あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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それでは読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも270092、感想数も856件となり、またしおりも547件を維持できました。誠にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり感謝いたします。また筆を進める力を頂きました。

今回の話を読むにあたっての注意点としてかなり短く(約6500字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


百十九話 未来は今、人の手に渡る(後編)

「あっはっはっは! この程度ぉ~?」

 

 そこかしこで明滅が起き、亀裂の入ったエヒトの居城の最奥。殴り込みをかけた恵里達は両手と六本の義肢で持つ新型のメツェライから爆音を轟かせていた。

 

 従来のメツェライ六基を一つの回転砲身へとまとめた六×六砲身の化け物ガトリング砲、メツェライ・デザストル。頭のおかしい兵器一つひとつが“魄崩”の付与された銃弾を濁流のごとき勢いで吐き出し続けていたのである。

 

『当たらなければ、当たらなければ無意味だろうッ!』

 

 だがエヒトの目の前には六つの白銀の光の渦が浮かび、向かい来る弾丸をことごとく吸い尽くしている。また方々から神の使徒が現れるため、何人かは対処するべく銃口をそちらに向けている。しかし恵里は高笑いを止めない。誰一人舌打ちもせず、苛立ちも露わにはしていなかった。

 

「ならば当てるまでだ、偽りの神よ」

 

 作戦通り、雫・浩介・鷲三・霧乃の分身がエヒトの後ろへと回り込むことが出来ていたからだ。モンスターガトリング砲で面制圧して潰せたのならそれでよし。そうでなくとも向こうに手札を切らせればいい。むしろこちらの攻撃を捌くのに必死になって雫達の動きを許したのだ。故に恵里はわずかにも焦ってはいなかった。

 

“行こう皆。“瞬光”、ネオガーディアン、クロスヴェルト起動!”

 

『や、やらせるものかぁぁあぁ!!』

 

 そして手札はこれだけじゃない。ハ(・)ジ(・)メ(・)の号令と共に恵里達は知覚を引き延ばす技能を使い、バージョンアップしたガーディアン、クロスビットを一斉に展開していく。対するエヒトは焦りに満ちた声を上げながら無数の白銀のシャボン玉を展開し、四方八方へと散らしてきた。

 

“うーん。早く倒さないと神域が先に壊れちゃうかも~”

 

“それより先に弾切れかもな。流石にメツェライの数が多すぎた”

 

 迫り来る神の使徒は弾丸の津波で全て血しぶきとなって消えている。漂うバブルは浩介達や展開したアーティファクト群が全て消し去っている。だがこのままでは妙子の言う通り神域がダメになってしまう。龍太郎がぼやいたように弾切れが近いことも恵里にはわかっていた。

 

“そうだよねぇ~。ねぇ雫、そろそろいけそう?”

 

 世界を渡る概念魔法の素材として使うためにもなるべく早く倒したい。恵里は悩む素振りをしつつ、本体の方の雫にガトリングの爆音の中でも聞こえるよう“念話”で話しかける。

 

“えっと……もうちょっとだけ待って。お願い”

 

“ふむ。浩介君がいるから対処は間に合っているが、手を止める道理も無いか”

 

“そうですね……ハジメ君、新型のロケットランチャーを分身に渡したいのですが”

 

 雫の方はチラッと光輝の方を見てから少し申し訳なさそうに返事をした。なら仕方ないかと恵里が思った矢先、鷲三と霧乃がメツェライ・デザストルを振り回しながらひどく冷静な様子で話しかけてくる。そこで恵里はすぐさまハジメの方をチラッと見た。

 

“そうですね。じゃあ浩介君、アグニ・オルカンを今わた――”

 

『やら、せんっ!』

 

 そうしてハジメが強化型オルカンを宝物庫から取り出した瞬間、エヒトの叫びが恵里の脳裏に届く。同時に持っていた全てのアーティファクトが軽く引っ張られる感覚を覚える。しかしこの盗む魔法も既に対策済みであり、すぐさまコケにしてやろうと恵里は考えていた。

 

“ッ!! 散れぇー!”

