そして無名読者さん、天龍改さん、シェイドさん、ノーバディ621さん、小焼け夕焼けさん、自分の作品を評価してくださりありがとうございます。
では本編をどうぞ。
二学期が始まってひと月余り。校庭の木々がほのかに赤や黄に色づいた頃であった。恵里は今朝もホームルーム前に自分を慕う子達と話をしていた。
「そっかー。三人でプールに行ったんだねー。いいなーうらやましいなー」
「行ったのはあの時一回だけだよ。後はハジメくんと鈴の両親の都合がつかなかったんだ」
「でもいいじゃん。南雲くんとデートしたんでしょ?」
「そうだよなー。南雲のヤツがうらやましいぜー」
ハジメをうらやましがった少年に女子の冷たい眼差しが向けられ、必死に弁明しているのを適当にながめつつ、恵里は誰にも悟られないようため息を吐く。
(相変わらず好き勝手言ってくれるなぁ……まぁ慣れはしたけどさ)
どういった理由であれ、この子達はハジメをキープするために働いてくれたのは事実である。だからこそ無碍に扱えば自分の悪評を広められるであろうことは容易に想像がついた。だからこそ恵里がとれる手段は猫を被って上手いこと転がすしかなかったのである。その方法が流されるのと大差ないのはともかくとしてだが。
「そういえばさ、先週の木曜ぐらいに南雲くん見かけたけどなんかヘンだったよ。何かあったの?」
ふとそんな時、『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の一人が出した疑問に恵里は思わず苦笑いを浮かべる。アレはここ最近の中では特に面倒だったと思い返したからである。
「あー、そのね……ちょっとハジメくんがすねちゃってさ――」
遠い目をしながら恵里はその理由を語った。
それは先週の水曜のこと。いつものように放課後を迎えた後、ハジメの家に鈴と一緒に向かおうと校門前で待ち合わせをしていた時まで遡る。
「あ、おまた……ま、またせて悪いな」
鈴と一緒に話をしながらハジメを待っていた恵里だったが、そこで現れた当の本人が何故かカッコつけた感じに言い直す。これが始まりであった。
「どうしたのハジメくん? なんかヘンだよ?」
「そ、そんなことない……うん、オレはいつも通りだよ?」
「いや、ハジメくん別に自分の事俺なんて言わないでしょ。いきなりどうしたの?」
「い、いつも通りだし! ぼ……自分のことをオレって言って悪いの?」
あからさまな違和感に恵里も鈴も疑問をぶつけてみるものの、ハジメは何とかして誤魔化そうとするばかり。
「え、えっとあの、さ……二人とも、今度の日曜にデートはどう?」
それはハジメの家へと向かう道中でも変わらなかった。デートなんて気の利いた言葉は使いもしなかったのに、気恥ずかしさや緊張しているのを気取られないよう必死になりながら二人に提案してくる。その様は滑稽を通り越してどこか微笑ましさを感じさせた。
「デート、はしてみたいけど……ねぇハジメくん、だいじょうぶ? 熱ある?」
「……まぁハジメくんがやってみたいならいいけどさ。鈴も言ってたけど、本当に大丈夫なの? まーたあの親にそそのかされた?」
鈴も恵里も口々に疑問を口にするものの、ハジメはうろたえたり、いつも通りだと強がるばかりで全然理由を話そうとはしてくれない。そうこうしている内に南雲家に三人はたどり着き、ハジメの不慣れなエスコートを受けながら二人は玄関を上がった。
「いい本を見つけたから、よかったら読むかい?」
そして彼の部屋であってもその感じは変わらず。疑惑を通り越して軽い不信感を抱いていた二人であったが、恵里はその様子にどこか見覚えがあるような気がしていた。かつての光輝のような感じに自然にカッコつけようと背伸びしている様子をどこかで、それも漫画本なんかで見たような気がして仕方がなかったのである。
「……なんか今のハジメくん、ハジメくんっぽくないよ。すっごいヘン」
「い、いや、その僕は……オレはヘンじゃない、よ?」
鈴の容赦ない言葉に軽く涙目になるハジメを横に見つつ、一体何だっただろうかと恵里が思案しているとある本が目に入る。鈴にいぶかしげな視線を向けられてハジメが軽くオロオロとしている中、恵里はその本を手に取ってパラパラとめくり、あるページを見て確信した。そしてため息を吐くとハジメの方に向き直った。
