あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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なんとか仕上がりましたァ!
……では、改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも270714、お気に入り件数も1051件、しおりも548件、感想数も858件(2026/10/7 19:19現在)となりました。誠にありがとうございます。終盤の終わり近くまでついてきてくれた読者の皆様には頭が上がりません。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠に感謝いたします。終わりまで書き続ける力をいただきました。

今回の話を読むにあたっての注意点としてちょっと短く(約8000字)となっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


百二十話 そして幕は上がる

「ホント、とんでもないことをやってのけるよね君達はさ」

 

 朝日に照らされる王国の平原でふとミレディの呆れとも怯えともつかない声が響く。ハジメ達と一緒に完成したばかりの概念魔法をながめていた恵里は、思わずその声にムッとしてしまう。軽く眉根を寄せながらも恵里はミレディの方へと目を向ける。

 

「なに? ボクはただ親友に会いたいだけなんだけどぉ~?」

 

「知ってるよ。そのために神域を利用したりしたのもね」

 

 真顔を浮かべていたミレディへと顔を向け、恵里は苛立ちを隠さずぶつけた。するとミレディも軽く肩をすくめながらも悪びれずに答えてくる。

 

「だから私が目を離すにはまだ早いかなって思ってさ」

 

「僕達がこれだけのことを出来るから、ですか」

 

「そう。まぁお題目を掲げて突き進むよりはわかりやすくていいけどさ」

 

 ミレディは表情を心配そうなものに変えると、巨大なアーティファクトの方へと顔を向けた。そうして胸の内を語ったミレディに、恵里の隣にいたハジメが苦々しい顔つきで彼女に言葉をかける。ミレディは困ったような笑みに顔を変えつつそれに答えた。

 

「大迷宮を突破した時は俺達を信じてくれただろ。それじゃ駄目だったのかよ」

 

「その時はね……どこかの誰かさんがマトモだったらこんな心配しなかったんだけど」

 

「あーうん。まぁ、そうだね」

 

 幸利の軽い呆れがこもった声に恵里もうなずきながらミレディを見やる。するとミレディは半笑いになった顔を静かに愛子の方へと向けた。恵里もそちらに目を向けると、形となった概念魔法をじっと見上げる愛子の姿を見て思わず言いよどんでしまう。

 

(ボクから見ても魔王っぽいもんなぁ……てかあの化け物っぽい)

 

 この世界に来た時とはかなりかけ離れた見た目を今の愛子はしていた。黒を基調としたゴシック調のバトルドレスに外套に近い黒地のケープ姿である。その上白髪赤目となったせいでどこかのゲームの魔王か元の世界の化け物(ハジメ)にしか恵里には見えなかった。

 

 重吾達と畑仕事している時や普段の格好は、地球の頃と同じスーツ姿や目立たないローブを着ていたはず。そう思い返しているとその愛子が恵里達の方へと振り向いてきた。

 

「あら。私怨を交えて天之河君達を追い詰めたんですし、自業自得では?」

 

「いや、それはそうなんだけどさぁ……」

 

「畑山先生、そこまでにしてください」

 

 口元を軽くつり上げ、目が笑ってない状態で愛子はミレディに問い返す。途端、ミレディは苦虫を噛み潰したような顔つきになり、言葉につかえてしまっていたように恵里には見えた。恵里も内心愛子の言葉に同意していると不意に光輝の言葉が響く。

 

「あ、武器の回収終わったんだ。お疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

「ありがとう、恵里。畑山先生も。永山とリリィが呼びかけしてくれたおかげでほ(・)と(・)ん(・)ど(・)はすぐに返してくれたからだな」

 

「ハジメ君もありがとう。羅針盤、役に立ったわ」

 

 恵里が声のする方に振り向けば光輝に雫、龍太郎と香織がこちらに向かってきているのが見えた。恵里が愛子と一緒に声をかければ光輝は真剣な顔つきをすぐに崩し、柔らかな笑みを浮かべながら答える。続いて雫も軽く笑みを浮かべながらもハジメに導越の羅針盤を差し出した。

 

「ありがとう雫さん……やっぱり、持ち出そうとした人いるんだ」

 

 ハジメが感謝を述べながら羅針盤を受け取った後、少し残念そうにぽつりとつぶやく。どさくさに紛れてハジメが作ったアーティファクトを持ち出そうとする輩が出るであろうことは、作った当人はもちろん、恵里だけでなく幸利やリリアーナなども予想していた。それを防ぐために雫達に羅針盤を渡したのだが案の定だったらしい。これには恵里も不快げに鼻を鳴らす。