 

 しかしその考えはすぐに裏切られることになる。新型のオルカンの一部がぞうきんを絞られたようにねじ曲がり、逆に一部が空気を入れた風船のように膨れ上がった。浩介が声をかけるよりも先に恵里は大きく跳躍し、また爆発に巻き込まれないようメツェライ・デザストルとヘカトンケイルⅡを仕舞う。

 

「“来翔”……よくもハジメくんのアーティファクトをぉおぉおお!!」

 

 割れた鏡に映ったかのような爆発を背に受けながらも恵里は風系統の魔法を詠唱。追い風に乗って離れた床に着地する。その時、一斉に爆発するネオガーディアンやクロスヴェルトも見てしまい、恵里は青筋を何本も浮かべながら絶叫した。

 

 相手の持っている物を自分の手元に引っ張ってくる魔法の正体は恵里達の見立てでは空間魔法である。エヒトはあえてこの不安定な空間を利用してこちらに攻撃したと察したからだ。

 

『ぐ、ぉぉ……』

 

「――ははっ。光輝くん、次のプラン移っていいよねぇ!」

 

 しかし恵里の怒りはすぐにある程度収まった。エヒトのもやじみた両腕、その肘から先が消えていた。浮かんでいた全ての光の渦が消えていたのが目に入ったからだ。勝てる。ただそれを確信すると同時に恵里は仕込みをしていた光輝の方へと振り向き、彼の指示を仰ぐ。

 

「あぁ、待たせた……“神威・千変万化”!!」

 

 瞬時に返ってきた光輝の答えに恵里は口元をつり上げた。かつてメルジーネ海底遺跡で出たものよりふた回り大きくなった深紅の竜が顕現し、それと同時に恵里は杖を構える。

 

「デク人形は我に任せよ!」

 

「かいくぐってきた奴は俺達がやる! お前らは概念魔法を!」

 

「私も! 恵里ちゃん達の道は私達で切り拓くよ――“聖絶・瞬乱刃”っ!!」

 

「私だってぇ~! 龍太郎には負けないんだからぁ~!」

 

 深紅の竜がエヒトへと向かうと同時に浩介が無数の分身を神の使徒にぶつけ、香織が最強のバリアを無数の刃に変えて遠くの使徒どもを切り刻む。龍太郎と妙子がこちらに寄ってくる神の使徒を片っ端から叩き潰しているのが恵里にもわかった。

 

「鈴、恵里にハジメ君も! 私は光輝を守るから!」

 

「わしらの恨みの分も頼むぞ。恵里さん、ハジメ君、鈴さん」

 

「必ず仕留めて下さい。お願いします」

 

「もっちろぉ~ん!!」

 

 そして雫、鷲三、霧乃にも託され、口元をつり上げながら恵里は答える。そして最後のプランである概念魔法の発動のために、散り散りになったハジメと鈴と合流すべく走り出した。

 

(……ま、あっちもどれだけ保つかわかんないしね。早めにケリつけてあげよっか)

 

 途中、ゆがんだ空間とそこに映ったものが恵里の目に入る。どことも知れぬ世界、見知った世界などが浮かんでもいたが、恵里はそれらはどうでも良かった。奮闘するクラスメイト、ミレディ、トレイシーらに魔人族を率いるフリードの姿を見て、仕方ないと思いつつ、白亜の通路を駆け抜けていく。

 

「お待たせ! ハジメくん、鈴!」

 

「うん……やっぱりこれしかなかったね」

 

「そうだねハジメくん。でも、これで良かったんじゃないかな」

 

 走ってきたハジメと鈴ともすぐに合流し、恵里は笑みを浮かべながら声をかける。頼れる仲間達がエヒトの軍勢を蹴散らすのを二人と一緒に見た後、恵里はハジメと鈴の方へと体を向けた。

 

「じゃあ、概念は」

 

「私達の怒りと恨みで。それなら確実――」

 

「ハジメくんも鈴も優しいなぁ~――どうせならさ、エヒトに全(・)員(・)分(・)突っ返さない?」

 

 息を整えたハジメが神結晶とわずかな量の火薬を取り出し、これからすべきことについて声をかけてくる。鈴が真剣な顔つきで答えるも恵里は軽口を叩く。立てた人差し指を軽く振りながら制すると、恵里は“念話”を使いながら二人にある思いつきを提案する。一瞬二人はきょとんとしたものの、すぐさま吹き出して恵里の方へと向き直った。

 

「いいね。それで行こう」

 

「恵里の言った通りだね。恨みなんて私達以外にもあるだろうから」

 

「じゃ、やろっか。せーの」

 

「「「“錬成”」」」

 

 自然な笑みをこぼした二人につられて恵里も柔らかい笑顔を浮かべる。自分達ならやれる。出来るという自信を胸に恵里はある魔法を詠唱した。聞きなじんだ、よく使っていた魔法を二人と一緒に。瞬間、神域すら塗りつぶすほどの深紅の光が三人から吹き荒れる。

 

「「「……できた」」」

 

 三人の間で浮いていた野球ボール大の神結晶が少しずつ変わる。ただ形を変えるのでなく、小さく小さく縮こまっていく。鈴と一緒にハジメを手伝い、何度となく作っていたなじみ深い形――たった一発の銃弾へと変化した。ほのかにあざやかになった深紅の弾丸が、三人のつぶやきと同時にゆるやかに降りていく。

