、いい加減答えて。何を負い目に感じてるの」

 

「それ、は……」

 

 恵里もまた杖を構えたものの、鈴が苛立ちを伴った声でハジメを問い詰めたことに軽く意識が向いてしまう。ハジメがまた言葉をにごしたせいで余計に気になってしまい、恵里もまた少しイライラしながら彼を一瞥した。

 

「なぁハジメ。いい加減答えろ。惚れた女の頼みを無視してんじゃ――」

 

『じゃ、代わりに答えよっか――うんざりしてるんだよ。自分の弱さにさ』

 

 大介が彼の襟首を掴んで揺さぶるが、恵里は軽く舌打ちするだけで止めはしない。そんな時、ハジメの虚像の言葉に恵里は虚を突かれて呆然とする。

 

「「「……えっ?」」」

 

「は?」

 

「言うな! それは、僕が――」

 

『あきらめなよ。どうせ君は何も出来やしないんだから』

 

 怒りと焦りが入り交じったハジメの制止する声。やや荒い息ながらもあざける黒いハジメのつぶやき。想像だにしなかったことが明らかとなり、恵里は三人と一緒に間の抜けた声を漏らしたのであった……。

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