 

「あぁ。そいつら、記念に持ち帰りたいとかこれを研究したいって言い出しちまってな……」

 

 すると光輝と雫は苦笑いを浮かべ、龍太郎も頭をガシガシとかいてため息を漏らした。龍太郎が持ち出そうとした面々の言い訳を口にすると、恵里はすぐに眉根を寄せる。

 

「うん……でも後で来たリリアーナさんが『そうですか。では救世主の皆様の敵になりたいんですね?』って笑顔で言ったら皆顔青くしちゃって」

 

 そこで香織が口元を引きつらせ、目を泳がせながら続きを話す。その後は困ったように笑うだけで何も言わなかったため、ビビッて返却した様が恵里の脳裏に浮かんだ。途端、軽く溜飲が下がった恵里は皮肉げに口の端をつり上げた。

 

「ハッ。そいつらも運がいいね。ボクとハジメくんと鈴で概念魔法作りに集中してたからそれで済んだんだし」

 

「まぁ私もいい気はしないけどさ……」

 

「恵里と鈴の言い分もわかるんだけどね……剣とか鎧なら後で型をとってレプリカに出来るし、それで我慢してもらえるかな」

 

 そうして恵里が嫌みを口にすれば、光輝達も顔を軽く引きつらせたまま笑うばかりであった。鈴もムスッとした様子で思いを口にしたため、恵里も軽く機嫌を良くしてうんうんとうなずく。だが当のハジメがアーティファクトを盗もうとした輩に情けをかけるようなことを言い出したため、恵里は不満げにくちびるをとがらせる。

 

「別にそこまでしなくていいよハジメくん。最初からそう言えば良かった奴らが悪いんだし」

 

「それはそうなんだけどね……でも、僕らだってこういう間違いしたことあったでしょ?」

 

 腰に両手を当てながら恵里はいかにも怒ってますといったポーズをとり、ハジメの方に向き合った。そうして不満を口にすると、ハジメも乾いた笑いを浮かべながら遠くを見つめてつぶやく。そのことに恵里は軽く小首をかしげてしまう。

 

「あー、オルクス大迷宮の時だねハジメくん……」

 

 一体いつの話やらと思っていると、鈴が力なく笑いながらあることを口にする。そこで恵里もピンと来た。ユグドラシルのいた階層で、同類のトレントモドキどもから果物狩(・)り(・)をしていた時のことだとわかって思わず恵里はポンと手を打つ。

 

「うん……あの時と同じ失敗だと思うし、この方が面倒になり辛いと思うから」

 

「……まぁ、当時の南雲君達のことを考えれば仕方ないとは思います」

 

「ありがと愛ちゃん先生……改めて思ったけど、私達も気をつけないと駄目だよね」

 

「ホントお前ら……まぁ、俺も気ぃつけっか」

 

 途端に場の空気が死んだのがわかったものの、恵里は何ともいえない顔つきになるだけであった。苦い表情をしているハジメや香織、礼一は元より、何ともいえない顔つきをしながらも愛子も理解を示している。

 

(ホントいい子ちゃんなんだから皆……うん。ボクも気をつけないとだった)

 

 そんな彼らの様子を見て呆れた恵里は鼻を鳴らそうとした。だがその時、自分もかつて概念魔法で両方の鈴を手に入れようと画策したのを思い出してしまう。それがいかに愚かであったかを思い返し、すさまじいまでの罪悪感までよみがえる。恵里は右手を額に当てながら深々とため息を吐いた。

 

「……何があったかは聞きたくないけど、君達も過去にやらかしたんだね」

 

「まぁ……だから前に話し合ったんです。必要な時以外、力は使わないようにしようって」

 

 恵里がしばし後悔の念に囚われていると、ミレディが少しあきれの混じった声色で声をかけてくる。そっちが言えた義理じゃないでしょと思いながら恵里が視線を向ければ、沈痛な顔つきをした光輝がミレディに答えを述べていた。

 

「……一時の感情に駆られて、力を使うことの愚かさを知っていますから」

 

「氷雪洞窟攻略前にボク達だけで話し合ってた時にね。ま、そっちがどうしたいかなんて知らないけど、ボク達はとっくに決めてるんだよ」

 

