では改めまして読者の皆様への惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも271606、お気に入り件数も1053件、しおりも549件、感想数も863件(2026/10/18 15:25現在)となりました。誠にありがとうございます。ここでまた伸びってくれたのは本当に嬉しいです。
では今回の話を読むにあたっての注意点として少し長め(約12000字程度)、アンチ・ヘイトのタグはありますが念のためです。作者に原作の面子を叩く意志は断じてありません。本当に(滝汗)
……では上記に注意して本編をどうぞ。
「改めて聞くぞ。これは一体どういうことだ」
小さな庭園にドスの利いた声が響く。この世界のエヒトが討伐され、南雲ハジメとアレーティアも戻ってからまだ二時間のことだった。こちらの世界のリリアーナの取り計らいで恵里達は王宮にある小さな庭園に招かれ、南雲らと話し合いをすることになったのである。
「そっちの香織にも話したんだけどさ、あることがきっかけで並行世界に行っちゃってね。それで愛する人や仲間と一緒に親友に会いに来ただけ」
しかし、全員が席に着いた時点で空気は最悪となっていた。恵里の向かいにいたこの世界の南雲ハジメは、真っ白な長テーブルに右肘をついて彼女をにらんでいる。しかし恵里は前方から押し寄せるすさまじい殺意にも眉ひとつ動かしはしない。ただ淡々と南雲の質問に答えていくだけであった。
「……香織にでたらめを抜かしたんじゃねぇだろうな」
「ま、自分でも何言ってるんだかって思わなくはないよ。でも、そのつもりじゃなかったら加勢なんてしないって」
南雲の殺意などオルクス大迷宮の魔物のそれと大差ない。白崎らから向けられる視線を気にすること無く恵里はカップをそっとソーサーに戻し、南雲の問いかけに答えていく。
「ハジメくん、抑えて。ね?」
「……うん。ごめん、鈴」
とはいえ恵里も何も気にしていない訳では無い。チラッと隣に座ってるハジメに恵里が視線を向ければ彼の顔つきがまた少し険しくなっているのがわかった。それと左隣にいた鈴が
「あー、えーっと……」
「……パパがこわいハジメお兄ちゃんなの」
「……パパ、ちがう人だった」
それとこちらの世界の鈴から向けられる困惑に満ちた視線に恵里は気づく。また、両方の世界のミュウのつぶやきを聞いて思わずそちらに目を向けてしまう。
こうなることはわかってはいたものの、恵里はひどく罪悪感を感じてしまっていた。気まずさを感じながらも何度となくこの世界の鈴、両方の世界のミュウとレミア達へと恵里は視線を向ける。
「そう、だね……確かに私と連合軍の皆は恵里ちゃん達に助けられたし」
「そうでしょ? あとさ、
そんな時、こちらの世界の白崎も何ともいえない表情で目をそらしながらつぶやいた。それを聞いた恵里は、ちゃんと恩を売った甲斐があったと満足げな顔つきを一瞬浮かべる。その後、一度自分達の世界のミュウを心配げに見つめてから南雲をにらみ返し、とげとげしい声でその目つきと殺気を飛ばしてくるなと伝えた。
「……くそっ。そうだな。そればかりは悪かった」
「あ、ありがとう、なの。恵里お姉ちゃん……」
「す、すまん中村……俺がちゃんと言えてれば」
「本当にすいません。中村さん」
「いいのいいの。ミュウちゃんには助けられたし」
伝えた途端に南雲の目つきが少し柔らかくなり、殺気立った空気もいくらか緩んだのを恵里は感じ取った。お礼を伝えてきたこちら側のミュウに微笑みかけ、申し訳なさげに頭を下げてきた重吾とレミアにも手をひらひらしながら構わないと恵里は伝える。
「全く……そちらの南雲君は礼儀やマナーというものをオルクス大迷宮で忘れたようですね。恥ずかしいと思わないんですか」
「畑山先生ケンカ売らないでください! “鎮魂”!」
「あなたの言い分はわかるがひとまず待ってくれるか畑山先生。今は中村さんの番なのだから」
