では今度は皆様への感謝を述べさせていただきます。おかげさまでUA14000突破、お気に入りも230件、感想も30件を超えて誠にめでたい限りです。
未だにトータスのとの字も出ていませんが、気長に待っていただければ幸いです。
たばね365さん、自分の作品を評価していただき感謝いたします。こうして評価していただいたおかげでまた高いモチベーションを保てます。ありがとうございます。
それでは本編をどうぞ。今回はいつもよりも少し短いです。
夕焼けに照らされる住宅街の一角。そこで無数の乾いた竹同士のぶつかる音が今日も響く。老若男女問わず誰もが無心に竹刀を振るい続ける中、年端もいかぬ一人の少年もまた同様に子供用の竹刀を振るっていた。
「――に、さん、し、ご、ろくっ……!」
八、九歳の子と混じって素振りをしている七歳の少年は天之河光輝。共に練習している子達よりも体格が良いという訳ではなく、積んだ経験も他の子達より少ない。であるにもかかわらず彼は年上の子達と肩を並べるほどの実力を有していた。
経験の浅さ故に応用の利かなさはあるが、それを補えるほどの目の良さ、反射神経の良さを以って練習試合にもよく勝利している。天才、麒麟児、天之河美耶の再来、と称されてもてはやされているが、光輝自身は何かを振り払うように練習に打ち込んでいた。
正面素振り、早素振り、左右面素振り、上下素振りを終え、今度は追い込みと呼ばれる相手が下がるのを追いかけながら打ち込む稽古に移ると、玉のような汗を流し、息を荒げながらも光輝は黙々とこなす。
そうして幾つものメニューをこなし、師範代である八重樫虎一の『止め』の号令で今日もまた稽古を終える。ありがとうございましたと門下生一同に混じって礼を述べ、光輝もまた後片付けに移ると、今日もまた門下生から声をかけられた。
「お疲れさま、光輝君」
「今日も頑張ったな。もう二年もしたら俺達とやりあえるようになるんじゃないか」
「あ、はい。ありがとうございます」
いつものように年上の門下生から労いや激励の言葉をかけられるも、光輝もいつものように最低限礼を述べる程度でそれ以上の反応を見せることはなかった。その様子に苦笑しながらも先輩方はその場を後にしていく。
「今日もお疲れ様、光輝君。少し時間はあるかね?」
道場の掃除や防具の手入れ等の片付けを終え、すぐに家に帰ろうとすると今度は師範である八重樫鷲三から声をかけられた。
「あ、はい。その……わかりました」
今日の分の宿題をするにしてもあまり遅くならなければ大丈夫だろうし、師範からのお誘いを断るのは失礼だと思った光輝はそれを受け入れる。では行こうか、と告げた鷲三の視線がどこか悲し気な理由に気づけぬまま光輝は道場の廊下を歩いていく。
そして学校での様子を尋ねられ、あの時からあまり変わりませんと伝えると鷲三はなんとも言えない様子で光輝を見つめるのであった。
――龍太郎とケンカをした翌日以降、光輝の環境は少しずつ変化の一途をたどっていった。
まず起きたのは彼を慕う人間が減っていったことだ。その理由は態度の変化であった。以前の彼ならば即断即決、すぐに行動を起こしてくれていた。
だがあの日の夜、自分も間違いを犯すことがあるというのを理解した光輝はひどく慎重になっていた。それが本当に正しいことなのかを彼なりに念入りに調べ、聞いて回るようになったのだ。そのためわかりやすいヒーロー像を彼に抱いていた子や、すぐに動いて解決してくれることに魅力を感じていた子が真っ先に離れていった。
また先に述べた子達が離れていった頃に広まった『光輝が誰かをやっつけようとしていた』、『龍太郎が光輝を止めようとしてケンカした』というウワサへの対処もそれに拍車をかけてしまう。
「本当なの光輝くん? ウソだよね?」
「そうだよ。光輝がそんなことするわけ――」
「ああ、そうだ。それは本当なんだ……」
