あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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割烹で告知していたエイプリルフールのお話です。なお間に合わなかったため分割となります(白目)


今回の話を読むにあたっての注意点を幾つか列挙させてもらいます。

・本作及び前のエイプリルフールのお話がちょろっとだけ関わってきます。

・今回の話は『ありふれ原作のキャラ』に対してアンチ・ヘイトをするつもりで書いたつもりではありません。

では上記に注意して本編をどうぞ。


四月馬鹿なお話「月下の語らい_if」(前編)

「ふぁ……もう寝よっかな」

 

 宿備え付けのテーブルセットに座り、借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を読んでいた南雲ハジメはふとあくびを漏らす。学校生活で鍛えた居眠りスキルは異世界でも十全に発揮されるらしく、後で司書からしかられないようゆっくりと図鑑を閉じた。

 

 ――彼を含む地球のある学校のクラスメイト達はある日、唐突にトータスという異世界に転移してしまった。そこでエヒトという神のお告げによって魔人族とやらと戦わされる羽目に遭い、その訓練の一環として明日からこの世界における有数の危険地帯である七大迷宮の一つへと挑むことになったのである。

 

 【オルクス大迷宮】と呼ばれるそこは新兵訓練によく利用されるようで、自分達が所属するハイリヒ王国お抱えの宿もある宿場町【ホルアド】にハジメ達はいた。

 

(好きに寝れるのは一人部屋の特権……うん。そうだ)

 

 なお他のクラスメイト達は最低でも二人部屋という扱いなのに彼だけ一人部屋である。部屋に通された時と同様、軽く負け惜しみ気味に心の中でつぶやくと彼はベッドに横たわる。後は押し寄せる眠気に身をゆだねるだけであった。

 

(ん? ノック?……誰だろ)

 

 ウトウトとまどろみ始めたその時、ハジメの睡眠を邪魔するように扉をノックする音が響いたのである。両親の手伝いなどで普段から徹夜しているハジメからすればまだ早い時間ではあったが、ここトータスにおいては十分深夜にあたる時間だ。

 

(まさか……檜山君達!? うわ、やだなぁ……)

 

 怪しげな深夜の訪問者に警戒し、もしや自分をイジメようと檜山達がやってきたかと想像してハジメの表情はこわばる。しかしその心配は続く声で杞憂に終わった。

 

「あの、南雲くん……起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 どこか心細そうな彼女の声色を聞き、なんですと? と一瞬硬直するもハジメは慌てて扉に向かう。そして鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「なんでや――へっ?」

 

 衝撃的な光景に思わず関西弁でツッコミを入れようとしたハジメだったが、それは未遂に終わった。何故なら――。

 

「南雲くん……好きです」

 

 いきなり香織が彼に抱き着いたからだ。そして上目遣いでいきなり好きだなどと言うものだから完全にハジメの思考がフリーズしてしまったのである。

 

「え?……えーと、隙あり、です?」

 

「ううん……好きなの。私、南雲くんが好き。好きなの」

 

 さては聞き間違いかと尋ね返すが、潤んだ瞳で貴方が好きですなどとのたまうものだから頭がバグってしまいそうになった。何故? どうして? 一体僕のどこに惚れた? とにかく疑問符が浮かぶもそれも香織の可愛らしいくしゃみで消えてしまう。

 

「くしゅん!……あ、ごめんね! 服、汚れてない?」

 

「だ、大丈夫ですから! そ、その……」

 

 自分の服を気遣うならせめて抱き着いたままなのをどうにかしてくれ。正直そう言いたかった。このままでは理性が削れそうでたまらないのだ。だがハジメは頭の中に沸き上がる煩悩を抑え込みながら香織にあることを提案する。

 

「と、とりあえず僕の部屋に来ない? 流石にここに立ちっぱなしじゃ体が冷えるだろうし」

 

「あ……うん! お邪魔するね!」

 

 やたらとウキウキした様子の彼女と一緒に彼は自室に戻る。一体どうして部屋に来た? というか会うなりいきなり好きだのハグだのこんな情熱的だったか!? と頭の中に無数の疑問を浮かべながら。

 

 ――これはもしもの話だ。

 

