では改めまして読者の皆様への盛大な感謝を。
おかげさまでUAも266518、お気に入り件数も1049件、感想数も852件(2026/7/19 16:16現在)となりました。ありがとうございます。こうして皆様がご贔屓にしてくださるおかげでここまで進めました。感謝です。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり感謝いたします。また書き進める力をいただきました。
今回の話を読むにあたっての注意としてちょっと短く(約9000字)なっております。では上記に注意して本編をどうぞ。
『アルヴめ貴様、余計な真似をしてくれたな!』
「ひっ」
ところどころ亀裂の入った白亜の空間で、神を詐称していた者の罵声が
『貴様が余計なことを語らねば魔人族どもの祈りも集められたものを! こうなるなら教えなぞしなかった!』
わめき散らしながらエヒトは手の部分に当たる影を振り下ろす。途端に座っていた玉座の肘掛けのヒビが深くなり、また先端の部分が砕けてその場に落ちていった。
「も、申し訳ありません!」
神域の最奥に来てからアルヴヘイトは深く頭を垂れ、今もこうしてエヒトに詫び続けている。だがそれでもエヒトは己の魂を焦がすほどの苛立ちを抑えられず、もやのような体全てを震わせてアルヴヘイトを見下ろしていた。
『我がどれだけみじめな思いをしたかわかるか』
顔面蒼白になりながらも膝をつき、謝罪を続けるアルヴヘイトにエヒトは声を震わせながら声をかける。
『中村恵里達から逃げ回り、この神域を這いずらねばならなかったことを!』
そして白銀の魔力を暴発させ、己のいたひな壇を破壊しながらエヒトは声を荒げた。
かつていた世界を捨ててトータスに君臨し、何もかもをほしいままにしていたはずなのだ。なのに見下していた存在にいいようにされ、己の理想を体現したこの空間に逃げ込まなければならなかった。
『我が飼い慣らしていた魔物がことごとくトータスにこぼれ落ちていくのを黙って見ていなければならなかったことを!』
しかしこの神域すら崩壊の一途をたどっており、余計に己の惨めさをエヒトは痛感しなければならなかった。空間の至る所に亀裂が入るか歪曲しており、もう長く保たないことをエヒトは悟ってしまっている。また自分が造って
『この我の怒りがわかるかアルヴヘイトぉ!』
自身のプライドをズタズタにされ、これまで積み上げてきたもの全てがひっくり返されたことにエヒトは我慢がならなかった。
「申し訳ありませんエヒト様ぁ!」
ひどく声を震わせながらアルヴヘイトが許しを請うが、それでもこの失態を償うには足らないとエヒトは余計に激情に身を焦がしてしまう。また自身が座っていた玉座も音を立てて崩れ、怒りを覚えながらもエヒトは立ち上がる。
『期せずして我の魔物によるショーが始まろうとしていた。それは良い。人間族どもが必死に祈って我を回復させるはずだったからな』
エヒトは怒りで声を荒げながらも虚空に向かって手を伸ばした。そしてトータス各地が映った無数のパネルを動かし、その何枚かをアルヴの前へと移動させる――いずれも無数の浩介が倒れた魔物を背に、香ばしい言動をしながら村や町へと戻っていく姿が映し出されていた。
『中村恵里の徒党の一人がそれを台無しにしてくれたのだ! 我の愛する魔物を八つ裂きにしたのだ! どう償う気だ、アルヴヘイトぉぉおぉ!!』
「も、申し開きも出来ませんっ」
お気に入りの
――大丈夫ですか皆さんっ!
――ここからは僕達が対処します! どうか下がって!
己の眷属に八つ当たりをし、全身を怒りで震わせていたエヒトであった。だがふとパネルから聞こえてきた声にハッとする。散々自分が見下してきた恵里や
――は、反逆者どもっ!
――やられて死にそうになってたくせによく言うぜ。ま、信治様の活躍しっかり見てろ!
――よーし、やっちゃいますよぉー! 私だって強くなったんですから!
――どうして、亜人が俺達を……。
他の村や町を映したパネルも神域で飼っていた魔物が襲いかかる寸前であった。或いは懸命に抗おうとして無惨に死んでいく人間達の姿が映ったものばかりだった。だがいずれのパネルにも恵里達や浩介が現れ、襲われたり死にかけた人達を助けては縦横無尽に暴れていく様が映し出されている。
『……またしても、邪魔してくれ――ッ』
エヒトは一層怒りをたぎらせ、白銀の魔力をそこかしこへと放つ。しかしそうやって癇癪を起こしていられたのもほんのわずかな間だけであった。
――なんで、俺達を助けたんだよ。
――よりによって、あいつらに救われるなんて。
――あいつらが本当の、神の使徒なんじゃ……。
そこに映っていた人間達が次々と恵里達のことについて触れ出したからだ。住民達の意識が神として君臨した自分でなく、利用していた奴らへと段々と向いていくことにエヒトは何故か
――俺達は、何を見てたんだろう。
――は、反逆者達の演技だ! その、はずだ……よな?
