あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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では今回も先に皆様に感謝の挨拶をば。
おかげさまでUAは27000を大きく超え、お気に入り件数も353件(2021/7/2 19:40現在)に到達しました。相変わらず理解が追い付きません(遠い目)

トリプルxさん、鼻からエメラルドスプラッシュさん、異次元の若林源三さん、自分の作品を高く評価していただき誠にありがとうございます。特にゲンさん。10点をつけていただきありがとうございます……毎回毎回言ってる気がしますが、恐縮するばかりでございます。

では本編をどうぞ。


幕間五 処方が変われば香りも変わる

 白崎香織という少女にとって中村恵里という子はある種の憧れの存在のようなものであった。

 

 小学校一年生の時に一目ぼれしたらしい少年がおり、彼との仲が今もなお続いているのだ。香織からすれば下手な少女漫画よりもドラマチックで刺激的であり、運命じみたものすら感じている。

 

 また彼女が語った彼とのやり取りに関しては驚きこそすれど退屈した試しは一度もなく、いつだって目を輝かせながら聞いていた。故に香織にとって恵里という存在は身近にいる“特別な存在”であった。

 

 自分の友人と共にずっとこの日常が続くと何の根拠もなく香織は信じ、いつまでも楽しい日々が続くと思っていた。始業式に見たクラス替えの張り紙を見るまでは、だが。

 

「なんで……ない。ないよ」

 

 親と一緒に見たその紙には恵里や自分の友達の名前は何一つなかったのだ。小一の頃から親しくしていた子達ともこれっきりの別れになってしまうかもしれないと悲観する香織に両親は優しく声をかけてくれた。

 

「どうしたんだい香織。もしかして友達と離れ離れになったのかい?」

 

「そうなの香織? お父さんの言った通りかしら?」

 

 その言葉に弱々しくうなずくと、父の智一は優しく頭をなで、かがんで目線を香織と合わせながら話しかけてくれた。

 

「そうか。それは少し寂しいね。でも大丈夫さ。会いたくなったら友達のいるクラスに行けばいいんだから。それにきっと新しい友達だってすぐに出来るさ」

 

 なんてったって世界一愛らしい天使なんだから、と付け加えてなでてくれた頃には悲観的な気分はどこかへと吹き飛んでしまった。

 

 そう。会えないのなら自ら会いに行けばいいだけなのだ。立ち直った香織を見て母の薫子も智一と一緒に微笑んでくれる。決意を新たに香織は目を皿にして自分の友達の名前を探すのであった。

 

 

 

 

 

 幸いにもほとんどの子が自分と隣のクラスにいたため、学校が始まった日の昼休みにはほとんどの友達と再開することが出来て友達の輪に入れてもらえた……そう、ここまでは良かった。

 

 恵里以外の子と再開できた時点で相当盛り上がってしまい、その日の昼休みはそこで終わってしまう。そこで香織は放課後に彼女を探そうとしたのだ。そこで見てしまった。

 

「ねぇ、やっぱり雫も坂上君も天之河君もいっしょに行こうよ。きっとお父さん達がオーケーするよ」

 

「いや、谷口や南雲、中村、さんの好意はうれしいけど、図々しくないか? まだ会って一年も経ってないんだぞ?」

 

「いや、そんなこと言ったら私とハジメくんも鈴も去年旅行なんてしてないけど? その時だって会って一年しか経ってなかったし」

 

「お前らの場合とーちゃんかーちゃんが仲良くなるのも当たり前じゃねえかよ。南雲とつきあってて、んでひとりぼっちだった谷口と友達になったんだからよ。それといっしょくたにされても困るぜ」

 

「うん。坂上君の言う通りだと思う。私達はともかく、お父さんもお母さんも鈴ちゃん達のお父さんやお母さんってそういうこと出来るぐらい仲がいいかな?」

 

「そうかな? そこまで仲が悪いみたいじゃないし、僕のお父さん達がオッケーだと思ったら絶対引きこむと思うんだけどなぁ」

 