 もし白崎香織という少女が神代魔法への適正が他の並行世界より高かったら? 最低でも空間魔法、再生魔法、昇華魔法の適性が本来の彼女よりあったら? ある吸血姫に及ばずとも高い適正を持っていたのなら? その『もしも』が成り立った時の話である。

 

 

 

 

 

ありふれた職業で世界最強 ~月下の語らいIf_月夜の誓い~

 

 

 

 

 

「あ、あの……な、南雲くん。あの、ね……」

 

「え、えっと、何でしょうか……?」

 

「あ、えっと、その……な、何でもないの……」

 

 香織の消え入るような声に思わず反応したハジメであったが、彼女は結局縮こまったまま何も言わない……部屋に入るなりすぐに窓際に設置されたテーブルセットに上機嫌で座った彼女だったが、程なくして自分が何をやったかを理解したらしく顔を赤くしてテーブルに突っ伏したのである。

 

「その……もうすぐお茶、出来るから」

 

「あ、はぃ……」

 

 今はイスの上で少し縮こまっているだけなため、少しは回復したのだろうと思いつつもハジメはお茶の準備をしていた。ハジメとてまだ混乱しているが、とりあえずお客様なのだからと意識を切り替えたのである。そうしないと正直落ち着けなかったという理由が大きかったが。

 

「えっと、どうぞ」

 

 といっても今彼が用意していたのは、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキでしかなかったりする。そんな紅茶のような何かを香織と自分の分を用意すると、そのひとつを香織に差し出して向かいの席に彼は座った。

 

「あ、ありがとう……」

 

 おずおずといった様子でそれを受け取ると、香織はほほを染めながらハジメに微笑みを向けた。窓から差し込む月光に照らされ、学校にいた頃とはまた違う神秘的な美しさを彼女は放っている。またしてもハジメはドキリとしてしまい、心臓が早鐘を打ってしまう。

 

(――キレイだ。白崎さん)

 

 相変わらず顔は赤いままなものの、嬉しそうに紅茶モドキに口を付けている。月の光のおかげで彼女の黒髪にエンジェルリングが浮かんでおり、まるで本当の天使のようだとハジメは思わず錯覚しそうになった。

 

 ――南雲くん……好きです。

 

「っ!――ぐぇっ! ゴホッ、ゴホッ……」

 

 ふとハジメの脳裏に香織の言葉がリフレインする。部屋を訪れるなり漏らした言葉は破壊力が高すぎた。学校で『二大女神』と呼ばれた彼女から好意を寄せられるなんてあまりに非現実的で、頭がどうにかなりそうになってしまいそうになった。どうにか気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干したがちょっと気管に入ってむせてしまう。

 

「な、南雲くん。大丈夫?」

 

「だ、だいじょぶです……ゲホゲホ」

 

 ちょっと心配そうに声をかけてきた香織に手を前に出しながらハジメは大丈夫だと伝える。正直恥ずかしくて仕方がなかったため、それをごまかそうとハジメはずっと気にかかっていたことを口にする。

 

「それで、その、いきなり部屋に来たけどどうしたの? それに、いきなり好きだなんてその……」

 

 学校にいた頃からずっと自分を気にかけていたのはわかるのだが、まさか危険な大迷宮に挑む前に告白なんてしてくるとは思わなかったのだ。一瞬、頭の中に『死亡フラグ』という不吉な文字が浮かびこそしたものの、とりあえずそれを横に置いて彼女の真意を尋ねてみた。

 

「あ、えっと……」

 

 ところが肝心の彼女は口ごもってしまい、目も伏せてしまっている。ほほが未だ赤いことから気恥ずかしさを感じているのだろうと思ったが、下手に突っ込むのも不味いだろうと思いながらハジメはフォローを入れる。

 

「その、言いづらいんだったら無理に言わなくてもいいから」

 

「う、ううん! その、言わないといけないと思ったから!……そのために、来たから」

 

 気にならないと言えばウソにはなるが、それでも彼女から無理矢理にでも聞きたいとまでは思ってはいない。だからそう伝えはしたのだが、香織は何度も顔をブンブンと横に振っている。手に持ったカップをじっと見つめ、何度か深呼吸をしたところで香織はハジメの方に顔を向けた。

