あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは拙作を見てくださる皆様方への感謝を。おかげさまでUAが遂に50495件、お気に入り件数も509件(21/10/12 23:53現在)にまで上りました……一体何が起きてるんですか。コワイ

また星雲 輪廻さん、小説七つ球さん、あっぷるぱいさん、黒猫うたまるさん、みかん大好きさん、拙作を評価及び再評価していただき誠にありがとうございます。こうして評価していただけるのは作者にとってこの上ないことです。ありがたやありがたや。

少々完成に時間がかかりましたが、ようやくトータス転移までの話の〆に相応しい話が書きあがりました(注:個人の感想です) それでは本編をどうぞ。


二十二話 定まらない未来は確かな過去の先に

「――そっか。確かに車はいるね。どれだけトータスが広いかわからないし、移動手段が馬車だけじゃどれだけ時間がかかるか考えたくもないしね……」

 

「うん……問題は燃料なんだけどね。魔力を燃料にして、せめて一、二時間だけでもフルスロットルで動かすことが出来ればいいんだけど。それだけで大分距離を稼げるんだけどねぇ……」

 

「それでハジメくんは馬車のことも考えてたんだね。サスペンション以外にも何かいいのがないかな?」

 

 年も明け、冬休みも終わりが近づいた頃。ハジメと鈴以外の予定が悪い日が中々なかったことで開催を取りやめていた第二回トータス会議が今、南雲家で行われていた。

 

 今、話し合いのテーマとして挙がっていたのは“トータスでの移動手段について”である。城から街への移動の際に何度となく尻を痛めたせいで、トータスでの移動手段が馬車であることを恵里は覚えていた。そのため、馬車以外の交通手段でかつ自分達だけで独自に動ける方法はないかと話し合っていたのである。

 

 そこで様々な兵器を造っていたことから、自身はモノづくりに関連した天職だろうという推測を立てていたハジメが思いついたのは“車”であった。これなら馬車に必要な馬などの世話もいらず、比べ物にならないほどの速さを出せる。また自身の天職からメンテナンスも容易でかつ夜道も走れるのではないかと考えた。

 

 また人間族と魔人族、最低でも二つの国家があったにもかかわらず、戦争の情報が入ってくることはそうなかったと記憶していた恵里の発言からして自分たちのいる大陸が相当大きいのではないかとも述べたのである。もちろん意図して情報封鎖された可能性やそこまで本格化していなかった可能性もあったが、それはともかくとして移動手段を独自に持つことは悪いことではないと二人に説明したのだ。

 

 とはいえ車の構造はなんとなくといった程度しかハジメは把握しておらず、また肝心の車を動かすための燃料をどこから調達するかが問題であった。原油が採れる場所がどこかも、それを上手く精錬出来るかに関しても全然わからない。そのためあくまでも考えの一つに留めておき、無理ならば馬車の改造に着手した方がいいかもしれないとも話した。

 

「どうせだったら空を飛ぶ魔物でも手懐けられたらいいのに。いい方法が浮かばないね……」

 

「うん。そういう魔物を使うことが出来れば移動手段に関する問題も解決できるけど……どうやったんだろうなぁ、未来の僕って」

 

 鈴のボヤきに上手く返すことも出来ず、ハジメも思わずため息を吐いた。そんな二人を見て恵里もまた頭を抱える。結局この後もいい答えが出ることはなく、『とりあえずトータスに行ってから』と答えを先延ばしにするということで意見を一致する形でこの議題は終わりを告げたのであった。

 

「……そういえばさ、天職ってなんだろうね」

 

 そうして更に話し合う事一時間強。なるべく目立たないように恰好もフードのついた服やローブなどを身に着けたり、また髪の毛を現地人と同じものにするなどといったことを話し合ったり、あちらでハジメが銃を使っていたことから始まった火薬の調達とそれの難しさ、そして実際に作るまでの間に代用の武器として何がいいかなどを話し合った。そんな折、ふと鈴が先の発言をしたのである。

 

「いや、RPGとかでいう職業みたいなものでしょ。それ以外に何があるの?」

 

