あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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大分遅くなりましたが、ようやく完成しました! あ、タイトルから察して下さると助かります(白目)

では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも269706、お気に入り件数も1051件、感想数も855件(2026/9/23 22:11現在)となりました。誠にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり感謝いたします。最後まで突っ走るための力をいただきました。

それでは本編をどうぞ。


幕間七十八 未来は今、人の手に渡る(前編)

 恵里達が神域へと突入するのとほぼ同時、空を破り捨てるような音が平原にいた重吾達の耳に届く。それに気づいた重吾が視線を上げれば、雨のように岩の塊が降り注ぐ様が彼の目に映った。

 

「……やっぱり、やり過ぎだろう」

 

 あまりの惨劇に重吾も冷や汗を垂らし、口元を引きつらせながらつぶやいてしまう。直後、空から七つの熱線が降り注ぎ、また幾重にも枝分かれして空を焼いたのを目撃してしまった。背筋に冷たいものが走った重吾は体をぶるりと震わせる。

 

(……なぁリリィ、まさかノリノリで使ってないだろうな?)

 

 今も向かってきているであろう星の数ほどの神の使徒、それを蹴散らしているであろう兵器達を見て重吾はふと思う。空を切り裂いて進む隕石の合間を縫って熱線が放たれている辺り、運用しているリリアーナがここぞとばかりに使っていないかということをだ。情け容赦なく神の使徒を殺す理由はわかるにしても、やり過ぎじゃないだろうかと重吾は軽く引いてしまっていた。

 

「おい勇者さんよ。まだ敵は来てるんだぞ! 気ぃ抜いてんじゃねぇ!」

 

 しかし重吾はすぐにアレコレ考えるのを止める。後ろの兵士達から声をかけられ、空の彼方を見てハッとしたからだ。あの闇からわらわらと神の使徒らしき影が出てきている。こんなことをしてる場合じゃ無いと重吾は数度頭を横に振ると、兜に付与された“魔力操作”を経由してある魔法を使う。

 

“全隊、構え!”

 

 詠唱無しで発動した“魂導”で重吾は全ての兵士達に命令を出す。そして自分も渡された対物ライフルを構え、大雑把に狙いをつける。

 

“――撃てぇ!”

 

 空の彼方にあった無数の点は数え切れないほどの染みへ変わり、星の数ほどの小さな影となり、そして押し寄せるおびただしい人の群れとなってこちらへ迫ってきていた。

 

 息を呑んだ刹那、重吾は魂魄魔法で指示を出すと同時に引き金を引く。耳栓越しに響くけたたましい音と共に視界を覆わんほどの弾丸が、何百ものミサイルが神の使徒へと向かうのが重吾の目に映った。

 

“……引き金を引き続けろ! 弾切れならすぐに弾倉を替えるんだ! ちゃんと訓練した皆なら出来る! この戦いに勝つんだ!”

 

 一本の糸のように途切れることなく続く幾つもの弾丸の軌跡、そしてその先で血しぶきらしきものが上がっているのを見ながら重吾は兵士達に指示を出し続ける。ハジメが作って渡してくれた数え切れないほどのライフルにガトリング砲、ミサイルランチャーがあれば勝てると確信した重吾であったが、遠方から迫る銀のスコールに思わず息を呑んでしまう。

 

(まずいっ! このままじゃ――)

 

“改良型大結界、起動!”

 

 無数の神の使徒が仕掛けてきた砲撃に思わず重吾は背筋が粟立った。だが突如脳裏に聞こえたリリアーナの号令から、王国を守護するアーティファクトの名前が出てきたことに重吾は安堵のため息を漏らす。それと同時に透明な壁が空を覆っていくのが彼の目に入った。

 

(まったく……南雲達にはもう頭を上げられないな。それと次は――)

 

 恵里達が昇華魔法を取得した後に改良してくれた大結界は、虹色の波紋を広げながらも押し寄せる一切の攻撃を受け止めてくれている。その様を見て重吾の頭に昨晩の会議のことがよぎった。そろそろ打(・)っ(・)て(・)出(・)る(・)べきかと考えると重吾はチラッと手持ちのライフルに視線を落とす。

 

“聖歌隊へ。あなた達の歌で、神の使いだと名乗った人形共を堕して差し上げて下さい!”