『な、何故だ……』
自分は絶対の支配者であり、信仰の対象である。そうなるようにトータスを動かしていたはずなのに、すがりついて必死に祈るよう状況を整えていたはずであった。だが目の前に映る幾つもの光景はエヒトの想定したものから外れようとしている。そのことに空恐ろしいものを感じ、エヒトは腰を抜かしてわなわなと震え出す。
――どうして……必死に祈って来たのが反逆者たちなのですか?
――エヒト様は私達を見捨てられたのですか? どう、して。
――あたし、なにを信じればいいの……? エヒトさまは、すくってくれないの?
状況は更にエヒトにとって都合の悪いものへと変わっていく。各地を映したパネルからぽつぽつとエヒトに対する失望の声が聞こえてきたからだ。ほんの数枚そこらしか聞こえなかったはずの声は、徐々に数を増して全体の一割ほどから流れるようになってしまう。
『わ、我は神だ! 祈れ、祈れ人間ども! 我を崇拝せよ! 崇めよ! 畏怖せよ! 我に許しを請え!』
足下が崩れていくような感覚に襲われ、エヒトは思わず声を荒げてしまう。そうやってパネルに向かって叫ぶものの、その動きは止まってなどくれなかった。自分に向けられていた祈りが減っていき、回復や神域の維持のための力が少しずつ消えていくのをエヒトは実感していた。故に偽りの神は
――なんだかんだアイツら、俺達に手出ししてこなかったよな。
――この際反逆者でもいい! 頼む! 助けてくれ!
『よ、よせ。やめろ』
遂には反逆者として汚名を着せたはずの恵里達に好意的な目を、すがろうとする者達が現れ始めたのである。想定すらしてなかった事態を目の当たりにし、エヒトは一層もやのような姿を震わせる。
――あぁもう皆ガリガリじゃないのよ! すぐ炊き出しをするからちょっと待ってなさい!
――う、嘘だろそんな……あ、あぁ。ありがてぇ。ありがてぇよぉ……。
――皆さん祭壇の近くに集まってくださーい! ちょっとしたスープですけど、お配りしますんでー!
――うめぇ。もう、これに毒が入っててもかまわねぇ。こんな、こんな美味いもん食って死ねるなら……。
恵里達に好意的な目を向ける流れは、彼女達が炊き出しを始めたことでより加速していく。自分達に食事を振る舞ってくれたことに感謝の言葉をつぶやく。暖かく美味しい食事を出してくれたことに涙する。そんな様が全てのパネルに映し出されたのである。
『や、やめろ! そんなことをするな! 奴らごときにすがるんじゃない!』
それと同時にエヒトは信仰が一層失われていくのをひしひしと感じ取っていた。このまま誰も祈らなくなってしまえば自分は消えてしまう。そんな危惧を抱いたエヒトはただ焦りに満ちた声をパネルに向かって叩きつけるだけであった。
――俺達の祈りは無駄だったのか? もう、どうすれば……。
――親父達が死にそうになりながらこの祭壇作ったってのに……エヒト様、何もしてくれねぇなんて。
『ち、違う! 神である我を愚弄するな! 我が貴様らを支配してきたのだぞ! 不敬だ! 侮辱だ! 訂正しろ。祈れ、祈れぇえぇぇ!!』
「……はは。こんな、はずでは」
そこかしこの映像からは次第に絶望とエヒトに対する失望の声が増えていく。もう神域の維持に必要な力すら集まらず、エヒトは悲鳴と大差ない怒鳴り声を上げる……壊れて消えそうな世界にいたのは、叫びを上げる人型のもやと呆然として何も出来ない吸血鬼の男だけであった。
――時は少し遡る。帝国目がけて進む未確認の魔物が三十匹ほど現れたという知らせに、ガハルドは数百の精兵とトレイシーら皇族を何人か引き連れて進軍。郊外の平野にてコウモリの羽を生やした獅子のような魔物と抗戦していた。
「こいつで、どうだッ!」
「ギィイイィィ!?」
サソリのものと同じ尻尾を袈裟懸けに、更に一歩踏み込んだガハルドは魔物を逆袈裟に切り上げる。肩で息をしていたガハルドは魔物が死んだかも確認することなく、すぐさま周囲に目を向ける。未だ
「ぐっ、このっ!」
「くうっ!……エヒト様は、我らを見捨てたというのか」
「普段からもっと熱心に祈っておけば、こんなことには――ぐわっ!?」
近くにいた副官のベスタや近衛兵達は武器や盾を使い、どうにか魔物の尻尾の突きや飛びかかりなどをいなしてはいた。だが自分と違ってずっと押されたままであり、また何度となく弱音を吐いている彼らの様子にガハルドは苛立ちを更に募らせる。
「ほ、報告、ほうこーく! アーメット隊、ヴァシウス隊壊滅的被害により