誰が流したかはわからないにせよ、事実ではあったためそれを光輝が受け入れてしまった。そのため、ヒーロー然としていた彼のイメージに傷がつき、彼の変化に戸惑いを見せていただけにとどまっていた子も離れていってしまったのだ。結果、彼の周囲には龍太郎と彼を慕う女の子数人しか残らなかった。
影響はこれだけにとどまらない。以前は彼の取り巻きの知人や友人からの頼みも聞いたりしていたのだが、こうしてイメージが損なわれたことでそれもなくなってしまう。それでもなお困ってる誰かを助けようと手を差し伸べていたのだが、多くの子がその手を取ることがなく、むしろはねのけられてしまうこともあった。それがひどく光輝の心を傷つけた。自分のやったことはここまで罪深かったのか、と。
その結果、学校の人気者であった光輝はふさぎ込むようになり、龍太郎や自分を慕ってくれる子以外と接することを恐れるようになってしまう。もし間違えたら、という恐れが肥大化したために動けなくなってしまったのだ。母である美耶を筆頭にした家族に龍太郎、慕ってくれる女の子からの励ましがなければ不登校になってもおかしくはなかっただろう。
学校に行くときも、家にいるときも言葉少なでずっと暗い様子であった彼を見て危機感を抱いた美耶はある行動に出る。それはかつて世話になった人の下に頭を下げに行くことであった。
ある日、美耶に連れられて住宅街にあるお屋敷へと光輝は連れられてきた。外から見ても相当の敷地があることが見て取れ、立派な垣根に囲まれたその家に光輝は思わず緊張してしまう。一体どこに連れていくのだろうと思いながら“八重樫”と書かれた表札の下がった門をくぐって石畳の上を歩いていくと、そこには老齢の偉丈夫が立っていた。
「久しぶりだな美耶。こうして顔を合わせるのは結婚式以来か」
「そうですね先生。お久しぶりです。今日は、その……」
「みなまで言わんでいい……さて、君が光輝君か。まぁこんなところで立ち話もなんだ。上がりなさい」
「は、はい……」
これが鷲三との出会いであった。この老人にうながされて家に上がり、特に迷うことなく歩いていく母に光輝は黙ってついていく。すると畳張りの居間の前まで辿り着き、そこに入るよう言われた。
そして母と一緒に座卓で鷲三と向かい合う形で座ると、いつの間にやら現れた容姿の整った女性がお茶を出してきたため、母と共にそれをすする。この部屋に入った時にはいなかったはずなのに、と思案していると不意に鷲三が口を開いた。
「なに、取って食おうと思ってはいない。私のような老人でよければ話し相手ぐらいにはなろうと思っていただけだ」
その言葉に面食らった光輝であったが、隣にいた美耶がその経緯を説明してくれた。昔、世話になった自分の師に光輝のことについて相談したところ、家に来たらどうだと言ってきてくれたのだ。母や自分と相対している老人に迷惑をかけたことを恥じた光輝はごめんなさいと頭を下げようとしたが、二人からそれを止められる。子供が気にすることではない、と諭されたのである。
「……思った以上に重篤なようだな。さて、光輝君。君がいいならいつでもこの家の敷居をまたぐといい。いつでも私が相手を、と言いたいところだが、私の不在でも家族の者が相手をするよう言っておく。遠慮しないでいい」
悲し気に笑みを浮かべた老人に戸惑いながらもはい、と返したところで光輝と目の前の老人の会話は途切れた。後は何度か母が自分やあの偉丈夫と話をしたり、話しかけられたりするぐらいでその日は終わる。
それから光輝は時折八重樫家を訪れるようになった。最初のうちは何かを言おうとして口をつぐむことばかりであったが、特に聞いてくるでもなく、自分が口を開いたときはただじっと黙って耳を傾けてくれる鷲三や彼の家族に徐々に光輝は信頼を寄せるようになった。
「あの、鷲三さん」
「どうした?」
「聞いて、ほしいことがあるんです」
そうしてふた月ほど経った頃だろうか。鷲三を信頼し、そして前に進みたいと願った光輝はぽつぽつと自分の胸の内を語った。
