あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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ではまずは拙作を見てくださる皆さまに感謝を。おかげさまでUAも58000オーバー、お気に入り件数も563件、感想も遂に100件にまで上りました。誠にありがとうございます……あのー、確かランキング入りしてなかったはずなんですけど、どうしてここまで増えてるんですか(gkbr) 片方はキャラのまとめだったんですけど、2話連続投稿の力ってここまですごいんでしょうかね(白目)

それとAitoyukiさん、拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。こうしてまた評価をいただけるのは作者としても励みになります。

今回の話からようやく原作が始まります。では本編をどうぞ。


第一章
二十三話 日常の終わりと共に幕は上がる


 月曜日の早朝の河川敷に今日も規則正しく駆け足が響く。その音を響かせているのは八人の男女であり、県の進学校に通う高校生であった。

 

「ねぇハジメくん、大丈夫? 昨日おじ様のところで頑張ってたんでしょ?」

 

 その中の一人、中村恵里はペースが少し落ちてきた少年――南雲ハジメに寄り添うように並走し、彼の顔を覗き込むように見ていた。

 

「大丈夫。日付が変わる前には戻ってきたし、何日もぶっ通しでやってた、って訳でもないからね」

 

「でも辛そうだしペース落とそうよ。学校行く前にへとへとになっちゃうよ」

 

 何でもない様に微笑むハジメであったが、恵里と一緒にハジメと並走していた谷口鈴が彼を気遣って声をかける。現にハジメの顔色は少し悪くなっており、今こうしてついていくのも少し辛そうであった。

 

「よし、それならペースを落とそう。最後の一周だし、時間に影響しないだろうから」

 

 そしてこのグループの中で先頭を走っていた天之河光輝の鶴の一声で全員が一斉にペースを落とすと、他の仲間も次々とハジメを気遣って声をかけてきた。

 

「もう、ハジメ君。辛い時にあんまり無理しちゃ駄目よ」

 

「だな。雫の言う通りだぜ。辛い時はちゃんと素直に辛い、って言え」

 

 軽い呆れ顔で八重樫雫がつぶやけばそれに坂上龍太郎が同意する。しかしその視線は理解のある優しいものであった。

 

 その理由はここにいる全員がハジメの両親が漫画家とゲーム会社の社長であることを、そして数年前から両親の家業を手伝い始めたことを知っているからだ。今回も父親の方の無茶振りにつきまわされたことを()()していたが故に全員はハジメを労わったのである。

 

「そうだよハジメ君。ついていくのが辛い、って言ってもみんな聞いてくれるよ。ね?」

 

 そして白崎香織がそう言えばハジメを除く全員がそれにうなずく。

 

「親父さん達の仕事がハードなのは俺らだって()()()()んだから遠慮なんかすんなよ」

 

 遠藤浩介がそう述べると、ハジメと恵里を除いた全員*1の脳裏にあの日のことが浮かぶ――職場見学と称して鉄火場に連れていかれてながめていたり、実際に参加させられた時の記憶であった。

 

 愁の時はまだマシであった。やっているのがゲーム開発であるため、最低限のレクチャーをしたところですぐに使い物にならないのは目に見えていたからだ。仕込まれていたハジメと恵里以外はその代わりに色々とパシられたが。

 

 菫の時は酷かった。〆切が近くなってからやっとネタがまとまったこともあってか修羅場となっていたのだ。つまり道連れにされたのである。小学校の頃から師事を受けていた恵里はハジメと一緒に原稿を、手先の器用な子はトーン貼り、他は買い出しなどを担当することになり、全員が等しく地獄を見たのである。

 

 思い出した途端、気持ちと一緒に全員のペースが沈んだ。恵里もまた朝っぱらから嫌なものを思い出してブルーな気持ちになったものの、頭と一緒に振り払い、わざとらしくせき払いをすると全員に声をかけた。

 

「あー、コホン……はいはい、とりあえず考えるのやめやめ。あとちょっとなんだし早く走って終わらせよう。あの日の事はいつでも思い出せるんだし、二人への愚痴だっていつでも言えるんだから」

 

 手を叩きながらそういえば全員がそれにうなずいて気持ちを切り替えていく。ハジメに次いで大変な思いをしている恵里に言われて情けないとほとんどが思ったからだ。ハジメもまた恵里なりに気を遣ってくれたことを理解しているため、みんなに(なら)って沈んだ気持ちを払っていく。

