あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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こうして拙作を読んでくださっている皆様にまずは感謝を。
おかげさまでUAも79387、お気に入り件数も621件、しおりも248件、感想も176件(20221/30 8:18現在)にまで上りました。本当にありがとうございます。いやもうホント皆様が愛想をつかさないでこうして見てくださるのホント嬉しい……。

そしてAitoyukiさん、WizAsuraさん、拙作を評価及び再評価していただき誠にありがとうございます。こうして自分の作品を評価していただけることは何にも代えがたい幸せです。本当にありがとうございます。

今回のお話は恵里達がベヒモスと戦っている最中、他の子達がどうしてたかのお話です。またタイトルから察せられる通り、今回は鬱・胸糞展開が入ります。ご注意ください。あと今回歴代最長(16563字)です。上記のことに注意して本編をどうぞ。


幕間十三 この世界の残酷さを子供たちは戦場で知る

「随分と諦めが悪いようですね」

 

「守りたいものがあるからな! 負ける訳には、いかないんだ!!」

 

 恵里達がベヒモス相手に上手く立ち回っている一方、石造りの橋の中間の辺りで神殿騎士二人とノイント相手に光輝達も死力を尽くして戦っていた

 

「悔い改めよ! エヒト様の御意志に逆らうおつもりか!!」

 

「誰が……するかっ!」

 

「おう! 従うぐれぇなら……逃げてやらぁ!!」

 

(すさ)ぶ疾風よ 姿なき刃よ 鋭き刃となり この場を駆け抜け 敵を切り裂け――“鋭迅”!」

 

「燃え盛る炎よ 猛り狂う熱よ 石をも貫き 壁すら燃やせ 焼け続ける槍よ疾れ――“炎槍”!」

 

 神殿騎士の一人、ルーニー・アティックを相手していた大介達はここ二週間の訓練で身に着けた連携を駆使しながら戦っていた。“軽戦士”の大介が高機動力によるかく乱、“槍術師”の礼一の堅実な攻撃、そして“炎術師”の信治と“風術師”の良樹が魔法で援護するというスタイルである。

 

「ほらっ! これでどう!!」

 

「チッ、やはり軌道が読み辛いのは厄介ですね……!」

 

「そこっ!!」

 

「くっ!」

 

「荒ぶる水よ 形なき武器よ 岩すら砕く槌となり 我が元に集いて 敵を打ち砕け――“水槌”!」

 

 神殿騎士の一人、ファナ・アティックと戦っていた優花らは連携に加え、それぞれの持ち味と数の利で押し込んでいた。“操鞭師”である妙子が手足のように鞭を操って幻惑しながら攻撃し、そうして出来た隙を狙って“投術師”である優花がナイフを投擲、そして“水術師”の奈々が二人の間合いを保つために魔法でけん制している。

 

「ぐっ!」

 

「私とあなたでは絶望的な差があります。諦めたらどうですか」

 

 そして光輝はノイントと真正面から打ち合っている。一太刀毎に感じる腕の痺れ、容易く弾かれる自分の剣筋から、光輝は自分と目の前の女との絶望的な差を何度となく理解しながらも戦い続けていた。

 

「いいや、誰が諦めるか!!」

 

 強さに天と地ほどの開きがあっても光輝が打ち合いを続ける理由――それはある確信であった。

 

「無駄な足掻きを――ふっ」

 

 その確信とは、()()()()()()()()()()()()()()()()ということである。

 

 トータスに転移する際の魔方陣が自分を中心に展開されていたこと、“勇者”という貴重な天職、自分達がトータスに招かれた際に話し合いの席で上座に座らされたこと、幽閉同然の扱いを受けていたリリィが自分とだけ話が出来たこと、こうして実力に雲泥の差があっても殺しには来ないことなどから推測し、光輝は自分がトータス――否、エヒトにとって重要なウォーゲームの駒であると考えていたからだ。

 

 浩介を通して聞いたハジメ達からの話では、エヒトが一番重要視するのは自分ではなく金髪の少女であることは光輝も知っている。しかしその情報が渡った今もなお、自分が生かされているのはどういうことかと彼なりに考えた末にたどり着いたのが先の結論である。

 

 ()()駒として利用価値があるというのならそれを利用する。たとえそれがどんなにみじめであっても、皆から心配されようとも、だ。他の面々では自分程利用価値がないことから消される可能性があったからこそ光輝は迷うことなくこの方法を選び、こうして正面からの戦いを続けていたのである。

 

「はっ!」

 

「――無意味です」

 

 雫も可能な限り気配を消しながらクナイを投げつけ、ノイントの気をそらすことに徹している。自分達の中で一番ステータスの高い光輝を以てしても容易くあしらわれてしまっていることと、八重樫の裏を修めている祖父と母が羽虫を払うようにあっさりとやられたことから、真正面から戦っても勝てないと判断し、光輝の指示通り援護に徹することにしたのである。

 

「やぁっ!」

 

 戦いが始まった時からやっているのだが、今まで一度もクナイがノイントの羽根か翼以外に届いた試しはない。だがそれでも、と手持ちのクナイを必死に投げ続けている。自分の行動が少しでも光輝のためになると信じて。ただそう考えて。

 

「そらっ、コイツでどうだ!」

 

「くっ――おのれっ!!」

 

「ここに焼撃を望む――“火球”! 大技じゃ避けられるし手数で押すぞ!」

 

「おうよ!――そらそらっ!!」

 

「ここに風撃を望む――“風球”! 避けれるもんならやってみなぁ!!」

 

 相手が場慣れしていてちょこまかと動くことから、信治と良樹は詠唱に時間のかかる“炎槍”と“鋭迅”でなく、一節で詠唱が終わる“炎球”と“風球”で大介と礼一を援護し、大介達も二人の援護を受けながらひたすら手数で押していく。

