で、えーと、その……いやーすいません遅くなりました(白目) 案の定前の話と一緒にしたらエラい量になってしまいまして……(滝汗)
というわけで今回のお話は結構長めです。では本編をどうぞ。
「……皮の方はこれで剝ぎ終わったから、後はお願いね」
「お疲れ、雫。後はボク達に任せて好きにしてなよ」
剝ぎ取りの作業で軽く顔を青ざめさせていた雫から二尾狼――狼型の魔物のことであり、ウサギ型の魔物と区別するためにハジメが適当につけた名前である――の死体を受け取った恵里は礼を言うと、すぐに腹をかっ捌いて内臓の取り出しにかかった。
いきなり現れた二尾狼の群れにどうにか勝利した一行は、ケガをした面々を大急ぎで神水や治癒魔法で治療し、崩れた壁からまた魔物が入ってこないよう大急ぎで壁を塞いだ。そうして土属性の魔法で幾らか壁の厚みを増やして補強し終えると、ひと悶着あった後に食事の算段に移ったのである。
「みんなー、とりあえず今飲める神水はこれだけだからねー。治癒魔法の使える光輝君とえっと……鈴と、香織さんはご飯は後回しでー。最悪治癒魔法に頼らないといけないからよろしくー」
解体作業に移っている恵里、優花、メルドら三人以外に神水の入った容器――人差し指の第一関節ぐらいの大きさのもの――を渡し終えると、ハジメは全員に忠告していく。何せ神水がこの程度の量を摂取しただけでも魔物の毒に耐えられるかどうかわからないからだ。最悪誰かの分を回すなり治癒魔法に頼るなりしないといけないと考えていたが故のハジメの警告であった。
「ああ、わかってるよハジメ。魔物の毒はともかくとして貴重な回復薬だし、慎重に使わせてもらうよ……その、雫。おいで?」
「……うん。流石にちょっとお腹が減って辛いけど、誰かが死んじゃうかもしれない時にそんなこと言ってられないしね。頑張るよ」
光輝と鈴は未だ空腹で胃が痛むのを我慢しながらもハジメにそう伝える。軽くとはいえ食事を口にしていたことから幾らか心に余裕があり、また友達が死ぬことへの恐れが食欲を上回ったのもあって我慢が出来ていたのだ。また友人らも『大丈夫大丈夫』と返しながらも大事そうに神水を受け取っていく。
「やだぁ……もうやだぁ……」
「あーもう、泣くなよ香織……さっきは悪かったし、まだ予備もあるだろ? 最悪後で作ってもらえばいいんだから泣くなよ。な?」
一方、香織は調理にも解体作業にも加わらず、大部屋の隅っこで体育座りをして顔を埋めながら泣いており、そばにいた龍太郎から慰めてもらっていた。
……実は二尾狼との闘いの際、ブラジャーの留め具の辺りが音を立てて千切れてしまうというアクシデントが起きたのである。
その音で誰もが反応して振り向いてしまい、ブラから解放されて大きく揺れた胸を見られた。それだけでなく、二尾狼からの攻撃をよけながら支援をしたことで香織が動く毎に胸が揺れてしまい、それもまた男共に見られたのだ。そのせいで凄まじい羞恥心に苛まれて頭が爆発しそうになり、その結果、軽く幼児退行を起こしたのである。
最初に二尾狼と戦った際に逃げ回り、龍太郎を助けるために跳躍して一撃を叩き込むなど激しい戦闘をし続けたことや、二尾狼の肉を食べたことで香織も胸周りが二回りほど成長し、またその後の戦闘で動き回っていたのもあってたまたま身に着けていたトータス産のブラが耐えられなくなってしまったのが原因である。だがそんなことは当人からすれば関係ない。とんだ不幸もいいところであった。
そしてうっかり香織の胸が動く様を見てしまった男子~ズはもれなくひどい目に遭わされることになる。
ハジメは恵里と鈴に両腿をつねられながら『自分がいながら浮気するなんて』となじられ、光輝は『やっぱり光輝もおっぱいの大きい子が好きなんだ……』とショックを受けてさめざめと泣き出した雫をなだめるのに終始し、龍太郎含めた他の男共も『女の子の胸を見るなんてサイテー!!』と優花らから思いっきりビンタされた……龍太郎とメルドには加減していたりするが。理不尽である。
そんなこともあって香織は同情した他の女子~ズから休むよう言われ、龍太郎も『胸を見た罰として香織を慰めろ』と言われてこうして一緒にいるのである。
「……そういえばアンタら、さっきからずっとステータスプレートとにらめっこしてるじゃない。しかも交換してまで眺めてて。暇なら手伝いなさいよ」
そうして三人がかりで肉を捌いたり食べられそうな内臓を一口大にカットしている中、
「いや、無理。今こっちの方が気になって仕方ねえんだよ」
「ハァ? 新しい技能でも増えたの? 技能を使ってたら派生技能が出てくる、って座学で言ってたでしょ」
