それとAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。毎度似たような文章で申し訳ないのですが、こうして何度も何度も評価してくださることは作者にとって励みとなります。
それでは分割した幕間の後編になります。本編をどうぞ。
「――そうか、ありがとう浩介。その……鷲三さん、霧乃さん。そちらの方はどうでしたか?」
「ああ。とりあえず今は……な」
「そちらは後で話そう。今は“大迷宮”の方の話を進めんか?」
地球にいたクラスメイト達が異世界トータスに転移して十二日目の夜のことであった。この日、光輝達は部屋に集まって話し合いをしている。
いつもならば全員が同じ部屋に集まって話をするということはせず、何日かに一度、数人単位に別れて部屋に集まって裏で動いてくれている浩介、鷲三、霧乃ら三人の内の誰か――今日は浩介の番であった――から話を聞くといった具合であった。
ところが浩介から『全員同じ部屋に集まって欲しい』と頼まれ、指定された場所へと出向くことになった。既に鷲三と霧乃も到着済みであり、部屋の主である優花もソワソワとした様子であった。自分達が来るのを待っていてくれたのであろうと察した光輝達はすぐさま話し合いを始めたのである。
「わかり、ました……じゃあ皆、とりあえずメルドさんのことは一旦後にして、先に大迷宮の異変について話そうか」
鷲三と霧乃の重々しい感じもあってそれ以上は聞けず、三人に頼み込んでいたメルドの安否についての確認を一旦後回しにすることに皆が同意するのを見届けた光輝は、先程浩介が話してくれた異変の話を先に済ませることにした。
――浩介、鷲三、霧乃の三人は現在、交代しながら王宮、城下町そしてオルクス大迷宮に挑む者達が利用する宿場町のホルアドを見て回っている。
こうして裏で動く際、自分達も身分証明のためにステータスプレートを持っていた方がいいと考え、軽く情報収集をした後、ホルアドの冒険者ギルドにていち冒険者として登録。町の外の魔物を狩って日銭を稼ぐかたわら、レベルとステータスを鍛えつつ脱出ルートを探ってくれていたのである。
ある程度強くなり、日銭稼ぎを街の外の魔物狩りからオルクス大迷宮の方へと移して数日。今日も顔をしかめつつ、未だ不慣れな手つきで迷宮内の魔物を倒して剥ぎ取りをしている時、浩介は奇妙なものを見かけた。神殿騎士達が何人もの鉱夫を連れてきたのだ。
一体何のためにと思い、隠形で気配を殺して後をついていったところ、二十層で採掘を始めたのだ。それも全方位にやるのではなくある特定の方向だけを掘っていた。
神のお告げで金脈でも当てようとしてるのかととりとめのないことを考えながらも戻り、二人に報告して教会の内部を無理のない範囲で三人で探った結果、ある情報と一緒にそれを使って何かをしようとしているのが判明したのである。今日はその発掘が終わった旨と持ち帰った情報――メルドが失踪した真相に関する断片的な情報について報告しに来てくれたのだ。
「……一体何のつもりかしらね」
「結構綺麗で宝飾品にしたら高そうなんだけどな。でも結局手つかずのまま仕事してた奴を帰してたんだよ。だから鷲三さんに報告して念のため教会の金回りとかについて調べてもらったんだけど……資金繰りに困ってるどころか執務室で探し当てた帳簿を見てもそういうのはなかったみたいだ。そうですよね?」
雫がそれについていぶかしみ、浩介がさっきした説明を補足する。そして浩介が鷲三に確認をすると無言でうなずいた。帳簿の確認とかいう中々にヤバいことをやっているのはとりあえず横に置いておいて、一体何のためにそんなことをしたのか。それを誰もが考えていると幸利が恐る恐る手を挙げた。
「……幸利、言ってくれねぇか?」
「あ、いいのか? わかった。んじゃあ、これは俺個人の考えなんだがよ……やっぱりトラップじゃねぇのか?」
龍太郎から促され、幸利は自分の考えを口にする。浩介からの報告を聞いた時点である予測を立てていたものを。
価値のある鉱石であるにもかかわらず、それを野放しにしている。金稼ぎの類でなければ一体何なのか。そこで幸利が思いついたのがその鉱石そのものが罠である可能性である。
それを聞いた光輝、雫、浩介、鷲三、霧乃はやはりといった表情になり、龍太郎、大介ら四人は思わず生唾を飲み込む。優花と奈々は顔を引き攣らせたのだが、香織と妙子だけは首を傾げた。