 

 ルーニーも四人の連携に舌を巻きながらもそれをどうにかいなし続けていた。

 

「タエッ、一旦下がって――ハァッ!」

 

「うん!――はい、そこっ!」

 

「ここに水撃を望む――“水球”!」

 

「ええい、厄介な!」

 

 ファナと相対している優花らも戦い方を少し変えていた。変幻自在な妙子の鞭捌きをいなし、その上で自分たちの攻撃を避けていることから、攻撃の起点を妙子から優花へとチェンジしたのである。

 

 投げナイフの投擲で相手の動きを狭めた後、妙子の鞭と奈々の魔法による挟撃を仕掛ける。これにはファナも苛立ちを示しており、これなら行けると三人は確信を抱いていた。

 

「……実力差、というものを理解できていないので?」

 

「嫌ってなほどわかってるさ――それでも、だ!」

 

 その端正な顔からほのかに呆れがにじみ出ているように見えたが、光輝はそれに構うことなく聖剣を振るう。

 

 幾合切り結んでも隙は見えず、相手を倒すビジョンは彼の脳裏には浮かばない。八重樫流を修め、道場の人達に褒めそやされていた自分はこうも弱かったのか。粉微塵になっていたプライドが一撃いなす毎に更に粉砕されるのを感じながらも光輝はただただ必死になって攻撃を捌く。

 

「策がおありのようですね」

 

「――――!」

 

 だがノイントの言葉を聞いた途端、一瞬光輝の体が強張った。無論それをノイントは見逃すことなく、聖剣を弾き飛ばして剣の腹で光輝の横っ腹を叩こうとする――が、その瞬間顔目掛けて放たれたクナイを双大剣の一本で防ぐ。

 

「ありがとう雫!――来い、聖剣!」

 

 無防備になってしまった自分を助けてくれた雫に礼を述べると、光輝はすぐさま聖剣を呼ぶ。いかな場所であろうとも持ち主の声一つで戻る機能を持った剣はすぐに彼の手元に馳せ参じた。そうして自分の焦りを見透かされないようすかさず聖剣を構え、目の前の女の出方をうかがう。

 

「大方あの老人と女……それともう一人、姿の見えない何かによる奇襲でしょう。既に手札は割れています……いえ、その手が使われることすら無いでしょう」

 

 そうノイントが何の感情もなしに言い放ったことに疑問を持った雫は一瞬だけ視線を大介らの方に向ける――そしてノイントの言葉が真実であることを思い知った。

 

「……思い上がりには、少々仕置きが必要なようだな!!」

 

「うぉっ!?」

 

「やばっ!?」

 

「――“風球”! とっととこっち側に逃げろお前ら!!」

 

「――“城炎”! これなら流石に時間が――マジかおい!?」

 

 連携を強みとして戦っていた大介達であったが、その癖を読み取ったルーニーはそれを崩しにかかった。

 

 攻撃をあえて誘発させ、大介と礼一が空振りしたところを一気に切りかかる。武器で受け止める大介と礼一相手に力で押し通そうとし、来るとわかっていた“風球”を避け、そして退避するために詠唱した“城炎”で出来た炎の壁も火傷を覚悟して突っ切っていき、そのまま四人のペースを崩し続けていく。

 

「――“風刃”!」

 

「あぐっ!?」

 

 そしてファナの方も戦い方を変えたことであっさりと均衡は破れてしまう。あえて妙子の戦いに乗っかり、鞭が自分の剣に絡んで()()()()逃げられなくなったところを“風刃”で切り裂いた。幸い咄嗟に鞭を手放して逃げの一手を打ったことと妙子の魔法への耐久力のおかげで体をバッサリと切られることはなかったが、右腕を切られて出血してしまう。

 

「タエっ! この、よくも――!!」

 

「そんな、妙子!!」

 

「怒りと焦りに囚われた攻撃如きが届くとでも――そこです!」

 

 出血し、痛みのあまり地面に転んだ妙子を逃がすべく優花は投げナイフを投擲するものの、ファナは事もなげにそれを弾き、逆に一気に詰め寄って二人に切りかかっていく。

 

「そんな……皆っ!」

 

「檜山! 妙子! クソっ、今助けに――」

 

「させませんよ」

 

「ごふっ!?」

 

「光輝!?」

 

 そして戦っていた大介らが窮地に陥ったことで冷静さを欠いた光輝の顔をノイントは持っていた大剣の腹で殴り飛ばす。光輝の推測通りエヒトから『余興のために天之河光輝はまだ殺すな』とノイントには伝えられており、あえて動けなくなる程度にまで加減していた。

 

 そして悠然とした動きで倒れた光輝の許まで行くと、ノイントは彼の髪を無造作につかみ、苦境に陥っている七人の方へと向けさせた。

 

「よく見ておきなさい。我らの意図に従わない者の末路を」

 

「うぐっ……ぁ……」

 

 ノイントの一撃で目がチカチカしていた光輝であったが、彼の視界に入ってきたのは信頼できる仲間達がたった二人の神殿騎士に追い詰められていくという現実であった。

 

 最初から違い過ぎたのだ。覚悟が。信念が。

 

 こうして戦っていた七人は無意識に“相手を倒して無力化しよう”という体で動いていた。自分達の高いステータスがあればどうにかなるという根拠のない自信を元に()()()()()()()()()のだ。

 

 だが、あちらは本気で殺しにきていた。自分達の意に沿わない相手を絶対に排除するという意思のもとに。高いステータスと数の利、それ故の無意識の驕りを突かれ、容易くひっくり返されてしまったのである。

 