「だからそんな生温いもんじゃねぇんだって!……もしかすると俺らマジで世紀の大発見したかもしれねぇんだよ」
「世紀の大発見、って……あのね、まだお腹が減って私も皆もイライラしてるの。変なこと言うなら――」
そんなことをのたまう幸利と礼一に軽く苛立ちながらも優花が言い返すと、まぁまぁと言いながらニヤついた笑みを浮かべた浩介が自分のステータスプレートを見せに来たのだ。くだらないことだったらもう一度ひっぱたいてやる、と思いながらそれに視線を落とした優花だったが、思わず握っていた解体用のナイフを落としてしまう。
「ねぇ、コースケ……アンタのステータス、実はコウキより上だったの?」
「いや、それはまず無いな。多分
そこでスカートの中にあることを伝え、それを取り出した浩介がそれを優花に見せると完全に彼女の手が止まってしまう。それほどの衝撃を彼女は受けてしまった。
「……何があったの?」
「一体どうした? 俺にも報告しろ」
そんな優花の異変が気にかかった恵里も一度作業の手を止める。六馬鹿が単に騒いでいるだけなら適当に流せたが、巻き込まれた優花が信じられない表情を浮かべているのを見て何かあったと確信したからだ。それはメルドも同様で、険しい表情を浮かべながら浩介の方へと視線を向けた。
「あっ、はい!……実はステータスプレートのステータスの数値が高くなってて、それと新しく変な技能が生えてたんです」
「……ハジメくん、お願いだからボクのステータスプレートとってくれない? ジャケットの右の胸ポケットにあるから」
そこで浩介の言った通りステータスプレートを取り出そうとして自分の手が血まみれなのに気づく。今更血がついたところで洗う手段がロクに無い以上どうしようもないとは思ったものの、血の汚れや臭さを着ている服に必要以上につけるのも気が引けたため、
「あ、うん。待ってね――はい、これ」
「うん、ありが――えっ」
そして自分の目の前に出されたプレートを見て絶句する――それはあまりにあり得ないことばかりだったからだ。
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中村恵里 16歳 女 レベル:12
天職:闇術師
筋力:100
体力:120
耐性:90
敏捷:100
魔力:280
魔耐:280
技能:闇属性適正・闇属性耐性・気配感知[+特定感知]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解
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「う、そ……」
いつの間にかレベルがかなり上がったことも驚いたが、それ以上に目を引いたのはあまりに高くなってしまっていた自身のステータスであった。オルクス大迷宮に潜る前に見たときは低い数値でだいたい50前後、一番高い魔力と魔耐も130そこらしか無かったのに妙にステータスが高くなっていたのである。
後でレベルアップした際にステータスが上がった可能性もあったが、上り幅があまりにおかしい。それに見覚えのない技能が三つも増えているのだ。座学で技能が新たに生えることはないと言っていたことを思い出した恵里はあり得ない事実に目を白黒させていた。
(前世だとえっと……あーもう新しく技能が生えたかどうか思い出せない! 魔物を食べた後の体が壊れていく感覚とか、見た目の変化から考えればこの三つはまず魔物由来のはず……もしかすると、
「えーと……恵里、大丈夫?」
そしてステータスプレートを見て色々考えこみながら恵里はひとり百面相をしていると、ハジメからおそるおそる声をかけられた。さっき香織の胸を見たこともあってまだ許してはいないのだが、今は仕方ないと割り切って彼の方を向いた。
「……何、ハジメくん。ボクは今考え事をしてたんだけど?」
「えっと、何か大事なことを考えてたんだよね? その、出来れば話してくれる? 後でいくらでも謝るから」
「~~~ハァ……もう、わかったよぉ。ちゃんと話すから」
まだ怒ってますとばかりに頬を膨らませながら返事をする恵里であったが、そんな自分に真摯な態度で頭を下げるハジメを見て少し罪悪感を感じてしまう。しかもその様子を見た雫と浩介、そしていつの間にか再起動を果たしていた優花からも軽い呆れが伴った眼差しで見つめられ、仕方なく折れることにした。
「別に大したことじゃないよ……前世でハジメくんがここに来る羽目に多分遭った、ってのは前に言ったよね?」