 

 すると再度リリアーナの声が“魂導”によって重吾の頭に響いた。それから数秒後、けたたましく響く無数のライフルとガトリングの銃声すら押しのけて、荘厳かつ神聖な歌声が重吾の耳に届く。重吾が目をこらして空を見つめれば、幾億もの紅い光の点がそこに浮かんでいるのがわかった。

 

「――勝てる」

 

 どこか動きが遅くなった神の使徒の群れを見て、思わず重吾はつぶやいてしまう。

 

 未だ数えるのもおっくうになるほどの数の神の使徒がいる。だが現れて早々ライフルなどでの迎撃に成功した。大結界で攻撃を防げた。聖歌隊の働きによって神の使徒全ての動きが鈍っている。何から何まで作戦会議の通りに事が運んでいたのだ。だから段取りの通りに動けば勝てる。重吾は心の底からそう思えたのである。

 

「っ! 結界が!」

 

 そうして勝利を確信している内に空を覆った巨大な結界が音を立てて崩れ去っていく。しかしこれも計画通りであり、これからが自分の番であることを重吾は覚えている。ふぅと重吾は一息吐いてからライフルを地面に下ろし、自身の兜とブーツに付与された“魔力操作”を起動させていく。

 

“奴らが接近するまで皆は撃ち続けてくれ……俺はこれから、あの人形どもを討ちに行く!”

 

 再度“魂導”を使って兵士達に指示を出すと、重吾は腰に提げた鞘からイミテーションの聖剣を鮮やかに抜いた。そしてフッと笑みをこぼすとその場で勢いよく飛び上がり、ハジメ謹製のブーツに付与された“天歩”を駆使して空を駆け抜けていく。が、すぐに重吾は顔をしかめることになる。

 

「やらせません」

 

「っ! 間に合――」

 

“往生せいやぁー!!”

 

 重吾が遙か上空へと駆け上がる中、あっという間に何十もの神の使徒に包囲されてしまったからだ。このままではなぶり殺されると確信し、すぐさま重吾はイミテーションの聖剣に取り付けられたス(・)イ(・)ッ(・)チ(・)を押そうと指を添えた。その瞬間、迫ってきた神の使徒の一人の頭がボールのように跳ね飛んだのである。

 

“何やっとるんやアホぉ! 愛子はんに気ぃ使わすんやない! 後でワイが恵里はん達に怒られるわ!!”

 

「す、すまない!……確か、イナバ――」

 

 更に何体もの神の使徒の頭が血しぶきと共に爆ぜ、あ(・)る(・)理(・)由(・)から目で追えるようになった重吾は足を止めて目をこらす。ウサギのような見た目の愛玩魔物ことイナバが暴れていたのだ。振り返った彼がイヤーカフスをチカチカと光らせながら怒鳴り散らかすと、すぐさまゲートらしき光のもやへと彼は飛び込んだ。

 

(行ったか……愛子先生、すまない)

 

 姿を消したイナバを前に申し訳なさで重吾はいっぱいになる。ふと愛子の護衛にイナバが駆り出されたことを思い出し、先程のゲートも含めて愛子の差し金なのかとふと重吾は再度走り始めつつ考える。すると今度は他の迫ってきた神の使徒どもが脳天を人の腕ほどの枝に貫かれていく様が彼の視界に入った。

 

“行きなさい、永山君!”

 

「愛子先生っ」

 

 胸だけでなく頭、腕、太ももなどをすぐに例の枝が貫いていく。そして方々から来た光線と雷霆が神の使徒を消し炭にし、いつの間にか神の使徒が周囲の空間ごと凍てついて砕け散る。そんな異常な光景を見て重吾はわずかな間呆然とするが、その直後頭に聞こえた愛子の声にハッとする。

 

“ここは私と清水君、ユグドラシルでどうにかします!”

