そして拙作を見てくださる皆様への感謝を。おかげさまでUAが38000オーバー、お気に入りに登録してくださった方も400人を超えました。誠にありがとうございます。
enforcerさん、七海55さん、本作を評価してくださり誠にありがとうございます。それでは本編をどうぞ。今回は短いです。
「なぁ恵里、どうしたんだい?」
バレないようにやっていたつもりであった。
「前はこういうの読まなかったはずだけど、どうしたの?」
上手く隠し続けていたはずであった。
「何か言ってくれないか、恵里。お父さん達が何か悪かったのか?」
どうして聞いてくるの? どうしてそっとしておいてくれないの?
「恵里、お父さんが話してるんだから何か言いなさい」
「黙ってたらお父さんもわからないんだ。だから頼む。理由を教えてくれないか」
だが自分がどうしてこんなことをしたのか理解しようとしない、察してくれない両親があまりに煩わしかった。そして遂に恵里の口から耐えられなくなった怒りが漏れ出てしまう。
「――るさい」
「恵里? どうしたの? よく聞こえない――」
「うるさいって言ったんだ!」
怒りのままに叫び、テーブルを思いっきり叩く。すると困惑していた両親が軽くのけぞった。
「どうしてボクに口をはさんでくるんだよ! ボクが必死に隠そうとしてたんだから理解してよ!! どうして何でもかんでも首を突っ込んでくるの!?」
噴火した火山からマグマが流れ出るように、一度爆発してしまったヒステリーはそう簡単に収まりはしなかった。
「そ、それは悪かったと思って――」
「だったら人のものを覗かないでよ! ボクはもう子供じゃないんだ!! それぐらいわかってよ!!」
「でも、お父さんもお母さんも恵里に何かあったかと本当に心配して――」
「だからってボクの物を勝手に見るなんて最低だよ! どうして、どうして……」
心配していた両親に恵里は泣きじゃくりながら大声で怒鳴るばかりであった。その様子を見て、理由はわからずとも本当に立ち入ってほしくなかった場所に土足で踏み入ってしまったことに二人は今更ながら気づいてしまう。
「ごめん、ごめんな恵里。お父さん達は――」
「――らい」
だが恵里は止まれない。冷静さを失ってしまった彼女は自ら破局の引き金を引いてしまう――。
「恵里? どうし――」
「二人とも、だいっきらい!!」
腹の内を叩きつけ、肩で息をしながら二人をにらみつける。そして二人が驚愕した様子を見て、ようやく恵里も気づいた。言ってはならないことを口にしてしまったことに。
「あ……あ、あぁ……あぁああぁあ……」
「恵里! すぐにお父さんに謝りなさ――」
「幸!……いいんだよ、恵里。お父さん達が、お父さん達が悪かったんだ……」
「ち、ちが……ちがう、ちがう、から……」
言うつもりじゃなかった。間違っても口にするべきじゃなかった。なのに気がつけば最悪の形でそれを言葉にしてしまった。後悔と恐怖に恵里は襲われてしまったがもう遅かった。
「お父さん達が無神経だったんだ。普段、恵里が読まないような物騒なものだったから……」
やめて、と言いたくても口先は震えるばかりで言葉が出てこない。そんなつもりで言ったんじゃないと弁解しようとも頭の中はぐちゃぐちゃでどう言えばいいのかすらわからない。
けれども事態は悪い方へと流れていく。心底すまなさそうにする両親を見て、それを痛感してしまう。
「そう、ね……お母さんも謝るわ。だから――」
「あ、あぁ……」
壊してしまった。自分が守った場所を他ならぬ自分の手で。それを自覚してしまった途端、凄まじい後悔に苛まれて恵里は何も言えなくなる。仲直りすることも、謝ろうということすらぐちゃぐちゃになってしまった彼女の頭の中で思い浮かぶことはなかった。