 彼らの中で殺す覚悟でいたのは()()だけ。しかし鷲三と霧乃は転移前のダメージとある事をしている為にロクに動けず、光輝もまた自分の手を血で染めることに震えながらも覚悟していたが、相手との力量差故にその瞬間は訪れない。

 

 一方、雫もまだ覚悟をちゃんと決まってはいなかった。光輝が殺されてしまうかもしれないという不安から相手を殺すことへの忌避感を押し殺しながら戦っていたのだ。ただ、ノイントとの絶対的なステータス差のせいで雫は決定打を与えることすら出来ていなかったが。

 

「うご、いて……おねがいだから、うごいてよぉ……」

 

 それでも尚、雫はノイントに立ち向かおうとするも、祖父と母がなす術なくやられたことへの恐怖がフラッシュバックし、体が動かなくなっていた。また、武術を習っていたが故に今まで光輝がただ嬲られ続けていたことを理解しており、『自分では敵わないかもしれない』という思いを殺し続けることが出来なくなったがために何もできなくなってしまったのだ。

 

 そのノイントも雫が追ってくる気配を一切感じなかったため、もう脅威にならないと今は捨て置いていた。

 

「もう、だめ……」

 

「しにたく、しにたくねぇよぉ……」

 

「こんな惰弱な奴らを神の使徒として仰いでいたとは……反吐が出る」

 

「私達に遅れを取るような軟弱者如きは不要です―― 神の使徒を騙った罪を受けなさい」

 

「ゆう、か……なな……たえ、こ……ひやま……みんな……」

 

 満身創痍の彼らの首に断罪の刃が添えられている。死にたくないと願う彼らに手を伸ばそうとしてもそれは届かない。あまりにも惨めであった。もっと力があれば、自分がもっと強ければ、と思う光輝の目から涙がこぼれる。

 

「理解出来ましたか? あなたは生かしておけ、と主から命がありました――中村恵里、運び屋(ポーター)以外は最悪無くても構わない、とも」

 

「ぅ、ぁ……」

 

 何を間違えた?

 

 どこを間違えた?

 

 どうすれば皆が生きていられた?

 

 数えきれない後悔が光輝の頭の中をよぎっていく。もう自分の手は届かない。誰も救えない。それを痛感し、伸ばしていた手は力なく垂れ下がる。

 

「貴様らの罪」

 

「私達アティック兄妹が」

 

「「浄化する」」

 

 そうして凶刃が今にも振り下ろされんと高く掲げられる。だがこの瞬間、二人の闖入者がそれに待ったをかけた。

 

「やらせるかぁ!」

 

「すまんお前達、遅くなった!!」

 

 メルドとアランである。剣を抜いた彼らの姿を見るや否や即座にアティック兄妹はバックステップで距離をとり、即座に剣を構え直す。

 

「反逆者のメルドか」

 

「ちょうど良いところに来ましたね。貴方達の死もエヒト様に捧げるとしましょう」

 

「無意味な事を。あなた達にも死を」

 

 そうして意識がメルド達に逸れ、()()()()()()()()()()()を待っていた者達がいた。

 

「――今だ、浩介君」

 

「やっと――やっと殺せる! 今すぐ死にやがれクソ野郎ぉおぉぉぉ!!」

 

 凄まじい憎悪と怒りに染まった声に三人が気づいた時はもう遅かった。気配を殺していてもなお滾る殺意のままに浩介が駆け抜けていく。

 

「? 一体何――がっ!?」

 

 浩介は真正面からノイントに取り付き、懐から取り出した二本の細長い串を取り出してそれを彼女の両耳に勢いよく刺した。

 

「この程度、私にき、く――!?」

 

 鼓膜を破り、内耳すら貫かれ、運悪く耳石まで砕かれたノイントは平衡感覚を失い、いきなり自分に抱き着いてホールドしてきた浩介の重みもあってたたらを踏んでしまう。無論それを浩介は黙って見てなどいない。

 

「くたばれクソがっ!!」

 

「ぐぁあぁぁぁあぁ!?」

 

 すかさず串を引き抜くと、ノイントの両目に勢いよく突き刺した。そして両目と耳から血を流すノイントの両肩を掴み、足で体をがっちりと固定すると、浩介は自分の後方に一気に体重をかけ――その勢いのまま巴投げをして奈落の底へとノイントを投げ捨てた。

 

 平衡感覚を破壊し、マトモに動けなくなったところを仕留める。これが浩介の考え付いた使徒の倒し方であった。

 

 そのためにハジメにこの串の製作を頼み込み、こうして実行したのである。本当なら串を刺した際に直接脳を破壊するつもりだったが、思った以上に頭蓋骨が硬かったのと、これだけのダメージを受けてもなおノイントが復帰しかかったため、奈落へと投げて落とす方に変えたのだ。

 

「ぐっ……まだ、です!」

 

 無論ノイントもこのまま終わる気などなく、すぐに翼を展開して前線に戻るつもりであった。だが、その瞬間ある不幸がノイントを襲う。

 

「まだ、この程度――でっ?」

 

 平衡感覚を失っていたこと、そして失明していたせいでうまく飛行出来ず、首を突き出た岩にぶつけてしまう――記憶と感覚だけを頼りに前線に戻ろうとして速度を出し、生物の急所である首に甚大なダメージがいけばどうなるか。

 

「――ぁっ」

 

 首の骨が折れてしまった。

 

 その結果、体をわずかたりとも動かすことすら出来ずに神の人形は奈落の底へと吸い込まれていく。

 

「使徒、様……?」

 

「そんな……そんなことが!!」

 

 そしてそのショックはアティック兄妹にも伝番する。

 

 絶対的な力を持ち、勇者でさえも歯牙にもかけなかった偉大な存在がこうもあっさり何も出来ずに落ちていった。信じられない光景に自分達の根幹が崩れ去ったかのような心地で目の前の騎士達相手にどう戦えばいいのかという事すら考えられない。無論、それをメルド達は逃さなかった。

