おかげさまでUAも65000を突破、感想も120件に上りました。また、拙作をお気に入りとして読んでくださる方も591名おられることに感謝の念に堪えません。こうして愛想を尽かさないでいただいて誠にありがとうございます。
そしてサバ捌きさん、ナンバーさん、拙作を再評価及び評価していただいてありがとうございます。こうして評価していただけることが私の励みになります。
タイトルの通り、今回はエリリンでなく他のキャラに焦点が当たるお話になります。では本編をどうぞ。あ、ついでに言うと過去最長です。
変成魔法を使い
『あれしき如きで勝てると思ったか。
空間魔法で作ったモニターを見てこそいたが、エヒトの意識は別にあった。先程恵里の記憶を再生して映したものによく現れた少年――彼女が恐れ、この上ない信頼を抱いた南雲ハジメの事である。
小さな金属の塊を打ち出す筒や空飛ぶ十字架、地面を貫く杭、束ねた太陽の光と思しき天から降り注いだ白い光、廃墟とはいえ相応の硬さである建築物を破壊する筒のような物を飛ばす何か。恵里の言葉を信じるならばおそらく錬成師であるこの少年の自作だろう。
非才と言われて侮られていたらしいこの少年がよくぞここまで、と感心こそしたものの、エヒトはそれ以上の感情を抱く事は無かった。自身が極めた剣技や魔法のいずれにも及びはしないと思ったからである。
『オルクス大迷宮で落ちた後、何があったかはわかりはしないが見事だ。しかしそれまでだな』
揺らぐことのない自信。それ故にエヒトは南雲ハジメという存在をそう評価する。尤も、エヒトにとって彼の価値はまた別にあった――神子を見つけた存在であるという点である。
どれだけ探し求めても一向に見つかることのなかった依代を見つけることの出来た存在。故にエヒトは一目置いている。
「喜べ
くつくつとくぐもった笑みが白一色の世界で木霊する。いずれ愛する者の手で血に塗れる彼の様を想像し、エヒトは愉快げに嗤う。その様は紛れもなく狩人のようであった。
「ここ、は……」
ノイントから当て身を食らい、気絶していたハジメはようやく目を覚ます。
ランプか何かのようなものでうっすらと照らされた廊下を誰かに背負われた状態で移動しているらしく、その後ろ姿にハジメは見覚えがあった。
「こうすけ……くん?」
「っ! 目を覚ましたのか、ハジメ!」
まだ意識がハッキリとしていない中、ハジメは心当たりのある人間の名前を呼び掛けると、一瞬だけ驚き、そして心底安心しきったような声色で浩介は返事をする。
「あぁ、本当に良かった……ちゃんと脈もとったし、心臓も動いてるかも確認したけど、目を覚ましてくれて良かったよ……」
浩介はハジメ達がどこに行くかを不思議がってついていっただけでしかなかったのに、気づけばとんでもない悪意の一端を見せられて気が気でなかったのだ。ハジメと鈴を背負って一度場所を移した後生きているかどうかちゃんと確認をしたものの、すぐに目を覚ましてくれなかったのは浩介としても心細かったのである。
ふと横にいた人気に気づき、隣に鈴がいるのを確認して安心したハジメであったが、こうなった経緯を思い出して彼の耳元で叫んだ。
「うん――そうだ、恵里は!? 恵里はどこにいるの!!」
「お、落ち着けって!? お前たちが気絶した後、恵里はあの銀髪の女に抱えられて空に飛んでいったきりだって!……流石に空を飛ぶ奴相手は追えないし、なんかここに来てから強くなった気がする俺でもやりあったら絶対死ぬ、って思ってそれで……」
慌てて弁明を始めた浩介であったが、段々と申し訳なさをにじませながら説明したのを聞いてハジメも少しだけ落ち着けた。こうして身を隠して自分達を安全な場所へ連れて行ってくれているのだから感謝こそすれど、それ以上を求めるのは酷だということも理解できた。
