では改めて皆様に感謝の言葉を。皆様のお陰でUAが遂に34000オーバー、お気に入り登録数も385件にまで上り、感想の件数も70件を超えました(2021/8/2 23:39現在)。同じセリフの使い回しで恐縮ですが、皆様には頭が上がりません。本当にありがとうございます。
山山山田さん、こじふせさん、ユーナさん、サバ捌きさん、拙作を評価していただき本当にありがとうございます。皆さまがこうして自分の作品を評価していただけることは感謝に堪えません。
では遅くなりましたが本編をどうぞ。
今回は後半、ある少年にちょっと多めにフォーカスされてます。
「じゃあまた放課後で」
「うん。またね」
「またね、ハジメくん」
南雲家から歩いて十分足らずの交差点でハジメと別れると、恵里と鈴は今日も中学校へと向かって歩いていく。
「やっぱり朝のこの時間だけは憂うつだなぁ……」
今日もため息を吐きながら通学路を歩く恵里に鈴もいつものように声をかけた。
「少しは慣れなよ、恵里。私はもう慣れたんだから。それに、いつまでもそんな調子だとハジメくんが心配するでしょ?」
鈴の一言に恵里はぐぬぬと顔をしかめる。ハジメと別れることに慣れたという物言いは軽く頭に来たのだが、自分がハジメの負担になりたくないという思いもあって、マトモに言い返せないのである。
「お昼休みに会えなかったり、帰りがずっと一緒じゃないのが寂しいのは私だってそうだもん。それはハジメくんだってわかってるだろうし、ね?」
「……うん」
そして鈴に見事なまでに言いくるめられてしまう。こうして鈴に言われ、落ち込んでても仕方がないと気を取り直した恵里は鈴と一緒に通学路を歩いていく。そして半ばの辺りで昔からの面々と今日も合流する。
「おはよう恵里……さんと鈴。ハジメの方はどうしてた?」
「おはよう光輝くん。今度二人が出る大会のことがちょっと気がかりだったぐらいで後は普通と変わらないよ」
「光輝君おはよう。そうだね。今のところ学校は上手くやれてるみたいだよ」
「お、そうか。なら問題ねぇか。俺らの内の誰か一人でもついていければ、って思ってたんだけど、流石はハジメか」
真っ先に声をかけてきた光輝に二人は返事をすると、龍太郎のつぶやきにもうなづいて返す。
そうして始まった今日の登校時のトークは面倒な小テストへの愚痴や、武術を修めている四人の最近の状況といったものであり、最近は投てきの修練に熱が入っている旨を雫と浩介から聞いた辺りで玄関の前に着いた。靴を履き替えるために一旦別れ、その後はいつものように通行の邪魔にならないようクラス毎に一列に固まった状態で話しながら歩いていく。
「あ、今朝はここまでね。それじゃあね、みんな」
そして廊下に一番近い教室がクラスである雫とまどか、奈々はここで一同と別れることに。そうして次々とメンバーが別れていき、一番奥の教室に恵里と優花も入っていく。たまに色々と話したりするクラスメイトにあいさつをしてから席に座ると、隣の席であった優花が教科書を机にしまいがてら話しかけてきた。
「そういえばさ、最近はハジメとはどうなの?」
「どう、って普通だよ。基本三人の家でローテーションで、たまーに週末にちょっと本屋に寄ったりとか――」
心配そうに問いかけてきた優花に以前と変わらない旨を伝えたものの、その当人は大きなため息を吐くばかりであった。優花がそうした理由も恵里は理解している。この宙ぶらりんな状況をいつまで続けるかについて心配しているからだ、と。
「……エリとスズがいいなら構わないんだけどね。やっぱりさ、ハジメの取り合いでいつか刃傷沙汰にならないか心配でさ」