頭を軽くかきながらそう問いかけると、全員がそれにうなずいて返した。それはオルクス大迷宮のベヒモスと相対した時の階層から崖を伝って降りて行く、何度目かの休憩の時に話したことである。
自分の前世? の記憶を香織や幸利から尋ねられた際、過去の全てを話すのは流石に
「後でボクはハジメくんと再会するんだけど、そうなると必然的にここを生き延びたことになるよね? つまり、魔物を倒して肉を食べてるはずだから、今後魔物を食べ続ければ更にステータスの強化や技能を増やせるんじゃないか、って思ったんだ」
その言葉を聞いた
「そうなると、ここから上の階層に戻った方がよくないか? 上の魔物だったらこっちよりも弱いはずだし、もっと簡単にステータスの強化が出来るはずだ!」
「さすがねコースケ、名案よ! そうなると……」
「捜索隊の結成、だね。誰をメンバーに選べば――あれ? メルドさん?」
この場にいた
「め、メルドさん? その、敵はもういませんよ……?」
「な、なんかあったのか? な、なぁメルドさん、落ち着いてくれよ……」
「……今すぐ殺さねばならん奴がいる。それは――」
幽鬼のような形相でこちらを見てきたメルドに香織や妙子などが本気で怯え、恵里も含めた他の面々もメルドに何かあったと確信して様子をうかがう。メルドが何かを言おうとするや否や、手に持った剣の切っ先を自分に向け、そして手を当てて首に押し付け――ようとした瞬間、雫と浩介が割り込んでメルドを止める。
「お、落ち着いてくれってメルドさん!! どうして自殺なんてしようとするんだよ!?」
「そうです! 何か辛いことがあったんなら聞きますから! だから早まらないで!!」
「――俺は大罪人だぞ!!!」
浩介と雫がメルドの腕を掴み、二人で同時に手刀を叩き込んで掴んでいた剣を落とさせる。自殺するための手段を捨てさせた上で二人は必死になって声をかけるも、メルドは悲鳴のような叫びをあげた。
「俺だけで済めば良かった……そうすればお前達が苦しむことは無かったんだ!!」
「言ってることがわからないですって! ちゃんと説明してくれよ!!」
「メルドさん! 俺達は苦しんでなんて――」
「空元気なんぞ見せなくていい! もっと恨みをぶつけていいんだぞ!!――お前達を魔物にさせてしまった俺に、優しくなんてしないでくれ……」
嘆き悲しむメルドに浩介と光輝が説得を続けるが、続く彼の言葉で全員が首をかしげることになった。自分達はいつ魔物になったのか、と。
「え? 魔物? えーと、なったの?」
「いや腹が減ってるけど別に理性がなくなった訳じゃないし、髪の毛と目ん玉が変わったけど化け物みたいな見た目じゃないよな?」
そう口々に話し合うが、メルドが言ったそれっぽい要素は中々浮かばず、どうして見た目が多少変わったぐらいでそこまで悲しむのやらと皆が考えていると、幸利があることを口にした。
「――あっ、そういえば……“魔力操作”って、確か魔物が持ってる技能だよな?」
そう。座学で誰もが聞いた話である。魔物は“魔力操作”という技能を持ち、それを用いて固有魔法を扱うのだ、と。つまりそれを魔物の肉を食べた全員が持っているということは、自分達が魔物と同質の存在になったということの証拠であり、メルドの言と合致するのである。
「……それだけ?」
「いや、んなこと言われても全然ピンと来ねぇんだけど。何? どういうこと? 先生でも幸利でもいいから教えてくんねぇ?」
「えーと、その……エクソシストが悪魔を倒したら、その返り血で悪魔になったー、とかそんな感じだと思うよ大介君」
……ただし、それが当事者にとって辛い話であるかどうかはまた別問題であるが。メルド以外は別に屁とも思っておらず、ハジメの説明を受けた大介であってもふーんと言うだけで済ます程度でしかない。その様子にメルドは殊更にショックを受けた。
「な……ど、どうして悲しまないんだ!? 俺は、お前達を化け物にしてしまったんだぞ!! 俺が、俺が軽率に魔物を食べろとなんて言わなければこんな目には――」
「いや、ここで魔物を食べなかったら餓死してたかもしれねぇじゃん。別にアンタが間違ってた訳じゃないし」
「いや、その……メルドさん、俺達の世界にはそもそも魔法なんてものはおとぎ話とか空想の世界にしかないものなんです。それが使えるようになった時点で俺達は既に化け物なんですよ。だから、別に気にしなくっても――」
大いにうろたえるメルドに信治が正論を突き返し、光輝が具体例を挙げて気に病まなくてもいいと伝えるも、メルドには余計に罪悪感に潰されそうになるばかりであった。
