そしてAitoyukiさん、トリプルxさん、拙作を再評価してくださりありがとうございます。本筋から一応外れた話ではありますが、評価してくださって感謝の気持ちでいっぱいです。
それでは異世界に戻ったハジメ君視点+αのお話をどうぞ。
「さぁーて、成果は上々。でもまだまだ練習が足りないかなぁ~」
闇夜の中、殺した虫や動物を操ってみて相応の手応えを得た少女はその場を後にしようとした。何せ他のクラスメイトからはバレないように部屋を抜け出して降霊術を練習してたのだから。
『持っている倫理観と気の小ささのせいで満足に自分の技能を使えない少女』を演じ、クラスメイト達を殺して魔人族に寝返ることを企てている以上は隠し通さなければならない。そのためわざわざ皆が寝静まったのを見計らい、ランプを片手にこうして一人王宮を隠れて出ているのだ。
(もう少し。もう少しだ。もっと練習して、魔力を高めて、オリジナルの降霊術を編み出せればきっと……ん?)
持ってきたランプの灯りを頼りに、極力足音を立てないよう気をつけながら自分の部屋に戻ろうしていた少女はふとあるものに気づく。山羊だ。闇夜で山羊らしきシルエットがこちらを見ていることに少女は気づいたのである。
「何かと思ったら……ほらあっち行け。しっしっ」
念のため上半身を回して周囲を軽く見渡した少女は、誰もいないことを確認してから素の口調で山羊を追っ払おうとする。しかし山羊はそれに構うことなくこちらに近づいてきたため、余計にうっとうしがって何度も手で払おうとした。
「ったく、わかんないの? ほらあっち行った……うん? えっ?」
そうして手で触れそうなぐらいにまで近づいたことで少女――中村恵里はようやく気づく。目の前にいる山羊がただの山羊……否、生き物ですらないことに。
(コイツ、金属みたいな見た目だ。一体誰が――!)
金属製でしかも勝手に動くロボットのようなものだったことに気を取られ、恵里は気づかなかった。
「“錬成”!!」
「っ!? その声、お前まさか――!」
それは白髪赤目の少年、南雲ハジメだった。隻腕である自分でも扱いやすいように、向こうのハジメが作ってくれた三日月のような形をしたデモンイェーガーを片手に中村へと迫ったのである。そしてデモンイェーガーを腕に当てると同時に“錬成”を発動。一瞬にして輪っかとなって彼女の腕に装着されたそれにすぐ魔力を流し込む。
「――ぁぐっ!?」
「“ガーディアンズワン、彼女の足の上に座って拘束して。ただし骨を折らないようにあまり体重をかけないで”」
そして何があっても対応できるようにハジメは彼女を押し倒し、既に展開していた山羊型ゴーレムを彼女の足の上に鎮座させる。その後両ひざで彼女の両肩の付け根を抑え込み、心を読むアーティファクトであるエクスポニオンを握ったまま彼女の左頬に右手を添えた。
「うん、想像の通りだよ中村さん」
――こちらの世界に戻った後、ハジメは事前に指示された通り渡された宝物庫の中にあった覚書を取り出して確認した。『ひたすら“錬成”を練習し、魔物の肉を食べてステータスを強化すること(ただし体が砕けそうな激痛が走るから注意)』、『渡したゴーレムに頼るのではなく、自分自身の持ってる技能をしっかり鍛えること』などを信じて必死に“錬成”を鍛えた。
(まさかこんなところで出くわすなんてね……でも、中村さんには悪いけれど目的の一つは達成できた)
その後、二尾狼を筆頭に自分が流れ着いたフロアにいた魔物を全種類倒し、神水を飲みながら食らって力をつけた。そしてハジメは戻ることを決意したのである。目的はもちろん白崎香織を迎えるのと、恵里から頼まれた『自分の世界にいる中村恵里の無害化』だ。
山羊型ゴーレムに乗ってベヒモスのいたフロアへと戻った後、魔物の肉を食べて微量ずつステータスを強化しながら上を目指していった。そして一階層までたどり着いた際、馬鹿正直に入り口から出るとまずいと考えて穴を掘って地面の下を進んだ。魂魄魔法で魂を探知するレーダーみたいなものも作ってもらっていたため、それを頼りにハジメは地下から地上へと戻ったのだ。
そうして王宮へ向かう際、偶然ではあったが彼は様子のおかしい中村とエンカウントしたのである。
――南雲の奴、一体何を……うん? うん!?