「そこまで心配しなくったっていいよ。いつかちゃんと結論は出すから……まぁ、心配してくれてありがとう」
いらぬ心配だと内心感じつつも、恵里は優花に明かせる範囲でそれに答え、こうして気遣ってくれていることに一応礼を述べた。
店にそういうのを持ち込まないでよ、とため息と共に言ってきた優花にうなづいて返した辺りで始業のチャイムが鳴った。入ってきた担任と顔を合わせ、今日もまた恵里は真面目に授業に取り組むのであった。
授業をこなし、昼休みに全員で集まってはとりとめのない話をして、そして帰りにハジメと合流したりして色々と話したり遊んだりする日々を過ごしていたが、ある日の帰りに唐突に光輝が頭を下げてきた。
「なぁ恵里、さん。それと鈴もなんだけれど、ちょっと力を貸してもらえないか?」
「一体どうしたの、藪から棒に。捨て猫でも拾った、ってのなら簡単で助かるけれど」
「光輝君がわざわざ助けを求める、って……ねぇ恵里、これってもしかして」
彼が解決できないということはつまり、かなりの厄介ごとだろうと恵里は感づく。一体どんな面倒ごとを持ち込んできたんだと思いながら目で彼を見つめ、ある可能性が頭に浮かんで鈴は恵里に耳打ちをする――頭の回るハジメに相談してほしいんじゃないか、と。鈴も考えることは一緒だったらしい。
「いや、猫とか動物じゃなくってだな……二人に求めてるのは知恵を貸してほしいとか機転を利かせないといけないということじゃなくて、二人のオタク知識が必要なんだ」
「ええ。実はこの前、光輝が助けた子がいたって話したでしょ? それについてなんだけど――」
鈴に耳打ちされた後、光輝の方を見てみれば何とも言えない表情でこちらを見つめており、光輝が言及したことを補足する形で雫が説明をしてくれた。
以前にもみんなに話したことであったが、偶然イジメの現場を目撃した光輝と雫はお互いに協力してイジメをしていた人物を懲らしめたことがあった。それも携帯の動画でしっかり撮影した上で、である。すぐに助けずにいたことに二人とも良心が痛んだものの、動かぬ証拠を先生に見せ、イジメられていた清水という少年をどうにか救ったのである。
だがイジメ自体は前々から起きていたらしく、彼を助けこそしたものの受けていた心の傷は深く、他人と接するのが怖くなって引きこもってしまった。そこで彼を助けた光輝と雫は時間を作っては彼の家まで寄って励まそうとしたものの、それが上手くいかなかったようである。
「何度も俺達が足を運んで、話しかけ続けてどうにか清水は心を開いてはくれたんだが……そこで八重樫流に興味を持ったんだけれど、それをあくまでイジメた奴らに報復するために利用しようとしている節が見えたんだ。それで止めさせたんだけど、その……」
「私達が言えた義理じゃないけれど、断ったらひどく気落ちしてね……それで、彼もハジメ君みたいにライトノベルとかゲームが好きだったみたいだから話に付き合ってみたんだけれど、私達じゃちょっと……」
「あー、理解できたよ。つまり重度のオタクだったから話についていけなくて、それで結局へこませたとかそういうオチなんでしょ?」
事情を察した恵里に言いよどんだことを当てられた二人は気まずそうに目をそらした。どうやら図星だったらしく、二人は何も言えずうなづくのが精一杯であった。
「あー、それで恵里を頼ったのか。これは確かに恵里か鈴、ハジメの奴でもないと無理だろうな」
「そっか、そうなんだ。私達の中でそういうのに詳しいのって、確かに恵里ちゃん達三人だもんね。私も少女漫画とかだったらまだお手伝い出来たかもしれないけど」
その様子を見ていち早く納得したのは龍太郎であった。それに次いで香織もまた理解を示し、他の面々も同様のリアクションをする。
