あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは拙作を見てくださる皆様に多大な感謝を。
おかげさまでUAも91660、お気に入り件数も665件、しおりの数も276件、感想数も239件(2022/3/21 16:35現在)になりました。誠にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回もまた拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。こうして毎回毎回拙作を面白いと評価してくださって本当にありがとうございます。足を向けて寝れませんホント。

今回のお話もやや長めとなっております。ではそれに注意して本編をどうぞ。


三十七話 声が響く時

「――いだっ!?……うぅ、うまくいかなぃ~」

 

「おーい、そうじゃねぇって菅原。こう、見えない階段を昇ったりとかそういう感じで――」

 

「うわスッゲーな天之河、もう“縮地”以外で教えた奴はマスターしてんじゃん。んじゃそっちの方は……って出来んのかよ!」

 

「あぁ、すまないな斎藤。八重樫流の道場に通っていたからトータスに来た時点で既に身についてたみたいだ。それじゃあ、今度は俺もレクチャーする側に回ろうか」

 

「助かるぞ天之河。じゃあ遠藤、もう一度“空力”のおさらいを――」

 

「えーと、これをこうして……“錬成”」

 

 技能訓練班の声を聞き流しながら恵里はハジメの作業風景を眺めていた。やり取りを聞いた限りでは四馬鹿以外では光輝がいち早くマスターしたようであり、彼の規格外振りに全員が驚き羨望の眼差しを受けているようである。

 

 とはいえかつてのように光輝に執着するのでなく、ハジメをひたむきに愛している今の恵里からすれば『あぁ良かったね』と思う程度でしかなかったが。せいぜい親しい友人が誉められた事を素直に良かったと思う程度である。

 

「うーん、これは……駄目だ。じゃあ次……」

 

 ただ、当のハジメは未だ空回りしているようで、集中こそ切れていないものの、もう何度目かわからない部品の作り直しを今もやっていた。

 

「……中々難しいんだね、銃を作るのって」

 

「そうだね……ハジメくんなら簡単だ、って思ってたけど」

 

「うん……こんなに真剣にやっても出来ないんだ」

 

 香織のつぶやきに恵里も鈴も力なく答えるしかなく、なかなか彼の手助けが出来ないのがもどかしくあった。

 

 銃の製作を始めて早二日。魔物を狩りに行く時、食事、たまの皆の武器の簡単なメンテナンス、そして寝る時以外は休みも無しに錬成で部品を作ってはそれを組み立て、動きを確認してはエラーを確かめる。その繰り返しであった。既に数えるのを誰もが諦めたが、もう三桁は失敗しているだろうと恵里は思っていた。

 

「今度は……あー、まだ撃鉄を起こしても外れる。これじゃ暴発しかねない……やり直、し……ぁ。皆、お願い」

 

「……うん――“鋭識”」

 

「「……“天恵”」」

 

 先程部屋の隅に置いてあった腕時計を確認したら朝の食事から既に二時間が経過しており、その間鈴と香織の“天恵”と、自分が“鋭識”という新たに作った強制的に一つのことに集中させる魔法でハジメの集中が切れてはかけるというのを繰り返している。

 

 銃の製造を始めた当初は類まれなハジメの集中力もあり、この魔法が出来上がっても使い道はないかと思っていた。だが、何度も何度も集中しては失敗してを繰り返しているとそれも続かなくなってしまっていた。

 

(……焦らなくていいんだよ、ハジメくん。ハジメくんの努力はここにいる皆がわかってるから)

 

 彼の失敗の原因が開発が遅々として進まないということへの焦りというのもここにいる皆は察している。だからこそ何度となく言葉にして伝えてはいるものの、いつもの凝り性……というよりは頑固さを発揮している彼からすればやはり許せないようでますます意固地になるばかりであった。

 

「――バネはこれで……うん、引き金の方はOK。撃鉄も……うん、ちゃんとロック出来た。じゃあ次、は……あれ――?」

 

「「――“天恵”」」

 

「“呆散”……はい。やっぱりもう休憩しよう、ハジメくん」

 

 倒れそうになったハジメに駆け寄ると、すぐさま恵里達は魔法で癒し、強制的に集中を解く。そして足を崩した鈴の腿にハジメの頭を乗せて労いの言葉をかけていく。

 

「お疲れ様、ハジメくん……もう休もう。ずっと根を詰めてるとまた倒れちゃうよ。ボクと鈴を何度泣かせる気?」

 