重吾らから礼を言われてすぐ、愛子があまり抑揚の無い冷たい声で南雲をとがめてきた。相変わらず自分達が絡むと沸点が低いなと恵里はふと思う。ただ光輝が“鎮魂”でクールダウンさせてきたし、鷲三をはじめとする面々が説得にかかったからいいやとひとまず恵里は流した。
「え、えーっと、あの人が……愛ちゃん?」
「あ、うん。そうだけど。色々あってさ」
「何があったら愛ちゃんがああなるの……」
そんな折、おそるおそるといった具合で向こうの八重樫雫が恵里に尋ねてくる。恵里もまたあっけらかんとした様子でそれに答えれば、八重樫は額に手を当ててため息を吐いた。白崎もまた頭を抱えながらぼやいていた。
「あ、あはは……そっちの方はすごいことになってるね、恵里」
「……うん。まぁ、ね」
悩んでいる様子の八重樫と白崎の方を見た向こうの鈴は苦笑を浮かべている。その後うかがうように言葉をかけてきた彼女に、恵里は微笑みながら相づちを打った。両隣にいるハジメと恋敵の温かい視線にちょっと恥ずかしさを覚えつつも、恵里はお茶を飲んでくちびるを湿らせる。
「そっか……そう、なんだ。そうなんだね……」
「うん」
「そ、その、ごめん!……恵里、だよな」
恵里が返事をすると向こうの鈴ははらはらと涙を流し出した。それと同時に口元が和らいだことに恵里は気づく。また彼女の隣にいたあちらの世界の龍太郎が涙を拭っているのを恵里は見てしまった。いつの間にこっちの世界の鈴は坂上とそういう仲になったのか。しばしぽかんとしていた恵里だったが、不意に別方向から声をかけられたことに気づいた。
「あ、うん。何か用?」
「あ、いや、えっと……」
「はい恵里。ストップ」
恵里は天之河光輝をチラッと見た後、すぐにこの世界の鈴の方に視線を戻す。自分のものにならなかったことを恵里はなんだかんだ今も恨んでいたからだ。そこで軽く不満げに天之河に尋ね返せば、ただでさえ弱かった声の勢いが更にしぼんでいく。いい気味だと軽く鼻で笑っていると、横のハジメからたしなめるような声が恵里の耳に届いた。
「恵里、そう言いたくなるのはわかるよ。でもね、あんまりだと思うな」
「天之河君も反省してるみたいだし、話ぐらいしてあげてもいいでしょ」
すぐに恵里は右にいたハジメの方に顔を向け、彼がムッとした様子で見つめ返していることに気づく。ハジメが軽く叱ってきたことに恵里は思わず冷や汗を流した。また左隣にいた鈴からもやや呆れがこもった声で話しかけてきたのもあり、恵里はちょっと苦笑いを浮かべてしまう。
「まぁ、そう……だね。それで?」
「えっとその、ありがとう。そっちの南雲と鈴。それと」
流石に二人に悪いと思った恵里は渋々天之河の方へと視線を向ける。すると困惑に満ちた顔つきで天之河はハジメと鈴へと感謝を述べた後、恵里の方へと顔を向ける。
「今更、今更俺が何を言うんだってのはわかってる。ごめん。でも、俺は恵里の、君の力になりたかった。けれどそれが駄目だったのはわかる。だから……」
「そっか。ありがと」
何度も目をそらしながらも天之河は言葉を続けようと、何かを伝えようとしてきたのは恵里にもわかった。しかし恵里にとって過去に天之河が『力になりたい』と言ってやったことは絶望に再度突き落としただけでしかない。カチンときた恵里は、即座に笑顔を
「……恵里、俺は――」
「うん。だって天之河君のおかげで本当の愛を知ることが出来たんだもん! 幸せにしてくれてありがと!」
「……う、うわぁあぁぁあ~~!!」
どこか救われたような表情を天之河が浮かべると同時に恵里は隣にいたハジメの腕をとる。そしてハジメの肩に頭を預けながら最高の笑顔を天之河へと見せつけ、『彼のおかげで』救われたということを遠慮無く叩きつけた。天之河は突っ伏して泣いた。
「おい光輝、しっかりしろぉ!!」
「う、うわぁ……恵里ってば、容赦がないよぉ」
「……こうなるなら殴り飛ばさなきゃ良かったわ」
「ま、感謝してるのは本当だよ。そうじゃなか――」
