今回は過去一で短く読みやすいサイズになりました。理由は後書きで。では本編をどうぞ。
五月の初め、ゴールデンウィークの真っ只中のある夜、恵里は両親と共に荷造りをしていた。目的は三家合同の温泉旅行である。
こうなった理由の大本は始業式が終わった後、ウィステリアで大人達のしていたトークである。ゴールデンウィークの予定が話題となった際にどの家もこれといった予定がなく、そこで愁がどうせだから全員で旅行でもどうだろうかと提案したのである。
こういうのはちょっと早いんじゃないかと中村、谷口両夫妻から言われたものの、そこは得意の口八丁手八丁。こういうのはタイミングだから問題ないだの、旅行なんてゴールデンウィークか盆暮れ正月ぐらいしか機会がないし、そっちはそっちで各人によって異なるだろうから今しかないだのととにかくゴネ倒したのである。
その勢いに負けた両夫妻が首を縦に振るとその勢いのままどこに行くか、日程はどうするかの打ち合わせに移った。行く日が決まったのが一週間ほど前、宿が決まったのがほんの数日前と割と押せ押せではあったものの、どうにか決まったのである。
家族旅行は初めてであったため、恵里も少しばかり楽しみにしていた。父との思い出が作れる貴重な機会であったからだ。とはいえ自分の場合は鈴とハジメの二人との行動が基本になりそうだと苦笑する。
(こういう機会でもないとお父さんと一緒にいられないんだけどな……まぁ、ある程度は割り切るか。仕方ない)
「そういえば恵里は旅行は初めてだね。やっぱり緊張してるのかな」
旅行の事についてあれこれ考えていると、父の正則が恵里に話しかけてきた。どうやら苦笑を浮かべたのを初の旅行故の緊張と勘違いしたらしい。
「うん。やっぱりちょっと緊張する。お父さんとお母さんだけじゃなくてハジメくんや鈴の家族の人と一緒だもん」
とはいえしていないと言えば嘘にはなるため、あえて恵里はそれに乗った。胸の内をさらしたからか、大丈夫だと正則は頭をなでてくれた。髪の毛越しに感じる父の手の感触と体温に目を細めていると、今度は母が声をかけてきた。
「大丈夫よ、恵里。いつもウィステリアに行ってるのとあまり変わらないから」
「うん。ありがとうお母さん」
心配そうに声をかけてきた幸にも笑みを浮かべて礼を述べる。未だにこの女に対する嫌悪はあまり抜けていないが、父の前でそれを出すわけにもいかない。それはそれ、これはこれである。
「緊張して仕方ないならお父さんが一緒に……いや、ハジメ君の方がいいかな? とにかく彼と一緒にいたら怖くなんてないよ」
「ど、どうしてそこでハジメくんが出てくるの!? う、うぅ……お父さんのばか……え、あ、その! これは、えっと……」
唐突に出てきたハジメの名前に思わず反応し、恵里は慕っている父に対してつい悪態をついてしまう。そのことに大いにうろたえるも、いきなり好きな相手のことを出したから恥ずかしがったのだろうと考えた正則は何も言わずに恵里の頭をなでるだけであった。幸も正則が恵里ばかり構うのにほほを膨らませながらも、恵里の様子に微笑ましいものを感じて正則と一緒に頭をなでる。どうにもばつの悪いような恥ずかしいような心地であった恵里はしばし両親にされるがままであった。
そして旅行当日。ゴールデンウィークも中ごろに差し掛かった辺りからか軽い帰省ラッシュに巻き込まれたものの、特にこれといったこともなく一行は宿にたどり着いた。
「南雲様、谷口様、中村様。お待ちしておりました。こちらが部屋の鍵となります」
無事にチェックも済ませ、一行は部屋へ行くかたわらこれからどうするかを話し合う。
「やっぱりこういう所の定番といったらやっぱり温泉街の観光でしょ!」
「さすが菫。来て早々温泉巡りってのも悪くないですけど、今の時間なら人もまばらだろうから大人数で行くのに最適な時間じゃないかと思うんですけどどうです? 露店なんかで買い食いってのも乙なもんですよ?」
