あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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読者の皆様、あけましておめでとうございます。本年も『あまりありふれていない役者で世界逆行』をよろしくお願いいたします。

それでは拙作を読んでくださる皆様への感謝を。おかげさまでUAは71720、お気に入り件数も607件、しおりも233件、そして感想数も145件に上りました。ありがとうございます……遂にUA70000の域まで来たんですね。なんというか、こう、感無量です。

それと遅くなりましたが黒天龍黒夜叉さん、Aitoyukiさん、拙作を評価してくださり誠にありがとうございます。こうして評価していただけることが自分の励みになります。

今回もなんだかんだギスってます。それに注意して本編をどうぞ。


二十八話 苦労/苦悩の対価

「踏み込みが甘い! その程度ではごろつきすら倒せんぞ!」

 

「ぐっ!?……は、はいっ!」

 

「狙いが甘いぞ! 前面に敵しかいないならともかく、味方に誤射したらどう責任を取る気だ!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 恵里達がトータスに来て早五日。朝食を済ませたクラスメイト達は今日も訓練施設で汗を流していた。

 

 既に走り込みを終わらせていた彼らは前衛組と後衛組に分かれ、前衛組は騎士達との組稽古、後衛組は騎士団の中でも腕利きの魔法使い達と共に的に向かって得意な属性の魔法をひたすら当てる練習を行っている。

 

 神から遣わされた貴き存在であるはずの彼らは今日も怒声を浴び、更に前衛の子達は騎士団員に転ばされて土まみれになりながらも訓練を行っていた。それを遠巻きに神殿騎士がクラスメイト達を見守っているが、団員達ににらまれてそれ以上は出来ずに見守るだけ。また団員達も彼らが死なない程度の手加減しかしていなかった。

 

 以前、土埃にまみれ、疲労困憊になって部屋に戻っていく彼らを見ていたたまれなくなった神殿騎士がメルドに口を挟んだのだが『あんな醜態を晒すような奴らをこのまま外に出したら国、いやエヒト様の威光に泥を塗ることになるぞ』と言われたり、『もし練度が不足していたせいで死んだらどうする気だ? エヒト様にどう詫びる?』と脅されたりしたせいで何も言えなくなっている。

 

 もちろんその不遜な物言いは教皇の耳にも届いたものの、神託が降りてこないのとその言い分自体は一応筋が通っているため反論が出来ず、結局メルドに一任することになってしまっている。教会側からすればひどく歯がゆい状況であった。

 

 ――クラスメイトが恵里達のことで仲間割れをし、それにメルドが激昂したあの日のこと。メルド本人から許しをもらうまで必死になって走った彼らが休憩する中、メルドは一人一人にあることを尋ねていた。魔人族との戦争に関する認識の確認である。

 

 もちろん全員がそれを『何人もの人を自分の手で殺すおぞましいこと』だという認識はしていたが、この世界に来た時に得た力のせいかそれを軽く見ていた者たちがいた。四馬鹿どもと永山グループの野村、玉井、仁村、相川、の計八人である。先述した彼らは『この力があれば誰であっても絶対に勝てるはず』という思い込みをしていた様子であったのだ。

 

 仮に彼らのステータスが騎士団員のそれをたやすく凌駕するのであればそこまでメルド達もうるさく言うことはなかっただろうが、彼らの中で一番ステータスの平均値が高い光輝でさえもオール100でしかない。いくら光輝のレベルが1であろうと、今の彼では今のメルドのステータスにも戦闘の経験でも敵いはしないのだ。当然他は言わずもがなである。

 

 そのため今の彼らは数を頼りの攻撃であっさりと倒される可能性がある。しかも彼らが参加を表明したのはその数でぶつかりあう戦争であった。万全に仕上がった状態で送られるとは限らないし、また仲間割れする可能性は十分ある。教会の思惑を考えれば出来る限り錬度を上げてから送り出すとはメルドも考えているのだが、くだらない理由で死んでもらっては困るのである。

 

 神から遣わされた彼らを犬死にさせないためにもその(おご)りを崩す必要があると考えたメルドは、その日の最後に全員と一対多、一対一、多対多の組み手をしてボロボロに負かし、現実を教え込んだのである。それもクラスメイト全員に戦い方をみっちりと教え、かつ彼らの得意土俵で、である。そしてトドメにこう告げたのだ。

 

 ――いくらお前らがエヒト様から遣わされた存在で、それに相応しい力があるとはいっても状況次第ではこのように簡単に負ける。信頼している仲間に背中を預けても死ぬときは死ぬ。仲間内でいがみ合っていれば猶更だ。それと、『止め』の声がかかるまで武器を突きつけられていたからその後は想像がつくよな?……いいか、()()はもっと惨いぞ。死にたくないなら全力でついてこい。