 

 空を走っていた重吾は愛子の言葉に反応するとチラッと上に目をやる。人の姿をとった高さ三十メートルほどの大樹が、こちらに向かって枝を伸ばしているのが重吾にも見えた。

 

「……あいつ、ここまですごくなるんだな」

 

 愛子が変成魔法も駆使して樹の魔物を使役することになったと重吾も昨晩聞いている。だが鉢植えに植えられてのんびりしてるアレがまさかこんな化け物になるとは重吾も思わなかった。目をむいて思わず乾いた笑いとつぶやきが出てしまう。

 

“永山、お前はそのまま突っ走れ! 俺らが道を切り拓いてやる!”

 

 走りながらも少し呆けていた重吾の脳裏に幸利の言葉が響く。見上げればかつてライセン大迷宮を突(・)破(・)する際に使われたバリアに守られた船が、そこかしこから攻撃を放っては縦横無尽に空を駆け巡っているのがわかった。

 

“神の使徒が寄ってきてもイナバと連携して対処します! 私は気にしないでください!”

 

“――わかった。頼む!”

 

 また愛子の方からも連絡が来たことからきっと大丈夫だと安心し、重吾はこれ以上呆けてる訳にもいかないと気を引き締め直す。そして息を少し荒くしながらも全速力で上空の彼方へと駆け上がっていった。

 

「偽物の勇者ですか」

 

 ひたすら空を上り続けていった重吾は、遂に神の使徒をちゃんと認識出来るレベルまで近づくことが出来た。途端、赤黒いもやに包まれた無数の神の使徒の一割ほどは砲撃を取りやめ、二つの剣を構えながら重吾の下へと向かってくる。

 

「まがい物如きが勝てるとでも」

 

「ふぅー……そうだな。確かめてみるといい」

 

 冷ややかな目つきで向かってくる神の使徒の一人のつぶやきに、重吾は鼻で笑いながらもただ息を整えるだけ。そしていかめしい顔で見つめながら言い返す。返事を待たずに神の使徒達は近づき、二つの大剣を振り下ろす。だが重吾はイミテーションの聖剣で難なく受け止めた。

 

「馬鹿な……拳闘家に過ぎない人間なのに」

 

 攻撃を受(・)け(・)流(・)す(・)や否や、即座に横から繰り出された突きを重吾はい(・)な(・)す(・)。背後からの横一文字、両横からの袈裟懸け、真下からの逆袈裟すらも重吾は聖剣で受け、時には避け、鎧であえて攻撃を喰らいながらも弾くなどして対処していく。

 

「勇者にでもなれるよう、鍛えたとでもっ」

 

「な(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)んだ。既にな!」

 

 驚愕でかすかに目を見開いた神の使徒の問いかけに、重吾はただ笑みを浮かべながら答えるだけ――聖鎧に宿った魂魄、光輝とメルドの魂をコピーさせて融合させたものが自分の動きをアシストしてくれている。ちゃんとやってくれているのがわかっているからこそ重吾は笑みを浮かべたのだ。

 

「あり得ない……イレギュラーです」

 

(俺も思う。聖剣に鎧、飯まで全部あいつらのおかげだからな)

 

 神の使徒のわめきに重吾も思わず苦笑する。恵里達が用意したのは改造したまがい物の武具だけではない。食べた人間の能力を底上げする食料型アーティファクト「チートメイト」ももらっていたからだ。妙にうまかったなと思いながらも重吾は方々から迫る神の使徒の攻撃をいなす。そしてイミテーションの聖剣に取り付けられたスイッチを押した。

 

「その光は一体――」

 

 押した瞬間、脇に構えた聖剣からほんのりと黄色を含んだ淡い赤の光が迸る。困惑しながらも斬りかかってくる神の使徒に、重吾は獰猛な笑みを浮かべて叫ぶ。

 