「? どうしてなの幸利君? その大迷宮、ってところは人が何度も出入りしている場所だよね? そんな危険なもの、今更見つかるのかな?」
「そうだよぉ~。浩介があそこは国とギルド? ってところが関わってる感じのこと言ってたし、そういうのはちゃんとやってるんじゃな~い?」
疑問符を浮かべた二人にうなずきつつも、まぁ聞いてくれといった様子で幸利は説明していく。
「香織と妙子の言いたい事はわかる。でもよ、ソイツがあったのは地下の二十層だ。魔物なんつー化け物もいて、しかも壁を掘ったら土砂だって出てくる。それをどかすのだって人手はいるし、そいつらのお守りだって必要になるだろ? やるにしても手間暇も人も必要になるし、それを急ピッチでやってたことを考えれば教会だって相応の出費はあったはずだ。なのにどうしてソイツを放置してるか、って考えると……さっき言ったのが浮かんだんだよ」
幸利の言葉に二人は納得したのか首を縦に振った。実際問題幸利が述べた通り、割に合わないのである。相応の実入はあるにせよ、相応のコストと時間がかかるからだ。全方位に掘削するのでなく特定の方向のみにやっている分コストと時間はかからないものの、そうして見つけた物を放置など金と時間をドブに捨てるに等しい。ならばそれがそこにあることに意味があると考えたのだ。
「あー、うん。幸利の言いてぇ事はわかった。でもよ、だったら魔法とかが当たって出てくる可能性だってあっただろ? そっちはどうなんだ?」
香織と妙子が納得を示すと、今度は大介が質問をしてくる。幸利も『あぁ確かに』と思いつつも、大介の質問に丁寧に答えていく。
「まぁ確かにそうっちゃそうだな。でもな大介、今まで見つからなかった、って事はそこまで火力の高い魔法が無くても対処できる場所だったはずだ。それに洞窟の中で壁を崩す程の大火力のものを撃ってみろ。洞窟が崩落しかねないし、何よりその鉱石自体吹っ飛ぶだろ」
それを聞いて大介だけでなく礼一、信治、良樹と龍太郎もおぉ、と納得した様子であった。こうして全員が自分の話に理解を示したところで幸利は鷲三と霧乃の方に視線を向けた。
「で、だ。わざわざそんなモン見つけに労力を割いたぐらいだ。近いうちに俺らはそこに行くことになる……そうですよね。鷲三さん、霧乃さん」
幸利に話を振られた二人はうなずくと、ある事を口にする――数日後にオルクス大迷宮で戦闘訓練が予定されている、と。
「あくまで立ち聞きをしただけだが、おそらくそのつもりだろう。そうでなければあの発掘作業自体、必要がないからな……全容は未だわからん。これから追って調べるつもりだが、間に合わない可能性もある。気をつけて欲しい」
「まず間違いなくそこであちらは仕掛けてくるでしょう……では、いなくなった騎士団長殿のことについて話しましょうか」
そうして霧乃が始めた話に誰もが耳を傾けるのであった――。
「――なるほどな、わかった。確証が取れたらまた来るよ。それと、その
「うん。浩介君も気をつけてね。ハジメくんと恵里によろしく」
恵里達がトータスに転移して二週間経った夜のこと。夕食を終え、この日も特にやることがなかった鈴はいつものようにすぐにベッドに横になろうとしたのだが、その時部屋の窓を叩く音が聞こえた。城の三階にこの部屋があるはずなのに一体誰が。おそるおそる近づけば幼馴染の浩介が窓を叩いていたのである。
なるほど彼ならやれると思いつつ静かに窓を開けて手招きをすると、浩介も周囲を二、三度見回してから部屋に入ってきた。そして鈴に先日光輝達に伝えた情報プラスアルファ――霧乃曰く、オルクス大迷宮の二十層の鉱石に触れたら近くの人間が消えたとのこと――を耳打ちしてくれたのである。
話を聞き終え、小声で返事をすると同時に浩介の気配は一瞬で消え去り、カーテンがふわりと揺れた。日を追うごとに段々と忍者染みていく幼馴染のことを思いながらも鈴は考える。
(やっぱり、“アレ”だよね)
脳裏に浮かんだのはある可能性――恵里がトータス会議で言っていた“ハジメがどこかで姿を消す”という出来事である。叶うことならばそれを阻止したいし、無理ならば一緒についていきたいと前々から考えていた。そこで今回の浩介の話を聞いてある可能性が浮かんだのである。もしやハジメがいなくなるのはその鉱石が絡んでいるのではないか、と。
ハジメと恵里と一緒にゲームをやっていたこともあって、その鉱石がワープ系の罠ではないかと思い、また教会の不自然な動きからしてそうではないのかと勘繰ったのだ。もしかするとあり得た未来では自分達はあの罠に接触してどこかに移転することになり、そしてその先でハジメが行方不明になってしまったと考えたのである。
