おかげさまでUAも61000オーバー、しおりも221件まで上り、お気に入り件数も595件(2021/11/12 18:35現在)になりました。誠にありがとうございます。ようやくプロローグに入ったとはいえ、原作に足突っ込んだ途端にこの跳ね上がり方クッソエグいです……怖っ。
それとトリプルxさん、黒鳳蝶/00さん、philさん、Aitoyukiさん、拙作を評価及び再評価していただきありがとうございます。まだ原作の序盤もいいところですが、こうして評価していただけるのはありがたいです。
ではようやく始まったエリリンの「つよくてニューゲーム」な本編がスタートです。どうぞ。
『――ほぅ。また妙なものがいるな』
全てが白一色で塗りつぶされた世界で独りつぶやいたのは実体のない蠢く“何か”であった。遥かな高みより大地を見下ろすそれは、ある少女を見つめていた。先ほど別の世界から己の依代となる者を引きずり出した際、一緒について来てしまった人間の内の一人である。
その女はほんのわずかに魂に穴が空いていた。それも生きていく中で支障をきたすような代物でなく、この存在が持つ権能に都合がいいといった具合のもの。いわば抜け穴のようなものである。
干渉した世界に自身を脅かす存在がないことは既に認識しており、故にその存在が不可解であった。このような穴は自然と出来るものではない、とこの存在は知っている。ならば一体誰がやったのか? それだけは全知全能を騙るこの存在もまだ見当がつかなかった。
関心を抱いたソレは、自身の手足となって動く
『もしやもすると、とんだ拾い物かもしれぬな』
誰にも気づかれることなく、大きな悪意が今、蠢いた――。
光の奔流に目をつむっていた恵里は、ざわざわと騒ぐ何人もの気配を感じて目を開く。そして静かに状況をうかがった。
まず周りを見れば、やはりあの時教室にいた人間――友人含むクラスメイトと愛子先生がいる。何故か光輝や龍太郎らが浩介を探したり、呼び掛けている様子であったが、それ以外は前と同じだったはずと考えた恵里は、ひとまず想定通りに動いている事に安堵した。
そこでふとハジメと目が合う。彼もまた現状の把握に努めていたようで、それがありがたく感じた。お互いうなずき合うとすぐに近寄り、ほぼ同じタイミングでこちらに来た鈴と一緒に小声で話し始める。
「ねぇ恵里、ここが……」
「うん。まず間違いないよ。ボクが最初にここに来た時もこんな感じだった気がするし」
「やっぱり……ねぇ恵里、あそこの絵って、もしかして……」
ハジメの質問に答え、いぶかしげに一点を見つめる鈴の指差す先に目を向けた恵里はソレを見て思わず舌打ちをした。あの忌まわしいエヒトの描かれた肖像画である。
自然を背景にそれら全てを包みこむかのように両手を広げている中性的な顔立ちの人物が描かれたモノ。しかしうっすらとではあるものの、エヒトの本性を知っている恵里からすればあれなど自分達に都合がいいただの宗教画でしかない。軽く鼻を鳴らすと、独り言のように鈴に話す。
「あー、うん。間違いなくエヒトの絵だね。全然違うけど」
恵里があの絵を一瞥した際の心底嫌そうな顔を見たハジメと鈴は、エヒトが真っ当な神様などではない事を改めて認識する。そんな二人を横に恵里は再度状況の把握に戻ろうとすると、ハジメが軽くうろたえたような様子を見せ、一体何があったのかと思って彼に声をかけた。
「どうしたのハジメくん、何かあった?」
「いや、その……どうも鷲三さんと霧乃さんもここに来てるみたいで」
彼の近くにいたままであった鈴共々その一言で固まってしまう。前に大介や礼一が二人の姿が見えると漏らしたことがあったが、まさか本当に近くにいたとは思わなかったからである。ここにいる理由もきっと雫を助けようと教室に飛び込んだからなんだろうと推測する。ちなみに大当たりであった。
二人曰く、今のところ自分達と浩介の姿は光輝以外の八重樫に関わった人間にしか気づかれてないらしく、今はとりあえず気配を断って見に徹するとのことだった。なお、あの二人が既に説明したからなのか、浩介を探す声はもう聞こえなくなっていた。
「そういえば浩介君も全然姿が見えなかったけど、すぐに気配を消したのかな? こんな状況でも動けるなんて流石だよ」
「きっとそうかも。鷲三さんや霧乃さんの教えが活きたんじゃないかな」
「何にせよ好都合だよ。悟られずに動ける人間がいる、ってだけでやれることはかなり増えるからね。助かったよ浩介君」
三人が口々に言う中、どこかで『何でか誰にも気づかれなくなっただけなんだよぉ~。どうして異世界に来たら影の薄さが酷くなるんだよぉ~~。あんまりだぁぁああぁああぁ~~~~~~~』と情けない声が響いた気がしたがきっと気のせいだろう。
そして恵里達は周囲にいる人間の確認に移る。自分達は巨大な広間にいるようで、見た感じとして彫刻の彫られた巨大な柱に建物全体が支えられ、天井はドーム状になっている。また周囲をこうして周囲を見渡せることから自分達は台座か何かの上にいるのだろう。
(……確かあのエヒトの使いっ走りとしてボク達はここに来た、って名目だったはず。そう考えると申し分ない演出だね、まったく)
心の中でそう吐き捨てつつ、自分達に向けて祈りを捧げるように跪き、腕の前で両手を組んだ人達を恵里は見下ろした。
彼等は一様に白地に金の
その内の一人、法衣集団の中でも特に