 こうして倒れそうになるのも一度や二度でなく、魔力切れを起こしたり集中を続けたせいで脳に負担がかかり過ぎてしまってぱたりといくのを何度も見ている。恵里達はそれが心底嫌になっており、だからこそ適当なタイミングで強制的に休憩をとらせていた。そうでもしないとこの少年は頑張りすぎてしまうのだ。

 

「恵里……でも、でももう少しで……」

 

「ハジメくん、そう言ったの何回目? 何度も倒れそうになってるのを鈴達に見せないでよ……お願い」

 

「ハジメ君、頑張るのはいいけどそれで恵里ちゃんと鈴ちゃんを悲しませるのは絶対ダメ。次やったら“縛印”で雁字搦めにして一日中何もさせないから」

 

「……はぃ」

 

 だからこそ自分達が止めなければならない。他人のためなら自分を平気で犠牲にしかねないこの優しい少年を自分達のせいで潰す訳にはいかないから。

 

「でもさ、ハジメくん。前はバネがちゃんと機能してなかったのに、今はもう対策を考えたんでしょ? ちゃんと前に進めてるんだから大丈夫だよ」

 

 それに制作が一切進んでいないという訳でもなかった。前は起こした撃鉄を保持したり、引き金を引いた際に撃鉄が戻る仕組みなどで使うバネが緩すぎたり、ポキポキ折れたりとそれ以前の問題であったのだから。バネを形成しては恵里が“火種”で起こした火で炙り、それを冷やして焼き直しをするという()()()作り方をズブの素人であるハジメが何度も何度もやっていたためだ。

 

 そこでハジメが『いや魔法がロクに使えない僕が作ったんだからこんな方法するわけないじゃん!!』と思い直し、そこでバネの原料を錬成で圧縮しながら形成するという形で作るようになってからはちゃんとバネらしい動きはするようになったのである。なおこれを思いつくまで十数回分の焼き戻しや焼き直しをして時間を無駄にしていた。

 

「そうだよ。恵里の言う通り。先が見えるのはいいけど、ずっとそっちばっかり見てたら足元がお留守になっちゃうよ。ちゃんと足元も見ようよ」

 

「そうだね……ハジメ君。ハジメ君が思ってる以上にハジメ君は頑張ってるし、皆の役に立ってるよ。でも、私達だってずっとハジメ君におんぶに抱っこじゃないんだよ?」

 

 鈴に頭を撫でられて甘やかされていたハジメは香織に頭を動かされ、技能の訓練をしていた皆の様子を見させられた。

 

「さっすが浩介! 空中ダッシュがもう様になってるし、やっぱ忍者やってる奴は違ぇーな!」

 

「忍者言うな! 一応これ雑技で通してんだよ!」

 

「よっ、ほっ、ほっ――っと、とりあえずまぁこんなもんか? ここまでやれりゃ大丈夫だろ」

 

「龍太郎もすごいな……空中で壁蹴りしながら浮いて、しかも最後はバク転じゃないか。うん、完璧だと思うよ」

 

 見れば誰もが技能を自分達なりに使いこなしており、既に元あった技術のように自然とやってのけている。香織はその姿を見せたかった。気負わなくたっていい。自分達に頼っていいんだよ、と伝えたかったのだ。

 

「どーよ! 極めればこんな風に足引っ掛けて逆さに浮くことだって出来るんだぜ!!」

 

「流石じゃねぇか礼一! だったら俺も――お、やれた!!」

 

「……すごいわね。本当にすごいバカねアンタら」

 

「おいこら園部、何度も何度も俺らのことを馬鹿だなんだ言うな。いくら温厚な俺だってキレるぞ」

 

「そうだぞ。俺らはあくまで技能を使い倒すための研究の一環としてだな――」

 

「アンタらの場合はただの大道芸でしょ?……まぁ金はとれるんじゃないの?」

 

「ハッハッハ、元気があっていいな園部、近藤、清水――お前ら思った以上に元気が有り余ってるようだし、ちょっとした俺の思い付きに付き合ってくれんか?」

 

 ……ただ、口喧嘩をしていた三人を見て静かにキレたメルドが、“纏雷”で雷を纏わせた剣を構え、“縮地”と“空力”を駆使して追いかけ回す様子は控えめに言って怖かったが。無論言うまでもなくあの三人はシバき倒され、その惨劇を見た恵里達は顔をひきつらせた。

 

「……うん。でも、だったらもっと――」

 

「はい駄目。そうやって卑屈になるところは嫌いだって言ったでしょ。もう……」

 

 しかしそれでももっと、とねだる少年の頬を恵里は指で突き、自身の頬を膨らませる。どうにかしなきゃ、と頑張るあまり袋小路に入ってしまっているハジメをどうしたらいいかと考えていた時、ふと香織があることを口にした。

