何度も何度も繰り返し見ていただけるとかクッソ恐縮です……。
あ、今回は気持ち短めです。
ハジメに鈴の捜索を手伝ってもらう約束を取り付けた翌日の朝。恵里はホームルーム前の教室で自分の恋バナ(ではない)に興味津々な子供たちを集め、頭を下げた。
「みんなにお願いがあるの。南雲くん以外にも探してほしい女の子がいるんだ」
その言葉に一体どうしたのかと一同がざわついたが、真剣な恵里の様子を見ると皆が口を閉じていった。
「昔会ったことのある子なんだけど、その子が休み時間にどこにいるかでいいから調べてくれないかな。出来ればどこのクラスの子かもわかると嬉しいんだけど」
お願いはもちろん鈴の捜索のことだ。昨日ハジメにそれを約束してもらったため、どうせなら頭数を増やしてやれば早く見つかるはずと考えた恵里はこの子達も巻き込んでしまおうと行動に移したのである。ついでという形ではあったが本腰を入れて探すつもりであり、そのためならば頭を下げることすらいとわない。とはいえ嫌々やらせたら悪評が立つため、志願者を募ることにしたが。
「無理だったらしなくてもいいから。それで私は責めないから」
そう告げて恵里は頭を下げ、その様子を見た『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の面々は恵里が本気で会いたいと思っているとを察した。互いが顔を見合わせる中、一人の子が手を挙げた。
「さがすのはいいんだけどさ、その子ってなんなの? 恵里ちゃんのむかしのお友だち?……もしかして、その子も南雲くんが好きなの?」
その疑問にまたしても面々がざわつき出すが、『それはない』と欠片たりとも感情の乗らない声を恵里が発すると全員が驚いて止まってしまった。
「友達、っていうよりはその……昔見たことのある子、って言った方がいいかな。一度会ったことがあるぐらい」
そう伝えると一同揃って首をかしげた。友達でもなければ知り合いとも言えない。かといって恋敵という訳でもなければ、一体どういう子なのか。皆が不思議に思うのも無理はなかった。
反応からして流石に厳しいだろうかと恵里も苦笑いを浮かべたその時、さっきの子とは別の子が手を挙げる。
「じゃあその子って恵里ちゃんが気になってるだけ? お友達にでもなりたいの?」
「うん」
その少年が抱いた疑問に首を縦に振るとおお、と子供たちの間でどよめきが走った。
「どうしよう……私はおてつだいしてもいいかな、って思うんだけど」
「僕もいいよ~。恵里ちゃんが南雲くんのことをいろいろ話してくれるのおもしろいしね~」
「あたしも! 恵里ちゃんのお話たのしいし、さんかくかんけーっていうのもいいよね!」
昔からの馴染みであるメイがぽつりと漏らしたのをきっかけに、『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の子供たちは次々と手伝いたいと申し出てきてくれた――中には『その子に南雲くんとられないかな』だの、『その子も入れて南雲くんを……恵里ちゃん小あくま』などとはっ倒したくなるような寝言も次々と出てきたが恵里は無視。改めて皆に頭を下げた。
「ありがとうみんな。それじゃ、どんな子なのかを伝えるから――」
そして鈴の見た目や雰囲気についてを伝えていく――名前をあえて出さなかったのはどうして尋ねて回らないのかということを突っつかれないためであり、どうして面識がほぼないのに名前を知っているのかを尋ねられないためだ。
全員に情報を伝え終えると、絶対成功させようと『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の面々が一斉に声を掛ける。こうして協力してくれる彼らを見て、恵里はほんの少しだけありがたさを感じるのであった。
そうして『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の子達に声をかけて数日が経過した時のことだった。
中々鈴が見つからず、ハジメも子供たちもどこにいるんだろうと各々が疑問に思いながらも探していた時のことであった。
「……す、ず?」
この日もいつものようにハジメを迎えに行くついでに鈴を探していた時のことである。この頃はまだこの学校にいないのかもしれないと半ば本気で思っていたものの、恵里はまだ諦めきれなかった。いつものように相手に気づかれない程度にチラチラと見ながら廊下を歩いていた時に見覚えのある顔を偶然見てしまったのだ。
その顔立ちは最初に会ったときのそれをいくらか幼くした感じであり、間違いなく谷口鈴本人だと断言できる。しかし恵里はその少女を見て戸惑いを隠せなかった。
(す、鈴があんな暗いはずが……そんな訳ない! ボクが裏切った後でも平気で友達になろうとしてきたアイツがそんな、そんなはずなんてない!)