 

 とってもありがたーい言葉で全員が色々とわからさせられた結果、誰もがこうして必死になって鍛錬に取り組んでいる。誰だって死ぬのは怖いのだ。

 

「どうした坊主! もう息が上がっているぞ! 中村も谷口も、お前らももっとペースを上げろ! 怠ける気ならもう五周追加だ!」

 

「「「は、はいぃ!!」」」

 

 こうしてクラスメイトのほとんどが騎士団員から鍛錬をつけてもらっている中、恵里、ハジメ、鈴の三人は鬼教官と化したメルドにいつものようにシゴかれていた。

 

 そこでハジメが一般人程度のステータスしかないことと彼含む三人が警戒対象であることを鑑みたせいか、恵里達の鍛錬の大半は体力をつけるための走り込みであった。それも実戦時に使う装備をした上でハジメのみ手足を、恵里と鈴は背中にも重りをつけて、である。

 

「お、重り、外さないと……手が、足が……」

 

「ゼェ、ハァ……キツ……」

 

「あ、相変わらずしんどいよ……」

 

 そうして他のクラスメイトから遅れること数十分、並走していたメルドからやめの声がかかったことで、三人もようやく走り込みを終えることが出来た。ハジメは手足の二キロずつの重りを外し、恵里と鈴は手足に三キロ、背中の十キロの重りを地面に置いて息を荒くしていた。

 

「お前ら、息が整ったら次の訓練に移るぞ。今道具も用意するからな」

 

 一方メルドは容赦なかった。三人のステータスプレートを確認していたのと、どれだけの負荷でどの程度疲れるかがわかっているため、その後の訓練に支障が出ないギリギリの範囲を見極めて走らせていたからだ。

 

 すぐに団員に目配せをして恵里達が使う武具を持ってこさせ、次の訓練のための準備に取り掛かる。程なくしてメルドに立ち上がるよう伝えられると、恵里達はまだ疲労が残る中武具を構え、各々の訓練に移る。

 

 ――ステータスプレートで自分達のステータスや天職を確認したあの日、メルドに散々走らされた後でクラスメイト達は魔法の適性を調べることになった。やれることの確認の一環である。

 

 そこで恵里は闇系以外では炎、鈴は光、炎、風系の魔法に適性があったものの、ハジメに関してはそれがからっきしであった。“錬成”そのものと技能の“気配感知”と派生技能の“特定感知”を利用したちょっとしたレーダー以外の事が出来ないのである。しかも“特定感知”はハジメだけでなく恵里と鈴、そして光輝、雫、龍太郎、香織も持っており、“気配感知”であれば所持していないのは四馬鹿と永山グループの子、そして畑山先生だけであった。

 

 ちなみにそれら技能について『浩介と接する機会がどれだけ長かったか』と『影の薄い頃の浩介と接していたか』が関係しているのではないかと恵里は推測しており、影がちょっと薄い辺りから友達になった優花や奈々、妙子は“特定感知”をやはり持っていない。また、先述した二つの技能は所持者が多く、またステータスも一般人並みというのもあってハジメの価値は低く見られている。

 

 閑話休題。

 

 ハジメに適性が無いことが判明し、頭を抱えることになったメルドはとりあえずその日は拾った小石を渡し、魔力がなくなるまで錬成を使って形を変えることを彼に命じた。そして恵里と鈴はそれぞれ詠唱の際の文言を教えてもらい、恵里は炎系魔法による的当て、鈴は光系防御魔法で障壁を張ってひたすら攻撃に耐えることを命じられた。

 

 そうして他のクラスメイトから遅れること数十分、精も根も尽き果てるまでメルドからシゴかれた三人が『さっきも言った通り、俺が直々に鍛えてやる。戦場に出るまで、な』とトドメを刺され、口から魂が出そうになったのは記憶に新しい。

 

「狙いはいい。もっと威力を出す方にイメージしていけ!」

 

「はいっ! ここに焼撃を望む――“火球”」

 

「穴をあけるスピードをもう少し早めろ。深さはそれからでいい!」

 

「は、はいっ!――“錬成”!」

 

「どうしたどうした! 障壁の張り方にムラがある! 均一に、かつ堅牢に張れ! 仲間が死んでもいいのか!!」

 

「はいぃぃぃぃ!!」

 

 そして現在、恵里は“火球”を用いての的当て、ハジメは錬成を使って地面に穴あけ、そして鈴は団員が全方位から投げてきた石をを光系防御魔法の“光絶”により防いでいた。

 