「ワーグナー隊、隊長を残してやられたとのことです! 陛下、どうすれば!」
「またかくそがっ!!」
すると小隊の壊滅或いは寸前の報告がまたガハルドの元に届いた。引き連れた戦力の四割が
「右に跳べ、ベスタぁ!」
「っ! 陛下!」
ベスタに指示を出しつつもガハルドは魔物に不意打ちをかけようとした。ベスタはすぐに動いてはくれたものの、獅子のような魔物は羽をはためかせながら素早く飛び退いてしまう。とはいえこれで立て直す時間を作れたか、とガハルドは安堵のため息を短く息を吐く。
「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません!」
「使ってるのがサウスクラウドの奴じゃなければとっくに死んでんだ! 気にしてる余裕なんてねぇだろうが!」
ベスタがいたたまれない様相で謝罪してくるも、ガハルドは被害が『この程度』で済んでくれている理由を彼に叩きつける――今自分達が使っている全ての武具に後退した兵士に使わせている回復薬。それら全てがサウスクラウド商会から提供されたすさまじい代物のおかげであるということをだ。
「ゼラディン隊復帰しました!」
「エフゲニー隊戻ったとのことです!」
「両方ザラク隊の援護に迎わせろ!」
やられはしても防具はまず壊れないし、簡単に死なない。たとえ内臓がやられたり骨が折れ、手足が切り落とされたところであの回復薬で瞬時に元に戻ってしまう。魔物と鍔迫り合いをしつつも、もう何度目かわからない復帰の報告にすぐさまガハルドは指示を飛ばす。
「「ぐっ!」」
「エヒト様! どうか、どうか我らに救いを――がぁっ!」
「ちぃっ!」
魔物が振り下ろしてきた両の前足をベスタと共に剣で受け止め、反撃を仕掛けようとするガハルド。だがその時、近衛兵の叫びと悲鳴、そして肉が潰れてくぐもった音をガハルドは横で聞いてしまう。眉間のしわを深くし、歯を強く噛みしめながらガハルドは踏ん張った。
(こんな時に、なんで俺らを助けねぇ!)
怒りで顔をゆがませていたガハルドの脳裏にとある壁画が浮かんだ。帝国の教会にあるエヒトと神の使いの姿を描いた宗教画である。
どこか神々しさを感じさせながらも慈しむように微笑むエヒトの姿が描かれているのに、その肝心の神は手を差し伸べてくる様子も無い。ひどく熱心という訳ではなかったものの、それでもガハルドはこの苦境を前に苛立ちを隠せなかった。
「陛下、このままでは!」
「あぁ。一旦距離をとる!」
チラッと目を配れば、まだ他の近衛兵が魔物を食い止めてくれている。ならばこの隙に立て直すしかないとガハルドは思案しており、焦りをにじませたベスタの言葉にうなずく。
「ったく、俺らの祈りは足りねぇってか。えぇ!?」
ベスタと一緒に魔物を強く押してから距離をとり、再度剣を構えたガハルド。エヒトへの怨嗟を吐き出しながらも強引に魔物の懐に入り、背中に焼けるような痛みを感じながらも相手の首を刎ねる。
「陛下ぁー!」
「さわ……ぐな!」
剣を支えにその場で膝をついたガハルドの耳にベスタの焦燥に満ちた声が届く。しかしガハルドは目がくらむような痛みと吐き気に手を震わせながらも一喝して黙らせる。そして腰に提げていた小さな瓶を掴み、フタの真下の部分を剣に添えた。刃の面に沿って瓶を滑らせ、切断面を口につけてガハルドは中身を煽る。
(……ったく。とんだ外れくじを引かされた気分だぜ)
痛みがスッと引いていくのを感じ、ガハルドは剣の柄を強く握りながらゆっくりと立ち上がっていく。その最中、こうなった経緯を思い出してガハルドは皮肉げに笑う。
(勝手に現れて、勝手に倒れて、おまけに適当なこと言って消えやがって。今も出てこねぇたぁとんだ奴らだ)
ガハルド達が魔物討伐に出たのも元々は民衆の不安を鎮めるためであった。
祭壇に現れた神の使徒がいきなりバタバタと倒れ込み、また起き上がってすぐに祈るよう告げて空へと帰ったという知らせをガハルドは聞いている。このことで民衆が不安や絶望に苛まれているという知らせや今回の魔物の出現が被り、こうして打って出たのであった。
(……王国もそういや見捨てられたんだったな)
そうして別の魔物と一進一退の攻防を続けながらもガハルドはふと考える。今の状況とかつて王国が陥った苦境はどこか似ている、と。敵が帝国と公国の連合か魔物かの違いはあるが、強大な存在に脅かされているのは同じであると。
(よくもまぁこんな状況から立ち直れたもんだな……けどな!)
