おかげさまでUAも90623、お気に入り件数も664件、しおりも271件、感想数も232件(2022/3/18 18:10現在)になりました。誠にありがとうございます。
遂にUAが90000に……相変わらず勢いがロクに衰えなくて怖い(ビビり並の感想)
そしてAitoyukiさん、KAZhiroさん、cronさん、拙作を評価及び再評価していただき本当にありがとうございます。こうして評価をいただけたことでまたモチベーションが上がりました。評価していただける皆様には頭が下がる思いです。
今回はちょっと長めになります。では本編をどうぞ。
地球で言うところの兎に似た魔物――どこかの誰かに『蹴りウサギ』という妙な名前をつけられたそれは今日も縄張りを歩いていた。理由はもちろん食事のための狩りである。
しかし、昨日から少し気配が増えたような減ったような何とも言えないものをこの蹴りウサギとやらは感じ取っており、いつもよりも慎重に足を運んでいた。
そこでふと、蹴りウサギは妙な気配を感じ取った。獲物の気配だ。それもよく狩る
昨日はあまり食事にありつけず、この魔物はいくらか腹を空かせていた。そのため足に力を入れて一気に踏み込んだり、空中を駆け抜けることもしなかった。何せ腹が減るのだ。だが幸いにも気配は八つ。それだけあればある程度腹は満たせるだろう。この階層の主に見つからないことを祈りながら魔物は徐々に近づいていく。
――魔物にもし考える頭があったなら、この時慎重になってしまったことと後先を考えたことを心底悔いただろう。
「“縛魂”」
顔と思しき部位を出した生き物から聞きなれない鳴き声が耳に届く。その途端、
「……よし。じゃあ右手上げて」
その声が聞こえた途端、魔物は右の前足を上げた。威嚇なのか怯えなのかどういった種類の鳴き声かも魔物にはわからない。なのに自然と理解し、従ってしまう。その声に抗えない。次は何をするのだろうと魔物はただただじっと待つばかりであった。
「よぉし。じゃあ次は左手上げて。耳を両手でかいて。三回回ってバンザーイ」
そして次々と出された鳴き声の通りに魔物は動く。鳴き声の意味も意図もわからないが、それに抵抗出来ない。その後鳴き声の主は体を出してこっちに来たがどうしても
「くふ、ふふ、アッハハハハ!……じゃぁウサちゃ~ん、そのままここでじっとしてよっかぁ~」
程なくして『ウサちゃん』と呼ばれた魔物はその声の主の鳴き声に反応し、腹を出して寝ころんだままの状態で動くのをやめた――今この場で何もせずに駆け足で離れていっているこの生き物の意図は何一つわからない。だが、それの鳴き声を聞くとひどく
「キュ?――ギュゥゥゥゥゥウウウゥウゥゥ!?」
そう考えていた魔物であったがこの階層の主のように後ろの二本足で立つ何かがこちらに近づいた瞬間、激痛と共に目の前が真っ赤に染まった。目が、見えなくなってしまった。
「ダメダメぇ~、動いちゃダメだよぉ~。じっとしててねぇ~」
ああ、まただ。あの声が耳に届いただけで何故かそれに従いたくなってしまう。痛いのに、苦しいのに、すぐにでも逃げたいのに――ただ、
「ここに来る前に似たようなことはやってたし、その時はすごいって思ってたけど……なんだろう。この、すっごい罪悪感が……安全なのはわかるんだけれど」
「やっぱり恵里が怖い。ハジメくんに向けてる愛のひとかけらでもいいからここの魔物にも向けてあげられない?……これから仕留める側が言う言葉じゃないけど」
「親友の恋人の一人が魔王な件について」
「……怪我しないに越したことはねぇけどよ、こういうのは見てて気分のいいもんじゃねぇな」
「私、全然恵里ちゃんのことわかってなかった……ねぇ恵里ちゃん。もっと、もっと他になかったの? 兎さんかわいそうだよ?」