 恵里は前世? で魔法を使っていた経験もあってここ数日のシゴきで勘を取り戻せてきていた。やろうと思えば中級の“螺炎”も撃てるだろうが、魔力がまだそこまで成長していない分一、二発であっさり底を尽きそうになるのと、団員や神殿騎士に怪しまれるためまだ初球の“火球”の方を磨いている。ちなみに詠唱のイメージはほぼ完璧であるため、バレない程度にあえて威力を絞ったり、火の温度や速度を調整するなどして色々と練習している。

 

 ハジメの方は今は小石ではなく地面に錬成を使って穴を作っている。その理由はメルドのシゴきが始まった翌日、訓練が始まる前に『鋼の○金術師』の主人公みたいに地面から槍を作ったり出来ないかと考えたことであった。

 

 自分の戦闘能力が他と比べてはるかに低いのは理解しており、また恵里のおかげで“錬成”がものづくりに適した能力であることはわかっていたものの、こうして監視されている以上は武器の製造なんてとても出来やしない。設計図でも引こうものなら『反旗を翻そうとした証拠だ』と騒がれるのは目に見えていたし、最悪それの価値に気づいて没収されてそっくりそのまま転用される。そこで考えたのが『地面の錬成』であった。

 

 自分の意思をメルドに伝え、『一般人程度の魔力で出来るのか?』と呆れられながらも許可をもらったハジメは実際にやってみたが結果は半分失敗といったところであった。

 

 地面そのものに錬成をすることは出来た……が、いかんせんメルドが忠告した通り、魔力が足らなさ過ぎてちょっとした窪みを作るのが精一杯だったのである。

 

 とはいえ適当な石を探す手間が省け、また穴が出来るスピードや深さを指標にして評価がしやすいこともあり、それ以降はこの訓練に切り替えている。

 

 最後に鈴は団員達が投げてくる小石を必死になって“光絶”で防いでいる。小石といえど日々有事に向けて訓練をして体を鍛えている人間が投げる代物である。コントロールはともかくとして当たれば軽くあざが出来る程の威力であるため、そんなもんが頭や目に当たったらシャレにならない。しかもこのシゴきを始めたその日にくるぶしの辺りや背後の結界の張り方が雑だったために破られ、何度も痛い目を見ている。

 

 その傷は訓練の一環として自分の治癒魔法で治したのだが、あんな目に遭うのは嫌だとばかりに必死になっており、元々の素質と段々とコントロールの精度が上がっている団員達のシゴきもあって、鈴の結界の張り方は同じ天職の香織や辻より一段と上手くなっていっている。

 

「よしやめ! 中村と谷口は回復薬を服用したら次は戦闘の訓練だ! 坊主、お前と中村は武具を構えろ! そして谷口は二人の回復のみに専念だ!」

 

「「「は……はいっ!」」」

 

 そしてかけられたメルドの号令に恵里達は今にも膝をつきそうなところを耐え、恵里は鈴と一緒に魔力回復薬を、ハジメは訓練前に水飲み場から汲んできた水の入った水筒を煽る。そうして一息吐くと、すぐさまハジメは()()()()()()()()()()()()()()を構え、恵里と鈴はハジメの後ろで杖を構える。

 

「では行くぞ――簡単にくたばるなよ」

 

 声と同時にメルドはハジメに迫る。一般人程度のスペックに合わせた速度、上段からの一閃をハジメは持っていた盾で受け止めるも、思わずたたらを踏んでしまう。

 

「そらしが甘い! この程度では戦場で容易く死ぬぞ!」

 

「ぐっ――はいっ!」

 

「返事の良さだけで戦場は生き残れんぞ!――フンっ!」

 

 続くメルドが横凪ぎの一撃を叩き込まんとしてそれになんとしても耐えようと構えるものの、それを受け流せなかったハジメは横に吹っ飛んでいく――今ハジメが腰に佩いている西洋風の細身の剣でなく、背負っていた盾を使わせているのもメルドなりの彼の生存率を高めるためであった。

 

 全員の天職が判明した後、“作農師”というレアな天職であった畑山先生は訓練を除外されて現在各地を回っているのだが、ハジメはそのまま訓練を受けることになった。そのことにメルドも疑念を抱いたし、ハジメ達もあちらの思惑を感じ取ったのだが、これも国王陛下からの命令である。そのため従う他なかったのだが、そこでメルドは『何かあった時の自衛のため』にこうして盾を使い、彼が生き延びれるように訓練をしているのである。

 

「うぐっ! ま、まず――」

 

「この一撃ぐらいかわしてみせろ!!」

 