坂上が天之河の肩に手を当てて声をかけるのとほぼ同時、向こうの世界の面々が天之河にあわれみの混じった視線を向けたり、同情の声をかけたりし始める。やり返せてスッキリした恵里はちゃんとハジメ達のおかげで救われたことを話そうとした。だが恵里はいきなり頭をガシッと掴まれてしまい、それをやったハジメの方へと頭を向けさせられてしまう。
「恵里。ごめんなさいは? やっていいことと悪いことぐらいわかってるよね?」
「ヒッ」
目が笑ってない彼の笑顔を見て恵里は瞬時に固まってしまう。そして普段より一オクターブ低い声で話しかけられ、思ってた以上にやらかしてしまったことに恵里は気づく。
「返事は?」
「は、はいっ!……あ、あの、その、ごめんなさい。言い過ぎました」
再度ハジメから詰問され、完全に心が折れた恵里は恐怖で声を上ずらせながら返事をする。ハジメが手を放した後、さびた機械が動くようにギギギと体を天之河の方に向ける。そしてひどく震えながら恵里は頭を下げたのであった。
「え、恵里が……あ、あっちの南雲くん、すごいね」
「ま、私と恵里のためならハジメくんはこれぐらい出来るしね」
恵里は後悔と恐怖でいっぱいいっぱいだったせいで、二人の鈴が話をしたことにも気づけない。こちらの世界の鈴が困惑と安堵の混じったまなざしを恵里に向けたことも、ハジメを取り合う仲の鈴が目もくれずにしれっとお茶を飲んでいることにもだ。涙目になりながらも恵里はただただ頭を下げ続けていたのであった……。
「えー、こほん。ひとまず俺達や恵里のことについて
恵里が落ち着いた頃、光輝がわざとらしくせき払いをする。それから光輝が南雲らにこちらの事情について話したいと持ちかけた。直後、庭園が軽くざわついた。
「香織には悪いがやってくれ。ちゃんと自分の耳で聞いておきたい」
「そう、だね。私もちゃんと皆に伝え切れてなかったと思うし……」
ざわめきが起きてすぐ、南雲が少し申し訳なさそうな顔をしながら白崎の方を見やる。白崎もちょっと困ったような表情で首を横に振り、少しにごった瞳をそらしながらもやってほしいと伝えてきた。
「まぁ正直、鈴達にはキツいと思うけどね。いい?」
「何度も言わせるな」
恵里はあちらの鈴を少し不安げに見つめながら了解を取ろうとするが、先に南雲が苛立ちを伴った声で返事をしてきた。無神経な物言いに恵里は眉をひそめ、ハジメが軽く歯ぎしりする音を彼女の耳が拾う。
「う、うん……お願い、恵里」
「わかった。言うよ。あのね――」
だがすぐにあっちの鈴が怯えと覚悟の混じった顔つきで頼み込んできたため、恵里も苦笑してしまう。そして困ったような顔つきのハジメ達と顔を合わせ、恵里は世界を渡ってからここに来るまでのことを
「……事情はわかった」
「……証拠まで見せられたら納得するしか無い」
ひと通り説明を終えた後、南雲はやや鋭いまなざしを恵里達へ向けてきた。南雲の隣に座っていたこちらの世界のアレーティアも、どこか渋い表情でテーブルの上に乗ったアーティファクト――クリスタルキーと導越の羅針盤を見ながらつぶやく。
「うむ。三日前に相対した時とは姿も違う。それにお主らがご主人様のように技能や概念魔法も使えるしのう。本当でなければ逆に不自然じゃな」
「ご、ご主人様……?」
(うわっ。やっぱ向こうの化け物ロクでもないじゃん)
この世界のティオもうんうんとうなずいており、納得した様子で恵里達を見ていた。なおその際仲間であるティオが一瞬怪訝な声を出したが、恵里もあちらのご主人様発言には内心引いてしまう。
「改めて説明してもらって助かったけれど……」
「色々、あったのね……」
どこか恨みがましい目つきをした白崎に恵里は見つめられるも特に気にはしていなかった。恨みや妬みのこもったつぶやきもだ。ただ、雫に鷲三、霧乃を複雑な表情で何度となく見つめている八重樫の様子を見て、恵里は何ともいえない顔つきになった。
「本当にそうですよね……雫さんの家族もそうですけど、でも」
「……私の隣にいるのがハジメじゃない」
この世界のシアも八重樫と同様、雫達
「あぁ……どうしてユエの隣にいるのが檜山なんだよっ」
(あー、そういえばそういう名前だったっけ。てかここで言うこと?)