「……わかった、浩介君。今すぐ光輝君達を集めてほしい。これからのことを話し合いたい」
「あ、あぁ……俺もそう思ってたところだよ、じゃ、じゃあ愛ちゃん先生も――」
「ダメだ。恵里のことで何かあったかを知ったら真偽がどうであっても冷静でいることはないと思う。どう動くかわからないから僕達だけで話そう」
幸い浩介は話し合いそのものには賛成してくれた。が、そこで当初ハジメも考えていた“畑山先生の参加”をした浩介の案を蹴る。自分達の関係のせいで風当たりこそ強いものの、恵里のこともいち生徒としてあの人は心配するだろうと考えていたからだ。だからこそ
「……なぁ、ハジメ。今、怒ってるか?」
「――
普段何があっても困ったような笑みを浮かべるだけの彼しか知らなかった浩介は、
浩介と何度かやり取りしたこともあって意識がハッキリしたハジメは、自分を背負ってくれていた浩介から降り、一緒に負ぶってくれていた鈴を自分が背負うことを伝える。その時返事をした浩介の声が
事前に鷲三らと浩介が話し合いで決めた合流地点へと一緒に向かっていると、その途中で香織と龍太郎と出くわした。
「浩介君! それと……え?」
「浩介! 戻ってきたんだな! それとハジメも――!!」
どうやら彼らもどこかに向かう途中で合ったようであったが、自分達を見て足を止めてくれた。しかしかけた声まで止まったことがハジメは理解できなかった。
「何か、あったんだな……」
龍太郎の言葉に浩介は無言でうなずいて返す――いつも一緒にいるはずの恵里がおらず、眠っているような様子の鈴をハジメがほぼ無表情で背負っている。また香織達はハジメ達いつもの三人が医務室に行った旨を宴会に参加していた貴族の一人から聞いており、絶対に恵里を一人にしない二人が一緒にいないというだけで確実に何かがあったのだとこの時二人は察した。
「――ハジメ君、ダメだよ」
「香織、さん……?」
そして香織が動く。怒りを堪えた顔でハジメに近づくと、キッとした表情で彼の顔を覗き込んだ。対するハジメもほんのわずかに困惑の色こそ浮かんだものの、表情も声色も変わらないままであった。だがそんなことは知ったことじゃないとばかりに香織は向かっていく。
「今のハジメ君、すごい顔してるよ。そんな顔して鈴ちゃんを怖がらせる気なの?」
香織の言葉にハジメは一瞬目を見開くと、浩介と龍太郎の方を見やる。視線を向けられた二人もそれにうなずいて返した。
「あぁ、香織の言う通りだよ。お前のそんな顔、初めて見たぞ」
「おう、そんな顔して鈴の奴を怯えさせんなよ。今震えてんぞ」
「えっ?――え?」
龍太郎の言葉でようやく自分の背に震えが伝っていることにハジメは気づく。まさかと思って振り向けば顔面蒼白となった鈴が今にも泣きそうな顔でハジメを見ていた。
「やめて……やめてよハジメくん。すごく、すごく怖いよ……」
香織の言った通り、鈴は
「私の部屋に姿見があるからとりあえずこっち来て。いい加減、目を覚まして」
「鈴は俺が一旦預かっとく……鏡見てとっとと気づけ、ったく」
背負っていた鈴を龍太郎に引っぺがされ、香織に手を引かれて近くにあった部屋へとハジメは入っていく。そして部屋の片隅に置いてあった姿見を見てハジメは思わず腰を抜かしかけた――表情の抜け落ちた自分がこちらを見ていた。その瞳ががらんどうに映っていたからだ。
何も出来ないまま恵里を奪われたことの喪失感が、何一つ出来なかった自分への失望と怒りが、そして恵里を奪ったエヒト達への底なしの憎しみがこの表情を作り、鈴を怯えさせたのだと気づいたからだった。
「ち、違う……ぼ、僕は……僕は、ただ……」
「ハジメ君のその顔とか、いつも一緒にいる恵里ちゃんがいないとか、わかるよ。すごく悪いことが起きたんだよね? ハジメ君がそんな顔をしてるんだもん――でもね、それを理由に鈴ちゃんを怖がらせるなんてダメだよ!! 絶対ダメ!」