 

「これで――」

 

「終わりです!」

 

 殺意を滾らせ今にも暴れそうであった浩介を気配を隠しながら抑えていた鷲三と霧乃が、アティック兄妹の頭を目がけてに最後のクナイを投げつけ、脳天を貫いた。深々と根本まで刺さったことで二人は白目を剥き、掲げた剣を落とす。

 

「ぁ……ぐぁっ」

 

「にい、さま……」

 

「アラン!」

 

「はいっ、メルド団長!」

 

 頭に刺さったものを抜くことなく数歩たたらを踏んだアティック兄妹を、メルド達は袈裟懸けに切りつける。そのまま二人は地面に倒れ込み、自分達が何故地面に赤い染みを作っているのかを考える間もなく、そのまま息絶えた。

 

「メルド、さん……」

 

「……すまなかった。お前達をこんなくだらない事に巻き込んでしまって」

 

 顔を向ける事なく、後悔を漏らしたメルドに誰もが何も言えない。そして何も言わずにただついてきたアランと、そして鷲三と霧乃と共に倒れていた皆の応急処置を続ける。

 

「……よくやった。お前達は本当によくやってくれた」

 

 その最中、メルドはぽつりとつぶやくと、誰もが彼の方を見てしまう。メルドも子供に語って聞かせるようにここにいる皆に話していく。

 

「対人戦の訓練は受けさせたが、実際に戦うのは初めてだっただろ? 怖く無かったか? 俺も新兵の時は泣いてびびってたぞ」

 

 騎士団及び鷲三と霧乃が用意した回復薬を惜しみなく使った事でこの中で一番重傷であった妙子含めて誰一人死ぬ事なく済んだ。その事に安堵しつつメルドは今にも泣き出しそうな光輝達の健闘を讃え、今度は自分達の不手際を詫びる。

 

「それでも逃げ出さずに戦い抜いたんだ。お前達は立派だよ……すまなかったな。来るのが遅くなってしまって。せめて、実戦を積ませてやれば――」

 

「……んでだよ」

 

「どうした、檜山?」

 

「どうして俺達がこんな目にあわなきゃいけなかったんだよ!!」

 

 大介の慟哭が迷宮に響き渡る。彼が叫ぶと同時にこの場にいた誰もが嗚咽を漏らし、心の中に溜まっていたものがあふれ出していく。

 

「親友がひどい目にあって、助けたかっただけなのに……怖かった、スゲー怖かった!!」

 

「ハジメ達を助けたかっただけなんだよ……でも、でも俺、死ぬかと思った……死にたくなかった!!」

 

「体の震えが止まんねぇよ……もう大丈夫なはずなのに怖ぇんだよぉ!!」

 

 礼一、信治、良樹も泣き言を漏らした。緊張の糸が切れたことで一層死が間近に迫っていたことを痛感し、恐怖で泣きじゃくっていた。

 

「エリも……ハジメもスズも、ひどい目に遭ってたのが我慢出来なかっただけなの! なのに、なのに……ナナ、タエ、もう……もう、私……」

 

「私も……私ももう嫌だよ……こんな怖い思い、もうしたくないよ……優花、妙子……」

 

「やだぁ……おうち、おうち帰りたいよぉ……優花ぁ~、奈々ぁ~」

 

 優花、奈々、妙子は身を寄せ合っていた。こうして身を寄せないと、思いを吐き出し続けてないと恐怖で潰れてしまいそうだったからだ。

 

「ごめん……ごめんみんな……結局、誰も守れなかった……力が、力がない俺なんかのために、ごめん、なさい……」

 

 結局何も出来ず、ただいいようにされてしまったことで心が折れてしまった光輝が大介達にただただ詫び続ける。

 

「ごめんなさい……なにも、なにもできなくてごめんなさい……ともだち、なのに……おさななじみ、なのに……」

 

 雫もまた大事な時に何も出来ずにいたことへの罪悪感に押し潰され、ボロボロと涙をこぼしている。

 

「俺……俺、間違ってないよな? 殺すしか……殺すしかなかったんだ!! だって、だってあそこで殺さなかったらみんなが、みんなが……」

 

「そうだ、浩介君。君は間違ってなどいない……」

 

「あなたはちゃんとみんなを守りました。誰が何と言おうと私達が認めます。ですから……」

 

 そして興奮から冷めた浩介は自分の意志で人を殺したことへの恐怖に震えていた。話が通じない奴だったから仕方ない、自分達を殺しに来てたんだからしょうがない、と鷲三と霧乃が自分を抱きしめてくれていることにも気づかないままひたすら自己弁護を続けていた。

 

「私達は……何をやっていたんでしょうね」

 

「ああ……何が神の使徒だ。こんな、こんな子供達に俺達は何を……」

 

 そんな彼らを見てメルドもアランも凄まじい自己嫌悪に陥っていた。自分達のように意志と使命感を以って戦いの場に身を置いたのなら甘ったれだと断じて殴っていただろう。

 

 だが彼らは違う世界の人間であり、戦いもなく魔物に襲われる危険すらない平和な世界から来てしまった人間であるというのは教皇の方から聞かされており、彼らを神の剣として鍛え上げるよう頼まれていたのだ。故に彼らが戦いと無縁の場所にいた少年少女の集まりであるということを騎士団の誰もが知っていた。

 

 結局容赦ないシゴきを受けさせたものの、元々はエヒト様から遣わされた存在であることも含めて丁重に扱うはずであったのだ。だがそんな彼らは今こうして心身共にボロボロになってしまっている。

 

