あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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皆様のおかげでUA15000オーバー、お気に入りも240件超え、感想に至っては遂に累計40件まできました。ありがたい限りです。

今回は戦隊ヒーローやライダーでいうところの振り返り回みたいなものです。なので今回もちょっと短めになります。では本編をどうぞ。


十一話 広がりゆく波紋

 昨日の風雨によって散った桜はアスファルトの地面に張り付き、ところどころを薄紅に染めている。正午を過ぎて少し傾いた太陽が灰と薄紅のまだら模様の地面を照らす中、あるグループがウィステリアの扉を開けた。

 

「あら皆さん。いつもひいきにしてくれてありがとうございます」

 

「こちらこそいつもお世話になってます優理さん。席の案内をお願いしますね」

 

 入学式を無事終えた中村、南雲、谷口の三家は遅めの昼食をとろうとここを訪れていた。馴染みとなったからか予約は割と簡単にとれ、今日も店主の奥さんである園部優理にいつも利用しているスペースへと案内される。

 

「いやー、残念だったね。みんな別のクラスなんてね」

 

 席に通された後、全員分のドリンクメニューを頼むと今回は貴久が口火を切った。入学式を終え、校内の掲示板に貼ってあったクラス分けのプリントを全員で確認したのだが、貴久が言った通り三人は別々のクラスに行くこととなっていた。

 

 恵里は鈴とハジメだけでなく、念のため光輝や龍太郎がどこのクラスにいるかも確認したのだが彼らも自分のクラスにはいなかった。ちなみに『恵里ちゃんの恋を見守り隊』の面々も全員バラバラかつ、恵里のいるクラスにだけはいない。

 

「残念だったね恵里。もしかするとハジメ君と一緒にいられたかもしれないのにね」

 

「や、やめてよお父さん」

 

 正則の言葉に何故かドキリとした恵里は顔を背けた。その理由を考えてみるもそれに気づけず、もやもやするような、どこか気恥ずかしいような感じに困惑する。そんな恵里を横に親達の会話は続く。

 

「確かになぁ。一緒だったらハジメも嬉しいだろうしなぁ」

 

「そうよねぇ。『一緒のクラスだったらいいのに』って言ってるの、ここ最近はよく見たわねぇ」

 

「ち、ちがっ!? お父さん! お母さん!」

 

 ニヤニヤしながら言う南雲夫妻と顔を赤くして必死に否定するハジメ。その様子を見て谷口夫妻もつられて笑う。

 

「そうですね。最近はあまり聞かなくなったけど、鈴ちゃんも『二人と一緒がいい』って言ってたんですよ」

 

「うんうん。二人と友達になった頃はそうやってぐずってたこともあったなぁ。いやー、懐かし――いったぁ!? す、鈴ちゃんやめて! 痛い!」

 

 秘密をバラされておかんむりになった鈴をなだめる谷口夫妻を見て中村夫妻は苦笑する。一方、鈴の心情を聞いた恵里は内心軽く荒れた。鈴がハジメに執着している様子なのはもちろんわかっていた。そのつもりではあったが、実際にそれを知るのとは勝手が違うらしく、恵里の心の中で何かが燻る。

 

(この感じだと鈴がハジメくんを好きでいてもおかしくない……それもここ最近でもないなんて。あぁもう、鈴を惚れさせるなんてハジメくんめぇ。どうにかして諦めさせないと)

 

 どうやれば鈴がハジメと友人以上の関係にならずに済むかを考えていた恵里であったが、具体的にどうしようかと腐心していた時に幸が声をかけてきた。

 

「やっぱりそうですよね。ねぇ恵里。いつも二人と遊んでいるんだし、一緒が良かったんじゃない?」

 

「それは、そうだけど……」

 

 突然の幸の言葉に恵里は思わず反応してしまい、それで頭がいっぱいになって考えるのを止めてしまった。浮かぶのはクラスの中でも二人と話し合っている自分の姿。それを思うとどうしてか頬が緩んでしまうのを止められなかった。