強く訴えてくる香織を見て、自分があんな顔をして皆を怖がらせていたということにショックを受けたハジメは数歩後ずさり、そのまま腰を落としてしまう。
怖かった。今思い返せば自分が自分でなかったとしか思えない。恵里を取り戻すこと、恵里を奪ったエヒトへの憎悪で頭がいっぱいであったことを思い出してしまい、今度はハジメが震え出した。
「僕が……僕は、どうして……」
わかっていたのに。覚悟していたのに。
怒りを堪えきれなかった。恵里を奪われたことに耐えられなかった。それは鈴だって同じだっただろうに、自分が怖がらせてしまったことに気づけなかった。
すさまじい後悔と恐怖にハジメは襲われ、息も満足に出来ない中、そんな彼の背に鈴が抱き着いた。
「だめ……ハジメくん、お願い。私を、鈴をひとりにしないで……」
「鈴……」
弱々しく背中から抱きしめてくる鈴の名前を呼ぶだけでハジメは何も出来なかった。怖かったのだ。もしかすると鈴をまた怖がらせるかもしれない自分が。また鈴を傷つけてしまうかもしれないと思ってしまって彼女の手を握って落ち着かせる事すら考え付かなかった。
「さっきのハジメくん、すっごく怖かった。恵里が連れて行かれたせいで壊れちゃったみたいで、すごく、怖かったよ……このままハジメくんがどこかに行っちゃいそうで、そんなの、そんなの、やだよぉ……」
「……ごめん。ごめんね、鈴」
嗚咽を漏らす鈴の声を聞いていたハジメも、自身の情けなさを痛感して涙を流し出した。幸せにする、って約束したのにそれを破ってしまった事が、それで鈴を悲しませた事が。
鈴をこれ以上悲しませたくない。正気に戻り、勇気を出してハジメは振り向いて鈴の唇にキスをし、そして彼女を抱き寄せて詫びた。
「ごめんね、鈴……置いていかないから。もう怖がらせないから。ごめんね……」
「うん、うん……!」
そして二人して大声を上げてわんわんと泣いた。もう違えないために。共にあるために。そんなハジメ達を見て香織と龍太郎も安心して一息ついた。やっぱりこうじゃないと。あんな顔は似合わない、と。
「……ねぇ龍太郎くん。もし、私が悪い人に連れ去られたら、龍太郎くんもあんな風になっちゃうかな?」
すると突然香織がそんな事を問いかけて来た。龍太郎は一度空を仰いでどこかを見つめると、頭をかきながらその問いに答えた。
「……さあな。少なくともハジメみたいに静かにしちゃいられねぇよ。もし目の前でやられたんならどうなるかわかんねぇな」
その答えに香織は少し驚いた様子を見せるも『そっか』と一言だけ、しかし満足げに返した。龍太郎はそんなアッサリとした返事に『なんだそれ』と呆れつつ、香織の額を小突く。それに軽くおかんむりになった香織が頬を軽く膨らませ、龍太郎の頬をツンツンとつついていると、まだ涙声であったものの泣き止んだハジメが二人に声をかけた。
「……ゴメンね三人とも。これからみんなを呼んで話をしたいんだ。いいかな?」
「おう。まぁお前たちが泣いてる間に浩介が皆を連れてくるって言ってたからよ、だからその内――いや、もう来たみたいだな」
龍太郎がそう言うや否や部屋の外から無数の足音が響いてくる。そしてドアを開けて入って来てくれたのはいつもの頼もしい面々であった。
「ハジメ! 鈴!――その、すまなかった! この世界の人と話をしていたせいで三人に気付けなかった。そのせいで恵里を……とにかく、悪かった!」
入ってくると同時に勢いよく頭を下げて来た光輝にハジメは首を横に振った。今ではわかるからだ。どうして友人達が誰も自分達を止めなかったのかを。あの晩餐会の時点で既に仕組まれていたのだと理解したが故にハジメはそれを咎めず、鈴もそれに勘づいたため、彼のフォローをする。
