あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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コロナワクチン接種後の副反応から無事復帰しました。また執筆出来そうです。

では拙作を見てくださる皆様への感謝を。おかげさまでUAが43000オーバー、お気に入り件数も462件(21/9/8 16:59現在)にまで昇りました。誠にありがとうございます……どうしてここまでお気に入り件数増えてるんでしょうか。コワイ

それとsimasimaさん、松江陸さん、拙作を評価していただき本当にありがとうございます。

ちなみにエリリンにメインに焦点が当たらない場合はエリリンが出ていても幕間扱いです。というわけで今回は色んな意味でハジメ君視点のお話となります。

それと今回のお話を見るにあたって注意点がいくつかあります。
まずアンチ・ヘイトタグが一応機能すること。
それと中村恵里という少女は天之河光輝という男の子を手に入れるために色んな悪行を重ねた子であることを思い出してください。

それでは上記の二点に注意して本編をどうぞ。


幕間七 第一回トータス会議は乱痴気騒ぎと共に

「いや、絶対やらないからね!?」

 

 平日の午後、南雲家の一室で少年南雲ハジメの叫びがこだまする。そんな様子の少年を不機嫌そうに少女の一人が見つめていた。

 

「どうして? これが一番手っ取り早いし、最適解だと思うんだけど」

 

「いやどこをどう考えたらそういう発想になるの。普通に引くんだけど」

 

 そしてそんな少女を見ながらもう一人の小柄な少女――谷口鈴がドン引きしつつ反論し、じりじりと後ずさる。

 

「えー……でも、本当にいいのハジメくん? ボクも鈴もこんなにハジメくんのことを思ってるんだよ? だったら別に問題ないんじゃ――」

 

 心底残念そうに少女――中村恵里がとんでもないことを口走る。その顔に浮かぶのは困惑ばかりで、自分がおかしなことを抜かしたことへの反省も改める気配も見られない。そんな彼女にハジメは叫ぶ。

 

「と、とにかく! 僕は絶対ハーレムなんて作らないから!!」

 

 部屋中に、なんとも間の抜けた叫びが響き渡った――。

 

 

 

 

 

 ハジメが子供とお婆さんのためにひたすら不良たちに土下座し、恵里が隠していた事実を明かしてくれた日から数日後。月曜の放課後にハジメ、恵里、鈴の三人は南雲家のハジメの自室に集まっていた。

 

 光輝ら武術組はこの日もそれぞれの道場へと通い、香織はもう習慣となった龍太郎の付き添いに、幸利ら他の面々には『今日は三人だけで話をしたい』と断りを入れたためこの場にはいない。こうして人払いに成功した三人は真剣な面持ちでお互い見つめあっていた。

 

「えー、じゃあ第一回、トータル……トータスだっけ? 会議、始めるよ」

 

 司会進行を務めることになった鈴が何とも締まらない宣言をすると、脇にいた恵里とハジメが拍手する。

 

「はい。じゃあボクが語り手で」

 

「僕が書記だね。じゃあ鈴、司会進行お願いね」

 

「うん。それじゃあ恵里、改めて私とハジメくんにトータスのことについて説明してくれる?」

 

 鈴はハジメの言葉にうなづくと、早速進行に移った。

 

 ――今回こうして人払いをしたのもこのためである。可能な限り情報の漏洩を防ぎ、他の面々から余計な茶々を入れられないためであった。実際このことを他の面々に話したら恵里の頭の具合を心配されるのは目に見えているし、ならばと考えてこうしたのである。

 

「うん、わかった。この前話したのがほとんどだし、もう記憶も相当薄れてるけどあそこはね――」

 

 そして恵里の口から語られる情報を用意した“創作用ノート”にハジメが書き連ねていく。

 

 ……当初は恵里が情報を残すことに大いに反対したのだが、そこはハジメが『僕の家ならやり方次第でどうにかなるし、上手いこと誤魔化すから』と説得したのである。

 