「え、えっと恵里ちゃん、ちょっと助けてほしいんだけど……」
「いいよ。とりあえず“龍宮錬”のマネをやめたらね」
恵里の言葉でビシリと固まると、ハジメはすぐに冷や汗をダラダラと流し始めた。そんなことないですよ、と目を背けながら否定する様子を見てやっぱりかと恵里はまたため息を吐く。そして首をかしげていた鈴にさっき読んでいた本――『恋はビブリオと共に』を手渡した。
「あ、恵里。これって『恋ビブ』?」
「うん。前に鈴も読んでたよね。ハジメくん、錬の真似してたみたい」
その名前を聞いて鈴もようやく納得する。道理であんな変な感じだったのか、と。
『恋はビブリオと共に』は図書室によくこもっていた高校生“姫川凛”を偶然見かけ、一目ぼれしたイケメンの“龍宮錬”が彼女と繰り広げるラブストーリーの漫画である。歯の浮くようなキザったらしい台詞は錬の特徴のひとつであり、これまでハジメが言っていたものもそれと酷似しているものがいくつかあった。それで確信したのである。
「そういえば前に二巻を読んでなかったっけハジメくん? さっきの、錬が凛をお家デートに誘うときとさ……すっごぉい似てたんだけどなぁ」
「え、えっと、その……」
「どうしてハジメくん錬のマネしたの? ぜんぜんにあってなかったよ?」
二人の容赦ない追撃にハジメは遂にくずおれる。鼻をぐすぐすと鳴らしだしたため、鈴と恵里は慌てて駆け寄ろうとするとガチャリと部屋のドアが開いた。
「やっぱり。やめといたら、って言ったんだけどね」
「お、お母さん!」
いつの間にやら菫は帰ってきていたらしく、その手にはいつものようにお菓子とジュースのペットボトルを載せたトレイがあった。その口ぶりからして何か知っているだろうと考えた恵里は、みんなに飲み物を配っている菫に何があったのかを質問することにした。
「あの、菫さん。ハジメくんの様子がちょっと変だったんですけど何かあったんですか? なんか、急にカッコつけ出したんですけど」
「ちょっと前からそんな気はあったんだけど、特に顕著になったのはみんなで一緒にプールに行った辺りかしら。家に帰ってからこんなこと言いだしたのよ」
菫曰く、ハジメは大人っぽい恵里に対してちょっとでもつり合いがとれるようになりたかったらしく、そのためにはどうすればいいのかを日々考えていたらしい。しかしやったところで似合わないと思ってあきらめていたのだが、先日プールで恵里が恋人つなぎをしたり、間接キスをされてから考えが変わったようだ。自分も恵里ちゃんとつり合うようなカッコいい男の子になりたい、と伝えてきたのである。
菫はそんなことをしなくても別に大丈夫だと伝えたものの、ハジメはそれに納得しなかったようだ。少女漫画を読みふけるようになったり、父の愁にもこっそり相談したりしていたそうである。それも母である菫には筒抜けであったようだが。
「ハジメに相談された時なんかね、『俺の真似でもしてみたらどうだ』ってお父さん言ってて……もう、ハジメったら。背伸びしちゃって」
ひどくイキイキとした様子で語る菫に恵里と鈴は困惑し、ハジメはあまりの恥ずかしさで体を徐々に大きく震わせていった。
「ねぇ、二人はどう思う? 今のハジメ」
「よくわかんないけど鈴はにあってないと思います――鈴のこともちゃんと見てよ」
「えっと、その……ハジメくんがやりたいなら、別にいいんじゃないでしょうか?……え、ちょっと鈴、今なんて――」
「う、うぅ……うわぁああぁああぁああぁあぁん!!」
そして菫の問いかけからの二人の返しを聞いたハジメは泣きじゃくってベッドに逃げ込んだ。鈴のストレートな物言いもそうだが、恵里が精一杯気を遣ってコメントしたのがハジメに一番効いた。なるべくハジメが傷つかないよう言葉を選んで言ってくれたこと、恵里にそんなことを言わせてしまった自分への嫌悪で心が軽く折れてしまったのである。
その後は布団を頭から被って亀みたいに縮こまったハジメをなだめすかすために、門限ギリギリまで恵里と鈴は粘る羽目になった。結局家に帰るまで『おそとでたくない』だの『はずかしいからやだ』だのと終始ゴネっぱなしでどうにもならなかったが。