あまりに雰囲気が違いすぎるのだ。人懐っこく誰とでも話をするあのムードメーカーが、一人であんな陰鬱な空気を漂わせてながら伏し目がちに歩いてくるだろうか。記憶の中と目の前の現実とが結びつかず、恵里は目を白黒させていた。
(い、いや、待て。待つんだ。もしかすると鈴の親戚とかそっくりさんかもしれない! えっと、あー、そうだ。とりあえず尋ねてみよう、それでわかるはず)
そうして声をかけようとしたその時、ある物が目に入ったことで恵里の足は止まってしまう――名札だ。それには“たにぐちすず”と本人のものと思しきつたない字で書かれており、それは過去の鈴の筆跡とあまりにもよく似ていた。
「う、そ……」
認めるしかなかった。おそらく目の前にいるのは自分の親友を自称していたあの騒がしい少女と同じなのだと。探し続けていた人物と一緒なのだ、と。
「……うそ、ってなに? はじめて会った人になんで鈴がうそをつくの?」
先ほど漏れた言葉が聞こえたらしく、鈴と思しき少女はすれ違いざまに不機嫌そうにつぶやいた。その声色は恵里の記憶の中の少女のものとあまりにも似ている。それが恵里をひどく揺さぶった。
「ま、待って! き、聞きたいことがあるんだけど!」
不機嫌なつぶやきから遅れること数秒、恵里は先ほどすれ違った少女に声をかける。鈴かもしれない。でも鈴じゃなければいい。この機会を逃せない。ここから逃げ出したい。無数の相反する考えがせめぎ合いながらも、恵里は少女の反応を待つ。すると少女は苛立ちを浮かべながらこちら側を振り向いた。
「……なに? 鈴になにか用なの?」
「き、聞きたいことがあるんだ! き、君の名前って、その、えっと……『山折り谷折りの“谷”に、お口の“口”、猫ちゃんがつけてる“鈴”』で合ってるよね!?」
前の世界で初めて会った時に鈴が使っていた自己紹介のフレーズを思い出し、ほぼそのままに尋ねてみると少女は露骨に嫌そうな顔をして首を縦に振った。
「そうだけど……なに? 鈴のストーカーさん? 鈴は用がないから帰りたいんだけど」
「え、あ、その……」
あっさりと肯定されてしまい、恵里はもう何も言えなくなってしまった。鈴はあんな顔をしない。あんな態度なんか取らない。なんで、どうして、と疑問が浮かぶばかりで頭がロクに回らない。
でもかけてくる言葉こそ違えど、雰囲気こそ違えどもその顔と声はやはりあの頃の鈴とどこまでも近くて。目の前の現実を拒否したい気持ちと依然として揺るがない事実で頭の中がいっぱいで。恵里は何も考えられない。ただ全身を震わせるしか出来なかった。
「もういいよね。鈴は帰るよ」
「あ……ま、まっ……」
呼び止めたい。話をしたい。でも何を言えばいいのかわからない。人を操るための言葉ならいくらだって思いつくのに、もう一度友達になるはずの少女にかける言葉はほんのわずかにだって出てくれはしない。結局、遠くなっていく背中を恵里はただ見つめるしか出来なかった。
「――むらさん? ねぇ中村さん、聞こえる?」
「――え? な、ぐも……くん?」
そうしてしばし呆然としていた恵里は、後ろから声をかけられたことにすらすぐには気づけずにいた。
「どうかしたの? だいじょうぶ? 顔が青いよ?」
「え、っと……その」
鈴を見つけたけど雰囲気が違った。たったその一言すら口から出てはくれない。カラカラに乾いた口は陸に上がった魚のように動くだけで、言葉一つ満足に出やしない。そんな恵里をハジメは心配そうに見つめる。
「ねぇ、つらいならほけん室にいこ?」
きっと恵里に何かあった、と感じ取ったハジメはすぐに恵里の手をとり、そのまま保健室へと向かっていく。
「な、何でもないから! 大丈夫だから!」
「だいじょうぶじゃないよ! 今の中村さんはぜったいだいじょうぶじゃない!」