尤も、老人というにはあまりに雰囲気が違ったが。恵里の目にはこの男から狂信のソレが映って見えている。身に纏った装束と見た目から、確かこの世界の宗教のトップだったはずだと朧げな記憶を探っていると、その老人がにこやかな笑みを浮かべて話しかけてきた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
イシュタルと名乗った老人をじっと観察し、どうにか目をつけられない様に動かないと、と恵里は考える。とにかく腹の内を見せない様努めつつ、恵里は不安を装った。
イシュタルから場所を移して話をしたいという旨を伝えられ、恵里達は今、彼らの案内に従って通路を歩いていた。未だにざわついているクラスメイトに光輝が声をかけて音頭を取ろうとし、親しくないクラスメイトから『お前が命令するな』と反発されたり、光輝に白い目が向けられたものの、どうすればいいか分からず結局彼の言に従うなど若干の手間はあったが。
クラス間の不和がまずい方向に働いているため、どうすれば解決できるか頭を悩ませていると、不意に光輝が小声で話しかけてきた。
「なぁ恵里、それとハジメと鈴もなんだけど……もしかして三人は何か知っているのか?」
「私もハジメくんも鈴も知ってる……それだけしか言えないかな。
「今晩にでも話し合おうよ。出来れば畑山先生も巻き込んで、ね」
そこにハジメも来てくれたおかげか、あまり納得してない様子ながらも『わかった』と光輝は引き下がってくれた。自分達を見てため息を吐いた龍太郎や雫に幸利、ほほを膨らませて少しすねてる香織に悪いと思いながらも、恵里達はもう話をせずにイシュタルについていく。
そして全員が先ほどの場所から、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通された。
この部屋も例に漏れず煌びやかな作りであり、素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。
恵里達は光輝らと共に案内され、上座に座った光輝からちょっと離れた席に恵里は座る。その隣にハジメ、鈴と座り、幸利や大介ら、そして他のクラスメイト達や先生も着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイド達が入ってきた。
秋葉原などにいるエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。それ故か大介ら四人とあまり親しくないクラスメイトの男子達は好奇と欲をそそられ、彼女達を凝視している。尤も、そんな男共を見た女子たちの視線のいくつかは氷河期もかくやという冷たさを宿しているのだが……。
(タイミングが良すぎる。どう考えても計算してるな)
馬鹿四人の行動に心底呆れながらも恵里は観察と推測を止めず、容姿の優れたメイド達のことも警戒していた。自分達を呼んだ目的である戦争参加――前にこの話を聞いてた時は他の女をどう排除して光輝を手に入れるかについてひたすら考えていたため、その程度しか覚えていない――のための布石、おそらくハニートラップの類だろうと考える。
すると横にいたハジメもメイドを見ながら何やら思案しており、鈴もそれが気にかかったか自分と同様に彼を覗き込んでいた。
「ねぇハジメくん。これってもしかして……」
「うん、鈴の考えてる通りだと思う」
小声で鈴とやり取りし、こちらに視線を向けてきた二人に恵里もうなずいて返す。さっきの広間のような場所に三十人近く人がいたことも踏まえれば、この時点でエヒトから入れ知恵されたか、あちらが何か策を巡らせていると恵里は考えていたからだ。
ふとハジメが視線を動かしたため自分達もそれを追うと、緊張している様子の幸利が目に入った。初対面の人に対するものもあるのだろうが、あの表情の険しさは何かに警戒しているように恵里は思えた。やはり彼も考えているのは同じなのだろう。
しかしここであまり話を続けて下手に警戒されるのもまずいと考えた恵里はハジメと鈴に目配せをし、事の成り行きを見守ることにした。
なおその後、あちらを欺くためなのか本心なのかは知らないが『メイドさん、いいなぁ……』とハジメが馬鹿なことを言いだしたため、鈴と二人で思いっきり両ももをつねってやった。悲鳴を上げたがそんな事は知らなかった。
そうして全員に飲み物が行き渡ったのを確認したのかイシュタルが話を始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話を聞きながら、恵里はやっぱりろくでもないなと心の中で嘲る。早い話が戦争で負けそうだから助けてくれ、といったものでしかなかったからだ。
人間族と魔人族が何百年も戦争を続けており、今までは人間族が兵士などの数で上回ってたのもあって拮抗していたものの、いつの間にか魔人族が魔物を従えたことで質と量を伴った戦力を得たということである。このままでは負けてしまって人間族が滅ぶからどうにかしろといった程度だった。少なくとも恵里にはそうとしか聞こえなかったし、どうでも良かった。
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか
イシュタル曰く、人間族の九割以上が創世神としてエヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。
とはいえ恵里からすればこの国や信者共の都合なんて知った事ではない。ましてやエヒトの言葉に疑いもせず、嬉々として従うならば尚更だ。そんな老人らを恵里は心の中で鼻で笑うと、一度近くにいた友人たちを見やった。