 

「……やっぱり別の形の方が良かった?」

 

 降りてきた弾丸を両手で受け止め、恵里はずっしりとした重みを感じて思わずため息を吐く。するとハジメが少し申し訳なさそうに声をかけてきた。

 

「ううん。これならボクも、私もよくわかるから」

 

「そうだね。いつの間にかなじんじゃってたし」

 

 ちょっとだけ気まずそうに声をかけてきたハジメに恵里はクスッと笑いながら答える。鈴の言った通り今ではよく馴染んだものだから。使い方が簡単にわかるからこそ恵里はただ首を横に振るだけであった。

 

「……ありがと、恵里。じゃあこれ」

 

「いいの? ハジメくんだってアイツを相当恨んでたでしょ?」

 

 するとはにかんだハジメが宝物庫からドンナーを取り出し、それをそっと恵里の方へと差し出してきた。恵里も一瞬間を置いて、ドンナーとハジメに交互に視線をやってから再度ハジメの方を見やる。するとハジメと鈴が一緒に吹き出したせいで恵里はちょっとむくれてしまう。

 

「流石に恵里には負けるでしょ。じゃ、ほら」

 

「うん。僕と鈴が背中を押さえてあげるから」

 

 鈴の方を振り向けば、仕方ないといわんばかりの顔つきで恵里を見返していた。そうしてつぶやいた言葉を聞いてまぁいいかと思いつつ、恵里はハジメと鈴に背中を預ける。

 

「ありがと。ハジメくん、鈴――じゃ、ちゃんと支えてね」

 

 二人に声をかけながらも恵里はシリンダーを固定するレバーを引いた。シリンダーを左に外し、何も入ってない薬室のひとつにそっと深紅の弾丸を入れていく。そしてシリンダーを戻してカチッと固定する。動かないかどうか試しにスナップを軽く利かせ、ちゃんと保持しているのを確認してからふぅと恵里はため息を吐く。

 

「じゃあねエヒト。今度こそ終わりだよ」

 

 そしてドンナーを左手に持ち替えた恵里は、右手を添えながらそっとエヒトに向かって銃口を向ける。無数の神の使徒が仲間達の手によって倒され、またエヒトが深紅の竜から必死に逃げているのが恵里の目に入る。

 

『ぐ、ぐおぉぉぉぉ!! は、放せ、放せぇー!!』

 

“今だ、恵里! やるんだ!”

 

 だがそれも今は気に留めない。目を細め、狙いを定めて脇を締める。そして光輝の操る深紅の竜がエヒトを押さえつけるのを見ると同時に恵里は引き金に指を添える。彼の号令代わりの“念話”と共に引き金を引く手に力を入れた。

 

「「「――“撒き散らした苦痛をあなたの元へ(よくもやってくれたなクソ野郎がっ)”」」」

 

『や、やめ、やめろおぉぉぉ!!』

 

 皆で決めた概念魔法の名前を、二人と一緒につぶやきながら恵里は引き金を引く。音もなく空を切り裂く一条の閃光が、狙い違わずもがくエヒトの胸を貫いた。刹那、傷口から光が漏れ出し、エヒトのもやのような体は一気に膨れ上がっていく。

 

『ぎ――ギィイ゛イ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』

 

 対象が今まで他者に与えた苦痛や傷、それら全てをそのまま本人に返す魔法。それを受けた偽りの神の叫びが崩れゆく世界の中で木霊(こだま)する。白銀の魔力が天を衝き、それとほぼ同時にエヒトの体は霧散していく。エヒトが欠片すら残さず消えたのを見て、ようやく恵里はドンナーを下ろした。

 

「……終わった」

 

 神の使徒どももその場でバタバタと倒れて動かない。エヒトが放っていた攻撃もひとつも残っていない。深紅の竜も消えている。たたずむ親友達とその家族、そして一層亀裂が深くなった空間以外何もない。痛いくらいの静寂がしばし恵里の耳をつんざいた。

 

「終わった。やっと終わ――どわぁああぁあぁ!?」

 

 そうしてしばし終わりを噛みしめていた恵里達だったが、それも長くは続かなかった。そこかしこに浮かんだ亀裂が更に深まり、鳴動まで始まったからだ。主であるエヒトがいなくなったことで崩壊が更に進んだのだと恵里も気づく。

 

「皆、喜ぶのは後回しだ! ハジメ!」

 

「わ、わかった! まず皆で回して!」

 