一方、そんなハジメの事情を知らず、まさか死んだと思ってた奴が生きていたとは思わなかった中村はいきなり仕掛けて来た彼に警戒しようとする……が、しかし、彼に敵意を向けようとしてもそれがわずかながらとはいえ削がれてしまうのだ。別にここまで敵視しなくてもいいんじゃないか、という考えが自然と浮かんできてしまうのである。
「……私に何をしたの?」
「……中村さんが悪いことをしないように、ね。具体的にはハイリヒ王国やクラスメイトのみんなを殺して、皆を降霊術で操って魔人族に寝返るとか」
可能な限り冷静を装って尋ねてきた中村にハジメは努めて冷静に答える。本当はそうであってほしくない。しかし向こうの世界の彼女から聞いた前世の話を聞いた感じでは、あまりにこちらの世界の彼女と同じ振舞いをしていたのだ。
もちろんただ振舞いが同じだという可能性は大いに高い。それ故に大きく心を揺さぶる質問をし、エクスポニオンによって心を覗くことで本当かどうかを確かめようとしたのである。
「ぁ……なっ……!」
――なんで!? なんで南雲……にバレてる!? どうして!? ま、まさか見られた!?
しかしそんなハジメの淡い期待も脆くも崩れ去ってしまう。自分の答えに対する反応は元より、彼女の心の中も大いに荒れ狂っていたのだ。それも向こうの彼女が話した通りの内容で。
勝手に心を暴いたこと、そして目の前の少女がおぞましいことを今計画していることに罪悪感と悲しみ、そして恐怖で心がぐちゃぐちゃになりそうながらも彼は中村に問いかける。
「……ねぇ中村さん、さっき僕がつけたのはただの腕輪じゃない。立派なアーティファクトなんだ。これを着けていると段々僕のことを警戒出来なくなってくる。少しずつ僕に心を許すようになる。けれど自分では絶対に外そうと思わなくなる怖いものだよ」
「そんな馬鹿なこと……えっ? えっ? なんで? なんで!?」
そしてデモンイェーガーの効果のほとんどを話した途端、彼女はみるみる冷静さを失い、なんでどうしてと大いにうろたえ出す。当然だ。これは心や魂に作用する代物なのだから。そのことに対する罪深さをひしひしと感じながらもハジメは彼女にあることを提案しようと問いかける。
「このままだと目的を果たす――天之河君を殺して自分のものにすることも難しいでしょ?」
「っ!!」
――クソッ、そこまでわかりきってるなんて!! これじゃあ光輝くんをボクのもの……あれ? なんで? どうして光輝くんへの思いがちょっと揺らいで――まさか!!
向こうの恵里が話してくれた目的を述べれば、エクスポニオンを使うまでもなく一層大きく動揺するのがわかった。そして天之河のことを話した際の心の声を聴けば、やはり彼への関心がわずかばかりとはいえ薄れていることも、そのことでうろたえたのもわかってしまった。
「お前……ボクに、ボクに何をしたぁっ!!」
「うん。それも、この腕輪の効果……だから提案。僕と一緒に来ない?」
「提案、だって……南雲、お前ぇっ!!」
――許さないぃ……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないっ!! お前のせいで光輝くんがどうでもよく思えるなんて、絶対に許さないからなぁ!! 南雲ハジメぇっ!!