 

「ハジメ君、そういう風に『自分は別に凄くないです』ってばかり言ってると、ハジメ君をちゃんと凄いって言ってくれてる恵里ちゃんと鈴ちゃんも馬鹿にすることになっちゃうよ」

 

「そ、そんな!? ぼ、僕はそんなつもりじゃ――」

 

 じっとりとした目で香織に見つめられ、ハジメが大いにうろたえると、それを好機と見た恵里と鈴は心の中で香織に感謝しながら畳みかけていく。

 

「そうだよ。ボクのことをそうやってけなしたいんだったら好きにしたら?……もしやったら恨むからね。いっぱい、いーっぱい恨んで泣くから」

 

「うん。ハジメくんがそのつもりじゃなくてもそうなっちゃうんだよ――だから、信じてよ。ハジメくんは自分が思ってるよりもずっとすごいんだ、って」

 

 その言葉にハジメもタジタジとなり、もう何も言わなくなった。その代わりに恵里も鈴もこの時はハジメを甘やかし、魔物を狩りに行くまでの間、何度も何度もハジメの耳元で過去に彼がやってくれて感謝したことをささやき続けて茹でダコにしたのであった……ちょっと涙目になって可愛いと恵里も鈴も思ったが、どちらも黙っていた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、いきます――」

 

 銃の作成に移って早五日。本来なら幾つものテーブルが置いてある大部屋の中央には今、皮が杭で打ち付けられた岩とそれと同じ大きさの二つの岩が縦に並んでいる。その皮が杭で固定された岩の向こうにはハジメが立っていた。

 

 前日の試射で()()したのを改修し、強度を高めたリボルバー銃を片手に瞑目していたハジメは眼前にあるターゲット代わりの二尾狼の毛皮のかかった岩を正視する。

 

「すぅー、はぁー……」

 

 ハジメは数度深呼吸をすると手に持っていたリボルバーを構える――携行性が高く、また排莢に装填が容易な銃であるリボルバーはこの場にうってつけの武器であった。

 

 何せこの階層は通路の幅こそ広いものの岩や壁などの障害物が多く、また通路が複雑にうねっているからだ。そのため射程の長いライフルを作ってもそれの持ち味が活かせないだろうとハジメが判断したからである。

 

 またマシンガンやアサルトライフルなどの自動装填するタイプだと弾詰まりが起きかねないことや今の自分では製作が難しいと考え、ボルトアクションタイプだとリロードに時間がかかることからあえてリボルバー型の拳銃を作ることにしたのである。

 

 全長約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。また長方形型のバレルや装填された弾丸すらもタウル鉱石製であり、粉末状の燃焼石を圧縮して火薬代わりに入れてあったそれを構えたハジメはある技能を発動する。

 

「――“纏雷”」

 

 刹那、両腕から放たれた紅い稲妻が腕を辿り、指先を通り、構えた銃へと吸い込まれていく。

 

 銃に電気がしっかり溜まったのを確認したハジメは放電をやめ、引き金に指を添える。

 

 ゆっくりと引き金を引いていき、改めて銃口がブレてないかを確認する。下手に逸れてしまえば一大事だからだ。そして――。

 

 ドパンッ!

 

 燃焼粉の乾いた破裂音が響き、“纏雷”で電磁加速された弾丸が狙いを違えることなく的を貫く。それは最初の岩だけでなく、真後ろの岩も容易に撃ち抜き――弾丸は最後の岩に無数の亀裂を与えると共に、半ばまでめり込んでしまっていた。

 

 焼け焦げるような音が大部屋に鳴り響くことしばし。最後の岩以外がいきなり音を立てて砕けて散り、改めてその破壊力をこの場にいた全員に知らしめた。

 

「これ、が……」

 

「後ろも全部……ウソでしょ」

 

 それは歴史の転換点の証明であった。

 

「……マジでブチ抜きやがったな」

 

 トータスに新たな歴史が刻まれた瞬間そのものであった。

 

「これが、“銃”か……あれでさえ、まだ未完成だったのか」

 

 ――レールガン。後にそう呼ばれることになる兵器は今、確かにここに産声を上げたのである。

 

「でき、た……」

 

 その立役者であるハジメの口からうっすらと喜びが漏れた。成功であった。この威力ならば爪熊どころかあのベヒモスが束になってかかってきても容易に勝てる、という自信があった。

 

「やった……」

 

「スゲぇ……これが、これが恵里の言ってた奴なのか」

 