(そういえば恵里が頭をいじられた、って言ってたっけ。それに教会の変な動き……こんなの知ってなきゃ絶対出来ないよ……もう、厄介なことになったなぁ)
恵里が奪われてしまったことの影響が思った以上に及んでいることに今更ながら鈴は頭を抱えてしまう。
叶うことならばそのまま凹んでいたいところであったが、それじゃあいけないと思い直し、自分達はどうすればいいかと知恵を巡らせていく。
(私が気づけたんだからハジメくんも恵里も気づくはず。他に出来ることは……)
そうして考えてたどり着いたのはシンプルな答え――何があってもいいように気を付けることであった。
(結局何があるかわかんないのがなぁ……話を聞いた限りだとイタくなったハジメくんと光輝君達は後で再会するみたいだし、ハジメくん以外は無事? うぅ、余計に気になっちゃうよぉ……)
何が起きるか予想が出来ず、悶々としながらも鈴はベッドに横になった。早く朝が来てほしいと願いながら布団を頭まで被り、今日の訓練の疲労がもよおす睡魔にすぐさま鈴は身を委ねるのであった。
「教皇様。ルーニー・アティック、只今戻りました」
「同じくファナ・アティック、只今戻りました」
神山にある聖教教会総本部、その大聖堂にてイシュタルは眼前で
「二人ともよく戻られました……では結果の方はいかほどに?」
しかしそんな感情はおくびにも出さず、イシュタルは聖教教会の長たる者としての振る舞いを続ける。二人の兄妹もまたそれに気づくことなくあることを報告する。
「はっ。教皇様が賜った神託の通り、あれは転移系の罠でありました」
「兄様の……いえ、ルーニーの申す通りです。生還した者の話では――」
そうして詳細な報告を二人から聞けばエヒトから賜った言葉の通りであることが判明し、貼り付けた笑みも段々と自然なものへと変わっていった。
「よくやりました。既に
「「身に余るお言葉にございます、教皇様」」
兄妹を含むすべての神殿騎士に対する労いの言葉をかけると、イシュタルはこの場にいる全員にあることを問いかける――貴方がたの使命は何でしょうか、と。
「「オルクス大迷宮にて裏切者を排除し、使徒様の目を覚ますことです」」
兄妹の言葉に続き、そばで控える神殿騎士全員も同じ文言を唱和するように答える。
『オルクス大迷宮にて裏切者を排除し、使徒様の目を覚ますことです』と。
そして合唱するように『すべてはエヒト様の御心のままに』、『裏切者の粛清を』、『偉大なる神の威光を世界に広めること』と述べていく。
「流石は我らが神の子です……皆の者よ、心して聞きなさい。エヒト様は仰せになられました。明日のオルクス大迷宮で裏切者を奈落の底に突き落とせ、と」
目の前の様子に満足したイシュタルは恍惚とした様子で先ほど受けた神託をのたまった――途端、大聖堂は無言の熱狂で満たされていく。遂にこの時が来たのだ。薄汚い使徒を名乗る奴らを消す日がようやく訪れたのだ、と。
「我らには真なる使徒様もおられます――万難を排する時は来たれり」
教皇の言葉を皮切りに狂信に満ちた言葉がこだましていく。
『エヒト様万歳! 教皇様万歳!』と。
『我ら信徒に祝福あれ! 仇なす者に
歓喜に溢れた声がこだまする。
狂信が響き渡る。
待ち望んだ機会を前にこの場にいた誰もが狂喜する。
ここに白い悪意が雄叫びを上げた。
(……ここまであけすけにやられると怒る気すら湧いてこないなぁ)
十五日――クゼリーが団長の代理として引き継いだ際、丸一日使って自分達の錬度を調べたため、その分余計にかかっている――の訓練を終え、ハジメ達はクゼリー団長代理と騎士団数名、そして十数名の神殿騎士と共にホルアドへと来ていた。
新兵訓練によく利用するようで、王国が直営している宿でハジメ達は宿泊する事になった。現在、自分一人だけ割り当てられた部屋にてハジメは今自分達に起きているであろう異変の事を考えていた。それは周囲に神殿騎士が誰もいないことであった。
こうしてホルアドの宿に来るまでは歩いていようが馬車に揺られていようが神殿騎士が常に近くにいたのだが、宿での夕食を終えると誰もついてこなかったのである。それは恵里と鈴も同じであった。
大方、自分達がこれ幸いとばかりに割り当てられた部屋を抜け出した際、それを基に糾弾するのだろうとハジメは考えている。そのため恵里達とおやすみのあいさつだけしてすぐに部屋へと戻っていた。