 

「うん。ありがとう恵里、それにみんな。じゃあ走ろっか」

 

「うん」

 

「よし。じゃあ最後の一週、ハジメのペースに合わせながら終わらせよう!」

 

「他にも辛い人がいたらちゃんと言ってね。辛い時はちゃんと言う、いいわね?」

 

 礼を言ったハジメに柔らかな笑みを浮かべて返事をしたところで光輝と雫が号令をかける。日課のランニングを終わらせるべく全員が駆け出していった。

 

 

 

 

 

 そして皆と一旦別れ、家に戻った恵里は母へのあいさつもそこそこに自室から制服と着替えの下着を持ってすぐに風呂場へと向かう。着ていたものを全て脱ぎ捨て、これまた日課となった朝のシャワーでかいた汗をしっかり洗い流していく。全身をまんべんなく流し終えるとすぐに浴室を出て、用意していたタオルで体を拭いていく。そうしているとある事が恵里の脳裏をよぎった。

 

(――やっぱり、この世界は違うのかな)

 

 高校に入ってから特によくよぎるようになった疑惑であった。高校にいた時にトータスに転移したことだけは覚えていたものの、いつ頃、どの時間帯で起きたかはもう完全に思い出せなくなっていたからである。

 

 いつ起きたかを把握していないせいで、通学し、学校にいる間中ずっと神経をとがらせては肩透かしに終わる日々が続いてしまう。そんな日々が何か月も続いたことで、恵里の脳裏に『トータスに行くことはないんじゃないか?』という考えがこのように浮かぶようになってしまったのだ。

 

(未だにトータスに行く気配なんてない……いや、それならそれでいいんだけど。だったらハジメくんと鈴と、みんなとずっと穏やかな日が過ごせるならそれで……)

 

 日を経る毎に薄れていく過去の記憶。本当はあれはもの凄い悪い夢で、ただの空想だったのではないかと考えてしまうこともある。

 

 しかし幸から虐待された時の恐怖や苦しみ、光輝を自分のものに何としてもしたいと滾らせていた様々な負の感情などは到底偽物であったとは恵里には思えなかった。そしてそれを偽物だと認めてしまったら、今わの際で鈴と和解できたあの記憶すら嘘だと認めてしまうことにもなる。

 

 だからこそ恵里は過去の記憶をまがい物とは絶対に認めない。記憶の彼方となってしまったかつての親友を侮辱しないために。

 

「恵里、もう朝ご飯出来たけど支度は出来た?」

 

「――あっ。ご、ごめんなさい! す、すぐ終わらせるから!」

 

 今日もまた気づかぬ内に考え込んでしまっていたらしい。

 

 すぐに体の水分をふき取り、髪を乾かして下着を身に着け、シャツと制服に袖を通していく。急いで自分の席に座ると、『いただきます』とさっと手を合わせてつぶやき、下品にならない程度に速く朝食に箸をつけていく。

 

「なぁ恵里、悩みがあるんだったら相談してくれないか? お父さんとお母さんが駄目なんだったら、この際ハジメ君でも鈴ちゃんでもいい。心配なんだ」

 

「そうね。ねぇ恵里、高校に入ってからよく考え込むようになったじゃない。もしそれで辛いなら言ってくれないかしら」

 

「……いつか、言うから。だからその時まで待っててくれないかな。お父さん、お母さん」

 

 時間も場所も違えどこのやり取りをやるのも、もう数えるのがおっくうになる程にやっている。両親を心配させたくないとはいえ、本当のことを言ったところで頭の具合の方の心配に変わるしかないのはわかっていた。だからこそ今日も恵里は口をつぐんでいる。

 

 最後にコップの中の水を飲み干し『ごちそうさま』とだけ伝え、自分の部屋に戻って姿見で出かける前の最後の確認。そして学生鞄を手に取ってすぐに玄関へと向かう。

 

「いってきます」

 

 両親の返事を待つことなく半ば逃げるようにして今日も恵里は家を後にする。いつか明かせる日が来ると信じながら。そして中学の頃から恒例となったハジメの家へと向かっていく。

 