 戦う力のない錬成師であるハジメが危機に陥る時はまず間違いなく前線が崩壊している時であり、それを想定したメルドはこうしてハジメにひたすら攻撃を捌く訓練をつけさせている。とはいえ流石に彼本来のステータスで挑んでしまえば対応すら出来ずに潰れるのが関の山。そのためかなりの加減をしながらハジメの相手をしていた。

 

「惑いはここに 進む者よ 己を信じ 誤りたまえ “乱感”」

 

 恵里の詠唱した闇系下級魔法“乱感”により軽く距離感をズラされたメルドの一撃は空振り、吹き飛ばされて倒れていたハジメはすぐさま起き上がって盾を構える。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――“天恵”」

 

 すかさず唱えられた鈴の下級治癒魔法“天恵”により傷が癒え、体の疲れが抜けていく。盾のグリップを握る力が戻り、袈裟懸けに振るわれた一撃をどうにかいなそうとする力が戻る。そしてハジメは不慣れながらもひたすら攻撃を捌き続け、その都度恵里や鈴のアシストを得ながらメルドの攻撃を受け続けている。これが今の彼らのやっているもう一つの訓練であった。

 

 恵里の闇魔法を鍛えるためにハジメのアシストを、鈴も治癒魔法を鍛える一番手っ取り早い手段として傷のついたハジメを治そうと今は必死になってやっている。

 

 実際に戦いに出るのが一番ではあるのだろうがまだ訓練を始めて三日目である。魔物を相手にするのでさえまだまだ荷が重いと考えたメルドの采配によりこうして恵里達はヒイヒイ言いながら訓練をしていたのである。

 

 そうして三人の精も根も尽きたところでメルドから『やめ』の号令がかかった。今日も既に他のクラスメイト達はおらず、自分達だけが訓練施設に取り残されている。恵里達は団員にアーティファクトや武具類を返すと、彼らに向かって『ありがとうございました』と礼を述べた。

 

 ……三人とも使徒にいいようにされた経験もあって一刻も早く強くなりたいとは思っているものの、あまりの容赦のなさに内心辟易していたが。

 

「では昼食をとった後、ここに集合だ」

 

 厳めしい様子のメルドに告げられ、恵里達は神殿騎士に監視されながら食堂へと向かっていく。また食事を戻さないといいな、と思いながらも三人は足を引きずるように歩くのであった。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いて対処するんだ! 今のお前達ならこの程度は十分やれる!」

 

 騎士団員の言葉にクラスメイト達が『はい!』と声を上げ、それぞれの得意分野で目の前の魔物に対処していく。

 

 恵里達がトータスに転移して早十日。訓練の一環としてクラスメイト一同は皆、昨日から王宮の外の平原に出ていた。野営の仕方と実際に魔物と戦うことで戦闘の経験を積むためである。

 

 ()()()()()クラスメイトは騎士達による補助を受けており、一度に向かってくる数などを調整された状態で挑んでいる。ここで下手に尻込みしてもらっても困るし、こうすることで自信をつけさせようとしているのだ。

 

「これで――!」

 

「やぁああぁあ!!」

 

 ただ、何事にも例外というものはある。光輝と雫は生き物を切るという感触に顔を青ざめさせながらも独力で魔物を倒していっている。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――“天恵”! 龍太郎くん、あんまり突っ込まないで! 傷が――!」

 

「んなこと言ってる場合かよ! こいつらを捌かなきゃお前の方に行っちまうだろうが!!」

 

 突然現れた魔物の群れ相手に、団員と共に傷塗れになりながらも龍太郎は大立ち回りをし、香織も泣きながら必死に治癒魔法を使って龍太郎や団員の傷を癒している。

 

「そっちにもフィアーウルフが向かったぞ! 落ち着いて対処しろ!」

 

「「「了解!」」」

 

 そしてそれは恵里達も同様であった。

 

「鈴はまず牽制、恵里は魔法でのかく乱、僕が足止めをする。後はいつも通り、いいね?」

 

「わかったよハジメくん。でも、無理はやだよ」

 

「いざとなったら私がすぐに結界を張るから、ハジメくんは逃げてよ?」

 

 恵里と鈴の言葉に苦笑を浮かべて『努力するよ』とだけ伝えると、ハジメは二人の前に立って背負っていた盾を構える。そして程なくして五匹の狼型の魔物が恵里達へ向かって跳びかかろうとしてきた。

 

「ここに風撃を望む――“風球”!」

 

 しかし牽制として鈴が詠唱した魔法がフィアーウルフの群れの前で着弾し、無数のつぶてと土ぼこりによって群れは動きを止めた。その瞬間を狙ってハジメと恵里はそれぞれ動く。

 