そこで真っ先に提案したのは南雲夫妻であった。時刻は既に十四時を過ぎており、昼も道中にあったパーキングエリアで済ませているためどこかの店に寄る必要もない。とはいえ子供を含め、全員が軽くつまんだ程度ではあったため、お土産の物色がてら小腹も満たそうという考えであった。
「確かにいいと思います。愁さんの言う通り、どうせ観光するんでしたら混んでくる前の方がゆっくりと楽しめますしね。皆さんはどうしますか?」
「正則さんがいいなら私も。谷口さんはどうされますか?」
正則が南雲夫妻の提案にいち早く反応してOKを出すと、幸もそれにうなづいて谷口夫妻の方に話を振った。夫妻は揃って笑顔を浮かべ、先に貴久がそれに答える。
「いいですね。全員で話しながらぶらぶらするっていうのも中々出来ませんしね。私はそれでいいけれど春日はどうする?」
「私も貴久さんが一緒なら。あ、でも恵里ちゃんやハジメ君はどうしたいの? もしイヤだったら私と鈴ちゃんと一緒にお部屋で待つけどどうしたいかな?」
貴久も承諾し、春日もそれに続こうとしたものの、ここで子供たちのことで迷ってしまった。もし恵里達が観光に興味がないなら無理につき合わせようとは思っていなかったし、かといって子供だけで留守番させるのは危ないと考えたからである。
そこでとりあえず声をかけてみるとハジメと恵里は迷った様子である。鈴の方は少し考え込むと、意を決して二人に声をかけてきた。
「え、えっと二人とも……鈴は行ってみたいんだけど、行く?」
つい一年前までお出かけはおろか、行事以外で外に出かけることも鈴にはなかった。幼少からふさぎ込んでいた反動もあるのだろうが、鈴は二人と一緒に思い出を作りたかった。一人で寂しかった記憶をみんなで楽しいものに塗り替えたかった。だから勇気を出して言ってみる。
「僕はその……恵里ちゃんは?」
ハジメはまだ迷っていた様子であった。二人と一緒に旅行するのが楽しみでなかったわけではなく、もちろん心待ちにしていた。しかしこうして来てみると見慣れない場所にいることの不安が勝ってしまったのである。そこで恵里に問いかけてみると、人差し指を唇に当てると二人の方を向いて笑顔を浮かべた。
「わかった。いいよ。こっちにいるよりも鈴やハジメくん達と一緒の方が楽しそうだし」
「じゃ、じゃあ僕も行く! いっしょに行きたい!」
恵里は特にやりたいこともなく、鈴とハジメの様子を見てから動くつもりであった。鈴は行きたいと言ってるし、ハジメはこちらの様子をうかがっているのは見て取れたため、一押ししてやるとあっさり折れた。
「ねぇお母さん、鈴もいっしょに行っていいよね?」
「うん。じゃあハジメくんも恵里ちゃんも、行こっか」
こうして三人そろって観光に行けることにどこか嬉しさを覚えながら、恵里はハジメと鈴と一緒に親の後を追うのであった。
「すごいぷるぷるしてるね、おいしそう」
「ん……結構濃いね。おいしい」
「そうなの恵里?……ホントだ。ね、ハジメくん。おいしいよ」
温泉街に繰り出した一行はそこの露店の一つで売っていた温泉卵を買うと、全員でつついていては各々感想を言い合っていた。親達も『値段の割にいい卵を使っている』だの『食感が絶妙』だのと言葉を交わしている。
「あ、ハジメくん。卵ついてるよ」
「えっ?――あっ」
温泉卵について色々と話し込んでいる親たちを横に、三人でおいしいおいしいと言いながらつついていた時、ふとハジメの口の端に半熟の白身がついてるのに鈴は気づく。すると特に下心もなくそれを取って食べたのである。
「――――! ぁぅ、ぇぁ、ぅぅ……」
「どうしたのハジメくん?――あっ。あ、その、鈴は、その……」
「……よかったねハジメくん。恥をかかなくてさ」
途端ハジメが恥ずかしさで悶え、自分のやったことに気づいた鈴が恥ずかしさでうつむき、恵里は恵里で複雑な表情で二人を見ている。そんな三人に気づいた親達は微笑まし気に見つめながら街を歩いていくのであった。
「気持ちいいねハジメくん」
「う、うん。そうだね……ね、ねぇ恵里ちゃん。か、体当たってるよ?――って、鈴ちゃん? 鈴ちゃんも無言で近づかないで!?」