 

「貴方が好きです」

 

 カップを置くと、両手を胸の前で組んで頬を真っ赤に染めながら香織は告げる。その声にかすかな震えが伴っていたことにハジメは気づけない。再度真っ向から好意をぶつけられてそんな余裕が無かったからである。

 

「そ、その、えっと、僕は……」

 

「それともう一つ、お願いがあるの」

 

 学校にいた頃から度々声をかけてくれたのも、構っていたのもそういうことだったのかとハジメは思わず顔がにやけそうになっていた。口元が緩みそうになるのを必死に我慢しつつ、どう返事をすればいいのかと迷っていたハジメに香織が更に何かを頼み込んできた。だが彼女の思いつめた様な表情に彼もつられて真剣な表情になる。

 

「うん。何をすればいいの?」

 

「明日の迷宮だけど……南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

 話している内に興奮したのか、身を乗り出して香織が懇願してきたせいでハジメは困惑する。クラスメイトと比較して全然ダメだという自覚はあったが、だからといってここまで必死な様子で反対するのは少し変ではないかと思ったからだ。

 

「えっと……確かに僕は足手まといとだは思うけど……流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……」

 

 もしや好きだと言った自分に傷ついてほしくないのだろうか。そんな見事なうぬぼれを何とか腹の内に留めながら尋ねてみるが、対する彼女の反応は()()期待通りであった。

 

「違うの! 足手まといだとかそういうことじゃないの!……でも、その」

 

 足手まといではない。彼女がそう言ってくれたことに思わず胸が熱くなるハジメであったが、最後の歯切れの悪い言葉が気にかかってしまう。

 

 視線をどことなくさまよわせ、『うーん』だの『えっと』だのと香織は要領を得ない言葉ばかり漏らしている。もしや何か思い詰めているのだろうかと考え、自分を好きだと言ってくれた彼女のために何かできないかと思ったハジメは彼女に問いかけてみた。

 

「その、良かったら聞くよ。でもその、無理に言わなくていいから」

 

 気にならない訳ではない。けれども無理に聞き出そうともハジメは思わなかった。自分に好きだと言ってくれた彼女に幻滅されたくないという思いもあったし、それ以上に気になったのが彼女の様子だ。普段から自分に対してグイグイ来るのにどうして言いよどんでいるかが気にかかったからである。

 

「だって、えっと……南雲くんも信じられないと思うから」

 

「それは聞いてから考えるよ。僕なんかで良かったら、だけどさ」

 

 不安がっている彼女が少しでも安心できるように、と言葉を選びながらハジメは返していく。香織は何度か部屋のあちこちへと視線を飛ばすと、長く息を吐いてからハジメと目を合わせる。

 

「……笑わないで聞いてね?」

 

「努力するよ」

 

 じっとこちらを見つめ、おそるおそる問いかけてきた彼女にハジメも真剣な表情で短く返す。一度ゆっくりとうなずいてから香織は語り始めた。

 

「さっき少し眠った時にね、夢を見たの」

 

 夢という単語を聞いてなるほどとハジメは思った。子供っぽい悩みなどとは言わない。何せ今自分達がいるのは日本でも地球でもなく異世界なのだから。これまで過ごしてきた日常とは大きくかけ離れているし、実践も伴った戦闘の訓練などもあったことを考えればストレスでいっぱいになってもおかしくはなかったからだ。

 

「夢? どんなものなの?」

 

「うん……すごい、変な夢。リアルなんだけど変な夢だったの」

 

 だからそういう不安が夢と言う形で表れて彼女を苛んだのだろうとハジメは考え、続きを促す。しかし彼女は一瞬眉をひそめながら返事をした。リアルと言ったのも気になったし、一体どういうことかと思いながらもハジメは香織が続きを話してくれるのをただ待った。

 

「だって、その……どこかの洞窟みたいなところに私と南雲くん、雫ちゃんと恵里ちゃん、それと金髪の変な子がいる夢が()()に見えたから」

 

 その内容を聞いて確かに変だとハジメも思った。八重樫雫はわかる。彼女や天之河光輝、坂上龍太郎といった面々とも親しいのだから夢に出てきても不自然ではない。それと恵里、というのは確か眼鏡をかけたナチュラルボブの少女だっただろうかとハジメは思い返した。