「なら、なら……俺達がお前らにすがった時点で取り返しのつかないことをやっていたということじゃないか!!……エヒト様、これが俺達人間の背負うべき罪だとでも仰るのですか?」
そして救いを求めるように天を仰ぎ、言葉を紡ぐ――そこでようやくメルドがこんなことを言い出したのかに恵里達は気づけた。宗教の戒律を知らず知らずのうちに他人を巻き込んで破ったようなものなのだ、と。
しかし無宗教といって差し支えない日本人である自分達からすれば縁遠い話であったため、どうすればメルドを立ち直らせられるかがわからず、多くの面々がどうしようとうろたえてしまう……たった一人を除いて。
「ふーん。そんなにエヒトの奴って心が狭いんだ」
そうメルドを煽ったのは恵里であった。あえて煽るような口調でメルドに問いかければ、メルドは怒りを露わにしてそれに反論する。
「なっ……そ、そんなバカな話があるか! このトータスを創造し、俺達人間に絶えることなく慈悲を与え続けてくれた偉大な神様だぞ! それを馬鹿にするというのなら中村、いくらお前でも許さんからな!!」
他の面々が心配そうに自分とメルドを見つめたり、『何やってんだ馬鹿』と言わんばかりの形相でこちらを見てくるが、かかったと確信した恵里は一瞬だけしたり顔を浮かべ、すぐさま申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「そっか。じゃあそれは謝罪させてもらうね――ごめんなさい。言い過ぎました」
そう言って頭をしばらく下げていたものの、メルドから向けられた視線は未だ鋭いまま。それでもなお恵里は内心余裕であった。この程度なら余裕でやれる、という確信があったのだ。
「……謝るだけなら誰でも出来るぞ」
「うん、そうだね――でもさ、そんな偉大な存在が、たかだかボク達が魔物になったぐらいでいちいち咎めるの?」
余計にピリピリとした空気が張り詰めるが、それに構うことなく恵里は疑問を投げかける。その途端、ハジメと鈴の顔が引きつった。自分達にやった時のようにメルドを舌先三寸で丸め込む気だと気づいたからである。
「なったぐらい、だと……当然だろうが!! お前達は何一つ悪くないのに、俺の短慮でお前達も貶めてしまったんだぞ!!」
「そう? ボク達の反応からすれば別に大して気にしてないことぐらいわかると思うんだけどなぁ~? そ・れ・と・も、“神の使徒”であるボク達の『言葉』を疑うのかなぁ~?」
「いや、だが……」
だが自分達ではメルドをどうにか出来るかはわからないこともあり、ハジメと鈴は恵里に任せることにして『恵里を止めた方がいいんじゃ……』と不安がる一同をなだめることにした。そうして自分に任せて色々とやってくれる二人の声が耳に入り、上機嫌になった恵里は更にまくし立てていく。
「そのエヒト様がさぁ、トータスの人間がこのままだと負けてしまうと思ったからボク達が送り込まれてきたんでしょ?……と・う・ぜ・ん、人選だってしっかりやってるはずじゃない? 何があってもトータスの人間を救ってくれるような『善良な』人間を選んで、ね?――もしかしてエヒトの配剤を疑うつもり? 考えなしだって言っちゃうの?」
「ち、違う!! そんなことは断じて――」
「なら問題ないよねぇ~。ボクらは気にしてないんだからさぁ~。それなら、エヒト様が送ったボクらを信じてほしいんだけどぉ? トータスの人間のために戦ってくれる『勇敢で』、『心優しい』人間のボクらをさぁ? だから信じてよ? ね?」
そう言いながら人当たりの良い笑顔を作って笑いかける。自分達を信じてほしい、と自然な笑みを装えばメルドは嘆くのを止め、周りはドン引きした。
「……俺の行いは、許されるのか?」
「許すも何も最初から誰も咎めてないんだよ? じゃあ問題ですら無いよね――そうでしょ、皆?」
そしてにこやかな笑みを浮かべてハジメ達の方を見たら何故か光輝達が短く悲鳴を上げ、ハジメと鈴は余計に顔が引きつっていた。
「――ハジメくん? 鈴?」
「え!? あ、いや、あの、その……うん。ぼ、僕達は別に気にしてないから!! そ、そうでしょ皆!?」
「うんうん! 鈴もこれぐらい全然気にしてないからね!! そうだよね!! ね!!!」
小さく冷ややかな声を出せば二人は即座に皆を説得にかかってくれた。二人の説得を受け、他の皆も顔を引きつらせて首を縦にふってくれた……改めてハジメと鈴の存在をありがたく感じながらも、恵里は最後の詰めにかかった。