 光輝に続いて、近くにいたアレーティアもまた胸の内を明かしていた。軽くうつむいて胸元に軽く握った手を当てている様子に痛々しさを恵里は覚える。だが、隣にいた大介がアレーティアをそっと抱き寄せたのを確認すると、恵里はフッと笑ってからミレディに言い返した。

 

「それならミレディさんも少しは安心かな……ごめんね皆。もうちょっとだけ、待ってて」

 

 するとミレディも顔面を微笑みへと変え、どこか安心したような声で返してくる……解放者達に思いをはせたミレディのつぶやきを聞かなかったことにして、恵里はハジメの方へと顔を向けた。

 

「じゃ、これで大仕事も終わったしひとまず休もっか」

 

 世界を渡るための概念魔法――全長三十メートルもの巨大なマンタの姿の飛行船はもう完成した。エヒトも既に倒した。武器の回収も終わらせた。かといって今すぐ自分が元いた世界に突入する余力も無い。だから恵里は笑みを浮かべながら休むことを提案する。

 

「そうだね。無理してあっちの世界に行って、戦闘中だったら目も当てられないしね」

 

「神水なくなっちまったもんな-。魔力の回復薬は少し残ってんだっけ?」

 

「あ、薬の方だったらまだ私持ってる~。でも二本だけだね~」

 

「さっき確認したけど、メツェライの弾薬も俺のは底をつきかけてた。それも含めて無理はしない方がいいと思う」

 

 するとハジメも恵里に微笑みかけながら答えた。すると信治や妙子も手持ちの道具がどれだけ消耗したかを述べ、また光輝も弾薬について触れてくる。ハジメの言った通り、向こうの世界にこのまま行って無事に済む保証だってない。ならいいかと思いながら恵里はハジメの手を取った。

 

「じゃ、王宮の方で祝勝パーティでも開いてもらおっか。ご飯はサンドイッチとかでいいからさ」

 

「そうだね。王宮の人達だって余裕が無いと思うし、ちゃんとしたのは後ってことにしてね」

 

「うん。それに参加してくれた兵士の人達もねぎらわないと駄目だろうしね。僕らの分は……魔物肉、ストックあったかな。あ、でも大きくなったユグドラシルの果実を食べるのもいいかもね」

 

 片方の手で人差し指を立てながら、恵里はパーティの開催を王宮に頼み込もうと提案する。鈴もハジメと恋人繋ぎをしながらそれに同意し、ハジメもフフッと笑いながらそれに答えた。シアや香織、他の皆もそれぞれ談笑しているのを聞きつつ、恵里達は王宮へと向かう。

 

 勇者として活躍した重吾、彼の活躍の裏でハジメ謹製のアーティファクトを駆使していたリリアーナの兵士達への慰労を兼ねたスピーチ。そして簡易ながらも開かれた祝賀会に恵里達も参加し、思い思いに楽しんだのであった。そして――。

 

「やっ! ミュウもいくのー!」

 

 エヒトとの決戦を終えて五日。とあることがきっかけで聖女に祭り上げられた鈴を中心とした城下町での祝勝記念のパレードに恵里達が巻き込まれ、弾薬補給や修復したアーティファクトの動作テストを終えるのにそれだけの時間を費やした。ようやく恵里は皆と一緒に元いた世界に渡ろうとしていた。

 

「ごめんねミュウちゃん。流石にあっちの世界に連れてくのはちょっと……」

 

「すまん南雲……レミアと一緒に何度も説得したんだが」

 

 ……いたのだが、数日前から起きていた問題が出発前になっても足を引っ張っていた。ミュウが恵里達と一緒に行きたいとずっとゴネ続けていたのである。

 

「はぁ……前にも言ったでしょ。ミュウにとってすごいショックなことがあるから連れてけないって」

 

 涙目になってやだやだと言い続けるミュウに、恵里は心底困ったような表情を浮かべながらも視線を合わせて再度説得する。あちらの世界ではミュウのパパはまず間違いなくハジメであることに恵里達は気づいていたからだ。

 

「やだもん! ミュウもいくのー!」

 

「だからミュウのためだって言ってるでしょ……勘弁してよぉ」

 

 もしミュウがついて行ってそれを知ったらミュウの心に消えない傷が残る。元いた世界で父が死んだことを今も悔やんでいる恵里にとっても、他人事ではなかった。だからかがんだ状態で恵里も説得を続けていたのだがミュウは一向に折れる気配が無い。そんなミュウの様子に恵里も思わず右手で顔を覆ってしまう。