ハジメと鈴は何とも言えない顔をしており、鈴に至っては『何から何まで恵里の言う通りだぁ……』と漏らす始末。
一方、光輝はいつものお人好しぶりが出てるのか助けようか迷っている様子だが、自分達の方をよくチラチラと見ている辺り、皆を巻き込む訳にはいかないと考えているのだろうと恵里は察する。
龍太郎は嫌悪感をおもむろににじませており、相手の勝手な都合で巻き込まれたことに対して怒っているのだろうと恵里は思った。
雫の方も龍太郎と同じく怒りが表に出ているものの、少しばかり表情が硬いように見えた。光輝が手を握っているからなのか体の震えはないようだが、内面は誰よりも女の子しているあの雫のことだから戦争に参加することへの恐怖があるのだろうと恵里は感じた。
そして特にひどいのが香織、優花、奈々、妙子であった。戦争に参加させられるということをおぼろげながらも認識しているのか、抵抗や恐怖で顔がこわばっている。そのせいか香織の右腕の向きからして龍太郎の左手を掴んでいるようだし、優花らはせわしなく目を合わせている。
一応大介達の方も一瞥すると、お互い顔を合わせて色々と話し合っている様子だった。そして自分達以外でこの状況を最も理解していると思われる幸利に何かを尋ね、思いっきり顔を青くしていた。他のクラスメイトも似たようなもので、動揺が広がっている。
そんな中、突然立ち上がって猛然と抗議する人が現れた。愛子先生である。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で生徒からは非常に人気があると恵里は聞いている。
百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿を見て当初は『あぁ、そういえばこんな先生いたな』と感じていた。
そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒がいるようだが、恵里からすれば鈴と一緒にハジメとイチャついてる時に不純異性交遊がどうのと突っかかってくる嫌な相手の一人でしかなかったりする。
“愛ちゃん”と愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。なんでも威厳ある教師を目指しているのだと言っているが、恵里自身嫌っている事もあってか、なれる訳がないと考えていたりする。
そんな先生が今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。そんな先生と、「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる様を見ていた生徒達を横に恵里は事態を静観していたが、次のイシュタルの言葉に少なくない人間が凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようである。まぁこうなるのも当然かと思いつつも恵里も不安そうな表情を作ってイシュタルを見やった。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
愛子先生が叫ぶも、イシュタルは動ずることなくその問いに答える。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とすと、周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
当然のごとくパニックを起こす生徒達が現れる。動じてないのは自分とハジメ、そして鈴ぐらいで光輝も龍太郎も顔色が悪くなっている。浩介と思しき気配も少し強まっている辺り、彼も相当ショックを受けているのだろう。香織ら女子達や大介達は言うまでもない。
「皆! 一旦落ち着いてくれ!!」
確かここで光輝がクラスメイト達を落ち着かせるべく大きな声を上げたはず。そう恵里が思い返していると記憶の通り光輝が声を張り上げる……ただ、その声を上げた当人を見れば幾らか焦っているように恵里には見えた。現状家に帰る事も出来ず、戦争に参加して魔人族を倒さなければ地球には帰れないとなればああなるのも仕方がないと恵里は思った。同時にそんな事をあのエヒトがしてくれる訳がないとも考えていたが。
「落ち着いてなんていられるかよ! 俺達家に帰れないんだぞ!!」
「そうよ、何言ってるの!」
「お家帰りたい……どうして、どうしてこんな……」
「天之川、本気か? 今この状況で落ち着け、なんてやれると思うのか?」
しかし光輝の言葉は彼と交友関係を持つ自分達以外には届きはせず、かえって混乱を招いてしまっていた。
「いや、ここで言い争っててもどうにかなる訳じゃ――」
「じゃあアンタがどうにかしてくれる、っていうの!」
「そうだそうだ! 南雲に肩入れしているようなヤツが何抜かしてるんだよ!」
恵里とハジメそして鈴を除く友人らはあの一言で立ち直れはしたものの、それ以外のクラスメイト―― 永山重吾をリーダーとしてまとまっているメンバーは光輝を罵倒したり、否定的な意見を今もぶつけている。
「あ、あの、みんな落ち着いてー! 天之川君だけを責めないでくださーい!!」
(確か光輝君の言葉でどうにかなったはずなのに! クソッ、ハジメくんと友達になってたことがここまで後を引くなんて……!)