「こういうことだ――“神(・)威(・)”ッ!!」

 

 そして聖剣を横薙ぎに振るうと同時に彼の魔力光――曙色の光の津波が幾つもの神の使徒を呑み込み、文字通り消し去っていった。真ん前にいた全ての使徒が消えたのを見てしまった重吾は、おそるおそる魔改造された聖剣に視線を落とす。

 

「……いやまぁ、最後の戦いではあるんだが」

 

 言わずもがな、この聖剣には“神威”が付与されている。内蔵された魔晶石の魔力を使う回数制限式の切り札とわかってはいたが、ここまで威力が高いとは重吾も思っていなかったのだ。だから重吾は今更ながら手をかすかに震わせていた。

 

「死になさい。イレギュラーっ」

 

「――しまった!」

 

 だがここで背後から聞こえた声に重吾はハッとしてしまう。“神威”でなぎ払えたのは目の前のみ。後ろからの斬撃に体は振り向いてくれたものの、これまで切り抜けた経験から間に合わないと重吾は直感していた。

 

「勇者が気を抜くんじゃない!」

 

 それでもと聖剣で防ごうとした時、聞き覚えのある声が下から響いた。もしやと思って視線を向ければ数体の神の使徒の体が上下に泣き別れした様が、それをやったであろう鬼教官の後ろ姿が重吾の目に入る。

 

「お前はトータスの希望だろうが!」

 

「すいません!」

 

 振り向いたメルドに叱責され、思わず重吾も頭を下げようとしてしまう。が、重吾の視界に迫り来る無数の神の使徒が入り、すぐさまメルドと背中合わせに聖剣を構える。

 

「ったく……やれるな、重吾」

 

 “神威”を使ってから十秒も経ってないはずなのに、もう先程と変わらない包囲網が出来上がっている。気を引き締め直して顔つきを改めた重吾にメルドから声がかかる。

 

「はい!……後ろはお願いします、メルド団長」

 

「活躍はお前がやってくれよ。後でやっかみは受けたくないんでな!」

 

 真剣な声色でしてきたメルドの問いかけに、重吾もまた聖剣をギュッと強く握りながら真面目に答える。メルドはフッと笑うと、軽い調子で返事をしてきた。

 

「……っ。えぇ、やってみせます!」

 

 メルドの砕けた言葉に重吾もつられて聖剣を握る力が少しだけ弱まる。聖鎧に宿った魂からのサポートがないことから、メルドが気を遣ってくれたことに重吾も気づいた。この人には敵わないなと思いつつも重吾は声を張り上げながら神の使徒へと斬りかかったのであった――。

 

 

 

 

 

「どうしたァ! 女の後ろに隠れてなきゃ戦えないってかオイ!」

 

 重吾とメルドが遙か上空で戦っている一方、地上に現れたアルヴヘイト相手に大介達はほぼ一方的に攻め込んでいた。大介は喜悦に満ちた声で迫り来る神の使徒に斬りかかり、またしてもアルヴへと迫る。

 

「エヒト様の眷属たる我まで愚弄するか、小僧ッ!」

 

「だったら一人で俺を相手取ってみせろよ、寄生虫!」

 

 しかしその都度何百もの神の使徒が地上へと降り立ち、アルヴと一対一で戦うことは出来なかった。神の使徒の後ろから、時には神の使徒ごとアルヴが巻き込んでいるのもその原因だ。苛立ちを露わにしながら攻撃を続けるアルヴに、大介は攻撃の全てを紙一重で避けながらもアルヴを切り捨てようとしていた。

 

「甘いですね。野猿――」

 

「大介を愚弄するな、人形。“緋槍”」

 

 大介が一方的に攻め続けることが出来たのは彼だけの実力では無い。礼一とシアが近づいた使徒を両断し、潰していた。アレーティアの駆使する上(・)級(・)魔(・)法(・)が、良樹や信治が操る二匹ずつの嵐と業火の龍が彼に接近する神の使徒の上(・)半(・)身(・)を呑み込んでは倒していたからだ。