 ハジメが思いついたのは『創作物のヒントになりそうな思いつきとしてノートに残す』という方法であった。それもここ最近一次二次、小説や絵を問わずに創作にハマっていたからである。そのことは周知の事実であったため、恵里もハジメの案を受け入れたのだ。

 

 ちなみに絵に関しては菫直々に指導されているのもあってか文句なしの出来栄えではあるのだが、小説に関しては『思いついた部分こそ良いものの、そこまでのつなぎがイマイチで微妙』という評価を両親と恵里、鈴から受けたこともある。ロマンや盛り上がり優先で書いていた間は枕を涙で濡らすのも珍しくはなかった。

 

 閑話休題。

 

 今恵里が語ったことを書き留めているのも、過去の思い付きをしたためたノートであった。木を隠すなら森の中、とはよく言ったものである。

 

 こうして断片的なトータスの情報、未来の自分が使ったと思しき兵器、恵里がとっていた行動を鈴と一緒に相づちを入れながら一つ一つ漏らすことなく書いていく。そして――。

 

「えーと、これで思い出せるのは全部かな。お疲れ様、二人とも」

 

「ありがとう恵里。それじゃあ、今書き出した情報を元に色々と考えよっか」

 

 全ての情報を書き終えたハジメは恵里に感謝を述べ、二人にそのノートを見せながらトータスに移転した際にどうするか考えることに。するとすぐに鈴が手を挙げたため、ハジメは視線で発言を促した。

 

「えっとね、ちょっと恵里に聞きたいことがあるんだけど……一度いなくなってからまた会った後のハジメくん、どんな感じだったか説明してよ」

 

 その問いかけに恵里は露骨に目をそらす――召喚された王都で魔人族とやらに与する際にハジメと再会したことや使った兵器に関しては話したのだが、どういった見た目になったかは話してなかったのである。いなくなった経緯も『どこかで行方不明になった』とあまりにあっさりとしていたし、恵里自身もそれ以上思い出せなかった。そのため、もし仮に恵里が語った情報の通り、ここで再会したとしても恵里達が気づけない可能性があった。

 

「いやー、そのー……ひ、一目見ればわかると思うんだけど……」

 

 しかし恵里は答えを渋った。この反応からして間違いなく何かあるとハジメは確信し、同じ結論に至った鈴と一緒にジト目を向けることしばし。心底居心地が悪そうにしていた恵里はようやく観念してわかったと伝えると、あることをハジメにお願いしてきた。

 

「じゃあハジメくん、そのノート貸して。どんな感じの見た目だったか描くから……どうなっても知らないから」

 

 軽い恨み節をこめながらそう答える恵里にハジメはノートを渡す。すると恵里は一気に未来のハジメの姿を描き出していった。

 

「……はいコレ。コレがその時の姿だよ」

 

 渡されたノートを見た瞬間、ハジメと鈴の顔が即座に引きつった。

 

 ――白髪、眼帯、赤い瞳に左腕の妙な手甲etc……凄まじいまでの厨二要素がこれでもかとひしめき合った姿がそこに描かれていたのだ。そして空きスペースに『敵ならぶっ殺す』だの『変貌前:どこにでもいそうなぼっちの少年。変貌後:俺様系厨二キャラ』だの『女の子に囲まれてた。ハーレム? 最低でも二人』といったものがこれでもかと書き込まれていたのである。

 

「だから嫌だったの! ボクだってこんな風になってるハジメくんを描きたくなかったんだってば!! でも仕方ないよ! 本当にこんな感じになってたんだから!!」

 

 ハジメと同じく菫の指導を受けた恵里の絵は無駄に完成度が高く、しっかりと緻密に描かれていた。そのためこんなに厨二要素を詰め込んだこれが未来の自分の姿だとはハジメは全然思えなかった。

 

 ……厨二心がくすぐられる見た目はちょっとカッコいいとは思ったし、俺様系とはいかないまでもちょっとワイルドな感じには憧れていたため真似したくなったのは事実だが。

 

「嫌だよこんなの! 優しくて素敵なハジメくんがどこをどうやったらこんな痛々しい感じになるの!? 恵里、嘘ついてるでしょ!」

 