 呆れた様子で恵里に尋ね返され、鈴はうんうんと唸りながらもどうにか頭の中のもやもやしたものを吐きだそうと必死になって考えていた。

 

「うーん……だってさー、恵里の天職って確かネクロマンサーみたいなものでしょ?」

 

「“降霊術師”ね。まぁ実際にそうだけど。それがどうしたの?」

 

「いや、さぁ……なんかすごい変だなー、って。だって光輝君は“勇者”だし、龍太郎君は拳で殴り合う方の“拳士”で、雫は剣で切りあう“剣士”だし。香織は確か“治癒師”……で合ってたね。そういういかにもRPGの職業みたいなのに、どうして恵里だけいかにも悪役っぽい名前なのかなーって」

 

 “悪役っぽい”というのは気にしていたらしく、うっさいと不機嫌に鈴に返す恵里を見てハジメも思わず苦笑する。確かに名前の響きからしてそういうイメージが沸くのは事実であったし、何より恵里もそういうことをやっていた。とはいえそれをハジメは咎める気はなく、とりあえず聞き流していた。

 

「……まぁ、鈴の言うこともわからなくはないかな。エヒトがトータスを使ってウォーゲームをやってるみたいだし、そういったのもアリだと思ったんじゃないかな。でも確か恵里の天職って珍しくなかったっけ?」

 

「まぁね。何せ死体を自在に操れるわけだし。もしそういうのが普通にいっぱいいるんだったら、ボクは重宝されなかったと思う」

 

 そうつぶやいた恵里を見ながら、ハジメは少しだけ恵里と鈴をうらやんだ。鈴はバリアの張れる“結界師”であり、また二人とも魔法の才もあったとか。恵里は少し厳しいかもしれないが、直接戦闘に関われることに対してハジメは憧れがあったのである。

 

 実際にやることになったら腰を抜かしてしまうだろうと思いながらも、戦いに向いた力があれば二人を守れるかもしれないと考えていたからだ。ただ、実際のところは魔法でなく銃を使っていたことをふまえるとそこまで才能がないかもしれない可能性もあった。そのため二人に対してどこか気後れするところもあったのである。

 

「それでもすごいよ、二人とも……未来の僕が銃を使ってたことを考えると、そこまで魔法の才能がないかもしれないしね。不謹慎なのはわかってるけど、僕も……僕も魔法とかで恵里と鈴を守ってみたかったな」

 

 そんな気落ちするハジメを鈴と一緒によしよしとなぐさめていると、ふと鈴が何気なしにこんなことをつぶやいた。

 

「でもさ、恵里って死体だけじゃなくて光輝君も操ってたよね。それも生きてる状態で。職業に偽りありじゃない?」

 

「それはまぁ、ボクの努力のたまものだよ。“縛魂”を生きてる光輝くんにも通用するようにアレンジするのって結構大変――」

 

「待って、ちょっと待って二人とも」

 

 そんな二人のやり取りでハジメの中で何かが引っかかる――“降霊術師”は残留思念に働きかける天職である、と恵里から聞いた。ならばどうして()()()()()()()の思念に干渉できるのか。それが疑問に思えたのである。

 

「? どうしたのハジメくん?」

 

「ねぇ恵里、ちょっといい? 降霊術って、何かの魔法や技能の一つだ、って聞いたことない?」

 

 ハジメの言葉を聞いて必死に記憶をたどるも、恵里の中にそんな記憶はなかった。そこでちょっと待ってと手で制止しながらノートをめくるも、それらしき記述は一切ない。不思議に思った恵里はハジメの方を見て質問を返した。

 

「いや、ないけど……でもどうしたの? たまたま特有の技能だ、って考えればそんな不自然な――」

 

「ううん、不自然なんだ。だって――」

 

 ――捨てられてた自転車に乗って走るのと、他人が使ってる自転車を奪って使うのは違うでしょ?

