……アクセス数が伸びた当初は質の悪いイタズラでも受けたかと思っていました。今でもドッキリを仕掛けられたんじゃないかと思っています。いや、だって、まだトータスに行ってないのにここまで持ち上げられると思わなかったんだもの。思い出すと今でも背筋が震えます。
そしてお気に入りに入れていただいた皆様、投票していただいたnismon様、kyaruko様、路徳様、真藤陽人様、夜杜様、ちょくちょくアクセスしてくださる皆様方、本当にありがとうございます。感謝に堪えません。
それと投稿が遅れてしまい申し訳ありません。これもそれも十二神将会議と古戦場が悪い(責任転嫁) だって水パが活躍できる数少ない機会だったもの……やるっきゃないでしょ。
あ、今回もちょっと短めです。
カーテン越しに柔らかい光が部屋を照らす中、部屋の主はベッドの上で静かに寝息を立てていた。時刻は既に七時を過ぎていたが、目覚める気配は未だなく。そんな折、部屋の外からノックが響いた。
「鈴ちゃーん、起きなさーい。起きてー」
ノックをしていたのは鈴の母である谷口春日であった。朝食を既に作り終えた春日はいつものように中々起きない鈴を起こしに来ており、今日も彼女の部屋のドアノブを回して部屋に入る。
「鈴ちゃーん。起きてー。もう朝ごはん出来てるからー」
「ん……あ、おかあさん」
まどろみから覚めればそこにあったのは母の顔。体を起こして大きくあくびをすると、眠い目をこすりながら鈴はベッド近くに置いておいたスリッパを履いて母の手を掴んだ。
「おはよう鈴ちゃん。それじゃあ行こっか」
うん、と短く返す鈴を連れて春日はリビングへと歩いていく。今日の朝ごはんは何かと鈴に尋ねられるとベーコンエッグとイチゴジャムのトーストだよと短く返すも、春日の表情は少しだけ硬い。しかし申し訳なさを表に出さないよう努めながら進む。
朝食は鈴にとってとても大切な習慣である。家族全員と唯一過ごせる時間であるからだ。
どんなに忙しくてもこの時間だけは一緒にいてくれる。だからこそ鈴は自分が両親に愛されていないと思いこまずに済んだのだが、だからこそ一人でいる寂しさに耐えられなかった理由でもあった。未だ眠気の覚めない頭で母の手を握れば、春日もまたその手をしっかりと握る。頭がぼうっとしているせいでよくはわからないが、それがとても安心できて嬉しく感じていた。
「おはよう鈴。お母さんも」
春日とおそろいのマグカップに入ったカフェオレを口にしていた貴久だったが、一度それを置くとやってきた二人に微笑みながらあいさつをする。
「おはようございますお父さん」
「おはようおとーさん……」
夢現で返事をすると鈴は自分のイスに座り、両親と一緒に手を合わせる。いただきます、と短くつぶやくとあだほんのりと温かいトーストにかじりついた。
口の中に焼けた小麦の香りとある程度原型の残ったイチゴの食感、ペースト状になったイチゴと砂糖の甘みが広がっていく。水の入ったコップを両手ではさみこんで口をつけると喉をこくこくと鳴らし、ぷはっと短く息を吐いた。ひと心地ついたところでようやく鈴の意識も覚醒し始めた。
「鈴。あのね、これからはお父さん達もなるべく早く帰って、って……ゴメンね。また嘘になっちゃうかもしれないね」
「で、でも、ちゃんと鈴ちゃんと一緒にいられる時間は増やすから! それだけは絶対守るから!」
悲痛な表情を浮かべる両親に鈴はうんと短く返した。前には感じられなかった必死さを今の二人からは感じ取れるし、それを疑おうとは今の鈴は思っていないからだ。
休みはずっと家族といようねとか、だったら買い物も一緒に、とかいつになく真面目な様子で言い合っている両親をながめながら朝食を食べ進める。そうして最後にとっておいた黄身に口をつけると、ある事を思い出した鈴は両親に声をかけた。
「ねぇ。お父さん、お母さん。ちょっと、いい?」
「どうしたんだい鈴? おねだりなんて珍しいけど……」
「いいよ。鈴ちゃんのお願いなら、お母さん達がなんでも聞くからね」
途中で自分達のやったことを思い出して一人表情を暗くする貴久と、過去のやらかしから前のめりになって聞きにくる春日に少し顔を引きつらせながらも鈴は答えた。
「うん。学校に行くまえにでんわしたいんだけどいい?」
「電話? どうしてだい?」
首をかしげる貴久に鈴は申し訳なさそうな様子でその理由を伝える。