「ぐはっ」

 

「こんなところで嘘なんてつかないってば! ボクだってハジメくんが将来こんなのになるって考えただけで寒気が走るよ!! でもこの時のハジメくんって香織がやたらと構ってたぐらいで他に友達いなさそうだったし、だからきっといなくなってからねじれにねじれてこうなっちゃったんだよ!!」

 

「ごふっ」

 

 自分の将来像(仮)を慕ってくれている二人にけなされ、ハジメの心は瞬く間にボロボロになっていく。『こんなのハジメくんの名前を騙る誰か』だの『俺様系になったハジメくんなんて“恋ビブ”の錬の真似してた時より似合わないよ』だのと頭に血が上った二人の応酬でハジメの心が血だるまになるまでそう時間はかからなかった。

 

「――っていうかハジメくん何人も女の子侍らせてたのってホントなの!? ハジメくんはそんな女の子に誰彼構わず手を出すようなことしないもん!! だったら鈴にもチャンスあったじゃん! どこをどうしたらこんな嘘つけるの!」

 

「だから事実だってば! それにボクだってこんなこと考えられないよ!! アイツとハジメくんが同一人物とかどう考えたって質の悪い冗談としか思えないし!! でも本当にアイツは――あれ、ハジメくん?」

 

「グスッ……ヒック……もういいよ。僕にこういうのが似合わないってわかったから……」

 

 二人の応酬に次ぐ応酬をその場で受け続けた結果、ハジメの心はぽっきりと折れてしまった。

 

 厨二病を発症していたハジメからすればカッコいいと思っていた姿であり、また危険な世界だとわかったからこそ空きスペースに書かれていた荒々しい言葉にも厨二病込みではあったが共感していた。にもかかわらず二人に何度も何度も否定されたのは応えたのである。体育座りをしてうずくまりながらハジメは涙を流していた。

 

「ご、ごごゴメン! ハジメくん!! お、落ち着いて、落ち着いてハジメくん。私達が言ってたのはハジメくんじゃなくて『ハジメくんっぽい誰か』だからね」

 

「そうそうそう! 今のハジメくんはとっても素敵だから!! あんなのの数億倍カッコよくて最高の人だから! だから気にしないで、ね?」

 

 ようやくうずくまって泣いていたのに気づいた二人から大慌てで声をかけられるハジメ。二人に頭をなでられ、彼女達なりの労わりの言葉をかけられながらハジメは『もう厨二病なんてこりごりだ』と心の中で吐き捨てる――二人に慰められ、ちょっとだけ大人にさせられたハジメであった。

 

 

 

 

 

「――えーと、じゃあ宗教はエヒト、っていう神様を信奉するもの以外ない、ってこと?」

 

「うん、確かそれで合ってるよ……今にして思えば分派とかってどうだったのかな?」

 

 恵里と鈴に慰められること小一時間。どうにか立ち直れたハジメはノートのあるページを破り、くしゃくしゃにしてゴミ箱に投げ捨ててから再度話し合いに戻った。

 

 恵里からの話の聞き取りで時間を使い、ショックで凹んで時間を無駄にしたこともあって門限まで残り少なくなった時間をこれ以上浪費しないためにもハジメは恵里から色々と聞き出していた。

 

「うーん、そのエヒトっていうのがやりたい放題やってるなら、同じ宗教でも派閥が違ったら面倒なことになるよね? そういうトラブルが見たいんじゃなかったらアレコレやって作らせないんじゃないかな。ほら、使徒っていうのがいるみたいだし」

 

「僕も鈴の言った通りだと思う。宗派を一つにしておいた方が管理もしやすいだろうからね……言っててなんかやだな、これ」

 

「はいはい。あんまり気に病まないでねハジメくん。とりあえずボクも二人の言ってることが正しいと思う。アイツ、ハジメくんに倒されはしたけど一応神様だしね。それぐらいやれてもおかしくないと思う」

 