「いいよ。むしろあそこで下手に動いたら光輝君達が危険だったかもしれなかったから」
「ありがとう光輝君、私達は気にしてないから。それよりこれから話がしたいの。いい?」
そして二人は浩介と共に親友達と鷲三、霧乃に自分達の身に起きた事を話していく。その話が進んでいく毎に段々と皆の顔は険しくなっていった。
「マジ、かよ……なぁ浩介、中村は? 一体どうなったんだ?」
「俺も連れ去られていったのを見たっきりだよ大介。正直気配を消して逃げるのに精一杯だったんだ……悪い」
大介からの質問に浩介はバツが悪そうに答えるばかりで、だが浩介の実力を付き合いが短いながらも理解していた大介達は押し黙ってしまう。
「……浩介君、不意打ちを狙えれば勝てそうかしら?」
「正直わかんねぇ。無警戒なら多分いける……けど、あの銀の羽根がヤバい。あれを周囲に散らされただけでまず攻撃は届かなくなると思った方がいい。それにハジメ達を一切傷つけずに羽根を落として脅してた事を考えると、自在に展開出来るだろうし……悪い。断言出来ない」
雫の問いかけにも推測以外に返すことが出来ず、申し訳なさそうにしている浩介に雫は首を振って返す。洗脳、触れたものを分解する羽根、そしてハジメ達を一瞬でまともに動けなくさせたところから推し量れる実力。どう考えても苦戦は必死であろう存在が山のようにいるという話を聞いて一同の間に絶望が広がっていく。
「当面はその銀髪の女を警戒した方がいいな……なぁハジメ、鈴。二人がこの世界に来てもそこまで動揺してなかったし、恵里は一切慌ててなかった。もしかして、今晩話そうと言ってたことと今回のことに繋がりがあったりするのか?」
光輝が話をまとめると、気にかかっていたことを口にする。もちろんそれは他の面々も気になっていたことであったため、二人に視線が集中する。
「正直信じてもらえないとは思う。けれど、信じてほしい」
そして二人はトータス会議で事前に取り決めておいた言葉を全員に伝えた――『恵里は前世があり、その時ここに来たことがある』と。
それを聞いた面々の多くがざわめき、一番付き合いの浅い大介達からは『お前は何を言ってるんだ』と言わんばかりの目で二人は見られてしまう。が、ここであることに気づいた幸利がハジメ達に問いかける。
「なるほどな……つまり、恵里は“逆行者”ってことだよなハジメ、鈴」
幸利の言葉に問いかけられた二人はうなずいて返すと、今度は幸利と付き合いの深い大介らや光輝達が口をはさんできた。
「なぁ幸利、なんだそりゃ? どっかで聞いた覚えはあるんだけどよ……」
「なぁ礼一、それって前に幸利から教えてもらった二次創作のやつのジャンルじゃなかったか? 確か、えっと――」
「何らかの理由で過去のある時間に精神だけ戻ってきた人間が活躍する、そういうやつだったよな?」
光輝の言葉に大介達はそれそれと何度もうなずき、幸利とハジメ達は首を縦に振って答えた。まだあまりピンと来てない香織や優花らには雫が『ドラえ○んみたいなものよ』と伝えると、それで何となくイメージがつかめたようで何度も首を縦に振った。
わかりやすさ優先でこう説明したのだが、説明込みでもそう言った方が良かったかなーと二人で反省していると、香織が手を挙げて質問してくる。
「とりあえず言いたいことはわかったけど……でも恵里ちゃんって“普通”の子だよね? ハジメ君と恋したり、お菓子作ったりとかしかしてないよ? ○ラえもんみたいに未来の道具とかを使ってないし」
「そうだよねぇ~。恵里ちゃん、別にそういう事やってたように見えないけどぉ~?」
言いたいことこそ理解出来たものの、本人の気質や昔から恋バナを聞いたりしていたせいで変に距離が近かったせいか“恵里が普通ではない”ということに香織は気づけなかった。妙子も香織と同様で、そこでため息を吐きながらも奈々と優花が説明する。
