それでは本編をどうぞ。短めですが今回もある少年の話です。時間軸的には南雲家を出ていった後の話になります。
夕焼けに照らされる中、幸利はトボトボとあてもなく道を歩いていた。
今まで溜め込んでいた感情を爆発させてハジメ達に叩きつけたものの、その顔は晴れない。彼の脳裏によぎるのはイジメから救ってくれた光輝と雫、共に話をしてくれたハジメ達の顔であった。激しい後悔と虚無感におそわれていた幸利はまた大きくため息を吐く。
(あーもう終わった……なくなっちまった。俺の居場所なんて、もう……)
自分が我慢すればそれで良かったはずなのに、目の前にあった“理想”が許せなかった――それが自分のものであってほしかったから。だからこそ自分はその輝きに押しつぶされてしまい、逃げ出したくて仕方がなかった。
故に嫉妬をぶつけて逃げたことでその輝きに自分自身が焼かれることはなくなったものの、その代償は幸利にとってあまりに大きいものであった。
(でも、もうどうしたら……)
戻ったところでもう一度自分を受け入れてくれるかもわからない。あそこまで言って嫌われてもおかしくはなかったと幸利は思っていたからだ。
「……ここにいたんだな、清水」
「うぇっ!?……あ、遠藤か」
途方に暮れていた時、背後からかけられた声に反応して振り向くと浩介がそこに立っていた。まだ交友関係を結んで日が浅かったせいなのか、軽く悲鳴を上げた後でしばらく幸利に探されていたことに内心凹みながらも浩介は彼との距離を詰めようとする。
「戻ろうぜ。光輝もハジメも心配してる」
「……今更戻れるかよ。いくらお前らがお人好しだからってな」
幸利は距離を詰められる毎にじりじりと後ずさっていき、幸利の顔に後悔がありありと浮かんでいるのがわかっても浩介は近づくことを止めなかった。
「んだよ、近づくなよ……」
「わかるよ、お前の気持ちが。ものすごくわかる」
「なに、人の心を見透かして――」
静かな微笑みを向けながらも歩み寄ってくるのを止めず、語りかけてくる浩介に幸利は怒りを露にするもののそれでも止まることはなかった――むしろ次の一言で幸利が止まる羽目に遭う。
「わかる。わかるんだよ清水……アイツらが心底うらやましくって仕方ないってなぁ! 俺だってそうだからな畜生!」
「……へっ?」
この状況においては見事なまでに的外れで、しかしこの上なく正しい指摘……というか恨み辛みを爆発させた浩介を前に、幸利はただ間抜けな面をさらすしか出来なかった。
「――でさ、去年のバレンタインなんか特にヒドかったぞ! デレッデレな恵里と鈴がひたすらハジメにあーんしまくって、しかも一口ごとに感想聞いてきたんだ! それをハジメは飽きもしないで美味しい美味しい言うもんだから地獄だったわ!! あの野郎、いつもみたいに恥ずかしがるどころか幸せそうな顔して食ってやがったしよ!!」
「お、おう……そうなのか」
「しかも香織がそれにあてられたのか、龍太郎に向かって『良かったら私のも食べてくれないかな?』って上目遣いでねだってきたんだぞ!! いくら悟った俺でも頭に来たわ! チョコレート渡されてお互い照れ合ってる光輝と雫が癒しってなんだよ! こんな行事なんて今すぐ滅びろって思ったわ!! つーか滅べ!」
「わ、わかった。わかったからよ遠藤。ちょ、ちょっと落ち着けって、な?」
幸利が間抜け面をさらした後、浩介は彼の手を引いてウィステリアへと立ち寄っていた。往来でこんなことを言うのもなんだということで、家族単位でひいきにしている店でお互い不満をぶつけ合おうと勝手に取り決めたからである。
幸い、今は人がまばらであったことと顔なじみであったことから園部夫妻から二つ返事で奥の席へと通してもらい、こうしてお互いの不満をぶつけることになったのである――今は浩介が一方的にうっぷんを爆発させまくっていたが。
「……っとと、悪い。本当はお前が溜め込んでたものを吐き出させようと思ってたんだけどな」
「……言って、いいんだよな? わかった。その――」
最初こそちゃんと浩介は幸利の話に耳を傾けていたものの、途中から恋人達のイチャつき――特にハジメ達に話がシフトしてから浩介の方まで不満が爆発。こうして一方的にまくし立てていたのである。