 

「そう。その、僕達は洞窟の中でどうしてたの?」

 

 ただそこに妙な登場人物が紛れているのがハジメは気にかかった。あまり彼女が表立って誰かを悪く言うのは聞かないからだ。一体どんな子なのかと軽く野次馬根性が出てしまい、思わず尋ねてみれば香織は軽く顔をうつむかせてしまう。

 

「うん……その、ね。夢の中だと私も南雲くんも雫ちゃんも恵里ちゃんも白髪で目が赤くなってた。あと南雲くんの背がおっきくなってたの」

 

「うん」

 

「それで、その洞窟の中で魔物……かな? 何か生き物を解体してそれを焼いて食べてたり、水みたいなものを飲んで我慢したりしてた。すごい痛みも感じたよ」

 

 唐突に差し込まれた複数の情報を聞いて『いやそれ本当に僕達なの?』と思わず聞き返しそうになったが、それをこらえつつハジメは相づちを打つ。どうやら夢の中の自分達は洞窟の中で狩猟生活でも営んでいるらしい。痛みまで感じる辺りどんな夢なのやらと思いながらもハジメは耳を傾けていた。

 

「それでね。夢の中で私と南雲くん、イチャイチャしてた」

 

「……うん」

 

 それいるかなぁ? とまた口から疑問が出そうになった。どうしてそんな情報が出るのかもわからなかったが、流石にそれを口にするのは駄目だとじっとこらえる。彼女が勇気を出して話してくれているのだからとハジメは話を聞くことにただ集中する。

 

「あーんしたり、してくれたりしてたんだ。でも、でもね……雫ちゃんにもやってたの」

 

「……うん。そう」

 

「あとたまに恵里ちゃんにも! どうして……二人ともそんなに親しくなんてなかったはずなのに」

 

 その情報いる?

 

 またしても疑問が口から飛び出そうになったが、ハジメは手を強く握ってじっと我慢する。話の腰を折るのは駄目だ。せっかく彼女が不安を吐き出してくれているのだからとツッコミを入れぬようただ耐えた。

 

「でもまだ二人はいいよ……それよりすごい美少女の金髪の子が変なの」

 

「うん」

 

「だって……だってその子、私達に向かってよく両手を合わせて拝むんだもん!」

 

「な……そう、なんだ」

 

 『何それ』と思わず口を出しそうになってしまった。妙と言えば妙ではあったし、香織が涙ぐみながら変だと言ってしまうのも納得出来たからだ。

 

「それにその子、私達のこと様付けしながら呼んでくるんだよ! 目を輝かせながら『香織様、雫様、恵里様』って! 南雲くんもだよ! しかもトリップしてるイシュタルさんみたいな感じで! すごい怖いの!」

 

 そりゃ確かに怖いとハジメも納得するしかなかった。見ず知らずの相手に恍惚の表情を浮かべながら様付けされて呼ばれるとか地味に恐怖を感じたからだ。いくらガワが美少女といっても中身がイシュタルもどきじゃ流石にハジメだってノーサンキューである。

 

「あれ? 今の声ってカオリン?」

 

「そうだね。多分香織ちゃんかも」

 

「そっか。確かにそれは怖いよね。あの、でも白崎さん。ちょっと声が大き――」

 

 いくら夢だからってそりゃあ不安にもなるし、笑わないで聞いて欲しいなんて言う訳だとハジメはひとり納得する。とはいえ今は夜だし隣の部屋の人に迷惑だからと香織を軽くたしなめようとした。

 

「その次の夢もね、似てたの。ただ……南雲くんの腕が片方無い状態だったけど」

 

 だがナチュラルに無視されてちょっとハジメは傷ついた。確かに『最初』と述べてたのだからまだ夢が続いていることに気付くべきだったのだが、それはそれとして話をさえぎられたのはちょっぴり辛かった。でも光輝や檜山達よりはマシかなと思いつつ、ハジメは再度耳を傾けることに専念する。

 

「そっか。その夢だと僕の腕が……」

 