「“錬成”!」

 

「心よ緩め 敵意も恐れも ものみな全て霧散せよ 安らぎに似たものよ かの者らを包め “呆散”!」

 

 ハジメは錬成で距離を取ろうとした二匹の足元にちょっとしたくぼみを作ってつまづかせ、恵里は襲ってきた五匹全部に向けて意識をわずかに散漫にさせる闇系魔法“呆散”によって意識を乱していく。本来なら七節から成るこの魔法を二節省略したことで効果はより弱くなったがそれでいい。既に次の手は打ってある。

 

「ここに焼撃を望む――“火球”!」

 

 鈴が唱えた一撃が二匹のフィアーウルフを焼いた。毛と肉が焼けたなんとも言えない臭いが漂った途端、無事だったフィアーウルフ達は焼けて弱っていた二匹に牙をむく――フィアーウルフはハイリヒ王国近辺に住む狼型の魔物であり、単体ではオルクス大迷宮にいるラットマンよりはマシといった程度の強さでしかない。

 

 しかし、この魔物の脅威は群れをつくることと、あまりにも強いスカベンジャーとしての側面だ。飢えを満たすためならば弱った群れの個体にすら平気で食らおうとするコイツらは今、あまりにも強すぎる食欲で死にかけた個体に襲い掛かったのである。

 

「――“錬成”!」

 

 そうして共食いをしているのを見計らってハジメは地面に手をつくと、ダメ押しとばかりに無事なフィアーウルフの足を一本ずつ沈め、押し挟むようにして拘束していく。そして恵里達に目配せをすると、二人はすぐに詠唱を開始する。

 

「「ここに焼撃を望む――“火球”!」」

 

 放たれた二発の火の玉は仲間を夢中になって食らっていたフィアーウルフを新たに焼いていく。そして魔力回復薬を煽ったハジメはまだ無事だったフィアーウルフを錬成を使って体を沈め、そこを再度恵里と鈴の魔法で仕留めていく。かくして恵里達の魔物との戦いは一旦幕を閉じることなった。

 

 

 

 

 

「お前達、ここにいたか」

 

「――あっ。な、何かご用ですかメルド団長」

 

 魔物との実戦訓練と野営のための準備を終え、恵里達が今日も神殿騎士に見られながら夕食の準備をしていた時であった。唐突にメルドが現れて声をかけてきたため、すぐさま調理の手を止め、真剣な面持ちで彼の方を見やった。するとメルドは一瞬苦々しい表情になった後、軽くうつむいてため息を吐く。そんな様子の彼にまた何か叱られるのだろうかと神殿騎士ににらまれながらも恵里達はメルドの言葉を待つ。

 

「……そうだよな。俺のやったことを考えれば、こうなるのも当然か」

 

 そう自嘲すると、メルドはいきなり頭を下げてすまなかったと告げた。鬼教官のコイツがいきなり謝るなんて天変地異の前触れか何かだろうかと恵里は考えていると、すぐさま近くにいた神殿騎士の一人が咎めるように疑問を口にした。

 

「騎士団長、貴様がどうしてこやつらに頭を下げる必要がある? 貴様とてこの痴れ者が何をしたか――」

 

「ああ、知ってるさ。それが()()()()でしかないことを含めてな」

 

 イラっとくるような神殿騎士の言い草にメルドは苛立ちを露にしながら反論し、近くにいた神殿騎士全員ににらまれながらも『違う、こうじゃない』と再度苦い表情を浮かべたメルドがこちらに視線を向けてきた。

 

「今回はお前達を咎めに来た訳ではない……むしろ、今までのことを詫びに来たんだ」

 

 その言葉に恵里達は思わず目をむいてしまう。何か悪いものでも食べたとか頭でも打ったんじゃないだろうかとハジメ達と小声で話していると、メルドは顔をひきつらせながらボヤいた。

 

「聞こえているぞ、ったく……まぁ今までお前らにどう接してきたかを考えればわからん訳ではないがな」

 

「す、すいません!……でも、一体どうしたんですかメルド団長?」

 

 すぐさまハジメが頭を下げると、メルドはその訳を話してくれた。

 

「……最初は、お前達の事を疑っていた。この国の防衛の要を任されているからな。たとえ噂であろうとも、本当でない可能性はゼロではない。だから最悪の事態を想定して動く必要があった」

 

 まぁお前達がとんだ厄介ごとの種であったことも原因の一つだがな、というつぶやきに恵里達は何とも言えない顔になる。自分達のせいでクラスが真っ二つになったことの自覚はあったからだ……尤も、恵里はそれを反省している訳ではなかったが。

 