 二人と話し合いをしていたハジメであったが、ふと恵里の言葉にどこか引っかかりを覚え、手に持っていたノートのページを次々とめくっていく。そしてあるページでハジメは手を止める。そこにあった記述の一つ、“自分が連れていた子の一人に憑依”を確認するとハジメの中にある仮説が生まれた。

 

「……本当にそうかな?」

 

「どうしたのハジメくん? 何か変なところでもあった?」

 

 心配そうに覗き込んでくる恵里にハジメは笑顔を浮かべて大丈夫と答えながら先ほど気になった記述を指さした。

 

「あー、そういえばハジメくんが連れてた子を乗っ取った、って恵里が言ってたよね。嫌なことするなー、って思ったけどどうしたの?」

 

 鈴の言葉にうなづきつつもハジメは『本当に神様なのかな?』と独り言を言うかのようにつぶやく。どうしてそんなことを言ったのか二人は疑問に思いながらもそれに返答する。

 

「うーん、確かに神様の癖に人間のハジメくんに倒されてるんだから情けないとは思ったけど、でもアイツの言葉でハジメくんとか連れてたのがマトモに身動きがとれなくなってたはずだから、やっぱりそういうのじゃ――」

 

「うん。それは聞いたよ。それが凄い事なのもわかってるよ――でもさ、神様ならどうしてわざわざ()()()()()()()()()のかな?」

 

 その言葉に恵里も鈴も首をかしげた。恵里はその少女にエヒトが執着してた気がする、と語っていたがその理由は既に記憶の彼方であり、確かめる術はない。それにどうして()()()()必要があったか。ハジメがいぶかしむ様子も含めて二人は疑問に思う。

 

「これは僕の推測なんだけどね――エヒトはきっと、()()()()()()完璧な身体を造れなかったんだと思う」

 

 その一言に恵里と鈴は思わず唾を飲んだ。すると矢継ぎ早にハジメは恵里にあることを質問してきた――魂だけでもその世界にいられる? と。

 

「……()()()()()無理、だね。元“降霊術師”のボクの経験からすれば、魂は一定の時間で霧散する。ボクがやってたのもあくまで生前の人間の記憶と思考パターンの付与ぐらい。あと降霊術、ってのはあくまで残留思念に働きかけるだけのものだから、魂をその場に留めるのもやれたとは思えないかな。でも……」

 

「やれる場所に心当たりがある。そうでしょ?」

 

 ハジメの問いかけにうなづくと、恵里はノートをめくってある記述を指さした。“エヒトの居城”と書かれたものを。

 

「……ボクがあそこで鈴に負けて、やけになって自爆した後もあの世界が崩壊するまでは僕の意識が薄れる気配が全然なかった。だからあそこは特別なんだと思う」

 

「で、でもハジメくん、だからってエヒトに体がないって決まったわけじゃ……」

 

「うん。だから次の質問。恵里、自分の肉体を持ってる人が魂を別の肉体に移すことって出来る?」

 

 ハジメの質問に恵里は渋い顔をした。流石にこういった方向から質問が来るとは思っていなかったようで、百面相を浮かべながら考え続けることしばし。

 

「……正直わかんない、かな。自分の肉体を死ぬレベルまで傷つければ魂を外に出すのは簡単だろうけど、そうしないでやるとなると結構難しいかも」

 

 どうにか出した答えがあまりに頼りないものであったため、ごめんねと恵里は謝ってきたが、ハジメは首を横に振っていいよと声をかける。すると今度は顔を青ざめさせた鈴がおずおずと手を挙げ、ハジメに質問してきた。

 

「じゃ、じゃあハジメくん……もしかして、エヒトって、ゆ、幽霊みたいなもの、なの……?」

 

「僕はそう考えてる。神様ぐらいすごいけど神様そのものじゃない。だからその子を狙ったのもきっと、エヒトにとって理想の肉体だったからなんじゃないかって思ってる……あと、これ」

 

 鈴の問いかけに答えたハジメは彼女の手を繋ぎながらノートのページをめくる。そしてあるページの書き込み――“乗っ取った子ごと本拠地に戻った”、“何日か後で総攻撃”、“世界を滅ぼすほどの軍勢”を指さしていく。