普段は大人しくて自分の言葉一つでどうとでも転がせるはずの少年を前に恵里は戸惑いを隠し切れなかった。いつもならここまで強情にならないはずなのに。どうして聞き分けが悪いのか。先の鈴とのやり取りで受けたショックも相まって、恵里はただされるがままであった。
「うん、体は何ともなさそうね。でも疲れがたまっているかもしれないから、今日は早く休んだ方がいいわ」
そうして連れてこられた保健室にて先生から簡単な触診を受け、ほっとひと息を吐くハジメとは対照的に恵里は未だに呆然としていた。家族が迎えに来るまで面倒を見るか、家まで送るかどうかした方がいいと先生がハジメに伝えると、最後に二人にあんまり長居しないようにと告げて書類に向き直った。
「中村さん、お家に帰れる? もし無理なら僕もいっしょに行くから」
そう言って差し出してきた手を恵里は掴めずにいた。これがもし父のものであれば迷わずに手を伸ばしただろう。だが、相手は駒として利用しようとしているハジメである。弱みを見せてしまったら。つけ入る隙を与えられたらどうなる。ハジメの気遣いや時間の経過でほんのわずかに生まれた余裕が計算することを許してしまった。だからこそ、その手を取れない。
「……大丈夫だって。南雲くんに気遣ってもらうほどじゃ――」
硬い表情のまま、やんわりとそれを拒絶しようとするとすぐに恵里の左手が包まれた。一体何が起きたと視線を向ければ、自分の左手をハジメが両手で覆っていたのだ。やっている相手に視線を向ければ、ハジメが今にも泣きそうな顔で恵里を見ている。どうして、と問いかけるよりも前にその答えは返ってきた。
「おねがい。今の中村さんがつらそうだから、だから――僕をたよってよ」
今にも鼻をすすりそうになりながらハジメは恵里をじっと見つめていた。友達だからなのか、それとも好きになったからなのかはわからない。だが自分を好きになってくれた人が苦しそうにしているのをただ見ていられない。よくわからない感情に動かされるまま、ハジメは恵里の手を握り続けている。
「あ……うん」
恵里は動けなかった。敵意でもなく。悪意でもなく。両親が向けてくるようで違う純粋な好意を、むき出しの善意を向けられた恵里はそれにうなずくしか出来なかった。そうしてハジメに手を引かれ、学校を出て通学路を歩く中、恵里は考え事をしていた。
(ここは別の世界なのかな)
時折心配そうにハジメが見つめてくるが、今の恵里はそれに気づくこともないままひたすら考え事にふけっていた。
(あの事故の原因になった車は記憶の通りに来た。でもウチの近所とか、ここらの町並みってこんな感じだったっけ? 鈴だってあんなネクラだったし……ボクの知っている鈴はあんなヤツじゃない。あんな性格のはずがないんだ)
単に過去に遡った訳でなく、別の世界に来てしまった。だから仕方がない。鈴も自分のいた世界とは違うからあんな性格なんだ。仕方ないんだ、と自分に言い聞かせるように根拠のない理屈を出し続ける。
「ねぇ中村さん。よかったら話、聞くよ?」
そんな時、意を決したハジメが話しかけてきた。立ち直るどころかふさぎ込んでいる様子の恵里を見て、助けたいと思って発した一言が彼女の足を止めた。どうすればいいのか。頼っていいのか。ごまかすべきか。その瞳には迷いが映っていた。
「さっき中村さん、だれかとお話してたよね? 遠くから見えたよ」
どうすべきか迷っているとハジメから思いもよらない言葉が出てきてしまい、恵里はうつむいた。あの化け物ならば既に想像はついているだろうと恵里は乾いた笑みを一瞬だけ浮かべると、何があったかを話し出した。
「……うん。鈴と、会ったんだ」
「そう、なの?」