「恵里の能力は便利だし、狩りに本当に有用なんだが、その……惨いな。まぁこちらが食うためだ。文句は言えん」
「皆してもう……実験も兼ねてやってたんだし別にいいでしょ。まぁ余裕が出来たらペットにでもする? 意外と毛並みは良かったよ」
「お前ら俺に丸投げしてヒソヒソ話すんのやめてくんねぇかなぁ!? 誰でもいいから手伝――」
群れの仲間と思しき無数の声に、魔物はそこから動かずにどうすれば助かるかと考えたが、ほどなくして新たな激痛と共に音さえ奪われた。
視界は赤一色で何も見えず、自分が確かに声を上げているのに何も聞こえない。パニックを起こした魔物は
「いやー、大量大量。ここの魔物でも“縛魂”が効く。しかも詠唱要らずでも問題ないってわかったし、ご飯もいっぱい確保できて一石二鳥。ちょーっと懸念は残るけれど十分、十分」
今回実験を兼ねた狩りでおおむね満足出来る結果を得たことで、恵里は幾らか浮かれた気分で通路を歩いていた。
『ここらの魔物は強いショックを与えると“縛魂”は解ける』という幾らか不安が残る結果ではあったものの、実験は成功。念のため気配を読み取りづらい浩介が接近して耳を串で貫き、その後逃げ出した蹴りウサギは鈴と香織の“縛印”で捕えられ、その後浩介が土系初級魔法である“岩刃”をツララのように細く鋭い形状で詠唱して耳の上から落として頭蓋骨ごと脳を砕いた。
こうして食料となった蹴りウサギは今、ハジメが作ったソリの上に載っている……数ある成果の一つとして。
蹴りウサギを仕留めた後、血の臭いをかぎ取ったのか四頭の二尾狼の群れが現れ、それをかすめ取ろうとしに襲い掛かってきたのである。もちろん返り討ちにしてやった。持っている魔力の半分近くを持っていかれるものの、増えた魔力のおかげで光属性の中級結界魔法“聖壁”を鈴と香織が張れるようになり、それで飛んでくる雷撃を防ぐことが出来るようになったことが大きい。
そのおかげで全員大したケガもなく殴打や斬撃に錬成による生き埋め、消費を控えて詠唱した恵里の“邪纏”によるサポートなどでアッサリと倒せたのである。これまでの苦労は何だったのか、と言わんばかりの結果であった。
「そう、だね……」
「うん……ご飯、いっぱいだね」
そんなご機嫌な恵里とは対照的にハジメと鈴すら苦笑いで返し、龍太郎ら他の仲間はちょっと離れたところから遠目に眺めているだけであった。香織に至っては龍太郎の後ろに隠れて彼の服のすそを指先でつまんでいるぐらいである。
理由は簡単。二尾狼の群れを撃退した後、恵里が『“気配探知”で二尾狼の群れっぽい奴らの近くを通ってさ、死体を餌にご飯を増やそうよ』とニコニコしながら提案してきたからだ。これは流石に全員がドン引きしたものの、計五頭程度では全員の腹を満たすのは厳しいかもしれないと考えて承諾してしまったからである。
もちろん光輝達のグループがかなりの成果を出す可能性だってあったが、それでもやらないよりはマシだろうと全員が考え、恵里の提案に従うことに。おかげでハジメが新たにソリを作るという嬉しい誤算はあったものの、成果は十三頭と三倍近くにまで登ったのである……恵里以外の全員が良心の呵責に軽く苛まれるのと引き換えに、だが。
「すっごく、すっごくかわいそうだったよ……この子達、必死になってご飯を食べようとしてただけなのに」
「やってることはミミズを使った魚釣りと変わんないじゃん。そこまで悪し様に言わないでよ香織ぃ~」
いい気分だったのに水を差してきた香織にむくれる恵里だが、ハジメも鈴も恵里の擁護をしようとはしない。ただ黙って目をそらすだけであった。
「いや死体の山を魔物のいる何メートルも前に置いて、風属性の魔法で死体の臭い垂れ流しておびき寄せて、その後そいつらのいる通路ごと生き埋めにしやがったじゃねぇかよ。もっと質悪いわ」