「おう、お前らいい加減俺のこと無視するのやめろ――だから俺はこっちだこっち!! いい加減にしないと泣くからな!」

 

 恵里が彼女の友達と思しき子と親し気に話しあい、それが盛り上がってる様子を。

 

 盛り上がっていた。めっちゃ盛り上がってた。もうゴールデンウィークの話をしながら楽しそうにお話ししてた。

 

 時折どこかから声が聞こえて少し不気味ではあるけれど、目の前の光景に香織はちょっと不機嫌になる。

 

 香織の頭では他の子と同様に寂しがってたり、目を合わせるなり手招きしてくれてすぐ新しい友達も紹介してくれるものだと思っていたのだ。それが自分抜きでも寂しそうにしていないし、こっちに全然気づいてない。

 

「ねえ香織、あっちはけっこう盛り上がってるみたいだし、今日はあきらめようよ」

 

「そうだよ。恵里ちゃんは元々友達がいっぱいいるって言ってたじゃない」

 

 友達があれこれ言ってくるのも香織とてわかっていた。でもどこかズルく感じて仕方がなかったのだ。自分は会いたくて仕方なかったのに、あっちはそうでもない感じがどこか寂しかった。だから香織は行動する。もう一度友達になるために。

 

「恵里ちゃん!」

 

「おわっ!?……あれ、白崎さん?」

 

 そうして声をかければ恵里もびっくりしてこちらを向いてくれた。もちろん周りにいた子達もだ。一体誰だとざわめく中、また他人行儀な感じな恵里に香織はむくれながら不満をぶつける。

 

「かーおーりっ! いい加減名前で呼んでよー!」

 

「あー、はいはい……あの子は白崎香織。前に話したことがあったと思うけど」

 

 恵里の一言でいぶかしむ声はピタリと止まり、代わりに全員が納得した様子を見せる。それを確認すると香織は恵里のところへとずかずかと向かっていく。こうなったらこちらだって遠慮はなしだと開き直り、恵里の手を取った。

 

「え、えっと、一体何?」

 

「うん。もう一度友達になろうよ!」

 

 その一言で香織の友人以外は皆呆気にとられる。これが恵里を除く、香織とハジメ達の最初の出会いであった。

 

 

 

 

 

「そ、そうなんだ……それが八重樫さんと天之河くんがき、キスした事件で……」

 

「お、お願いだからそう言わないで。は、恥ずかしいから……」

 

 そしてその翌日の昼休み。初対面の子と会って尻込みしなかった自分の友人を二人連れて香織は恵里のクラスを訪れていた。

 

 昨日は帰りがてらお互いの自己紹介をしたものの、あくまで軽くしか聞けなかったため、今回改めて話を聞いているのである。それは香織らにとって聞いたことのあるものであったが、恵里からの又聞きでなく、直に聞いた場合の感じや生々しさはやはり別格であった。

 

「ね、ねぇ、じゃあ南雲君は手をつないで寝たぐらいだから、き、キスぐらいやってるよね?」

 

「や、やってないです! ぼ、僕はまだ、その、えっと……」

 

「まだそこまでやってないってば! 何発想を飛躍させてるのさ!」

 

「でも、あーんしたり、間接キスしてるんだし、それぐらいもうやっててもおかしくないんじゃ――」

 

 香織は雫らと話をしていたが、一方、一緒に来た友達の桐生ミサキと田山まどかはハジメらの方に絡んでいた。こっそり聞き耳を立てれば二人にアレコレ言われて恵里とハジメはタジタジになっており、思わず口角が上がってしまう。

 

「何ニヤついてんだ、白崎」

 

「あ、ごめんなさい。ミサキちゃんやまどかちゃんのお話聞いて改めて恵里ちゃんも南雲くんもおたがい好きなんだなー、って思っただけだから」

 

 するとそれを龍太郎から指摘され、理由を述べればいぶかしむ様子から一転してため息を吐く。そばにいた光輝と雫も苦笑いを浮かべ、一度ハジメ達の方を向いてから香織の方を見やった。

 