「あっ、さっきぶり恵里……今日も聞かれたの?」

 

「鈴……うん。今日も、聞かれた」

 

 同じく習慣となっている鈴と合流し、南雲家に向かいがてら胸の内をこぼす。性格や振舞いが違えど親友であることに変わりない鈴に、自分の秘密を知っている鈴に恵里は何も隠したくなかったのだ。

 

「……そっか。確かに夢だったらこうして悩んだりしなくても済むもんね」

 

「うん……でも、でもさ――」

 

 それでも、と言おうとした恵里の唇に人差し指が当たった。そこで鈴の方に顔を向けると、少し苦し気な様子で鈴はこちらを見ていた。

 

「わかってるよ。何度も聞いてるからね。でもほら――」

 

 そう言って前方に指をさせば、もう南雲家と目と鼻の先まで近づいていた。そのことに少なからず恵里が驚きを見せていると鈴が言った。

 

「ハジメくんにそんな顔の恵里、見せたくないから。ね? ここでおしまいにしようよ」

 

「……うん、そうだね」

 

 鈴の言葉にうなずくと恵里はもう考えるのを止めてしまった。ハジメが自分のことで苦しまないように。彼の笑顔を曇らせないように。

 

 そして家のインターホンを押すと、ほんの少しの間を置いて待ち望んでいた少年が姿を現した。

 

「待たせてごめんね恵里、鈴」

 

「ううん、全然待ってないから」

 

「うん。じゃあ行こう、ハジメくん」

 

 そして今日も恵里と鈴はハジメと手を繋ぎ、先程まで浮かべていた暗い様子を見せることなく雑談に興じながら一緒に通学路を歩いていく。

 

(また恵里が何か隠してる……僕にも言ってくれていいのに)

 

 ただ、つき合いの長いハジメからすればバレバレであったが。とはいえそれが自分のためでもあるということも何となく感づいてはいたため、あえて口にはせず、二人がそうしてくれたようにおしゃべりを楽しむことにした。

 

「「おはよう優花、奈々、妙子」」

 

「あっおはよう優花さん、奈々さん、妙子さん」

 

 そして学校までの近道に差し掛かった辺りで見知った顔と出くわした。後ろから声をかければいつもの三人が今日も元気な様子を返してくれた。

 

「あっ、エリ、スズ、それにハジメも。おはよう三人とも」

 

「おはよう。今日も相変わらず仲いいね」

 

「おはよう恵里、鈴、ハジメ君。今日も手を繋いで歩いてたんだね~」

 

 恵里達は今日も園部優花、宮崎奈々、菅原妙子の三人とここで合流する。優花とは小三のクリスマスの頃からの仲であり、奈々と妙子は彼女を通じて友人となった。

 

「そういえば今度優花が発案したのがメニューに載るんだっけ?」

 

「そうそう。何回も試作を繰り返してたのがやっとなんだよね〜」

 

「もうタエっ! 恥ずかしいからそれを言わないで!!」

 

「あはは……じゃあ今度行った時にあったら頼んでもいいかな?」

 

「そうだね。試作の段階で結構美味しかったけど、どんな具合に仕上がったのか、みんなで食べてみるのもいいね」

 

「あーもう! エリもハジメも!!」

 

 恥ずかしがって顔を真っ赤にする優花をイジったり、ここ最近扱ってるコーヒー豆を変えたことで香りが変わった事などを話しながら道を進んでいると、下ネタなどを交えた雑談をしながら歩いていたあの五人を見かける。

 

「――いやいや、デカいのも小さいのも等しく価値はあるだろうがよ!! ロリ巨乳だってロマンあるじゃねぇか!!」

 

「待てオイ幸利! どうしてお前はそんな両極端にしか考えねぇんだ!! それなりにあるのがいいんだろうがよ! ロリにしては大きく、されど大きすぎず。そのバランスってのが大事なんだよ!!」

 

「っかー、これだからロリコンどもは。いいか、いつの時代もボンキュッボンの大人のオンナってのが普遍の真理だろ!! おっぱいも尻もデカいのが一番だろ一番!!」

 

「ていうかなんでお前らそこまで盛り上がれるの? 俺そこそこあればいい、って言ったんだけど。怖っ……」

 