「しかも俺らは壁の中に隠れた状態でな……安全圏から仕留めてたから罪悪感結構強ぇんだけど」
幸利と浩介の反論にうー、と顔をしかめながら『ボク不機嫌です』とアピールするものの、流石に不味いと思ったハジメが恵里の頭を撫でながら投げやり気味に『お手柄だよ、恵里』と声をかけて機嫌を取るだけで誰も何も言わなかった。鈴でさえも二人の反論に乗っかって他のメンバーと一緒にうなずくぐらいである。
「まぁ、その……とりあえず、戻るぞ。いいな?」
とはいえこのままだと無駄な時間を食うと考えたメルドに話を切り上げられ、恵里達はそのまま拠点へと向かう……途中また蹴りウサギと出くわしたが、それは恵里が闇系魔法を使う前に全員で叩きのめした。恵里以外かなり引きずっていた。
「メルドさん達が戻ったぞー!」
そして既に誰かが空けて塞いだであろう壁をハジメが錬成で空け直し、全員が入ると同時に完璧に塞ぐ。二尾狼の皮を剝いでいた光輝は恵里達が戻ったのを確認すると、声を出して彼らの帰還を雫達に伝えた。
「メルドさん、お疲れ様でした。皆もお疲れ様……結構大量ね」
「うん。雫もお疲れ様……ねぇ雫、無理してないよね? 浩介君もそうだけど、偵察って結構神経使うだろうし、そういうのダメだよ?」
「ありがとう鈴。今はまだ大丈夫……それに、ここで無理でもして倒れたらそっちの方が一大事だわ」
迎えに来た雫を鈴が軽口を言いながらも気遣い、雫もまたそれに答える。その時の表情は少しだけ強張っていたものの、目の動きからして嘘というよりは言うかどうか迷っている感じだと鈴は感じた。
「そっか……でもさ、雫。何かあったんでしょ? ちょっと迷ってる風に見えるけど。鈴なら相談に乗るから」
そこで鈴は一歩踏み込んで雫に尋ねる。昔からの親友として、長い付き合い故に彼女の機微がわかる人間として胸に手を置いて語り掛ける。すると恵里も雫の迷いを見抜き、声をかけることにした。
「そうだね。何かに怯えてるみたいに見えるけど。もしかして新たな魔物でもいたの?」
『新たな魔物』という単語にほんのわずかに目を大きく見開いたのを見た恵里は確信する。適当に言ってみたことが真実であり、その存在が自分達の脅威となるであろうことを。その場にいたハジメ達も真剣な眼差しで雫や光輝達を見つめると、彼らは途端に険しい顔を浮かべた。
「直接見たのは雫だけだ。ただ、その魔物の厄介さは今俺達が狩っている魔物とは段違いだって雫は言ってる――とりあえず詳しいことは食事の後にしないか? メルドさんも、いいですか?」
「わかった。よしお前ら、気になるのはわかるが食事が先だ! 早く聞きたきゃ手早く終わらせろ!!」
光輝の提案に恵里達もメルドもうなずくと、すぐに調理に移った。
向こうと合わせて合計二十一頭。それだけの量を捌くのは中々に骨が折れたものの、皮を剝ぐのに慣れているメルドや浩介、調理に関して手馴れている優花に恵里、ハジメ、鈴らの指示を受けながらある程度出来る面々が分担してやっていけばそう時間はかからずに終わった。今回も網焼きである。
「あ、大介お前! それ俺が食いたかった奴だぞ!!」
「ハッ、こういうのは早い者勝ちなんだよ! もーらい――って何してくれやがる浩介ぇ!!」
「俺だって好きに食いてーわ! 前々から気になってたんだよ――あ、蹴りウサギの肝臓割とマシだわ」
全員の捌く技術が上がったおかげか、内臓の方もあまり傷つけることなく取り出せるようになっており、そのため食事の際に出せる量も増えた。また理由は不明だが蹴りウサギの肝臓は二尾狼のそれよりも脂がのってて肉以外の部位としては人気が高かったりする。
今日もまた六馬鹿が少しでも美味いものを食べようと食卓で血で血を洗う戦いをやっていた。
「――何度言ったらわかるのかしら? 飯時ぐらい静かにしなさい。いいわね?」