 

「でもその内みんな一緒のクラスになってもおかしくないんじゃないか。機会なんてまだあるんだから」

 

「そうですね、愁さん。卒業までまだ五年あるんだから、その内――あ、もう来たみたいですね」

 

 そうして話をしていると、優理がドリンクの乗ったトレイを手にこちらに席に向かってきているのを正則が見つけた。ほどなくして全員分のドリンクが出され、各々が優理に注文する。そして彼女が去るや否や全員が飲み物を口にし、軽く唇を湿らせたところでまたトークが始まる。

 

 教師陣による面倒ごとを起こしそうな奴のなすり付け合いの結果、こんなやたらめったらバラけるクラス編成になったことに気づいた人間は誰もいない。ここ最近の事やゴールデンウィークの予定について色々と話し合いが続く。ウィステリアの一角は今日もにぎやかであった。

 

 

 

 

 

「ねえねえ、今日学校来るときに栄田(さかえだ)さんが男の子といっしょに来るのを見たんだけど、その男の子ってだれかわかる?」

 

「あー、たぶんあの子だよきっと」

 

「そうだね。その男の子ってきっと天之河くんじゃないかな」

 

(どうしよう、なんて声かけよう……)

 

 新学期が始まって数日。朝のホームルームまでまだ時間がある中、恵里はある一点を凝視していた。

 

 視線の先にいるのはある少女――白崎香織が他の女の子と楽し気に話をしている光景である。自分のクラスを見た際、ハジメも鈴も自分を慕う子達“は”いなかった。しかしトータスに転移したあの面子の一人である彼女はいたのである。

 

 光輝の取り巻きは無数にいたが、その中でもとりわけ近く、彼のお気に入りであった香織と雫に関しては流石に覚えていた。前の世界で初めて会った小学校高学年の頃よりも幼い顔立ちではあるものの、声やあのぽやぽやした感じはあの頃の彼女を感じさせる。同姓同名なだけの人物ではないだろうと恵里は確信していた。

 

 そんな彼女であるが、前の世界ではあの化け物と共に自分の邪魔をしてくれた奴である。そのため対エヒト戦のための駒として使えるのではないかと恵里は考えていた。

 

 どこまで使えるかと考えて浮かんだのはある光景、自分達を呼び出した国と敵対していた勢力の拠点に化け物と一緒に乗り込んできたときの記憶であった。そこそこ奮戦していた気はするものの、何かの拍子に糸が切れた人形のように倒れ込んでいたはずだと恵里は記憶している。

 

 トータスに行ってからそこそこ時間が経ってから起きたことを考えれば相当強くなっててもおかしくはないし、自分が“縛魂”で操っていた光輝の攻撃をどうにかさばいていたことを考えると決して弱いわけではないだろう。それに倒れ込んだとはいってもそこでトドメがさされたという記憶はない。

 

 光輝と一緒に神域に行った後で何かあったかもしれないが、香織がそこで終わったとは恵里には思えなかった。自分をことごとく邪魔してくれた忌々しいアレが香織をどうにかしないはずだという奇妙な確信があるからである。

 

(何せあの化け物だからなぁ。死んだはずの香織を復活させられたんだから、出来ない道理はないはず……あれ? そういえばあの時の香織の顔、っていうか全身が使徒のヤツらと大差なかったような? え? どういうこと?)