当然彼女が自分に憎しみと怒りをぶつけてくるのもわかった。心を読むまでもなく、その視線が奈落の魔物に負けず劣らず鋭く冷たいものであったからだ。
けれどもそれで揺らいではいけないとハジメはキッと彼女を見据える。デモンイェーガーの効果のせいで自分に向ける目つきがわずかずつとはいえ徐々に鋭さを失っていることに心を締め付けられながらも、ハジメは目をそらさなかった。
「僕は白崎さんを迎えに行ってからオルクス大迷宮に戻る。もしその気があるならこのゴーレムの背中に乗って先に行っててほしい」
「ハッ、拒否権なんかない癖によく言うよ」
一度デモンイェーガーを身に着けた以上、発生する執着心のせいでこれを壊したり外そうという思いは抱かなくなる。それにハジメの方に関心が向きつつある上に光輝への関心も徐々に薄れている。
まだどちらもほんのわずかにしか変化してないものの、このままでは光輝に何の関心も抱かなくなってもおかしくないし、自分をはめた南雲にばかり心を砕くようになる。そのことを恵里はわかっていたし、ハジメもまた向こうの世界の恵里の様子からして自分と中村をくっつけかねないだろうと予想していた。
「……そうだね、その通りだ。けれど僕が悪人になるだけで誰かの命を、谷口さんの心を守れるならこの程度、我慢してみせる」
けれどもこれで誰かが犠牲になってしまうのは防げる。少なくとも彼女の親友であるはずの谷口鈴が悲しむことはなくなる。目の前の少女と谷口には申し訳ないと思いながらもハジメは覚悟を決めてそうつぶやく。
「鈴? ハッ、アイツはただ利用してただけだよ。光輝君、の周りにいるダニに警戒されずにそばにいるためにねぇ」
「……そっか。それならそれで構わない。けれど中村さんの計画を阻止するためにも僕と一緒に来てほしい。いい?」
「……チッ。まぁいいさ。ならそっちと一緒に行動してあげる」
――さっきは不意を衝かれて無様をさらしたけど、そうはいくもんか。絶対にお前の寝首を搔いてこの腕輪を破壊させてやるからな。覚悟しろ。
「……ありがとう。じゃあ“ガーディアンズワン、彼女を乗せて目印のところまで行って”」
恵里の返答と心の声を聴いた後、ハジメは彼女の上からどくと同時にゴーレムに指示を出す。そして彼女が起き上がると共に、魔物の皮と針金で作った懐のホルスターからレールガン“ドンナー”を抜いて地面に一発銃弾を撃ちこむ。
「っ! 今のは――」
「……それと、そっちが何かするよりも先に僕は対抗できる。その手段を僕は持ってるよ。別に無策で来た訳じゃないからね」
「あー、はいはい……ったく、甘ちゃんかと思ったらとんだ食わせ物じゃないか。あーあ、今日ばっかりは出歩かなきゃよかった」
わざと銃を見せつけてアピールすれば、遂に向こうも抵抗する気が完全になくなったようであった。ため息を吐きながら自分に背を向け、ゴーレムに乗って走り去っていったのを見てからハジメも王宮へと急ぐ。
大迷宮にこもっていたからどれだけの時間が経過したかわからない。けれども自分が好きな人はきっと待っていると考えてハジメは“空力”を使いながら空を駆け抜けていった。
(ここじゃない……ここでもない……次っ)
そうして部屋の窓から一つ一つ確認していき、白崎の姿を探すことしばし。“錬成”で足場を作って窓から覗き込むのを何度も繰り返す。既に夜も更けたことから多くが寝ているようで、例外なのは明かりをつけて勉強か何かをしていた様子の光輝ぐらいか。彼に見つからないようそっと離れつつ、ハジメは思い人を探し続ける。
「――ちゃんは――う思う?」
「そう――、悪く――」
(白崎さんは――いた!)