愛子先生も落ち着くよう声をかけているものの、好転する兆しは一向に見えない。だから“愛ちゃん先生”なんて言われてナメられるんだ、と心の中で貶しながらもどうすればいいと考えていると、いきなり光輝が机をバンと叩いた。
「いい加減落ち着いてくれ!!――すいません、イシュタルさんでしたよね?」
大きな物音を立てて全員が怯んだ瞬間、すぐに光輝はあの老人に声をかけた。すぐに話をつけてどうにかするつもりだろうと考えた恵里は、とりあえずまたクラスメイトが騒ぎ出した場合を考えつつ、光輝を注視する事にした。
「ええ。どうされましたかな」
「皆さんが俺達を呼んだ経緯はわかりました。ですが、俺達はそもそも戦争のない平和な世界にいたんです。いきなり戦争に参加するよう言われてもすぐに決断するのは難しいです。経験なんてありませんから」
実際戦争そのものが無かったわけではないが、こっちの方が有利に働くのだろうと光輝は考えたのだろうと判断した恵里は、ひとまずイシュタルの方へと意識を向ける。
「ですが、この世界の皆さんが藁にも縋る思いで俺達を喚んだこともわかってるつもりです。ですから少し、考える時間をいただけませんか」
「なるほど。勇者様がたの世界はそのような場所だったのですね」
物腰こそ柔らかいものの、その瞳からは静かな怒りが燃えているように恵里には見えた。おそらくエヒトの使いとして寄越された体の自分達が喜んで使命を果たそうとしないことへの苛立ちだろうと恵里は推測する。他の信者にも目を向ければ疑惑や怒り、失望が彼らの目から見られる。もしやかなり悪い方向に流れてるんじゃないかと内心焦っていると、光輝は更に話を続ける。
「近いうちにクラスの皆と話もつけます。それでどうか、戦争に参加するのは志願した人達だけにお願いできませんか?」
そう言って席を立ち、頭を下げると、また友人でないクラスメイト達から『勝手に話を進めるな!』だの『戦争がしたいならアンタ達でやってよ!!』と口々に勝手なことを言いだしてきた。止まらないヤジに宗教関係の人間からの厳しい目。これは本気で不味いと軽くパニックになりながらどうすればとひたすら思案し、『こうなったらハジメくんに相談だ!』と半ば思考放棄しかけた時、思案する素振りをしていたイシュタルが口を開いた。
「ふむ。では一度この場はお開きにしましょう。皆様もいきなりのことで困惑されているご様子。日を改めて話し合いの席を設けようではありませんか」
そう言ったことで光輝は安堵し、ヤジを飛ばしていたクラスメイト達も少し鳴りを潜めた。だが、その言葉を聞いた恵里は目の前の老人の狡猾さに舌を巻く他なかった。
一見、光輝の提案を受け入れたかのように話しこそしたものの、実際は彼の提案に対して明確な回答は何一つ無かったからだ。またこのままでは意見をまとめるどころかグループが真っ二つに割れてしまうのは目に見えていた。それを防ぐためにも言ったのだろう――自分達が頼れる大人であることを暗にアピールしながら。
(クソッ、イシュタルの奴め……ここまで上手だとは思わなかった。せめてボクかハジメくんが光輝君の隣だったらこっそり入れ知恵が出来たってのに)
自分が考えていたよりも厄介であった聖教教会の長を前に、計画をどこまで見直すべきかと恵里は考えを巡らせるのであった……。
なお自分に都合のいい強化ばかりではない模様。