 

「いささか拍子抜けすぎるのう。ま、手を抜く道理はないがな」

 

 そして時折ティオが大介の前に出て、手に持った五十センチほどの長さの扇子で死体や残った下半身、降りてきた神の使徒の額を打ち抜いていく――ハジメ謹製のアーティファクトの力によってそれらは黒き竜となり、神の使徒を共食いせんとしていた。

 

「ホント助かるわティオさん! アレーティアもお前らもな!」

 

 故に大介はただ愚直に進むことが出来る。何度目かわからない彼らへの感謝の言葉を投げかけつつ、大介はじわじわとアルヴへ接近していく。

 

「ぐうっ! おのれおのれおのれぇー!」

 

「おいおい。俺の女を奪うなんて大口叩いてこのザマか。最ッ高だな!!」

 

 苦渋に満ちた表情を浮かべながらも魔力の弾丸を撃ち続けるアルヴに、大介は過去一野卑な笑みを浮かべて挑発する。するとアルヴが右手を突き出すと同時にすさまじい魔力がその手から膨れ上がった。

 

(チッ。これ以上鬼ごっこなんてやってられ――)

 

「ぐぁあぁ!!」

 

「アルヴ様っ」

 

 大きく避けなければいけないことに大介は内心舌打ちしたその時であった。彼方から迫った極太の閃光がアルヴの右腕を貫き、あちらの腕が爆散するのを大介は見た。あの光からしてシュラーゲンがアルヴを撃ち抜いたのだろうと大介は察する。そしてハジメ以外にそれをやってのけた相手の正体が彼の頭に浮かぶと同時に後ろから号令がかかった。

 

「皆の者、パルに続けぇー!!」

 

 ハウリアの中でも特に狙撃に秀でていたと聞いていた少年の名前が戦場に轟くと同時にハウリアの集団が現れる。ハジメ謹製の革鎧を身につけたカムらが五人一組で神の使徒へと襲いかかっていくのを見て、大介は一層口の端をつり上げる。

 

「ハウリアにだけいい格好をさせるな!」

 

「えぇ! 私達も仲間ですからね!」

 

「あら、仲間ならあたし達もよん!」

 

「仲間外れにしないでちょうだい!」

 

 そう言うや否やデビッドら四人も神の使徒目がけて突っ込み、ハウリアの対処で動けなくなった神の使徒へと襲いかかる。更にクリスタベルを筆頭に漢女達までハウリアと連携して神の使徒を次々と倒していく。その様を見てしまった大介は声を上げて大きく笑う。

 

「アッハハハハ!! 最高じゃねぇか! 知ってる奴を活躍させてくれるなんて、エヒトには感謝した方がいいかもなぁ!」

 

「お、おのれおのれおのれぇー!!」

 

 仲間達が神の使徒を相手取っている内に、大介は他の神の使徒を両断しながらもアルヴと目と鼻の距離まで迫る。獰猛な目つきのままにアルヴに攻撃を仕掛けるも、あちらも必死な表情で避け続けていた。

 

「ぐぅっ!――こ、こうなったら一度退くしか……」

 

「やらせは――」

 

“離れろ大介”

 

 大介が再生したアルヴの右腕を逆袈裟で切り飛ばすと、そのアルヴは苛立ちを顔に浮かべながら大きくバックステップした。そして右腕を再生しながらもアルヴは苦渋に満ちた表情で逃亡を口にする。逃がすまいとアルヴ目がけて突っ込もうとした瞬間、頭に届いた声に反応して大介は軽く飛び退く。

 

「“人罰(じんばつ)”」

 

「ぁぐっ――ぐおぉおぉぉ!!」

 

 大介が飛び退いた直後、アルヴの前と後ろの空間がグニャリと十字型にゆがんだのが彼の目に入った。そしてゆがんだ空間がアルヴをはさんで押しつぶし、また地面から飛び出したつぶてがアルヴの両手を貫いたのである。