恵里の雰囲気に違和感を感じたハジメは思わず尋ね返す。探していた人に会えたのに少しも嬉しそうには見えなかったから。きっと辛そうにしていた原因がそれなんじゃないかとあたりをつけたからだ。そしてそれは当たっており、恵里は重々しくうなづいてから続きを話す。
「でも……でも、違ったんだ。ボクの知ってる、鈴じゃなかった」
その言葉にハジメはただ無言でうなずき返した。出会ってまだ数週間しか経ってないからお互い昔の話はしていないし、だからこそ余計なことを言うべきじゃないとハジメもわかっていた。だから恵里が続きを話してくれるのを手を握りながら待つ。きっと、話してくれると信じて。
「ボクの知ってる鈴はあんなネクラじゃなかった。明るくて、誰とでも仲良くするような奴だった。なのに、なんで? どうして、なの」
口ぶりからして二人が本当に親しかったのだろうとハジメは察する。きっと何かあって昔と違う性格になってしまったのだろうということも――そんな時、恵里の瞳から雫がこぼれた。
「ボクは、どうすればよかったのかな」
それは後悔だった。
「どう声をかけたらよかったのかな」
嘆きであった。
「ただの人違いだと思って、見なかったことにすればいいのかな」
そして、諦めと悲しみであった。
そんな力なくうなだれる恵里を見て、ハジメは必死になって考える。こうして聞いた限りでは自分よりもずっと鈴という少女を大切に思っていることは嫌になるほど理解できた。その事で胸がチクチクするのが気にかかるものの、『自分とつき会って欲しい』と頼み込んできた女の子がしゃくり上げながら涙を流しているのを見れば辛くなんてなかった。だからひたすら考える。今まで見た本で、小説で、漫画で、何でもいいから弱々しく泣いている子を助ける手段を求めて――そうして出せた答えはとてもシンプルなものであった。
「ねぇ、その……もう一回、すずって子と友だちになれないの?」
あまりに簡単であまりに稚拙。そんなものしか出てこなかったものの、その一言で恵里は顔を上げた。
「とも、だち……?」
「うん。だって、前は友だちだったんだよね? それに中村さんのことがキライになったんじゃないなら、やってみたらどう、かな?」
そうハジメが言うと恵里はまた顔をうつむかせ、か細い声で問いかけた。
「できる、かな」
「わからない、けど……しないと友だちになれないよ」
かすかに震える恵里にたどたどしくもハジメは返す。少しでも目の前の少女の力になれるように。
「なりたいよぉ……」
「なろうよ。僕も、おてつだいするから」
ハジメがそう伝えると、恵里はまたしゃくり上げる。そして頬を幾筋もの涙が伝い――ハジメに抱きついた。
「すずと……すずとともだちになりたいよぉ! ぼくのそばにいてくれたすずと! いっしょがいい!! ちがってもいいからぁ!」
涙があふれ、嗚咽は止まらない。ボロボロと大粒の涙を流す恵里をハジメはやわらかく抱きしめた。きっとそれが彼女のためになると信じて。彼女の支えになれたらと願って。少しだけもやもやが晴れ、何かが満たされるのを感じながらハジメは恵里が泣き止むのをただじっと待っていた。
「……あのー、中村さん?」
そしてひとしきり泣き、感情の整理がついた恵里が次にとった行動はハジメの胸に顔をうずめることであった。心なしかさっきよりも強い力で抱きついてきてるため、ハジメは軽く吐きそうになるがこれを我慢。ここで引きはがそうとするほど空気が読めないわけでもないし、力がないからである。
(失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した! あぁぁぁああああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁああおのれ南雲ォおおぉぉぉ!)