 

 単にイメチェンした結果使徒と類似したとは思えず、もしやどこかで使徒の体でも手に入れて魂を移したのかと恵里は考える。しかし自分以外に“降霊術師”やそういった魂の扱いが上手いであろう天職の人間はクラスはおろか他にいたという記憶はない。ならばアレが連れていた女の誰かが使えたのだろうか。そう考えた途端、恵里は身震いした。

 

(……嘘。なんでもアリ過ぎじゃないかあの化け物は!……やっぱりハジメくんと敵対するのだけは避けよう。やっぱり仲良くなっといて正解だったんだ、うん)

 

 ハジメを味方につける判断をした過去の自分をひとしきり褒めちぎると、恵里は再度香織のことについて考える。結局エヒト相手には役に立たないだろうが、そこに至るまでの道中で役には立つんじゃないかと考えたのである。ならば今からでも仲良くなっておいて損は無い。そのために声をかけようと思っていた。

 

(なんで、話しかけたくないんだろう……味方にしておけば後できっと役に立つのに)

 

 なのにあの化け物の隣、つまり()()()と共に戦っていたことを認識した途端、ほんのささやかなものではあったが抵抗が生まれたのである。自分を邪魔をしてくれたことの恨み以外の何かに、だ。

 

(いや、迷ってる場合じゃない。使えるなら……使えるなら何だって、何だって使うべきなんだ)

 

 自分を迷わせ押し止めようとする何かを振り切って恵里は一歩を踏み出す。間違っていないんだ。これは必要なことなんだと自分に言い聞かせて。

 

「そうなんだ。それで――あれ?」

 

「おはよう白崎さん。何話してるの?」

 

 人懐っこそうな笑みを貼り付けながら話しかけてみるものの、周りにいた子の表情は少し険しい。心当たりがない訳ではなかったためとりあえず黙っていると、喋っていた子の一人が香織に耳打ちをした。

 

「ねぇ、あの子ってたしか中村さんだよね? 悪いウワサを聞くけどだいじょうぶかな?」

 

「うーん、多分だいじょうぶだよ。そういうウワサ、私も聞いたことあったけど悪い子に見えないよ? ね?」

 

 聞き耳を立てれば案の定。好きで立てたウワサではないことに苛立ったものの、香織の反応にしめしめと心の中で舌なめずりをした。これなら付け入る隙はあると確信して恵里は一歩前に出た。

 

「どうしたの? 私の顔に何かついてた?」

 

「ほら、ね? きっとみんなとお話したかったんだよ。ね、中村さん。良かったらこっち来てお話しない?」

 

 首を傾げながらさも無邪気に見えそうにアピールすれば、簡単に香織を騙すことが出来た。前の世界で培ってきた猫被りは未だ冴えている。騙し騙されの経験の少ない子供相手、普段からぽやぽやしている香織ならば簡単に近づけると確信していた通りであった。

 

 他の子はまだ怪しんでいる様子だが、ウワサを信じるべきかどうか迷っている子しかいないため簡単に騙しきれるだろう。そんなことを考えながら恵里も女子トークに参加し、ホームルーム前の時間を過ごす。それを何度も続け、恵里は見事に香織の懐に入ることに成功した。だが……。

 

「あ、おはよう中村さん」

 

「おはよう白崎さん」

 

 通学時に会ってもあいさつをする程度、朝のホームルーム前の時間でも話を振られない限りは相づちを打つ役に終始する。それ以上の行動に出る気はどうしても起きず、“知人”以上の関係になることに恵里はずっとためらいがあった。

 

(……何で、何で香織と親しくしようと思えないんだろう。何で? 何で? 何であの化け物の顔がチラつくの? ハジメくんの顔が浮かぶの? 何で?)

 

 化け物とさげすむあの男の顔が浮かぶ度、無害そうなあのハジメの顔が浮かんでくる度、胸が痛む。香織と親しくする気が失せる。そのため恵里は動けなかった。それがまずいのはわかっているのに、どうにかしなきゃいけないのはわかっているのに、恵里は動けなかった。動きたく、なかった。

 

 その理由が浮かばないまま、恵里はもどかしさを覚えながらもどこか今の状況を好ましく思っていた。

 

 

 

 

 

 そうしたある日のこと。この日も二人と一緒に学校の帰りに谷口家に寄ろうとしていた時のことであった。

 

「あ、恵里。今日は早いんだね」

 

「まあね。それじゃ行こうか」

 