 

 その一言に恵里と鈴は思わず目を剝いた。そう。結果として『自転車を自分で動かす』ことには変わりないが、それまでのプロセスが異なるのだ。信じていたものが崩された感じがして混乱してしまうも、恵里はそれを否定するべく口を出そうとする。

 

「そ、そうだけど! ハジメくんの言った通りだけど! で、でも、結局同じ思念に作用して……あれ? え?」

 

 そこで言い返そうとした時、恵里の脳裏に先程のハジメの言葉がよみがえる。

 

 降霊術が特有の技能であるならそれは死んだ人間の思念にしか干渉出来ず、生きている人間に作用する訳がない。だから当然別の技能が必要になる。だがもし、降霊術が()()をルーツとした技能であるのなら? それならば源流が同じだからやれたのだ、と考えられなくもないのである。

 

「え? それって恵里は生きてる人を操るのもやろうと思えば出来たってこと?」

 

「恵里が努力したとは言ってたし、すぐには無理だろうけどきっとそうだと思う。でも、問題はそれだけじゃないと思うんだ」

 

 そう言ってハジメはノートをめくって白紙のページを出すと、そこに書き込みながら二人に話をしていく。

 

「恵里の降霊術が何かの技能や魔法の派生だとして……きっとこの源流になったものは()()()()()()()()()ものなんだ。そうでないと説明がつかないはず」

 

 『降霊術は元々死んだ人間にしか作用しない』、『“縛魂”は生きている人間も操れる』、『降霊術のルーツは他人の魂に作用する?』とハジメが書きなぐっていく内に恵里はあることを思い出し、ハジメに声をかけた。

 

「は、ハジメくん! 確か、確かボクの使ってた魔法も――」

 

「えっと――あった。“邪纏”も“落識”も、確かに意識に干渉してるね」

 

 恵里が挙げたのは自分が鈴との戦いで使っていた魔法である。そしてそれらは念のためにノートをめくって確認したハジメの言う通り、いずれも他人の意識に干渉するものであった。

 

「やっぱり、恵里の使っていた技能も魔法も、全部この何かがルーツになってる。つまりこれは――」

 

「――ねぇ、ハジメくん。恵里。ちょっといい?」

 

「……多分同じこと考えてると思うけど、言って」

 

 不確かとはいえこうして証拠が揃ってきた中、思わず口を出してきた鈴を咎めることなく、恵里とハジメは続きを促す。すると鈴は一度うなづき、息を大きく吐いてから思ったことを口にした。

 

「恵里だけが特別なのかもしれないけれど……天職って、そのルーツ? になるものの中でその人がやれることを簡単に言っただけの目安みたい」

 

 鈴のその言葉に恵里とハジメは深くうなずいた。二人もまた同様のことを考えていたからである。自分の信じていたものが実は不明瞭なもので、まだ仮説の段階ではあるにせよこうして納得できるものを得たことで恵里は大きくため息を吐く。トータスで検証してこの仮説の通りだと確かめられれば、もしかするとハジメの役に立てるかもしれないと思って彼を見るも、その当人は何故かまだ難しい顔をしていた。

 

「どうしたのハジメくん? 何か気になることでもあったの?」

 

 恵里の言葉に少しためらいを見せた後、ハジメはゆっくりと首を縦に振った。そこで彼の口から出てきた言葉に恵里も鈴も思わず唾を飲むこととなる。

 

「もし……もし仮にこのルーツにあたる何かがあるとするなら、それはきっとエヒトも使えるはず。肉体がない可能性があるからね」

 

 その言葉に緊張する二人。それは薄々どこかで勘づいていた。神かどうかはわからないまでもそれに匹敵するであろう力があるエヒトならば、魂そのものに干渉することが出来てもおかしくはない、と。

 

「多分未来の僕をひざまづかせたのもそれの力だと思う……だから、その」

 

「ハジメくん、どうしたの? 他にも何か――」

 

 その先の言葉を紡ごうとする前に恵里は鈴と一緒にハジメに抱きしめられる。嬉しさを感じながらも、突然のことに二人は目を白黒させた。

 

「先に言っておくね。きっと解決する手段はある。だから落ち着いて」

 

「え、えっと、わかった、けど……?」

 

「う、うん。わかったから落ち着いてよハジメくん」

 

 そして二人に抱きついたまま何度か深呼吸をしたハジメから、恵里はある事を聞かれた。

 

「前に、エヒトから体を弄られた、って言ってたよね」

 