「「「「「「アッハイ」」」」」」
その騒ぎも今回も食堂の娘である優花がひと睨みして終わった。クレーマー相手には手馴れているせいか、威圧も様になっている。これに関しては誰もが一目置いていたりする。
「……塩、塩が欲しい。もっと皆に美味しいご飯を。どうして銃の材料はあるのに岩塩が一ミリもないの? なんで? なんで?」
「ハジメくん、ボクは気にしてないからね。大丈夫だからね。ね?」
「そうだよ。皆そういうのわかってるから。文句言うのは鈴達がどうにかするから。ね?」
……なお、恵里は鈴と一緒になってハジメをなだめていた。皆にちゃんとしたものを提供できなくて凝り性であるハジメが軽く食の暗黒面に堕ちそうになっていたからである。なお二人の言葉だけでは届かず、全員でなだめる羽目に遭った。七分潰れた。
「それで、お前達が出くわしたその熊型の魔物というのはどんなだったんだ?」
「はい、それは――」
そして食事と後始末を終えると全員食事の際に使う岩で出来た椅子に座り、そのまま報告に移った。真っ先に対象になったのは雫の見た魔物のことであった。
その雫曰く、元々は“気配操作”によって可能な限り気配を絶った状態でこの階層をマッピングしながら獲物を探していた時のことであった。物陰に隠れれば割と敵をやり過ごすのが簡単であったため、光輝達の班は雫の動きを見ながら後をついていくという形で動いていたそうだ。
そこでふと、雫が件の魔物を目撃したとのことである。
ここにいる他の魔物と同様に白い毛皮に赤黒い線が幾筋も走った熊のような体躯の魔物。ただ、二本足で立つそれの前足は太く、足元まで伸びており、またその前足には三十センチはありそうな鋭い爪が生えていた。
その熊のような様相をした魔物――ハジメは爪熊と呼んだが、どうでもいいので誰も特に異議は出さなかった――は二尾狼の群れと相対しており、それも蹴りウサギ以上に一方的な戦い方……否、蹂躙していた。
「攻撃をよけたはずの二尾狼が袈裟懸けに真っ二つになってたり、あの蹴りウサギとは違うけれど軽いフットワークで雷撃もかわしてたわ……それとかなりの勢いで突っ込んで跳ね飛ばしたり、その爪で八つ裂きに……」
語っていく毎に雫の顔が段々と青ざめていくのを見た光輝は彼女を後ろから抱きしめ『大丈夫』と耳元でささやいた。
「光輝……」
「もう大丈夫だ、雫……大丈夫、この場にはあの魔物はいないんだ。だから怖くないよ」
ささやきながら光輝は雫の頭を撫でていくと、荒くなっていた息も少しずつ収まり、顔色も元のものに……むしろ少し血行が良くなっていった。瞳が潤みだしたところで我に返った雫はせき払いをしてから全員に向き直った。
「――コホン。正直、私の見立てだと正面戦闘じゃ誰かが死んでしまうかもしれない。やるんだったら罠にはめて倒したほうが安全ね。けれど……」
(うわー、めちゃくちゃヤバい奴がいたんじゃんか。軽率なことをして全員死なせるかもしれなかったなんて……反省しよう。ここは絶対侮っちゃいけない場所だ)
先程の表情と今真剣に語る雫の様子を見て恵里は自分がひどく軽率なことをやってしまったと心の中で反省し、今自分に視線を向けてくるハジメ達に後でちゃんと謝ろうと考えていると、不意に信治がある疑問を口にした。
「ん……? そういや八重樫。ここらの魔物ってよ、あの狼の奴でも雷で簡単に壁をぶっ壊してきたし、ウサギの奴も蹴りか何かでブチ破ってきただろ? ってことは……」
「そうね、中野君の見立てた通りのことが起きてもおかしくはないわ。軽く生き埋めにした程度だとあの爪で岩ごと切り裂くでしょうし、下手したら壁の中にいてもそのまま切り刻まれるかもしれないわ……私達がいつも通路に捨ててるあの皮だって結構固いはずなのに、バターみたいに切っていたもの。マトモにやりあったら死にかねないわ」