「……恵里? どうしたんだ――」
「ひっ!?」
そして心配して伸ばした正則の手を打ち払ってしまう。
「あ、あぁ……う、うわぁああぁああぁあぁああぁああぁあぁあ!!」
それを理解した途端、父が自己嫌悪に苛まれたのを見てしまった途端に恵里の中で何かが壊れてしまった。逃げた。逃げ出した。靴も履かず、着の身着のままで雨の降る中家を飛び出してしまった。
「ちがうちがうちがうちがうちがうちがう! なんで、どうして! ぼくは、ぼくは――」
大雨の中、足の裏の痛みも部屋着が濡れていく不快感もわからないまま夜の街を恵里は走っていく。頭の中が真っ白なままただただ無我夢中で、ここから逃げ出したくて必死になって街中を駆け抜けていく――。
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい)
何に謝っているのかもわからないまま、嗚咽を漏らしながら、大粒の涙を流しながら恵里はただ走り続けていくのであった。
何もわからず、何も考えず、ただただ走った先に辿り着いた家を見て、恵里は吸い寄せられるようにふらふらと玄関へと向かっていく。そして震える手でインターホンを押せば、軽快な音が周りに鳴り響く。どうしてこうしたのかもわからないまま、ただただ恵里は家主が出てくるのをじっと待った。
「はーい、どちら様ー……って、恵里ちゃん!?」
玄関のドアを開けて出てきたのはハジメであった。夜に唐突に鳴ったインターホンに軽く驚き、食べかけのカップ麺を一度置いて応対に出たのだが、まさかの来客、そしてまさかの様相に驚きを隠せなかった。そんなハジメを見てほんの少しだけ安心出来たのか、わずかに口角を緩ませながら恵里はハジメの方へと歩いていく。
「どうしたの恵里ちゃん、こんな夜中に――うわっ!? 冷たっ!?」
そしてずぶ濡れのまま恵里は倒れ込むように彼の胸元に飛び込んだ。同じく部屋着であったハジメが濡れることも考えつかないまま、スリスリと彼の胸に頭をこすりつけ、震える声でハジメの名をつぶやいた。
「ハジメくん……ボク、ボク……」
しゃくりあげる恵里を見て何かがあったことをハジメは察した。部屋着と思しき恰好のままで、靴も履かないでここまで来たのだからきっと何かがあったのだと。自分の家でなくわざわざここまで来たのだから恵里の家で何かあったのだろうと。
とりあえずこのまま濡れたままには出来ないと考えたハジメは、倒れないようにそっと恵里を離し、今にも泣きじゃくりそうな様子で見つめてくるのを耐えながら背中を向けてかがんだ。再度恵里の方を向くとハジメは声をかける。
「足、痛むでしょ? このままだと風邪をひくから、お風呂行こうよ。おんぶするから」
その言葉に恵里はうなづくと、鼻をすすりながらハジメのところまで行き、彼の背中に体を預けた。それを確認するとハジメも恵里をおんぶしながら立ち上がる。
「しっかり、つかまっててね……!」
「……うん」
自分より少し小さい体格の恵里を背負うのに苦労しながらも、ハジメは風呂場へと向かっていく。弱々しい様子ながらも自分を信じて体を預けてくれる彼女を壁にぶつけたりしないように踏ん張りながら。
脱衣所で逃げようとしても恵里が嫌がったり、一緒に風呂に入る羽目になったりと色々と理性を削るイベントに巻き込まれながらもハジメは恵里の体を温めることに成功する。
そして風呂から上がった二人はお互い着替え、今はリビングにいた。ハジメは外着を、恵里は彼の着ている長袖のジャージを着て。
「はい、ココア。お互いお風呂でちょっとのぼせちゃったけど、今の時期は風邪をひきやすいからね」
微笑みと共に出してくれたカップを両手ではさむようにして受け取り、それに口をつける。温かく、甘い。まるでハジメのようだと思いながらこくこくと飲み、半分ほどを飲み干してから一度カップを置いた。