「あー、まぁな……俺の方は見てて何とも言えねぇ感じになるけどよ」

 

「確かにあの二人の仲は良いからな。あ、でも白崎さん。君の友達にハジメと中村をあまりからかうな、って言っておいてくれないか?」

 

「そうね、ハジメ君また顔真っ赤にして小さくなってるし。お願いだから止めてあげて」

 

「あ、ごめんなさい。ねぇ、ミサキちゃん、まどかちゃーん! 二人がこまってるみたいだからやめてあげてー!」

 

 そうして二人に注意をし、ハジメ達に謝ったのを見ると香織は再度雫の方に顔を向けた。二人がごめんね、と一度謝った後、再度話を振る。

 

「でもさ、天之河くんも八重樫さんもそうだけど、坂上くんもすごいよね。ケガをしても二人のためにがんばったんだから」

 

「確かにな。俺と雫のために体を張ってくれたんだ。そのことを忘れたつもりは一度もないよ」

 

「そうね。龍太郎君が頑張ってくれなかったらこ、光輝……君といっしょになれなかったから」

 

「さ、三人ともやめてくれよ……なんだか体がむずがゆくなっちまう」

 

 べた褒めされた龍太郎はそっぽを向いて赤くなった頬をかいた。親しい仲である光輝と雫ならばおうよと返すだけで終わったのだろうが、まだ知り合って日が浅い美少女に屈託のない笑顔で褒められれば龍太郎も気恥ずかしさに耐えられなかった。

 

 なおこの時『裏切ったな龍太郎めぇ……』と心底恨めし気につぶやいた誰かの声に香織は気づいていない。

 

「え? だってすごいと思うよ。いくら悪い子でも親しくしてた女の子をたたいたりしないで止めたんだもの。坂上くんがその子達を止めなかったら天之河くんと八重樫さんはつき合うこともきっと出来なかったと思うし」

 

「ま、まぁ必死だったからな。さすがに三人がかりだったからそんな余裕もなかったっていうかよ……」

 

「だからだよ。それでも暴力を振るわなかったんだからすごいと思うな」

 

「だぁーっ! たのむからやめてくれ!! 頭がおかしくなっちまいそうだ!!」

 

 しかし香織は龍太郎が頬を染めても気づかずに追い打ちをかけ、それに耐えられなくなった龍太郎はたまらず大声を上げる。

 

「し、白崎さん。あんまり龍太郎をからかう、というか、持ち上げるのは、その……」

 

「りゅ、龍太郎君もこまってるし、それぐらいで……」

 

「? 私、からかってなんかいないよ? 坂上くんがすごいと思ったからそれをちゃんと伝えただけなんだけど」

 

 そこで光輝と雫が香織を止めにかかろうとするが、当の本人は気づく素振りすらない。そのため龍太郎はうめき声を上げながら悶えてしまい、気配が濃くなった浩介を見つけてしまった子達はいきなり現れた彼に対してギョッとする。

 

「し、白崎さんも、その、あまり顔を合わせない親せきとかにいきなりほめられたらビックリしないか? りゅ、龍太郎は今そういう状態で――」

 

「えーっと……うれしい、かな。みんなはそうじゃないの?」

 

「……なぁ、龍太郎。白崎さんはああいう人だったみたいだ。だから、その……うん」

 

「え、えっとね……龍太郎君、ひどいこと言ってるのは私もわかってるけど、あんまり白崎さんの言うことを真に受けなくてもいいと思う」

 

「もうっ、二人ともひどいよ! 私が坂上くんをそんなにほめるのがイヤなの!?」

 

 それでも、とどうにかしようと光輝が知恵を絞って出した質問はあっさりと玉砕してしまった。ダメだ、話が通じないと察した光輝と雫はため息を吐くと龍太郎に声をかけるも、その言葉に心外であった香織がぷりぷりと怒りながら反論してくる。二人は頭を抱えてしまった。

 

 それをおかしく思った香織だったが、何とも言えない様子で自分らを見ていた恵里やミサキらにどうしてか問いかけても目をそらされるばかり。結局自分が何をやったのかわからぬまま、この日の昼休みは終わってしまったのであった。