門限のこともあり後は菫に任せたものの、二日はマトモに口も利かなくなり、恥ずかしさと恨みがましい目で見つめられるばかりであった。流石に焦った二人がひたすら謝ったことでどうにか機嫌が直り、自分も悪かったと反省してくれた。今では前のように接することが出来るようになっており、前にハジメが提案したデートも近くの公園でやったりと、結果として仲は深まっている。
「――とまぁ、こんなことがあってね」
遠い目をしながら語れば男子はハジメへの同情を口にし、女子は何とも言えないような顔で恵里を見ていた。
「……南雲のヤツかわいそうじゃね? オレだったらもう二度と会いたくないわ」
「いや、つらいでしょコレ。こんなこと好きな子に言われたらぜったい立ち直れないよ」
「そうかもしれないけどさー、べつに南雲くんやんなくていいことやってこうなったんだし、じごうじとくってやつじゃない?」
「恵里ちゃん悪くないしねー。なんで男の子っていつもカッコつけるのかよくわかんない」
そしてまた男子と女子とで意見が割れて口ゲンカに。今日もため息を吐きながら恵里はみんなをなだめることとなった。
(あんなことやるなんて予想外だったよなぁ。まぁそれだけボクと鈴のことを意識しているんだろうけど……まさかあの化け物もこんなだったのか?)
そんなことを頭の片隅で考えながら、今日も恵里達は仲良く担任に叱られていた。
運動会、文化祭などの行事もつつがなく終わり、季節は冬を迎える。寒さが本格化する十二月、その半ばにさしかかった頃のことであった。
「えっ、お家でパーティーするの?」
例年よりも冷え込んだこの日、体を温めるためにリビングで両親と一緒に鍋をつついていた恵里であったが、夕食前から少しそわそわしていた父からあることを提案されたのだ。今年はハジメ君や鈴ちゃんも招いて家でクリスマスパーティーをしないか、と。
「ああ。南雲さんと谷口さん、どちらも仕事の都合でウィステリアに来ることが難しくなったらしくてね。それでその日だけでいいから預かってくれないかと頼まれたんだ」
先月の頭に開かれた食事会にてクリスマスはどうするかを大人達で話し合い、すっかり恒例となった食事会のようにここでパーティーでもどうだろうかという結論になったのを恵里は覚えている。幸いにもその時はまだ空きがあったのだが、今回はどうやらお流れとなったようだ。
「園部さん達にも悪いわね。折角準備してくださったのに」
「まぁ仕方ないさ。当日にキャンセルするよりはマシだろうし、せっかく決まっていたのに恵里も二人に会えないと寂しいかもしれないからね」
いつの間にか店員と仲良くなっていた両親や、鈴はともかくハジメに対してそういう感情は抱いていないことはひとまず横に置いておき、恵里はある疑問を口にした。
「それじゃあ、クリスマスはどうするの? ウィステリアじゃなくてお家だからお店でケーキを買って、鈴とハジメくんと一緒にパーティーするの?」
「そうだね。今の時期だとケーキの予約はもう埋まってるだろうから、店頭で売っているものになるけどいいかい?」
苦笑する父にそれでいいよと笑顔で返せば、微笑んだ父から頭をなでられ、ありがとうと感謝された。むくれる母を横目に優越感と父の手の温かさを感じながら恵里は目を細める。そうしてクリスマス当日はどうするか、鍋をつつきながら話し合いは進むのであった。
そして訪れたクリスマス当日の夕方。飾りつけ、食事の準備が終わり、いつでもパーティーが開けるようになった頃、来客を知らせるインターホンが鳴った。
恵里は両親と共に出迎えようと一緒に玄関まで行き、共に扉を開ければ全身をうっすらと白く染めたハジメと鈴がそこに立っていた。
「おじゃまします。正則さん、幸さん」
「今日はありがとう正則さん、幸さん。それと恵里も」
白い息を吐きながらあいさつもそこそこに入ってきた二人はコートと帽子の上に積もった雪を払いのけ、体を軽く震わせながら中村家に上がり込んだ。
「外は寒かっただろう? 少し温まってからパーティーにしようか」
「ちょっとエアコンの温度上げておくけど、それでも寒かったら言ってね」