「まぁ昔に戻れても何でもやれる、って訳じゃなかったんでしょ。少なくともこっちの世界で見た魔法みたいなものは使ってなかったみたいだし。でもあの恵里っちだったら絶対に何かやってるはずだし」
「そうね、ナナ。でも少なくとも一つだけ、エリが自発的にやってたことがあったでしょ?――ハジメと恋仲になったことが」
その言葉にハジメと鈴を除く皆が大きく目を見開き、優花が視線を向ければハジメはそれにうなずいて答えた。
「それは本当だよ……って言っても、今は本気で僕の事を好きでいてくれてるけどね」
「皆が予想した通り、元々はハジメくんを利用する気だったみたいだよ……ただ、まぁ、今の恵里は間違いなくハジメくんにベタ惚れだけどね。あ、そうそう。演技の線はないよ。あの恵里がさ、演技といっても人前であんなデレッデレな顔すると思う? 泣いて駄々こねたりすると思う?」
恵里の本性の一端が見えたことで、今度は香織と妙子以外の面子が恵里に対する警戒心を露にするも、鈴の言葉で一瞬で霧散していった。『いくら計算高くってもあんな演技やらねーだろ』だの『むしろハジメを心酔させる方で動くな。どう考えたって逆じゃねーか』だのと恵里に対する信頼が見て取れる……これを見たら間違いなく当人はキレるだろうが。
「なるほど。恵里さんは普通の子ではないと前々から思ってはいたが……それが事実ならうなずけるというものだ。今の様子はともかくとして、な」
「ええ。遠目からではありますけれど、あの子が時折放つ殺気は紛れもなく本物でしたから。アレは実際に戦いの場に身を置かなければつくはずはないですよ」
鷲三と霧乃もややピントがずれていながらも納得していた。なおそんな二人を見て『あ、感心するとこそこなんだ……』と八重樫流を修めている光輝、浩介、雫は顔が少し引きつっていた。他の面々もそういう感心の仕方に『やっぱりこの二人はズレている』という感想を抱いた。
「あー、コホン……とりあえず恵里のことはわかった。じゃあ、今後のことを話すためにも愛子先生を――」
そうして光輝が畑山先生を呼ぶ算段をつけようとしていると、部屋の外から幾つもの足音が聞こえてくる。一人二人でなく、十人単位で迫ってくる音を聞くと同時に浩介、鷲三、霧乃は顔を合わせてから気配を消して身を隠した。
三人のいきなりの行動に他の皆が驚いていると、何人もの人間が部屋になだれ込んできた。恰好からして騎士と思しきものであったが、意匠からして宗教色が強く見えるため、おそらく聖教教会の手の者だろう。サブカルチャーに詳しいハジメ、鈴、幸利はもちろん、他の皆の間にも緊張が走った。
「勇者様がた、こちらにおられましたか! どうもこの城に狼藉者が現れたそうで、それで我ら神殿騎士一同が見回りをしておりました……して、そちらにおられる南雲ハジメ様と谷口鈴様に
物腰こそ柔らかであったものの、彼らの目つきからしてハジメと鈴への疑いが見て取れる。暗に『二人を引き渡せ』と言っているようで、ハジメはどうすればいいかと頭を働かせ、他の皆は全員身構えていた。
「何、大したことではありませんよ――どこを探しても中村恵里様がおられませんので、それで親しくしておられる様子のお二人に話をお聞きしたいだけなのです。同行していた者は送り届けた、と述べているのですがね」
身構えている自分達に述べられた言葉を聞いて、ほとんどの者が歯噛みすることになる。事実、引き渡しを迫られている二人以外は『体調を崩したハジメと鈴に気づいたシスターが、恵里と一緒に医務室に行った』という説明を受けている。しかもそのシスターとやらは白を切っている辺り、教会は二人を何らかの罠にはめようとしていると全員が気づいたからだ。