それに続いて南雲が思いっきり大介をにらみながら軽く声を荒げた。恵里はこの世界のアレーティアの名前の認識を改めつつ、若干空気の読めない発言をかましたユエと南雲に呆れのこもった視線を送る。
「ひぅ……」
「おいアレーティアっ!――その名前はやめろ。色々あったんだよ」
その直後、アレーティアの呼吸が乱れたのに気づいた恵里はサッとそちらに目を向けた。すると彼女の隣に座っていた大介が立ち上がり、軽く青ざめていたアレーティアを抱きしめたのが恵里の目に入る。すぐさま呼吸が落ち着いたのもわかり、大介の言うことに内心うなずきながら恵里は再度南雲の方を見やった。
「ほう、どういう理由だ?……さっきお前ら、色々
(チッ、勘の鋭い奴。誰が馬鹿正直に話すかっての)
恵里が視線を向けるとほぼ同時に南雲は低い声で問いかけてきた。これには恵里も内心舌打ちをする。あえて詳細な説明を避けたのはアレーティアの過去のやらかしや鷲三らのしたこと、愛子の身に起きたことに触れないようにするためであった。話したせいで四人が苦しむのを防ぐためであったからである。
「……後ろめたいことがないなら話せるはず」
「そうだね。もし何かあったのなら、いくら違う世界だからって私も許せないかな」
「それは認めるよ。でもね、人には言いたくないこともあるでしょ?」
「私達は恩人のはずなんですが。いい度胸をしてますねそちらの皆さんは」
お茶会を開くまでの間、どう説明するか恵里達は打ち合わせていた。もちろんアレーティア達も了承済みだ。だがそれを南雲が見抜いてしまった。ユエや白崎らが不審な目を向けてくると、すぐにハジメと愛子が冷ややかな声でそれに反論してくる。
「ハジメもそっちの南雲君も! 愛ちゃんも落ち着いて!」
「そ、そうです! わ、私が今“鎮魂”かけますから一旦落ち着いて――」
「馴れ馴れしく人を愛称で呼ばないでくれますか、そちらの八重樫さん。私はあなたの担任ではありませんよ」
その途端、八重樫と向こうの愛子がひどく焦った様子で声をかけてきた。その一言で隣にいたハジメの圧が少し弱まったように恵里は感じた。だがこちら側の愛子の方は軽い呆れと苛立ちの混じった声で八重樫に言い返している。これはまずいかもと恵里が冷や汗を流した矢先、いきなり焦りが消えたことに彼女はハッとする。
「……助かった。愛子」
ふと南雲の方を見やれば、彼の方から向けられる圧がなくなったことに恵里も感づく。あちら側の愛子の言葉と今の状況からしてちゃんと“鎮魂”を使い、仕切り直してくれたことに恵里もホッとする。しかしすぐに南雲が青筋を浮かべたのを見て、見通しが甘かったことを恵里は察してしまう。
「けどな。惚れた女が別の男と一緒にいるのと、ミュウが俺以外の奴をパパって呼ぶのを見て冷静でいられる訳ねぇだろうが! 冗談じゃねぇぞゴラァ!!」
(うわ気持ち悪っ)
そして南雲がメンチを切りながら悪態を吐いたのを見て、恵里は背筋に寒気を感じた。ハジメが自分達をとても大切にしてくれているのを考えれば南雲がこうなってしまうのも恵里も想像は出来た。しかしこうして目にした時、その気持ち悪さに恵里は耐えられなかったのである。
「……まあ、僕も人のこと言えないしわかるんだけど」
「うわ。盗られた訳でもねぇのにわめいてやがる。キモッ」
「いや仕方ねぇだろ礼一。ネト……こういうのいきなり見せつけられるとな」
南雲がキレ散らかした後、ハジメを筆頭とした幼馴染み達が苦笑しているのが恵里の耳に入った。また馬鹿四人が鼻を鳴らせば、恵里も続いてうなずいた。幸利が南雲のフォローをする際に優花と奈々が“威圧”を一瞬使ったこと、幸利がその時息を呑んだことに気づきはした。だが恵里は幸利の言葉に理解は示しつつも南雲に冷ややかな目を向けるだけであった。