「まだこやつらの疑いは晴れた訳では――」

 

「お前らは黙っていろ――だからこうしてふるいにかけた。本当にこの国を裏切るつもりだったんなら、今に至るまでの間に機密を持ち出して逃げ出していただろうからな」

 

「……随分信用がないんですね」

 

「逆だ。こうしてお前達の動きを見ていたからわかる。お前達にはそれが出来るほどの連携も、騙す技量もあるだろうさ。特に中村はな」

 

 殺気を載せながら神殿騎士を一瞥すると、メルドは話を続ける。そこで出てきた言葉に恵里は苛立ちを可能な限り抑えながら反論すれば、メルドは首を振ってそれを否定した。恵里は自分の猫被りを見抜かれたことに内心焦りながらもメルドはそれに気づいていない風を装って話を続ける。

 

「俺達を上手く欺いて光輝達と一緒に逃げることも出来ただろうさ。だがそれをせずに黙って俺のシゴきについてきた、ということはお前らが信用に値する人物だと確信出来た」

 

「信用している人に言う言葉じゃないと思うんですけど……」

 

「まぁ、な。だがこうして憎まれ口を叩くということはそういうことだろう? 本気で裏切るつもりならこの程度、笑って誤魔化すだろうからな」

 

 鈴が軽く不機嫌になりながらメルドの言葉にケチをつければ、メルドは改めて確信したかのような様子でそれに反論する。目の前の男が本当に自分達を信じている様に恵里達は少なからず驚いた。

 

「お前らが信用できる、と思ったのもそうだがこういう風に接するのは俺の性分じゃなくてな……よほど性根が腐った奴でもない限りこういう態度はとりたくなかった。正直疲れるからな」

 

 ただ、そう言って大きくため息を吐いた辺り、これが本心なのだろう。恵里だけでなく鈴もそれを聞いて思わず呆れ、ハジメも苦笑いが浮かべる始末であった。

 

「……いい加減にしろ貴様ァ! 一体何を理由にこやつらを庇いたてるのだ!! こやつらはエヒト様の使命を――」

 

「それはこちらの台詞だ!……さっきからよくもまぁ坊主達を遠慮なくこき下ろすな。確かな証拠もなしに、なぁ?」

 

 そして先ほどから怒気を発しながらも黙っていた神殿騎士が口を開くも、メルドは怒りを露にしてそれに反論する。聖教教会はこの世界の九割の人間が信仰する宗教であり、その息がかかった騎士相手に啖呵を切ったのだ。その様子が演技に見えなかったことから恵里もハジメも鈴も大いに驚き、そしてメルドが信用に値する人物だと確信した。

 

「今の今まで坊主達が裏切った証拠は出てきてすらいないのだろう? それをわかっていながらよくもまぁ言えるな……?」

 

「証拠はある! 教皇様だけでなく、司祭の方々もエヒト様の言葉を――」

 

「それはただの証言だろうが! こうして見ているとお前ら聖教教会の人間が坊主達を目の敵にしているとしか思えんのだがな……ならわかった」

 

 話が通じない神殿騎士らにメルドは更に苛立ちを見せ、ハジメと鈴がメルドに声をかけようとするも手で制されてしまう。一体何をする気やらと思って静観していた恵里であったが、メルドの次の言葉に思わずポカンとしてしまった。

 

「そこまで言うのならこちらにも考えがある――俺が近くにいる限り、坊主達の行動すべてに責任を持つ。それでいいだろう? このままだと暴発する危険もあるんでな」

 

 メルドが持ち出したのは至極簡単なこと。側にいる限り行動を担保する、ということだ。疑うどころか執拗にケチをつけようとしている奴らから三人を守るためにはどうすればいいのかを考えたのがこの方法である。

 

(ヤバいヤバいヤバい!! この発言を認めたらとんでもないことになる!)

 

 だが恵里達からすればメルドの行動はヤバ過ぎた。ひたすらに自分達を敵視している相手(エヒトの犬)に絶好の攻撃材料を渡したに等しかったからだ。

 

 もし仮にこの言葉に乗っかってしまえば自分達はメルドを奸計にかけたとしてしょっぴかれる可能性が高い。重役の信頼を得て裏で動こうとしているとでっち上げれるからだ。しかもこの国では王よりも教皇の方が実質的な立ち位置は上であり、しかもソイツ自身頭が回るのだ。こうなってしまえばもうエヒト討伐どころの話ではない。

 

「メルドさん……あり――」

 

「ダメダメダメ! 結構です!! そこまでしてくださらなくてもいいですって!!」

 