 聖教教会の横槍が無ければ、仲違いをする要因など無ければと思ったところで何の慰めにもなりはしない。自分達はただ、彼らを苦しめただけでしかないことに今更ながら気づいてしまった。

 

「――全員注目!!」

 

 だが、それを理由に何もしないでいることはメルドには出来なかった。彼らを傷つけたことが自分達のせいならば、彼らを立ち直らせるのも自分達のすべきことだと考え、彼は動く。

 

「お前達はよくやった!!」

 

 いち軍人としてシゴいたこともあってか、大声を出せば光輝達の意識はこちらに向いてくれた。それを確認し、後はやれると確信するとメルドは彼らを大声で激励する。

 

「実際に戦場に出てこうして生き残った。それだけでも十分立派だ! ここで立ち止まっている場合ではないが、こんなクソ同然の戦場で生き延びて、誰かを思いやれる心を捨てなかった自分を誇れ!!」

 

 それはあまりに不器用でめちゃくちゃな励ましであった。だがそれは二週間そこらの付き合いでしかなかったはずの彼らに確かに届いており、誰もがメルドの言葉に耳を傾け、聞いていた何人かは体の震えが止まっていた。

 

「お前達がこうなってしまったのは俺達があまりに不甲斐なかったせいだ。憎みたけりゃいくらでも憎め! それでお前達が立ち直れるなら安い代償だ!」

 

 事実、既に大介、礼一、信治、良樹からは恨みのこもった眼差しを向けられ、こちらを向いている優花、奈々、妙子の瞳からも迷いが見えている。この七人はもうトータスのためには戦ってくれないと確信しつつ、これも自分達の責任であると考えながらもメルドは言葉を続ける。

 

「それと、もうお前らは俺達のために戦わなくていい。俺だっていつ味方が後方から撃ってくるかわからん場所に愛国心以外の理由でいたくはないからな」

 

 そしてメルドの言葉に誰もが呆然とする。まかり間違っても軍人が言っていい言葉ではない。だが、隣にいたアランもメルドを否定するようなことはせず、ただ黙って手当を続けている。

 

「俺も信じていた聖教教会に裏切られ、殺されかけた身だ。お前達の気持ちはわかってるつもりだ。だから止めはしない」

 

 その言葉に子供たち全員の瞳が震えた。浩介と鷲三、霧乃からメルドを保護したことを聞いた時にその場にいた全員が国から裏切られたのだろうと感づいていたから。同じ痛みを持つ相手だったからこそ言葉が届いたのだと気づいたからだ。

 

「だからお前達はお前達の思うままに生きろ。そのための道を俺が切り開いてやる――だが、その前に」

 

 必死に自分達を激励してくれたメルドであったが、いきなり申し訳なさそうな顔をすると光輝達にある事を告げた。

 

「ここから先は俺達がやるべきだが、そうも言っていられない。悪いが全員、俺とアランと一緒に来てくれ。階段側にいる魔物に対処する」

 

 その言葉に誰もが呆然とするしか無かった。

 

 もう戦う意志も折れ、自分の無力さを痛感していたのに、死の恐怖に怯えているというのにどうしてこんな残酷なことを求めるんだと全員が絶望に染まった目でメルドを見つめる。

 

「無理、言うなよ……」

 

「どう、して……?」

 

「そんな……光輝に、みんなにひどいことをしないでっ!!」

 

 無理だ。出来ない。やれることなんてない。戦うのが怖い。誰もが目を伏せながら口々にそう言うも、メルドは真剣な眼差しで彼らを一喝する。

 

「あそこにはお前達の友人もいるんだぞ!! 今も無事かはわからんというのに、このまま見殺しにする気なのか!!」

 

 それを聞いた途端、誰もが押し黙ってしまう。自分達のことでいっぱいいっぱいで今も懸命に戦っているであろう友達のことを忘れてしまっていたのだ。今度はその罪悪感に彼らは押しつぶされそうになるが、メルドはせき払いをすると毅然とした態度で()()する。

 

「立ち上がれお前ら!!……行ってくれた今も無事かはわからん。だが、もし仮に生きていたのだとしたら、今ここでお前が立ち上がらなければ谷口が、坂上が、白崎が、清水が犠牲になるやもしれんのだぞ! それを受け入れたくなければ立て!!」

 

 あまりに残酷な未来を示され、全員の心に更にヒビが入っていく。救いを求めた彼らは階段の方へと続く道を見ると、何人もの人間が必死になって骸骨の魔物と戦っている様子が見えた。しかしここからでは少し遠すぎて誰が無事かまではわからない。

 

 もし龍太郎が、香織が、鈴が、幸利が既にやられていたら? 自分達がまごついていたせいで死んでいたら? その『もしも』が彼らの心をより蝕んでいく。

 

「お前達の力が必要なんだ! あれ程の強者を前に決して逃げなかったお前達が! 友の為に怒りを燃やせるお前達が! 俺達に必要なんだ!! だから来てくれ!!」

 

 苦い表情をしながらも頼み込むメルドの様子を見て誰もが思った。あまりにも卑怯だ、と。自分達のことを気遣ってくれたのはこのためなのか、と。だがその言葉で全員の心に小さな火が灯った――友達を見捨てたくない、死なせたくない、という戦意の火が。

 

 光輝が聖剣を支えに立ち上がり、前を見据えて歩き出す。行かなければ。皆が待ってるんだ、と心を軋ませながらも戦意を燃やして“勇者”という役割を与えられた少年は向かっていく。

 

「……俺は、俺は行く。龍太郎が、香織が、鈴が、幸利が、待ってるんだ。俺は、俺は……」

 

「……ありがとう。俺達は先に行く。ゆっくりで構わん」

 