「やかましい! 俺だって馬鹿馬鹿しいってわかってんだよ! でもな、今の光景見せつけられたり、その原因が中村にあるとか冗談じゃねぇからな!!」
すると南雲は長テーブルをバンと叩いて立ち上がり、更にわめき散らしたのである。恵里は白い目で南雲を見続けるだけだった。だがハジメ達の方から軽い威圧感が漂ってきたことに恵里は軽く焦りを覚えてしまう。
「は、ハジメ! 落ち着きなさいってば!」
「そうじゃご主人様! ユエやミュウ、妾達を大事に思うのはわかるが、いささかやり過ぎておる!」
「それぐらいわかってんだ雫、ティオ!……お前達のことだってそうだ。それにミュウはな、俺がパパじゃないミュウがいるって説得しても折れずについてきてくれたんだぞ! そんないたいけな俺の子を泣かすとか――」
流石に止めないとまずいかと考えた恵里であったが、彼女より先に八重樫とこの世界のティオが南雲に呼びかけた。だが焦りが垣間見える八重樫の制止、やや声を荒げたティオの叱責も振り切り、南雲は思いをぶつけてくるだけであった。
(あー、最高にめんどくさい。今度はこっちが“鎮魂”叩き込んで――)
「「あらあら」」
「黙れ。
これでは話し合いにならないと恵里は思わず頭を抱えた。いっそ仕切り直しに“鎮魂”でも使おうかと考えていたその時であった。ふと両方のレミアから漂う空気が変わり、またアレーティアの方からも凄まじい圧が放たれたのである。
「……れ、レミア、さん? あれー、てぃあ?」
「どうして、そんなこというの」
三人の変化に恵里は軽く目を見開いてしまう。アレーティアとこちら側のレミアはともかく、向こうのレミアまで目が笑ってないまま南雲を見つめるとは思わなかったからだ。更にこちら側のミュウが悲しげにつぶやいたのを聞いてしまい、恵里は口の端が思いっきり引きつってしまう。
「ゆ、ユエ? ミュウ?……あ、あのな。俺はユエを悪く言ったつもりも、ミュウを叱るつもりじゃなくてだな」
「どうして、どうして恵里お姉ちゃん、大介お兄ちゃんたちのこと、わるく、いうの?」
ひどく心配になった恵里はサッとこちら側のミュウへと目を向ける。するとミュウは鼻をすすってグスグスと泣きながら南雲をじっと見つめていた。南雲もうろたえながら言い訳をしてきたが、ミュウはしゃくりあげながら問い返している。
「みゅ、ミュウちゃん。もうパパと一緒に船戻ろっか? ね?」
「……ん。ミュウ、ここは私達がやるから大丈夫」
「う、うん! 後は僕達がちゃんと話し合いするから大丈夫!」
「そ、そうだな! ここは悪いが中村達に任せて、一旦戻って――」
「やっ!」
こんなことになるならなんとしてでも来ないようにミュウを説得するべきだった。ひどい後悔に襲われながらも恵里はミュウの方を向き、笑みを作って必死になだめにかかる。だがいつの間にか威圧感の消えたアレーティア、それとハジメ達や重吾が呼びかけるもミュウは首を横に振って嫌がるばかりだった。ミュウはたった一言で言い返すと、涙目のまま南雲をキッとにらみつける。
「わ、悪かった。お前のとこの奴らを悪く言ったのはあやま――」
「パパのことも悪く言う
南雲の方もひどくしどろもどろな様子でミュウに声をかけてきていた。だが南雲が言い終わるよりも先にミュウの大声が庭園にこだまする……庭園は一瞬にして静寂に包まれた。
「あ、いや、その……すまな――」
「なぐもをとめなかったおねえちゃんたちもだいっきらい!」