雫の言葉に誰もが言葉を失う。あまりに強い。今まで見かけなかった辺り個体数は少ないのだろうが、それぐらいしか慰めにならない。あまりに圧倒的な壁であった。
(気配を悟らせなきゃボクの“縛魂”で一発なんだけどな……とはいえ危ない橋を渡るのはダメだ。ハジメくんも鈴も皆も悲しむ。そうなると、他に方法は――あっ)
「――あっ! 皆、いい方法が浮かんだかも!」
そうして恵里もどう対処すべきかと考えているとある事が閃き、また鈴も何か思いついたらしく手を挙げ、ハジメも同じく鈴とほぼ一緒に手を挙げた。そこで鈴と一緒にハジメの元へ向かい、浮かんだ案をそれぞれ話す。やはり三人とも一緒であり、そのことが無性に嬉しくてデレッデレになってしまう。
「……三人とも、何かいい案が浮かんだの? ハジメ君と鈴ちゃんもそうだけど、恵里ちゃんがすごいデレデレしてるし」
そこで香織から声をかけられ、自分達より先にハジメが反応した。
「うん。多分これならいけると思う――皆、あの爪熊対策として銃を作りたいんだ。きっと僕が本来辿る未来だったらそうしてただろうから」
その一言に光輝達はあっけにとられたような心地となった。異世界に転移したら日本刀に次いで作るであろう武器の銃をここで作ると述べたからである。
「確かにそれなら……材料はあると聞いたけど、作れるのかハジメ?」
「うん。知識はあっても経験が無いから相当の試行錯誤を繰り返すことになるだろうけど、それでもやるよ……本当なら皆の武器を新調した方がいいんだろうけどね」
光輝からの問いかけにハジメは力強く答える。彼の横顔から困難に立ち向かう意志と皆を守らんとする思いが見えて惚れ直しそうになった……はいいが、『皆の武器を新調』という単語に恵里も鈴も凍り付いた。ハジメの事だけしか頭になくて他の皆のことを考えるのを忘れていたからだ。思わず大量の脂汗を流し、彼のフォローをしようと思っていた恵里と鈴の勢いが一気にしぼむ。
「だ、大丈夫……ぼ、ボクもハジメくんのサポートに回るつもりだし、なんでもやるから……」
「す、鈴もやるよ……? 多分錬成で作るんだろうし、そ、それなら鈴の“天恵”で魔力を回復できるから……役に立てる、よ?」
「……相変わらずね二人とも。ハジメ君のことになると周りが見えなくなるの」
思いっきり目をそらしながら言う二人の姿を見て誰もが察し、ハジメを除く全員が呆れた様子で二人を見る。そこで追い打ちとばかりに雫が目を伏せて額に手を当てながらつぶやけば、二人は『ごめんなさい』と消え入りそうな声で全員にわびる。
「二人の気持ちは嬉しいから。ね?」
そんなひどくいたたまれない様子の二人を見て苦笑したハジメは、二人に声をかけて頭を撫で、よしよしと幼子をあやすようにしてしばらくなだめていた。
「コホン……皆に改めてお願いします。僕に銃を作らせてください」
そう言って真摯な態度で頭を下げるハジメを見た光輝達ももう何も言わない。長い間育んだ友情が、絆が、彼ならやれるという確信を導いたからだ。
大介達もなんとなくやれそうという予感していたが、光輝の様子を見て確信に変わった。だから期待に満ちた目で見ている……あわよくば自分達にも融通してもらえれば、という欲望に満ちた目で。なおいつの間にか立ち直った恵里と鈴が真意を看破し、冷たい眼差しを向けてきたため即座に目をそらした。
「……とりあえず、坊主の言う“じゅう”という奴があればどうにか解決できるということはわかった。となればその作成にすぐにでも移ってもらいたいところだが、まずはどういったものか説明を頼む」
「あ、はい。銃というのは――」
ただ、メルドは“銃”という概念を知らないため、判断しかねていた。光輝達の様子を見れば彼らの世界にある道具の一つで、信頼するに足る代物らしいというのはわかったものの、メルドからすれば一体どういったものか皆目見当がつかない。そのため説明を求めると、メルドが知らないことを失念していたハジメが簡単な説明を始めた。