 そう告げて走っていくメルドとアランの後を追って光輝も歩く。自分を待ってくれる皆のために、今度こそ守るためにと幽鬼のようにふらふらとした足取りで向かう彼の後ろに、目をこすって涙をぬぐった雫が続く。

 

「そう、ね……私も、行かなきゃ。親友が、鈴が今も戦ってるんだもの。失うなんて、絶対に嫌……」

 

 今にも倒れてしまいそうな光輝の肩を支え、彼と歩調を合わせながら雫も向かう。

 

「……俺も、行く」

 

 そして顔を青ざめさせたままではあったが浩介も立ち上がった。光輝と雫が向かったのなら、親友が今も戦っているというのなら自分も、と鷲三と霧乃に支えられながら向かっていく。

 

「……なぁ、大介」

 

「……行くぞ、お前ら」

 

「……あぁ」

 

「幸利のヤツを、死なせたく、ないもんな」

 

 そして体を震わせながらも大介達四人も先に行った七人を追い抜かんばかりの勢いで走っていく。幸利が死んでないことを祈って、死なせないように願いながら。

 

「……私も、行くわ」

 

 大介達が階段側の方へと向かってから一分ほど。優花も未だ震える体を両手で押さえながら立った。その様子を奈々と妙子は不安そうな目で見つめている。

 

「い、行くの、優花?」

 

「わ、私と奈々は……」

 

「別にいいわよ。二人が来なくったって馬鹿になんてしないし出来ないわ……私は、ただ置いてかれるのが嫌なだけよ」

 

 そう告げると、荒い息を吐きながら優花も向かっていく。すると奈々と妙子も迷いを見せながらも優花の後をついて行った。

 

「待ってよ優花ぁー!!」

 

「私達も、私達も行くよぉ~!!」

 

 戦場がどれだけ恐ろしいかを知って怯えていたものの、それよりも友人に置いて行かれることが、自分達のあずかり知らないところで親友が死ぬことの方がもっと恐ろしいと思った二人は幼馴染の少女を追っていく。

 

 かくして少年少女達は再度戦うことを選び、また戦場へと身を投じる――その先に待っているものが何なのかを知らないまま。

 

 

 

 

 

「炎よ纏え 汝の力となりて 暗闇を照らしたまえ!――“纏炎”! もうっ! いい加減いなくなってよ!!」

 

「ホントだよな!――クソッ、まだ他の奴らは来ないのかよ!!」

 

 “付与術師”である吉野が永山パーティーの中でトップクラスの攻撃力を持つ玉井の斧に炎を付与すると、悪態をつきながらも玉井は斧を振り回してトラウムソルジャーを次々と薙ぎ払っていく。大きく斧を振るって隙まみれになった玉井を守るために仁村がすかさず前に割り込み、トラウムソルジャーの攻撃を全て受け止めた。

 

「ホントにな!! 天之河のヤツ、普段リーダーぶってるんだからこういう時に役に立て――よ!!」

 

 何体もの敵の攻撃を、王国から支給された“使用者の魔力に応じて前方に障壁を張れる”壊れない盾のアーティファクトで受け止めるも、やはりレベルの違いと数の暴力故か段々と仁村は押し込まれていく。まずいと思った矢先、自分のとは別の障壁が張られて敵の攻撃を防いだ途端、後方から飛んできた“火球”が軽くトラウムソルジャーを焼いていく。

 

「光輝君のことを悪く言わないで!」

 

「アイツらにだって事情があるんだよ!!」

 

 彼らを助けたのは鈴と幸利であった。先ほどまで二人は怪我をした人間を治癒魔法の“天恵”を使って傷をふさいだり、付与魔法によって龍太郎や永山の攻撃を強化するなりしていた。そこでふと玉井達の方を見た際、あちらも数の暴力に負けそうになっていたため急遽援護に来たのである。

 

「こんな状況で優先させる事情って何!? 私達、今必死なんだよ!!」

 

「事情なんて知るかよ! 俺らは死に物狂いで戦ってんだ!!」

 

「口だけなら何だって言える、ってな!!」

 

「……わからず屋!」

 

「アイツらはほっとけ鈴!! とりあえず数減らすのに“螺炎”使うぞ!! 息を合わせろ!」

 

 玉井達は鈴と幸利に反論し、息を合わせることなく目の前の敵に対処していく。そんな三人の様子に鈴達も苛立ちを見せながらも息を合わせて詠唱し、渦巻く炎で敵だけを焼き払っていく。

 

「……天之河はリーダーとしての責務を果たす気がないのか?――フンッ!」

 

「光輝ならやるべきことを今やってるはずだ――オラァッ!!」

 

 そして別の場所では龍太郎と永山は背中を合わせながらお互いの死角を補いつつ戦っていた。“拳士”と“重格闘家”の二人はそれぞれ拳と蹴り、投げ技や足払いなどで襲い来るトラウムソルジャーを次々と撃破していっている。

 

 今ここでいがみ合っている場合ではないと判断した永山と、今ここでハジメや光輝のことを悪し様に言っていたことでケンカを吹っ掛けるべきじゃないと怒りを呑んだ龍太郎はお互いの背後に敵が来ないようにそれぞれのスタイルで敵と相対していたのだ。

 

「……お前が天之河でなく、俺達と仲が良かったらな」

 

「お前もハジメのことを応援してくれてたらな」

 

 お互いに詮無きことをつぶやきながらも攻撃の手を緩めはしない。絶対にこの窮地を乗り切るという思いを互いに抱えながら、二人は無心になって敵を倒し続ける。

 

「天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――“天恵”! 辻さん、他にケガしてる人はいない?」

 

「後はこっちでどうにかするから、白崎は障壁を張って防御をして!」

 

 香織は龍太郎と一緒に行動したいのと目の前の人達――深手を負った神殿騎士達を見て滾った怒りを抑えながらも辻と一緒にケガの治療に奔走していた。

 

