あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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無事完成しましたー。では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。

おかげさまでUAも271058、お気に入り件数も1052件、感想数も861件(2026/10/10 15:11現在)となりました。誠にありがとうございます。最後に向けて失速しないようにしたいなと思っております。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価してくださり誠に感謝いたします。最後まで走っていく力をまたいただきました。

では今回の話の注意点として本編『は』少し短く(7000字足らず)なっております。では上記に注意して本編をどうぞ。


百二十一話 伸ばしたその手が届いた時

「っ! おい先生!」

 

「ゲートが見えた! もうすぐたどり着くよ!」

 

 無数の色で彩られては変わりゆく世界の中を恵里達の乗るフェルニルが突っ切っていく。ガタガタと船が揺れる中、シートベルトもハジメが取り付けてくれて助かったとふと恵里が考えていたところであった。もう見慣れてしまった世界の前方に巨大な空間の揺らぎを見つけ、恵里も大介とハジメの言葉にハッとする。

 

「空間抜けた――王国の上空!」

 

 そしてフェルニルがゲートをくぐると同時に世界が変わった。どんよりとした空気のハイリヒ王国の上空が恵里達の視界に入る。そのことを口にしてすぐ、左上方から迫るおびただしい気配を恵里は感じ取った。

 

「皆、上の方から――」

 

 光輝が声をかけるや否や、恵里はすぐに気配を感じた方に目を向ける。そして固まり、皆と一緒に息を呑んだ……空を無数の人、無表情の神の使徒の軍勢が埋め尽くしていたからだ。

 

「永山君! ミュウちゃんとレミアさんの目を塞いで!」

 

「わ、わかった! レミア、目をつむって耳をふさいでくれ!」

 

 このままだとぶつかると思った直後、ハジメの金切り声と重吾の大声が船内に響く。恵里は無意識に杖を取り出し、皆と一緒に絶叫まがいの詠唱をする。

 

『“縛羅”っ!!』

 

 とっさに発動したのは空間を固定する魔法。魔法が展開されるとほぼ同時、かすかに目をむいた奴らも含めて神の使徒が一斉に玉突き事故を起こす……結果、おびただしい量のミンチが空に浮かび上がってしまった。

 

「うわ、グッロ……」

 

 死体を操った経験は恵里にはいくらでもあるものの、流石にぐしゃぐしゃになったものを扱った経験はそうない。恵里はひどく顔を引きつらせてしまい、思ったことを口に出してしまう。

 

「ぉぇっぷ……と、とりあえずこの船を下りよう皆! 鈴、クリスタルキーを!」

 

「ぅ、うん……」

 

 恵里が軽く顔を青ざめさせたところで光輝の号令がブリッジに響いた。鈴も即座に持っていたクリスタルキーでゲートを地上の方へ繋ぐ。しかしゲート越しに見えた景色は兵士達と神の使徒の乱戦が起きている景色であった。

 

「恵里、マシそうな場所は!」

 

「――平原の要塞! その上辺りならまだ敵もいないよ!」

 

「ありがとう恵里!……フェルニルをしまってから鈴と一緒に僕も出る! 皆は先に!」

 

 外の景色が見えてすぐにハジメが声を張り上げた。恵里もまだしまってなかった導越の羅針盤を使って出口に最適な場所を探し求める。それを伝えるとハジメが先に出るよううながしたため、恵里はうなずくと同時に鈴が再接続したゲートへと飛び込んだ……なお、恋人や幼馴染みのよしみ、仲間としての恩などから目を塞いでいたミュウとレミア以外の皆が青い顔をしているのは見なかったことにした。

 

「ったく……早く鈴に会いたいってのにさぁ!!」

 

 要塞の上空、そこへ降りると恵里はすぐさま“空力”を発動して足場を作った。そして宝物庫からハジメ謹製の耳栓を出してセットする。続いてヘカトンケイルⅡを出して背負うと、金属製の義肢を含む全ての手に出したメツェライ・デザストル八基を持たせた。

 

“恵里、流石にちょっと気が早くないか!?”