「ご飯、まだ食べてないなら何か軽いものでも作ろっか?」
すると最近は菓子作りだけでなく料理にもハマり出したハジメから提案される。時刻は既に十時を過ぎており、夕飯を食べる前にここに来たのだが恵里は首を横に振った。これ以上ハジメに甘えたくなかった。彼の負担になることが許せなかったのだ。そっか、とだけ答えたハジメもまた向かい合うようにして座った。
バラエティ番組と外の雨音をBGMに時間は静かに過ぎていく。微笑みを崩すことなくこちらを見ているハジメに、視線を下に向け続けていた恵里はようやく口を開いた。
「あのね、ハジメくん……聞いて、ほしいことがあるんだけれど」
ちらりと見ながら言ってきた恵里にハジメはいいよ、と一言だけ告げる。残ったココアにまた口をつけ、大きく息を吐いてからゆっくりとハジメの方を向く。そして恵里はここに来た経緯をぽつぽつと語り出した。
ここ一年ほど前から
「お父さんと……お父さんとお母さんにうるさいって、大嫌い、って言っちゃって……ボク、どうしたらいいの?」
嗚咽を漏らしながら告白すると、ハジメは恵里の方へと来て無言で抱きしめる。頭をなでながら『大丈夫、大丈夫』と幼子を落ち着かせるように語り掛けてきた。そんな本を読んでいた理由を聞くこともせず、何も言わずにただ自分に寄り添ってくれるハジメに恵里は体を預け、涙を流す。ハジメから労りの言葉をかけられ続けていると突然家の電話が鳴り、恵里はビクリと反応してしまう。
「もしかして……ハジメくん、怖いよ。ボク、お父さんになんて言えば……」
おそらく父からの電話だと考えた恵里はハジメにすがりつくも、ハジメは少し緊張した様子を見せただけで恵里の頭をなでる手を止めない。再度恵里を落ち着かせるように声をかける。
「大丈夫。まだ正則さんだと決まった訳じゃないから……ねぇ恵里ちゃん、一緒に来てくれる?」
そうハジメから問いかけられると恵里はうなづき、彼の腕に抱かれながら一緒に電話機まで向かった。そして未だ鳴り響くコール音に少し緊張しながらもハジメが受話器を手に取る。
「もしもし、南雲です」
『もしかしてハジメ君かい? やっと繋がって良かったよ……私だ、正則だ。恵里はそっちにいるかな?』
受話器に耳を近づければ、父の名が出てきたことに気づいた恵里はハジメを強く抱きしめる。そのせいで軽く息が漏れたものの、ハジメは話を続けた。
「あ、はい。外はひどい雨だったんで、お風呂に入らせました。今は上がって僕と一緒にいます」
『そうか。わざわざすまないね……ところで、何度かそちらに電話しても繋がらなかったし、谷口さんのところに電話をかけてもいないと言われたんだが、何かあったかい?』
受話器からかすかに聞こえる声に耳を傾けていた恵里の顔から血の気が引いていく。父の声の語気が鋭く、何かあったのではないかと感づいていた様子だったからだ。
もし自分がワガママを言ったのがバレたせいでハジメに迷惑をかけたら、嫌われてしまったらと思うと体の震えが止まらない。だがハジメはそんな自分の頭をなでて、ぎこちないながらも笑顔を向けてくれるだけで責めてくる様子は一切なかった。一度せき払いをしたハジメは正則との話を続ける。
「いやー、アハハ……お風呂に入っていた恵里ちゃんに必要な道具がないかとか、元気がなかったみたいなんでお風呂場の外から声をかけてたりしましたから。それで、すぐには出れなくって……ごめんなさい」
嘘を、ついた。お世辞にも嘘をつくのが上手とは言えないハジメが自分のために嘘をついてくれた。そのことに申し訳ないながらも恵里は深く感謝し、もっと強くハジメの体を抱きしめる。自分のことをかばってくれて、大切に思ってくれて、罪悪感を感じながらもハジメへの思いがあふれて止まらない。そうしていると少しの間を置いて受話器から声が聞こえた。