 

「……美術の勉強だかで見たことあるやつじゃねぇか」

 

“貴様ら、すまないが私もこの男に恨みがあったのでな。後は好きにするといい”

 

 磔刑にされたキリストを彷彿とさせるアルヴの姿に、ふと大介はつぶやく。するとフリードの声が再度大介の頭に響き、そういえばそうだったとひとり納得して何度かうなずく。そして嬉しげに口元をつり上げ、大介は後ろを振り向いた。

 

「悪いアレーティアっ!! 俺がカッコよく決めたかったんだけどよぉ!」

 

「んっ。それはちょっとだけ残念だけど、フリードさんの思いもわかるから。じゃあ――」

 

 少し気まずそうに大介が言葉をかけると、アレーティアもちょっとだけ悔しげにくちびるを尖らせてつぶやいた。しかしすぐにキッとした顔つきとなり、黄金の魔力光をその身から迸らせる。

 

「ま、待て! の、望みを言えっ。わ、私がどんなものでも叶えてやる!」

 

「“覇潰”――やれ、アレーティア。羽虫は俺がどうにかしてやる」

 

「……ん、ありがとう。私の最高の人」

 

 ひどく焦りをにじませながらアルヴは声をかけてきたものの、大介は構うことなく胸元のネックレスに魔力を送り込んだ。ハジメ謹製のアーティファクトによって自分の力が膨れ上がっていくのを感じつつも、大介はアレーティアに優しく声をかけた。アレーティアが微笑みながら返したのを聞き、大介は彼女の隣に立って剣を構える。

 

「せ、世界が欲しいのか?」

 

「……私はそれを望んでなどいない」

 

「そ、それともエヒトを共に倒すのか? わ、わかった! 喜んで貴様ら、いや、貴方がたの下僕となって戦います! だ、だからどうか! どうか!」

 

 背後から聞こえてくるアルヴの声に怯えが段々とにじみ出してきたことに、大介は気づいていたが流していた。しかし大介は神の使徒を次々と叩き切りながらも、アレーティアの声だけはちゃんと拾えるように聞き耳を立てていた。

 

「……私の願いはただひとつ」

 

「な、なんでもいい。頼む! 言ってくれぇ!」

 

「……私の願いは叔父様、いいえ、お父様を取り戻すだけ」

 

 透き通るような、けれど悲痛さが隠れたアレーティアの声に大介は剣の柄を握る力が強まる。ただアレーティアの邪魔をさせないために大介は群がってくる神の使徒を一刀のもとに斬り捨てていく。

 

「遠くのあなたへ手を伸ばして(お父様、お待たせしました)」

 

「ぎ――ぎぃぁああぁあぁぁあぁ!!」

 

 祈るような声、平原一帯を覆うほどにあふれる金の魔力を見て思わず大介は振り返ってしまう。アレーティアから放たれた金色の波濤に呑み込まれたアルヴを見て、汚い悲鳴を上げたのを聞いて大介はただ静かに笑う。もう大丈夫だ。アレーティアはやってみせるとただ確信していた。

 

「大介。後は俺らに任せな」

 

「はい。アレーティアさんのところに行ってあげてください」

 

「……ホント、お前らとダチで良かったわ」

 

 そんな折、ふと後ろに気配を感じて大介は振り向く。返り血にまみれながらもこちらを見つめている礼一とシアがそこにいた。優しげな笑みを浮かべた二人から声をかけられれば、大介も穏やかな笑みを浮かべて礼を述べる。

 

“フリードさんよ。もういいぜ。後は俺達が”

 

“そうか”

 

 発動していた“覇潰”も解除し、そこそこの倦怠感を感じながらも大介はフリードに“念話”を送る。あちらの素っ気ない返事に軽く舌打ちしそうになるも、大介はアレーティアの元へと歩いて行く。

 