 

“いいじゃん別に! 鈴との再会に水を差してくれたんだし、どうせやってくれって言ってたでしょ!”

 

“それはそうだけど……あぁもう皆! ヘカトンケイルとメツェライ・デザストルを用意してくれ! それと俺がこの世界の人達に俺達は味方だってアナウンスする!”

 

 全ての指を引き金に添えた後、光輝の困惑と軽い怒りの混じった“念話”が恵里の頭に届く。それに対し恵里も苛立ちを露わにしながら言い訳を並べ立てた。秒で観念した光輝が号令を飛ばしてすぐに、恵里の周りに立った雫達もまた同様の装備を展開していく。

 

「っとと……すまんミュウ、レミア。荒っぽくなった」

 

「うん。パパだけじゃなくてお兄ちゃんもお姉ちゃんもあせってたから仕方ないもん」

 

「え、えぇ……その、ちょっと恥ずかしいですね」

 

“遅くなってごめん!”

 

 程なくして、フェルニルを脱出した重吾も二人を横に抱えながら恵里の近くに降り立った。ハジメ謹製ブーツをしっかり使いこなしているらしいのを確認すると、ハジメの“念話”が恵里の脳裏にも届く。恵里は無事に彼と鈴が離脱出来たことを知って軽く口元を緩ませる。

 

“大丈夫だハジメ! それとあのクルーザーを出して永山とミュウちゃん、レミアさんを避難させてくれ! あそこなら世界一安全なはずだ!”

 

“悪いハジメ! もう一度借りるぞ! 俺はこっちの方が上手く扱えそうだからな”

 

 その際光輝が出した命令に納得していると、横から幸利が口を挟んできた。例のクルーザーこと武装戦闘艇が放つ魔法に幸利は付与魔法をかけることが出来る。そのため彼が抜擢されたのだということを恵里は思い出す。

 

“お願い! 永山君達を頼むよ!”

 

“すまん、厄介になる!”

 

“頼むぜ幸利! 先生に次ぐ錬(・)成(・)師(・)だもんな!”

 

“俺は付与術士だ!!――砲撃全部強化して、お前らの仕事かっさらってやるよ!”

 

 そうして大介の軽口も交えつつ、前方に現れた武装戦闘艇へと幸利達も乗り込んでいった。船を守るための障壁が展開され、そして船体に刻まれた幾つもの魔方陣が光り輝いていく。幸利達も戦闘準備に入ったのを見てから恵里は一度長く息を吐き出す。

 

「ならミュウも! べるちゃーん!」

 

「おいミュウ?」

 

“今し方この世界の爺様達と話をつけた! 巻き込まぬよう頼む!”

 

“俺もアナウンスが終わった。皆、この世界の人達の援護に移ろう!”

 

 そうしているとティオと光輝から“念話”が届いた。これで問題なくやれると思いながら恵里はメツェライ・デザストルの射線上に誰もいないのを改めて確認し、再度引き金に指をかける。

 

「あ、あっちの香織が――“聖絶・桜瀑布”」

 

 ふと鈴が何かしゃべったような気がしたものの、あえて“念話”をしてこなかったことから大丈夫じゃないかと恵里は考えた。そして光輝がゴーサインを出してくれるのをただじっと待つ。

 

“撃てぇー!”

 

 号令がかかると同時に恵里は全ての引き金を引いた。空の一部を埋めていた対空砲火に合わせるように仲間達と一緒に弾丸の津波を引き起こしていく。こちらの世界でも聖歌隊がデバフをかけ続けてくれているおかげで、遙か上空からやってくる星の数ほどの使徒達があっという間に血しぶきとなって消えていくのがわかった。

 

「殺っちゃって、なの!」

 

「おいミュウぅぅぅぅぅ!!」

 

「あらあらミュウったら。またはしゃいじゃって」

 

“さて、妾も暴れさせてもらおうかの!”