ありがとうございます、と礼を言った後、恵里に手招きされた二人は用意された席へと向かった。恵里も普段の自分のイスに座り、その両横にある席をぽんぽんと叩けば二人もお行儀よく座る。
「ねぇ恵里ちゃん、今日のお料理すごいね。テーブルいっぱいだよ」
「鈴のおたんじょう日パーティーもすごかったけど、今日もすごいよ。ぜんぶ食べられるかな」
そして目の前に広がる料理を見るなり、隣の恵里に二人は話しかけてきた。二人が言及した通り、テーブルの上には所狭しと色々な料理が置かれている。主役のケーキはもちろんのこと、野菜のマリネやポテトサラダに唐揚げなどのオードブル、某フランチャイズ店で購入した小ぶりのチキンの詰め合わせなどがあった。
去年の中村家のクリスマスでもここまで豪勢ではなく、もう少しこぢんまりとしたものだった。しかし今回は知り合いとはいえよその子を呼んでの初のパーティーであったため、色々と話し合い、奮発したのである。ちなみに本来ウィステリアで使われるはずだった三家の予算の大半がこれにつぎ込まれている(キャンセル料含む)。
「そうだね。今日はいつもより豪華だし、二人とも遠慮しなくていいから」
かくいう恵里もこうして並べられた料理を前に少なくない興奮を覚えていた。これ以上となると精々トータスに招かれたその日の会食ぐらいしか記憶にないが、あちらは量がすごいのと見た目が奇抜なことぐらいしか恵里は覚えておらず、それ以上の感想もない。少なくとも自分や鈴のために考えて用意してくれたものに勝ることはないと考えていた。
「それじゃあみんな、用意はいいかな? こういう形になってしまったけれど、ハジメ君と鈴ちゃんには楽しんでいってほしい。それでは――」
いただきます、と各人が手を合わせて唱和する。こうして今宵の宴は始まった。
「おいしいね恵里ちゃん。からあげとかチーズをハムでまいたのとか」
「恵里もチキン食べた? もうなくなっちゃうよ」
ニコニコと笑顔を浮かべたハジメと鈴に、自分もうんうんとつられて笑みを浮かべながら恵里は相づちを打つ。三人でゲームをしたり、お菓子を食べたりしながら談笑したり、ウィステリアの食事会で話したりと色々とあるが今晩はまた格別であった。
レストランでなく自分の家でやっているからか、自分の家族だけでなく鈴とハジメと一緒に食事をしているからなのか、それとも普段の家の料理ともレストランのメニューとも違うものが出されているからなのか。どれが理由かは恵里にはわからなかったが今が楽しいのは少なくとも確実で、それを探るのはきっと無意味なことなんだろうということだけはわかっていた。
「はい。じゃあそろそろケーキを切り分けましょうか」
幸の言葉に恵里を含む子供達はわぁ、と歓声を上げる。ハジメと鈴はもちろん、恵里も甘いものは好きだからであった。切り分けられたケーキをそれぞれが受け取り、皆が幸に感謝の言葉を口にする。
「ありがとう幸。それじゃあ皆、最期の〆はケーキといこうか」
正則の一言で誰からともなくケーキに手をつけ、口にした皆が笑顔を浮かべた。口の周りにスポンジやクリームをつけた様子をからかわれたり、たしなめられたりと、にぎやかに夜は更けていった――。
「四出ろ四出ろー……あっ!?」
「はい、ハジメくん一回休みだね。それじゃあ私は――よし!」
「恵里、相変わらず強いよね……あ、三だ。ラッキー」
ケーキを食べ終え、リビングでしばらく談笑した後、三人は恵里の自室でボードタイプの人生ゲームを興じていた。本を読んでばかりだと飽きるだろうから、と正則が気を利かせて恵里のために買ってくれたものであり、三人が中村家で遊ぶ際によく選択肢として挙げられる代物である。
「後は四以上が出れば……よし、ボクの勝ちだ!!」
そしてこの人生ゲームにおける恵里の勝率は現在四割強で、ハジメと鈴が大体三割ぐらいに落ち着いている。恵里が二人よりも勝率が高いのにもれっきとした理由があった。
――実は何度もルーレットを回し、癖をある程度掴んでいるからである。
これを三人でやった初日、目を覆いたくなるレベルの大敗を恵里は何度も喫しており、悔しさのあまりとにかく勝つ方法がないかと模索して考え出したのだ。ハジメと鈴がかなり申し訳なさそうな様子で帰った後、ひたすらルーレットを回し、どれくらいの力だとどの目に止まるのかを研究したのだ。