「そういう訳なんだ。だから頼む。無理だったら俺達でどうにかするから」
光輝と一緒に雫も頭を下げたため、さしもの恵里も断れなくなってしまう。
「わかったよ――じゃあ私と鈴とでやってみるから」
「――そうだね。光輝君と雫の頼みだし、受けるよ」
鈴と顔を見合わせ、二人の頼みを受けることにした。途端、光輝と雫は肩の荷が下りたように安堵したような表情を浮かべる。やはり自分達でやれるかどうかは相当不安だったようだ。
「あ、でも念のためハジメくんにも協力を頼んで――」
「それじゃあハジメくんに電話を――」
そして二人が同時に携帯を取り出した時、互いが互いに携帯を握った手を掴んだ。
「ねぇ、鈴ぅ~? ボクを差し置いてハジメくんと電話するとかさぁ、ちょっと生意気だとは思わないの? ね~え?」
「へぇ~、恵里ってばまだ自分が安全圏にいると思ってたんだ。ハジメくんから私も“大切な人だ”って言って貰えたの覚えてるよね? だったら私がやっても文句言われる筋合いなんてないんだけど?」
お互い主張するなり、激しく火花を散らせる。そして相当の剣幕で二人はにらみ合う。
「そういう鈴こそまだスタートラインに立っただけだってのがわからないのかな? ボクはとっくに引き離してる、ってことぐらい鈴の頭でも理解できるよねぇ~? もしかして過大評価だったぁ~?」
「やっぱり恵里は私がただの友達からここまで追い上げたのを忘れてるんだ。どれだけ離されててもあきらめないでついて来た私を過小評価し過ぎじゃないの? もしかして私にハジメくんの隣を譲ってくれてるのかな? だったら嬉しいんだけど」
「喧嘩売ってるんだね、いいよ買った」
「今ここでどっちが上かハッキリさせよっか。うん」
またいつものように口喧嘩が始まり、周りはまたため息を吐く。
“自分の方がハジメが好きだ”と互いに言い合い、お互いヒートアップこそするものの、取っ組み合いをするまでには至らない。以前取っ組み合いに至った際に止めに入った光輝と龍太郎の向こう脛を二人で蹴飛ばしてしまい、幼馴染と愛しい人を傷つけられて本気でキレた雫のカミナリとげんこつが落ちたせいである。その時の恐怖が頭にこびりついているせいで取っ組み合いは二度とやらなくなっていた。
それはそれとして、恵里がアッサリ被ってた猫を捨てたり、鈴がハジメを恵里からぶん捕る気満々なのをしれっと言うのも皆にとってはいつものことでしかなかったため、動じる人間はほとんどいなかった。
一度二人にやられた光輝と龍太郎は自分達の方からハジメに打診してみようと話し合ったり、香織も軽く殺気立っている二人を見て『相変わらず仲がいいね』とちょっとだけ苦笑いしながらのたまう程度。浩介やまどか、ミサキなどの他の面々は適当な話に興じるぐらいで見向きもせず、唯一優花だけが『知り合いの流血沙汰なんて勘弁よ……』と頭を抱えながらつぶやいたぐらいであった。そんな優花を既に慣れてしまった奈々と妙子は『あの二人なら多分大丈夫』と気遣い、困った様子でながめていた。
自分達でなく他の子が黙って勝手に電話したことで恨みを買うだろうと考え、結局ハジメへの電話は浩介がすることになった。当然、二人は大いに機嫌を損ねたものの、恐怖で気配を全力で消した浩介を見つけることは出来ず、今回もまた雫と光輝からのお説教によって事態は収束させられるのであった。
「ごめんなさいね天之河君、八重樫さん。それと南雲君と中村さん、谷口さん。どうかお願いね」
あの喧嘩の後、合流したハジメと一緒に清水家を訪れた恵里達を出迎えてくれたのは彼の母親であった。彼が引きこもってしまったのはやはり親としてもショックであり、わらにも縋る思いだったらしく、恵里達を連れてきた経緯を光輝と雫から話すとすぐに通してくれた。