 

「……ん。私も――“五天龍”」

 

 そしてティオも黒竜の姿となり、アレーティアもまた最強の魔法を詠唱する。近くまで迫ってきた神の使徒の集団を二人が迎撃するのを見て、これならしばらくは大丈夫かと恵里が思った矢先であった。クルーザーの近くで見覚えのある七機のゴーレムが姿を現しているのを目にしたのである。

 

(ミュウちゃん、ま(・)た(・)張り切ってる。でも、あの子なら大丈夫かな)

 

 以前ミュウがパパのお手伝いがしたいとハジメにねだって作らせたものであることにすぐさま恵里は気づいた。

 

 七つの大罪の名前を冠するゴーレム達が持っているのはオルカンの改良型とパイルバンカーの強化発展系――ガトリング式に射出するパイルバンカーである。あれらもまたアレーティア達と同様に近づいてきた使徒達を片っ端から迎撃している。目を向けた際、一瞬戦隊ヒーローみたいなポーズをとっていたような気がしたものの、恵里は気(・)の(・)せ(・)い(・)だと断じて攻撃を続けた。

 

“っ! よっしゃ!”

 

 集結しそうになった使徒達を優先し、赤黒い世界から幾度となく現れる神の使徒どもを蜂の巣にすることしばし。動いていた神の使徒がピタリと止まり、そのまま地面へバラバラと落ちていくのを恵里は目撃する。この世界の化け物(ハジメ)がエヒトを倒した。そう確信した瞬間に大介の安堵に満ちた“念話”が恵里の頭に響いた。

 

“皆、お疲れ。メツェライの弾薬が底をつかなくてよかったよ”

 

“そうだね。ちゃんと準備してて正解だったかな”

 

“ホント。ラストゼーレも使わないとまずいかもって思ったし”

 

 光輝のねぎらいの声がかかると恵里も展開していたアーティファクトを全て宝物庫にしまう。光輝に微笑みながら“念話”を返すハジメに恵里もまたうんうんとうなずくと、二人の話に割って入る。途端、『わかる』と皆がちょっと疲れたような声で同意するのを聞いて、この場にいた全員と一緒に恵里は笑った。

 

「ありがとねーハジメくんの味(・)方(・)さん達ー☆」

 

 そうして友人達とひとしきり笑ったところで聞き覚えのある声が恵里の耳に届く。振り返れば巨大なゴーレムがこちらへとやって来ていた。もしやと思ってゴーレムの右肩に恵里が視線を向ければ、小さいゴーレムことこちらの世界のミレディがいたのである。

 

「あ、はいっ。その、被害の方は」

 

「想像してたより遙かに少なく済んで助かったよー♪……正直、全滅も覚悟してたからね」

 

 そこで光輝がおそるおそる声をかければ、ミレディも一度笑みを浮かべながら朗らかに返す。しかし直後に苦笑いの表情を浮かべ、やや重苦しい声でつぶやいた。思った以上にとんでもないタイミングでここに来たんだなと恵里はミレディを見つめながら思う。

 

「じゃ、皆はここで休んでてちょーだい♪ 後はミレディさんが色々とやるからさ☆ その代わりにぃ……あの子のこと、お願い」

 

 するとミレディは右手を自分の胸に当て、口調に反してひどく優しげな声音でねぎらいの言葉をかけてきた。だがその直後、ひどく焦りをにじませた声でボソッとつぶやくと同時にゴーレムはその場を素早く去って行く。そして……。

 

「ねぇ待ってどうしてハジメくんが恵里ちゃんのそっくりさんと一緒なのいや私の知ってるハジメくんじゃないし恵里ちゃんっぽい誰かかもしれないけどねぇどうしてどうしてどうして」

 