(でもこれが本命じゃない。鈴と恵里の推測の通りなら明日が正念場だ)
自分の部屋に来てくれた浩介から話を聞いた際、ハジメも自分が失踪する場所がオルクス大迷宮であるという推測を聞いていた。
もちろん恵里の話を疑ってはいなかったし、浩介から聞いた教会側の不自然な動きから考えればハジメも同じ結論にたどり着いている。しかしハジメの頭の中にはまた別の推測も浮かんでいたのである。
(浩介君の話じゃオルクス大迷宮は潜れば潜るほど敵が強くなる。ゲームなんかと同じだ。それとどこかにワープするトラップ……単に同じ階層のどこかに転移するだけなら、メルドさんや騎士団員の人達が僕を疎んでいたりしてなければ探し出して連れてくるはず。そうでないとすると……やっぱり下の階層、だよね。それも騎士団員の人でもマトモに勝てないレベルのところに)
それは本来辿るはずであった自分が失踪する経緯に関するものであった。恵里の話ではどこかで自分だけがいなくなるということだが、それがここ最近起きていることが全て結びついているのではないかと考えていたのである。その理由となったのは無論教会側の動きだ。
まず今回のオルクス大迷宮二十層の発掘作業のことである。ただ発掘だけしてそのまま帰るというのはハジメとしても考えられなかった。公共事業としてならば国が動くだろうし、何よりこんな深く危険な場所に一般人を連れてきて大丈夫なのだろうかという疑問が浮かんだからだ。人権という概念が無いからこういうことを平気でやるのかもしれないという可能性は頭の片隅にはあったものの、その線は低いとハジメは見ている。
次にヘルシャー帝国への追放の件である。メルドが姿をくらませた後、ハジメは団長代理となったクゼリーにそのことを尋ねたものの、『私はそれについて答えられない』と伝えられただけであったのだ。その返答から察するにおそらく教会は自分を逃がさない気だろうとハジメは考えている。
(恵里が使徒に連れ去られてからの動きが妙にエヒトにとって都合がいいものばかりだ……やっぱりエヒトが絵図を描いて教会の方にリークしてる、ってところかな)
ここ一連の動きは全てエヒトによるものではないかと当たりをつけると同時に、だとしたら恵里、鈴そして皆と話が出来る訳がないよなぁとハジメは考えた。それと同時に浮かんだのは連れ去られた翌日の恵里のある言葉――頭をいじられた、というものである。
(あの時恵里は言わなかったけど、多分何らかの形で僕らの情報がエヒトに漏れてる……そう考えるのが自然かな。だとすれば、そこに勝機がある)
うまくいっている時こそ人は油断する。ならばあえてあちらの手の内に乗って起死回生の一手を見つけて打つしかないとハジメは考えており、その一手を彼は既に見つけていた。
(考えられる可能性としては、おそらく僕が失踪した先にいる金髪の女の子――エヒトが探し求めてた器になる子がいる。その子に執着しているにもかかわらず未だに見つけることが出来てない、ということはエヒトのやれることにも限界があることの証拠だ。なら、いけるかもしれない)
将来エヒトの器となってしまう少女の存在が、もしかするとそのオルクス大迷宮の地下にいるのかもしれない。だからこそハジメはあえてエヒトの策に乗ることを決めた。
(でもこうして見つからないとなると幽閉されているのかもしれないな。自発的に籠っているんじゃなかったらどうにかなる、かな……結局僕のやることもエヒトと大差ない気がするな)
そしてその少女の状況について考えるも、恵里のことがどうしても出てしまい、自己嫌悪するハジメ。しかし相手がまがい物とはいえど神に匹敵する力を持っている以上、なりふり構っていられないと良心の呵責に苛まれながらも決断する。
(どうにかしてその子に協力してもらうしかない。恵里の魂だけでもどうにかすれば勝てるかもしれないし、多分……連れていかなかったら今度は僕らも拉致されるかもしれないしね。アイツを倒す準備がちゃんと整うまでは戦う訳にはいかない)
またハジメの脳裏にはある可能性も浮かんでいた。件の金髪の少女を連れていかなかった際のものである。こうして情報が漏れているであろうことを考えるともしその少女を連れていかなかった場合、どこにいるかを知るためにエヒトが自分達をさらうことだってあり得るのではないかという懸念が脳裏をよぎったのだ。
