あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは拙作を読んでくださる皆様に惜しみない感謝を。
おかげさまでUAも93991、お気に入り件数も677件、感想数も252件(2022/3/28 22:08現在)になりました。誠にありがとうございます。久々に日刊ランキングにも入りましたしありがたい限りです。

そしてAitoyukiさん、宮狐 狐蝶さん、yushiyoさん、拙作を評価及び再評価していただき本当にありがとうございます。同じ文句ばかりで申し訳ないですが、こうして皆様に評価していただけるのは励みになります。ありがたい限りです。

今回長く(約15000字)なりました(白目) そのことに注意して本編をどうぞ。


三十九話 積み重ねたものの重み(後編)

「……よし。合図をしたら皆で一斉攻撃だ。中野、斎藤、準備はいいか?」

 

 ハジメ達が爪熊を討伐してから三日。既に一つの班で十分に食料を確保できるようになってから朝昼とローテーションを組んでおり、昼食を担当することになった光輝達の班は今十五頭ほどの死体の載ったソリを引きずりながら、雫が偶然見つけた爪熊の後を追っていた。

 

「任せな。とっくに出来てらぁ」

 

「おうよ。お前こそしくじんなよ天之河」

 

 久々に自分達の班と合流した大介ら四人の内、緊張しながらも軽口を叩く余裕のある信治と良樹を見て、少し笑みをこぼした光輝は通路の先にいるターゲットである爪熊に視線を向ける。

 

 『ハジメ達がやったんだから自分達も』と一念発起して倒そうと考えており、そのための方法も()()も既にハジメ達と話し合い、しっかりと用意していた。

 

 今その爪熊はスンスンと何かを嗅ぎ取るような動きをしており、おそらく自分達を探しているのだろうとあたりをつけると、不意に爪熊がこちらの方を向く。

 

「――皆、構えろ! 手筈通りにやればきっと勝てる! 全員、目をつぶれ!!」

 

 光輝はポケットから取り出したものに軽く“纏雷”で電気を流してやり、それを爪熊の方へと投げ飛ばす。

 

 見つけた獲物を喰らわんとばかりにこちらへと駆け出そうとした爪熊だったが、足元に転がった物体に気付いた途端、そこから強烈な光が放たれた。ハジメ謹製“閃光手榴弾”である。

 

 原理は単純だ。緑光石に魔力を限界ギリギリまで流し込み、光が漏れないように表面を薄くコーティングする。更に中心部に燃焼石を砕いた燃焼粉を圧縮して仕込み、その中心部から導火線のように燃焼粉を表面まで繋げる。

 

 後は〝纏雷〟で表に出ている燃焼粉に着火すれば圧縮してない部分がゆっくり燃え上がり、中心部に到達すると爆発。臨界まで光を溜め込んだ緑光石が砕けて強烈な光を発するというわけである。ちなみに、発火から爆発までは三秒に調整してある。とある物を作るかたわら光輝達のために苦労して作った代物であった。

 

 当然、そんな兵器など知らない爪熊はモロにその閃光を見てしまい一時的に視力を失った。両腕をめちゃくちゃに振り回しながら、咆哮を上げもがく。何も見えないという異常事態にパニックになっているようだ。

 

「――よし、収まったな! 皆いくぞ “海炎”!!」

 

 そして閃光手榴弾の放った光が収まると同時に全員が武器を構え、光輝と信治は炎の津波を起こす炎系中級魔法“海炎”を、良樹はもの凄い突風を起こす風系中級魔法“風灘(かぜなだ)”を発動。

 

 他の皆も炎と風の初級、中級問わず魔法を連打していき、全員で灼熱地獄を再現したものを爪熊へと叩き込んでいく。

 

「グルゥアアアァァァアァ!?」

 

 良樹の起こした突風や他の皆が発動した風属性の魔法によって威力も速度も増した炎の津波や燃え盛る礫、槍などがあっという間に爪熊を火だるまにしていく。体毛も焦げ、皮膚も焼け(ただ)れてのたうち回っている。だが傍目から見ても苦しそうな爪熊相手に誰も攻撃の手は緩めはしなかった。

 

「奈々、頼む!」

 

「了解!――“辻波”!」

 

「ガゥウゥウ!? グァアアァアァ!!」

 

 その次は奈々が発動した水系中級魔法“辻波”で鉄砲水を発生させ、辺り一面を水浸しにしていく。全身に大火傷を負った爪熊はいきなり出てきた水に触れたことで体中に激痛が走り、悲鳴を上げながら一層暴れ狂っている。

 

「よし、全員いくぞ――“纏雷”!」

 

「グギャォオォォオォォォ!?」

 

 そして濡れた地面に全員が手を押し当てると同時に深紅の電流で爪熊を丸焦げにしていく。情け容赦のない攻撃の連続を次々と打ち込まれたことで狂ったように悲鳴を上げるものの、爪熊はもがくように“風爪”を発動していた。

 

「ったく、ホントに化け物だなアイツは!!」

 

「ホントね……ハジメ達が立ててくれた作戦通りじゃなきゃ確実に死んでたわ……!」

 