 今日も今日とて清水幸利、檜山大介、近藤礼一、斎藤良樹、中野信治は馬鹿な話を往来でやっていた。その様子を優花と奈々はゴミか何かを見るような目つきで眺め、妙子は今日も軽く引いていた。

 

「ねぇハジメくぅ~ん。胸は大きい方がいいよねぇ~?」

 

「ねぇねぇハジメくん。小さい胸の方が好きだよね?」

 

「えっと、その……誰か助けて」

 

 なお、恵里と鈴は幸利らの話に乗っかり、体を密着させながらハジメに質問していた。そしてハジメは助けを求めるも、優花ら三人からは一瞥された後に見捨てられる。ちなみに以前、『どっちも好きだよ』と答えた時は怒った二人に両すねを蹴られ、『二人を好きになったのはそこじゃないよ』と答えた時はちょっとだけ頬を赤くしながらも恵里と鈴に尻をつねられている。そして今は二人からの圧が凄い。ハジメは割と詰んでいた。

 

「ロリも大人もそれぞれの良さってもんが……お、ハジメに恵里に鈴か。よう。相変わらず仲いいなお前ら」

 

「「「「あ、どもーっス先生! あと中村さんも谷口さんも!」」」」

 

「あ、うん。おはよう幸利君。それと大介君達も……出来れば先生はちょっとやめてほしいかなー、って。あと助けて」

 

 ようやく存在に気づいた幸利が、五人の中で真っ先にハジメに声をかけた。彼とは中学からの友人であり、ハジメにとっては恵里と鈴以外でディープなオタクトークが出来る貴重な人材でもある。なお恵里と鈴からは『あの四人と絡んだせいでアホになった』と軽くげんなりしており、ちょっと距離を置かれている……こうなる前はハジメ以外のオタク友達として普通に接していたのだが。

 

 そしてハジメに向かって上半身を45°倒してあいさつをした残りの四人――檜山大介、近藤礼一、斎藤良樹、中野信治らは高校に入ってからの知り合い……というか悪友みたいなものである。ハジメに一方的に絡み、その後八重樫に関わった人達にトラウマになるレベルでシバかれた彼らをハジメと浩介が色々と手を尽くしたのがきっかけで関係を持つことになった。

 

「いやいや無茶言わないでくれよ! あんな素晴らしい()()をもらっといて頭下げるな、って無理があるぜ! あ、あとそっちのことはそっちでどうにかしてくれ。眼光だけで殺される……」

 

「そうだよマジで!! あの()()()()のおかげで俺達が何度救われたかわからないからそんなこと言えるんだよ!! あ、俺も死にたくないんで自力でどうにかしてくれぇ……」

 

 大介と礼一がそう言うと良樹と信治もそうだそうだと同意して『先生』呼びは撤回せず、また恵里と鈴を敵に回すのは全力で避けた。そんな四人を見て恵里も鈴も呆れる他なく、先生先生連呼されたハジメも『お願いだから往来で大声で言うのはやめて!!』と顔を真っ赤にしていた。

 

 ……彼らがこうまでハジメに感謝しているのも、彼が恵里と鈴の監修(かんし)のもと、父親や母親の仕事の伝手を頼りにちょっと()()()()()のマウスパッドを作り、それを彼ら四人と幸利、浩介に送ったからである。以前彼らにプレゼントしたエロ絵のこともあってか四人からの好感度は青天井もいいところであった。

 

「あーもう、ったく……おーいお前ら、盛り上がってるトコ悪いけど、急がねえと遅刻すんぞー。それと、あんまりハジメを困らせるなよ二人ともー」

 

「え、マジか清水!?……うわ、マジだ。おい大介、礼一、信治、そろそろ行こうぜ。あと先生すまねぇ、お先ー!」

 

 流石に哀れに思ったのか幸利が助けを出してくれたおかげで大介達は学校目掛けて駆け抜けていき、恵里と鈴もちょっと顔をむくれさせながらもハジメから仕方なく離れた。後でちゃんと尋ねておこうと考えつつ、優花らと今週の予定などを話しながら早足で学校へと向かう。

 

「幸利、優花、それに奈々と妙子もおはよう……そういえばハジメ、さっき檜山達が通り過ぎたんだがまたアイツらに変なこと言われなかったか?」

 

