「作者はウソつきだ」 と思った読者のみなさん、どうもすみませんでした。
作者はウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです……
それでは、これからも拙作の応援、よろしくお願いします(ARKHRHK並の感想)
では拙作を見てくださる皆様への感謝を。おかげさまでUA53341、お気に入りも526件、感想数も遂に92件まで上り、評価していただいた方も51人(2021/10/24 17:51現在)にまで増えました。誠にありがとうございます。
そしてAitoyukiさん、黒鳳蝶/00さん、影響を受ける人さん、小焼け夕焼けさん、鳥生さん、拙作を評価及び再評価していただきありがとうございます。
……タイトルでお察しの通り、例の四人組のお話です。今回と次回はこれまでの投稿の中で一番賛否両論が分かれると思います。では本編をどうぞ。
月曜日。それは一週間の内で最も憂うつな始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間にため息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。
そしてそれは
「よっす」
「おう」
教室の扉を開け、隣の席の近藤礼一に軽くあいさつをすると、今日も檜山は教室の一角で盛り上がっているあるグループに目を向ける。
「なぁ龍太郎、そろそろ大会が近づいているけど調子の方はどうなんだ?」
「まぁ今のところは大丈夫だな。ここ最近は基本に立ち返ってやってるけど、ウチの師匠からも問題ねぇって言われたし」
「えーと、次の大会って来週の日曜日だよね? 頑張ってね龍太郎くん。私、応援してるから!」
「応援はいいけどこの前みたいにあんまり大きい声は出さないでね、香織」
まず目に入ったのはグループの中で一際輝いている天之河光輝とその連れの数人であった。
入学して早ひと月ほど、クラスの中でも相談役として
理由は彼らの近くにいる
とはいえ坂上が空手を修めているため確実に勝てるかわからないことと、彼は
「……ホント、相変わらずイラつくよな」
「だな」
近藤と一緒に気づかれない程度に軽くねめつける程度が限界であり、効果がないとわかっていながらもそれに今日も苛立っていた。
「クソッ、せめて八重樫がいなきゃな……」
今回も自分の送った視線に気づくことなく談笑する彼らを見て舌打ちする檜山だったが、こうしてボヤいた際に脳裏にあの悪夢が浮かび、その時の恐怖を思い出して身震いする。近藤もまた檜山のボヤきにうなずきながらも顔を青ざめさせていた。
――彼ら二人が八重樫雫を忌々しく思うのには理由がある。それは彼らが小学生だったころにまで遡り、あることを二人がやったのが原因である。
檜山も近藤も当時は立派な悪ガキであり、事あるごとにに他人をイジメるようなとんだ悪童であった。この頃はまだお互い面識はなかったのだが、そんな彼らが悪さをしながら日々を過ごしているとあるウワサが彼らの耳に入ったのである――八重樫雫は人殺しの子だ、と。
そのウワサの出所はある三人の少女であったのだが、彼らの耳に届くころには誰が流したかもわからなくなっていた。が、そんなことは彼らには関係はなかった。何故なら大手を振って暴力が振るえるからだ。人殺しの子なら別に何をしたってかまわない、と本気で考えたからである。
すぐにウワサがピタリと止まったことにも気づかずに二人は別々のタイミングで動く。先にウワサの少女と出会ったのは檜山であった。
そのそばには一人の少年がいたものの、特に構うことなく彼は二人に向けて暴言を吐く――人殺しの子が何をやっているんだ、と。
その言葉にそばにいた少年が激怒するも、怯える様子の少女を見て気をよくしていた檜山は事実を言っただけだと返し、『コイツの家は人殺しが住んでるんだ』と大声で叫ぼうとした時に彼の頬を何かがかすめた。
一瞬遅れて頬に走った鋭い痛みを感じ、そこに手を当てれば生暖かい感触が微かに返ってくる。一体何がと思って手のひらを目の前まで動かせばそこには血がついていた。それに気づいて混乱するや否や後ろからひどく冷たく、まとわりつくようなおぞましい何かに襲われる。