焦燥に満ちた重吾の声が一瞬響くが、すかさずこちら側のミュウが大声で叫んだ。空気が次第に重苦しくなっていくことに恵里も気づいている。しかしどうしたものかと視線をさまよわせていた。
「……みゅ、ミュウに、ミュウに嫌われた」
「……うん。流石に私達も、大人げなかったよね」
「なんで、なんで……そっちのミュウのばかー!!」
「ばかじゃないもん! ミュウわるくないの!」
南雲はしなびた空気を漂わせながら無言で突っ伏していた。ユエや白崎らは今にも死にそうな顔をしており、この世界のシアや愛子達もうなだれている。また更に両方の世界のミュウが泣きじゃくりながら口げんかまで始める始末であった。
(あーもうどうすればいいのさ! ボクはただ、鈴と話がしたかっただけだってのに!)
「「ミュウ、こっちに来なさい」」
どう収拾をつければいいのかと恵里は頭を抱えていたが、その時両方の世界のレミアが穏やかな声でミュウに声をかける。恵里が顔を上げると、両方の世界のミュウは何度か鼻をすすってから母親の元へステテテーと走って行くのが見えた。
「……ミュウ、わるくないの」
「そうね。こればかりはあちらの南雲さんが悪いってママも思うわ」
「ごふっ」
「……あっちのママなんかだいっきらい」
「あらあら。でもね、ミュウ。もしあっちのパパが、ミュウが選んだパパを悪く言ったらどうなるかしら」
そして鏡写しのようにミュウが抱きつくと、レミア達は優しい声で自分の娘へと語りかけていく。胸元にミュウの頭を寄せ、髪の毛をなでてあやしながら二人のレミアは娘達を諭していた。
「……やだ。ミュウのパパ、何も悪くないもん」
「ふふっ。そういうことよ。パパはね、ミュウやユエさん達のことが本当に大好きだからああなっちゃったの。大好きの裏返しなだけ。でも、大好きだからって他の人を傷つけていい訳じゃ無いわ」
この世界のミュウがすねて顔を背けると、レミアも穏やかな笑みを浮かべながら語りかける。するとミュウのぶすっとした顔が徐々に気まずそうなものへと変わっていくのが恵里の目に映った。
「ミュウ、あっちのママが言ったことはわかるかしら?」
「……やだ。わかりたくない」
「あらあら。でもね。大好きな人を悪く言ったからって、嫌いだって言って返したらその人達も傷付いちゃうわ。今のミュウと一緒よ」
「……うん」
また自分達の世界のミュウの方にも恵里は目を向ける。するとぐずっていたミュウはレミアの言葉でシュンとしてしまい、ギュッと抱きついた。そしてレミアからよしよしと頭をなでられ、落ち着いたのだとわかって恵里もホッとする。
「この度は私の主人がすいませんでした。そちらのミュウを傷つけるつもりはなかったんですが」
「ぐぇっ」
「いいえ。謝ってくれたなら私は構いません。ただ、ちゃんとそちらの南雲さんが頭を下げていただきたいんですけど」
両方の世界のミュウが落ち着きを取り戻すと、どちらからともなくレミア達が立ち上がる。この世界のレミアは恵里達全員に向けて何度も頭を下げた。また恵里達の世界のレミアもテーブルの向こうの自分自身に頭を下げ、その後うっすらと笑みを浮かべながら南雲からの謝罪を要求する。
「ハッ。いい気味だね」
「……恵里。気持ちはわかるけどさ」
「い、いいじゃん! ボク何も悪くないもん!」
途中、南雲がうめき声を上げていたが、恵里はそれを鼻で笑うだけであった。しかしハジメが何ともいえない顔つきで恵里をのぞき込み、たしなめてくる。すぐに恵里はうろたえ、何度も目をキョロキョロさせながら自己弁護に走った。
「ですね。中村さんは悪くありませんよ。いくらショックを受けたとはいえ、勝手な都合を押しつけてきたあちらの南雲君が全面的に悪いかと」