かつて自分は目に見えるものだけを見て判断して動いていたこと。
そのために初めて会った子を傷つけてしまったこと。
その子のことで親友とケンカし、仲直り出来たこと。
その後母のおかげで考えを改めることが出来たこと。
しかしそのために自分を慕っていた子がほとんどいなくなってしまったことを。それ故に苦悩していることを。
ゆっくりと語られる光輝の話に相づちを打つこともなく鷲三はただ黙って聞く。
「みんながいなくなって……それで思ったんです。俺はどうすればよかったのか、って。前みたいにとにかく動いたほうがいいのか、それとも今のままでいいのか。もう、わからなくて……」
そして全てを語った後、鷲三はようやく口を開いた。君は今のままでいい、と。
「いいん、ですか? みんな俺のことを……」
「ああ。前のように振舞っていればいずれどこかでつまづいていただろう。それに全てが君の手のひらからこぼれたわけでもない。違うか?」
その問いかけを受け、光輝の胸に何かがこみ上げてきた。母以外にも、龍太郎の他にも自分を認めてくれた。これでよかったのかと不安で仕方がなかった自分を肯定してくれた。それが嬉しくて仕方がなかった。目をぐしぐしとこすると光輝は頭を下げ、鷲三もそれに満足そうに微笑みを浮かべた。
「ありがとうございました鷲三さん」
「なに、気にすることはない。それで光輝君、一ついいかな?」
「なんですか? 俺にできることならなんでも言ってください」
光輝の迷いが晴れたと察した鷲三はここであることを口にする――良かったら道場を見に来ないか、と。
「えっと、たしか剣道をやってらしてるんですよね?」
「ああ。君のお母さんは昔ここに通っていてな。もし興味があるならでいい。無理にとは言わない」
鷲三がこのことを提案したのは単に話のタネや天之河美耶の子である光輝の才能に興味があったからというだけではない。光輝を案じてのものでもあった。
たとえ悩みが晴れたとしても光輝はまだ子供である。彼にとってまた辛い現実に直面した時、再度折れないとも限らない。だからこそ何か一つ打ち込めるものがあれば彼の心の支えになるのではないか、と鷲三は考えたのだ。
「えっと、その……いいんですか?」
「ああ。別に見るだけでも構わんからな」
そう告げて鷲三は席を立つと、目でついてくるよう光輝に伝える。光輝はうなづいて、鷲三の後をついていく。不規則にある灯篭や大きな木のある庭をたまにながめたりして歩くこと数分。鷲三が平屋の扉を開くと、外からも響く甲高い音や声に困惑しながらも声に出さずにいた光輝はその光景に圧倒される。
多くの人が見慣れない恰好で何かを振るっている。上半身に何かをつけた人たちが向かい合い、竹か何かで出来たそれ――確か竹刀だったと光輝は記憶している――をぶつけ合う。張りつめた空気に肌をなでられて光輝は息を呑んだ。
「これ、が……」
「そうだ。実物を見るのは初めてだったかな。では――全員やめ!!」
鷲三が出したすさまじい音量の声に光輝は体が吹き飛ばされたかのような心地になったが、鷲三から声をかけられたことで意識が戻った。目の前にいる何人もの人が自分を見ており、その視線に光輝は圧倒される。
「皆聞け。この子――天之河光輝が見学に来た。八重樫流に恥じぬよう励め!」
目の前にいた人全員の『はい』という声に光輝が少し驚くと、すぐに全員が元いた場所に戻っていく。一矢乱れぬ様子にぽかんとしていると、鷲三から声をかけられる。
「驚かせてしまって悪かったな。だが、ここではこれが普通なものでな」
好きなだけ見るといい、とだけ告げると鷲三は無言になる。一体どうしたのだろうと思い、見上げた光輝は短く悲鳴を上げる――あまりに鋭い眼差しであった。先ほどの人達も相当ではあったが、それらなど子供だましにも見えてしまう程に。