だがここで下手に断る訳にもいかないことにも皆はわかっていた。少なくとも話の筋自体は通っているし、この世界に来て早々問題を起こしてしまえばそれがどう響くかがわからないのだ。香織も大介達もどうにか口を出そうと考えてはいたものの、下手な言い訳はかえって二人を苦しめることになることにも気づいてしまって動けなかった。
「……わかりました」
するとハジメが前に出ていこうとしたため、全員が無言で止めようと肩やら手を掴むものの、ハジメは何か策があるのか振り向いて大胆不敵な笑みを返した。
「では南雲ハジメ様、こちらへ。それと谷口鈴様も――」
「あのー、すみません。ちょっとお願いがあるんですけど」
そうして騎士達のところへ行こうとして一度ハジメは足を止め、あることを頼み込んだ――友達を一人ずつ連れていってもいいか、と。
「体調を崩したばかりなんで、ちょっと怖くて……ですから友達が付き添ってくれれば安心かなー、って」
「いえ、使徒様がたもお疲れのご様子。我らが付き添う故、お手を煩わせる訳にはいきません」
困った様子で頼み込むハジメに、にべもなく騎士の一人が切り捨てるものの、ハジメの意図を察した鈴と雫が手をつないで前に出てきた。
「そうね。私としても親友の鈴が
「し、しかし……」
「ちょっとした用事なんでしょ? 聞いた感じだと
雫と鈴の問いかけに騎士達はたじろいでしまっていた。この反応からして人には言えないようなことをやるつもりだったのだろう。それを確信すると、幸利や大介、龍太郎に光輝もハジメとの同行を名乗り出た。
「んじゃ俺が行く。ハジメには結構世話になってるからな。こういう時に返さねぇと」
「おいおい幸利ぃ~、先生に恩があるのは俺らだってそうなんだぜ? ここはまぁ一つ、俺に任せてくれよ。なぁ?」
「おい大介、幸利。ハジメが
「いや龍太郎、ここは俺が。何があっても俺が上手く
四人がそう言いだすと『いや光輝は俺らをまとめるのに必要だから残ってくれ』だの『幸利も知識面で頼りになるから残ってくれ。つーか行くな』だのと軽く場が紛糾し、結果ハジメから龍太郎が指名されたことでようやくこの場は収まった。そうしてハジメら四人は神殿騎士達と共に部屋を後にするのであった……。
「さて、それでは続きといこうか」
そして周囲に気配が感じられなくなったと同時に鷲三が姿を現し、場を仕切り出した。
「……鷲三さん、浩介と霧乃さんは?」
「念のためハジメ君達に同行させておる。雫と龍太郎君がいれば問題ないと思うが一応、な」
光輝の問いかけにそう答えた鷲三は全員の顔を見ると、全員にあることを告げる。
「恵里さんや彼女を信じているハジメ君らには申し訳ないが、恵里さんの話を鵜呑みにするのはやめておきなさい。これは忠告だ」
「そんな――恵里は前世の経験がある、ってハジメが言ってたじゃないですか! ちゃんとした証拠はないですけどだからって疑うなんて!!」
光輝が声を上げると同時に残った他の面々もケチをつけた鷲三を非難する。信用している友人の言葉を疑えと言われれば程度はどうあれ怒っても仕方は無い。そう思いながらも鷲三は一切取り乱すことなくその理由を話す。
「この世界に魔法などという人知を超えた力があるのだ――ならば恵里さんの記憶が改ざんされていないと一体誰が保証できるのかね?」
その一言で非難の声はピタリと止み、一同の間にざわめきが走る。そう。彼らは身を以て魔法と言うものを体感している。またハジメ達が銀髪の女のことを語った際、合わせて恵里が前世? で使っていた〝縛魂”や“零落”などの人間の精神に干渉する魔法のことも含めて話し、『恵里があそこまで焦ったのはきっと自分にそういった系統の魔法を使われたからじゃないか』という推測も話していた。故に誰もが鷲三の言葉を否定できない。
じゃあどうすればいい、どう動いたらいい、と皆が不安をこぼす中、少しやり過ぎたかと鷲三も軽くばつの悪い顔を浮かべた。