 それを聞いた途端、恵里も鈴も理解してしまった。自分達が気づかなかった――否、目を逸らしていた事実をハジメが突きつけてきた事を。

 

「やめてハジメくん」

 

「未来の僕と戦った後、召喚された国から魔人族の国へと渡っていって」

 

「やめてよハジメくん。恵里が嫌だって言ってるよ?」

 

「後で僕達と再会した時にはもう使徒のような体になってた、って」

 

「ききたくない。もう聞きたくないよ!」

 

「恵里っ!!――これは、必要なんだよ。僕達がエヒトに勝つために。その、ために……リスクを、リスクを正確に把握してないといけないんだ」

 

 大きな声を上げ、二人の体を潰れんばかりにハジメは強く抱きしめる。恵里も鈴もうめき声を上げるも、ハジメは力を緩めない。それを二人が咎めようとした時に見てしまった。ハジメの両目から涙が溢れているのを。

 

「僕だって、僕だってそうじゃなかったらいいって思ってるよ……でも、でも!! 相手は人間のことを虫ケラみたいにしか思ってないんだ! だから、だから……もし弱みがあるなら、その弱みをそのままにしたらいけない。絶対にそこを突かれる。だから、知らなきゃ……知らなきゃ、いけないんだ」

 

 涙ながらに語ってくるハジメに二人は何も言えなくなる。今から口にする事がどれだけ好きな人を傷つけるかをわかっていたから。だがそれでも恵里を、鈴を失わせない為にも、嫌われるのを覚悟の上で話そうとしている。それが理解出来たからこそ、二人は何も言わなかった。

 

「何をやったかはわからない。結局推測ぐらいしか出来ない。けれど命をモノ扱いしてるエヒトだったら、やってる可能性がある……恵里の、恵里の魂も体と一緒に弄っているのを」

 

 そしてハジメはそれを突きつける――恵里がエヒトの手でその魂が弄られている可能性を。

 

「ボクは……ボクは、どうして……」

 

 恵里の心が罪悪感と果てしない後悔で砕け散りそうになる。

 

「やだ……そんなのやだよ」

 

 恵里が何かの拍子で操られて、自分達と戦わなければならなくなる可能性が浮かんだせいで鈴の体から力が抜けていく。嗚咽が、漏れる。

 

 可能性。たかが可能性であれどそれはすさまじい絶望。それに膝を屈した二人にハジメは涙を流しながら、されど悲壮感を感じさせない声で告げる――絶対に治す、と。

 

「どれだけ時間がかかったとしても、絶対に治すから。それに、僕だってアテもないまま言ったわけじゃないんだよ」

 

 一瞬呆けた鈴と一緒に呆けた恵里であったが、ハジメの方に視線を向けると、再度ノートをめくってあるページの書き込みを指さす。そこには『香織がいつの間にか使徒の体になってた』と書かれていた。そこで二人もハジメが何を言いたいのか思い至った。

 

「別の体になってたとはいえ、香織さんは生きていた。ここにも『胸をひと突きして多分死んだ』ってあるから、きっと誰かが香織さんの魂を消える前に使徒の体に移したんだと思う……問題は、恵里以外で魂を操れる技能か何かを持ってる人が誰なのかだけれど」

 

 つまり自分以外の魂に干渉するエキスパートがいれば助かる、とハジメが暗に述べたことで恵里の心は安堵に包まれる。それは鈴もまた同様であった。

 

 まだ確たる証拠があるわけではない。しかしこうして自分がハジメと戦わなくて済むかもしれないと考えると、それだけでも十分恵里にとって救いとなったのである。

 

「やっぱり、エヒトが狙ってた奴かな?」

 

「その可能性は高いと思う。もしかすると他にもいるかもしれないけれど、こればっかりは情報がないからね。まずはその人との接触を目標にしよう」

 

「そうなるとその人……えーと、金髪の人、だっけ? とにかく、その人をどうにかして仲間にしないとね」

 