故に王国の強さに内心舌を巻きながらもガハルドは眼光を鋭くする。そして目をかっ開いて相手の懐へと踏み込んでいく。
「ここで俺らがくたばったら帝国はどうなる! もう神や使徒なんかアテにすんな! 人間の、帝国の人間の意地を見せろぉ!!」
噛み砕かれるよりも前に魔物の胸に剣を突き立て、ガハルドは叫ぶ。祈り、願い、すがっても救いなどしなかった存在につばを吐く。この国に生きる『人間』として戦うよう呼びかけたのだ。
「流石ねんお父様♥」
そうして発破をかけた直後、ガハルドの耳に聞き慣れない気色悪い声が届いた。寒気でぶるりと震えると同時に、真横からその声の主らしき何かが目の前の魔物を両断する。
「い、いや、誰だお前……」
改めてみても異様としか言いようのないその存在にガハルドは顔を引きつらせた。なにせ赤のゴシックドレスに金属製の胸当てを身につけた二メートル大の筋骨隆々の大男で、しかもそいつ背丈と変わらぬ大きさの剣を持っている。その上緑のツインテールにカイゼル髭という形容しがたい姿をしていたからだ。
「あら。この姿は初めてだったわ――皇太子バイアス改め、漢女のビアースベルよん♪」
「ぉえっぷ……」
ガハルドの言葉にその大男があらやだとばかりに口元を手で覆う。そしてほんのりほほを染めながら軽く舌を出してウィンクし、とんでもないことを明かしてきた。すさまじい吐き気に襲われたガハルドであったが、ここで膝をついたら魔物の格好の的になると口を手で押さえて必死に堪える。
「もう! 実の
「……頼むから悪い冗談はやめろ。マジで勘弁してくれ」
「……覚悟しとけよ親父」
しかも自称息子とやらは剣を握ったまま両手をグーにしてほほの横に添え、ぷりぷりと怒ってきたのだ。その仕草と声が気持ち悪すぎてガハルドは意識が遠のきそうになってしまう。それでもやめるよう化け物に言い返せば、すさまじいしかめっ面をしながら聞き覚えのある声と口調で恨み節をつぶやいた。ガハルドはさめざめと泣いた。
「ま、今はここをどうにかすることよね――じゃ、ハジメきゅんに光輝きゅん。それと赤薔薇隊の皆ー、こっから巻き返すわよぉー!!」
「「了解!」」
『了解よん! お姉様ぁー!!』
そうしてこの世で一番の絶望を噛みしめていたガハルドを横に、ビアースベルはキリッとした顔つきとなって大声で指示を出す。その途端、どこかから現れた反逆者二人に息子のなれの果てとほぼ同じ格好をしたヤバい奴らが大挙して押し寄せてきた。その勢いのまま魔物達を討ち取り始めたのである。
「……神なんていねぇな、ベスタ」
「えぇ。とっくに死んでいたようですね」
どう形容していいかわからない一団が大暴れする様を見て、ふとガハルドは肩を落としながらつぶやく。ベスタの力ない声にも、出来の悪い喜劇のような光景にもガハルドはもう反応しなくなったのであった……。
「ただいま戻りました-!」
エリセンの魔物討伐に飢えていた人達向けの炊き出しを終えた重吾は、他の面々と一緒に玉座の間へと向かう。そうして大介達が扉を開くと同時に光輝が戻った旨を大声で伝える。すると王国の首脳陣の視線が一斉に自分達に向けられたことに重吾も気づいた。
「皆様。このトータスを救って下さったこと、誠に感謝いたします。どれだけ感謝してもしきれませぬ」
エリヒド王はすぐに玉座から立ち上がって深々と頭を下げ、またリリアーナや他の大臣らもそれに
「とりあえず各地の村や集落もしっかり対処しといたよ」
「倒した魔物の素材も後でお針子さんに送っておきます。それと各地の状況なんですけれど――」
そんな重吾の思いとは別に恵里達は口々に報告を始めていく。魔物による被害はほぼゼロに留めたものの、それでも多くの人間が絶望に暮れていること。また痩せこけていた人達に向けて炊き出しを急遽行ったことなどを彼女達は報告していた。