 そして学校から百メートルそこらのところで光輝達と合流した。ちなみに何度も顔合わせをしている内に多少免疫がついたものの、未だに猥談を振ってくる大介達は苦手なためか、光輝と雫の彼らの扱いはこんなものだったりする。

 

「うん、大丈夫。別にそこまで心配しなくっても平気だよ。いつものように持ち上げられただけだし」

 

 ハジメの発言に女性陣は軽く疲れた様子で、幸利は普通にうなずいたことで光輝もそれ以上の言及は止めた。光輝はああ言っているものの、あくまで悪ふざけの範疇であることもわかっているからだ。単にハジメが心配なだけである。

 

 一方ハジメとしては下ネタを交えて話が出来る相手は貴重なのと、彼らのノリに慣れたこともあってか気にはしてなかった。下手なことを彼らが言ってしまうと、恵里から背筋が凍りつくような気配を放ってくるため、話を選ばざるを得ないのが結構大きかったりするのだが。

 

「我慢は……してなさそうね。時々ハジメ君の図太さには驚かされるわ」

 

 特に何でもない様子のハジメをじっとながめた雫は、まだ苦手意識がある大介達と平気で接している彼を見て何とも言えない表情になった。

 

「うんうん。まぁ図太い、っていうかハジメくんもこういうの好きみたいだしね。男の子、ってこうなのかも」

 

「……そうなの龍太郎くん? 龍太郎くんも、その……こういうこと、好きなの?」

 

 雫の言葉に軽く呆れながら恵里が返すと、今度は香織の方に飛び火する。少し頬を染めた香織からじっとりとした目で見つめられ、タジタジになった龍太郎は思わず後ずさり、『頼むから勘弁してくれ……』と少しうつむきながらボヤいた。

 

 今日も今日とて恵里達は賑やかに登校し、全員同じ教室へと入っていく。すると嫌悪や嫉妬、敵意が入り混じった視線が今日も彼らにぶつけられた。

 

 その理由は簡単で“()()南雲ハジメと親交のあるグループだから”というものであった。

 

 彼は三大女神と呼ばれる恵里だけでなく、鈴とも仲睦まじくしている。そのため幼馴染や親しい友人以外の男子達はハジメに嫉妬を、女子達からは女の敵として並々ならぬ敵意を向けているからである。そしてそれは彼を“正そう”としない恵里達にまで及んでいるのだ。

 

「よし、じゃあ話の続きは休憩の時にしようか」

 

「わかった。じゃあね光輝君」

 

 ただ、恵里達からすれば屁でもない程度でしかなかったが。

 

 恵里は前世? で戦いに身を置いた時の記憶が微かなれどあったため、この程度のものはそよ風と大差がない。また他の面々は恵里がたぎらせた“本物の殺意”というものを何度も浴びてしまっているため、結果として耐えられるようになってしまったからである。

 

 ……流石に恵里が殺意を露にした時は、一番親しいハジメと鈴であっても完全に耐えることは無理だったりするが。他は言わずもがな。

 

 そうして全員が光輝の言葉にうなずいてそれぞれの席に着いていく。それを眺めていた生徒達は今日も不満げにそれを見ていた。

 

 

 

 

 

「しかしまぁ、お前ら見てると飽きねぇよなぁ」

 

「……藪から棒に。どうしたんだ斎藤」

 

 そして午前の授業も終わり、昼休みを迎えた恵里達は今日も昼食を教室でとっていた。食事をしながらにぎやかに話をしていると、突然良樹が光輝と雫、龍太郎と香織を見てニヤついた笑みを浮かべた。

 

「いや、だってよぉ。小学校からの仲なのにウブなつき合いしてる天之河と八重樫とかさ、あとまぁ……うん。白崎と坂上とかよ」

 

「あー、わかる。色々と振り切ってる先生と違って『子供か何かか!』ってツッコミたくなる感じだもんなぁ天之河たちって」

 

「だよなぁ、わっかるわー。んで白崎はさ、こう……珍獣だろ? それに坂上が振り回されてるの見てると面白ぇし」

 

 その斎藤の言に信治と大介も乗っかり、礼一もそれに深くうなずいている。それを見て顔を真っ赤にして反論する四人と、良樹達の言葉に礼一と同様に共感する幸利、浩介、そして優花ら五人。そんな彼らを横に恵里、鈴、ハジメの三人は今日も自分達が作った弁当のおかずの食べ比べをしていた。