 鈴の言葉に恵里とハジメはうなづく。ひとまず恵里を救うためのプランは現状これ以上は練られないため、さてどうしたものかと三人は考え込んだ。ふとここで恵里の脳裏にエヒトのことがよぎった――もし仮にトータスに召喚されてすぐに自身の魂の異変に気づいたら? そこ経由で操られたら? という懸念を抱いてしまう。

 

「ねぇハジメくん、鈴。もし、もし仮にトータスに移ってすぐにボクが、ボクが操られたら……」

 

 恵里が心配を口にすると、鈴とハジメが彼女の体を抱きしめる。

 

「それでも、だよ。絶対に救ってみせる。未来の僕は神様モドキすらきっと殺してるんだ。愛してる恵里を救い出せないはずなんてないよ」

 

「うん。恵里を助けられないなんて親友の……ううん、恋敵の名折れだからね。私だってなんだってやるよ」

 

 二人に本気の言葉をかけられて恵里は涙を流す。親友に、愛する人に思われることがどれだけ暖かいかを実感していた。二人の思いにしばし涙を流すも、恵里は涙を拭い、二人に向き合う。

 

「お願いハジメくん、鈴。ボクを、助けて」

 

 それに二人は力強くうなずいて返し、恵里はそれに心からの笑みを見せた。

 

「えーと、門限も近いけどどうする? 話し合いは次にする?」

 

「……いや、もうこれで終わりにしよう」

 

「そうだね。トータス会議は今日で終わろう」

 

 次は何を話そうかと考えたところで時計が目に留まった鈴は恵里とハジメに問いかけるも、当の二人が返した言葉に鈴は思わず首をかしげた。

 

「恵里がエヒトに操られる可能性がある、ってことは――」

 

「ボク経由でエヒトに情報が漏れる可能性があるから、だよね?」

 

 そのやりとりで鈴は思わずハッとする。下手に会議を続けて恵里の頭に情報が蓄積すれば、その分自分達の行動がエヒトに筒抜けになってしまう。それを危惧したからこそ、恵里とハジメはこれで終わりにしようと言ったのだと。

 

「だからこれでおしまい。後は出たとこ勝負でいこう。あと、確認以外での調べ物もなし、ってことで。いいよね?」

 

 ハジメのその言葉に二人は黙ってうなずく。

 

 相手は神でなくともそれに近い存在である。そこに自分達のアドバンテージ――そう言えるかは疑問符がつくとはいえ――である現代知識が幾つも渡ってしまわないようにするために。それを理解した恵里と鈴はぎゅっとハジメを強く抱きしめる。

 

 かくして第二回トータス会議は閉幕する。エヒトへの対策のための集まりは二度と開かれることはなかった。

 

 

 

 

 

 時は流れ、約一年後の四月。恵里達は難なく入試をクリアし、晴れて目標の高校へと入学した。

 

 その入学式当日、式のために体育館に向かっていた一同であったが、恵里、鈴の表情は硬く、ハジメも恵里達ほどではないにせよいくらか強張っている。もちろんこれから高校で過ごす事への憂いや勉強に関してのものではなく、その先であるトータスの事を考えてしまったせいでそうなってしまっていたのである。

 

「どうしたのエリ、スズ? これから入学式だってのに辛気臭い顔して。どうかしたの?」

 

 声をかけてきた優花に二人は首を横に振ると、中村夫妻と谷口夫妻が苦笑を浮かべて『朝からこうなってる』と話した。

 

「緊張のせいだと恵里は言ったけれど……心当たりはある、優花さん?」

 

「いえ、特には……でもあれ、きっと何かを隠してる気がします」

 

 腕を組む正則に断りを入れ、近くまで寄ってきて小声で尋ねてきた幸に優花はそう返す。すると幸の方もため息を吐き、『やっぱりまだ無理なのかしら』とボヤく。

 

 恵里が両親とケンカをして以降、恵里も中村夫妻もお互いに歩み寄ってはいたものの、それでも以前のように過ごせてはいなかった。会話も中々続かず、お互い話しかけられると身構えてしまっている。それがいけないのは恵里も正則も幸もわかっていたが、三人とも負い目があるせいで上手くいかず。親離れこそ進んだものの未だ家族の仲が良好な谷口家や南雲家の面々は特にその様子をもどかしく感じていた。