「やはり、エヒトに従わされた弊害が出ておるか……」
「皆様が炊き出しをしてくださったおかげですぐに飢えて死ぬことはないでしょう。ですが……」
(……やはり、このままじゃダメだ)
するとエリヒドを筆頭に首脳陣の面々は渋い顔を浮かべる。取り繕いもしてない辺り、今の状況がどれだけ厳しいかを重吾は改めて認識した。だからこそ無意識に軽く手を握りしめていたことに重吾は気づけない。
「……冒険者や兵士達も南雲のアーティファクトのおかげで平原に集めることが出来た。
思わずため息が出そうになるのを我慢しつつ、重吾も戦力を集めた旨を首脳陣に伝える。ひとまず対神の使徒用の戦力をかき集めることには成功していた。だが彼らも村人達ほどではないにせよやつれており、またどこか心許ない様子でこちらについて来たのだ。そのことに不安を感じつつも、プロパガンダにあたっていたリリアーナにその成否を尋ねる。
「もう少し、もう少しだけ時間をいただけますか」
――助けてくれたのはジュードのあんちゃん達だけだったな。
しかしリリアーナのどこか苦しげに、軽く目を伏せながら答えた様子を見て芳しくないことを重吾は悟る。その時、重吾の脳裏にある一言がよみがえった。重吾はギュッと手を強く握った後、意を決した様子でリリアーナの目をしっかりと見つめる。
「……リリィ、何か肩書きがある人間がいれば成功させられるか」
そしてやや声をこわばらせながら重吾はあることを問いかけた。するとこの場にいた全員の視線が一斉に自分に向けられ、そのことに重吾は心臓が跳ねそうになってしまう。
「な、なぁ重吾……何、やる気だよ」
「いや、その……他に方法があるかもしれないし、リリアーナ姫に任せたらいいんじゃないか?」
「そ、そうだよ! 永山君ばっかり苦しまなくったって……」
恵里だけはあまり興味なさげにチラチラ見ているものの、ハジメや光輝らそして王国の面々は心配そうに見つめてきている。健太郎達に至っては自分を止めようと問いかけたり説得したりしてきていた。
「……あぁ。ありがとう」
自分と苦楽を共にしてくれた皆に優しい目つきで見つめながら重吾は短く返す。そしてこの場にいた全員の顔を見渡した後、重吾は軽く息を吐いてから鈴の方に目を向けた。
「……谷口、頼みがある。俺の部屋とここを繋いでくれ」
「繋ぐ、って……ミュウちゃんとレミアさんに謝る気?」
本題を切り出す前に重吾は筋を通すべく、鈴にあることを頼み込む。鈴もオウム返しをしてから数度目を泳がせた後、目を軽く細めて重吾にある問いを投げかける。自分がやろうとしていることをすぐに察され、軽い恐怖と後ろめたさを感じて重吾は軽く背筋を震わせた。
「……当然だ。二人に、いやあの子達にも悪いのはわかってるからな」
だがそれでもやるべきだと考えると、重吾はゆっくりとうなずいて返す。自分がお世話をしていた子供達にも後で謝らなければと思いつつも、重吾は王国の面々を見ながら話を切り出す。
「……陛下。俺にもう一度やらせてください」
「重吾さん、まさか」
その直後、エリヒド王だけでなくリリアーナや大臣らもひどく気まずそうな顔つきで重吾を見つめ返してきた。リリアーナのつぶやきに重吾も真剣な表情を浮かべ、己のすべきことを明かす。
「……あぁ。俺は、勇者に戻る。戻って、皆の希望になる」
偽りの勇者に戻る。
それを宣言した途端に玉座の間がにわかに騒がしくなるが、重吾の顔つきは変わらない。ただじっと凜々しい顔つきでこの場にいた皆を見つめるだけであった。
続きは1週間でなんとかなればいいなと思ってます(出来るとは言ってない)
ようやく重吾の書きたいところを書けます。