 

「きっと、その理想の肉体であるその子を手に入れたからトータスに見切りをつけた。それで、ここ」

 

 そしてハジメは“ある時トータスに異世界転移した”という記述を指さす。あまり関係がなさそうな記述を指したことに疑問を覚えた鈴と恵里はハジメに問いかける。

 

「どういうことなのハジメくん。トータスに見切りをつけたことと、この文がどう関係してるの?」

 

「鈴の言う通りだよ。いくら何でも突飛過ぎて……うん?」

 

 恵里が何か引っかかったところでハジメは真剣な顔でこう答える――エヒトはきっと僕達の世界に狙いを定めた、と。それを聞いた途端、鈴は軽くパニックになり、恵里は顔を青ざめさせた。

 

「ど、どうして!? わ、私達の世界が狙われることになるの!?」

 

「……いや、アイツならやるかもしれない。いや、そう言ったはず」

 

 その言葉に鈴は恵里にすがりつき、ハジメも恵里に続きを話すよう視線で促した。

 

「さっきのハジメくんの言葉でうっすらとだけど思い出せたよ。ボク達の世界で遊ぶだなんだ、ってね……あの時は光輝くんと過ごすことで頭がいっぱいだったから大して気に留めてなかったけれど、アイツが自分の居城に戻るときの声色からしてトータスに未練はなさそうだったよ。こんな悪趣味なことやるヤツだから似たようなことをどこかで必ずやる。それが――」

 

「――この世界、だね」

 

 ハジメの返答に恵里は深くうなづく。やっぱりそうなるかとハジメが考えていると、鈴は頭を抱えながらため息を吐いた。

 

「うぅ……お願いだからこれが恵里の妄想とか、この世界は違うとかそういうのであってほしいよ……」

 

「ボクとしてもそれが最高なんだけどね。ま、でも対策を立てるに越したことはないでしょ。実際にトータスに行く羽目になって、ロクに対策も立てられないままエヒトにいいようにされるなんてボクはゴメンだよ。あ、鈴。後でシバくから」

 

「ひどっ!?」

 

「あー、コホン!……そうだね。恵里の言う通りだ。対策を立てられるならやっといて損はないよ。それで話をちょっと戻すけど、多分理想の肉体を目指して作ったものはコレだと思う」

 

 そう言ってハジメが指さしたのは“チート一般兵の使徒”という書き込みであった。

 

「コレ?……確かにボクが体をいじられた時も……うん、コイツらの能力使えるようになったし、()()()()()強くなったよ」

 

 そっかーコイツらかー、と漏らす恵里を見てハジメと鈴はちょっと話を盛ったなと思いつつもとりあえず口に出すことはせず、そのまま話を続けた。

 

「あくまで僕の推測でしかないし、どれだけの間トータスで神様として敬われてたかはわからないけど……もし相当の時間があって、しかも造るのに失敗してるって考えると多分ここかな、って思う」

 

「理想の体を目指して出来たのがこれなんだね……ねぇ恵里、やっぱりエヒトがこの使徒とかいうのの体を使うのって――」

 

「絶対にない。たとえ人形だとしてもあの無駄に偉ぶってるアイツが、自分以外を虫ケラ同然に見てる奴が自分と同じ姿の存在を認めなんてしないよ絶対」

 

 断言する恵里にハジメは鈴と一緒に気圧されながらも首を縦に振って同意した。これは当事者である恵里以上に説得力がある人間がいないから二人は同意したのであって、いきなりイライラし出した恵里に二人がうかつに触れたくないと考えた訳では決してない。

 

「ともかく、エヒトについてはある程度推測が出来た。それと、宗教関係とあまり敵対しない様に立ち回るのが上策かな。兵器とかに関しては後で使えそうなものを僕が調べとくし、具体的な方針はまた今度にしよう……どうしたの恵里、鈴?」

 

 門限が過ぎる前にひと段落ついたところでハジメは会議を切り上げようとすると、戦慄と尊敬の入り混じった視線を二人から向けられ、困惑してしまう。まさか二人も何か用事があったのではないかと的外れな事を考えて軽くうろたえだすと、そこでようやく二人が口を開いた。