そして部屋の前まで案内してもらうと、彼の母、光輝、雫がそこから声をかける。しばらく待つと、扉を開けて部屋の主――清水幸利が顔を出してくれた。
「……なあ天之河、八重樫。二人には悪いんだけど、信用出来る人間なのか?」
「ああ。信じてくれないか、清水君」
会うなり自分達が随分な扱いを受けたことに内心腹が立った恵里であったが、ハジメと鈴が自分の手を握ってくれたことでどうにか思いとどまることが出来た。
(言いたいことがわからない訳じゃないけど、ホント言ってくれるじゃないか。ハジメくんに感謝しなよ)
とはいえ言い分を何一つ理解できない訳でもなく、握ってくれた二人の手を少しだけ強く握り返しつつ恵里は怒りをこらえる。あのうかがうような目つきからして不安や心細さが感じられたため、それ故にああいう言い方になってしまったのだろうと。それはそれとして頭に来たのだが。
「……さっきのはすまん、悪かった。入ってくれ」
そうして恵里が腹を立ててる間も、じっとうかがうように見つめていた清水から光輝は目をそらさなかった。そのおかげか信用は得られたようであり、ドアを大きく開けて部屋に招かれる。お邪魔します、と一言告げて部屋に入れば、そこはかなり雑然としていた。
無数の美少女フィギュアが並べられたガラス製のラック、壁が見えなくなるレベルで張られた美少女のポスター、本棚は、漫画やライトノベルまたはゲームの類で埋め尽くされていて、入りきらない分が部屋のあちこちにタワーを築いている。最初に招かれた頃のハジメの部屋を感じさせるような様相を懐かしみつつ、邪魔にならない場所を探していく。
「まぁ、適当に座ってくれ。ちょっと触れたぐらいじゃ怒らねぇよ」
部屋の主である少年から促され、各々が思い思いに座る。すると恵里は目の前に積まれていた本の塔からあるものを見つけた。
「えっと、清水君って言ったっけ? 清水君もスパロ○やるんだ」
「ん……お、おぅ。そ、そうだけど、何だ?」
「ほら、ココ。○パロボのアンソロがあったから。やってないとちゃんと楽しめないでしょ?」
恵里の言葉に反応したハジメと鈴も近くに積まれていた本をながめる。すると恵里が言ったようにス○ロボ関連の書籍が確かに積まれており、また自分たちも読んでいる少年漫画雑誌に掲載されている作品の単行本もその中にあった。するとそこで光輝と雫がハジメと鈴に小声で注意をしてきた。
「気をつけろハジメ、鈴。彼は結構マニアックなところを平気で突いてくるぞ」
「そういうのに答えられない場合はうまくかわしてね。そうでないと清水君もかわいそうだし」
ハジメ達の影響で光輝達も漫画やライトノベルに手を出すようにはなっていたが、基本的に広く浅くであるため込み入った話題に関しては中々ついていけなかったりする。苦々し気に忠告したのも、ちょっとした話題になればと思って二人も似たようなことをやったためである。しかしハジメと鈴はなんてことないといった様子で首を横に振るだけであった。
「ありがとう光輝君、雫さん。僕達も割とコアな話で盛り上がることもあるし、大丈夫」
「さっき恵里と清水君の話を聞いてた感じだと私達がついていける範囲だから平気だよ。まぁ見てて」
心配そうに見つめる二人をよそにハジメと鈴は、某デュミナスが造った子供たちの扱いがある作品で悪かったことでヒートアップしていた幸利とそれをうんうんとうなづいていた恵里に声をかけて話に加わった。そうして盛り上がる様子を見てこれなら大丈夫かと胸をなでおろした光輝と雫は、四人の邪魔をするのも悪いと考えて手を繋ぎながら見守ることにした。