 

「ミュウ言ったもん! 恵里お姉ちゃんたちがすっごいこわそうな、つらそうな顔してたから。だからミュウもいかなきゃダメだって!」

 

「でもな、ミュウ……」

 

「ミュウ、パパのこどもだもん! 勇者のこどもだもん!」

 

 救いを求めて恵里は重吾へと視線を向ける。すぐに重吾もかがみながら目を合わせて話しかけるも、ミュウがあることを言い放つと同時に口を半開きにして固まってしまう。それは恵里や他の皆も同じだった。

 

「ここでミュウがいかなかったら、お姉ちゃんたちがどうなるかわからないもん。だから、だから……」

 

(……強いな、この子。ボクと大違いかも)

 

 ワンピースのすそをギュッと掴みながら、ボロボロと涙を流しながら訴えるミュウにこの場にいた誰もが言葉を返せずにいた。恵里は冷たくなっていく父を前に何も出来なかったことを思い返し、ただ目の前の子供の強さにただ感心する。

 

「……ごめんなさい、皆さん。皆さんのお気遣いをむげにしてしまうのはわかっています。でもこの子の、ミュウの誇りを傷つけないであげてください。どうか」

 

 そしてひざをかがめてミュウの両肩に手を置き続けていたレミアが声を上げる。ひどく苦しげに訴えて頭を下げたレミアを見て、恵里はひどく頭をかきむしりたくなってしまう。ここで泣きじゃくるミュウを邪険にするのは、過去の自分を突き放すような気がしてしまったからだ。

 

「……わかった。ミュウ、行くならせめてパパ達の話を聞いてからにしてくれ」

 

「……ほんと?」

 

 すると重吾がどこか観念したような様子でミュウに声をかけ、頭をなでながら頼み込む。ミュウが泣き止んで重吾の顔を見上げたのを見て、恵里もため息を吐きながらミュウの顔をのぞきこんだ。

 

「そうだね。それが条件。それで行きたくなくなったらパパでもママでもいいから正直に言って」

 

「……わかったの。ミュウ、ぜったいやくそくまもるから」

 

 困ったような顔をしながら恵里はミュウに話しかける。するとミュウも何度も目をこすり、鼻をすすりながらもうなずき返した。恵里は一度振り返ってハジメ達の方を見ると、彼らも苦笑いを浮かべている。だが首を縦に振ったり静かに見つめ返すぐらいで何も反対はしてこなかった。

 

「じゃあ、言うよ。あのね――」

 

 そうして恵里達は何度も言葉を詰まらせながらもミュウに話していく。これから行く場所は知っている人が同じ名前なだけで別人であること、好きな人も一緒にいる人も違う人達ばかりのところだと。

 

「――だからパパは駄目だって言ったんだ。ミュウに、傷付いてほしくなかったんだ」

 

 平行世界のことを語れば何度もミュウは『なんで?』、『どうして?』と目を潤ませながら訴えてきた。無論そのことに粘り強く皆が答えたものの、その度に空気が重くなっていくのを恵里は何度となく感じていたのである。

 

(……気づきたく、なかったな。ボク、ミュウからパパを奪ってるじゃん)

 

 そうして語っていく度に恵里は心がしめつけられる心地であった。その理由が『本当はミュウになるはずだった父親を別の人にしてしまった』こと、間接的にミュウのパパを奪ってしまったことに気づいてからは余計にだ。それでも自分が泣いちゃいけないと思いつつ、恵里はただミュウ達親子を見つめる。

 

「……うん。わかったの」

 

「そうか……ミュウは、どうしたい?」

 

「……いく」

 

 うつむきながらつぶやいたミュウを見て、やっぱり無理にでも反対するべきだったかと後悔する恵里。しかし重吾が優しい声色で問いかけ、それに答えたのを聞いて恵里は固まってしまった。

 

「だって、ミュウのパパはパパなんでしょ? あっちのミュウはちがうだけでしょ?」

 

「そ、それは、そう、なんだが……」

 

「じゃあいいの。だって、ミュウが勇者のこどもなのはかわらないもん」

 

 そして顔を上げ、涙を流しながらもニコッと笑いながらミュウは問い返してきた。重吾の返事を聞いても涙を流すのは止めなかったものの、浮かべてた笑顔が曇(くも)ることもなかった。そんなミュウを見て、恵里の頭は様々な感情で荒れてしまう。