 

「あ、いや……やっぱりハジメくんは凄い、って思って」

 

「うん。私と恵里だけだったらきっとここまで辿り着かなかったと思うから」

 

 それを聞いて杞憂だと理解したハジメは、二人を落ち着かせるよう微笑む。

 

「ううん。こうして恵里が話をしてくれなかったら僕だってここまでやれなかったよ。鈴も上手く聞き出してくれてありがとう」

 

「ハジメくん……」

 

 その一言で恵里はトロンとした瞳でハジメを見つめ、ハジメもまた恵里を愛おしげに見つめ返した。一方、感謝されこそすれど恵里の方ばかり注視しているハジメを見て軽く腹を立てた鈴は何か話題を出してこの状況を終わらせようと考える。すると、ある記述を思い出し、二人の服の袖を引っ張った。

 

「ん? 何なの鈴? 今すっごくいいシーンなんだけど邪魔しないでくれる?」

 

「まぁまぁ恵里……えっと、ごめんね鈴。構ってあげなくて。それで、何かあったかな?」

 

「うん。あのねハジメくん……本当にさ、ハーレムを作ったりしないの?」

 

 そう。鈴が思い出したのは先ほどハジメがゴミ箱に投げ捨てた例のページにあった書き込みであった。その一言にハジメはブンブンと何度も何度も首を横に振るが、何故か恵里はニヤつきながらハジメの方を見ていた。

 

「し、しないから!! 僕はそんなことなんてしないよ!」

 

「え~ほんとぉ~? ハジメくん、その割にはナデ○コの逆行ハーレムモノの二次創作に手を出してたけどぉ?」

 

「そ、それはそれ! これはこれだから!」

 

 いつの間に恵里が自分の見ていたものを把握していたのかに慄くもハジメはどうにか言い逃れようとしていた。しかしその恵里の言葉を聞いた鈴はじっとりとした目つきでハジメを見つめだす。

 

「……ホントなのハジメくん?」

 

「ホントホント! そんなことしたら刺されそうだし、怖くて出来ないってば!!」

 

 自分が二人の少女に慕われていながら明確な結論も出さず、その上ファーストキスを奪っていることを棚上げしながらもハジメは叫ぶ。すると今度は恵里がとんでもないことを言いだした。

 

「ふ~ん……じゃあボクと鈴、どっちも愛してくれないの? お得なんだけどなぁ~?」

 

 ニヤつきながら告げてきた恵里の言葉に二人の顔は驚愕に染まる――かくして話は冒頭に戻る。あまりに無茶苦茶な発言に鈴が引き、ハジメは絶対にしないと叫んだのである。

 

 こうして“ハーレムは作らない”と宣言したハジメに恵里は舌なめずりをしながら近づくと、彼にしなだれかかりながら耳元でささやく。

 

「ハジメくんはさぁ……今更鈴と離れられる? だぁ~いじな幼馴染が、他の男の人と幸せそうにしてるのを見て耐えられるぅ? そんなの、ボクはぜぇ~ったいイヤだけどなぁ~?」

 

 それは、悪魔のささやきであった。恵里が投げかけてきた疑問を聞いた途端、全身の血が沸騰したかのような心地になり、頭の中で様々な感情が暴れ狂った。

 

 ――鈴が自分から離れる? 他の男の人と仲良くしてる?