 誰もが規格外の破壊力に舌を巻くしかなかった。それほどまでにこの銃はすさまじく、今この一時であってもここにいた全員から絶望を奪っていた。

 

「すご、い……すごいよハジメくん。これだよこれ、間違いないよ……やった、やったー!!!」

 

 大気を砕く音から数十秒後、ようやく言葉を紡ぐことが出来るようになった恵里はハジメを見て喜びを爆発させる。前世? で自分達の窮地を救い、自分を追い詰めた兵器は紛れもなくコレであると確信できたからだ。

 

 その喜びようや先の音に負けぬほどであり、愛しの彼に抱き着いて満面の笑顔で胸元に頬ずりをし、何度も何度も手放しで彼を褒め称えていた。

 

「さすがハジメくん! ボクの愛するハジメくんだよ! やっぱり出来ないことなんてないんだ!! あはは! やったーー!!」

 

「え、恵里、落ち着いてってば!……もう。えへへ」

 

 そしてハジメもリボルバーを持った右手を恵里に当てないように上げつつ、空いた左手で屈託のない笑みを浮かべて甘えてくる彼女の頭を撫でまわす。

 

「すごい……本当に恵里の言ってた通りだった。こんな、こんな破壊力なら絶対に勝てるよ! うん、絶対勝てるって!!」

 

「すごいねハジメ君! 恵里ちゃんが言ってたよりももしかするとすごいかも!! こんな、こんなすごい武器を作ってくれたんだ!」

 

「さっすがハジメだ! こんな――こんなとんでもねぇもん作るなんてよ! はは、こりゃ光輝だけじゃなくてお前も超えなきゃ面白くねぇや!!」

 

「そうだな、見事だ坊主――いやハジメ!! 本当にとんでもないものを作ってみせたな!」

 

 それから遅れて銃製作に携わった鈴と香織、幸利にメルドや他の面々が彼を手放しで持ち上げていく。もうお祭り騒ぎといった状況で、ハジメは流されるまま彼らから称賛の声を受けて気恥ずかしさで縮こまるのであった。

 

 ――ハジメの作った銃がこれほどの威力を発揮できたのは昨日の試射の時のある発言が原因であった。

 

 銃のフレームを作るのに十数回、撃鉄の保持や引き金を引いた際に他のパーツと連動させるためのバネの製造に数百回、実際に撃ってみては弾道や威力からライフリングを修正することこれまた数百回、暴発もせずにちゃんと飛ぶ弾丸を作るのに千回近く、内二回は火薬の詰め過ぎによる爆発事故を経てようやくタウル鉱石製の試作品のリボルバーが完成した。

 

 そこでブラッシュアップのためのデータ取りも兼ねてメルドらの前で試射を行い、成果を披露した。今回のように的代わりに壁にかけた二尾狼の皮を貫くことが出来、メルドからも『これほどの速さと威力なら納得だ。早速使ってくれ』と及第点をもらうことが出来たのだ。

 

 しかしここで恵里の待ったがかかったのである。やっぱり記憶の通りじゃない、と述べてきたのだ。曰く、『もっとすごい音を出して、破壊力だってこんなチンケなものじゃなかった』と。

 

 とはいえこうして撃った段階で地球のそれと大差ないようにメルド以外の面々からは思われており、こうして食い下がる恵里を見て不思議がっていた。ここまでの威力が出てるんだしこれ以上はもう大砲の類ではないか、と光輝や幸利が考える中、昔からずっと恵里と親しくしていたハジメと鈴は彼女に色々と聞き取りをすることに。

 

『それじゃあ武器の形状とか大きさはどんな感じだったか思い出せる? もしかすると使ってた武器が違ったのかもしれないし』

 

『えっと……武器の大きさも形状も今のより一回りぐらい大きかった気がするぐらいで、変わったところはないはずだよ……でも、でも……何かが違うんだ。信じてよ』

 

 何とも煮え切らない答えであり、不安に揺れる彼女を見て『やっぱり記憶違いなんじゃ……』と誰もが思う中、鈴があることを尋ねる。

 

『うーん……じゃあもう何でもいいから特徴的なものとか思い出せないかな? もう、この際ちょっとデザインが違ってたとかそういうのでいいから』

 

 そう尋ねた鈴に恵里は必死に記憶を漁り、何度となくうんうん唸りながらあることを思い出した。

 

『うぅ……えーと、えーと……あっ、そうだ。そういえば前世のハジメくんが今みたいな髪の毛と目をした状態でオルクス大迷宮に来た時、何か“纏雷”みたいな紅い電気がパイルバンカーみたいな兵器からバチバチいってたような……確か、そんな気がする』