「……少々言い過ぎてしまったな。恵里さんの情報を、それを聞いたハジメ君の明かしたもの全てが嘘だとまでは言っておらんよ。あの銀髪の女とやらは敵である可能性は高い。先ほどの動きからして騎士達も怪しい。しかし――」
あえて全てを語らず、何かに気づいた様子の光輝に鷲三は一度視線を向ける。するとそれにうなずいた光輝がそれを話す。
「下手に決めてかかると危険、ということですね?」
その言葉に鷲三は深くうなずき確信を得る。どうやら自分たちの目を覚ますためあえて憎まれ役を買って出たのだと理解した光輝は、心の中で鷲三に感謝しつつ、まだ雑然としている一同に向けて光輝がその理由を話し始めた。
「俺はハジメ達が話してくれたことは信用できると思っているし、信用したい……けれど魔法なんてファンタジーなものが身近にある世界に俺達はいる。それにさっきの銀髪の女のことなんだけど、恵里はそいつが人間を洗脳したりする能力を持っていたとは知らなかったみたいだ」
光輝の言葉に全員もハッとし、気づかせてくれた鷲三への感謝や謝罪、そう言ってくれればいいのにとばつの悪い表情になったりと様々であった。そんな皆に『話を続けたい。いいか?』と光輝が言えば、皆も彼に続けるよう視線で促す。
「ありがとう皆……さっきも言ったようにハジメ達も知らない情報はあったみたいだ。だからここで下手に決めつけてしまって、皆の足元がすくわれるのはどうしても避けたい――なぁ幸利。幸利だったら今の状況、この国の事、どう考える?」
一つの情報だけを、自分の信じたいものだけを信じた結果、龍太郎とケンカをし、雫を泣かせてしまった過去のある光輝は同じ轍を踏むのだけは避けたかった。ここで失敗したら今度は幼馴染が、親友が、悪友達の命が失われてしまう。だからこそ違えられない。故に光輝はこういった状況に最も精通しているであろう幸利に助けを求めた。
話を振られた幸利もしょうがねぇなぁと言わんばかりの、しかしここ一番の時に頼ってくれた事への嬉しさがありありと出た顔で語ろうとする。
「ユキ、アンタがコウキに頼られて嬉しいのはわかったから早く話して」
……なお、その前に優花から急かされて思いっきりこけそうになったが。
頼むから空気読んでやれよと大介らから軽い呆れの視線が向けられ、何よとばかりにムッとした目で見てくる優花をどうにか光輝と鷲三が取りなして仕切り直すことに。そして幸利が一度せき払いをすると、自分の考えを話し出した。
「……正直な話、この国どころかこの世界を信用なんて出来やしねぇ。理由はこの世界に根付いた宗教だ」
その言葉に誰もが押し黙ってしまう。まだ疑念程度でしかないものの、ハジメ、鈴、そして恵里に対する扱いの事や二人を連行しようとした事もあって誰も聖教教会に対して良いイメージを抱いてはいなかったからだ。
「この世界のほとんどの人間……まぁ魔人族ってのもいるらしいが、敵対してるからとりあえずナシだ。ともかく、ほとんどの人間が信仰する以上、教会側の考えは世界の総意になる」
幸利がそう言うと一同の間にざわめきが広がる。無理もないだろう。何せ昔からの友人が世界そのものから疑われるのと大差ないと言われたのだ。誰もがやるせなさや怒り、恐怖に染まっていた。
「続けるぞ。こんな世界だから地球にいた時の常識なんざ通用しねぇと思っとけ……それと、雫や龍太郎達がいるとはいえハジメ達は今はあっちの手の中、恵里は未だに行方不明。状況なんざ最悪と言っていいぐらいだ」
誰も言葉は出なかった。それ程までに幸利の言葉が皆に重く、深く響いていたからだ。幸利は髪を何度かガシガシとかくと、更に言葉を紡いでいく。
「正直誰かは分かんねぇ。けど多分ハナっから俺達をハメる気で……いや、多分ハメようとしたのは恵里だけだろうな。んで、ハジメと鈴はそれに巻き込まれて、あっちからすれば利用価値があるからした、ってところだろ」