 距離こそ離れているため一切当たらないものの、ここまで攻撃を受けていてもなお耐えきる生命力と相手を仕留めんとする意志にはこの場にいた誰もが戦慄していた。やはり奈落の魔物相手に油断など出来ない、と。

 

「作戦変更! ここは俺が仕留める――“天翔閃”!」

 

 本来ならこの後前衛組が一斉にかかって仕留める算段だったのだが、未だ爪熊が狂ったように“風爪”を発動しており、どうにもならないと判断した光輝はすぐさま“天翔閃”を発動する。

 

「グォオォオォォ!!――ォ、ォォ……」

 

 聖剣から放たれた光の斬撃は一切の慈悲なく爪熊を両断し、振り回していた腕も一本は切り離されて宙を舞った。白かった体毛も黒と血の赤に染まり、爪熊の瞳からは急速に光が失われていく。振り回していた腕もそのまま力なく地面へと落ちる。その様を見て誰もが勝利を確信した。

 

「……やった。やったぞ皆! 俺達は勝ったんだ!!」

 

 光輝が勝鬨(かちどき)を上げれば、全員がそれに返すように雄叫びを上げる。

 

 ドンナーという規格外の武器がなくとも勝てる。自分達でもこんな強かった奈落の魔物を倒せるんだと確信する。神殿騎士、神の使徒、最初に相対した時の奈落の魔物によって傷つけられた自信が癒された彼らは、毛皮が少しもったいなかったことを互いに話し合いながらも爪熊の死体をソリに積み込み、拠点へと戻っていく。

 

 道中二尾狼や蹴りウサギはとエンカウントしながらも、先の戦闘で得た自信、そしてここ最近培った慎重さを軸に油断せず的確に対処していた。無論楽な相手ではなかったものの、それでも彼らの顔に陰りは一切見られなかった。

 

「ただいま戻りました――皆ー、今回の分を受け取ってくれー!」

 

「ん、戻ったか――その顔、遂にやったんだな」

 

「はい! 俺達でも爪熊に勝てました!! 俺達もやれたんです!!」

 

 そして拠点に戻った光輝達はすぐさま穴を塞ぎ、既に調理に移っていた恵里や鈴らに今回の成果を渡しに行こうとしたところ、出迎えに来てくれたメルドが自分達の顔を見るや否や、察してくれた。それに誰もが喜ぶのを止められず、光輝が代表して戦果を伝えると、メルドも満足そうな顔でうなずく。

 

「――ホントだ。爪熊の死体がある!」

 

「おいおいマジかよ!――よし、皆、ここらで光輝達の勝利を祝ってパーっとやっちまわないか!」

 

 その声を聞きつけて調理していた恵里達や、作業をしていたハジメ達もその場に集まり、幸利が祝勝会を提案するとすぐにそれを開く流れとなった。無論メインは光輝達が頑張って狩った爪熊の肉と内臓だ。ただ、遠慮なく魔法で焼き焦がしたり、光輝が“天翔閃”でバッサリといってしまった分、食べれる箇所は減ってしまっていたが。

 

 特に酷いのが内臓で、傷ついていたり、胆のうが破れて胆汁がしみ込んだせいで臭くなってるのが多数であった。だが食べれる箇所が皆無ではなかったのでそれでも全員のテンションは十分に高かった……のだが。

 

「ダメッ! 絶対に駄目よイナバちゃん! いくら何でも()()肉だけは食べちゃ駄目!!」

 

「キュゥウウゥゥゥ!!」

 

 その廃棄しようとした爪熊の肉を腹を空かせた様子の蹴りウサギことイナバ――前世? で恵里が鈴と対峙した際、連れていた蹴りウサギと思しき生物と同じ名前から採用しており、皆から受け入れられてたりする――が何としても食べようと雫の腕の中で必死に暴れていたのだ。

 

 雫もまたこんな危ないものを絶対に食べさすまいと調理の手を止め、全力で抑え込んでいるものの、今にもイナバが抜け出しそうになっていた。

 

「恵里、お願い! イナバちゃんを止めて!! あなただったら出来るでしょ!?」

 

「あー、うん。流石に廃棄したものを食べさせるのはねぇ……臭くなるし、うん。とりあえず暴れないの。別のを食べさせてあげるから」

 

「キュ……キュゥ」

 

 そこで恵里は雫からのお願いもあり、すぐさまイナバに指示してやるとあっさりともがくのを止めた。そこでふと恵里はイナバの様子を見てあることを思いついた。

 

(……そういえば前世の鈴も蹴りウサギをエヒトの根城に連れてきてたっけ。でもあの時の強さとここにいる蹴りウサギの強さって全然違うしなぁ。突然変異か、それとも――)

 

 ――自分達と同様、魔物の肉を食べて強くでもなったか。

 

 そこでふと()()をしてみたくなったものの、目に入れても痛くないぐらいにイナバを可愛がっている雫のことを考えて少し罪悪感が湧いた。

 

「よし、これで大丈夫……あ、でもお腹すいてるからこんなことしたんだろうし――はい。お食べ」

 