 

『へぇ、恵里の前世でも使ってたのかもな“纏雷”は――んじゃいっそ帯電でもさせたらどうだ? 電気のパワーで馬鹿みたいに強くなるかもな』

 

 そして関係あるのかどうかわからない記憶を掘り起こして伝えると、幸利が冗談めかしてそんなことを言った。他の皆も『あー、そうかも』といった程度で真剣に受け取ることなく結局何が違ったのやらと言い合っていた――未だうんうん言っている恵里と製作者であるハジメ以外は。

 

『ありがとう幸利君、おかげでわかった!』

 

 その一言で全てが拓けた。

 

 ハジメはすぐに“纏雷”を使って電気をタウル鉱石製のリボルバーに帯びさせ、まだ撤去していなかった的に銃口を向け、引き金を引く――その瞬間、けたたましい音と共にリボルバーがひしゃげ、的を軽々と貫通して風穴を作っていた。それも向こう側の通路の壁にかなり深い亀裂を残して。

 

 ここで銃製作に携わっていた四人はあることを思いついた――もっと丈夫に作ればこれを十全に扱えるのでは、と。そこからはさらなる試行錯誤の嵐であった。

 

 元は中折れ式であったリボルバーの装填方法をスイングアウトに変え、また発射の際に銃本体が耐えられるよう一回り大きく再設計し、果ては銃弾そのものの大きさまでどうするか等々、それを話し合いやら作業やら魔法を使うやらで段々とハイになっていったハジメら銃製作チームが暴走し、一晩かけて壊れたリボルバーを土台にして様々な改良を加えていったのである。そうして出来上がったのが今のハジメが持つ代物であった。

 

「……ドンナー。うん、ドンナーにしよう」

 

「? どうかしたのハジメくん?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

 この場にいる全員にもみくちゃにされながらハジメは自分に出来た新たな相棒にひそかに名前を付けた――奇しくもそれは彼が辿るはずであった未来でつけたのと同じドイツ語で“雷”を意味する名を。

 

 非力な錬成師である自分が作った武器を握りしめながら、ハジメもまた馬鹿騒ぎに興じるのであった。

 

 

 

 

 

「いたぞ。あそこの曲がり角だ」

 

 あの試射の後、ハジメが銃弾と()()()()を作るのに小一時間かけ、そうして準備をしてから恵里達は魔物を狩りに向かった。

 

 その際浩介を先行させて爪熊がいないかを確認しつつ、現れた魔物相手に試し撃ちをしては肉片に変えながら進んでいた。そしてつい先ほど、浩介がその爪熊を見つけたのである。

 

「さっき蹴りウサギと戦ってるとこを見たけどよ、マジで雫が言った通りだった。あの蹴りウサギがアッサリ真っ二つにされちまってた……正面からやりあうのは駄目だ。確実に死ぬ」

 

 その怯えようは尋常でなく、それを見た全員に緊張が走る。恵里の杖を握る手も自然と強くなっていた。

 

「そうか……ハジメ、その銃だったら当てれば奴を殺せるんだろう?」

 

「はい……ですけど、当たるかどうか」

 

 メルドから改めて問いかけられたハジメはある懸念を口にする。銃の命中率のことである。

 

 ついこの間まで実銃をマトモに扱ったことがないハジメは、ステータスが常人を超えたことでドンナーを撃った際の反動にもかろうじて耐えられはするものの、狙いそのものが甘く、常にちゃんと当てているという訳ではなかった。

 

 試し撃ちの時や鈴や香織から“縛印”で動きを止めてくれた場合であれば、ちゃんと時間をかけた上で引き金を引けるからそこまで狂いはしなかったものの、動き回る相手となるとやはり話は別で、ちゃんと当てることすら難しかったのである。尤も、それであっても今のところ四肢のいずれかに当たっているため、十分貢献は出来ていたりするのだが。

 

「なぁハジメ、確か残りの弾は……」

 

「えっと……予備含めてまだ九発。余裕ならまだあるよ」

 

 本当に一発でも当てることが出来るのだろうかと思い、ふと残弾が気になった幸利にハジメは笑みを浮かべながらそう返した。が、それもどこかぎこちないもので、ハジメもまた勝てるかどうか不安になっていた。

 

「……あんま気負うなよ、ハジメ。俺達が初めて相手するから緊張するってのはわかる。だけどな、ブルってたって何にもならねぇぞ。こういう時はな、当たって砕けろでいっちまえばいいんだ」

 