「な、なぁ中村。ほ、本当に大丈夫なのか? アイツらの顔がかなり引きつっていたし、やっぱり俺は間違ってたんじゃ――」
「本当に間違ってるの?――最初に魔物の肉を食べる時にボクらは誓ってたじゃない。元の世界に戻るために戦う、って。それに、別に魔物になったって言ったって姿かたちがそこまで変わった訳じゃないでしょ? 意思疎通がとれなくなった訳でもないんだから大した障害じゃないよ。せいぜい見た目が変わったぐらいだし、それにステータスプレートって情報の改ざんだって出来るでしょ? ならどこに問題があるの?」
「それ、は……そう、か。そうかも、しれんな」
そう自信満々に言う恵里を見て、一度疑いを持ったメルドもそれを振り払った。そして感謝に満ちた笑みを作って浮かべると、恵里はメルドに向けて言葉を紡ぐ。
「でもまぁこうしてボク達のことを気遣ってくれるのは嬉しいな。魔物になったからって問答無用で切り捨てないでくれるなんて、メルドさんも人が出来てるよ。こんなに心配してもらえるなんてボク達は果報者だね」
これは噓偽りのない本音が混じっていた。こうして自分達のことを気にかけてくれるのは恵里としても嬉しくはあったし、魔物になったからという理由で真っ先に自分達を殺すということをしなかったメルドの人格を恵里も評価はしている。果報者だと思ったことは流石にないが、これぐらいはリップサービスだと考えて恵里は口にしている。
するとメルドの両目から涙があふれた。その一言で全てが報われた気が、許されたような気がしたのだ。それを見た香織は『恵里ちゃんが新興宗教の教祖さんに見える……』とつぶやき、ハジメと鈴以外が即座に同意した。しかしハジメ達は愛する人を、親友兼恋敵である恵里を悪く言おうとはしなかった……内心首がとれるぐらいにはうなずきたくて仕方なかったが、悪し様には言わずにいた。
「もし良かったらさ、前みたいにボク達と一緒に戦ってくれるかな? 『やっぱり』メルドさんがいないとこの先辛いかもしれないし、メルドさんがいるだけで『心強い』からね……お願い、出来ますか?」
そして最後にあえて少し心配そうな様子を装い、協力してくれるよう恵里は申し出た。それだけでメルドの良心と庇護欲が刺激される。憂いと嘆きに満ちていた彼の表情が瞬く間に変わり、戦意に火が付いたのは誰の目にも明らかであった。
「――あぁ!! 俺はもう迷わん! 共に戦わせてくれ中村……いや、“恵里”!!」
そう言って差し出された手を見て恵里もまた手を出して握手をする。内心『世話にはなってるけど、こんなおっさんよりハジメくんと手をつなぎたいなぁ』と思いながらも表には出さず、微笑みを浮かべながら硬く手を握り合う。
それを見た光輝は『とんでもない犯罪の片棒を担いでしまった気がする』とボヤき、またハジメと鈴以外が深くうなずく。そして二人は心底気まずそうに顔をそらすだけであった。
「あぁそうそう……そっちは聞こえないように言ったつもりでもボクは聞こえてたからね。覚悟してよ」
「僕も謝るから光輝君達のことは許してあげてー!!」
「恵里のお願いなら鈴とハジメくんが聞くから雫達は勘弁してよー!!」
即座に光輝達が土下座を決め、大慌てでハジメと鈴がとりなしに来た。メルドが結局悩んだものの、とりあえず溜飲は下がったからまぁいいかと恵里は思ったのであった。
「――はい、こっちの蹴りウサギの肉はもう大丈夫だよ」
「うん、ありがとうハジメくん」
タウル鉱石とやらで作った肉叩きで柔らかくしたウサギ型の魔物こと蹴りウサギ――これまたハジメ命名であり、他の皆も割と魔物の名前はどうでもよかったのでそのまま採用した――の足の肉をハジメから渡されると、恵里はそれを食べやすいサイズへとタウル鉱石製の包丁でカットしていく。
どの肉も満足に血抜きは出来ていなかったものの今はお腹を満たすことを優先しており、むしろ時間をかけないなりに色々工夫しているため誰も文句は言わなかった。
「こうして肉叩きも包丁も器用に作れるなんて流石よねー」
「あはは……こっちの世界に来ることはわかってたし、それで刃物とか兵器とかの情報を頭に入れてたから。それをちょっと使っただけだよ。肉叩きは単によく使ってたから形状を覚えてただけだし。それにちゃんとした作り、って訳でもないから……」
「使えるんだから誰だって文句は言わないよ。それにこういうのを作れるのはハジメくんだけしかいないんだからもっと自信持ってよ」
「そうだよ。恵里の言う通りだよハジメくん。鈴の使ってる包丁もよく切れるし、ハジメくん錬成師だからすぐにメンテナンス出来るし、むしろ皆ハジメくん頼りだと思うんだけど」