そして遂に彼女が親友と共に話し込んでいる姿をハジメは見つける。このまま窓を開けて姿を現したい衝動に駆られそうになりながらも、それをグッと抑えて窓に近づいていく。
「回復魔法だけじゃなくて結界魔法も、捕縛魔法も使えるようになった。これで、これならきっと」
「えぇ。でもあまり無理はしないでよ、香織。あなたが倒れたら誰が南雲君を探しに行くの? まずは自分の体をいたわってちょうだい」
まだ話に夢中で自分に気付いていない様子なのを確認するとハジメはそっと窓ガラスをコンコンと叩き、こちらに注意が向くようにわざと音を立てた。
「? 鳥さんかな?」
「まだ夜明けには早いわ。一体誰――っ!?」
そうして窓からのぞきこめば、意識が向いた二人もこちらを見る。八重樫だけは自分の姿に驚いた様子だったが、白崎は自分を見てただ呆然としているようであった。
「なぐも、くん……?」
ずっと聞きたかった声がハジメの耳朶を打つ。向こうに戻った香織のことを一瞬思い浮かべて切なくなるも、ハジメはそれを堪えて彼女のつぶやきに答えた。
「うん。遅くなってごめんね。白崎さん」
途端、彼女の瞳からツゥと涙が滴った。もう言葉も何もいらないと思い、“錬成”でガラスを変形させて窓の鍵を開け、そのまま部屋へと潜り込んでいく。
「なぐも、くん……」
「うん。僕だよ、白崎さん」
「なぐもくん、なんだよね?」
「うん。心配かけてごめんね」
一歩踏みしめるごとにしてくれる問いかけが嬉しくも、彼女がどれだけ心配していたかがわかって胸が痛む。男としてやっちゃいけないことをやってしまったことを苦しく思いながらも、ハジメは彼女の問いに一つずつ丁寧に答える。
「なぐもくん……なぐもくーーーん!!」
自分に向かって飛び込んできた少女を抱きとめ、残った右腕を彼女の背に回して力を入れる。もう離すまいと誓いながら。この温もりを逃したくないと願いながら。
「よかった……いきてた、いきててくれたんだぁ……」
「うん……うん! ごめん。あの時、あの時僕が逃げ遅れなかったら……」
「いいよ、いいよ! うでがなくなっても、いきて、いきてて……うわぁああん!!」
感極まる愛しい人の慟哭を聞いてハジメの胸は痛む。けれどもこれも自分がやったことのせいなんだと思い、ただ黙って受け止める。
「ねぇ白崎さん……ううん、
「……えっ?」
「好きだ。僕は貴女が好きなんだ。一人の男として、たまらなく好きだ。だから僕は戻って来た。たとえ奈落の底に落ちても戻ってこれた」
「あっ――」
もう抑えきれなくなった思いをぶつける。彼女への好意を、ほとばしる情熱を口に乗せて。途端に泣いていた香織も目を見開いて頬を赤らめさせ、彼の思いにただ圧倒される。目の前の少年の真っ直ぐな思いを聞いて心臓が強く脈打つ。
「もう放したくない。離れたくない。ずっと一緒にいたい……香織さんは、僕のことをどう思うの?」
どうして、なんで、と戸惑い、彼から目をそらせない。彼がぶつけてくる思いがひどく心地よくてたまらない。幼馴染である光輝や龍太郎、雫が寄せてくる好意とはまた違った感触に頭がゆだっていく。もっともっとドキドキしていく。けれどある瞬間、香織の中からそれらの疑問が一気に消えた。
「……南雲君。私ね、ずっと勘違いしてたんだ」
「えっ」
軽く顔をうつむかせながら語る香織を見て、『やっぱり自分の勘違いか!?』とふと冷静になり、心底嫌悪感を持たれるようなことをやらかしてしまったのではないか!? とハジメは青ざめた。
「私、南雲君のことを尊敬してたんじゃなかった」
「あ、あわわ……」
ヤバい。終わった。次飛んでくるのはビンタか『気持ち悪い』の一言か。もう二度とこの少女から好意を向けられることは無いと思い、ハジメは今更ながら自分の浅慮さを呪う。だが、その憂いも全て次の香織の言葉で完全に搔き消される。
「好き……私も、南雲君が、
彼女から返された混じり気のない好意。それを受けてハジメは顔がニヤけてしまうのを止められなかった。
「好き……ううん、大好き。私もハジメ君が大好きなの!!」
「ぼ、僕も! 香織さんが大好き、大好きなんだ! 世界の誰よりもずっと、ずっと!!」