「きのう、鈴に話かけてくれた子とケンカしちゃったから……だから、だからね。あやまりたいの。おねがい」
鈴の脳裏に浮かぶ二人の子。彼らのおかげで思いを伝えられた。自分の寂しさをわかってもらえた。だから昨日冷たくあしらおうとしたことを鈴は謝りたかったのだ。
「そっか。昨日鈴ちゃんも言ってたもんね。気にかけてくれた子がいる、って。ご飯食べ終わったら電話しよっか。それで、その二人の電話番号はわかる?」
「うん、これ……南雲くん、って子がくれたの」
くしゃくしゃになった電話番号が書かれた紙を春日に渡すと、クスクスと笑いながらそれをながめていた。
「その南雲君、って子はいい子なんだね」
「……うん」
春日からハジメの名前を出されると何故か胸が温かくなった。それに疑問を覚えつつも鈴は手を合わせてごちそうさまとつぶやくと、まだ笑顔を浮かべたままの母から紙を受け取る。そして電話機に向かい、ハジメと恵里に昨日のことを謝るのであった。
学校に来るなり自分を見て小さいざわめきが起きたものの、鈴はそれを気にすることなく自分の席についた。頭の中にあるのはあの時声をかけてきた二人の子のことだけ。
(南雲くん……恵里……はやく、会いたいな)
窓の外の景色をながめながら鈴は思う。以前のような憂うつそうな表情ながらも、その口角が上がっていたことに気づかないまま授業を受けるのであった。
そして訪れた昼休み。二人を探そうと教室を出るも、鈴はあることを思い出した。
(……そういえば南雲くんも恵里もどこのクラスだったっけ? 朝でんわしたときに聞けばよかった)
朝にそれぞれの自宅に電話した際、ハジメと恵里に謝った後、自分と友達になってくれた。だが、それが嬉しかったあまり二人がどこのクラスなのかを聞くのを鈴は忘れていたのだ。しかもあの紙にも書かれていないから万事休す。探すアテがどこにもない。
「――鈴っ!」
どうしようとオロオロしながら廊下を歩き、近くのクラスにいないだろうかと辺りをのぞいていると、前から不意に声がかけられる。その方向を見れば自分に手を差し伸べてくれたあの少女が駆け寄ってきていた。
「え、恵里……よかった。どこのクラスかわからなくて、どうしようって思って」
「ごめんね。あの紙を渡す時、最初は電話友達から始めようって思ってたからクラスの番号は書かなかったの。でも、良かった」
鈴が恵里のことを呼び捨てにしているのは朝に電話をした際にそう頼まれたためである。お互い名前で呼び合いたい、という恵里たっての希望からこうして下の名前で呼び合っている。
「じゃあ南雲くんの教室にいこう?」
「あー、うん……そう、だね」
と、何故か恵里の方は歯切れの悪い返事を返してきたことを疑問に思い、鈴は何かあったのと問いかける。すると目をそらし、何度かうめき声を上げてから恵里は理由を語ってくれた。
「その、さ……昨日、先生に怒られた後、どうも気まずい感じになってね。私は気にしないでいいよ、って言ったんだけどさ、どうもあっちが謝ってばっかで……」
これは間違いなく自分のせいだと確信した鈴が顔を青ざめさせると、すごい勢いで恵里が肩を掴んでまくし立ててくる。
「いや、鈴のせいじゃないからね! 南雲の奴が悪いだけだから! 人が何度も何度も気にするな、って言ってるのにアイツが聞き入れないだけだから!」
ああもうどうしてこうなった、お前そんなへっぴり腰だったのか、とブツブツ言う恵里の様子を見て驚くと同時にまさかハジメは騙されたんだろうかと鈴は思った。
(でもどうしてそこまで南雲くんのことを悪く言うのかな……鈴だったらそんなこと言わないのに)
どうしてそんなことを考えるのかも気付かないまま、鈴は恵里の手を引き、声をかける。
「ねぇ恵里、そろそろ南雲くんの教室にいこうよ。お昼休みなくなっちゃうよ」
「まったくいつも計画通りにいか……あ。うん、わかった」
よくわからないことをぶつくさ言っていた恵里であったが、自分の声でまたあの人の良さそうな感じに態度が戻る。というか切り替わった……もしかしてこれに騙されたんだろうかと思いつつ鈴は恵里の後をついていくのであった。
「南雲くーん、お話いい?」
「あ……中村、さんと谷口さん」
教室に入り、自分の席で物憂げにしていたハジメに恵里が声をかけるが、表情は気まずそうなものに変わっただけであった。しかし自分に対してだけちょっと表情が柔らかくなったため、それが鈴にはちょっとだけ嬉しかった。