小さい金属の塊をもの凄い速さで撃ち出す道具であり、魔法の適性のない自分でも簡単に扱える兵器である、と。しかしその説明を受けたメルドの表情はあまり浮かないものであった。
「――聞いた限りでは適性のないお前でも使える魔法、といった感じだな。それが本当に有効なのか? 中野や宮崎、斎藤ら術師である三人を鍛えて遠くから魔法を撃ち続ける方が勝率は高いように思えるが……どうなんだ?」
「……今まで銃というものを知らなかったメルドさんに信じてほしい、と言っても無理かもしれません。けれどお願いします。僕にやらせてください」
そう真剣な眼差しで問いかけるメルドにハジメは気圧されることなく彼の目を見ながら自分の意思を伝える。
「……お願いします。ハジメくんを、信じてあげてください」
「メルドさんお願いします。絶対に後悔させませんから」
ハジメに続いて恵里と鈴も頭を下げる。ハジメと一緒にオタクの道にのめり込み、またトータス会議をした際に改めて銃の凄さを理解したからこそこれならきっと勝てるという確信が二人にはあった。それに何より恵里はハジメが使っていた銃の凄まじさを実際に見たことがあるのだ。あの威力を、速さを知っているからこそその自信は揺るがない。故に愛しい人のために頭を下げることにためらいなんてなかった。
そして光輝達も遅れてメルドに向けて頭を下げ、それを見たメルドも思わずため息を吐くしかなかった。
「……お前達の意思はわかった。やれるな?」
「はいっ! ただ、さっきも言いましたけれど、知識はあっても実際に作ったことは無いんです。なので一から試行錯誤していかないといけないんで時間がかかるかもしれません」
メルドからの問いかけにハジメも緊張しながらもそれに答える。するとメルドは改めてハジメの顔を見て、改めて指示を下す。
「――よし。なら坊主はソレの製作に移れ!! 食事の当番も完成までは免除だ! 必要な人員や材料がいるならすぐに言え! 俺達で全力でサポートするぞ!!」
「はいっ、わかりました!」
不安こそ見られたものの、それに匹敵するほどの意志の強さをハジメの表情から感じ取った。故にメルドは号令を下す。こう動くことが現状打破につながると信じて。それにハジメが返事をした後、今度は龍太郎と幸利が手を挙げた。
「あ、龍太郎。お前が先でいいぞ」
「いいのか幸利? 悪いな……それでなんですけど、メルドさん。俺達もハジメが銃を作っている間、アイツの手伝いをやってる奴以外の全員が手に入れた技能を完璧にマスター出来るよう練習しようと思ってるんだけどいいだろうか?」
龍太郎が述べてきたのは新たに増えた技能の習熟のための訓練の提案であった。というのもハジメが銃を作っている間暇になりかねないのと、彼だけに事態の打開すべてを任せることに抵抗があったからだ。自分達にも何かできないか、と考え、そこで思いついたのがこの提案であった。
「技能を使うと腹が減るけどよ、慎重にやればこうして満足いくまで飯をかき集められるようになったし、これから先何が起きるかわかんねぇからよ。ここらで使いこなせるようになりたい。ダメ、か?」
そう龍太郎が述べると誰もが口々に『確かに』、『どうせあるんだから使いこなせなきゃもったいない』と言い、龍太郎の背を押した。龍太郎の言葉にメルドもうなずいていると、幸利もそれに乗っかる形で話を切り出してきた。
「俺の意見も龍太郎と同じだ。ただな……大介、つーかお前ら。俺らの教官、やってくれねぇか?」
そう幸利が言えば、大介ら四人は思わず真剣な顔つきになった。確かに技能の実験をやったことがあったとはいえ、それを完全に使いこなせているかといえばノーであった。使う度に空腹になるというデメリットを無視することは出来なかったからだ。