 

 なお浩介は光輝に声をかけてもらうまですすり泣いていた。

 

 

 

 

 

 こうして恵里だけでなく、ハジメや龍太郎らとも友人になった香織はちょくちょく彼らと行動を共にするようになった。

 

 テストの結果がどうだったかを話し合った時は相手にふさわしい人間になろうと努力している光輝とハジメがいい勝負をしていたり、恵里が勉強ができる子であることを再認識するなどといったことがあった。

 

 また夏休みのことについて聞かれた際、恵里達が全員で一緒にプールに行くかだの旅行でもするかだのといったことを話し合っていたが、香織以外の都合がついた日が里帰りの時であったため、お互いがっかりしたりもした。とはいえそれ以外は割と自由が利いたため、都合がいい日は全員で一緒に遊ぶことになった……それを話した智一はどうしてか渋い顔をし、それを薫子が少し怖い顔で見つめていたが。

 

 そうして時は過ぎ、秋も中頃を迎えた辺りのことであった。文化祭を翌日に控え、この日の帰りもミサキらも連れて恵里達と一緒に帰っていたのだが、そこであることを友人のまどかが口にする。

 

「そういえば明日、文化祭だけどさ、恵里ちゃんは南雲君と鈴ちゃん、八重樫さんは天之河君と一緒に学校を回るんだよね?」

 

 その一言に、名前を呼ばれた五人はお互い意識している相手に視線を向けた。そして全員が恥ずかし気に目をそらし、龍太郎と浩介が納得したようなどこか達観したような様子を見せる。と、そこでまどかの発言の真意に気づいた香織の口からある言葉が出てきた。

 

「えっと、好きな人同士で学校を歩くんだよね? それって、もしかすると……デート、ってこと?」

 

 確認するようにそれを言うとまどかはうなづき、ミサキもいい笑顔を浮かべながら顔を真っ赤にしたハジメに声をかけてきた。

 

「幸せ者だね南雲く~ん。恵里ちゃんと谷口さんに好かれてさー」

 

「き、桐生さん! へ、変なこと言わないでくださいっ! ほ、ほら、恵里ちゃん。鈴ちゃんも。桐生さんに言いかえ――」

 

 ニヤつきながら言ってくるミサキにハジメは顔を真っ赤にしながら怒るのだが、恥ずかしさが前面に出ているためか今一つ怖さを感じない。

 

 どうにか恵里と鈴と一緒に色々と言おうとしたのだが、恵里は無言でいきなりハジメの腕を絡めてきた。泡を食っているハジメをよそに鈴もまたもう片方の手を繋いでハジメの方を見やれば香織ら三人は黄色い声を上げた。

 

「やだもう南雲君モテモテじゃない! これってやっぱり二人と一緒にデート確定だよね!!」

 

「か、香織はどっち見るの!? わ、私は八重樫さんのほう!!」

 

「や、やっぱり恵里ちゃんの方! 雫ちゃんの方も気になるけど、昔から追ってきたし、こっちの方がすっごい気になるから!」

 

 当事者をガン無視しながら盛り上がる三人を見ながら光輝と雫は大きくため息を吐き、ハジメは二人に無言で見つめられて何も言えない。相変わらずデートや色恋のことになるとこうして野次馬根性を発揮する三人に、二組のカップルはまたしても振り回される羽目に遭った。

 

「え、えっと……よろしく、おねがいします」

 

「いや、その……こちらこそ、よろしくな。雫」

 

 とはいえ、そばにいるだけで割と満足してしまう光輝と雫に関してはありがたい起爆剤ではあったため、“自分達に限るのなら”それを止めようという気はなく。

 

「ぼ、僕は、その……」

 

「ぼ、ボクは……鈴と一緒でもまぁ、許してあげるから。ちゃんと感謝してよね」

 

「鈴は……鈴はハジメくんといっしょにいたい。けど、恵里ならいっしょでも、いいよ」

 