「……ん。同感。共感も理解も出来るけれど、自分達がやられたらどうなるかも考えた上で動いて欲しかった」
「いや愛子先生とアレーティアさん、そういうことを言わないでくれ! せっかくレミアが諭してくれたのに、ミュウが変なことを覚えたら困る!」
すると愛子が苛立ちの混じった声で恵里を擁護し、南雲の行動を非難した。アレーティアもひどく冷たい声でそれに続く。二人が援護してくれたことに恵里が内心ホッとしていると、重吾がひどく焦った様子でツッコミを入れてきた。
「そんなことありませんよあなた。言い分はわかりますけど、ミュウが好きなパパを否定したのは変わりありませんから」
「レミアぁ!?」
しかしこちら側のレミアは笑みを浮かべたまま南雲が悪いと重吾に言い返した。素っ頓狂な声を上げる重吾にどこか憐れみを覚えつつも、恵里は改めてハジメ達と顔を合わせる。
「……どうしよう。ボク、こっちの世界の鈴と話が出来れば後はどうでもいいんだけど」
「まぁ、正直こっちの世界の僕がいても、ねぇ……」
「向こうの人達には悪いけど、あっちの南雲君には抜けて貰った方がいいよね……」
半笑いを浮かべながら恵里は自分の希望を伝える。するとハジメも南雲の方を一瞥してから目を泳がせ、言葉を濁した。また鈴の方もやや渋い表情で南雲らを見つめながらつぶやいた。
「えーっと、すいません。とても申し訳ないんですけど、そちらの南雲君は退席してもらっていいでしょうか……」
互いに何ともいえない顔つきで恵里達が見つめ合った後、光輝はこの世界のティオの方へ声をかけた。するとうなだれていたティオもため息を吐きながらゆっくりと顔を上げる。
「そうじゃのう。ご主人様はもう受け答えもままならぬじゃろうし」
「そうだね……カオリン達もちょっと無理そうだもん」
この世界のティオがチラッと目を向けたのに合わせて恵里も視線を動かす。机に突っ伏したまま何かぶつぶつ言っている南雲に、お通夜のような空気を漂わせて呆然としているユエ達の姿が目に入った。こちら側のティオと鈴のどこか疲れたような声に恵里も思わずうなずいてしまう。
「申し訳ありません、皆さん……ですがその前に。あなた。ミュウも」
「あ、はい……その、考え無しにあれこれ言ってすいませんでした」
「「……ごめんなさい」」
そうするとこの世界のレミアが再度立ち上がり、恵里達に向かって頭を下げた。その直後、南雲の方を向きながら声をかけると、彼もよろよろと立ち上がってからか細い声で謝罪してくる。それから両方の世界のミュウが気まずそうに謝ったのを恵里も耳にする。
かくして剣呑な空気で始まった話し合いは、気まずさを残しながらもどうにかひと区切りついたのであった……。
「――さて。ご主人様はユエ達がおるから問題なかろう」
南雲が謝ってからしばし後、お茶でくちびるを湿らせたこの世界のティオがぽつりとつぶやいた。恵里は庭園に残ったこの世界の面々、鈴にティオ、八重樫、坂上そして天之河をザッと見渡す。
「そうね、ティオ。ハジメは香織達になんとかしてもらいましょう。それと」
それから八重樫が額に手を当てつつ南雲らのことに触れる。その後、恵里は隣にいる自分達と一緒に来たミュウの方へと視線を向ける。恵里も苦笑いを浮かべつつ、ほっぺを軽くふくらませているミュウと向き合った。
「……恵里お姉ちゃん、いつか話してね」
「うん。あと十年、ミュウが覚えてたらね」
恵里はこの世界の鈴に自分の過去、虐待されたことについても語りたかった。それ故にああなってしまったと伝えたかった。そして子供であるミュウにそれを教えたくなかったため、重吾らにも退席するようこっそり“念話”で頼んだのである。恵里はかがんでそっとミュウの頭をなでながら、約束を覚えていることを伝える。