「――いや、やっぱよ、サ○ファだろ○ルファ。これまでのαシリーズの集大成にふさわしいスケールのデカさとか考えるとこれが一番だって!」
「確かにわかる! やっぱり宇宙○獣や○ール11遊星主みたいな宇宙規模の相手との戦いとかすっごい燃えた! でも○G'sも悪くないよね? これまで出てきたスパロ○オリジナルの機体を全部使える、ってやっぱりロマンがあるでしょ! ○ルトとか、S○Xとかさ!!」
「ハジメくんそういうの好きだもんね。ボ……私だったらR、いやWかな。結構シナリオが面白かったし」
「あ、恵里も好きなんだね。私もWが好きだけどさ、Jもいいと思う」
そして三十分もしない内に意気投合し、四人は盛り上がっていた。挙げた作品の良さを色々と語り合う彼らの様子を見てこの様子ならきっと自分たちがいなくても大丈夫だろうと光輝と雫は胸をなでおろす。
「これならきっと彼も大丈夫だな……ハジメ達がいてくれて本当に助かった」
「そうね。鈴やハジメ君、恵里にまた助けられたわ……ありがとう、みんな」
そうして二人は四人の邪魔をしないよう、小声で今後のことについてなど話をするのであった……なお、この後幸利が『好きな参戦作品って何よ?』と口を滑らせた際に自分の好きな作品のプレゼン合戦が始まり、結局二人が心配する羽目になったのはまた別の話である。
そうして幸利と恵里達が出会ってかれこれ半月ほど経った辺りのことであった。イジメから助けてくれた恩人である光輝と雫、そしてオタク同士話が出来る恵里、鈴、ハジメの存在のお陰で彼らが一緒にいれば外に出ることが可能になり、放課後には誰かの家で厄介になっていた。今日もまた南雲家で厄介になっていた時、幸利がボヤく。
「……なぁ遠藤」
「どうした清水。何かあったか?」
「いや、その、な……ズルくねぇか、南雲って」
ハジメの部屋から持ってきた本をながめながら皆が思い思い過ごしていた時、ハジメの両隣にいる二人の少女を見ながら幸利は近くにいた浩介に愚痴を漏らした。浩介もまた一度ハジメの方に視線を向けると、深く、ゆっくりとうなづいて同意を示す。中学生とはいえお互い独り身であった浩介からすれば幸利の言いたいことはとてもよく理解できたからだ。
「だよな、だよな? いや、あんま悪口言うのもアレなのはわかってるけどよ、女の幼馴染がいて親もオタ活認めてるとかさ……マジでズルい。俺なんか兄貴と弟にたまに白い目で見られるし、俺の事認めてくれる女の子なんて幼馴染どころか中村と谷口の二人だけしか知らねぇんだけど。なんだホントアイツは。チートだチート」
「お、おう……いや、その、苦労してんだな、清水」
「全部聞こえてるんだよ。喧嘩売ってるの?」
妬みやら諦めやらが籠った幸利の言葉にとりあえず同意と同情を示した浩介であったが、それは全部筒抜けであった。ハジメと鈴と楽しく談笑していたのを水を差された恵里は軽い苛立ちを幸利にぶつけた。
「わ、悪い!……で、でもよ。どうして中村は南雲に惚れたんだよ? 顔か? それとも性格とかか?」
即頭を下げて謝意を示すことしばし。雰囲気が少し和らいだ辺りで幸利は恵里に質問をする。まだ付き合って日が浅く、幸利の方の話こそ聞いていたものの、恵里達からはあまりそういった事情を話さなかった。そのため幸利は前々から気になっていた。どうしてこんなかわいい子が自分みたいなあまり冴えない少年を好きでいるのかを。
「えっ!? えっと、その……」
そんな幸利の質問に答えようとした恵里であったが、投げかけられた瞬間胸がズキリと痛み、思わず目をそらしてしまう。一目惚れしたと言えばそれで終わったはずなのに、それを答えようとしてどうしてか胸が苦しくなってしまったのだ。