『……そうか。まぁハジメ君なら不埒な真似はしないだろう。とりあえず
だがやはりハジメがついたとっさの嘘も正則には見抜かれていたようで。いぶかしむようなトーンで釘を刺し、迎えに行く旨を伝えると正則は電話を切ったようであった。
ツー、ツー、と切れた音が受話器から漏れ、ハジメと顔を合わせればあちらも顔を真っ青ににして脂汗をかいている。
「……ゴメン。後で怒られるかも」
「ううん、いいよ。元はといえばボクが押し掛けたせいだから。ワガママ、言ったせいだから」
ハジメの胸に顔をうずめながら恵里はそう返す。『ハジメくんは何も悪くないよ』と言えば自分を片手で抱きしめて、もう片方で自分の頭をなでてくれる。自分に非があるにもかかわらず、ずっと慰め続けてくれるハジメに対して申し訳なさが募っていた恵里はあることを口にした。
「……ねぇ、ハジメくん。どうしてボクを慰めてくれるの? あんな本さえ読まなかったらこうならなかった、って言ってくれても良かったんだよ?」
恐怖半分、信頼半分でそう問いかけるも、ハジメは首を一度横に振ってからそれに答える。
「きっと、恵里ちゃんにとってその本は必要だったんだよね? 理由はわからないけどさ。だから言わない。僕だって、その……まぁ隠したいことぐらいあるし」
「……うん」
『隠したいこと』と言った際に頬を染めてそっぽを向いたのはともかくとして、ハジメはあえて探るようなことはしなかった。恵里が昔から何かを隠し続けている子だというのは理解していたからこそ、あえて踏み入りはしなかった。
そうしてくれたのは恵里からすればありがたく、嬉しくもあったのだが、同時に寂しく、もどかしさを感じずにはいられなかった――あの本を読んでいたのもハジメのためであったから。
以前、化け物とさげすんでいたあのハジメが銃を作ったことは覚えていた。そして自分が魔人族に寝返った際に見る羽目になったあの無数の弾をばら撒いたあの武器――おそらく機関砲の類のことも、天から降り注いだあの熱を帯びた謎の光線のことも。単に銃だけでなく色々な兵器を造っていたということを恵里は覚えていたのだ。
もしトータスに行った際、自分が集めていた兵器に関する情報があればハジメの役に立てるかもしれない。エヒトを倒す際に力になれるかもしれない。そう思って色々と調べていたものの、それを明かす気にはなれなかった。さしもの恵里でも確証がなかったからだ。
それ故に伏せておくつもりであったし、ありがたいことにハジメはそれを追及することはしなかった。ならば後は心苦しいながらも両親相手にどう誤魔化すかだけでしかなかった。だけ、なのに――。
(……聞いてよ。お願いだから聞いてよ。どうして、って言ってよ。全部、ぜんぶハジメくんのためなんだよ? だから、だから――)
こうして好きなハジメのためにやっているということを察してくれないのがあまりに辛くて。けれどもそれを言ったらどうなるかが怖くて。結局、正則が迎えに来てもお互い何も言わないまま、抱きしめあって時間を過ごすだけであった。
感じたぬくもりも、別れ際のおやすみのあいさつも、恵里はどこか距離を感じていた。
本日の懺悔
いつぞやのバレンタインの話よろしく長くなりそうになって分割しました……だって、だって書くと長くなるもの。増えるの! やたらと増えるの! どうなってんのホント……。
残りのお話は今週中に投稿する予定です(出来るとは言ってない)
あとお風呂の話も念のためR18版で投稿しようとしてたので遅くなりました。失礼。
こちらがお風呂シーンです。
https://syosetu.org/novel/259832/2.html