とはいえ言うだけ言って落ち着いたからか浩介はまた聞く側に回った。そしてハジメ達のことや光輝と雫のこと、龍太郎と香織のことなどについて色々と不満をぶちまけ、お互いにヒートアップしたのであった――。
「――あー、スッキリした。おかげでどうにか立ち直れたわ、遠藤」
「いや、礼を言うのは俺の方だよ、清水。おかげでこっちもスッキリしたからさ」
「なら次からはもう少し声を抑えてくれない? いくらお客さんが少ないからってあそこまで大きいと届くかもしれないのよ」
「あ、すいませ――って、園部じゃねぇか」
愚痴をこぼし合ってスッキリしたところで聞こえたクレームに謝ろうとした幸利であったが、その声の主であった優花を見てばつの悪そうな顔を浮かべる。
「あ、すまん優花。悪かったよちょっと熱くなっちまって……」
「本当に気を付けてよ……それで、ちゃんとスッキリしたの? もうハジメ達に恨みとかそういうの感じてない?」
「それは、その……」
頭をかきながら詫びる浩介に優花はため息を吐きながら注意をし、今度は幸利の方を見やった。
幸利は優花から投げかけられた質問に答えようとしたものの、目をそらして言葉を濁すしか出来ない。そんな様子の幸利にため息を吐くと、優花も二人のいる席に腰を下ろす。
「本当にスッキリしたんならいいけどね。その様子だとまだに見えるんだけど?」
その問いかけに幸利は答えられない。先ほど浩介と愚痴をこぼし合って溜め込んだものをいくらか吐き出せたのは事実である。しかし、今でもハジメのことを考えると暗い炎が心の中で灯るのを幸利は感じていた。
それが我慢出来ないという訳ではないものの、さっきのように暴発しないとも限らない。また嫉妬していると同時にハジメに救われたと思っているため、その場限りの嘘をつくのがためらわれた。だから優花の問いには答えられなかったのである。
「おい優花、いくら何でも清水のことを――」
「コースケは黙ってて……確かに私だって不満を感じてない訳じゃないわ。愚痴ぐらい言いたくなる時ぐらいある。ただね、愚痴でも事実を並べ立てていてもね、何度も何度も友達のことを悪く言われてたら我慢できないのよ」
そこまでとげとげしい雰囲気でこそないものの、優花は不機嫌な様子を隠していない。こうやってガス抜きが出来れば大丈夫だろうとは考えているものの、いくらガス抜きとはいえ友人が今後何度もけなされるかもしれないと考えると我慢がならなかった。そこまで優花は寛容にはなれなかったのである。そんな様子の彼女に見つめられ、幸利は何も言えなくなった。
「特にハジメ。アイツのことをあんまり悪く言うんじゃないわよ……まぁ確かに、エリとスズが許してるからって二股してるような奴だし、今でも無駄に押しが弱いし、ヘタレだし、二人に言い寄られたらすぐに鼻の下伸ばすし、ちょくちょく気絶して面倒臭いし――」
「おい優花、お前も負けず劣らずハジメのことを罵ってんじゃねぇか」
「だからコースケは黙ってて!――そんな奴なんだけどね、アイツは二人のことならいつだって本気になれる奴よ。好きな相手ならいつでも全力になる奴なんだから」
真剣な表情でじっとこちらを見てくる優花に気圧され、幸利は座席に座っているにもかかわらず後ずさってしまった。半端な反論や単なるやっかみをぶつけてくるなら許さないとばかりに見つめてくる少女に幸利は何も言い返せなかった。
「エリとスズに恥じない人間になりたいから、って言って勉強も菓子作りも頑張ってる奴なのよ。自分のことは割とズボラな癖にね。アンタが言ったハーレム系主人公ってやつみたいにただ言い寄られてデレデレしてるような奴じゃないの……まぁ私もあんまり小説読まないからハーレムとかってよくわからないけど」
オイと即座に浩介からツッコミが飛んでくるも、それを優花は無視して幸利を見つめるだけ。そうして優花に見つめられ続けた幸利は何も言えないまま席を立つ。
「おい、清水」
「……ありがとな、遠藤。今日の分は俺が――」
「待ちなさい」
微妙なところとはいえ、浩介に厄介になった幸利は今日の支払いは自分が立て替えると告げようとするも、優花から待ったがかかる。今度は何だと不機嫌になりながら優花の方を見ると、申し訳ない様子で幸利を見ていた。
「……さっきは言い過ぎたわ、ごめんなさい。お詫び、って訳じゃないけど今日の分は私の方が立て替えとくから」