 ハジメは自分に好意を向けてくれる二人に意識を割いているため、そもそもアレコレ言う時間がない。キャーキャー言ってるあの三人に思うところがないわけではないのだが、冷やかしでなく純粋に自分たちの恋愛を応援してくれてる――それがどういった結末であれ、である――というのもあって中々言い出せないのだ。

 

「桐生さん。田山さん。俺と雫はいいけど、あまりハジメ達をからかうなって言っただろう? また顔を真っ赤にしてるじゃないか」

 

「あ、いけない……ごめんね、三人とも」

 

「まーたやっちゃった……南雲君も恵里ちゃんも谷口さんもごめん」

 

「あぅ、やっちゃった……ホントにごめんね?」

 

 それ以上にこうして光輝か雫がたしなめてくれるため、そもそも自分から言い出さなくて済むのが大きかった。なんせ二人がしっかり代弁してくれるし、やり過ぎたらちゃんと謝ってくれるのだから。

 

「あはは……また恵里ちゃんと鈴ちゃんがおかしくなっちゃうからやめて――痛いいたい痛いっ!?」

 

「か、香織達が悪いのはわかってるけど、ボクは全然おかしくなんてなってないからね!!」

 

「す、鈴もぜんぜんおかしくなってないよ! い、いつかハジメくんとデートしたいって思ってたから!」

 

 これでちょくちょく暴走しなければ、と思いつつもハジメ達は今回も許す……というよりかは恵里と鈴の二人がほぼ毎回あーだこーだ言うためお流れになるのだ。またしてもギャースカ言い出した二人を見て香織は思う。

 

(三人とも楽しそう――私も、好きな人が出来たらああなるのかな?)

 

 好きだからこそ見て欲しい。構って欲しい。自分にはまだ縁のないその願望が自分にも芽生えるのだろうかと考えながら、三人を見つめる。

 

「あー、そういやよ。白崎達はどうするんだ? やっぱり三人で回るのか?」

 

 しかし香織が物思いにふけっていたところで急に龍太郎が話しかけてくる。一体どうしたのかと首をかしげると、軽い呆れのこもった眼差しでこちらを見てきた。

 

「いや、な。お前らほっといたら絶対光輝とハジメを追っかけるだろ? だったらせめてあいつらの後ろであんまりキャーキャー言わないでくれって思ってよ」

 

 その言葉に三人はああ、と納得した様子を見せ、それを確認した龍太郎はため息を吐いた。

 

 実害を出さないのと、こういう事に三人とも首を突っ込む性分なのを龍太郎も理解していたため、今回も香織達を止めるのは諦めて注意だけしようとしていたのだ。

 

「だったら俺と龍太郎とで一緒に見てればいいんじゃないか? あんまりデカい声出さないようにさ」

 

 そこで幾らか気配が濃くなった浩介が口を提案をしてくる。遠藤の気配に気づいていた龍太郎は一瞬目を見開くも、いい案だと思って香織達に視線を向ける。そして向けられた三人は『あ、遠藤君いたんだ』と思いつつ、それなら恵里達に迷惑をかけないかもしれないと考えて首を縦に振った。

 

「んじゃ、決まりだな。あんまりやかましくするなら俺と浩介で引きずってくから覚悟しとけよー」

 

「えーっと……やさしく、お願いします」

 

 自分たちが恵里達を見て騒ぐ姿が容易に想像出来た香織は、苦笑いを浮かべながら龍太郎に返事をする。そうして文化祭についての話し合いは終わり、いつものように漫画や今日のことなどを話し合うのであった。

 

 

 

 

 

 そして文化祭当日。二組のカップルの後ろを香織ら五人が歩いていく。恵里や雫の一挙手一投足に声をどうにか抑えながらも三人はキャーキャー言いながらながめつつ、龍太郎、浩介と一緒に展示物の飾られている教室を回る。

 

「こうして歩いていると、美術館でデートしてるみたいだね」

 

「あ、あぁ。確かにな。俺はそういうのの良い悪いなんてわからねぇけど白崎はどう、なんだ?」

 