「うん。痛々しくて見てられなかったよ……それを理由に夢の中の私があーんしたり南雲くんの体洗ってたりしてたのすっごくうらやましかったけど! うらやましかったけど!!」

 

 夢の中とはいえ自分の腕が無くなってると聞いてちょっとエグいと思ったが、それはそれとして結構うらやましい目に遭ってるなとハジメも共感する。

 

「あとその夢の恵里ちゃん、やたらと南雲くんにツンツンしてたし、それを私も雫ちゃんも南雲くんもとがめてなかったのが変だったよ! 時々恋する女の子みたいな顔してたけど! あと金髪の子が怖いの!」

 

 他にもさっきの夢と内容の差はあったらしい。誰も中村恵里がそんな態度をとっていることに言及しない辺り、夢の中の自分は彼女に一体何をしたのだろうと気にはなった。ただその疑問も例の金髪の子関連のことですぐに消えてしまうが。

 

「その夢でもニコニコしながら私達のお世話しようとしてたし、私達の首筋に噛みついたりしたんだよ! しかもすごいうっとりしてて気持ち悪かった! 誰も顔が引きつってるだけで止めなかったの!」

 

 そりゃ怖いとハジメも思わずうなずいてしまう。まぁ首に噛みつく辺りその女の子は吸血鬼か何かだろうかとふと頭の片隅にそんなことがよぎったものの、その推測はとりあえず頭の中にしまい込んでおくことにした。

 

「でも、でもね。まだ良かった」

 

 ふとそこで香織は話を打ち切ってしまう。話振りからしてまだ続きはあるようだが、これと同等もしくはそれ以上が出るようだ。とはいえ一体何が飛び出してくるかわからなかったため、香織に気遣いの言葉をかける。そのついでに彼女に隣の部屋に配慮することを伝えた。

 

「続きがあったみたいだね。でも無理には言わなくていいから。あと声抑えて」

 

「あっ……うん」

 

 今度は自分の意見が通り、香織も顔を赤くしながらも苦笑いを浮かべていた。別に急がないからとハジメが改めて伝えれば香織もそれにうなずいた。そうしてしばらくの間お互いの身じろぎする音だけが部屋に響いていたが、意を決した様子の香織が遂にその夢のことについて語り出した。

 

「……その、ね。三番目の夢も洞窟の中だったの。でも」

 

「でも? 何が違ったの?」

 

「うん……いっぱい人がいたの。南雲くんはもちろん雫ちゃんや恵里ちゃん、鈴ちゃんや優花ちゃんに光輝君、檜山君達やメルドさんもいたんだ」

 

「多いね」

 

 相づちを打ちながら話を促せば、今度はやたらと人が多くなっていた。名前がわかるだけでも八人いるとか中々登場人物多いなと思わずハジメもつぶやきを漏らしてしまう。

 

「うん。すごく多かったよ。二十人ぐらいいた。永山君や野村君、辻さんや吉野さん、相川君達ぐらいだけだったよ。いなかったの」

 

 とんだ大所帯である。それなら確かに二十人ぐらいはいるはずだし、何がどうしてこうなったのやらと思わずハジメは顔が引きつってしまう。

 

「それにね、そこって洞窟の中のはずなのにお風呂とか革張りのベッドとかソファーとかあったの。岩か何かで出来た台所もテーブルもイスもあったよ」

 

「それ本当に洞窟?」

 

「本当だよ!……うん。これだけでも変な夢ってわかるよね」

 

 まあまあ耳を疑う内容に思わずハジメもツッコミを入れる。洞窟の中にいる癖に妙に現代的な生活様式をしているのだ。いくら夢でも整合性ぐらいなんとかしろよと心の底からハジメは思った。これだけでも香織が乾いた笑いを浮かべるのも無理は無いなと同情を寄せた。

 

「でもね……すごい、すごい変だったの。だって、だって……」

 

「白崎さん、無理なら別に言わなくってもいいよ?」

 

「ううん、言わせて……その夢の中だとね、光輝君と雫ちゃんが恋人同士だったの!」

 

 目を大きく開き、身を乗り出しながら訴えてきた香織にハジメも首を縦に振るしかなかった。圧がすごかったし、彼女の言い分もなんとなくわかったからだ。

 