互いに熱い思いを交わせばあまりの心地よさに頭が甘く痺れ、目の前の相手のことしか目に入らなくなる。自分達以外に世界には誰もいないと錯覚してしまう。故に、二人が大胆な行動に出るのはそう不自然ではなかった。
「香織さん……」
「ハジメ君……」
遂に二人の影が重なる。今一度抱きしめ合い、うるんだ瞳を向け、そのまま唇を重ねようとする。どこまでも深く強い思いを、言葉じゃ表せないぐらいに巨大な思いを今、伝えようとする。
「あ"ーもうっ!! いい加減にしなさい二人とも!!!」
「「あ゛っ」」
……が、ものの見事阻止された。目の前で甘ったるい光景を見せ続けられ、遂に頭が爆発しそうになった雫が大声を上げたのである。
途端、ハジメと香織は先程とは違う理由で仲良く顔を真っ赤にし、涙目になって自分達をにらんでいる少女の方に視線を向けた。
「し、雫ちゃん、その、あのね……」
「や、八重樫さん、その、えっと……」
「目の前でずーっとイチャイチャしてる様を見せつけられるこっちの身にもなりなさい! 全く、暑いったらありゃしないわ……」
トマトみたいに真っ赤な顔を思いっきりしかめ、手でパタパタとあおぐ雫の様を見て一層二人は赤面する。さっきのやりとりも告白も特等席で見ているのだ。こうもヒステリックになると思い、そして自分達のやったことを思い出して仲良く消えてしまいそうになっていた。
「白崎、八重樫! 何があった……いや本当に誰!?」
「香織、雫! 今のはいっ、たい……」
「おい雫! それに香織も! 何があっ、た……?」
そして大声を上げて騒いでいたものだから当然皆起きて部屋に次々と現れた。野村や永山らのように変わり果てた姿のハジメに驚く者、光輝や龍太郎らのように香織と親密に抱き合う様を見てフリーズする者など様々だ。
「み、みんな! その、あのね!」
「えーと、その……」
「あぁもうややこしいことに……南雲君! あなたはどうする気なの!」
渦中の二人もどう言い訳したものかとオロオロしていたものの、頭痛を堪えるように頭を押さえていた雫の一喝でハッとする。
「南雲……南雲だって!?」
「嘘、だろ……なんで、なんであいつが生きてるんだよ……」
無論何の突拍子もない雫の発言に、光輝や檜山だけでなく多くがハジメの生存に驚くものの、彼女は構うことなく言葉を続ける。
「窓から侵入するなんて普通絶対にやらないでしょう! 本当はコッソリ何かしたくてやって来た。違うの!?」
単に生還して戻ってきたというならこんな方法を採る必要はない。冒険者ギルドを経由して連絡するなりして迎えに来てもらい、堂々と戻ってくればいい。
だがその方法を採らずにこうして忍び込む形をとったということは大っぴらに言えないことをやろうとしてたのだろう。そう想像した雫は試しに問いかけてみた。
「え、えっと、はい!」
「あぁもう案の定……なら行きなさい! 香織が目的だったんでしょう! ここは私が何とかするから!!」
そしたら予想通り、南雲もそれを馬鹿正直に肯定してきたのである。ならばもうなるようになれと再度ヒステリック気味になりながらも雫は二人にそう伝えた。
「し、雫ちゃん!?」
「や、八重樫さん! それは――」
「し、雫!? 何を言って――」
「彼が本当に戻ろうと考えているのならちゃんと皆に話が通ってるはずでしょう! それに、あの時のことを南雲君が恨んでてもおかしくないのよ!! あんな状況で生きてるのが奇跡な状況で、私達を恨まないとでも思ったの!!……さぁ、行きなさい二人とも!! 南雲君は無意味にこんなことはしない。そうでしょう!!」
迷いを見せる二人に雫はためらうことなく背中を押す。とっさに出た言葉を盾に彼女は二人をかばうようにクラスメイト達の前に立ちはだかり、ほんの一瞬だけハジメと香織に視線を向けて友人らを見据える。
「あれは不幸な事故だ! 南雲も生きていたんだからいいじゃないか! 気にしているなら俺達の前に姿を現すことなんてないはずだ!!」
「南雲君はあなた達を許すなんて一言も言ってないし、皆が来たのは私達が大声を出したからでしょう!! あぁもう、自分の短慮さが嫌になる……」
「ざ、ざけんな八重樫! だからって南雲のヤロウが白崎を連れていっていい理由になんてならねぇ! テメェだけ逃げろ、犯罪者がよぉ!!」