『所詮は子供のケンカ、と思ったけれどそこまで私の娘と門下生を馬鹿にするのなら仕方ありません。覚悟しなさい』
今まで感じたことのないもの――殺気を容赦なく叩き込まれ、檜山少年は恐怖のあまり腰を抜かしてしまう。またこのおぞましい気配のする方へとうっかり視線を向けてしまう……そこに佇んでいたのは、鬼もかくやの形相で彼をにらむ大人の女性であった。
それを見た途端に彼は失禁してしまい、そのまま気を失ってしまうのであった。
そして目を覚ました時には保健室のベッドの上におり、先ほどの恐怖を思い出して身震いする。あれと関わってはいけない、と幼心ながらに確信した。そしてベッドから降りると手元に何か紙のようなものがあった。何かと思って手にとれば、少しくしゃくしゃになった封筒――『目を覚ましたら読むように』とだけ表に書かれたものがあったのである。
普段なら一切気に留めなかっただろうが、この手紙から何故か感じ取れる妙なオーラとさっきの女の姿が被り、檜山はそれを無視できず、おそるおそる封筒を開ける。
封筒の中には一枚だけ手紙が入っており、とても簡単な一文だけしか書かれてなかった――今回は少し多めに見ますが、もし次も何かやったら子供であれど容赦しない。ただそうとだけ書かれた手紙が。
読み上げた檜山は全身の毛が逆立ち、恐怖のあまり呼吸困難になってしまう。そこでふと、保健室の先生と思しき大人の女性が机に向かっている姿を見つけた檜山は必死になって声をかける――すると、その女性が立ち上がって振り向けば、それは先程の女であった。それを認識した途端、檜山の息が止まった。
『覚えていなさい。私達はいつでもあなたを見ております』
絶望と共にその言葉が刻まれたが、この日のそれ以降の記憶を檜山は覚えていない。
それからは周りの悪ガキに何度馬鹿にされようが、イジメられようが彼が悪さを働く事はもう無くなった。いつどこであの女と出くわすか気が気でなかったのと、あの日のトラウマのせいである。
近藤もまた似たような経緯であり、そちらは徒党を組んで八重樫をイジメようとしていた。ただ、突然現れた老人にコテンパンに叩きのめされ、折檻を食らったのである。
手酷くやられた近藤少年はもう悪さをしないことを誓わされ、それを破ったらまた折檻に行くぞとだけ残して老人は去っていった。その時点でもう八重樫雫と関わろうという気は一切なくなったものの、完全に懲りたという訳でもなかった。そこで今度は別の子をイジメようとした時、またあの老人が現れてアッサリと組み伏せられてしまう。しかも耳元で『悪さをするなと言ったはずだ。仕置きが足らなかったか?』と言われて折檻を食らった時の痛みと恐怖がぶり返し、近藤も二度と悪事に手を染めることはなくなった。
なお檜山の頬をかすった凶器は未だに見つかっておらず、また彼ら二人の前に現れた大人二人が捕まったというニュースは今日に至るまで流れたことはない。そして彼らには関係ない事であったが、この件を気に八重樫雫は家族から護身目的であることを習わされることとなった。
閑話休題。
彼らが八重樫雫という少女を忌避する……というか彼女と関わることを恐れるのはこういった理由からであった。また彼女の側にいる天之河光輝にも自分たちの顔を見られていたため、それで手が出し辛いというのもあった。
そういった理由もあってあの二人に関してはまだ諦めがついた。絶対に手を出してはいけないと理解しているからだ。だが、あの四人に金魚の糞のようについてきている
「今回も優勝記念のパーティーになりそうだね」
「まだちょっと気が早いよ、鈴。まぁ龍太郎君が負けるとは思えないけどね」
「そういうハジメくんだって人のこと言えないでしょ。まぁ今回もどうとでもなるんじゃない?」
両脇に二人の女を侍らせているようにしか見えない少年――南雲ハジメだけはどうしても許せなかったのである。三大女神の一人である中村恵里に加え、もう一人の女と楽し気に話している様が心底我慢ならなかったのである。
自分
故にその後も近藤と一緒に愚痴を連ねながら時間が過ぎるのを待つしかなく、今日も授業が始まるのをただただ願いながら彼らをにらんでいた。