「いや、その……いいのか? 確かに今ある技能は大体使えるようにはなったけどよ……腹が減るからそんなに試したことはないぜ?」
そのことを大介は少し自信なさげに話し、礼一達もまた本当に自分達に勤まるのだろうかといささか不安な様子であった。
「だったら問題ねぇな。多少であっても使えるのと、一切使えないのとじゃ全然違うだろうがよ。こっから上に戻るにしたってここよりマシなだけで強い敵はわんさかいるだろうしな。そうなると使える手札は多い方がいい――頼む、この通りだ」
そう言いながら幸利は頭を下げる。一年に満たないつき合いながらも彼らのことは幸利なりにわかっていたつもりであった。自分達の手に負えないような時はアッサリと尻尾を巻いて逃げるような彼らの性分だからこそ、自分達の手に余るのではないかと考えていたのだろうと。
だが、彼らが技能を使って遊んでいた時のことを幸利は覚えている――笑っていたのだ。こんな極限の状況下でも心の底から楽しみながら、それも器用に扱いながら彼らはいつものようにふざけあっていたのだ。だから信頼出来る、と。
「幸利が言うんだったら大丈夫だな。檜山、近藤、中野、齋藤、頼む。やってくれないか?」
幸利が頭を下げたのに続いて龍太郎もそうする。それを見た四人は一度顔を合わせると、メルドの方に視線を向ける。するとメルドも口を開いた。
「お前達と親しい清水と坂上がこうして頭を下げているんだ。俺からはそのことには文句は言えん。こちらも“胃酸強化”ぐらいしかちゃんと把握してはいないしな。レクチャーを頼めるだろうか?」
「えっと……いいんスか? 俺らそういう経験全然ないし……」
四人としても流石にメルドを差し置いて教えることに抵抗があったし、上手くやれるのかという不安もあったのだが、そのメルドは不敵な笑みを浮かべながらそれに返答する。
「それなら一切の問題はないな。教官としての経験を積んでいる俺が、お前達から教わるかたわらで仕込むだけだ――さて、言質はとったぞ?」
そのメルドの言葉に大介達はうへぇと苦い顔を浮かべたものの、それを断ろうという気は一切起きず、少しの間を置いて『お手柔らかに頼みます……』と四人そろって言った。数秒のどよめきの後、場はにわかに沸いた。
これで自分達ももっと強くなれる、もっと皆の役に立てると思えたからだ。まだ日は浅いものの、こうして苦境を共に過ごす経験を過ごしたことで彼らの中の結びつきは強くなっていた。それ故仲間を守る力を得ることに誰もが意欲的になっていたのである。
「ならこの報告会が終わったら坊主と声をかけた奴らは武器の製作に、他の面々は技能の習熟のための訓練に移れ! いいな!!」
メルドの問いかけに誰もが『はい!』と元気よく返事をし、それに満足げにうなずいたメルドはハジメの方を向いた。
「坊主、必要な人員は決まったか?」
「は、はいっ! 錬成で作るんで魔力を回復出来る“天恵”が使える鈴と香織さん、それと恵里にも闇魔法でサポートしてもらいたいので残ってもらいたいです」
「わかった――では先の三名は坊主の手伝いを頼む。それと檜山、近藤、中野、斎藤。ひとまずはお前らにやらせようと思っているが、もし指導が難しいなら俺を頼れ、いいな?」
その言葉に大介らはうなずく――かくして新たに立ちはだかった壁を超えるため話し合いが終わったのであった。
……なお、雫の話が終わった後、恵里達の班もかなり気まずかったものの、自分達のことを話した。その後光輝達からうろんな目を向けられ、雫から割と本気の軽蔑の眼差しを食らった。流石に恵里も泣きたくなり、『止められなかった僕にも責任がある』と言ったハジメと一緒に土下座して許してもらった。