 ……ひどく虚ろな目でこちらを見てくる黒髪の神の使徒がそこに現れたのである。

 

「うわっ」

 

 感情を伴ってない言葉を垂れ流す様を見て恵里は背筋が軽くヒヤッとなってしまう。ふとこちらの世界の香織は神の使徒へ体を乗り換えてたはずだと恵里は思い返す。髪色こそ違うものの目の前の少女が香織だと気づき、恵里は思わず声を漏らしてしまった。

 

「こっちのミレディさん、ものすごい置き土産してったなぁ……」

 

「どーすんだよこっちの白崎怖ぇーよ。珍獣の方がマシだっての」

 

「だから珍獣扱いやめてってば中野君!!……でも、どうしよう」

 

「まぁその、信じてもらえるかはともかくとして、とりあえず話をした方がいいんじゃないかな……」

 

 どうしたものかと後ろを振り向けば、案の定光輝達も頭を抱えてうなっていた。馬鹿なことを言った信治に一瞬香織も怒ったものの、すぐにどうしたものかと悩み始める。鈴の言葉に恵里も苦笑いを浮かべ、すぐさまハジメ達の顔を見渡した。

 

「ま、こっちの世界に復讐しに来た訳じゃ無いしね。話せるだけ話してみよっか」

 

「そうだね。あのー、すいませーん」

 

 一度肩をすくめてから恵里が声をかければ、ハジメ達もうなずくなり返事をするなどした。そして全員でこの世界の白崎香織らしき少女の方に向かい、彼女に説明していく。何度となく目を白黒させ、気絶しかかる彼女に魂魄魔法を駆使しつつ恵里達は事情を話していった。

 

「……ごめんなさい。ちょっと、受け止めるのに時間がかかるかも」

 

「仕方ないさ。俺もいきなり同じ状況になったら戸惑うだろうから。皆もそうだろ?」

 

 そうして説明を終えた後、この世界の白崎は額を手で押さえてげんなりした様子で答えた。光輝も苦笑いしながら白崎に同意し、恵里達を見渡してくる。恵里も皆と一緒に半笑いを浮かべながらもうなずいて返した。

 

「……やっぱり光輝くんがそういうこと言ってると違和感あるなぁ」

 

「……こっちの俺がどういう奴かわかってるけど、へこむなぁ」

 

「光輝、しっかり!」

 

 光輝が恵里達に呼びかけてすぐ、白崎は口の端を軽く引きつらせながらぼやいた。こちらの世界の光輝をよく知っていた恵里は、香織の言葉に納得するしかなくて何ともいえない顔つきになってしまう。肩を落とした光輝をひとまず雫に任せようとした時、恵里の感知系の技能全てが何かを捉えた。

 

「っ! みんな、ごめんなさいっ!」

 

 空の遙か彼方から一瞬感じた何かを捉えるべく、振り向こうとした矢先であった。白崎が申し訳なさげに謝ると同時にその場から飛び立ち、また神山の遙か上空の空間がゆがんだのを恵里は見つける。

 

「今の感覚って……“仙鏡”――おいまさかシアか!?」

 

「他にも誰か――え、ティオさんじゃね!?」

 

 “遠見”の技能を使っても恵里には白と黒の人影程度のものしか見えない。だが近くにいた良樹が空間魔法を使ってその辺りを拡大して投影。彼と礼一は落ちている二人を見て自分の恋人の名前を叫んだ。恵里も思わず映像に目をこらし、遙か上空から落ちて行くシルエットがシアとティオっぽいのに気づく。

 

「いやホントよく見え、た……まさか」

 

 どうして白崎がこの場から去ったかがわかった。また良樹と礼一の目の良さに驚き、思わず恵里も顔を引きつらせる。ハジメ相手なら自分も出来ることを棚に上げつつ、恵里は白崎が二人をキャッチ出来たかどうかが気になって目で追った――そしてあるものを見て息を止めてしまう。

 

「っ。鈴!」

 