「あぁ、檜山の言う通りだ! 俺達の仲間を連れ去ろうだなんて心底見下げ果てたぞ!!」
「白崎さんを連れ去って自分のものにしようだなんて犯罪者の考え方よ! 心底失望したわ!!」
自己完結した光輝の言い分に雫は舌鋒鋭く反論し、それに乗ろうとしたクラスメイト達を制する。だが檜山だけはそれらしい理由を挙げ、香織を連れ去ろうとしたことを根拠にハジメを犯罪者呼ばわりする。そしてそれに多くのクラスメイトが乗っかってしまう。
「檜山の言う通りだ! 南雲、遂にお前は悪党に成り下がったんだな! 香織を連れ去るためにここに戻って来たっていうなら、俺が今ここでお前を――」
「――ごめん、皆!」
檜山が作った勢いに光輝も乗じようとしたのを見て、ハジメは向こうの世界の彼のことを思い出して無意識に比較する。
「――雫ちゃん!」
「えっ!?」
「えぇっ!?――あぁもう、ごめん八重樫さん!!」
そのまま香織を片手で抱きしめて連れ出そうとした時、香織が雫の手を握る。当然雫もハジメも大いに慌てるが、どうこうする暇は無いと“錬成”の魔法陣を刻み込んだ靴――もちろん向こうのハジメからのプレゼントの一つである――を壁に当てて穴をあけて一緒に脱走していく。
「きゃぁああぁ――あれ?」
「僕が足場を作って移動するから八重樫さんも僕に抱き着いて! お願い!」
「……あぁもう!! わかったわ、わかったわよ!! こうなったらなるようになって!!」
そして部屋から出て自由落下……する前にハジメは“空力”で足場を作り、すぐさま雫に指示を出した。雫も流れに身を任せ、ハジメの背中に抱き着く。同時にハジメはしばし空中歩行をして王宮から距離を取っていく。
「“ガーディアンズツーは八重樫さんを、スリーは僕と香織さんを乗せて!”……八重樫さん、この山羊に乗ってください!」
「一体何があったのよ……わかったわ」
ある程度王宮から離れたところで地面に下りると、すぐにゴーレムを展開。そのまま乗るよう迫れば彼女もどこか諦めたように応じ、背中に乗ったのを見るとすぐにハジメも香織の方を見やる。
「ハーネスを出して体を固定するから先に香織さんが乗ってほしい。僕が後ろから支えるから」
「う、うん……」
そうしてタンデムで山羊に一緒に乗り込むとすぐにゴーレムは香織の体だけを器具で固定する。ハジメはそれに体を添える感じで支え、彼女と共にグリップ代わりの耳を掴む。
「じゃあ、行こう! オルクス大迷宮へ!」
そうして三人の逃避行が始まる。二人を載せても問題なく山羊型のゴーレムは全力で駆け抜け、その速さは重荷の無い馬でもなければ追いつけない程に機敏であった――かくして違う世界へと偶然訪れた二人の少年少女の旅は新たに幕を開ける。
「しらさき、さん?……やえがしさん、なかむらさんも……」
「よがっだぁ……よがっだよぉ……ハジメくん、こっぢでもいぎでだぁ……」
奈落の底を駆け抜けた少女は未だ無事の少年と再会する。水脈に流されて全身を濡らした少年に、自身が濡れることもいとわず抱きしめていた。
「ねぇ
「ヒィッ!? あ、あの、これはですね、ちょっと理由が……」
少年はある少女と合流を果たし、命の危機を感じた。確かに傍から見れば不義理と言われても仕方ない光景だ。何せあそこまで熱のこもった愛の告白をしといて別の人間が運命の転換点となった場所の近くで待っていたのだから。
「ねぇ香織。さっきから気になってたんだけれど、このロボット……いや、ファンタジーの世界だからゴーレムかしら? これは一体誰が作ってくれたの?」
「そうだね香織ちゃん。私もずっと気になってたんだけれど」
ようやくハジメとの再会を果たした香織に雫と恵里が問いかける。これらのアーティファクトの出どころは一体どこなのだ、と。
「理由? ちゃんとした理由があるんでしょうね? 無いんだったら容赦しないわよ」
「あー、そうだね。一体どうやってこんなの作ったの? もしかしてオルクス大迷宮を出る前に作ったとか」
ブチギレた香織に問い詰められるハジメに雫と恵里が問いかける。方や恵里がここにいる理由を、片やどうしてこんなアーティファクトを用意出来たかを。