切り分けた肉を網で焼いている優花から持ち上げられ、ハジメは少し自信なさげに返事をするものの、軽くスネた恵里と鈴からあーだこーだ言われて苦笑してしまう。異世界に来てもまだ自信がちゃんとついてないことを咎められ、頑張らなきゃと思いながら道具を片付けていく。
「そうだぞ坊主。初めてステータスプレートを見た時はどうしたものかと思っていたが、今この場では誰よりも重要な役目を任されてるんだ。それを誇れ――それに、ステータスだってかなり上がっていただろう」
そこに腸や皮を大部屋の隅へと置いてきたメルドが戻ってきて声をかけてきた。ハジメは苦笑しながらもメルドの言葉に『はい』と短く返す。
――メルドの“説得”を終えた後、全員が食事の準備に戻ろうとしたのだがここで大介ら四人があることを提案してきた。どうせだから全員のステータスプレートを見てどうなってるのか確認しないか、と。
他の皆も程度の差こそあれ、気にかかっていたこともあってそれを承諾。一度調理の手を止め、手早く全員のプレートを回し見することになった。誰もが異常なまでにステータスが高くなっていたことに驚いており、特に驚かれたのがハジメのものであった。
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南雲ハジメ 16歳 男 レベル:10
天職:錬成師
筋力:60
体力:200
耐性:60
敏捷:120
魔力:190
魔耐:190
技能:錬成[+鉱物系鑑定]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・気配感知[+特定感知]・言語理解
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ハジメ曰く、魔物の肉を食べる前は各ステータスの数値は20に届いたかどうかなぐらいでしかなかったらしい。それを踏まえれば異常なまでの上り幅であり、それを疑う者は誰もいなかったため、結果として一番騒がれたのである。
ちなみにその当事者であるハジメは一番ステータスが高かったり技能が多い訳でもないのに持ち上げられたことでむずがゆいような心地であった。ただ、恵里と鈴からベタ褒めされたのは素直に受け取ってはにかんでいたりするが。
「そうだぞ先生。先生がいなかったら俺達はこうして普段とあまり変わらない感じで食事が出来ないんだからな。正直イヤミにしか聞こえねーぜ」
メルドからたしなめられた直後、今度は火の番をしていた信治が鈴から串を受け取りつつハジメに言う。
ステータスプレートをもらって自分達がすごい力を持ってたと浮かれてた頃は、自分達がハジメを守り、その代わりに武器を作ってもらえばいいかと考えていた。しかし現状はハジメに色々と助けられている。今のところ食事の味が不味いのと寝床が硬い床であることだけはいただけないものの、彼の言葉で戦う勇気をもらったし、こうして一緒に暮らせること自体には不満がないのだから。
「そっか……ごめんね信治君」
「だーかーらー謝るなっつーの! 別に誰も後悔しちゃいねーって。あ、でも飯と寝床、あと風呂の方はなるはやでよろしく」
バシバシとハジメの背中を叩き、軽く無茶振りをしてから信治は串を手に火の番へと戻っていった。その様子を見て相変わらず調子のいいことばかり言っているとため息を吐きながらも恵里は奈々が魔法で水を張ってくれたバケツに包丁を突っ込んで汚れを浮かせてく。
「中野の奴も無茶苦茶言うねぇ……まったくもう。あんま相手しなくていいからねハジメくん」
「――えっ。あ、いや、その……お風呂はともかく、体の汚れを落とすぐらいなら皆に協力してもらえばどうにかなりそうかなー、って――」
「待ってハジメその話詳しく」
「ハジメくんお願いすぐそれを話してでないとボク泣くよ全力で泣くよ」
「今すぐ吐いてハジメくん鈴もみんなも体の匂いが気になってるからほらほらほら」
「えっハジメ君それホントなの!? い、今すぐやれる!? ご飯出来るまでまだ時間があるから!!」
そしてハジメが口を滑らせると即座に優花、恵里、鈴が食いつき、香織に雫、奈々と妙子までハジメに詰め寄っていく。突然の事態にハジメがパニックを起こすものの、そんなの知るかと言わんばかりにもみくちゃにされ、体を揺さぶられて容赦なく尋問を受けさせられるのであった。
「どうだ良樹、飛ばせそうか?」
「うーん……やっぱ俺も無理だわ。大介や礼一と同じで周りをバチバチさせるぐらいしか出来ねーや。しっかし腹減るなマジで」