 鈴と廊下で合流し、よく待ち合わせ場所に使っている校門へと向かいながら話をしていると鈴が恵里に質問をしてきた。

 

「ねぇ、恵里。ちょっといい?」

 

「どうしたの、鈴? さっきの話で何か聞きたいことでもあった?」

 

「うん。えっと、さ。最近の恵里ってちょっと変だよね……っていひゃいひゃい!」

 

「へぇ~鈴の癖に面白いこと言うじゃんか。そんなことを言う悪ぅ~いお口はどうしようかなぁ~? うん?」

 

 その言い草に即座にキレた恵里は鈴の柔らかいほっぺを上下左右へと何度も引っ張り、最後にちょっと伸ばしたところで放してやる。赤くなったほっぺをさすりながら涙目でにらんでくるも恵里は鼻を鳴らすばかりであった。

 

「いたい……ほっぺたがいたい。ひどいよえりぃ……」

 

「自業自得でしょ。んで、どうしていきなりそんなことを言いだしたのさ?」

 

 恨み節も特に意に介さず、不機嫌さを露にしながら理由を問いただすと、鈴は自分のほほをなでながら理由を語った。

 

「だって、変だって思ったんだもん。ハジメくんとお話ししてる時の恵里、前とちがうもん」

 

「ふーん……えっ」

 

 どうせロクな理由じゃないだろうと適当に聞き流そうとしていた恵里であったが、それを聞いた途端に足を止める。

 

「前はハジメくんの顔を見ててもふつうだったのに今はちがうもん。なんかポーっとしてる――」

 

「ち、違う! ぼ、ボクはその……いつも通り! いつも通りだから!」

 

 鈴の指摘に思わず声を荒げてしまう。当然だ。今、鈴が言ったことに恵里は心当たりがあったのだから。

 

 時折知恵を巡らせるのを忘れてハジメをじっと見ていることがある。そうしてるとどこか心が安らぐような気がするのだ。おそらく鈴はそれを見抜いたのではないかと考えた恵里は思わず反応してしまった。周囲の目を考えずに、である。

 

 鈴はそれをただじっと見つめているだけであった。

 

「な、何……何か文句あるの?」

 

「……べつに。何でもないよ」

 

 そう言うなり鈴はぷい、と顔を背けて先に行ってしまう。慌ててその後ろ姿を追う恵里は鈴が複雑な顔をしたことに気づけなかった。

 

 

 

 

 

「えっと、たしかここに2が……あった!」

 

「あ、また取られた!……ハジメくん、強過ぎない?」

 

「そうだよ。ハジメくんいっぱいとってるし。もしかして全部おぼえてるの?」

 

 むくれた様子の恵里と鈴にずいと迫られ、うろたえながらもハジメは揃ったカードを手元に持っていく。三人は今、鈴の部屋で神経衰弱をやっていた。現状二人がとったカードの合計よりも多く、現状ハジメの優勢である。

 

 もちろん始めた当初は一進一退といった具合だったのだが、この年頃の子にしては高い記憶力を持つハジメはめくられたカードを全て記憶していき、二人がお手つきをするごとにまだ無事なものをガンガン回収していったのである。

 

 結局ハジメの勢いを崩すことは出来ず、そのまま勝利をかっさらわれてしまう。その後もう一回、と鈴からお願いされてやるものの、更にハジメの成績が良くなっただけであまり変化がなかった。ならばもう一回と恵里が頼み込み、今度は一緒にハジメを倒そうと鈴に耳打ちしてハメようとするもののどうにもならず。神経衰弱はここで打ち切られることとなった。

 

 その後は七並べや大富豪をやるものの、その記憶力に加えて人並み以上の推理力を発揮したせいで手を読まれ続け、ひたすらハジメの一人勝ちが続いてしまった。これには流石に二人も凹み、ハジメが平謝りすることとなった。

 