 合流した当初は辻から思いっきり舌打ちされたことに少しの罪悪感と幾らかの怒りを覚えたものの、痛みに苦しんでいる神殿騎士を見た香織は、個人的な感情は後回しにしてすぐに彼らの回復に努めた。辻や近くにいる野村、相川の様子を見る限りでは彼らが盾となって守っていたのだろうと考えたからだ。自分達は恵里やハジメ達を悪く言われた恨みがあるが、それは今この場では関係ないと頭を振って捨てたのである。

 

「飛び交う刃と矢を防がん ここは光差す場所なりて 守護の光をここに――“光絶”!」

 

 三節からなる詠唱を終えると、トラウムソルジャーを相手にしていた健在な神殿騎士の目の前に障壁が張られる。それを確認するとすぐに神殿騎士は下がって各々が回復薬を口にするなり、辻の許へ行って治療を願い出る。

 

 未だ初級の防御魔法故にそう時間をかけずに破られるだろう。だが今の香織の役目は少しでも神殿騎士が万全の状態で復帰するための時間を稼ぐことだ。それをわかっているからこそ不満も焦りも()()()出さなかった。

 

(お願いみんな、早く来て……このままだと保たないかもしれないから)

 

 しかし心の中ではやはり焦っていた。今はまだ小康状態を保っているが、それがいつまで続くかはわからない。目の前の敵と不安に怯えながらも香織は与えられた役目を必死にこなすばかりであった。

 

「流るる水よ 透明なる刃よ 鋭利なれ 無慈悲たれ 我が敵を貫け!――“流穿(りゅうせん)”!……野村! アイツらの出てきた魔方陣はまだ壊せないのかよ!!」

 

「今やってる! 話しかけるな!!」

 

 そして永山グループの残り二人である野村と相川であったが、“水術師”である相川が威力の高い中級の水系魔法でトラウムソルジャーを穿ち、野村は土系魔法で魔法陣の破壊を担当していた。

 

 単に複数を相手取るならば中級の範囲魔法である“波壊”を使えばいいのだが、何分大量の水を出して押し流すために前線に出ている永山達も巻き込んでしまう上に詠唱も七節と長いのだ。

 

 敵を一掃するどころか倒した先からどんどん増える事態に相川は苛立ち、必死になって魔方陣を土系魔法で破壊していっている野村に当たり散らす。もちろん野村も全然余裕が無いため、無神経なことを言う相川にキレながらも必死に対処に当たる。ここでケンカをしていては死ぬのがお互いわかっていたからだ。

 

(クソッ、早く来いよ!! こっちはもう保たないんだよ! 神殿騎士の人を傷つけといて我関せずなんて許さないからな!)

 

 内心光輝達を罵倒しながらも野村は魔方陣を破壊し続け、周囲を見ては前線の永山達を援護する。終わりの見えない戦いに苛立っていると、野村の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 

「――全員生きているな! お前ら、早く来い!! 誰一人欠けることなく戦いを続けているぞ!!」

 

 まさかと思って声のする方を見ればそこにはメルドがいた。さっきも彼らしき声と姿を確認したものの、人違いだと野村は思い込んでいたのである。すぐに野村は声を上げ、恥も外聞もなしに助けを求めた。

 

「頼むから早く来てくれ!! この数じゃ俺らが押しつぶされちまう!!」

 

「――わかった! アラン、まずは俺達で敵の数を減らすぞ!!」

 

「了解!」

 

 そうして飛び込んできたメルドとアランが連携を見せながらトラウムソルジャーを始末していく。熟練の兵士である二人の活躍で永山グループの子も龍太郎達も少しばかり余裕が出てきた。と、そこに二人の人物が現れる。光輝と雫であった。

 

「なぁ、雫……俺、大丈夫かな。勝てる、かな。何も出来なかった俺が……」

 

「お願い、光輝。私を信じて。大丈夫。光輝の強さは私が一番近くで見てきたから」

 

 光輝は正眼の構えで聖剣の先を敵に向けているものの、それを握る手には震えが走っていた。雫は震える彼の手に自分の手をそっと添え、目を見ながら伝える。自分の愛する人はそんなに弱くなんてない、と微笑みながら。たったそれだけで自身の手の震えが収まり、力が湧いてくる。愛しい人に勇気づけられた光輝は一度目を閉じ、大きく息を吐くと、目の前の敵を改めて視界に収めた。

 

「すいません、遅くなりました! これから一気に前方の敵を倒します!!」

 

「――来たか! 聞いたなお前ら!! これから天之河が攻撃に入る。射線上にいる玉井と仁村はすぐに横に退避しろ!!」

 

 メルドから指示を受けた二人は一度後ろを見ると、詠唱に移っている光輝の姿を見つけ、相手に攻撃を一当てしてからすぐに射線から離れた。

 

「――“天翔閃”!」

 

 それと同時に光輝の方も詠唱が終わり、放たれた純白の斬撃が眼前のトラウムソルジャー達を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂していく。一切の穢れを許さぬ一撃は確かに敵を討ち滅ぼし、この場にいた全員の光明となる――すぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段が見えたのだ。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのである。

 

「お前達! ボサっとしていないで戦え! すぐに敵が来るぞ! 天之河が作った機会を無駄にするな!!」

 

 メルドに喝を入れられ、その場にいた生徒達も神殿騎士もすぐさま連携をとって戦い出す。光輝の放った一撃、メルドの指示や神殿騎士の頑張りによって事態は好転していき、どうにか拮抗していた状況からほんのわずかにこちら側の優勢へと事態は傾いていく。そこに突如、追い風が吹いた。

 

「魔物なら……魔物ならいくら殺したって問題ないよなぁ!!」

 