ハジメが女子~ズに尋問を食らっている中、大介、礼一、良樹の三人は増えた技能の一つである“纏雷”がどういったものなのかを調べていた。その名前の感じや、二尾狼が雷を飛ばしていたことから自分達も雷を放てるんじゃないかとステータスプレートを確認した時に彼らは考えた。
そこで信治含めて四人は光輝らに技能の検証をすることを理由に食事の準備の免除を頼み込んだ。そこで光輝も恵里らに問いかけてみたところ、『皮をはぐのならともかく、調理の工程であまり人数がいても却って面倒』と述べた……が、やはり火の番は必要だということで信治だけは手伝うということを条件にそれが通ったのである。
信治の恨み言を聞き流しながらこうして“纏雷”、そして“魔力操作”を調べた。“纏雷”は残念ながら自分の周囲に電気を纏わせるのが限界であったが、“魔力操作”に関してはやり方をなんとなく把握出来た。なので飯の時にでも伝えようと三人は結論を出し、声がかかるまで“魔力操作”で指先から火を出したり、水芸をして遊ぼうとしていた。そんな折、幸利から声がかかる。
「おーい、大介ぇー、礼一ぃー、良樹ぃー、そろそろ焼き上がるみたいだしこっち来いよー」
「お、サンキューな幸利ー! じゃあ行こうぜー」
幸利の声を皮切りに、全員が自分の分の串焼きと網で焼いた肉が盛りつけられた皿と食器をもらい、ハジメが作った円柱型の岩石の椅子に座っていく。
「はい、じゃあこれからコップ配るから水が欲しかったらセルフでやってね」
「いくつかピッチャーも用意してあるから、取りやすいところから取ってね」
そう言いながら恵里は岩のトレイに載ってた金属のコップ数個を配るとハジメの隣に座り、奈々は両手で二つのピッチャーを運んで適当なところに置いた。
「恵里が体を張ってくれたおかげで俺達は安心して飯が食える。そのことを忘れるなよ。じゃあ――」
そしてメルドが食事前の音頭をとり、全員が手を合わせた。恵里達が『いただきます』と言うとほぼ同時にメルドもお祈りを終えた。今回は簡単なものであったらしい。そして全員が出された食事に手を付けていく。
「……ホントだ。全然体が痛くない!」
「マジじゃねぇか。じゃあこれで食料の問題も解決したんじゃないか!!」
「感謝してよぉ~。メルドさんが言った通り、ボクが体を張ったおかげで神水も飲まずに安心してご飯が食べれるんだからねぇ~」
奈々が大いに驚き、幸利が目を輝かせているのを見て恵里は顔がニヤつくのを止められなかった――実は大介らは技能の確認に移った際、“胃酸強化”だけに関しては軽く及び腰であったのである。そこで恵里が実験台として立候補し、一足先に食べる事になったのだ。
結果、蹴りウサギの肉を食べても体に痛みが走ることもなく、ステータスも幾らか増加。そして技能も天歩、[+空力]、[+縮地]の三つを得ることに成功したのである。実際にステータスプレートも全員に見せて確認してもらい、その結果全員の士気も上がった。そして今、こうして蹴りウサギの肉に手を付けた皆が口々に痛みが走らないことに喜び、ハイペースで食べていく。
「うーん……串焼きよりも網の方がまだマシかな。串の方はちょっと筋張ってるし」
「そっか。じゃあ次はそっちでやってみるね」
「なぁ園部、先生にフライパン作ってもらってステーキ焼いてくれねぇ? それだったら美味いかもしれねぇんだけど」
「あのねぇ、油引かないと焦げ付くのよ。そうなると石鹸もないのに洗うのも手間だし、捨てるしか無くなるの。しばらくは網焼きで我慢して」
流石に味の方はまだまだ改善が必要であったものの、場の雰囲気は明るく、和やかな雰囲気で全員が食事を終える。
「――ありがとう、恵里。僕のために体を張ってくれて」
「ううん、いいの。いつかは確かめる必要があったんだし、神水も節約できたんだしね――それに何より、ボクの要求が通ったんだもん。後悔なんてないよ」
「それ、ハジメくんがやりたかったことでしょ。もう……まぁ、鈴も同じこと考えてたと思うけど」
そうして食事を終え、皆が歓談をしながら水を飲んでいた時であった。恵里もハジメと鈴と一緒にアレコレ話をしていたのだが、ハジメが突然真剣な表情で恵里に感謝を述べてきたのだ。それを恵里は柔らかな笑顔で首を横に振り、あくまで自分のためだからと返した。それを聞いた鈴は呆れた様子で言及しながらも、恵里がやっていなければ自分がやったかもしれないとこぼした。
――“胃酸強化”の実験に関して恵里は単なる善意だけで実験台となった訳ではなかった。実はその時、あることを条件に大介ら四人と光輝らに申し出ていたのである。それはハジメが“銃”を開発するのを可能な限り優先させることであった。