「よぉ檜山ぁ~、お前いっつも天之河達見てるけどホモか何かかよ~?」
「おいおい言ってやるなよ、ウブな檜山君が恥ずかしがってるだろぉ?」
ようやく訪れた昼休み。教室の一角から聞こえてくる楽し気な声と空気を放つ一団から目をそらしながらもそもそと惣菜パンを食べていた檜山のところに、中野信治、斎藤良樹の二人がやって来て、嘲笑を浮かべながら声をかけてきた。
「……何の用だよ」
「おいおいつれねぇなぁ~。折角話しかけてやってるんだからちょっとくらい愛想よくしろよ」
「そうだぜぇ~。陰キャの檜山君はもう少し俺らに感謝してくれてもいいんだけどなぁ~?」
既に食事を終えていたらしい二人に構わず、残り三分の一になったパンを噛みちぎって食べていると、不意に斎藤が檜山に耳打ちをしてきた。『南雲のヤツ、邪魔だよな』と。
「おー、お行儀がいいと思ってたけどそうでもないんだな。そういうの俺も好きだぜ」
「ま、ここじゃ話すのもちょっとアレだよな。人気のないところに行こうぜ?」
一瞬反応が遅れた檜山を見て満足気に見る斎藤と中野。そんな二人を見て何故か檜山は胸の中でくすぶっていたものが消えるかもしれないと謎の確信を抱く。そこで二人の誘いに乗ると、どうせだからと近藤にも声をかけ、一緒に二人の後をついていく。
「やっぱり、お前も南雲のヤツが気に食わなかったんだな。わかる。わかるぜ」
「やっぱり俺らと同じだったんだな。なら何を言いたいかわかるよな?」
一緒に校舎裏までついて来た檜山と近藤は、改めて斎藤ら二人に南雲ハジメのことについて尋ねられる。そこで前々から気に食わなかったことを話すと、二人はニヤついた笑みを浮かべながら檜山と近藤をながめていた。
「……ああ、そうだよ。でも、俺にだってやれない事情ってのがあるんだよ」
「こっちだっていつでも殴れたんだ。でもわかるだろ? こうするだけにあえて留めてやってるんだよ」
今でこそ恐怖で動けないものの、元悪ガキであった頃のプライドは健在であり、二人になめられないように言い訳をしながら檜山達は斎藤と中野をにらみ返していた。
「おー、怖っ。別に俺らはお前らの事を馬鹿になんてしてねぇよ」
「そうそう。ただお前らもやりたいんだったら、一緒に南雲のヤツにお灸を据えに行かないかって誘うつもりだったんだよ」
相変わらず二人は馬鹿にしたような目つきで見ていることに苛立ったものの、『南雲のヤツにお灸を据える』と聞いた途端に檜山と近藤の口角が少し上がった。やはり目の前の二人もアイツが目障りであったことに共感を覚え、自身の中の感情を肯定された気がしたのである。
「あの二股ヤロー、生意気だろ?
「そうそう。あんな陰気なオタクみてーな奴が女二人を連れてるなんて世の中不公平に思わねぇか? 俺達で正義ってのを示そうぜ?」
そう。南雲ハジメは現在、クラスの大半から敵視されている。理由は簡単。三大女神の一人と仲良くしておきながら、幼馴染だからという理由で他にも女がいたからである。
女子にとっては立派な女の敵であり、男子からすればうらやみと嫉妬の対象となっていた。また、彼のいるグループの男子からも『いい加減相手を決めろ』と呆れながら言われているのも周知の事実であるため、敵視しているクラスメイトからすれば錦の御旗が立っているようなものであった。
「ああ、そうだな……」
「確かに、俺らが正しいもんな」
だが二人はまだ躊躇していた。理由はもちろん小学生の時のトラウマである。成長してそんじょそこらの奴らには負けないと思ってはいるものの、いつまた現れるかがわかったもんじゃないからだ。こびりついた恐怖はそうそう簡単に消えてくれやしない。
「おいおい、なぁ~に尻込みしてんだよ。いくら天之河や八重樫が怖くったって、アイツ一人だけ引っ張ってこれれば問題ないだろ?」
「南雲のヤツを先にシメちまえばアイツらだって何も出来やしないさ。難しく考えすぎだって」
だが二人は事もなげにそう言う。そうだ。
「いいぜ。その話、乗った」
「だな。ビビってちゃあ“正義”が示せねぇしな。やるよ」
「おー、やってくれんのか。さっすがじゃーん檜山くーん、近藤くーん」
「んじゃあ、俺らで南雲のヤツを叩きのめしに行こうぜ! 散々いい夢見れただろうしな」