 後衛に迫らんとしていたトラウムソルジャーを一陣の風が切り裂いた。浩介である。彼に遅れて数瞬、更に数体のトラウムソルジャーの頭蓋が砕け散った。

 

「やれやれ、老骨にはきついな……」

 

「ここが踏ん張りどころでしょう、お義父さん。私達も続きましょう」

 

 浩介を支えていた鷲三と霧乃が見舞った渾身の一撃であった。周囲を見渡すと、使徒を手にかけたショックで精神が不安定になっている浩介と他の生徒達の援護を主軸に活躍していく。

 

「悪い、待たせた!」

 

「オラオラぁ! 俺らも混ぜろぉ!!」

 

「さっすが俺らのリーダーだぜ! 一気に行くぞぉ!!」

 

「勝ち馬だ勝ち馬! 全員倒してやらぁ!!」

 

 勢いは止まらない。今度は大介達が遅れてやってきたのである。すぐさま二週間で培った連携を駆使し、がむしゃらに戦う光輝に負けず劣らずのスピードで撃破していく。

 

「私達も行くわよ! ナナ、タエ!!」

 

「うん、もう負けっぱなしなんて嫌!!」

 

「そうだねぇ! 遅れちゃったけど、私達も頑張るよぉ~!!」

 

 そして最後の風が吹いた。優花達もようやく到着したのである。ここにほぼ全ての生徒が揃い、神殿騎士の援護を受け、メルドの指示のもと敵を倒し続けていく。高いステータスで繰り出される波状攻撃、隙のない連携によって敵は殲滅されていき、遂には魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。そして、階段への道が開ける。

 

「道が開けたぞ! 一点突破で包囲を切り開け!!」

 

「――はぁっ!! 今だ! 俺の後に続いてくれ!!」

 

 メルドの掛け声と同時に光輝がトラウムソルジャーを切り裂き、彼を先頭に一気に離脱していく。

 

「――よし。雫、龍太郎!」

 

「ええ。わかってるわ!」

 

「おう、ここが最後の踏ん張りどころだな!!」

 

「っとと、そうだったな。俺らも続くぞ!」

 

 そうして全員が包囲網を突破するのを確認すると、光輝は雫、龍太郎と目配せをして再度湧いてきたトラウムソルジャーを撃破していく。そしてそれを見た幸利が大介らに声をかければ、彼らも一緒になって攻撃に加わる。

 

「お、おい待てよ! もう階段まで行けばいいだろ!?」

 

 だがそこで相川が光輝達に待ったをかけ、永山グループの全員がそれに同意するものの、それに香織がややヒステリック気味に反論する。

 

「待ってよ皆! まだ恵里ちゃんとハジメ君が残ってるんだよ!! それにクゼリーさんと騎士団の人達も! 皆は恵里ちゃん達を置いて逃げるつもりなの!?」

 

 その言葉に永山グループの全員がざわめく。彼らからすれば恵里もハジメも憎い相手でしかない。一瞬浮かんだ疑惑は激しい戦闘の中で忘れ去ってしまい、特段彼らを助けようとは思っていなかった。だが流石にクゼリー達騎士団の人間は別である。厳しいながらも自分達に戦う術を教えてくれた相手なのだ。一応の恩があるからこそ助けない訳にはいかないと永山達も意思を確認しあっている。

 

「……そうでしたね。でしたら、我らも()()を果たさなければ」

 

 そんな折、神殿騎士の一人がそう述べると、魔力が切れた者以外が詠唱を始める。神殿騎士の人達がするなら自分も、と思いながら永山達も詠唱に移る……一方、メルドとアランは無言で剣の柄に手をかけて機会をうかがっていた。

 

「「「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」」」

 

 そうして神殿騎士達も魔法を放つ――横たわったベヒモスのそばにいる恵里達目掛けて。それを見た生徒達は絶句し、やはりと思ったメルドとアランは即座に神殿騎士を切り捨てにかかった。

 

「何をするか裏切り者め!! 我らはエヒト様の意志のもと、奴らを排除しようとしたまでだ!!」

 

「ふざけるな!! どうせやるだろうとは思っていたが、あのベヒモスを相手にしていた坊主達を殺そうとしたお前らが神の意志を語るな!」

 

「お前を生かしていたのも教皇様のご慈悲のもとだ! ここで我らに従わないのならば切る!!」

 

 そして始まる神殿騎士対騎士団二人の戦い。すぐに浩介、鷲三、霧乃も加わったことでいきなりメルド達がなぶり殺しになるのは退けられたものの、本調子でない三人の援護ではそうなるまでの時間稼ぎにしかならない。そこに大介ら四人も加わり、どうにか拮抗まで持ち込んでいく。

 

「なに、これ……」

 

 そんな混沌とした状況で香織はつぶやく。その頬からは一筋の涙が伝う。

 

「スズ、危ない!」

 

「うわっ!?」

 

「何をされるのです使徒様!? 谷口鈴は我らの敵です! 我らは奴を利用して、錯乱した他の使徒様を落ち着かせようとしただけで――」

 

「どうして……どうして、なの……どうして恵里ちゃんが、恵里ちゃん達が幸せになるのを許してくれないの?」

 

 先の狂行を見ながらも、どうにか神殿騎士を倒したい思いを必死に我慢しながらトラウムソルジャーの撃破を続ける光輝達。大介達に続いて優花らも神殿騎士の鎮圧に加わっている。そして野村達は突然の出来事に何も出来ずにいるだけ。

 

「こんなの……ひどい。ひどいよ……」

 

 少女の嘆きは誰にも届かず、ただ虚しく戦場の中で掻き消えるだけであった。




なかなかに暗い展開でしたが皆さんご安心ください。まだ強めのジャブです(亀裂のような笑み)
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