 

「あ、今日のハジメくんの玉子焼きはダシ使ってるんだね。この味付けって鈴の家のじゃない?」

 

「うん。鈴から普段家でどう作ってるのか教えてもらってさ。アレンジも入れてみようかとは思ったけど、最初の内ぐらいはいいかなー、と思ってね」

 

「いやでもすごいよハジメくん。確か電話でレシピ教えただけのはずなのに、私やお母さんが作ったのと結構そっくりなんだもん」

 

 小一のバレンタインでのチョコ作り、ホワイトデーでのクッキー作りがきっかけとなって料理の方にも三人は手を出していた。今日作ったのもその一つで、特に両親が仕事で家を空けることの多いハジメは自炊の経験が多く、三人の中でも抜きんでいた。こればかりは恵里も鈴も悔しがっている。

 

 ちなみに三人が弁当作りの際に微妙だったもの(なお、あくまで三人での基準である)は大介ら元いじめっ子グループにタッパーに入れてあげていたりする。ただ捨てるのももったいないと感じ、よく惣菜パンを食べている彼らにどうせだから食べてもらおうとハジメがやり出し、それを恵里と鈴も乗っかったからだ。その結果、四人はますますハジメに頭が上がらなくなり、恵里と鈴に関しても持ち上げるようになったのである……なお、その四人からおかずのリクエストをされることもよくあり、ハジメ()それを受けている。結構ちゃっかりしている奴らであった。

 

「……今日も何も起こらないといいね」

 

 そんな折、ふとハジメがつぶやいた言葉に恵里と鈴は静かにうなずいた。恵里の辿った未来の通りなら、いつか自分達は異世界であるトータスに行くことになるからだ。

 

 こんな騒がしくも楽しい毎日が終わり、血生臭く、狂った宗教が幅を利かせる世界で生きなければならなくなる。記憶のある恵里でさえもそれを考えるだけで気分が滅入ってしまう。ハジメと鈴も覚悟こそしているものの、待ち望んでなどいなかった。

 

 家という安全な場所で、両親ととりとめのない話をすることすら出来なくなることの辛さを何となく予想出来ることもあってか、三人はその日が来ないことを心から望んでいた。

 

 そうして弁当もあらかた食べ終え、恵里が最後のおかずに箸をつけようとした時、突如教室で光があふれる――まさかと思って視線を光源に向ければ、純白に輝く魔法陣が光輝の足元に浮かんでいた。

 

「――ハジメくん! 鈴!」

 

「――うん! これを、えいっ!」

 

 すぐに恵里は二人に声をかけると、懐から折りたたんだ紙を取り出して投げつけた。ハジメと鈴も同じことをすると同時に魔法陣は教室全体を満たすほどの大きさに拡大する。

 

 無論魔法陣は恵里達の足元まで迫っており、この日が来てしまったと苦い顔をしつつも隣にいるハジメと鈴を見る。二人も不安そうな顔を浮かべるも、顔を見合わせてすぐにキッとした表情になった。覚悟を決めた顔つきの二人を見て恵里も腹をくくる――。

 

(絶対に生きて帰ってやる。ハジメくんも、鈴も、友達も、()()()()()()()に!)

 

 生徒達が悲鳴を上げ、教室で生徒達と食事をとっていた畑山愛子先生がとっさに『皆! 教室から出て!』と叫ぶと同時に魔方陣の輝きが爆発したかのように光った。

 

 数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、三枚の紙片、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

 

 教室に残っていた生徒及び教師含め二十四名、そしてある二名が行方不明となったこの事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして、大いに世間を騒がせ、何世帯かの保護者達にある疑惑を抱かせることになるのだが、それはまた別の話。

*1
Q.どうしてハジメと恵里は思い浮かばなかったの?

A.単純にそういう記憶が多いから




Q.監修のルビって「かんしゅう」じゃないの?
A.両方やってたから。監修も監視も。

いやーマジで、マジで長かった……他の方がすぐに原作に突入している中、ここまでやたらと時間かけてやっとありふれ本編が始まるの作者ぐらいだもの。マジで焦ったし、じれったかったわぁ……(やり切ったような顔)
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