そして露店巡りで一度休憩しようと足湯に立ち寄ると、鈴に見せつけるように恵里はハジメに密着する。肩、足をくっつけてしたり顔で鈴の方を見つめれば、それをうらやましく感じた鈴も何も言わずに近くに寄った。いやに積極的な二人にハジメはこれ以上何かを言う気にもその場を離れる気になれず、ただただドギマギするしかなかった。
「……なんで鈴も近づいてるの? 別に鈴とハジメくんはつき合ってる訳じゃないでしょ?」
「だって、だって……」
ハジメとの距離を詰めた鈴にちょっとむすっとした様子で恵里は問いかけるも、鈴は『だって』と繰り返すだけで一向に離れようとしない。
理由はわからないけれどどうせうらやましがったんだろうと適当に理由を考えた恵里は、まぁいいかと思いながら顔を赤く染めたハジメをじっと見つめる。恵里からの視線に気づいたハジメであったが、心臓が早鐘を打つばかりでカラカラになった口からは何も出ない。
結局二人にいいようにされるまま、気絶しそうになりながら、どこか夢見心地で足湯に浸かっているのであった。なお、この光景は親~ズ全員に撮られ、それに気づいた恵里と鈴は恥ずかしさで死にそうになり、ハジメはまた気絶した。
「ね、ねぇ恵里ちゃん? それ、気になるの?」
「え? あー、いや、そこまでじゃないんだけど……」
そして気恥ずかしさでお互いに顔を背けながらも、談笑する親の後をついて行き、三人も土産物屋に入っていく。菓子類やご当地の食べ物といったものは親が買うだろうと考えて廉価のアクセサリーなどの小物類を適当にながめていたのだが、あるものを見て恵里の足が止まった。
「……恵里ってこういうのすきだっけ? 違うよね?」
「いや、好きでも何でもないけど。単に見た目が気になっただけ」
そう言って手に取ったのは温泉街のマスコットキャラを模した人形がついたストラップである。この街に入った際に立て看板などでそのキャラは見たのだが、今ひとつなかわいさのソレをこの人形はよく再現している。しかし欲しいかと言われれば別にそうでもなく、とりあえず元の場所に戻して別のものを物色しようとした時、鈴が待ったをかけた。
「ねぇ、あのさ。みんなで行った記念みたいなの、鈴もほしいって思ったんだけど……コレにしない? 割と変だけど」
そう言って鈴は恵里の持っていたストラップを手に取り、問いかけてくる。
単にコレ自体が欲しいかどうかと言えばノーではあるが、記念品と考えれば少しは違ってくる。食べ物だったら後で食べて終わりだし、いつの間にやらハジメが手に取っていた龍の巻きついた剣のアクセサリーみたいな道中のパーキングエリアなどでも売っていそうなものを買うよりも、微妙に感じてもそこしかない物の方がきっと記憶に残る。
そう考えた恵里は同じ物を手に取り、ハジメに向けて微笑みかけた。
「なら、さ……買っちゃわない? みんなでお揃いのヤツ」
「恵里ちゃんがいいなら、うん。買おう」
「じゃあ鈴、お父さんたちに言ってくるね。コレ買う、って」
この日は三人とも自分のお財布を持ってきており、親から事前に買いたいものは自分で買ってもいいと許可ももらっている。お小遣いも全員足りていたため、みんなでストラップを持って親と合流する。
「みんないっしょ、だね」
「……うん。ハジメくんと、鈴と一緒」
「そうだね。おそろい。うん、おそろい」
宿へ行くかたわら、買ったストラップを時折取り出しては三人とも感慨にふける。どうしても頬が緩むのを止められず、止める気も何故か起きないことに少し困惑していた恵里であったが、それを表に出して、変な空気にならないよう別のことを考えて気を逸らす。
――ハジメがおそろいのストラップを買う際、空気を読んで厨二心を無駄にくすぐるあの剣のキーホルダーを買うのを泣く泣く諦めたことを。空気を読まずにやらかさなくてよかったことを。
その事を思い出してホッとしながら、恵里は皆と一緒に宿へと戻るのであった。
「久しぶりの温泉はいいわねー。生き返るわー」
「本当に良かったですよね。お風呂で皆さんとお話しながらなのも」