「うん! “界穿”!」

 

 それはサーフボードらしきものに乗った集団であった。その一人に見覚えのある、遠目で見てもわかる親友の姿が映っている。恵里が空の彼方に体を向けた瞬間、ハジメと鈴の声が彼女の鼓膜を揺らす。ハッとした恵里はすぐに二人の方に視線を向けた。

 

「いっておいで。やっと会えるんだから」

 

「わかってはいたつもりなんだけど、やっぱりちょっと嫉妬しちゃうなぁ……行ってあげて」

 

「いい、の……?」

 

 ハジメは穏やかな笑みを、鈴はちょっと寂しげに笑いかけながらも恵里に声をかけてきた。しかし恵里は二人と隣にあるゲートに何度も視線を交互させるばかりだった。さっき自分がやろうとしていたことを思い出して気まずそうな顔をしながらも、恵里はおそるおそる二人に問いかける。

 

「行ってあげて、恵里ちゃん」

 

「はい。せっかく会えるんですし、後は私達に任せておいてください!」

 

「って言っても俺らのやることってそうねぇだろうけどよ。行きな」

 

 するとハジメと鈴は笑みを浮かべたままで、仲間達が代わりに答えてきた。香織がニッコリと笑って、シアは胸に手を当てながら、良樹はいたずらっぽく笑いながら、この場にいた皆が思い思いの笑みを浮かべて恵里を見つめ返すだけであった。

 

「――うんっ。いってきます」

 

 恵里は腕で何度か目をこすると、皆に言葉をかけてすぐにゲートへと飛び込む――その先は神山の遙か上空。三枚のサーフボードに分かれて乗った、地上へと降りていく四人組と一匹を見て恵里は涙をあふれさせる。

 

「っ……“引天”!」

 

 自分にかかる重力を強め、恵里は一気に空を降りていく。目指すのは彼女達の前。かつて殺し合い、今際の際にもしもの話をしたこの世界の親友の元へ。もう一度友達になりたいと思った少女の元へ。

 

「キュ!……キュ?」

 

「! 上から何か来る……えっ」

 

「おいおいまだ隠し球でも……うん?」

 

「お、俺が! 俺は今度こそ皆のために……ぇ、ぁ」

 

 恵里の目に困惑する八重樫雫らの姿が映る。だが恵里は彼女達に構わず、ただ両手で握りこぶしを作る小柄な少女の前へと降り立っていく。

 

「な、南雲くんが作ってくれた扇子がなくったって、私は……え?」

 

 “空力”で作った足場に恵里が立つと同時に四人と一匹を乗せたボードの動きが止まった。少し焦った様子ながらもこちらを迎え撃とうとしていた勇ましい少女に、間の抜けた表情を浮かべた女の子に恵里はただ笑いかける。

 

「え、って何ぃ~? 一(・)日(・)も(・)経(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)のに、もう親友の、私の顔を忘れちゃったぁ~?」

 

「え、ほんと、どうして……恵里、なの?」

 

 涙を一筋流し、声を詰まらせながらも恵里はからかうようにこの世界の鈴に声をかけた。鈴は困惑に満ちた表情となり、何度となくつぶやいてから問い返してくる。そんな彼女を見て喜びとも安堵ともつかない思いがこみ上げ、感情のままに恵里はこの世界の親友に抱きつく。

 

「うん!……ただいま、鈴」

 

「え、えっと……お、おかえり? 恵里」

 

 声を湿らせながらも恵里は親友に戻ってきたことを告げる。鈴もまた困惑の声を出すも、最後は涙声で恵里の名前をつぶやいた――もう一度この世界へと戻れた少女は幼子のように大声を上げて泣きじゃくる。平穏を取り戻した王国上空に少女の泣き声が響くのであった……。