「ちょっと龍太郎くん、それ冗談にならないよ……とりあえず私と鈴ちゃんで“縛印”で拘束出来るかもしれないし、最悪“聖壁”を張れるからそれで皆を守ってみせるよ」

 

 ハジメの緊張をどうにかしようと声をかけた龍太郎であったが、すぐさま香織からツッコミを受けて『やべっ』と苦笑いを浮かべた。その香織も一度ため息を吐くと、体を小刻みに震わせながらも安心させるべく声をかけてきた。

 

「香織……うん、大丈夫。鈴だっているし、皆がいるんだよ。勝てるよ。だって、元の未来だったらハジメくんが一人で勝ってるんだもの」

 

 そして鈴も怯えながらもどうにか元気づけようとしてくれ、ハジメは自身の胸が温かくなるような心地であった。そこで恵里もハジメの手を握り、メルドの方も声をかけてきた。

 

「大丈夫。ボクだって“縛魂”や“堕識”が詠唱なしで使えるんだし、むしろ勝ち目しか見えないって――ボクを、皆を信じて」

 

「そうだぞ。強敵との戦闘で不安になるのは当然のことだ。だが、何もしなければ進めないのならまずその怯えに勝て。お前のしてきたことは決して無駄じゃないぞ、ハジメ」

 

 恵里の励ましに、メルドの言葉にハジメは勇気づけられた。見れば誰もが自分を見ており、ハジメは力強くうなずくと、一度自分の両頬を叩いて気合を入れなおしてから全員に声をかけた。

 

「……ありがとう、皆。じゃあ確実に仕留めるためにやれることをやろう。まずは――」

 

 ハジメが声をかけると同時に各々が爪熊討伐のために練った作戦を改めて確認する。そして――。

 

「――じゃあまずは僕から。いくよ」

 

 既に蹴りウサギを食べ終え、どこか別の場所へと向かった爪熊を追い、目測で十メートルの距離まで()()全員が近づけば、あちらも気づいたのかこちら側を振り向いた。そこですかさずハジメは針金で作った簡易のホルスターからドンナーを抜き、素早く構える。

 

 ドパンッ!

 

「――グルォオオオォ!!」

 

 耳をつんざくけたたましい音と共に放たれた超音速の弾丸――それを爪熊はすんでのところで避けるものの、左肩をえぐられ、悶絶しながらもこちらへと向かってきていた。

 

「ハジメは第二射の準備を! 谷口! 白崎!」

 

「「はい!――“縛印”!」」

 

 自身に傷をつけた眼前の相手に激昂しつつ、爪熊は馬と大差ない速さでこちらへと迫ってくる。

 

「グルゥゥウゥァアアァ!!」

 

 メルドの指示を受けた鈴と香織はすぐさま“縛印”を発動して爪熊の前方に無数の光の鎖を張り巡らせ、わずかでも動きを止めようとする。しかしその途端、爪熊は後ろ足に力をこめ、跳躍する。

 

「嘘だろ、普通に切り裂きやがった!!」

 

 飛び掛かったことで自由になった前足の一撃で容易く鎖の結界は破壊されて霧散していく。そしてうまく着地すると同時に勢いをほとんど殺すことなく、こちら側へとまた走り出した。

 

 ドパンッ!

 

「“水球”、“水球”だ! ひたすら撃てぇー!!」

 

 だが鈴達が“縛印”の発動を終えると同時に構えていた龍太郎、幸利、メルドがひたすら“水球”を地面めがけて放ち続け、ハジメもまたレールガンを爪熊へと叩き込もうとする。

 

「このままじゃ――“聖壁”!!」

 

「うん、そうだね鈴ちゃん――“聖壁”!!」

 

 電磁加速した弾丸を避け、浅く体毛をなでただけで終わったのを見るや否や、鈴と香織は“聖壁”を自分達の三メートル手前――爪熊とは目と鼻の先の場所へと張った。それを見た爪熊は一度ブレーキをかけようとするも、“水球”で濡れた地面に足をとられ、そのまま光の壁にぶつかりそうになる。

 

「グルゥアァァ!!」

 

 だが爪熊は焦った様子も見せずに即座に両腕を上げる。自慢の六本の爪がわずかに歪んでいるように見えたのもつかの間、振り下ろすと同時に二枚の“聖壁”をいとも簡単に切り裂いた――恵里達は知る由もなかったが、これが爪熊の持つ固有魔法“風爪”である。爪に風の刃を宿し、最大三十センチ先まで伸びるそれの破壊力は光属性の中級結界魔法すらも易々(やすやす)と切り裂く。

 

「メルドさん!!」

 