「お、お話だよね……えっと、その……」
恵里の言った通り、ハジメはどうも恵里に対して及び腰のようである。こうなった原因は自分にあると考えた鈴はわざとらしく大きく声を上げ、ハジメに話を振った。
「あー、あー、うん! えっと、南雲くんはさ、どういうことがすきなの?」
「え、えっと、その……ぼ、僕は小説とか、ゲームがすきだけど」
「じゃあ恵里は? どういうのがすき? おしえてよ」
「あ、いや、えっと……その、私も本とか読むのが好きだけど」
どうにか二人が話を始めたため、それに鈴は手ごたえを感じた。それなら、と不慣れながらも二人が話を続けられるよう質問したり、もう一方に話を振ったりしてみた。
「へえー。南雲くんいっぱい本もってるんだ」
「うん。そういえば谷口さんは本よむのすき? もしよかったら貸すけれど」
「ありがとう南雲くん。もしよかったらおねがい……そういえば恵里は南雲くんの家に行ったことある?」
「え? うん。確かによく南雲くんの家にはお邪魔してるけど――」
結果は成功といえるものではあった。時折苦笑を浮かべたり、考え込んだりする事があるものの、ハジメと恵里がいつまでたっても黙っているということはなかった。それに味を占めた鈴はそれを続ける。ただ――
「ねぇ、じゃあ今度恵里といっしょに南雲くんの家にいこうよ」
「そうだね。えっと、南雲くん。いい?」
「あ、その……えっと、えーっと」
ハジメと恵里は自分と話をした方がより話がはずんでいるようだと鈴は感じ取っていた。ハジメと恵里同士の話となると特にハジメがぎこちない感じになることも。そうこうしていると予鈴が鳴ってしまった。
「えっと、じゃあね。二人とも」
またハジメの表情が硬くなったことに気づいた鈴は、どうにかしなきゃと頭を巡らせるがすぐに良案は浮かばない。どうしようと焦りが募る中、恵里がハジメに声をかける。
「うん。南雲くん、その……今日も一緒に帰らない?」
「え、あの……えーっと」
しかしハジメの反応は芳しくなく。それに苛立った鈴はハジメの手を掴み、ジト目で告げる。
「今日はいっしょに帰るよ。いいね?」
「アッハイ」
有無を言わさず約束を取り付けるのであった。その横で恵里が『なんであの時の鈴と押しの強さが変わらないんだ……』とまた意味の分からないことをつぶやいていたからついでにジト目を向けておいた。
そうして放課後が訪れ、鈴は恵里と合流してハジメのいる教室へと向かう。すると自分の席でそわそわしていたハジメを見つけた。
「南雲くーん。かえろーよー」
「あ、谷口さん。中村さんも……うん、わかった」
以前から親しくしている恵里でなく、自分から声をかけたのにも訳がある。もちろんこちらが声をかけた方がまだマシな反応を示すからである。案の定、自分への反応は恵里に見せたものよりも柔らかいものであった。
「あのー……南雲くん?」
「え、えっと……なに、中村さん?」
そうしてハジメと一緒に通学路を歩く。がしかし、昼休み当初のような気まずい空気がまた広がっている。もしかしていつもこうなのだろうかと試しにこっそり恵里に聞いてみるが、そんなわけがないとやはり一蹴された。
「むしろこっちが引くレベルで話しかけてくることがあるぐらいなんだけど。どうしよう、鈴……」
小声で相談を持ち掛けてくる恵里に鈴は頭が痛くなる。どうにもじれったくて仕方がない。どうすればいいのだろうと悩んでいたその時、またあの言葉が脳裏に浮かんだ。
『今の鈴は寂しくて拗ねてるようにしか見えないんだけど。そんなに寂しいんなら、辛いんだったら――ちゃんと言葉にしなきゃわかるわけないってのがわかんないの! ホント、ばっかじゃないの!』
自分を前に進ませてくれた、あの言葉が。どうしてあの時恵里があんな顔をしたのか。鈴はそれを理解できた気がした。
「……ねぇ、南雲くん」
「え、えっと……谷口、さん? か、顔がこわいよ……?」
とても簡単なことだったのだ。だからきっと、今のこのじれったい空気を壊すのも簡単なんだろうと半ば確信に近いものを感じていた。
「恵里に言いづらいなら鈴に言ってよ。鈴がお話聞いてあげるから」
「え、えっと、その……?」
「えーと、鈴……?」
「恵里もだよ。二人が言いづらそうにしてたから鈴ががんばってたのに、どうして二人ともどうしようって顔してるの?」