二人が了承するや否や斎藤と中野も嫌な笑いを浮かべる。校舎裏に薄汚い笑い声がこだました。
「よぉ天之河ク~ン、ちょっと話があるんだけどよぉ」
あくる日。四人は遂に計画を実行に移した。昼休みにいつものように談笑しているグループのトップと思しき天之河に斎藤が声をかけた。
「……一体どうしたんだ? 君達も俺達と一緒に話をしたいのかな?」
一瞬目つきが険しくなったものの、天之河はすぐに柔和な笑みを浮かべて話を聞こうとしてきた。かかった、と確信した中野はすかさず南雲の肩に手を置こうとするも、その途端に南雲の隣にいた中村恵里がその手を弾いてきたのである。
「なんでハジメくんに気安く触ろうとしてるの?」
それもものすごい殺気つきで。和やかな教室の空気は一瞬で冷え込み、天之河のグループの人間でさえもほとんどが軽く引け腰になっていた。
本物の殺意を叩きつけられた四人は一瞬たじろぐも、目の前の相手はただの女だと必死に思いこんで冷静を装おうとした。
また彼らにとっては関係のないことであったが、以前ハジメからイジメたくなるオーラを感じたことのある妙子がちょっとからかおうとした際、恵里からすごまれたのを思い出して腰を抜かしている。
「た、ただ、ちょ、ちょっと南雲に用が、あ、あってな……じょ、女子にも聞かせ辛いし、プライベートなもんだからさ……か、借りてもいいよな?」
近藤が三人とすぐに目配せをし、それに全員がうなずくと、すぐさま南雲の方に視線を向けた。その南雲も隣の中村恵里からモロに食らった殺気にカタカタと軽く体を震わせながらも天之河の方に視線を向ける。
「え、えっと……彼らもこうして頼み込んできたんだし、いいんじゃないかな? ほら、恵里もあんまりにらまないであげて。ね?
そう言いながら天之河、坂上、八重樫と微妙に影の薄い感じの誰かに視線を向けたのを見て、檜山ら四人は南雲のマヌケさに心底感謝した。
「……わかった。俺の考えすぎだとは思うんだが、もしハジメに何かあったらタダじゃおかないからな」
じっとにらんでくる天之河にひるむことなく、四人は彼を見つめ返す。
「わかってるよ――よし、じゃあさっそく行こうぜ!
そう言って檜山は南雲ハジメの手を引いていく。苦笑を浮かべたその顔が、すぐに苦痛に染まることになるのを他の三人と一緒に楽しみにしながら。
「……えっと、話をする場所ってここで合ってる?」
こうして四人はあまり人に目撃されることなく南雲ハジメを校舎裏に連れ込むことに成功する。目の前の
「おう。ココで合ってるぜ」
「そうそう。ココがいいんだよ。コ・コ・が」
緊張した様子の南雲がしてきた質問に斎藤と中野は口角を上げながら答える。この期に及んでまだ気づいていないマヌケ、と内心見下しながら四人はどういたぶってやろうかと算段を立てていた。顔はすぐにバレるだろうからやはり腹だろうかと考えていると、南雲は一歩下がりながら今度はこんなことを問いかけてきた。
「い、一体何をすればいいの? お、教えてくれないかなー、って……」
「くっ、くくっ……マジか」
「オイオイ本気かよ。まだ気づいてねーのかコイツ」
滑稽であった。
この後自分がどういう目に遭うのか薄々感づいていながらわからないフリをして誤魔化そうとしている。そんな馬鹿にしっかり教え込まないといけないな、と思いながら斎藤は南雲の胸ぐらを掴んだ。
「うぐっ!?」
「オイオイ、おつむが弱くってもオタクってやれるんだな。教えてくれてありがとうよ」
「だ、だから、何をする気なの!?」
「決まってんだろ。身の程ってモンを教えてやろうってんだよ」
胸ぐらを掴んでいた斎藤が南雲を軽く持ち上げると、中野、檜山、近藤はそれぞれ指を鳴らしながら周りを囲んでいく。
「ぼ、暴力はダメ! ダメだってば!!」
「ダメなのはテメェの方だろうがよ。なーに女二人も侍らせてやがんだ。ムカつくったらありゃしなかったぜ」
「ホンット、そうだよなぁ。オマエみてぇなネクラのオタクは隅っこで大人しくしてるもんだろうがよ。目障りで仕方ねぇぜ」
「やっとこれで恨みが晴らせるぜ。まぁ顔は勘弁してやるよ。俺達の優しさをしっかりかみしめ――」