 

 そんな状況を考えた途端、もの凄い嫉妬が湧き上がってきた。鈴の幸せを願うならそれが一番だと前々から考えていたのに、いざこうして恵里から言われただけでそれが許せなくなってくる。そんなことを考える自分が最低だと理解できても、鈴が自分の側から離れると考えると全身が引き裂かれたかのような心地になる。

 

 ジレンマでどうにかなりそうなハジメを見てニタニタと笑いながら恵里は甘い言葉をささやく。

 

「す・ず・も、ハジメくんの()()にしちゃおうよ。鈴の気持ちに全然気づいてない程、ハジメくんはニブちんじゃないよね?」

 

「ぅぁ……あ、あぁぁぁ……あああぁぁああぁぁあぁあぁあぁ!!」

 

 その一言でハジメの頭の中は完全にめちゃくちゃになってしまった。もちろん鈴の好意には気づいていた。だからこそ鈴のためにも早くこの関係をどうにかしないといけないと考えていた。だが恵里によって自覚させられた独占欲がそれをよしとしなくなってしまう。鈴も欲しいと暴れ狂ってしまっている。

 

「ちょ、ちょっと恵里! なにハジメくんのことをかどかわそうとしてるの! いくら親友でも怒るよ!!」

 

「ふぅ~ん……じゃあ鈴はさ、今のままだとハジメくんが()()()を選ぶかぐらい、わかるよねぇ~?」

 

 恵里に揺さぶられ、平常心を失ったハジメを見て色んな意味でショックを受けていた鈴もようやく恵里を止めようと立ち上がった。

 

 ハジメが自分を思ってくれたことに安堵しつつも彼をジレンマで苦しませた恵里に怒りを向けるが、当の本人は涼しげな顔でそれを受け流し、笑みを浮かべたまま疑問を返してくる。

 

 すると鈴の体はピタリと動きを止めてしまい、何かを言おうとしても口から乾いた息以外出なくなっていた。

 

「ほら、やっぱりぃ~。だったらボクの提案が鈴にとってもお得だってわかるでしょ? そ・れ・と・も、まだボクに勝てる気でいるぅ~?」

 

「で、でも! は、ハジメくんをそそのかしていいわけじゃないでしょ! そ、そういうことじゃないよ!!」

 

 先の質問に鈴は大いに動揺していたが、それでもどうにか言葉を出す――鈴もわかっていたのだ。どちらかを選ばなければならない時、ハジメが選ぶのは自分ではなく恵里だということを。だからこそ話を逸らすべくハジメの気持ちを弄んだことに対して怒りを向けるも、恵里の余裕の表情は微塵も崩れなかった。

 

「本当にそう思ってるぅ~? 鈴は、ハジメくんがだぁ~い好き、ハジメくんも、鈴がだぁ~い好き。ほら、両想いでしょ?」

 

「だ、だめ……だめ、だよっ!」

 

 すると恵里はハジメから離れると、鈴の元へとゆっくりと近づきながら甘言をささやいてきた。ハジメは恵里を止めようとしたものの()()()手が伸びなかった。“このまま恵里を行かせてはいけない”、“恵里を止めてはいけない”と相反する二つの思いに苛まれてたハジメは恵里を止めることは出来なかった。

 

「え、恵里……だ、ダメ、ダメだよ、これ以上は、もう……」

 

 うろたえるような、何かを期待するような眼差しを向けてしまっていた鈴に、恵里は妖艶な笑みを浮かべながら耳元でささやく――。

 

()()()()()ハジメくんを幸せにしよ? ハジメくんに愛してもらおう? 大丈夫だよ、鈴。もしあっちで()()()()()()になったって、その時のイザコザでこうなった、って言えばいいんだから」

 

「あ、あぁ……」

 

「鈴もハジメくんと両想いなんだよ? それにボクと鈴の仲じゃんか。二人なら()()()よ。ふ・た・り・で、ハジメくんを独占しよう? ハジメくんのものになろう?」

 

 甘言をささやかれて自分と同じく過呼吸になっていく鈴を見てハジメは思った――僕が愛した人はとんでもない悪女だった、と。

 

 蕩けるような笑みを見せてくる愛しい少女を前に、ハジメは乾いた笑みを浮かべるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、恵里」

 

「なぁに、ハジメくん」

 

 抵抗しなくなり、その場でくずおれた鈴を尻目に、また自分にしなだれかかってきた恵里にハジメは声をかけた。

 

「……恵里は本当にこれでいいの? 正則さん、絶対怒るよ?」

 