「あぁ、今だ!!」

 

 だが、恵里達からすればそれで構わなかった。十分、()()()()()()のだから。

 

「叩き込め――“纏雷”!!」

 

「グォオォオォォオォン!?」

 

 そしてこの場にいた()()以外の全員が濡れた地面に手をつき、“纏雷”で爪熊目掛けて電気を流し込んでいく。そのまま感電死させる勢いで七筋の深紅の稲妻を走らせていった。

 

「ルグゥウウゥ……」

 

「これでまだ生きてんのかよ……ホントしぶといったらありゃしねぇ、なぁ!!」

 

 ――そして通路の天井にて、“空力”で作った足場に足を引っかけ、片手でしがみつきながらぶら下がっていた浩介は、あるものを抱え直してから不可視の足場を思いっきり蹴った。

 

 加速しながら落下する浩介が持っていたのは直径三十センチ、全長約三メートルのタウル鉱石製の巨大な杭。ハジメ謹製の凶悪な代物であった。

 

「グゥ……ヴォ?」

 

 上という死角から来た存在にようやく爪熊も気づくももう遅い、既に次の手は打たれていた。

 

「“堕識”ぃ!!」

 

 “縛魂”ではギリギリ射程圏外であったために仕方なく使った恵里の魔法は爪熊の意識を見事刈り取る。そうして無防備になってしまった獲物の末路は決まっていた。

 

「くらいやがれぇえぇぇぇえぇ!!」

 

 すさまじい勢いで一緒に落下してきた杭を浩介が投げつければ、それは簡単に爪熊の背中を貫き、見事に地面へと縫い留めることに成功した。そして浩介も地面にぶつかる前に体を半回転させて仰向けになり、“空力”で足場を作って横っ飛びして落下の勢いを殺していく。そうして空を何度か駆け抜けると、バク転と共に地面へと無事に降り立った。

 

「グ、ゥウウゥゥ……」

 

 しかしまだ爪熊は息があった。尋常でない雷撃を浴び、体を巨大な杭で貫かれながらも、まだ生きようという執念が命を繋ぎ留めていたのだ。爪の先を風の刃で包み、目の前の()を殺さんと爪熊はその腕を上げようとする。

 

「残念だけどこれで終わりだよ」

 

 爪熊が腕を上げきると同時にハジメの構えたドンナーから必殺の弾丸が放たれる。その一撃は吸い込まれるように爪熊の眉間へと向かい――その頭を弾けさせた。

 

 頭の上半分が吹き飛ぶと同時に爪に纏っていた風の刃も消え失せ、振り上げていた手もボトリと力なく地面に落ちた。

 

「……勝った」

 

 誰からともなくつぶやいた言葉に、一同は顔を見合わせ、目の前の相手を確認する……そして見るも無残な死体となって、相手がもう動かなくなったことを飲み込めた時、全員が勝利を実感出来た。自分達はこの脅威を打破できたのだ、と。絶対に勝てない相手ではなかったのだ、と。

 

「勝てた……」

 

「勝てたよ……勝てたんだ!!」

 

「やった! やったな皆ぁ!!」

 

「今回のMVP浩介じゃねぇ!? あれマジでカッコよかったぞ!!」

 

「いやー……そうベタ褒めされると本気で恥ずいっていうかなんて言うか……フッ、奴もまた深淵に呑まれたということだ、ってか?」

 

「……っとと、茶化している場合じゃないぞ清水、遠藤! お前ら、今すぐ拠点に戻るぞ!! 全員消耗しているだろうし、この後の戦闘も厳しいだろうしな! 俺が許す! 馬鹿騒ぎは戻ってからだ!!」

 

 メルドの言葉で浮かれていた恵里達は我に返り、すぐさま曳いてきたソリに爪熊の死体を載せ、急ぎ拠点へと戻っていった。しかしその足取りは軽く、向かう皆の顔はほころんでいた――。

 

 

 

 

 

「――ってことがあってな。いやー、マジで俺ら頑張ったんだよ。んで個人的なMVPは浩介」

 

「いやー、ハハ……照れるなぁ」

 

 そして現在、戻ってきた光輝達の分の魔物も調理を終え、迎えた食事の席で幸利がひどく上機嫌になりながら爪熊との戦いを彼らに光輝達に語っていたところであった。激闘を制した恵里達には称賛の眼差しが向けられ、こそばゆいながらも誰もが誇らし気にしていた。

 

「流石だな、皆。俺達もそれにあやかりたいところだよ……っと、まずはこっちの方にしようか。美味いしくいただかせてもらうよ、皆」

 