そうか、と一言だけ返してその場を後にしようとする幸利に一言だけ優花は声をかけた――そんなにうらやましいならハジメみたいになろうと頑張りなさいよ、と。
その言葉に表情を歪めながら幸利はウィステリアを後にするのであった。
「……ただいま」
玄関のドアを開け、小声でつぶやいた幸利はそのまま自室に行こうとする――が、面倒だと考えている一人が彼に声をかけてきた。
「幸利、お前また人様の所に厄介になってたのか。迷惑をかけてないだろうな?」
彼の兄、清水克典であった。彼はアニメや漫画を“子供が見るもの”と考えており、オタクである自分の弟のことを“いつまでも幼稚な奴”だと考えている節があった。また今年は克典の高校受験の年であり、家から何駅か離れた名門校に推薦入試で挑もうとしているのもあって、『自分の弟が引きこもりであることが足かせになるのではないか』とナイーブになっており、それも原因で幸利に対する風当たりは普段より強い。
そんな兄にうるせぇ、とだけ告げて自室に戻ろうとするも、また心無い言葉を投げかけられた。
「天之河君や八重樫さんの厚意にお前は甘えすぎだ。いい加減
それを聞いた途端、全身の血が沸騰したかのような心地になり、幸利は走って自分の部屋に逃げ込み、すぐに鍵をかけるとそのまま入口でへたりこんでしまった。
「甘えてんのは……そんなのはわかってんだよ! でも、でも……」
許せなかった。また自分の趣味が馬鹿にされたことが。それに何より――。
「南雲達を、バカにしてんじゃねぇよ……!」
自分と同じオタクであったハジメ達のことも暗に馬鹿にされたようで悔しくてたまらなかったのである。嫉妬していたし苛立ってはいたものの、彼らを認めてなかった訳じゃなかった。自分と話が出来るほどの知識の量には幸利も一目置いていたのである。そんな折、よく見てた日常系の漫画が目に入るも、幸利はそれを乱暴に床に叩きつけた。
「こんな……こんなものがなけりゃいいんだろ! クソッ、クソッ、くそぅ……」
未だ消えぬハジメ達への嫉妬、オタクに対する理解のない兄からの口撃でささくれ立ってしまった今、描かれているキャラ達が楽し気に日々を過ごす日常系は幸利にとってあまりに苛立たしく、みじめな気分にさせるものとなってしまっていた。
「これも、これも、これもこれもこれもこれもこれもこれも! 全部、全部いらねぇ! もういらねぇんだよ!!」
目に映った日常系ジャンルの作品を片っ端から部屋の隅へと投げ捨て、集めていたフィギュアも目に入らない様に棚の片隅にまとめて追いやった。
そしてそんな苛立ちを抑えようと今度は近くにあった異世界転移系のジャンルの小説に手を伸ばした。
「今に、今に見てろよ……! 俺は、俺はいつか世界を救うんだ! 特別な存在になるんだ!! 俺を……俺の凄さを理解しない奴らを、馬鹿にしていた奴らを皆
異世界でチート能力を得て、世界を変革あるいは救う主人公と自分を重ねることで幸利は自分自身を慰める。もちろん異世界転移なんて夢物語どころか単なる虚構でしかないということは彼も理解している。しかしこうでも考えないと自分の心を慰められなかった。部屋の外の世界でまた傷つき、疲れてしまった幸利にはこうして妄想するしか、またこの
そうしてまた部屋に引きこもってから二日が経った。ネットサーフィンして異世界モノの作品を見たり、買った小説をながめているとまたインターホンの音が彼の部屋まで届き、幸利はしかめっ面を浮かべる。昨日と続けてまた近づいてくる浩介と他二名――おそらく光輝と雫だろうと思しき足音が聞こえてきて幸利はイライラしていた。
「――なんだよお前ら。話すことなんて何もねぇよ」
そして部屋の前で足音が止まると、そう言って今日も彼らを追い返そうとした――昨日は浩介がしつこく話を聞いて来ようとしたため、それにキレて『もう関わってくんな』と容赦ない一言を浴びせて帰らせている。その時の怒りが再燃したのもあってか幸利は今日も冷たくあしらう。
「すまん清水。今日はお前と話をしに来たわけじゃないんだ……」
「ああ。浩介の言う通りだ。無理に話そうとなんて思ってない。ただ、良かったらコレを読んでほしい」
予想通り聞こえてきた光輝の声に舌打ちをすると、ドアの隙間から畳まれた一枚の紙が入ってきた。