「……単に二人を探しに来た、ってことはないか?」
良樹がそうであってほしいと思いながらつぶやくも、幸利はかぶりを振ってそれを否定する。
「俺の見立てじゃ違ぇな。おそらく、ここに来た奴らは俺らにハジメ達が行方不明になった事を知らせて不安……違うな。不信感だ。俺らにハジメ達は信用ならない人間だ、って事を印象付けようとしたんだろ。あの口振りからしてそう見えるんだがな」
幸利の推測にまたしても場がざわつく。先程の騎士達の動きの不自然さを言い当ててるようにしか聞こえなかったため、疑う者はほとんどいなかった。強いて言うならあくまで判断材料の一つとしてのみカウントしている鷲三と、下手に入れ込みすぎないよう気をつけている光輝だけがそうしていないぐらいだ。幸利もそれはわかっているため、あえて二人に構うことなく考えを述べていく。
「まず間違いなくあの女と教会はグルだ。そしてハジメ達をこうして貶めようとしてることを考えたらアイツらは俺らの敵だよ。少なくとも俺はそう考えた上で動く……俺の、いや皆の親友に手を出す奴だからな。表向き敵対はしないつもりだが、頃合いを見て抜ける。んで裏からアイツらを助けるなり支援するなりやるつもりだ」
最後に『畑山先生には言うなよ。あの人のことだから何やり出すかわかんねぇぞ』と言ったっきり幸利は黙り込んだ。
一人でここを出ることに対する心細さがなかったわけではない。むしろ今そういった感情にも幸利は襲われている。だが、生活基盤が何もない状況で自分がどこまでやれるかを冷静に考えると未知数で、皆をそれに巻き込んだ際に創作物の主人公のように自分達は上手くやれるのかと心配になったのだ。
だからこそ抜けるなら自分一人で、と考えていたのだが香織がおずおずと手を挙げ、『みんなでここを出ようよ』と言い出し、全員が大きく目を見開いた。
「カオ、アンタもなのね……」
「お、おい香織! 正気かよ!! ここを抜けたら敵前逃亡扱いされてどうなるかわかったもんじゃないんだぞ!! 最悪裏切者としてターゲットに――」
「うん。わかってるよ幸利君。でも……でも私、イヤだよ。恵里ちゃんのことだけじゃない。ハジメ君と鈴ちゃんも犯罪者みたいに扱って、それで連れていこうとして……そんなの、イヤだよ。こんなところにいたらきっとみんなぐちゃぐちゃになっちゃう! それに戦争に参加したらもう会えなくなるかもしれないんだよ! だから、だから逃げようよ!!」
涙目になりながら訴えてくる香織に誰も何も言えず、ただ優花ら残った女子達が彼女にそっと寄り添う。光輝も幸利も、大介も、礼一も、信治も、良樹も何も言えなかった。怖かったのだ。こうして流されてしまったら取り返しのつかないことになると香織の言葉で改めて認識してしまったから。どうすればいいのだろうと途方に暮れていた。
「……私としても戦争の参加には反対だ。が、それを相手が簡単に了承してくれるとは思わん。私と霧乃の方で抜け道を探しておく。君達はここでしばらくの間戦う術を身に着けなさい。何かあっても
そう言ってくれた鷲三に皆は深く頭を下げた。頼れる大人がいてくれたことに誰もが心強く感じ、感謝をこうして形にすると、鷲三も『こういうのは大人の役目だ。私達に任せなさい』とだけ告げた。
「……お願いします、鷲三さん。じゃあ皆――全員生きて地球に帰ろう。ハジメも、鈴も、恵里も連れて、絶対に」
そして光輝の言葉に全員がうなずいた。もう一度家族に会うために、皆で笑いあえてた日常を取り戻すためにこの場にいる誰もが決意する。少女の紡いだ絆が今、光を放った――。
悪い方向に転がりました。それもとても悪い方に。けれどもすべてが悪い方に転がるのは稀です。そうですよね?