 その言葉がもたらすことに気づいたハジメも泡を食ってしまい、それに乗っかろうとした鈴の声をかき消さんとばかりに大声を出した。すぐさま不機嫌になった鈴を恵里は手招きし、自分の考えを伝えれば即座に青くなる。そこで三人でメルドに声をかけようとするも、神殿騎士は怒り心頭になってメルドを射殺さんばかりに凝視してきた。

 

「貴様――!!」

 

「やらなくていいですって!! 僕らは平気ですから!」

 

「何を言ってるんだお前ら! このままだとお前らはいいようにされたままなんだぞ!――さて、神殿騎士ども。お前らが言った通り、裏切りを働いたのならば俺の首を刎ねればいい。だがな、これ以上お前らの好き勝手にはさせんぞ」

 

 誰もが武器の柄に手をかけ、今にも襲いかかりそうな神殿騎士に対してメルドは毅然とした態度で自分の意を告げる。自分達の二股が原因でエラいことになったと思いながらも、恵里もどうしたものかと考えあぐねている間に事態は進行していく。

 

「ほぅ、なるほど。そんなに大事にしたいか……アラン、カイル、イヴァン、ベイル! 今すぐここに来い! 神殿騎士どもがまだ暴れ足りないらしいんでな! 俺らでこいつらの頭を冷やさせるぞ!!」

 

 神の使徒の訓練の任は国王陛下の命により騎士団長のメルドに委ねられており、神殿騎士はあくまで『神の使徒に危機が及ばない時のための戦力』という体で寄越されている。もちろんそういった名目で教会が神の使徒に干渉しようとしているのも、自分の役職がただのお飾りなのもメルドもわかっていた。だが()()()()自分が最高責任者なのである。三人にかけられる疑いを晴らすためにも、彼らのことで心を痛めている光輝達のためにも今動くしかないとメルドは直感したのだ。

 

「ぼ、僕らは気にしてないんで! そ、そうだよね恵里、鈴!」

 

「あ、あー、うん! 私はいいんで、落ち着いてください!!」

 

「え、えっと、お気持ちは嬉しいんですけど、ちょっと問題が出ちゃうんで――」

 

「お前らは気を遣わんでいい!!――ここからは大人である俺達の問題だ!」

 

 そして当の本人を差し置いてメルドと合流した騎士達、そして神殿騎士の間にバチバチと火花が散っていく……恵里達は何度も何度もメルドを説得し、頭を下げて怒りを抑えてもらうことに終始するのであった。

 

 

 

 

 

「あーもうホント、エラい目に遭った……」

 

 メルド達騎士団員全員を説得するのに小一時間かかり、しかもどうにか説き伏せたら『今回の事は教皇様に打診させてもらったぞ』と神殿騎士から言われる始末。そのことに騎士団員全員がキレ出してもっと面倒になってしまった。

 

現在恵里はいざこざのせいで遅くなってしまった食事をハジメ達と一緒にしながら夜の見張りをしており、未だ魔物が来ないことに安堵しつつも己の不幸を嘆く。

 

「……すまん」

 

「一体どこの誰のせいなんですかねぇー……ケッ」

 

 ……それも向かいにメルドがいる状態で、である。相変わらず周りに見張りをしている神殿騎士もいるのだが、恵里はもう猫を被ることもせずに嫌味を目の前のメルドにぶつける。そしてぶつけられた本人も居心地の悪さにため息を吐きながらも、その場を離れることはしなかった。

 

「ふん……こうして自分達を庇おうとした上官を相手にその物言いとはな」

 

 どの口が言うのかと思いながらも、その言葉はひとまず飲み込む。

 

 さっきの騒動はすぐさまハジメが耳打ちしたおかげで自分達に何が起きるのかを理解させることが出来、とりあえずメルドは先の発言を撤回してくれた。とりあえず最悪の事態()()は免れられた。

 

 とはいえ今回の事で余計に動きづらくなったのは言うまでもない。下手したらもう訓練にすら参加させられないだろう。自分が飼い殺しにされるのはどうでもいいが、ハジメと鈴がそうなってしまったらエヒト討伐に大きな支障が出る可能性がある。そのことを危惧しているからこそ恵里は心底機嫌が悪かった。

 

「まぁまぁ恵里、メルドさんも僕達が憎くてこんなことやったんじゃないから……」

 

「とりあえずメルドさん含めて騎士団員の人は鈴達の味方だ、ってわかったんだからいいでしょ?」

 

 メルドとの仲をどうにかとりなそうとしてくれるハジメと鈴の声を聞いて恵里はそっぽを向いた。二人の言い分はわかる。わかるのだがそのせいでこんな目に遭ってしまったのだ。だったらまだ鬼教官として振舞い続けてくれた方がもっとありがたかった。故に恵里は二人の言葉に耳を貸さずに遅めの夕食に手を付ける。