「うるっさいわね……折角人が休んでるって時に」

 

「そうだよね。白崎っち、どうしたんだろ……まさか南雲っちが泣かせた?」

 

「そ、そっか……そういう関係じゃないのに、夢だと違ったことに驚いたんだね」

 

 言われてみれば確かに光輝と雫はそういう関係性ではないような気もしなくもなかった。ハジメの知る限りでは雫は光輝のフォローに努めているようにしか見えなかったからである。そのことをオブラートに包みながら言えば香織は何度も首を縦に振り、話の続きを……更に突拍子もないようなことを口にしていく。

 

「それだけじゃないの……南雲くんが恵里ちゃんと鈴ちゃんと恋人っぽい感じになってたの! 一緒にご飯作ってたりとかお風呂入ったりとか!」

 

 真ん前で香織の大声を受けてハジメは思わず軽くのけぞってしまう。確かに言われてみれば中々意味の分からない情報の列挙であった。

 

「は? 何言ってくれてんの香織」

 

「え、エリリン……? こ、怖いよ……?」

 

「っ!……な、なんでもないよ。鈴、皆」

 

 別にハジメは中村恵里と谷口鈴どちらと親しいという訳でもない。むしろ香織関連のことで非難してる側だろうと当人は考えている。今回自分に好意を持ってたことを明かしてくれた香織でもないのにどうして、と思うのも無理は無かった。

 

「あとね、あとね! 全然理由がわかんなかったんだけど私、龍太郎君と恋人になってた! 私、龍太郎君とそういう関係じゃないのに!」

 

 その告白を聞いておっふ、と思わずハジメは息を漏らしてしまう。この部屋を訪れた直後に伝えてくれた好意が本当であることを再認識出来たものの、まさかその原因がこんな夢だったとは。ハジメも何度目かわからない苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「頭、頭がすっごくおかしくなりそうだったよ……それで気づいたの。私、南雲くんが好きだったんだって」

 

 そして涙ながらに思いを語ると、香織はハジメの右手を両手で包む。そして好意を改めて口にすれば、ハジメも思わずドキリとしてしまう。原因こそよくわからない夢であったとはいえ、ここまで熱烈に思われて悪い気はしなかったからだ。

 

「……そっか。白崎さんが僕を好きだって理由はわかったよ。それで、僕に参加しないでほしいっていうのは僕のステータスじゃ大迷宮で何か起きるかもしれないって――」

 

「あ、うん。それもあるんだけど最後に見た夢のせいなの……南雲くんが一人だけになっちゃう夢だったんだ。声を掛けても全然気がついてくれなくって、それで走っても全然追いつけなくて……それで最後に消えちゃう……そんな夢だったの」

 

 だからオルクス大迷宮での訓練に参加しないでほしいと言った理由もそこから来てたのかと思いきや、最後に見た夢が原因なせいで思わずハジメはイスから滑り落ちた。いくら夢だからって落差があまりに激し過ぎやしないかと思わず額を手で押さえてしまう。

 

「な、南雲くん!? 大丈夫!?」

 

「あ、うん。大丈夫……ねぇ白崎さん」

 

 心配そうに自分を見つめてくる香織を見て自分は果報者だと思っていたハジメであったが、彼の脳裏にある疑問が浮かぶ。一度そのことが気になってしまえば思わず聞き出さずにはいられず、心配そうに見つめる彼女の瞳をじっと見つめながらハジメは問いかける。

 

「どうかしたの、南雲くん」

 

「どうして、僕を好きになったの?」

 

 イスに座り直しながらハジメは問う。自分に好意を持っていることもどうして訓練に参加しないでほしいと言ったのかもわかった。なら自分を好きになった切っ掛けは何か。そのことが気になったのだ。その疑問を聞くと香織は微笑みながら口を開く。

 

「それはね、南雲くんが――」

 

「南雲お前ぇー!!」

 

 ――だがその答えは、部屋のドアを蹴破る音と光輝達の叫びによってかき消えてしまったのであった。




面識が無い相手からいきなり崇拝されたら人間誰しもビビると思うの(精一杯の言い訳)

続きは明日以降となります。少々お待ちください。
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