「うーん、文化祭の絵とかだったらまだわかるけれど、美術館は行ったことがないし、私も絵の良さはわからないかも」

 

 友人であるミサキとまどかは終始注目しているカップルに視線を注いでいたものの、香織の方は時折龍太郎へと話しかけていた。基本は恵里らの動きに注視しているが、特に大きな動きがない時やミサキ達と話すことがない場合は何とはなしにしていたのである。

 

「……なあ、白崎。別に俺に話しかけなくても、桐生と田山と話してりゃいいじゃねぇか。そっちの方が盛り上がるんじゃねぇか?」

 

 ただ、龍太郎の方は平常心を保てるかというとそうでもなかった。学校内でも指折りの美少女に隔意なく、むしろ親し気に話しかけられているのに耐えられる男子はそういないだろう。野次馬っぷりを発揮している時に注意するならともかく、普通に接するのは龍太郎にとって中々に難しかった。

 

 しかも自分に憧れを抱いていると公言し、普段から親し気に話しかけてくれるのだから、もしや自分の事を好きではないかと龍太郎は考えていた。そのため今の彼は平常心を保つことはおろか、じっと顔を合わせることも無理であった。

 

 友のために体を張れる勇敢さはあるがまだ年頃の少年であり、ウブな龍太郎では時折視線をそらしながら受け答えするのが精一杯であった。

 

「ミサキちゃんとまどかちゃんともお話ししたいけど、龍太郎くんとだってお話ししたいよ。お友達なんだから。それじゃあダメなの?」

 

「あ、あー……そう、か」

 

 しかし香織は香織でそんな龍太郎の機微に気づくこともなく。友達、という言葉に少し気落ちした様子の彼にも気づかずに視線を向けるばかり。するとここでミサキとまどかが香織に声をかけてくる。

 

「ね、ねぇ香織。そこら辺にしといてあげたら?」

 

「坂上君ちょっと傷ついてるみたいだし、あんまり振り回しちゃダメだって」

 

「あれ? ねぇ龍太郎くん。私、何かひどいことしちゃった?」

 

 他の人の迷惑になるからと理由をかこつけて恵里と鈴がハジメに密着していたり、今度は美術館にデートをしに行かないかと提案する光輝に頬を染める雫の様子などを二人は飽きずにじっと見ていたのだが、香織が全然乗ってこなかったことに気づいて振り向き、龍太郎が気落ちした様子に気づいたのである。

 

 なお結果として龍太郎の気分は余計に沈みこんだが。浩介は無言で彼の肩に手を置いた。

 

「香織? そういうのって普通恵里ちゃんと南雲君や八重樫さんと天之河君みたいな恋人とすることだよね? だから、えっと……」

 

「す、好きなんだよね! 香織は坂上君のこと。だから、えっと、そういう風にしたっていうか……」

 

「うん、好きだよ。友達としてだけど」

 

 二人は各々別方向から龍太郎をいたわったり慰めようとするものの、何のためらいもなく香織はそれをぶち壊してきた。龍太郎は泣いた。

 

「さ、坂上君ごめんね! ウチの香織がニブチンで!」

 

「香織、そういうの流石に友達としても見逃せないと思うの。見てみなさい坂上君を。えぐえぐ泣いてるじゃない」

 

「えっ!? なんで!? わ、私、そんなにひどいことしちゃったの!?……よ、よくわからないけどごめんなさい!!」

 

 何か酷いことをしたらしいのには流石に気づけたものの、それに全然心当たりはなく。かといって何もしないのはよくないと思った香織は龍太郎に頭を下げる。

 

 フラれるって辛ぇな、と漏らす龍太郎に浩介は黙って胸を貸す。そして彼らの異変に気づいた恵里達もまた戻ってきて話を聞き、そろって頭を抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 更に時は過ぎ、クリスマス当日。よそ行きの格好に身を包んだ白崎一家はパーティーで貸し切りになった店舗へと足を運んでいる。

 