「清水くん、そのことなんだけどね……恵里ちゃんがね、ハジメくんに一目惚れしたからだよ!」
しかしその時、恥ずかしがって言えなかったと勘違いした香織がやけにもったいぶりながらそれに答えてくれたのである。折角出してくれた助け舟に恵里も胸の痛みをこらえながら首を縦に振る。途端、幸利は目に見える程に気落ちし、『どこのハーレム系主人公だよ……』と力なくつぶやいた。
「いや、私と鈴がハジメくんのことを好きなだけだから。ハジメくんが私達のことを手籠めにしたように言わないでくれる?」
「うん。私の場合もハジメくんが手を伸ばしてくれたから好きになった訳だけど、それ以上にハジメくんはずっと私達の思いの応え続けてくれたからもっと好きになっただけだよ。それをたった一言で片づけないで」
そのつぶやきに恵里と鈴は静かに反論すると幸利はより陰鬱な空気を発し出した。ハジメ以外の男性陣から鬼だのなんだのと言われ、女性陣からも清水にほんの少し同情したり流石に言い過ぎだと言われるも二人は訂正する気は一切なかった。
しかしハジメはドストレートにぶつけられた好意に赤面しつつも『そこまで言っちゃダメだよ』と二人を叱った。流石に好きな相手から言われれば二人も頭が冷えたため、気まずそうにしながら幸利に謝る。
「あー、うん。ごめんね清水君」
「言い過ぎたよ、ごめんね清水君」
だがそうして謝ったものの、幸利は体を震わせるばかりであった。やり過ぎたか、と皆が思っていると幸利は遂に吠えた。
「ホント……ホントなんなんだよ――ホントになんなんだよぉおぉおぉぉおぉおぉぉぉ!! 当てつけか!? 幼馴染どころか女の知り合いすらいない俺への当てつけのつもりかよチクショォオオォォォォオオオォォ!!」
怒り心頭である。目の前にいる
これが小説や漫画の中の出来事であればまだ創作物の世界だからと考えることが出来たし、理想の展開を考えて自身の願望を叶える事だって出来た。
だが、目の前にいるのは自分の理想の体現者といって差し支えない存在だ。夢想すればするだけ余計にみじめな思いに苛まれる。故に嫉妬に駆られ、それが爆発してしまったのである。
「お、落ち着いてってば! そういうつもりじゃ――」
「だろうな! 知ってるわ! だから余計にみじめになるんだよぉおぉぉぉぉおぉ!」
幸利から行き場のない怒りをぶつけられたハジメであったが、オロオロしながらもどうにかなだめようとするものの、彼の怒りの火は収まる気配はなかった。幸利自身八つ当たりしていることも、それがみっともないことも自覚していながらキレていたからである。
「ふっざけんなよこのリア充ども! お前らなんか……お前らなんかだいっきらいだぁああぁあぁああ!!」
そして泣きじゃくりながら幸利は南雲家を勢いよく出ていってしまった。
「し、清水ー!……お、俺が謝ってくる!」
「待て待て! 雫が側にいるお前じゃ余計にアイツがキレる! ここは俺が――」
「いや、絶対にダメだって龍太郎君! 君も追いかけたらアウトの類ー!」
「なに不思議そうな顔してんだよ! お前、傍から見たら香織と良い仲にしか見えないんだからな!!」
光輝と龍太郎は追いかけようとしたものの、ハジメ、浩介が必死になって止めてきた。一方、“良い仲”と浩介に言われた香織は『確かに私は龍太郎くんのこと尊敬してるし、素敵なお友達だって思ってるけど……』と天然ぶりを発揮したため、女子~ズから白い目を向けられて困惑していた。
その後、男子同士で話し合いをし、“彼女のいない”浩介に頑張ってもらうことになった。ちょっと泣きべそをかきながらも浩介はそれを承諾し、南雲家を後にする。