おまけ 恵里達推参@原作世界線の香織視点

 王国平原、今も神域からあふれて出てくる神の使徒や魔物を相手に人間達は戦い続けていた。一度は均衡が崩れそうになったものの、かつて解放者と呼ばれたミレディ・ライセンが現れたことで人間達の軍勢は持ち直す。だがそれもつかの間のことであった。

「ッ、行かせない!」

 空の裂け目からあふれ続けている無数の神の使徒、その一部が陣形を組んで突撃を仕掛けてきたからである。

『総員、あの使徒の群れを止めろっ!』

 矢の先端を思わせる陣を組んで突撃する神の使徒達に、香織も竜人族の長のアドゥルも大声で呼びかける。その切っ先が向かうのは聖歌隊。“覇潰の聖歌”によって弱体化させている元を叩こうとしているのに気づいたからである。

(このままじゃ聖歌隊の人達が、兵士の人達が!)

 必死の形相で双大剣を振り回し、分解の羽根をばらまいて香織は使徒達を潰そうとする。聖歌隊を守るべく放たれた対空砲火が、竜人族達の放つブレスが陣形を組んだ使徒達に当たる。だがそれに構うこと無く巨大な槍は聖歌隊へ向かって突進していく。

「ダメッ、逃げ――ぇ?」

 使徒の群れを完全に打ち壊せず、逆に弾き飛ばされてしまった香織は悲鳴じみた絶叫を上げ……ようとしていた。

(あれ、フェルニル……だよね? なんか色と大きさが違うような――)

 ふと香織は神の使徒が突き進む先にゲートが現れたのを見つけた。しかもそこから何度か乗った覚えのある飛空艇らしきものが姿を現したのである。どこか見覚えのある形をしていたが、色合いも大きさもだいぶ違うことに香織は違和感を持つ。しかし香織がそんなことを考えていられたのはわずかな間であった。

「……ぁ」

 ……進路上のフェルニルらしきものに神の使徒の軍勢が突っ込んだ途端、壁に正面衝突した車のような有様になったからだ。無事そうなのは最後列の神の使徒ぐらいであり、他はほぼ潰れて形容しがたいものとなり、べっとりとした血を地面に向けて垂れ流している。いくら戦闘に慣れてしまった香織といえど、顔を引きつらせずにはいられなかった。

「うわ、ぁ……ぇ?」

 しかも香織にとってショックだったのはこれだけではない。少し目を離した隙にフェルニルらしき物体が消え、白髪の少年と白髪の小柄な少女がゲートへと飛び込む様が見えたからだ。

(あれ、ハジメくん……な、訳ないよね。だって左腕あるし。それにユエじゃなくて鈴ちゃんっぽい子が近くにいるなんて……え?)

 そのシルエットから思わず香織はハジメを連想したものの、彼はユエを奪還しに神域に向かっている。それに失ったはずの左腕が生えているはずがない。それと隣にいたあの少女はどこか鈴に近い気もしたが、香織もそんな子がいただろうかと思わず考えてしまう。

「紛い物よ。これで終わりです」

「――っと! 流石にTPOを考えないとね!」

 だが背後から迫る殺気に思わず香織はビクッとなり、すかさず左手の大剣で迫ってきた神の使徒の突きを弾く。呆けていたらこのまま死ぬ。気を取り直した香織が両手の双大剣を構えた時、よく知っている声が彼女の脳裏に響く。

“えーと、その……俺達は南雲ハジメの味方です! 皆さんの援護に参りました!”

「――えぇっ!?」

 幼馴染みである天之河光輝の声に香織は再度困惑を露わにする。彼は中村恵里の“縛魂”によってエヒトの居城へと行ってしまったはず。親友の雫がもう連れ戻してきたのかと考えた矢先、横から神の使徒が迫るのに香織は気づいた。

(この攻撃は受けてもだいじょ――え?)