しかも恵里はさらわれた際に頭をいじられて自分達を殺してしまうかもしれないと怯えていた。それを考えれば自分達もさらわれた際に同士討ちをするように頭をいじられることは十分にあり得るのではないかとハジメは考えたのである。そうなってしまったら勝てる可能性は一気に絶望的になるであろうという事も、だ。
(……とはいえ、恵里の話だとエヒトが行動に移すのは相当時間が経ってからみたいだ。何らかの理由か原因があるんだろうけど、それも僕らがなぞることを前提にしておいた方がよさそうだ)
そうして自分達がエヒトの引いたレールから外れた際のリスクを考え、やはりあえて乗った上で対処する方法を考えるべきだとハジメは結論づける。
(改めて考えると妙だからね……普通の人間と大差ない僕が、多分使徒すら倒せるレベルにまで成長してるみたいだし。大器晩成タイプでもない限りは、ね)
そう言いながらハジメは取り出した自身のステータスプレートを見て眺める。
==================================
南雲ハジメ 16歳 男 レベル:3
天職:錬成師
筋力:14
体力:14
耐性:14
敏捷:14
魔力:14
魔耐:14
技能:錬成・気配感知[+特定感知]・言語理解
==================================
メルドからの厳しいシゴきもあったおかげなのかすずめの涙程度には成長していた……本当にわずかな数値の上昇で心底泣きたいぐらいであったが。
だからこそハジメは確信する。こんな一般人に毛が生えた程度の強さであの使徒をどうにか出来るとは到底思えず、きっと何かカラクリがあったのではないかと前々から考えていたからだ。そしてそれがエヒトの敷いたレールの上にあるであろう事にも勘付いている。
(とりあえずは目の前の罠をどうにか無事に乗り切る――絶対に負けるもんか)
ステータスプレートをズボンのポケットに入れると、一瞬だけ目を細めたハジメはすぐにベッドに横になる。
決戦は明日。なんとしても恵里達と共に生き延びるという覚悟を胸に。
「……ん、ぅぅ……もう朝かぁ……」
窓から差し込んでくる朝日で目を覚ました恵里は眠い目をこすり、頭を何度かかくと、気だるげにベッドから這い出て身支度を整えていく。
寝るときに着ていたネグリジェを脱ぎ、普段の訓練の時から着ているシャツに袖を通し、長ズボンを履いていく。――前世? ではこの世界に来た時に支給された服はこういったものではなかったはずだが、こうなったのはメルドの差し金である。
曰く、『ローブやスカートだと裾を掴まれたり、抑えられたら身動きできなくなるから不要だ。それと肌を露出しているとその分直にダメージもいきやすい。だから露出を抑えて動きやすい服を選んだ』とのことで、こういった服装になったのである。
それを聞いた時には訓練の苛烈さを容易に想像出来て軽く青ざめたものの、今となってはこちらの方が馴染んでいるし、スカートがめくれるのを気にしなくて済むためそこまで気に入っていない訳ではなかった。
……見た目の色気のなさとスカートの裾をつまんでハジメを誘惑したりすることが出来ないのだけは流石に不満ではあったが。
「これで、よし……と。髪もまとめないとね」
ズボンにベルトを通す際、回復薬などを入れる革製のホルダーもいつもの位置でベルトで固定すると、恵里は部屋に備え付けられていた鏡台を使って髪を整えていく。
こちらの世界でも可能な限り髪の手入れは怠っていない事もあって、髪がクシに絡まるといったこともなく、何度か梳いて整え終わった髪の毛をポニーテールにまとめていく。気がつけばこっちでいる時間が長くなったと思いながら鏡を見て確認。
それを終えると恵里はコートハンガーに掛かっていた長袖のジャケットを着て、もう一度鏡台の鏡を見て確認する。
「……よし。後は食事を済ませて大迷宮に行くだけ」
これから敵の張った罠に飛び込んでいくことを考えて緊張に襲われるも、数回深呼吸をして心をどうにか落ち着ける。
オルクス大迷宮での戦いはまだ緒戦に過ぎない。これはエヒトを倒す戦いの足掛かりでしかないと考え、恵里は宿の食堂へと向かっていく。しっかり準備を済ませて、万全の態勢を整えて、そして勝つ。その事だけを考えながら恵里は歩いていく。
(ここでつまずくようならエヒトなんて倒せる訳がない……負けるもんか)
前世? の記憶と経験、そしてここまで磨いてきた技能と魔法、そして前はいなかった心強い仲間。これらがあるから絶対に負けない、と意気込みも新たに恵里は歩いていく。その先の、幸せな未来を見据えて。