檜山らが口々に勝手なことを言って殴りかかろうとした瞬間、彼らの頬を何か鋭いものがかすめる。それに気を取られた瞬間、南雲の胸ぐらを掴んでいた斎藤の腕にパシン、と何かが当たり、南雲を放してしまう。
「なっ!? 一体なにが――」
自分の身に起きたことに気づく間もなく、斎藤と中野は何者かに地面に組み伏されてしまった。
「ぐぇっ!?」
「ごふっ!?――だ、誰だ一体!?」
「随分な言い草だな。さっきぶりだろ」
その声には四人とも聞き覚えがあった。確か影の薄い奴の声ではなかったか、と。そして檜山と近藤は突然現れた斎藤達を組み伏せている相手が誰なのかを確認しようとし、理解した途端に一気に血の気が引いた。
「ひどいことをしてくれるじゃない。私達の親友をイジメようとするなんて」
八重樫雫であった。
その声はあまりに冷たく、耳に届いただけで首がすっぱりと切り落とされてしまいそうなくらいに鋭かった。
「ご、誤解だって……お、俺達は、その……」
「誤解? 『顔は勘弁』って言ってたけれど、ハジメ君の顔に何をしたかったの? それとも顔でなければ問題ないことを彼に勝手にやろうとしてたの?――答えなさい」
背中に氷柱が入れられたかのような心地となった檜山と近藤は、斎藤達を見捨てて逃げようとした。しかし――。
「なぁ、その二人を助けようとしないのか? 友達じゃないのか?」
「まぁ、どうせくだらねぇ目的でつるんでたんだろうし、そういった意識もなくってもおかしくはねぇよな。それでもまぁ、薄情だけどよ」
いつの間にか天之河と坂上が二人の目の前に立ちふさがっていた。二人からゴミを見るような目で色々と言われたものの、今の檜山達はそれどころではない。どうやればこの場を切り抜けられるか、逃げ出せるかと必死になって考えようとした時、後ろから八重樫の声が届いた。
「ああ、そういえばあなた達――檜山君と近藤君よね? こうして会うのは小学校の頃にイジメられそうになった時以来かしら?」
「ああ、やっぱり。俺の事も覚えてるよな?
二人の言葉に二人は思わず息が漏れてしまった。
覚えていた。
こいつらは自分たちの事をしっかりと覚えていたのだ。そしてそれをしっかり根に持っている。その事実をひどく恐ろしく感じた二人はマトモに動けなくなってしまう。逃げることはおろか、呼吸すら満足に出来なくなっていた。
「て、めぇ――放しやがれ!」
「ふざけるんじゃねぇぞ!! 誰かに見られたらお前らがヤバいってのわかってんのか!」
どうにかして拘束から逃れようとする二人を八重樫と影の少し薄い少年――遠藤はしっかりと押さえつけている。その表情からは一切の動揺は見えず、むしろ斎藤達の言葉を聞いて二人は冷たい笑みを浮かべた。
「そもそも人目がつかない場所を選んだんだろ? まぁ叫べば人が来るかもしれねーけどな」
「確かにそうね……でもそれなら、私達も自分の身を守るために
「一体何の証拠――」
『……えっと、話をする場所ってここで合ってる?』
遠藤に正論を言われ、八重樫が何か妙なことを口走ったため、それにキレた中野が反論しようとした時、どこかで聞いたフレーズが四人の耳に入った。音の出所を探ってみれば、天之河の手にあった携帯電話からその声が流れてきていた。
「実はね、あなた達には悪いと思っていたけれど携帯でちょっと映像を撮らせてもらったわ。私をイジメようとした檜山君と近藤君、そしてあまり素行が良くない中野君と斎藤君がハジメ君に用があるって言ってたからね。
「本当に僕に用事があるんだったら消してもらおうと思ってたんだけどね……残念だよ」
それを聞いた途端、檜山達は心臓をわし掴みにされたかと錯覚する。自分達は八重樫の手のひらの上で踊っていただけに過ぎないのだ、と。南雲が何かを言ったようだが、単語一つすら彼らの頭には残らない。このままでは破滅まっしぐら。どうにかしないと、と脂汗を流しながら必死に考えた檜山はある思い付きを口にする。
「は……ハッ! そんなもんを先公に渡したところで誰が動くってんだよ! この程度でどうにかなると思ったら大間違い――」
「誰が先生に渡す、って言ったのかしら?」
返す八重樫の言葉に檜山達は何一つ理解出来なかった。教師に渡すためのものではない? じゃあ親か? 教育委員会か? だが、親はともかく教育委員会みたいなのがこれだけで動くはずがない。そう考えてもう一度揺さぶろうとした時、遠藤があることを口にする。