前に一度テレビの番組で野生動物の特集をしたのを光輝は家族と見たことがあったが、今の鷲三の目は獲物を狙う肉食獣のものと区別がつかない。しわも決して少なくなく、白髪の老人であるはずだというのに。少しは知ることが出来た人のはずなのに、目の前にいる人物は初めて遭遇した時と同じ人の形をした何かのように見えた。それがとても怖く、しかしそこにどこか懐かしさを光輝は感じていた。
(じい、ちゃんだ……)
完治が自分に仕事のことを語って聞かせてくれた時、ふとした拍子に浮かべる鋭い目つき。それが門下生一人ひとりをじっと見ている鷲三の眼差しとどこか重なったのだ。
「あ、あの、鷲三さん」
「どうした? 何か気になる事でもあったか?」
「その、どうして俺をここにつれてきてくれたんですか?」
「君のお母さんが昔いたと言ったろう? それで君も、と思っただけだ。それだけでは駄目かね?」
鷲三は光輝に真意を全て伝えることはなかった。それを自ら明かすのは無意味であるし、この少年のためにならないと考えたからである。始めるのならばあくまで自らの意思で。それを願ってはぐらかしたのだが、光輝はそれに納得したのか言葉を紡いだ。
「いえ、その……俺も、やってみたいんですけど、いいですか? 今すぐ、じゃなくて、その、帰ってから父さんと母さんに話をしてから、ですけど」
その一言にほう、と鷲三は感心した様子を浮かべた。何か感じ入るものがあったのだろうと思った鷲三はいつでも構わんとだけ光輝に伝え、また門下生をながめるのに戻った。
光輝も別にそこまで剣道に興味があったわけではない。祖父と目の前の老人を失礼ながらも重ね合わせたからなのかもしれない。だがそれよりも鷲三が自分にこの道場を見せてくれた意味を知りたい。その思いに光輝は突き動かされたのだ。
言葉通りなのかもしれないと光輝は思ってもいる。しかし普段きっぱりと言うこの老人が珍しくごまかしているような気もしていた。だからもし、何かを隠しているのならばそれを知ってみたいと思ったのだ。
そうして稽古が終わるまで無言でその光景をじっと見ていた光輝はその夜、両親に早速相談し、鷲三が語ったことと自分の意思を伝える。
「光輝が言うなら、やってみたらどうだ」
「そうだね。あんたがやってみたいのなら母さんは止めないよ。いいからやってみな」
「ありがとう。父さん、母さん」
そうしてすぐに手続きを済ませ、光輝も八重樫道場に通う事となった。
通い始めた当初は足捌きも竹刀の振りも当然上手ではなく、指導されるまま型をなぞり、それらしく動くのがせいぜいであった。
しかし鷲三の言葉の真意を知りたいという思いが原動力となり、自前の高い身体能力に加えて未熟な子供であるが故の高い学習能力がそれを後押しした。その結果メキメキと上達していき、すぐに同年代の子のほとんどを追い抜いていったのである。
そんなある日のこと。今日もまたいつものように稽古をしていた光輝だったが、練習試合の段に移ろうとした時、ふと妙な子が自分と向かい合った。
身長は自分よりもほんの少し小さいぐらいだが、足運びも構えも何か違うと思わせる。声の感じからして女の子のように感じたが、こんな子と一緒に稽古をした試しは一度もない。一体誰だろうと思いながらも光輝もまた竹刀を構える。
「集中して。今は試合だから」
その声にハッとした光輝は今一度竹刀を握り直す。始め、の声がかかるとすぐに相手を観察するも、隙が見えない相手に思わず舌を巻いた。
(この子、強いな。一体だれなんだろう)
そうしてじっと見に徹していた光輝だが、しばらくすると相手が一気に距離を詰めてきた。持ち前の目の良さで面狙いの一撃を見切り、その身体能力でいなそうとする。
「――小手っ!」
「くっ!?」
しかしその程度など既に読んでいたかのようにすぐに軌動を変え、小手を打ちにかかってくる。それに素早く反応し、つばぜり合いへと持ち込むも、相手はそれを抜けようとこちらを見ながら機会をうかがっている。
(強い! でも、まだ俺が負けたわけじゃない!)