 事前の仕込みによって今の香織は自動再生能力を持っている。だからそれをアテにして攻撃を受けようとした。だがその瞬間、横にいた神の使徒が突如現れた無数の光の破片によって八つ裂きにされるのを目撃してしまう。そしてそれが谷口鈴が考案した必殺技に酷似していることにも香織は気づいてしまい、頭が真っ白になってしまう。

“おいそっちの白崎! 動くな! 周りの敵を一掃してやる!”

「え、し、清水……君? え、えぇっ!?」

 しかも追撃をかけるように既に死んでいるはずの清水幸利の声が香織の魂に届いたのである。しかもその正体が自分も習得した魂魄魔法によるものだとわかるからこそ、香織は余計に混乱して大声を上げてしまう。

「あぁ、もうっ! 終わったら全部聞かせてもらうからね! 絶対に!」

 しかし今はエヒトの軍勢を前にしているせいでどういうことか尋ねようと思っても出来ない。光魔法と思しき砲撃や雷魔法が脇にいた神の使徒を消し炭にしても、まだあちらは星の数ほど存在する。ままならない事態に半ばヒステリックになりながらも、香織は両手の大剣を構え、謎の味方の協力を受けつつも戦場を駆け抜けていく。

「……そっか。さすがハジメくんだね」

 無数の神の使徒を切り捨て、兵士達を癒やし続けていた香織であったが不意にその動きが止まる。操り糸を失ったマリオネットのように、目から光を失った神の使徒が次々と地上へと落ちていったからだ。

『これは、いや、待て、あれはいったい……まさか、神域か?』

 何度か周囲と平原を見渡し、もう何も起きないと香織はホッとため息を吐く。しかしアドゥルの“念話”に気づいて香織も空を見上げた。神山上空は映像でも映しているかのように様々な光景が現れては消えるのを繰り返し、また大気が鳴動を始めたのである。

「ハジメくん、ユエ、皆……」

 更に空間の亀裂も揺らいでおり、今にも消えそうになっている。謎の味方のことも気になるが、神域へと向かったハジメ達のことを案じて香織は不安な表情でうつむく。胸に手を当て、胸の内を漏らしてしまう。

「ハジメくん達のことは私に任せて。みんなに愛されて幾星霜、このミレディちゃんに、ね☆ そーれーとぉー」

「あ……ハジメくんの味方、って名乗った皆のことですよね」

 すると香織の背後からミレディが、口調に反してひどく優しげな声で話しかけてきた。香織が振り向けばミレディはある一角、聖歌隊のいる要塞上空を指さした。香織もそちらへ目を向け、見慣れない集団がいるのを確認する。

「うん。まずは彼らにお礼を言ってからね」

「そうですね。あそこで聖歌隊の人達がやられてたら私達も危険だったから。あのー、すいませ……」

 白髪の何十人もの集団を見た後、香織はミレディの言葉にうなずく。色々と気になることはあるけれど、自分達の危機を救ってくれたのは確かなのだ。まずはそちらからと考えながら香織はミレディと一緒に要塞上空へと近づいた。

「……え?」

 ……そのせいで香織は想像を絶するものを見てしまう。ハジメとよく似た少年が、恵里とよく似た少女を愛おしげに見つめていたのである。しかも近くにいたどこか鈴に似ている少女にも同じような目つきをしているのまで目撃してしまった。

「ユエ、まで……あれ、檜山君だよね? え、なんでなんでどうしてどうして」

 最高のライバルであるユエも死んだはずの檜山の近くにいるし、シアやティオも斎藤や近藤のそばで色々と話している。更には白髪の雫にしか見えない女の子が光様らしき男の子と仲睦まじい様子まで香織の目に入ってしまう。

 頭の大事な部分に亀裂が入ったような心地となり、香織は段々と目が虚ろになっていく。ミレディが怯えているのにも気づかず、抑揚の無い声を垂れ流しながらも香織は謎の白髪赤目の集団へとゆっくり迫ったのであった……。


あとがき
香織本気で可哀想(他人事)

2026/10/13 修正しました(白目)
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