「……大丈夫かな、清水君」
「大丈夫よ、きっと。清水のヤツ、さっきは当たり散らしてたけど、見境なしに人を傷つける言葉を吐いてないんだからどうにかなるんじゃないかしら」
そして幾らかの間が空いた後、心配そうにつぶやいたハジメに優花は特に心配もしない様子で出されていたペットボトルのお茶に口をつける。こういったトラブルは両親の経営する店でもよくある話らしく、聞く機会もそれなりにあった。その経験から先の幸利の暴言は恐らく本意ではないだろうと察したのである。
「……しばらくの間、清水の相手は浩介に任せた方がいいかもしれないな」
ため息と一緒に出た光輝のつぶやきに誰も答えることはなく、気まずい空気はしばらく続いたのであった……。
その後、浩介が幸利から話を聞いたり、説得したりしたのだが、今度は自己嫌悪から引きこもり、見たらみじめな気分になるからという理由で日常系の小説や漫画を捨てるなどのことがあってから一週間が経過した。
「……よぉ」
「おはよう清水」
ハジメ発案の手紙を介した光輝、雫の根強い説得もあってか幸利はどうにか学校に来るようになった。流石にまだイジメの後遺症が残っており、一人で他人と過ごすことに怯えやためらいが見られたため、登校は浩介が一緒で、保健室登校という形ではあったが。
「おはよう清水君。少しは学校も慣れたかしら?」
「あぁ、まぁ……な」
気を遣って話しかけてきた雫にも気恥ずかしさから目を合わさずに答えるも、それをとがめる者は誰もいなかった――実は保健室登校すら幸利は嫌がったのだが、経験者であった雫から説得されたのである。雫のお陰でこうして心を許せる相手と時間を過ごせることに感謝しており、それ故の気恥ずかしさから幸利がこんな行動をとっているということを皆理解していたからだ。
「もししんどかったらよ、俺らに気兼ねしないでもいいからな。誰もお前を責めねぇよ」
「家にいるよりはマシだ。兄貴と弟から変な目で見られるよりはマシだからよ」
龍太郎も無理はしないよう気遣うものの、返ってきた言葉に思わずため息を吐いた。幸利からすれば大したことなどなかったのだが、姉のいる龍太郎からすれば他人事には聞こえなかったからだ。雫がイジメられていた事に気づけず、それに後悔したことがあった龍太郎は『何でもいいから言えよ。友達なんだからよ』とだけ幸利に告げる。
「龍太郎の言う通りだ。力不足かもしれないけれど、俺達でよければ相談に乗るよ、清水。何でも言ってくれ」
「まぁ、気持ちだけ受け取っとくよ……ありがとな」
光輝からの提案にもぶっきらぼうに返す幸利であったが、その表情は決して暗くはない。最後に出た感謝の言葉に恵里と鈴はツンデレだなんだと小声で茶化せば『はっ倒すぞクソ野郎!』と軽くキレ気味に返した。まだ恵里達への嫉妬や羨みはあるものの、この前暴発させたせいでガス抜きが出来たらしく、呑まれる程ではなくなっていた。
「そうやって言い返せる気力があるなら大丈夫そうだね。今日もハジメくんと鈴と一緒にウチに来る?」
「無理ならいいからね。別に清水君の家でもいいし、今日はなしでも構わないから」
「……行く。いつまでも引きこもってなんていられねぇよ」
気遣いは不要だとばかりに鈴に伝えれば、幸利は恵里の誘いを受けた。すると鈴がほんのりと苦笑いを浮かべながら幸利に声をかけてきた。
「じゃあ今日もよろしくね清水君――ソロの時みたいにあんまり突撃ばっかりしないでよ」
「……まぁ努力はする。可能な限り合わせるよ」
鈴の言葉に頭をかきながらも幸利は答えた。新たな友人を加えてまた少しにぎやかになりながら恵里達は学校へ向かう――意図せぬ出会いの結果だと誰も気づかないまま。