 本を読むだけじゃ退屈だろうから、と貴久が気を利かせて買ってきたトランプはもうほこりを被りそうになっている。哀れであった。

 

「あ、ゴメン二人とも。ちょっとお花摘みに行ってくるね」

 

「うん、わかった」

 

「じゃあハジメくんといっしょに待ってるから」

 

 そうしてまたいつものように各々が読書に移った時、尿意を催した恵里は二人に断りを入れるとそのままパタパタと部屋を出ていった。鈴はハジメと一緒に恵里を見送った後、彼の服の端っこをつまんでクイクイと引っ張る。

 

「? どうしたの鈴ちゃん? えっと、鈴ちゃんも?」

 

「デリカシーないよハジメくん。そうじゃないってば」

 

 もしやと思って声をかけて見ればほほを膨らませた鈴にジト目で見られ、ハジメはまた平謝りする。何度もごめんねと謝り、ようやく機嫌を直した鈴にどうしたのと問いかけると鈴はハジメに疑問で返してきた。

 

「ねえ、ハジメくん。ハジメくんはさ、どうして恵里のことがすきになったの?」

 

 鈴の言葉にハジメは思わずドキリとする。“大切な人”という印象を恵里に対して抱いてこそいたが、それがどういうものなのか、どういう感情から来るのかを明確には理解していなかった。だから鈴から好きかどうかという明確な形で問われたことで戸惑ってしまう。自分の抱いている気持ちは一体何なのか、と。

 

「え、えっと、どうしてなの? 前に言ったと思うんだけど……」

 

「いいから。いいから言ってよ。気になったんだもん」

 

 どうにかごまかそうとしても鈴はじっと見つめてくるばかり。何度か目を泳がせ、結局観念したハジメはため息を吐くと改めて説明する。

 

「じゃあ、言うよ。一年ぐらい前にね、恵里ちゃんが……恵里ちゃんが僕とつき合ってください、って言ってくれたから。それでずっといてくれたから、だよ」

 

 あの時のことは今思い出しても頭が真っ白になりそうで、こうして説明する時もうつむいて赤くなった顔を見られないようにしないと言えなくなってしまいそうであった。

 

「うん。恵里の方からつき合ってって言ったのは聞いてるよ。でも……ホントにそれだけなの?」

 

 頑張ってハジメは伝えたものの、それを聞いた鈴は疑問符を浮かべるばかり。たったそれだけで恵里を自分よりも大切に思うのだろうかと鈴は考えていた。だから問いかける。それ以外にも何か理由があるんじゃないのか、と。

 

「うん。前はね、友だちもいなかったし、一人でもそんなにつらくなかったんだ。でもね、恵里ちゃんは僕とずっといっしょにいてくれた。おこったりすることもあるけど、すぐなか直りしてくれる。それにね、恵里ちゃんといるとすごい楽しい。だから……だから、だよ」

 

 傍から聞けばあまりにシンプルな理由で、何のひねりもないものであった。しかしそれ故にハジメにとって重要なものだった。

 

 両親は仕事の都合で一人でいる時間はそう珍しくなく、ハジメもそれを当たり前のことだと受け入れていた。そして物心ついた頃からゲームや読書が趣味であったため、一人でいることに苦を覚えるタイプではなかった。故にハジメは友達を作ることをせず、閉じた世界で生きてきた。それに不満も疑問もなかったのである。

 

 そこに現れたのが恵里である。

 

 彼女は自分と一緒にいてくれた。趣味を共有してくれた。そのお陰で家族以外の他人と一緒に楽しむことを知った。

 

 恵里と出会い、色々と経験を積んだことであまりよくわからなかった漫画やゲームの台詞も理解できるようになった。

 

 一人でいることの寂しさを知り、彼女といればそれがなくなることもわかった。

 

 鈴も友達になってくれた。

 

 学校に行くのが待ち遠しくなった。お出かけするのが楽しく感じるようになった。世界が前よりも色づいて見えるようになったのだ。

 