「よくやったなアレーティア。お前が失敗する訳ねぇとは思うけど」

 

「……ううん。念のために確かめる。“魂視”」

 

 少しふらついたアレーティアを背中から受け止め、大介は上から顔をのぞき込みながら声をかける。するとアレーティアも軽く見上げながら微笑みつつも、首を横に振った。そして少し顔を上げて相手の魂魄を見る魔法を詠唱する。

 

「“魂視”……いねぇか――っと」

 

 大介も彼女に続いて魔法を発動するも中には何もなかった。アルヴの存在も、ディンリードの魂もだ。あのメッセージのことを考えれば消されてもおかしくはない。そう大介が薄らと思ってたところでディンリードの体が前へと倒れてくる。

 

「――っ。ごめ、ごめん、なさい。遅くなって、ごめんなさい。おとう、さま」

 

 まるで寄りかかるように抜け殻の体はアレーティアの方へと倒れ込んだ。アレーティアもそれを受け止め、抱きしめながら涙声でただ詫びている。

 

「取り戻せたな、お前の親父さん」

 

「……うん。うんっ!」

 

 たとえ体しか残ってなくてもこれでいいかと思いながら大介は彼女の顔をのぞき込んだ。そして優しく声をかければ、アレーティアも涙と鼻水を垂らしながらも笑みを浮かべて答える。その表情を見て大介は無性に嬉しさを感じていた。

 

「おっし。じゃあもう大介とアレーティアは引っ込んでろよ」

 

 その時信治の声が後ろから響き、アレーティアごと抱きかかえたまま大介は振り向く。すると杖を指揮棒のように動かしながらも、どこかいたずらっぽく見つめてくる信治の姿がそこにあった。

 

「んだよ、ったく。俺とアレーティアがいなくて平気なのかぁ~? 泣きべそかいても知らねぇぞ~?」

 

「だーれが泣くかバーカ。リリィとヘリーナのためにも活躍してぇから引っ込んでろってだけだ」

 

「そうそう。お前はラストゼーレ、アレーティアは概念魔法使っただろ? 戦えねぇのがいても邪魔だっての」

 

 二匹の業火の龍が暴れ回る様を横目に大介はからかうように信治に言い返す。すると信治も杖を動かして龍を縦横無尽に暴れさせながら軽口を叩いてくる。それに続くようにアーティファクトのスティレットとハジメが作った杖二つを動かしながら良樹がツッコんできた。からかってはきたものの、優しげな目つきを向けている二人に大介は思わずククッと笑ってしまう。

 

「へいへい。わーったよ。じゃ、雑魚掃除頼むわ」

 

 悪友どもの不器用な優しさを感じながら大介はゲートキーを取り出す。そして王国の自室へと空間を繋ぐと、アレーティアとディンリードを一緒に抱えながらゲートへ向かって歩いて行く。

 

「え、えっと、あの、あのっ!」

 

「はいはい二人とも引っ込んでてくれよ。ディンリードさんのことで忙しいだろうしな~」

 

「えぇ。落ち着いたらでいいんで弔ってあげてください」

 

「うむ。後は妾達に任せよ」

 

「……サンキューな、お前ら」

 

 気づいたアレーティアが何かを言いたそうにしているが大介は無視する。かけられた礼一、シア、ティオの言葉に大介も小声で返しながらゲートをくぐっていく。

 

「よーし。そろそろ体もあったまってきましたし、レベルXいっきますよぉ~!」

 

「さて礼一よ。お主の魔力をもらい受けよう――さぁて、ゆくぞ」

 

「……ありがとう、皆さん!」

 

 自室に戻ると同時にゲートが閉じていく。ゲート側へと振り返って声をかけたアレーティアを大介は愛おしく見つめる。そしてどんな棺桶を作ってやればいいのやらとひとり思案するのであった……。




後編も近いうちに投稿出来たらな、と思っております(出来るとは言ってない)

2026/9/24 ちょっと修整しました
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