 

「その……新参の俺が言うのもなんですけど、信じてやってください。いつかきっと話してくれると思います。少なくとも、ハジメの奴には言ってるみたいなんで」

 

 するとそこで幸利が口をはさんできた。誰もが今の恵里、鈴、ハジメに関して思うところがあるが、光輝を筆頭とした友人達はそれを明かす日が来るのを待っていた。いつか必ずやってくれると信じていた。だから信じて欲しい。そう訴えると、難しい顔をしていた正則が幸利の元に来てありがとうと感謝を伝えた。

 

「そうだね。私達もみんなのように恵里を信じてみるよ。親である私と幸が真っ先に信じてやらなければいけないのにね。重ね重ねありがとう幸利君。君達のようないい友人を持てたことに感謝しなきゃいけないな」

 

 真正面から感謝を伝えられるのに慣れていない幸利はそっぽを向いて『ウッス……』と頭を掻きながら言うだけ。彼の人となりをわかっている中村夫妻は微笑みを浮かべるだけで咎めることはしなかった。

 

「いつか、ちゃんと話してね」

 

「はいはい、わかったわかった。少なくとも大学に入る前には話すから」

 

 一方、恵里達の方も何かを隠している様子を尋ねられていたが、のらくらとかわすだけで何一つ話すことはなかった。本気で話したくないと思っているということを感じ取った香織からの問いかけに、恵里はいつも通りの対応をする。

 

「気が変わったんならいつでも言っていいからな。まぁでも手遅れになる前に言うなよ」

 

「そうよ。鈴にも恵里にもハジメ君にも助けられたんだから、今度は私達が助ける番。気兼ねなく言ってくれていいから」

 

「ありがとう龍太郎君、雫。でも、機会が来ないとちょっと無理、かな」

 

 龍太郎と雫も鈴にそう告げるも、あまりに荒唐無稽な内容であるためまだ伏せておかないといけないと考えている鈴は感謝だけ述べるに留めた。

 

「トラブルを抱えているんだったら俺でも家族にでも言ってくれ。俺は皆の力になりたいんだ」

 

「光輝ほど上手くはやれねぇけどさ、俺にも頼ってくれよハジメ。俺だって、やれる範囲でなんとかするから」

 

「うん。それは私も優花達も一緒だから。友達でしょ? 私達」

 

「そうそう。いくらだって頼っていいからねぇ~」

 

「あ、ありがとうみんな……その、力が必要になったら、よろしく」

 

 そして光輝達から声をかけられ、胸に温かいものが来るのを感じながらハジメは感謝を告げる。そしていつか起きるトータス移転後に、彼らの力を借りることへの協力を頼みながら。

 

「……出来れば静かにしていてほしいんだけど」

 

 そう不満をこぼしながらも恵里の表情には怒りや苛立ちは一切ない。困ったような様子で、でも嬉しさを感じさせる顔つきをしながら体育館へと続く道を歩いていく。

 

「まぁ仕方ないんじゃない? 付き合い長いんだし、やっぱり頼って欲しいって思うのは仕方ないよ」

 

 鈴も少し心苦しそうにしながら恵里のボヤきに答える。トータスという異世界に行かずに済むことを願いながらも、それでもきっと行くであろうことをどこか信じながら鈴もまた恵里と並んで歩く。

 

「その時が来たらみんなに頼ろう……頭下げるのは慣れてるし、みんなならきっと力を貸してくれるよ」

 

 ハジメも二人にそう言った。その発言に『じゃあ三人で頼もうよ』と恵里と鈴が返したのは言うまでもない。

 

 そうして一同は生徒の席と保護者席に、それぞれの席に別れて座っていく。そうして式のプログラムが次々とこなされていく中、恵里は思う――皆と出会えてよかった、と。ハジメくんと出会えてよかった、と。

 

 ある三人は薄っすらと見える未来を見据え、ある少年達はそんな彼らをそばで見守りながら新たな学生生活へと飛び込んでいく。その先に訪れる未来がどうなるかは、まだ誰も知らないのであった。




後は幕間を一つ、キャラ一覧を挟んでから本格的に原作に突入です(〆とは)
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