その時、二つの世界で少年と少女の言葉が重なる。自分の身に起きた不思議な出来事を、夢のようで夢でなかった話をする前に二人は問いかける――。
「「――本当に並行世界があったら、信じる?」」
あまりありふれてない役者で世界逆行 第64.2話「あっちゃいけない事態で全員混乱」 ~了~
おまけ
南雲と白崎が帰ってからのこっち(あま役)の皆のリアクション
ハジメ「やっぱりデモンイェーガーはやりすぎじゃなかったかなぁ」
恵里「あれぐらいやんないと絶対止まらないよ、昔のボクは。ま、仲間と最高のパートナーのための必要経費だとでも思ってもらわないと」
鈴「……恵里、まさか頭の中身まで自分に近づけたりしてないよね?」
恵里「やれたらやってるよ。まったくもう……」
一同「うぉい!!」
おまけその2
異世界から来た白崎と彼女達のたどった未来のあらすじ一部抜粋
ハジメを無事発見し、感動の再会を決めた後はゴーレムを前衛にしながら周囲を探索。その際蹴りウサギはどうにかなったものの、爪熊とエンカウントした際にゴーレムが一機破損。マトモに動かなくなった。そこで急遽ゴーレムをしまって壁の中に退去。
覚書の一つである『ゴーレムにはあまり頼らないこと。オルクス大迷宮の奈落の底は尋常じゃないほど強い魔物がひしめいているからちゃんと修行するように』と書かれてたのを出し、また魔物肉を食べることでステータスを強化できることを香織が伝え、同梱していた水(“聖典”付与済)を飲みながら食べてパワーアップ。ちゃんと神結晶と神水も手に入れて四人で攻略。
アレーティア「私の全ては皆様のものです♡」
ハジメ、香織、雫、恵里「どうしてこうなったorz」
その後吸血鬼の少女も確保……したのだが、大介が代筆したアレーティアの覚書『助ける際に地面に水滴型の文様があるか探してください。そこに私が封印された真実が眠っています』を信じて探して見つけてしまい、しかも叔父の映像を見せてしまって助けた結果、友情愛情すっ飛ばして『崇拝』にまで至ってしまった。これには全員頭を抱える羽目に。
そうしてオルクス大迷宮も無事突破。シアとも合流し、神代魔法も次々と取得し、ウルの街の騒動も解決。そして光輝達がどうなったかちょっと気になって一度ハイリヒ王国へと戻って勇者パーティーも救助。その際光輝がイチャモンをつけてきたため、ブチギレたアレーティアによって股間をスマッシュされた。哀れ。
ハピネスベル:原作通りウルの街を襲撃した清水がいなくなった後、ブルックの街で新たに誕生した漢女。得意の闇魔法で色んな人の心のケアをしちゃうぞ♪
ミルキィベル:光輝がスマッシュされた後、アレーティアの覚書の一つである『何かあったらブルックの街のキャサリンとクリスタベルを頼るといいです。あの二人は信用できます』を信じて預けた後に生まれた漢女。『先輩』のハピネスベルと一緒に人助けをしてる素敵な漢女だぞ♡
おまけその3
異世界から来た南雲と彼らのたどった未来のあらすじ一部抜粋
どうにか香織、雫、恵里を説得してオルクス大迷宮へ。その際ベヒモスと真のオルクス大迷宮一階層はゴーレムとハジメが活躍。魔物肉を食べ、堅実に少しずつ攻略しながら前へと進んだ。なお恵里とは次第にツン~殺デレのような間柄に。やっぱりアレーティアからは崇拝されてorzに。
無事にオルクス大迷宮も突破し、シアとも合流してブルックの街へ。その際香織がクリスタベルにあることをお願いした後、原作通り大迷宮巡りの旅へ。清水の姦計も無事に阻止し、彼をクリスタベルに預けた。またハジメに色々言ってくれたクラスメイトへの意趣返しをしにオルクス大迷宮へと戻り、カトレアも撃退。その後、ピチュンしたクラスメイト男子全員を引き連れてブルックの街へ……『彼ら』の行方は以降サッパリとなった。かわりに漢女が増えた。
ディアベル
レイニーベル
シンディベル
ツリーベル
アビスベルetc...
クリスタベルお姉様の指導のもと、生まれ変わった彼女達。なお最終決戦でアホみたいに暴れた。
おまけその4
恵里達が渡したもの
・回復薬(生成魔法で“聖典”を付与した水)
・各種調味料
・調理器具一式&簡単な説明書(金属製)
・寄せ書き(金属製)
・山羊型ゴーレム三体&格納用宝物庫
・色んな覚書(金属製)十九人分