それを何日も続けた結果、三割そこらの確率で狙って止められるようになり、
「また負けちゃった。恵里ちゃん、
「そうだね……ねぇ恵里、もしかしてコツでもあるの?」
「まっさかぁ~。ある訳ないでしょ、運が重要なゲームでさぁ」
素直に恵里の強さを認めるハジメとは対照的に鈴は恵里のことを軽く怪しんでいたが、当然恵里は種明かしをする気は更々なかった。狙って止めようとして失敗することもよくあるため、別に明かさなくてもいいかとも考えている。
「こんなに運がいいなら、桃○にリベンジしても勝てるかもねぇ~……ねぇ二人とも、どうして目をそらすの?」
なお、TVゲームの方のボードゲームに関してはお察しである……ハジメと鈴が『恵里から言い出さない限りは絶対やらない』という暗黙の了解が出来てしまう程には。
「いや、次は絶対勝つから。○リの銀次がやたら出てきたり、サイコロの目が十回近く三以下の目ばかりだったりしたこともあったけど、それはあくまで
「……うん」
「……そうだね」
ヒートアップする恵里から目を背けながらハジメと鈴は神に祈る。
――お願いですからたまには恵里に連勝させてあげてください、と。
また恵里がさめざめと泣く羽目にならないことを願いつつ、二人はムキになっている恵里をなだめるのであった。
恵里をどうにか落ち着かせた後も人生ゲームを数回ほどプレイし、全員が飽きたところでいつものように読書に移った。
恵里は少女漫画の単行本、鈴は恵里が買っていた少女漫画雑誌『に~にゃ』の最新号、ハジメはしれっと持ってきていたラノベの最新刊をながめていると、鈴があることを口にする。
「ねぇ二人とも、『に~にゃ』の最新号にのってた『さくふぶ』でさ、銀河が
それは『桜吹雪舞う中でキミと』の最新話にて、メインキャラクターの一人である“三国銀河”が同じくメインである“青葉信姫”にデートの誘いを取り付けようとしていたシーンについてのことだった。
剣道部の首将であるクールビューティーな信姫が無事県大会予選突破し、二人だけの祝勝会を建前として銀河がデートを申し込もうとしたのである。今回はそこで話が終わっていたため、それが鈴は気になったらしい。
「うーん、信姫は銀河とそこまでなかよくないし、断るんじゃないかなぁ」
「え、受ける――んじゃないかな? まだ誰が好きか明確じゃないし、ここらでハッキリさせてくるんじゃない?」
ハジメは登場人物の関係性から、恵里はこの後の展開を知っているためそれを誤魔化しながら答える。鈴は恵里の答えに一瞬だけ目を細めるも、そっかとあっさり返すだけに留めた。
このトークを皮切りに三人は一旦本を読むのを止め、興味のある作品のトークに移った。
追っていたラノベの最新刊が出ただの、三人とも好きな漫画の登場人物に関するアレコレ、果ては読み切り漫画で連載されてほしいものを語り合うだのと色々と盛り上がる。
しかし突如鳴ったインターホンの音でそのトークはピタリと止んだ。どっちだろうとハジメと鈴は互いに帰り支度をしながら待っていると、数回のノックの後、部屋のドアを開けた幸が鈴に声をかけた。
「鈴ちゃん、お父さんとお母さんがお迎えに来たわ」
その言葉に恵里とハジメは少しばかりの寂しさを、鈴は安堵と軽い胸の痛みを覚えるのであった。
「ありがとうございました中村さん。もし今度、何かあったら私達を頼ってください」
「もし機会がありましたらその時はお願いします。恵里のことをよく知っているお二人なら安心ですから」
春日と幸が世間話に興じているかたわら、貴久と正則は互いに礼を述べ合い、頭を下げあう。
「おかげさまで助かりました。じゃあ鈴ちゃん、みんなにバイバイしなきゃ」
名残惜しそうにじっと皆を見ていた鈴であったが、春日に言われて仕方なく手を振る。ぐずりそうな様子の鈴を見て思わず苦笑した恵里は鈴に優しく声をかける。
「別にしばらく遊べなくなる訳じゃないんだからさ、鈴。また遊ぼうよ。ね?」
「そうだよ鈴ちゃん。またあそぼ?」
恵里に続いてハジメからも声をかけられた鈴は、ほんの少しの間を置いて『うん』と短く返事をする。ようやく機嫌を直した鈴と一緒に別れの挨拶をし、谷口家の面々は中村家を後にするのであった。