 だからハジメは恵里に感謝している。そして叶うことならばずっと一緒にいたいとも願っている。

 

 たとえ普段から猫を被っていたとしても、何か隠していたとしても、そんなことはハジメにとって些細な問題でしかない。

 

 誰だって隠したいことはあるんだし、彼女(恵里)はそれが人よりも多いかもしれないということぐらいでしかないと考えているからだ。恵里からそれを話してくれるならともかく、自分からそれを明かそうという気もない。それよりも二人とどう過ごすかの方が気がかりなぐらいだ。

 

「そっか。そう、なんだ」

 

 その答えに鈴は寂しげに、口を尖らせながらつぶやいた。改めて自分と恵里との間に一枚の壁が隔ててあるということに気づかされる。どこまで行っても自分では“友達”が限界で、それ以上に踏み込んでいける恵里がうらやましくて仕方がなかった。

 

(……あ、そっか。そうなんだ)

 

 この時鈴は理解した。自分も、恵里と同じくらいハジメに大切に思われたいんだ、と。

 

 これが恋愛でいうところの“好き”かどうかはまだ確信がない。けれど、自分の中で何かがくすぶっているのははっきりとわかった。

 

「うん。そうなん――えっ!? す、鈴……ちゃん?」

 

 相づちを打とうとしたらいきなり抱き着いてきた鈴にハジメは思わず面食らう。鈴は唐突にこんなことをする子じゃないというのはわかっていたから何もせず、ただじっとハジメは待つ。

 

「……こんなの、悪いことだってわかってるよ。でもハジメくん、おねがいだから、もう少しだけこのままでいさせて?」

 

 それだけを告げて鈴は何もしゃべらなくなった。今自分がやっていることは他人の恋人を横からかっさらうことなんだということは鈴もわかっている。ましてやそれが友達の好いた人であることも。

 

(ごめんね。ハジメくん、恵里。鈴、悪い子で)

 

 しかし鈴は感づいていた。恵里はやはりハジメのことが好きではなかったんじゃないか、と。前に疑問に思ってた頃のハジメへの接し方と、今の恵里の接し方が異なるということに鈴は気づく。クリスマスの日にハジメと手を繋いで寝たという話を聞いた辺りから変に感じていたが、ここ最近の挙動を見て確信した。()()恵里はハジメが好きなんだと。

 

(もうずっとすきでいてね? 恵里。そうじゃないと……鈴、ハジメくんがほしくなるから)

 

 もしハジメのことが好きでもなんでもないのならそのままハジメの隣にいようと前々から鈴は考えていた。けれども今はハジメに対して恋しているように見える。漫画の知識でそう判断した程度だがきっと間違っていないと鈴は思っている。だから鈴は身を引こうと考えた。ようやく出来た友達も、もっともっと仲良くしたいと思える人も失いたくなかったから。

 

(でも……でも、もうちょっとだけ、鈴も大切にしてほしいな)

 

 でも生まれた気持ちはすぐにはどうにか出来なくて。恵里ほどではないにせよ、もっとハジメくんに大切にされたい。ハジメくんと一緒にいたい。悲鳴を上げ、暴れそうになっているこの思いがいつか収まってくれることを願いながら鈴は名残惜しそうにハジメから離れる。

 

(……もしかして鈴ちゃんも?)

 

 そんな様子を見てハジメの頭にある可能性が浮かぶが、思い当たる節がないためかぶりを振ってそれを打ち消す。ただの考えすぎだ、ただの自意識過剰だと考えてその可能性を頭から消した。

 

 抱き着き、抱き着かれていた時の感触をお互いに思い出しながら二人は恵里が戻ってくるのをただじっと待つ。そうして恵里が戻ってきた後でも、鈴とハジメの間のぎこちない感じはなかなか消えなかった。そのことを恵里に大いに怪しまれ、二人は必死にごまかすのであった。




あれ、エリリンのヒロイン力が何故か高いぞ?(ォィ)
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