「……仕方、ないよ。ボクにとってハジメくんも鈴もどっちも大事だから。欠かすことなんて出来ないから。それにさっき鈴にも言ったけど、異世界に行った際にゴタゴタしててこうなった、って言って通すから」

 

 自分の問いかけに弱々しく返してきた恵里を見てハジメは何も答えられなかった。以前聞いた恵里の境遇を考えれば、父の存在は最低でも自分達と同じぐらいには重いはずである。それなのに父親と自分達を天秤にかけ、それでもなお自分達を選んでくれた恵里に対してどこか優越感を抱いてしまったからだ。もちろん正則に対してかなり申し訳なく思っているのは間違いないが。

 

「それにさ、ハジメくんはボクの過去も悪いことも全部受け止めてくれたよね。責任、とってよ……」

 

 そう言って拗ねながら近づけてきた唇にハジメは自身のものを重ねる。

 

 唇越しに伝わる恵里の体温を感じながらハジメは思う――やっぱり恵里には勝てないや、と。

 

 どこか大人びてて、でも今みたいに子猫のように甘えてきて、とてつもない悪行を重ねてきた事を白状して、そして今、自分と大切な幼馴染をたぶらかしてきた目の前の少女をどうしてもハジメは嫌うことが出来ない。むしろもっともっと夢中になってしまっていることをハジメは自覚していた。

 

(本当に、恵里は悪い子だ……僕の心をこんなにかき乱したのに、ドキドキさせたのに、その癖離してなんてくれない。すっごく、悪い子だよ)

 

 ハジメの方から唇を離すと、恵里は潤んだ瞳をこちらに向けてくる。もっと欲しい、もっとしたいと訴えてくる様子の彼女を見てますますズルいとハジメは感じた。

 

「……ハジメくん?」

 

「やっぱり恵里はズルいよ……あんなとんでもないことを鈴に言ってたのに、全然嫌いになれないなんて」

 

「だって、ボクとハジメくんの仲だもん。当然でしょ? ……あ、鈴。どうしたの?」

 

 二人で見つめ合い、甘い空気の中に浸りあっていると、突如鈴がのそりと起き上がり、こちらの方へ向かってきた。そのまま無言で抱きついてきたため、どうしたのと声をかけると鈴はハジメの方を見ながらこうつぶやいた。

 

「ねえハジメくん。鈴もキス、してもいい……よね?」

 

 その問いかけに恵里も特に反対はせず、微笑みながらハジメはうなづいてそのまま鈴とも唇を重ねる――が、ここでハジメと恵里にとって予想外の事が起きた。

 

「――むぅっ!? んむぅっ!?」

 

「えっ……あー! あー! あー!!」

 

 なんと鈴がディープキスをしてきたのである。突然の事態にハジメは頭が真っ白になり、恵里も鈴を引っぺがしにかかるまで数秒かかった。

 

 その後も最初にディープキスをしたことに優越感を抱いた鈴が逆に恵里を煽りに煽って取っ組み合いのケンカとなり、しばし呆然としていたハジメも二人を止めに間に入るもののケンカはすぐには収まらず。

 

 かくして第一回トータス会議は喧騒に包まれたまま終わることとなった。

 

 なお、ケンカとその後のアレコレが終わった頃には門限がかなり過ぎており、心配した中村・谷口家の両親から電話がかかってくることに。ハジメは電話越しに、恵里と鈴は自分達の両親から直接叱られることとなったのであった……。




どこかの魔王「谷口と死んだ中村に貶された気がする」

本日の懺悔
実は元々このお話はプロットそのものすらありませんでした。この後のお話で『実はこんなことがあったよー』的な感じのネタが膨らみに膨らんで、既にプロットが出来上がっていた話を押しのけてここまでになってしまったんです……。

流石に9000字あれば書き終えるだろうと思ってて、途中6000字もいかないで焦ってたぐらいなのに……どうして、どうして……。

あ、後で“その後のアレコレ”をR18の方で書いて上げます(キッパリ)

2021/9/18
遅くなって申し訳ありません。こちらがR18シーンです。あ、割といつものノリです。
https://syosetu.org/novel/259832/3.html
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