そして谷口家を玄関で見送った後、二人は恵里の部屋に戻っていく。未だハジメの方は迎えも連絡も来る様子はなく、恵里の両親からもうしばらく部屋で待っててほしいと頼まれたからである。
「ねぇハジメくん。愁さんと菫さん、中々お迎えに来ないね。何かあったの?」
部屋でまた読書をしていたものの、あの騒がしい二人がまだ来ないことに疑問を抱いた恵里はそのことをつい口にしてしまう。するとハジメは軽く困った様子で恵里に問いかけてきた。
「えっと、ね……ひみつにしててほしいんだけど、いい?」
その問いかけに恵里がうなづいたのを見ると、ハジメはようやくその疑問に答えてくれた。
「お母さんはマンガをかいててね、それでしめきりがどうのって言ってた。お父さんはゲームを作ってて、それでバグがいっぱい出たからしばらく帰りがおそい、って」
その言葉で恵里も納得する。父からクリスマスパーティーについての話を持ち掛けられた時に何となく予想はしていたのだが、ハジメからの説明のおかげでその理由も理解できた。
「そう、なんだ」
「うん。いつもはお母さんがおしごとしてるマンションにおじゃましてたんだ。マイおねえさんやナルおねえさんがたまに話しかけてくれてた」
おそらく菫の仕事仲間であろう人物の名前を挙げたが、その顔は少しだけかげりが見えた。自分以外にも親しくしている奴がいるのにどうして、と妬みつつも思案していた恵里の手をハジメが掴む。
「でも、今は恵里ちゃんがいるから。だからそんなにさみしくないよ」
「――えっ」
ふにゃっとした笑みを浮かべたハジメに恵里は思わずポカンとしてしまう。いつになく緩みきった顔で笑っているハジメに何を言えばいいのか、どうリアクションをすればいいのか迷ってしまう。どうすればいいのかと困惑していた恵里にハジメはまた言葉を紡ぐ。
「恵里ちゃんのおかげでひとりじゃないから。ずっと僕といっしょにいてくれるから」
しかしはにかみながら伝えてきた言葉に呼応し、ある記憶がフラッシュバックしてしまう――橋の上でかけられたあの言葉が。
――もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる
どうしてこんな時に。思わず強く歯噛みしてしまい、我に返った途端に血の気が引いた。もし今の姿をハジメに見られてしまったらどうなるか。
「ご、ゴメン! い、今のは……あっ」
「すぅ……すぅ……」
急いで弁明しようと声をかけようとハジメを見れば、いつの間にか自分の手を握ったまま横になって眠っていた。とりあえず軽く揺さぶっても声をかけても起きる様子は見られない。
「えりちゃん……あそぼ……」
それどころか寝言で自分と遊ぼうとしている様子である。これなら多分大丈夫だろうと考えた途端、ひどく力が抜けてため息が出てしまう。
「あー、本当に危なかった……終わったかと思ったよ……ふぁ」
思わずあくびが出てしまい、いったい何時だろうと時計を見てみれば既に十一時を過ぎてしまっていた。道理で寝てしまったわけだと一人納得すると、恵里の方も眠気を感じてきていた。
(そりゃそうか。子供なんて普通この時間は寝てるだろうし……もう、ボクも限界かも)
今にもまぶたが閉じてしまいそうであり、ハジメの手を振りほどく気力も、ベッドに上がったり近間のクッションを枕代わりに使おうとする気力なんかも今の恵里にはなかった。ハジメと手をつないだまま横になり、まどろみに身を任せてしまう。
(ホントに厄介だよ、お前は)
眠気で頭がぼんやりとしていく中、恵里はハジメを忌々しく思う。
道具として使うために関係を持ったはずなのに、鈴のことで助けられ、思った以上に慕われて。そして何より――それが本気で嫌だというわけでもなくて。
(どうぐのくせに……おまえなんか、だいっきらいだ)
こうやって憎まれ口を叩かないと何かがブレてしまいそうで。断ち切りがたい何かをハジメとの間に感じながら、恵里もまた眠りにつく――その顔はほんの少しだけ安らいでいた。
エリリンはリアルラック低そうだし双六クッソ弱そう(偏見)
ハジメは微妙、鈴が多分一番運の良さがマシだと思う(注:個人の感想です)