ハジメも恵里も面食らった様子で鈴を見つめてくる。人にそうされる経験がない鈴はそれにビクリと体を震わせたものの、目をそらさず二人を視界に入れる。
「せっかく、せっかく鈴とお友だちになってくれたのに……なってくれた南雲くんと恵里がそんな顔してるの、やだよ」
ここで目をそらしたら、尻込みしてしまったら後悔してしまいそうな気がして。だから逃げ出したくても鈴は逃げなかった。
「で、でも……」
「でもじゃないよ! 昨日恵里が言ったの忘れたの!? 言わなきゃわかんないよ! 恵里も、鈴も!」
目に涙を溜めながら鈴は声を張り上げる。それに気圧されたハジメが声を詰まらせてうつむくが、恵里は一度大きく息を吐いて頭をかく。そしてありがとう鈴、とつぶやいた恵里はハジメに声をかけた。
「南雲くん。何度も言ったけど昨日のことは気にしてないから」
「でも、でも……僕の、僕のせいで中村さんが……」
「だからいい、って言ったでしょ。別に南雲くんが先生呼んだわけじゃないし、運がなかったんだよ。運が」
そう恵里が言うものの、ハジメの表情はまだこわばったままだった。そんなハジメに鈴は軽くしゃくりあげながらまた声をかける。
「南雲くんも、南雲くんもなんか言ってよ! ふたりが……ふたりがつらそうなかおしてるの、やだよぉ……」
自分でも何を言っているのかわからない。鈴は生の感情をただこの場でぶつけるしか出来なかった。しかし、それがハジメを動かした。
「僕も……僕も中村さんと、谷口さんといっしょがいい」
ポツリと胸の内を漏らすと、ハジメもまた鼻をぐすぐすとさせながら心の内をさらけ出していく。
「でも、でも……中村さんにきらわれたかも、って思ったらこわくて……でも、いっしょにいたくて……」
ハジメもしゃくりあげながら恵里の袖の先をつまむ。
「やだ……中村さんといっしょにいたい。ずっといっしょがいい。きらいに、きらいにならないで……」
顔をうつむかせ、さめざめと泣くハジメを見て鈴は二人に抱き着いた。
「すずも……すずもいっしょがいい! ふたりとはなれたくないよぉ!!」
その言葉を機にハジメと鈴はわんわんと泣き出した。昂る感情をなだめる術を知らない二人は感情に流されるまま、思いを吐きだし続けるだけであった。
「……あのさ、ボクはどうすればいいんだよ」
一方、恵里は二人を引っぺがすことが色々な意味で出来なかったため、二人が泣き止むまで頬をひくつかせていた。
「それじゃあお父さん、お母さん。行ってくるね」
ゴールデンウィーク最終日。出かける支度を終えた鈴ははやる気持ちを上手く抑えられないまま両親にあいさつをする。
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね鈴ちゃん」
玄関では春日と貴久が鈴を見送りに来ていた。娘が友達の家に行く、という当たり前のことをやれる日が来たことに春日は笑みが浮かぶのを止められない。嬉しそうな様子の鈴に微笑みを向けながら手を振る。
「ああ、いってらっしゃい……ねぇお母さん。今からこっそりついていくのって――」
「ダメですよお父さん。そういうのはよくないって昨日言ったでしょ?」
「いやさー、鈴に悪い虫がついたらと思うと心配でね。僕達の鈴がだよ!? そうなったら僕は頭がおかしくなりそう――」
なお、父は今まで自分をかまわなかったせいなのか頭の痛くなることを言っていたが。そんな両親を横に鈴は家を出て目的地であるハジメの家へと向かった。
「ん。来たね、鈴」
――途中、家から歩いて十分足らずのところにある公園に寄って、恵里と合流してから。
「それじゃあ恵里、
「……わかった。ついて来て」
電話番号こそ例の紙に書いてあるし、そこから家の電話帳で番地も調べられるが流石にどの家かまではわからない。だから恵里にガイドを頼むついでに話しでもしながら一緒に行くこととなった。
だが、鈴がハジメの名前を口にした瞬間だけ、恵里が苦々しい表情を浮かべたのを見て、鈴はある疑惑を深めた――本当に恵里はハジメの事が好きなのだろうかという事だ。
この前の学校からの帰りでの一悶着の後、ハジメがある事をお願いしてきた。恵里と鈴が互いに下の名前で呼び合っているのをハジメがうらやましがった。それで自分も二人に下の名前で呼んでほしい、二人を下の名前を呼びたいと頼んできたのである。捨てられた子犬のような目で。