「うん、まずは食べてからにしようよ。その後光輝君達の方ももう一度話し合おう」

 

 光輝はハジメ達をうらやみながらも称賛し、いつか自分達もと思いながらも焼いた肉に口をつけていく。祝いの席で気を引き締めるのはあまりに無粋なのはわかっていたからだ。ハジメも光輝の考えていることに理解を示しつつ、『そこのお肉焼けたよ』と指をさしてあげた。

 

 また焦げた肉を自分が始末しようとした際に光輝と『自分が食べる』と言い合って軽く喧嘩にもなったりしたため、ハジメにそんなものを食べさせる訳にはいかない、と恵里がこっそり食べたことでまた揉めたりした。

 

「本当に……本当にすごいわね、鈴達は。私は怖くて仕方なかったのに、こうやって倒しちゃったんだもの」

 

「雫達だってきっと出来るよ。鈴達よりも人数が多いんだし、上手いやり方を見つければきっと大丈夫。それに、雫には光輝君や優花達がいるでしょ? ね?」

 

 偉業を成した親友達を称賛しながら肉に箸を伸ばす雫に、鈴は励ましの言葉をかけながら爪熊の心臓を食べていた。

 

 奈落での生活が始まった時こそ食指が伸びなかったものの、覚悟を決めて箸を伸ばし、また解体作業で色々と慣れてしまったこともあってか、今は単なる珍味程度のものとして鈴は内臓を食べている。

 

「カオ、お疲れ様。ちゃんと戦えたじゃない。ハジメの役にも立ってたんだし、自身持ちなさいよ」

 

「そう、かな……だといいんだけど。龍太郎くんにも頑張ったな、って褒めてもらったし……えへへ」

 

「……ふふ、やっと香織っちも恋人としての自覚が出てきたかな」

 

「そうだねぇ~。龍太郎もかわいそうだったしねぇ~」

 

 少し自信なさげであった香織は逆に優花達に励まされていた。“縛印”も“聖壁”もアッサリと砕かれ、実際に役に立てたと思えたのは“纏雷”による感電のみ。目に見えた成果がない分少し不安ではあったものの、調理の時にかけてもらった龍太郎の言葉や今の優花の言葉で自信がついた。

 

 龍太郎に声をかけてもらった時のことを思い出してにへら~としている香織を見て、奈々と妙子は安堵した様子を見せていた。

 

「流石に坂上もアイツ相手に殴り合いは無理だったか」

 

「ムリだなありゃ。香織と鈴の“聖壁”すら簡単にぶっ壊しちまう奴なんだぞ。ハジメが使ってた盾で立ち塞がっても三枚おろしにされちまうよ」

 

「そんなもんなのかぁ……もう先生の盾、焼肉プレートにでも変えた方が役に立つんじゃ――!?」

 

 そして龍太郎が大介らと爪熊相手に正面からの戦闘をやれたかどうかを話し合ってた際、全員の身に懐かしい異変が起きた――最初に魔物の肉を食べた時と似たような激痛と脈動が彼らを襲ったのである。

 

「し、神水を……!」

 

 この中で痛みにまだ強かった恵里がそうつぶやくと、すぐさま全員がポケットなどに入れていた神水入りの試験管の端を歯で砕いて中身を飲み干していく。やはりこの手の痛みには全く効果がなく、全員がうずくまり、持っていた箸やフォークをへし折りながらも痛みに耐えようと必死になった。

 

「なん、で……どうしてなの……!?」

 

「た、祟りよ……!」

 

「つ、爪熊の、祟り……!」

 

 実際は爪熊の肉から取り込む力が二尾狼や蹴りウサギのそれとは別格であったため、取り込む際に大きな痛みが発生したというのが真相だったりする。だが、それが思い至らない彼らの脳裏には、もっと別の何か――お化けや怨念といったものが浮かんでしまったのである。

 

「し、死んでまで、迷惑かけやがって……くそったれぇ!!」

 

「こんの……せん、せぇ!! 悪霊を、クソ亡霊をなんとかする道具、作ってくれぇ!!」

 

「無理、言わないでぇ……! 専門外だよぉ……!!」

 

 ……かくして、次の階層に進むまでの間、今回の事件は『爪熊の祟り事件』と称されることとなった。全員の爪熊へのヘイトが上がったのは言うまでもない。とんだとばっちりもいいところであった。




爪熊くんかわいそう(他人事)
いやー、ようやく爪熊討伐までこれました……これで書きたいエピソードの一つがやっと手をつけられます。いやー、次の投稿がクッソ楽しみ。wktkでございます。
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