「あの、貴久さん、愁さん。もしよろしかったら年に一度でいいですからまた旅行に行きませんか? もちろん恵里やハジメ君、鈴ちゃんが良ければ、ですけれど」
「私もそれを言おうと思ってました。愁さんはどう思います?」
「おっ、本当かい! なら年一だけじゃなくて機会があるならいつでも行かないか? 一回だけなんてもったいない!」
「私と幸はいいですけど、愁さんと谷口さんが問題でしょう? でも、機会があるならぜひ」
親たちがかしましく話す横で、軽くのぼせた恵里と鈴は大浴場前の休憩スペースのソファーに体を預けていた。恵里にとっては学校の修学旅行以来、鈴にとっては初体験であった温泉であったのと、浴場内でトークが盛り上がったのもあってか中々出られなかったのが原因であった。
「ねぇ恵里ちゃん、鈴ちゃんだいじょうぶ? まだ顔が赤いけど……」
「あー、うん。だいじょぶ。大丈夫だから」
「ちょっとのぼせただけ……しんぱい、しないで」
ハジメも二人がもたれかかっているソファーに座り、心配そうにチラチラと見ている。それを軽くうっとうしいと思いながらもどこか嬉しさを感じることに恵里は何とも言えない感情を覚えていた。
(ホント、ボクと鈴のことになると過保護、っていうかなんていうか……男の子、ってこんなもんなのかな。それとも、ハジメくんだけなのかな)
「あ、よかったらお水買ってくるから――」
「いや、そこまでやらなくていいって」
「ありがとハジメくん……すず、それだけでうれしいよ」
うちわが手元にあったのなら煽るよう頼んだだろうが、残念ながらそれに適した物すら近くにはない。風呂を上がった後、一度ペットボトルの水を飲んで軽く体を冷やしてはいるが、あんまり飲むとおなかが緩くなるだろうしこの後の食事が食べられなくなるだろうから断っておく。
「じゃあ、何かあったら言ってね。何でもするから。も、もし二人とも動くのがつらいならおんぶするの……が、がんばるから」
そうしたら今度はハジメがそんなことを言いだしてきた。いいところを見せたいのか、それとも自分たちのことを思っているからなのか、はたまた両方か。
(そんな細腕でボクと鈴をどうにか出来るわけがないでしょ……ホントにもう、ハジメくんってば)
息巻いているハジメを見て恵里は困ったような笑みを浮かべる。それを見て頼られてないことに気落ちするハジメを、まだいくらか茹った頭で言葉を選びながら恵里は鈴と一緒になだめるのであった。
「はい6ー! よし、上がった上がった!」
「ちょ、ちょっと愁さん! あなた、子供たちに華を持たせる気概、ってのはないんですか!? ほら、三人とも白い目を向けてるじゃないですか!」
「ハッハッハ。いいかい貴くん。子供ってのはね、君が思っている以上に賢いし、見抜く目を持っている。つまり下手に手加減をしたところでこの子達に失礼になるだけなんだよ!」
「それアナタが自分を正当化するための方便ですよね!? 私が言ってるのはそういう大人げないところで――」
風呂から上がった後、広間での夕食を終えた一同は、南雲家にあてがわれた部屋にて持ち込んだトランプで七並べをしていた。
プレイヤーは恵里、ハジメ、鈴のいつもの三人と愁、そして貴久を加えた五人。他はギャラリーとして五人のプレイを見ていたのだが、愁のはしゃぎっぷりが中々に酷かった。
貴久のように子供相手に手を抜くことは一切なく、持っている札と相手の動きから予測して場をコントロールし、上手いこと自分に有利に運んだのである。そしてその勢いのまま逃げ切り、一位をもぎ取って周囲を白けさせる偉業を成し遂げたのだ。
「あの人ね、いっつも大人げないのよ。ハジメと二人でゲームやってても全然手を抜かないし、隙あらばハメてくるから割とよくハジメを泣かせてるわよ」
「子供相手にあんなことして恥ずかしくないんでしょうか。菫さんには悪いですけれど、大人なのは見た目だけですね」
「鈴ちゃんも割と目端が利く子だし、恵里ちゃんとハジメ君も結構目敏いところがありますから愁さんの言うことはわからなくもないんですけど……お友達、いらっしゃるんでしょうか」