流石に自分達の武具のメンテナンスや壁の修復に関してはともかくとして、それ以外の作業よりも銃の作成を優先させようと考えていたのである。
それはもちろんトータス会議の時に銃の作成を考えていたというのもあったが、ここ奈落の魔物と相対した際の懸念も多分に含まれていた。蹴りウサギの時に披露した錬成のスピードは決して遅くはなかったものの、わざわざしゃがんで地面に手をつかなきゃならないというのはあまりに無防備過ぎたからだ。ハジメ曰く、既に銃を作るための材料は揃っているらしいため、それもあって今回の案件をどうにか通そうとしたのである。
「なぁハジメ、その……俺にもさ、銃作ってくれねぇか? やっぱ付与術オンリーだと心もとないっていうかさ……」
そうして三人で話し合っていると、不意に幸利が頼み込んできた。ここ最近いいところがない彼としても焦りがあったらしく、ハジメから銃を作ってもらえばどうにかなるのではないかと考えていたようであった。
「うーん……ごめんね幸利君。銃そのものなら別に作れはするんだけど、弾丸がね……作るのが簡単ならいいんだけど、ライフリングに合わせて作るとなると相当難しいと思う」
しかしハジメは筋道立ててそのお願いを断っていく。地球にいる間はモデルガンを実際に買って触ってみたり、銃に関する書籍などを手に取って読みふけっていた。その結果、銃を作るのに必要最低限の知識は手に入れたとハジメも自負しているが、やはりそれはあくまで模造品に関する情報や書面での知識でしかない。そのため実際に作れるかどうかまでは未知数であり、親友の頼みとはいえど出来の悪いものを渡す訳にもいかなかったのである。
「それと、弾道があまり安定しないのだったらいいんだけど、それはそれでフレンドリーファイアが怖いから作りたくないんだ。ごめんね」
「いや、いいんだ。流石にそう言われちゃぁ俺だって引き下がるしかないさ。まずはそっちの方を優先してくれ……でも、でもさ、いつか作ってくれよ」
「うん、約束するよ」
そうして約束すると幸利の顔は少し晴れやかになった。と、話がまとまったところでハジメのところに香織、雫、優花、奈々、妙子がやって来た。
「あれ? 皆どうし……え、まさか、もうやるの?」
「当たり前でしょ! 今ここでやらなかったらいつやるのよ!!」
「そうだよ!! お風呂は無理でも体を洗うのだったらどうにかなるってハジメ君言ってたよね!! 早速作ろう!!!」
そう。女子~ズに詰め寄られた時、ハジメは『巨大な水槽みたいなものを作って、それを温めて中の水をお湯にすればいけるんじゃないかな』と言ってしまったのである。
「え、えっと、その……恵里、鈴、助けて」
「ごめん無理。これは最優先課題だから。諦めてハジメくん……後で体洗ってあげるから」
「ごめんねハジメくん。鈴もそれは後回しにしたくないから……でも、後で恵里と一緒には、裸……見ても、いいよ?」
即座に裏切られた。しかもとんでもないご褒美付きである。一瞬クラっとするも、それに流されてはいけないと踏ん張ろうとした時、ハジメの手を恵里が引いていく。
「だ、ダメだよ! こればっかりは僕も――ってうわぁあぁあ!?」
「ほら、早くやろうよ!!」
「お風呂の時間が逃げちゃうよ!!」
そう言ってハジメは女子~ズに連れ去られ、一体何があったと気になった男共も彼の後を追う――死と隣り合わせの場所でも彼らは未だ折れることはなく。どこまでも強く、逞しく生きていたのであった。
Q.どうしてハジメのステータスが原作よりも低いの?
A.食べてる量が単純に少ないから。原作では
>悪態を吐きながら二尾狼の肉を喰らっているのはハジメだ。
>硬い筋ばかりの肉を、血を滴らせながら噛み千切り必死に飲み込んでいく。
>どれくらいそうやって喰らっていたのか、神水を飲料代わりにするという聖教教会の関係者が知ったら卒倒するような贅沢をしながら腹が膨れ始めた頃、ハジメの体に異変が起こり始めた。(一部抜粋)
とあります。つまり原作では相応の量を腹に入れている訳です。
ところが、こちらでは四頭分とはいえど二尾狼の肉を十六人で分けています……そうなると腹に入る量は原作と比べれば確実に少なくなります。その分ステータスが上がる量も減ってしまうのではないかと考え、こうなりました。
……実はその分、苦しむ時間も減ったというのはここだけの話。もちろんオリ設定です(ォィ)
あ、そうそう。最後のシーンで浩介の目から血涙流れてます(ドヤァ)