「あ、雫。もしかして山咲さんにでも渡すのか? あの人確か刑事だし」
「もちろんそうね。あと
遠藤の問いかけに返事をした彼女の言葉を聞いて斎藤と中野は頭が真っ白になり、檜山と近藤は八重樫が何をしようとしているのかを理解して恐怖で股を濡らす。自分達にトラウマを与えた存在に、今の自分たちの所業を知らされるのだ、と。
「け、警察がすぐに動くワケねーだろ! 馬鹿抜かしてんじゃねぇぞ!!」
「そ、そうだ!! そんな便利に動かせる訳が――」
「あ、悪いな。実は雫の道場ってな、警察とか警備会社の人に指導してたりすんだよ。だから一応コネはあるんだぜ」
「ええ。それに道場に通っているみんなは幼い頃から私の事を気にかけてくれたから――理解、出来たかしら?」
あまりに容赦のない返しに斎藤と中野も歯の根が合わなくなってしまった。もしさっき自分達がやったことがバラされてしまったらどうなるかわかったものではない。最悪警察のお世話になって、少年院入りだろう。それを免れたとしても間違いなくクラスの中での立場が最底辺にまで失墜してしまう。そのことがわかってしまったからこそ、二人はもう何も言えなくなった。何かを言おうとする気力すら、消えてしまった。
「とりあえずもう悪いことをしないでね? 僕は別に平気だし、むしろ君達が気の毒というか何というか……」
「まったく、ハジメは優しいな……まぁ、こんなことを言えた義理じゃないが、俺達も大事にはしたくない。二度とこんなことをしない、って言うならこのデータを消す。雫の道場の人にも伝えない。それは約束する。事後承諾で悪いけど、雫も浩介もそれでいいか?」
八重樫、遠藤も天之河の問いにうなずいて返し、檜山達の方を見た。
有無を言わさぬ表情で見てくる天之河と坂上、絶対零度の眼差しで見つめてくる八重樫と遠藤。唯一、南雲だけはほんの少しだけ同情の混じった視線を彼らに向けている。
「も、もうやらないんで、ゆるしてください……」
完全に手詰まりであった。絞り出すようにして答えた中野に斎藤は力なくうなずく。檜山と近藤は既に気絶しており、どちらも口から泡を吹いていた。
かくして子悪党四人組の企みは潰えることとなった。改めてトラウマを刻まれた檜山と近藤はもうイジメをすることはなくなり、人が変わったように大人しくなった。そして――。
「あ、檜山君、近藤君。この前貸した漫画、どうだった?」
「お、おう。スッゲー良かったぜ! マジで最高だったわ」
「そうそう! 八巻の主人公が敵の軍勢相手に啖呵を切ったとこなんかホント鳥肌が立った。ヤバかったわー」
親友が自分のことを守るためとはいえどあまりに容赦なくエグいことをしたため、やられた檜山達にハジメは同情し、恵里や鈴、光輝や龍太郎といった保護者を連れた上で話しかけたのである。
そうしてハジメなりの方法で彼らとやり取りをした結果、大介と礼一も漫画を中心にオタクの道に引きずり込まれたのである。
「そっか。じゃあ今度新刊が発売されるみたいだし、良かったら買ってみたら?」
「おう、考えとくわ」
「あー、出来れば貸してくんねぇ? 今月ちょっと小遣いがピンチでよ……」
「なにハジメくんにタカろうとしてるの? 自業自得でしょ」
「あー、ハジメ。俺もそれ気になるから後で貸してくれ」
「あ、いいよ二人とも。ほら、恵里。僕の事はいいから、ね?」
こうして監視付とはいえ、二人も光輝らのグループの一員となったのであった。
ちなみに今の彼らの最大の悩みは、見覚えのある老人と女性がたまに視界に入ることである。
本日も懺悔のコーナー
やらかしました(白目)
いやね、起承転結のあらすじを書いてた時点で承の部分がちょーっと長くなっちゃったんですよ。それを一度たたき台として書いてたら起と承のほとんどでここまで長くなったんです……ええ、実はまだちょっと承の部分残ってます。なんで次は残った承と転、結の部分のお話になります。
あと雫が檜山にイジメられる部分がありましたけど、実はあそこ冗長になると思って簡単なあらましにしています……下手したらこれよりも更に伸びた可能性があったんです。不思議ですね(遠い目)