「え? ちょっと? 俺そこまでヒドかった? いやー、少しはしゃぎ過ぎたかもしれないけど……おーい正くんや、なんで目をそらすんだい?」
女性陣は声を潜めながらもギリギリ愁に聞こえる大きさでけなし、正則は何も言わずに愁から目をそらした。恵里ら三人も呆れて何も言わずに見つめるだけ。貴久も『だから言ったでしょうに』と言いながら頭を押さえている。孤立無援が確定した瞬間であった。
「ごめんね恵里ちゃん、鈴ちゃん、貴久さん。お父さんがめいわくかけちゃって……」
「いや、ハジメ君が気にすることじゃないからね……えっと、三人はどうしたい? まだ続ける? それとも気分転換にテレビでも見るかい?」
「鈴はテレビがいい。なんかやる気なくなっちゃった」
「じゃあ私も。ハジメくんも一緒に見ない?」
「わかった。いっしょに見よう。あ、貴久さんありがとうございます。僕も手伝いますね」
愁のプレイングで思いっきりやる気が削がれた三人は貴久と一緒になってトランプを片付け、全員で座卓を囲んでテレビをながめる。バラエティ番組を見て盛り上がったり、地上波で流れたラブロマンスの映画を見てワーキャー言ったりと中々に忙しなかった。
「ハジメ、くん……だいじょうぶ?」
「うん……へいき、へいきだから」
「はじめ、くん……すずも……すずも……」
だがシーン毎に盛り上がっている親達とは対照的に、恵里とハジメは既に夢現となっていた。鈴は既に眠っており、ハジメの左ももを枕に幸せそうな寝顔を浮かべている。
「あっ、鈴はもう寝ちゃってたね」
「ごめんねハジメ君。ハジメ君も眠いだろうし、私たちはそろそろ部屋に戻るから。じゃあおやすみなさい」
「あ……おやすみなさい」
「お、おやすみー。貴くん、春日さん」
「今日はありがとう。じゃあ、おやすみなさーい」
鈴を負ぶって部屋を出ていく谷口夫妻にハジメは自分の両親と一緒に返事をしたのだが、恵里は鈴がいなくなったことにも気づけず、今にも舟をこぎそうになっていた。
(もう、げんかい……がまん、できないや)
長いこと車に揺られた疲れのせいか、昼間の観光のためなのか、それとも長湯で疲れてしまったからか、眠気を抑えているのも限界であった。
(おや、すみ……おとうさん、すず、ハジメ、くん……)
心の中で一言述べた恵里はハジメの肩に自分の頭を乗せて眠ってしまう。それにつられてかハジメもあぐらをかいたまま寝息を立てた。そうして二人が仲良く夢の世界に旅立った後、中村夫妻は恵里を負ぶると、南雲夫妻に頭を下げる。
「では愁さん、菫さん。お邪魔しました……恵里と仲良くしてくださってありがとうございます」
「ああ、お休み正くん。いや、こっちこそウチのハジメと仲良くしてくれてありがたいぐらいだよ。恵里ちゃんにもそう言っておいてほしい」
あいさつもそこそこに中村夫妻は部屋を出ていく。そして部屋に戻る途中、恵里が寝言をつぶやいた。
「おとう、さん……すずも……はじめ、くんも……みんな、いっしょ……えへへ、いっしょ」
「ふふ、恵里ったら。夢の中でも二人の名前が出るなんて」
「ああ。本当に二人のことが好きなんだな……ハジメ君と鈴ちゃんには頭が上がらないな」
「そうね。あの子達の前でならちゃんと子供らしくいられるもの。本当に、いい子達よ」
二人は他の客の迷惑にならないよう声のトーンを落としながら部屋へと歩いていく――不意に、父の背で眠る少女がはにかんだ。
ちなみにあの例のキーホルダー、後でハジメは買いました。
ここらで恵里、ハジメ、鈴の三人とその親達だけの関係が終わりを迎えます。そろそろ他の子も関係が深くなっていく予定です。なお予定は未定な模様。
あと当初はお風呂のシーンがあったのですが「あ、これ18禁になるんじゃね?」と思って泣く泣くカットしました。まだ推敲してないだけで下書きはありますが……需要あるかな? 18禁要素が裸ぐらいしかないけど。
21/6/1 追記
割と見たい方がいて草。皆さん正直ですねw
ではこちらからどうぞ。
https://syosetu.org/novel/259832/