「……俺達はひとまず、戦闘艇に戻ってる」
「ミュウは任せて下さい」
一言告げてから重吾達もこの場を去って行った。そうして庭園にしばし静寂が訪れた後、恵里は自分の席に戻ってからこの世界の鈴に目を向ける。
「じゃ、話し合いを再開しよっか……で、どこから話せばいい?」
「話したいことは色々あるけど……ねぇ、質問していい?」
「うん。なんでも聞いてよ」
手を組みながら穏やかな表情で恵里は鈴に話しかける。すると鈴も思案するように視線を泳がせてから質問したいと返してくる。恵里も全部話したい気持ちとどう話せばいいかという迷いを抱えながら、クスッと笑って返事をした。
「うん……あの時、さ。あの橋の上で私と会えたら、って言ってたけど、何かあったんだよね」
「……まぁ、ね」
この世界の鈴は何度か言葉を詰まらせ、テーブルの上などに視線を落としつつもあることを問いかけてきた。何秒か遅れて恵里もその話を思い出し、気恥ずかしさと嬉しさを感じて思わずほほをかいた。そしてじっと見つめてきている鈴に視線を合わせつつ、短くつぶやく。
「あの事、かぁ」
「あの事、だよね」
「いいよ、二人とも。ボク……ううん。私のことはちゃんと鈴に話すつもりだったし」
恵里が返事をすると、すぐにハジメと恋敵の方の鈴の気まずそうな声が恵里の耳に届いた。恵里は首を横に振ると、既に事情を知っている二人の方を一度見てから穏やかな声で気遣いの言葉をかける。
「あ、それとさ。そこの天之河君は覚えてると思うけど、私の口から言わせてくれる?」
直後、恵里は勢いよく頭を動かすと、天之河の方を一瞬だけ見た。それからこの世界の鈴と向き合い、ややとげのある言い方で彼を制する。
「あ、はい……あの時、俺はもう間違えてたんだな」
「とりあえず聞いてからにしようぜ。な?」
ハジメ達の方から苦笑が漏れ、天之河もまた力のない声で返事をしたのも恵里は聞いていた。天之河がひどく後悔に満ちた声色でつぶやいたり、坂上が優しく彼に声をかけるのもだ。だが恵里はただこの世界の鈴をじっと見つめている。苦笑いする親友と向き合って、話をしようと待つだけであった。
「それじゃあ恵里、お願い」
「うん。今度はちゃんと話すよ。もう一度親友になるためにも、ね」
鈴の頼みに恵里は一度うつむき、後悔を顔ににじませる。しかしすぐに顔を上げ、彼女と目を合わせる。それから恵里は昔話を語り始めたのであった……。
既に他の方の感想返しなどでも触れましたが
Q.なんでこの時期に恵里達飛ばしたの? ●鹿なの?
A.アレーティアの時と同じで、作者が考える限りではマシな起爆タイミングがここしかなかったから(白目)
いやね、元々はアフターの「とある脳筋のハッピーロード」で鈴が墓参りした辺りにしようと思ってたんですよ。でもね、そのタイミングで来たら来たで魔王が全力で警戒しそうじゃないですか(偏見)
折角平穏な日々を手に入れたってのにかつて敵対してた恵里が自分達とそっくりな面々を連れてきてる訳ですから。とりまグリムリーパー達全部展開ぐらいはやりそう(偏見その2)
で、トータスと地球以外の世界が判明した後のタイミングだともっと不味いと思いまして。特に魔王達が妖精界から戻った後。「他所の世界からカチコミかけて来やがったか!」とばかりに迎撃にかかってきてもおかしくないですから。
なもんで原作のハジメ達が冷静になれる、というかならないといけないタイミングで恵里達が来訪することに。なおその結果