あちらがせり合いを抜けたいのなら、と相手が力をかけてきたのに合わせて受け流し、姿勢が崩れたところを狙おうとするも、それに気づいたかすぐに距離をとってきた。
強い。既に軽く息が上がって内心焦っていた自分に対し、相手は剣先をブレさせることなくこちらをうかがっている。こうなったら、と今度は自分から切り込んで終わらせようとする。が――。
「め――」
「どぉーうっ!」
それを待ち構えていたのか、あちらも一気に突っ込んできた。結果、おろそかになった胴を打ち抜かれる。終了の笛の音、胴の一本で相手が勝ったというアナウンス。光輝がそれらを理解するのにほんのわずかに時間がかかった。
「ありがとうございました」
「……あ、ありがとうございました」
相手の礼に慌てて自分も返すと、その子は何も言わずにその場を去っていった。その強さ、たたずまいに心を奪われながらも光輝もそれを振り払って稽古に戻る。
相対した子のことが時折浮かんでしまうも、目の前のことはおろそかにせずにかぶりを振っては集中し直し、今日の稽古をどうにか無事に終える。そうして後片付けも終わらせ、帰ろうとしたその時であった。
「お疲れ様、光輝君。少しいいだろうか」
「あ、虎一さん。おつかれさまです……えっと、その子は?」
何度か相対したことのある鷲三の子であり道場の師範代である虎一が、知らない子を連れてこちらに来たのである。
(このふんいき、もしかして)
短く切り揃えられた髪、切れ長ながらも奥に柔らかさを感じる瞳。初対面ではあったはずなのだが、その雰囲気には覚えがあった。練習試合で異彩を放ったあの子だと。
「私の娘でな。さ、あいさつしなさい」
「はじめまして、八重樫雫です」
「あ、はじめまして。天之河光輝です。さっきはすごかったね」
「……ありがとう」
そうして挨拶をした後、虎一を交えて一言二言話をしてそのまま帰路に就いた。これが光輝と雫の出会いであった。
これ以降も二人は稽古や後片付けの後で会うこともあったが、自分の周りから人が去っていったショックから慎重になっていた光輝はあまり積極的に話しかけることはなく。雫もまた自分から話しかけてくるような子でもなかったため、お互い仲良くなるのには相応の時間がかかった。
「そうか。八重樫さんもぬいぐるみとか、おしゃれとかが好きなんだ」
「……私だって女の子だから。そういうの、好きじゃダメなの?」
「あ……ごめん。そうだね。これは俺が悪かったよ」
三月の末の辺りになって、ようやく二人は普通にあれこれ話したりするまでの間柄になった。とはいっても道場に来て稽古までまだ時間があったときや、帰り支度をしている間に話しをする程度ではあったが。
「私だって、女の子らしいことがしてみたい。でも、どうすればいいかわからなくて」
理由はわからないけれども、目の前の少女が悩んでいる。今でも手を振り払われながらも人助けをし続けていた光輝からすれば見過ごせないことであった。世話になった鷲三の孫娘である彼女を、こうして自分と親しくしてくれた相手を放っておけなかった。
「それなら俺に考えがあるんだけど……いいかい?」
だから光輝は手を伸ばす。男の子である自分ではどうにもならないかもしれないけれど、こんな自分を慕ってくれる女の子達ならきっとこの子を助けてくれる。そう考えた光輝は雫に提案する。これが彼女のためになると信じて。
「わ、私が急に友だちになってもだいじょうぶ……?」
「だいじょうぶだよ。みんないい子だから、きっと雫も受け入れてくれるさ」
心配する雫の手を握りながら光輝は彼女に微笑みかけて安心させる。その様子に雫は頬を染め、目の前の少年を潤んだ瞳で見つめる。夕焼けに照らされたため顔の赤さが分からず、瞳が潤んでいた事から悲しんだのかと思った光輝は改めて雫に大丈夫だと声をかける。――この行動が何をもたらすのかを、今は誰も知らない。