「よし、ではこれより“じゅう”の制作と技能の訓練とに別れるぞ。各自、指定された場所に移れ!」
そしてメルドの号令と共に恵里含めた四人以外は移動を開始する。香織は龍太郎に向かって手を振って声をかけた。
「いってらっしゃい、龍太郎くん」
「お、おう……行ってくる」
龍太郎も恥ずかしげに手を何度か振り返すと、顔が赤くなってるのを隠すようにすぐに振り向き、既に大部屋の中央まで移動していた班の皆のところへと向かった。
そして龍太郎への冷やかしやメルドが喝を入れ、その後訓練を開始する旨の発言を聞きながらハジメは恵里達に向き合ってお願いをする。
「じゃあ改めて……鈴と香織さんは僕の魔力がなくなったら“天恵”を使って回復をお願い。それと恵里。恵里には闇系統の魔法で集中力を増すものがあればかけて欲しい。一つでもどこかがダメだったらその途端に危険になるかもしれないから、部品を正確に作れるようになりたいんだ。お願い」
そうハジメから頼まれると、恵里の顔が自然とにやけた。大好きな相手からこうして頼まれたのだ。嬉しくならないはずなんてなかった。
「うん!! そういうのないけどすぐに作るよ! 待っててねハジメくん!!」
花が咲いたような笑顔でそれに答え、喜びのあまり恵里はハジメに抱きつく。目を細めながら彼の胸板に頬ずりすると、ハジメの方も『頼りにしてるよ』と答えながら恵里の頭を撫でた。
「……ねぇハジメくん。鈴は?」
「もちろん頼りにしてるよ。香織さん共々ね」
そこで香織の名前が出てくるのは少し不満ではあったものの、恵里と求められていることが違うというのはわかっていたし、ちゃんと必要とされているのは嬉しくあった。そこで無言でハジメの下へ行くと、鈴は彼の後ろから抱き着いた。
「……鈴が一番ハジメくんの役に立ってみせるから。恵里には負けないよ」
「へぇ~……自信満々に言うじゃんか。悪いけど勝ちなんて譲ってあげない」
「じゃあ奪えばいいだけだね。吠え面かかせてあげる」
そしていつものように口げんかを始め、ハジメも二人の頭を撫でながらなだめようとする。そんないつものやり取りを見た香織は二人のことを微笑ましく見ていた。
(……うん。やっぱり二人はこっちの方がずっといいよ。あんな、あんな悲しい顔なんてもう二度とさせないから)
脳裏に浮かぶのは雷撃で焼け焦げて力なく横たわる鈴と、彼女を見て泣き叫ぶハジメと恵里の姿。今でこそこうして元気にケンカをしているが、下手をすればもう二度とやれなかったかもしれないのだ。それを想い、香織の杖を握る手に力がこもる。
(もっと、もっと頑張ろう。もっと治癒魔法も練習して、後で増えた技能のことも龍太郎くんから教えてもらって、それから……うん、まずはこっちかな)
もう悲劇を繰り返さないように、と香織も出来ることを考えながら二人をなだめにかかる。まずはハジメ君が仕事出来るようにしなくちゃ、と苦笑しながら。
「はい恵里ちゃんも鈴ちゃんもストップ。ハジメ君が仕事出来ないよ。またメルドさんに叱られるよ?」
「二人とももうやめてってば……ね?」
二人に止められてようやく恵里も鈴もケンカを止める。決してメルドに叱られるのが怖いという訳ではなかったが、ここでいがみ合っているのも不毛だと思ったからだ。決してメルドに叱られるのが本気で嫌だったからではない。
「……うん。わかった」
「……そうだね。じゃあやろっか」
おー、と四人で声を上げると、大部屋の隅へと移動して早速作業を始める――部屋の一角で深紅の光があふれる中、恵里は新たな魔法の作成に取り掛かり、鈴と香織は作業にいそしむハジメの姿を眺めながらも、いつでも“天恵”を発動出来るよう様子見に徹するのであった。
爪熊チラっと顔見せ編。あと中々出くわさないと普通はいないと思いますよね? そういうことです(本日の言い訳)