「……何だ、一体」
「手紙よ。気になったらでいいから読んでくれないかしら」
雫がそう伝えると、それっきり三人は何も話してこなくなった。そうして何もせず、しばらく待っていると三人の足音が遠ざかっていった。どうやら本当にただ手紙を渡しに来たらしく、それに少なからず幸利は驚いた。そうしてドアの隙間にある手紙をしばしじっと見ると、それを手に取るも読むことなく机の片隅に置いておいた。読む気はないものの、友人
「どうして、俺なんかに構うんだよ……」
その日は異世界モノの小説や二次創作を見る気にはなれず、横になって壁をながめながらただじっとして時間が過ぎるのを待つしか出来なかった。
その翌日も、更に次の日も三人は足を運び続けた。それもわざわざ手紙を渡すためだけに、である。そして訪れる度に一言二言言葉をかけてくる三人をどうすればいいのかと幸利は迷う。一度も読んでない手紙を全部突っ返すべきなのか、それとも手紙ぐらい読んでみるべきなのか、と。
そんな時であった。今日も手紙をドアの隙間に入れ、三人が立ち去ろうとした時に克典が声をかけてきたのは。
「ご苦労だね三人とも。アイツなんかのために時間なんか割いて」
光輝達への同情と自分に対する侮蔑の籠った言葉に思わず歯ぎしりをすると、光輝がそれに物腰柔らかに答えた。
「いえ。彼も……“幸利”も大事な友人ですから。こんな形でしか力になれないのが歯がゆいんですけど」
単に苗字で呼ぶとややこしくなるから名前で呼んだのだろうが、不思議と嫌な気分にはならなかった。しかし克典の言葉でそんな気分も吹き飛んでしまう。
「悪いことは言わない。あんなのに構うのはやめるべきだ。未だにマンガやゲームなんかに現を抜かしているようなヤツと付き合っていたら君達のためにならないからね」
克典はいつもこうであった。世間一般で認められているものにはあっさりと迎合し、それが良いものだとして扱うものの、そうでないものの場合は価値を一切認めないのである。彼がマンガやゲームを認めないのもテレビで植え付けられた悪印象によるものであると幸利は考えており、それを訂正しようとしない両親にもウンザリしていた。
よくもまぁ光輝達の前で言うものだと考え、いっそドアでも叩いて抗議してやろうかと考えたその時、三人がそれに反論し出した。
「ずいぶんなことを言うじゃないか、アンタ。清水の……幸利の兄貴じゃねぇのかよ」
「どうしてそういう事を言うんです? 貴方は幸利のお兄さんでしょう。ちょっとくらい彼に歩み寄ったって――」
「ためにならない、って……私は漫画のこととかで話せる相手がいたおかげで助かったことがあったんです。それをどうして――」
「やれやれ。君達もいい年をして
三人の言葉を克典が冷たく笑った途端、空気が一気に静まり返った。幸利もまた自分のために三人が兄に反論してくれたことを嬉しく思ったのだが、結局理解を示そうとしない兄への怒りが勝って腹の内でどす黒いものが渦巻きそうになっていた。
「いいかい? ゲームをやっても、マンガを見てても、結局は時間を浪費するだけでしかない。その分をボランティアや勉強につぎ込んだ方が有意義なのは君達の頭でもわかるだろう? 君達だっていつまでも子ど――」
「――馬鹿に、しないでください」
ペラペラと克典がご高説を垂れたことでじめっとしていた空気が一瞬にして張りつめた。その急激な変化に幸利は思わず腰を抜かしてしまい、口の中がカラカラに乾いてしまう。口を何度もパクパクとさせていると、静かな怒りを燃やした三人が克典に再度反論する。
「な、何を……!?」
「馬鹿にすんな、って言ったんだよ! さっきから偉そうにペラペラ喋りやがって!」
「そうです! 貴方は彼だけじゃなく、俺の大切な友人も馬鹿にしたんだ! それを許してなんておけるか!」
「自信を失っていた私を助けてくれたのはアナタが無駄だと言ったものが好きな子なんです! 鈴を、彼女を馬鹿にしないでっ!!」
ドア越しに伝わる凄まじい怒りに怯えると同時に幸利は痛感する――三人はハジメ達のことを本当に大切に思っている、と。そして自分も同じくらい思われているのだと。
「ふ、フン!……だ、だったら同類らしく、底辺同士で仲良くしていろ!!」