 

(……強いよ、ミュウはさ。ホント、うらやましいな)

 

 たとえ父親が別人であったとしても恨み言も憎まれ口も叩かないことに嫉妬した。別人であったとしても父に愛を向けているのをうらやんだ。何より自分のパパはこの人だと臆面もなく言ってのけるミュウに憧(・)れ(・)た。ハジメと鈴に支えられながら、恵里はただミュウを見つめ続けていた。

 

「それとね。たぶんだけど……恵里お姉ちゃん、ありがとうなの」

 

「……えっ?」

 

「だって、お姉ちゃんのおかげだと思うもん。お姉ちゃんがいたから、きっとミュウもパパといっしょになれた。そんな気がするから」

 

 だからこそ恵里はミュウが自分を名指ししたことに絶句してしまう。どうして、と思っているとミュウはまだ泣き笑いをしながらもおかげで重吾と巡り会えたと言ってくれた。感極まった恵里はミュウのところへと駆け寄り、ただこの子供を抱きしめる。

 

「……いいの? ボク、ミュウのパパを――」

 

「ううん。ミュウのパパはパパがいいの」

 

「……あり、がと……ありがと、ミュウ……っ」

 

 ミュウを抱きしめながらも恵里は不安げに声をかける。だがミュウは後悔を一切にじませてない言葉を返す。途端、恵里は泣き崩れてしまう。無自覚に父親を奪った自分に感謝してくれたから。別人であっても愛していいと教えてくれたから。優しく抱きしめ返してくれた幼子に、世界の迷子は涙を流して感謝を伝え続けたのであった……。

 

 

 

 

 

「思ったより広ぇな。空間魔法でも使ったのかよ先生」

 

「神結晶以外の素材でね。せめてここだけでも少しは広い方がいいかなって思って」

 

 恵里がミュウに抱きついて泣きじゃくることしばし。ようやく落ち着いた恵里は元いた世界に行きたいと皆に伝える。ついて来てくれたのはメルドを除いた最初にオルクス大迷宮を突破した友人達。それと愛子にアレーティア、シア、ティオ、そして重吾にミュウ、レミアもだ。

 

「恵里ひとりで行ってもし何かあったら私も心配だしね。それに皆がいると心強いから」

 

「あぁ。渡った先が安全な場所ならともかく、そうでないなら俺だってついて行くよ」

 

「ありがと、皆」

 

 ブリッジに入った一行はそれぞれしつらえられた座席へと座り込んでいく。恵里も声をかけてくれた皆に感謝を述べると、ブリッジ前方にある舵輪に近い席へと座った。ハジメが舵輪の前に陣取るのを見てから恵里は宝物庫から導越の羅針盤を取り出す。

 

「それじゃあ恵里、鈴。それと皆も。お願い」

 

 恵里の隣に座った鈴はハジメの声に応じ、新たに作ったクリスタルキーを取り出す。神域製の神結晶からほんの一部を拝借して作った二本の内の一本をだ。振り返ってこちらを見ているハジメと、顔を向けた鈴と顔を合わせてから恵里は答えた。

 

「うん。ボクが方向を」

 

「私が道を作るよ」

 

「俺達でこの船を浮かせて動かす。だな」

 

 恵里は瞳を閉じて元いた世界を念じる。鈴にはクリスタルキーで道を開く役を、ハジメには世界を渡るフェルニルの制御を、そして仲間達には重力魔法による船のコントロールを任せる。言葉にして振り返ると、すぐに光輝達が重力魔法を詠唱してくれた。

 

「――見えた。皆」

 

「行こう。恵里のいた世界へ」

 

「行こう。恵里の最初の親友のいる世界へ」

 

「恵里お姉ちゃんの世界へゴー、なの!」

 

 恵里の脳裏に戻りたいと願った世界が浮かぶ。ハジメが、鈴が、そしてミュウが遙か彼方の場所を口にする。マンタ型の巨大船の前方に巨大なゲートが開く。今では慣れた浮遊感と共に、世界を渡る船“フ(・)ェ(・)ル(・)ニ(・)ル(・)”が極彩色の道を突き進んでいく――かくして物語の幕が上がる。

 

 

 

 演目:あまりありふれてない役者で世界逆行

 

 

 




最後のやつ、ずっとやりたかった演出でした(クソ正直)

続きは三日後を予定しております。
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