一方、恵里は羞恥心やらなにやらで頭の中がいっぱいであった。隙を見せたがために計画に支障が出るかもしれないだとか、借りが高くつかないだろうかとか、そんな懸念よりも恥ずかしさで頭がおかしくなりそうになっていた。とにかくひたすら恥ずかしくて死ねる。もう羞恥心だけで自分は砕け散ってしまうのではないかと錯覚するほどに恵里の頭はめちゃくちゃになっていた。
何せ往来で漫画みたいなことをやってしまったのである。年相応の子供ならまだ多少はダメージが低かっただろうが、十何年と生きていた恵里からすれば今すぐ記憶から抹消するか自殺するかのレベルにまで及んでいた。
なお、こうしてハジメの胸に顔をうずめている間もこの通りから視線が向けられている気配を感じているためダメージは蓄積中である。もし下手に頭を上げようものならそれらが全て微笑ましさに溢れた眼差しだと嫌でもわからされて確実に発狂するだろうことは恵里も理解していた。
「な、中村さん? そのー、そろそろ行こ? 僕もちょっとはずかしいから……」
「…………………………………………うん」
恥ずかしさのあまり、もう考えるのも億劫になっていた恵里は黙ってハジメに連れていかれるのであった。
「ありがとう南雲君。恵里を家まで送ってくれて。良かったら寄っていったらどう? ジュースぐらいなら出せるから」
「あ、ありがとうございます……えっと、でも」
道中無言になった恵里を無事中村家に連れてくることが出来、恵里の方も調子が戻った様子であったためハジメもこのまま別れるつもりであった。が、そこで外の洗濯物を片付けている最中だった幸と出くわし、どうして家に寄ったか理由を尋ねられることに。そこでていねいに答えた結果、幸から感謝されて家に寄らないかと言われ、どうしようかとハジメは恵里の方を見る。
「……いいよ。お母さんが言ってるんだし、お礼しないと」
恵里もちょっとしたもてなしをするぐらいはやぶさかではなかった。家まで連れてってくれたのだし、飴の一つでもくれてやらないとまずいだろうとは考えていたからだ。まだ少し恥ずかしさが残る中、恵里はハジメに目配せをして入るよう促せば、ハジメも少し緊張した面持ちで中村家の玄関をくぐるのであった。
「ここにジュース置いておくから。私のことは構わなくていいからね」
リビングに通され、二人が備え付けのイスに座るとすぐ幸からリンゴジュースと菓子入れを出される。ちなみに菓子入れにはナッツ類の入った小袋がいくつか入っていた。
「どうすれば、よかったのかな」
お互い何度かジュースを口にし、ハジメがナッツの小袋に手を伸ばそうとした時、恵里はふとそんなことを口にした。ハジメは一度手を引っ込め、話の続きを待った。
「取り付く島もない感じでさ、何を言っても届かない気がして……ねぇ、南雲くんはどう思う?」
あの時のことを思い出し、また弱気になっている恵里を見てハジメはまた頭を悩ませた。ハジメからしてもあの時の二人の雰囲気はいいとは思えず、ああして恵里が放心していたことを考えると相当冷たくあしらわれたのはすぐ想像できたからだ。だとしたらどうしようか、とウンウンうなっているとある妙案がハジメの頭に浮かんだ。
「ねぇ、中村さん。ちょっと思いついたことがあるんだけどいい?」
恵里はそれに黙ってうなずくと、その妙案を耳打ちされる――その途端恵里は大きく目を見開き、勢いよくハジメの方に顔を向けた。
「す、すごいよ南雲くん! こんなこと考え付かなかったよ!」
「こ、これぐらいでよかったら……よかった。中村さんの力になれて」
えへへ、とはにかむハジメを見つつ、恵里は改めて心の中で驚いていた。いくらその場にいなかったとはいえ、よくこんなことを考え付くものだと感心したからである。少なくとも今の自分では到底思いつかないだろうし、たとえ思いついたとしてもそれは自分では難しいのではないかと思えたからだ。
(まぁコイツがやったところで気休め程度なのかもしれないけれど、わずかでも確率を上げられるならやるに越したことはないね)
それが確実さの欠ける方法であることは理解している。だが頭を下げるだけ以外の方法をハジメは出してくれたのだ。いくら成功する可能性が低いとはいえ、それを鼻で笑おうとは恵里は思わなかった。
(やっぱりコイツを味方にしてて助かったよ……今回ばかりは本当に感謝しないといけないね)
そばにいるハジメを見やれば頬を染めており、そんな様子にほんの少しだけ頬が緩んでしまったのを自覚しながら恵里は思う。もし鈴と友達になることに成功したのならちょっとしたお返しぐらいはしてやろうかと考えながら。
「それじゃ、今から適当な紙を出すからちょっと待ってて」
「うん。おわったら僕があずかるから」
そう言うと恵里はすぐにランドセルの中をひっくり返し、もう使わないでいい紙を探しに移る。ハジメも恵里を眺めながらこの作戦が上手くいくことを願う――そんな二人の様子を幸は微笑みながら見守るのであった。
エリリンのデレるスピードが速い気がする(小並感)