そう言うなり兄と思しき足音は一気に遠ざかっていった。しばらくすると張りつめていた空気も徐々に緩んでいく。どうやら三人も怒りを収めたようである。
「……ごめんな、清水。お前の兄さんがあんまり言うもんだからさ」
「すまなかった、清水。君の家の事情を知らなかったせいでこういった苦悩を抱えていたことに気づけなかった。本当にすまない」
「ごめんなさい。本当はここまでやるつもりじゃなかったけれど、でも鈴のことを馬鹿にされて、我慢できなくて……」
心底申し訳なさそうにしている三人に何を言えばいいのかわからず、何もしないでいると『すまなかった』と光輝が謝罪したのを最後に全員の足音も段々と遠ざかっていってしまった。
三人に何も言えず、そのまま帰してしまったことにいたたまれなくなってしまった幸利はその場で大きくため息を吐き、自己嫌悪に苛まれる。どうしてお礼一つすら満足に言えなかったのか、と。
「ホントに何やってんだよ俺はよ……」
どうすればいい、と考えているとふと机の上に置かれた手紙が気にかかった。小説を読む気分には当然なれず、今まで一度も読まなかった三通のそれを見て少しでも罪悪感を紛らわせようと手を伸ばす。
三つ折りに畳まれたソレを開けば、短い言葉ながらも今まで顔を合わせたことのあった面々の言葉がそこに書かれていた。
――ちょっとした疑問でも何でもいい。力になれるなら何でも言ってくれ。 光輝
――漫画や小説の話にこの前はついていけなかったけれど、これから少しでも多く目を通してついていけるように頑張るから。 雫
――また辛くなったら一緒に色々愚痴を言い合おうぜ。ウィステリア以外でな。 浩介
「なん、だよ……これはよ」
じわりと視界がにじんでくる。散々悪態をついたのにそれでも自分のことを気遣ってくれている彼らに瞳が潤んでしまうのを止められなかった。
――格闘モノのマンガだったら俺でも多分大丈夫だ。それと体を動かすと結構スッキリするから良かったら付き合うぜ。 龍太郎
――また今度一緒にモンハ○やろうよ。待ってるから。 ハジメ
――ハジメくんに暴言を吐かないのならまた遊んであげてもいいよ。 中村恵里
――私達、待ってるから。 谷口鈴
――みんな心配してたよ。私でよければ力になるから。 白崎香織
――アンタは間違いなく幸せ者よ。こんなに待ってるお人好しがいるんだから。早く戻ってきなさい。 園部優花
他にもミサキやまどか、奈々と妙子のものもあり、一つ一つ読み進めていく毎に幸利の視界は段々とぼやけていった。
「なんだよこれ……手紙じゃなくて、寄せ書きじゃねえかよ……」
目をこすり、鼻をすすりながらも一通ずつ幸利は読み進めていく。その都度何度も涙を流しながらも、もらった全ての手紙に目を通し、涙が止まらなくなった幸利はベッドに倒れ込む。何度もしゃくりあげ、嗚咽を漏らしながら幸利はつぶやく――戻りたい、と。
「アイツらが、アイツらが待ってんだ……嫉妬なんて、嫉妬なんてしてる場合じゃねぇ……!」
未だ暗い炎はくすぶり続けており、ハジメ達を妬む気持ちがなくなった訳ではない。しかしそれ以上に熱い思いが幸利の心に灯った。ふとした拍子にあっさりと塗りつぶされてしまいそうではあるものの、完全に消えることのない思いがこうして彼の心に根付いたのである。
理解者に恵まれず、虐げられて傷ついた少年の心に今、暖かな火が点いた――。
「おはよう、清水」
「……ああ、おはよう」
今日も浩介に出迎えられ、親から見送られながら幸利は通学路を歩いていく。
「その……ありがとな、清水」
「……別に礼を言われるようなことはしてねぇぞ」
いきなり礼を言われて顔を背けるも、そんな幸利に構わず浩介は言葉を紡いだ。
「お前が戻って来てくれて助かったよ。ほら、俺らのグループってさ、女ばっかだし。それに彼女がいるのしかいねぇからお前がいるだけで居心地が違うんだよ」
冗談めかして言う浩介に『何だよそれ……』と軽く呆れながらも幸利は返した。
「まぁ、こんな俺でいいならよ、これからもよろしく……」
「ああ……よろしくな。清水」
お互い少し照れながらも返し、今日も二人は光輝達と合流する。その顔にもう陰りはない。いつもの面々に囲まれながら幸利は今日もオタク談義をするのであった。
ここでも恵里は平常運転。