 すぐさま光輝が号令を飛ばし、こちらへ向かって走ってくる。するとハジメも光輝の方へと向かうのを見つつ、恵里は自分の宝物庫から神水の入った容器を取り出す。神水を一気に飲み干した後、ハジメが自分の宝物庫を手渡したのを確認する。それから恵里は鈴と顔を合わせ、一緒にハジメの元へと向かった。

 

「あー、えっと、とりあえず光輝君が戻ってきてから最後の仕上げといこっか」

 

 ハジメはここを出るためのクリスタルキーと導越の羅針盤を左脇に抱えており、神水が入っているであろう容器を傾けていた。飲み終えてひと息吐いたハジメは恵里達の方を向き、容器を持った手で頭を軽くかきながらどこか気まずそうに答える。その様子を見て恵里も鈴もクスッと笑ってしまった。

 

「そうだね。アレ、ハジメくんの宝物庫にぜーんぶ入ってるし」

 

「うん。でもこれはこれでいいんじゃない?」

 

 昨晩の会議にて、神域を巨大な神結晶へと変えるためのアーティファクトの管理はハジメに一任することが決まっていた。理由はハジメが最後まで神域に残ってアーティファクトをばら撒き、またクリスタルキーによるゲートの維持も行う予定だったからだ。一緒に概念魔法を使ったせいでちょっと予定が狂ってしまったことを思い返しつつ、恵里は鈴と顔を見合わせて笑う。

 

「待たせて悪かった! 恵里と鈴もこれを!」

 

「りょーかい。じゃハジメくん」

 

 談笑している間にアーティファクトのばら撒きは終わったのか、光輝達が駆け足でこちらへとやって来ていた。恵里は直径十センチ近くある長い金属製ケーブル二本を手に取ると、チラッとその先へと目をやる。一辺二十センチほどの神結晶の立方体がそこかしこに置かれているのを確認し、これなら大丈夫と恵里はハジメの方を見やる。

 

「うん。今幸利君達と連絡をとった!」

 

「よし。戻ろう皆。最後の仕事だ!」

 

『了解!』

 

 ハジメはすぐさまクリスタルキーを差し込み、ゲートを開く。そうして幸利達に合流するよう連絡が取れたことをハジメが伝えると、恵里は皆と一緒に開かれたゲートへと飛び込む。出た先は王国上空。恵里が下へ目を向けると、障壁を解いたあの船とミレディが操る巨大ゴーレムが待ってくれているのが見えた。

 

「ただいま! 幸利君、優花達も!」

 

「おかえりなさい、エリ。今檜山達も呼び出したから」

 

「おかえりみんなー!」

 

「ありがとう、皆。私達の悲願を果たしてくれて」

 

 船の甲板には優花と奈々が待っていてくれており、二人は恵里達を笑顔で出迎えてくれた。また降下する最中にミレディの穏やかな声が恵里の耳に届いた。やっと終わったんだと恵里は再度喜びを噛みしめつつ、空に見えない足場を作ってクルーザーの近くに降り立つ。

 

「よ。やったじゃねぇか光輝」

 

「あぁ。それじゃあ皆、ケーブルを一本ずつ大介達に渡してくれ-!」

 

 そして次々と空に現れた大介達オルクス大迷宮突破組に声をかけつつ、恵里は神域から出た仲間と一緒に金属製のケーブルを仲間達へと手渡していく。

 

「ハジメくーん、まだ大丈夫そうー?」

 

「まだ大丈夫-。でもやっぱりちょっとキツいかもー」

 

 ふと鈴が声をかけたのに反応し、恵里もハジメがいる上空に視線をやる。今もクリスタルキーを使ってゲートを維持しており、軽く脂汗も浮かんでいるのが恵里にもわかってしまう。

 

「光輝君」

 

「あぁ、わかってる――やるぞ皆! 魔力を流せ-!」

 

 そして少し浮ついた様子で恵里が声をかければ、すぐさま光輝が号令をかける。恵里も魔力を流してケーブルの先――神結晶に付与された概念魔法を起動させる。結晶のある空間を圧縮し、魔力の塊へと作り替えて巨大な結晶体にするアーティファクトをだ。

 

「絶対行こう、恵里」

 

「うん。あっちの鈴に会わせてあげる」

 

「向こうの私、セクハラ親父なんでしょ。ちょっとなぁ~」

 

 魔力を引き続き流しながらも恵里は隣の鈴と雑談をする。ようやく邪魔者は消えた。ずっと会いたいと思っていた少女に会える。そのことを楽しみ、ただ願いながら少女は地味な作業を仲間と続ける……二階建ての家屋ほどの大きさをした神結晶の完成に皆が目をむき、クリスタルキーが崩壊して恵里達がしょんぼりするまであと少し。

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