その際鈴は二つ返事で承諾したのだが、恵里は一瞬遅れて反応したのである。
その時はちょっと恥ずかしいと言っていたが、鈴には根拠もないのにそれが嘘だと思ってしまったのだ。
「ねぇ恵里。聞きたいことがあるんだけどいい?」
そして恵里に抱いていた疑いを抑えきれず、ハジメの家へ行く道すがら鈴は恵里に質問をぶつけてみることにした。
「どうしたの鈴? 別にいいけど」
「ありがとう恵里。じゃあ聞くけどさ、どうして恵里はたまに自分のことをボク、って言うの?」
「……へ?」
それを伝えた途端、恵里の足が止まった。そして油が切れた機械のようにギリギリと首を自分の方に向けてくる。その顔は見てて怖くなるくらいひきつりっ放しだった。
「い、言ってた? わ、私が自分のことをボク、って……?」
「うん。それに自分のことをボクって言ってるときの恵里ってなんかふんいきがちがうもん。悪いこと考えてそうな――」
「待って。まず待とうか鈴。誤解だから。ボクは悪さなんて考えてないし、何より自分のことをボクなんて――」
「ほら、今言ったよ」
そうしどろもどろになっている恵里に事実を突きつければ、動きが一瞬止まる。そして大きく息を吐くと、髪をガシガシとかいて気だるげな感じの視線を向けてきた。
「あーもう、ちゃんと隠してたつもりだったのにな……あのさ、鈴。出来れば、その」
「うん、いいよ。南雲くんには言わないでおくね」
その言葉が意外だったのか恵里は大きく目を見開き、信じられないものを見るかのような目つきで鈴を見つめてくる。
「きっと恵里にも何かあるんだよね? 鈴と初めて会った時とかもそうだったけど、鈴のことを知ってる感じだったし」
その言葉にうげっ、と短く漏らす恵里を見て鈴は確信した――中村恵里という少女は何か秘密がある、と。
「……確かに助かるけどさ、目的は何? こう上手く話が進むとさ、いくら鈴でも警戒したくなるね」
疑いの眼差しを向けてくる恵里に鈴は首を横に振って否定する。
「ないよ? ただ、恵里にも言いたくないことがあるんだろうなーって思って」
たとえ秘密を抱えていたとしても無理矢理にでも暴こうとは思っていなかったし、こうして恵里が渋っているならしなくてもいいと考えているからだ――せっかく友達になってくれた子をくだらないことでなくしたくない。それだけは絶対に嫌だったから。
「いつか話してくれるんだったらいいなー、って思ってるけどそれぐらいだよ?」
「……信じて、いいんだね?」
もちろん、と声をかけて鈴は恵里の手を一度くいっと引く。鈴は柔らかい笑顔を浮かべながらそれにと付け加えた。
「ゴールデンウィーク最後の日なんだからハジメくんといっぱい遊びたいもん。ずっと家にいたし、友だちの家であそぶなんてはじめてだから」
えへへ、と笑いかければ恵里も軽く息を吐いてしょうがないとばかりに困った顔になった。
「はいはい、わかった。それじゃあとっととハジメくんの家に行こうか」
「うん!」
そうして最初に出来た女の子の友達に手を引かれながら鈴は初めて出来た男友達の家へ向かう。ウキウキしながら。軽い足取りで。街路樹の緑が太陽に照らされる中を歩いていく。
「いらっしゃい。恵里ちゃん、鈴ちゃん」
そして笑顔のハジメに出迎えられ、本を読んだり、彼の両親の度を越したはしゃぎっっぷりに軽く引いたり、この日のためにハジメが買ったパーティゲームで盛り上がったりして鈴の休日は過ぎていった。
陽だまりに照らされた世界はとても鮮やかに色づいていた。
・恵里から見た二人
鈴:なんか根暗だけど大切な友達。まぁ根暗だし、前いた世界と似通ったここだと多分こうなんだろうなと思ってる。
ハジメ:便利な道具(予定)であり、鈴と友達になるきっかけを作ってくれた奴。感謝はしてるけど恋人ごっこが面倒くさい。
・ハジメから見た二人
恵里:よくわからないけど“大切な”人。
鈴:恵里ちゃんが気に掛ける女の子。とりあえず友達になれたし、今は暗い顔してないからよかった。でも恵里ちゃんをとらないでほしい。
・鈴から見た二人
ハジメ:よくわからないけど気になる子。恩人。
恵里:恩人だけど猫を被ってるっぽい。どうしてこんなのがハジメくんと一緒にいるのかちょっと怪しい。けどいつか教えてくれるみたいだからいいや。
やだ、なんでこの時点で軽く複雑な三角関係に至ってるのこの子達……!←コイツのせい