 

「お前ら……」

 

「ハジメくんも鈴もコイツに甘いよ。コイツのせいでボク達更に追い詰められたんだからね」

 

 自分を(おもんばか)るハジメと鈴に涙がこみあげてきたメルドであったが、恵里の容赦ない物言いで即座に凹んでしまう。二人から非難の視線が向かってくるも『ボク悪くないもん』とばかりに恵里は顔をそらすだけ。

 

「……そうだな。確かにこうなってしまえばお前らが俺を嫌うのも当然だものな」

 

「め、メルドさん! え、恵里の機嫌は僕らが直しますからあまり気に病まないでください!」

 

「もう恵里! メルドさんもこんなにへこんでるんだからもうこれ以上追撃しないであげてよ!」

 

 背中を丸め、ため息を吐き、どんよりとした空気を漂わせるメルドを気遣って言うも恵里は自分の考えを曲げる気は無かった。どんな理由であれ善意であれハジメと鈴の首を絞める結果につながる行動をやったのだ。だから恵里は許す気など毛頭無かった。

 

「もう……こうなったらてこでも動かないなぁ。メルドさんごめんなさい」

 

 何度も何度もハジメはメルドに頭を下げてわび続けている。やらなくっていいよ、と言ってもハジメは頭を下げるのを止めようとはしなかった。そんなハジメにメルドは気を遣うなとばかりに首を横に振る。

 

「……いや、わかっているさ――こうしてお前らが俺を上手く使うことが出来なくなったというのは心底残念だろうからな」

 

 そして妙なことを言いだし、その場にいた神殿騎士以外が固まってしまう。

 

 恵里もハジメも一体何を考えているのかとばかりにメルドを注視し、鈴と騎士団員達は意見を翻したメルドに失望する。それを好意的に見ているのは神殿騎士達のみ。ようやく自分達の考えに賛同してくれたとばかりに沸き立っている。

 

「今回の事は国王陛下、並びに教皇にも報告し、上奏するつもりだ――お前達を追放する方向でな」

 

 その言葉に今度は神殿騎士が凍り付き、メルドが一瞬だけ浮かべた申し訳なさそうな笑みを見た騎士団員と恵里達はその真意に気づいて何も言えなくなった。

 

「つ、追放だと!? 正気か!? こやつらを国外へ出してもし魔人族に与することになったらどうするのだ!?」

 

「……本気なのですね?」

 

「無論だ。とはいえ持ってる物は全て置いていってもらうし、貸与していた武具も当然取り上げる。そして行き先はヘルシャーだ。それなら文句はあるまい?」

 

 『ヘルシャー』という聞き覚えのある単語をどうにか思い出そうと三人は必死になり、まず最初にハジメがそれを思い出せた――ヘルシャー帝国。ハイリヒ王国以外に存在する国家であり、実力主義が根付いた場所である。また獣の特徴のある人間である“亜人”を奴隷として扱っているというところでもある、と。そう鷲三から聞いた記憶がよみがえったのだ。

 

 すぐに恵里も鈴もそれを思い出し、このハイリヒ王国で肩身の狭い自分達をメルドなりにどうにかしようとしてくれたことに感謝した。とはいってもこれが通ることが前提であり、あちらの考え次第では跳ねのけられるやもしれないのだが。

 

「まぁこれが通るかどうかはわからんがな……まぁそういうことだ。覚悟しておけ」

 

(……ホント、馬鹿な奴。別にボク達を切り捨てたって良かっただろうに)

 

 心底すまなさそうに言う彼を見て恵里はため息を吐く。どこまでも不器用な大人だ、と。最後の最後まで憎まれ役を貫くなんてと思いながらも、そのお節介は嫌ではなかったから。

 

 そうして何とも言えない空気の中、夜は更けていく。己の無力を噛み締める大人達の横で、世界から疎まれた三人の子供達は彼らの思いを噛み締めるのであった――。




本日も懺悔のコーナー
いや、ね……最初はね、ちゃんと書いてたの。ただいつものように内容が膨れに膨れてまた起承転結の内の一つでここまで大きく育っちゃったのよ。うん。
本当なら前話と今回の話分割する気は無かったの。というかこの二つ起承転結の起と承なのよ……どうしてこうなった。大きくなりすぎてんのよ。成長速度ヘルヘイムの森かよ。
あとね、書いてる途中にとんでもない大チョンボを見つけてそこを丸々書き直したせいで遅くなりました。申し訳ない……ここまで、ここまでかかると思わなかったんです。本当なんです。信じてください!
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