 こういう催しには気が引けたのかミサキとまどかは今回は参加を見送っており、それが少しだけ心残りであった。とはいえ二人から自分たちの分まで楽しんできて、と言ってくれたし、みんなから是非とも参加してほしいと言われたことはとても嬉しかったため、この会を見送る気は香織にはなかったが。

 

「どういうお店かしらね。洋食屋、だとは聞いていたけれど」

 

「よくひいきにしている雰囲気のいいお店、だとは聞いているけれどね」

 

 初めてお呼ばれした事もあってか智一、薫子は軽く緊張しており、それを紛らわそうとこれからいくお店についてアレコレ話をしている。

 

 無言のまま父と手を繋ぎながら歩いている香織もまた少なからず緊張していた。

 

 友達の家には一通り行っており、彼らの家族の顔も全員知っている。しかし、こういった大人数で行うパーティーに関しては初めてであったため、そこそこの不安とちょっとの好奇心で胸がいっぱいであった。

 

 そうして胸をドキドキさせながら両親と一緒に歩く事しばし。ようやく目的地である洋食店『ウィステリア』が視界に入ると、ハジメらしき大人しそうな少年とその側にいた両親と思しき一組の男女が手招きをする。それに気づいた香織はすぐに手を振り返し、父を見上げる。顔を上げた香織に向けてうなづいた両親はそのまま歩き続け、既に待っていた皆の近くまで来てからあいさつをした。

 

「今回は私達をこのような場に招いていただき、ありがとうございます。私が香織の父である白崎智一で、こちらは――」

 

「はじめまして。妻の薫子です。今後ともよろしくお願いしますね」

 

 そして店の近くで立っていた恵里達の両親に親子揃って頭を下げると、智一と薫子が揃って自己紹介をする。掴みは良かったようで、柔らかい表情で親達は見つめていた。

 

「どうもよろしく。智一さん、薫子さん。それじゃあ詳しい紹介は中に入ってから、ってことで」

 

「そうね。みんな外で待ってたから少し体も冷えたでしょうし、温かいものでも頼みましょう」

 

 相変わらずテンションが高めの南雲夫妻が先陣を切って店に入り、その後を追うようにハジメが恵里と鈴の手を引いて入っていく。エスコートするように雫の一方後ろを歩く光輝に、彼らの親達が明るい表情で店へ向かう。

 

「おう、白崎。入ろうぜ。俺もちょっと体が冷えてきちまった」

 

 その光景に心を奪われていると、龍太郎が声をかけてきた。自覚なく龍太郎を振った後、しばしギクシャクしてたのだがここ最近ようやく吹っ切れたようで、今は彼らしいニカッとした笑顔で香織を誘っている。

 

「ハッハッハ。坂上君、君に言われるまでもなくこれから入るつもりだったからお・き・づ・か・い・な・く」

 

「あ、さいですか。んじゃ、先入ってるぜ」

 

 何故か智一が張り合ってきたものの、何度か顔を合わせているため『ああ、またか』と適当に流しながら龍太郎は浩介と一緒に入っていく。敵意を露にした父の姿を見てちょっとへそを曲げた香織は頬を膨らませて抗議した。

 

「もう、お父さん! 龍太郎くんに意地悪しないで!」

 

「い、いや、香織。いくら香織が天使のように優しいからってあんなガサツそうな子なんかに――ひぃっ!?」

 

「――あなた? むやみに香織の友達をにらんだり、あまり皆さんをお待たせするのは失礼だと思いませんか?」

 

 背中に何かおぞましいものが見える薫子に脅され……もとい、諭された智一は二人にひたすら平謝りしながら店へと向かう。香織もそんな両親の後をついていく――小さくなった不安と、大きくなった期待に胸を膨らませながら。

 

 出てくる料理に舌鼓を打ち、新たに増えた女の子の友達と一緒に皆と賑やかな時間を過ごす。願わくばこんな日々がずっと続きますように、と夜空に瞬く星を見ながら香織は願った。




ハジメに関心がなくてなおかつ他に関心があったり尊敬できたりする相手がいたらきっとこうなると思うんです(本日の言い訳)
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