 ()()まだいいか、と結論付けた恵里は焼けた二尾狼の肉を箸でとって食べさせてやることに。息を何度か吹きかけて冷ましてやってから口元まで持っていけば勢いよく食べ始めた。そんな様子に雫と一緒に癒されながらイナバの頭を撫でてやった。

 

「良かったぁ……ねぇ恵里、今イナバちゃんに食べさせたのって――」

 

「うん。二尾狼の肉だよ。美味しい?」

 

「キュ!」

 

 物欲しそうな顔をしたイナバに見つめられ、仕方ないなぁと思いながらも焼けた肉をもう何切れか食わせてやることに。ただ、それでもおかわりを要求するように見つめてきたため、『これ以上はご飯の時にね。はい我慢』と言っておあずけにさせるのであった。

 

「……癒されるわね」

 

「うん。本当にそうだね」

 

 そしてそんなイナバと雫の様子を見て他の女子~ズも癒されていた。イナバのことで一喜一憂する雫もまた、なんだかんだで彼女たちに密かに愛でられていることを当人は知らない。

 

 

 

 

 

 

「――うん、やっぱり光輝君達はすごいや。危なげなく勝っちゃうんだもの」

 

 そして始まった祝勝会にて、いつぞやの時とは逆に光輝達の話に耳を傾けていたハジメは純粋な賞賛を彼らに贈った。すると光輝は一度恥ずかしげに目をそらし、賞賛してくれたハジメに言葉を返す。

 

「いや、それもハジメが俺達のために作戦を発案してくれたり、それを恵里やメルドさんが色々と手を加えてくれたおかげだよ。それを抜きにして語れないさ」

 

 『最初はやり過ぎだ、と思ったけど』と苦笑しながら光輝がそう付け加えると、彼の班の仲間達が『確かに』と釣られて苦笑いを浮かべた。

 

 今回光輝達が実行した作戦は、ハジメ達が最初に爪熊と戦った時の作戦を反省すると共に光輝達ならどうやったら勝てるかを考え、練りに練ったものであった。

 

 この作戦を聞いた当初は『尋常じゃないまでの殺意にあふれすぎている』と光輝達の班の皆が思っており、誰もがドン引きしていた。しかしあのドンナーの一撃でさえも平気で避けたことや、七人がかりで感電させたり、タウル鉱石製の巨大な杭で体を貫かれても即死しなかったことなどを聞いたことで自分達の認識の甘さを理解したのである。そこまでやってもなお、爪熊は必死になってハジメ達を殺しにかかってきたのだ、と。

 

 そのため自分達も生き残るためには手段を選んではいられないと考えるようになり、来たる爪熊との遭遇に際して全員綿密に話し合い、練習をして臨んだのである。今となっては感謝以外の感情が浮かばないと誰もが思っていた。

 

「それでも、だよ。皆が持ってるチートスペックを十分引き出せたからこそ誰もケガしないで済んだんだ。それは誇っていいんじゃないかな?」

 

「……敵わないわ、ハジメ君には」

 

 そう苦笑しながら雫が言えば誰もがそれにうなずき、どっと笑いが起こる。話し合いは終始和やかな雰囲気が続き、誰もがとりとめのない話をしていると、ふとあることが気にかかった大介はハジメに問いかける。

 

「な、なぁ先生……()()、出来たのか? いや、その……仕上げの段階で俺ら狩りに行っただろ? だからもう出来たかどうかわかんなくってよ……」

 

 切羽詰まった表情で大介はハジメに頼み込んでいた。今回光輝達の班に組み込まれたことで自分達が作っていたものが完成したかどうかがわからなかったからだ。叶うことならば自分達の手で完成させ、いの一番に使おうと思っていたぐらいなのだが、完成の目途が立ったせいで大介達は狩りの班に戻されてしまったのだ。そのため四人ともメルドを心底恨みつつも、戻ってくるのが楽しみで楽しみで仕方なかったのである。

 

「あぁ、()()ね……ふふふ」

 

 話を切り出した大介と礼一らの様子を見たハジメは不敵な笑みを浮かべた。普段なら絶対浮かべないであろう彼の表情を見て製作に関わっていたメンバー以外が驚き、戦慄する。まさかもう出来ていたのか、と期待と不安がないまぜとなり、ハジメがそのことを話してくれるかを今か今かと待っていた。

 

「大丈夫、僕の手でしっかり完成させたよ――出来はちょっと不安だけれど、大介君達も光輝君達も満足させられると思う」

 

 ニィ、と犬歯を見せつけると、ハジメはすぐさま部屋の隅で四方を岩で覆っていたスペースへと全員を連れていく。くつくつと普段の彼ならしないような笑い方や勿体ぶり方に恵里達や大介らが『これだからハジメくん/先生は』と呆れつつ、光輝達はそれに加えてとてつもない期待を寄せていた。きっと、きっとやってくれたんだ、と。

 

「それじゃあ光輝君達にお披露目といこうか――これが僕達、渾身の作だぁーーー!!!」

 

 岩に手を突き、“錬成”で壁をスライドさせたことで現れたのは白一色に染まった物体――レザーベッドと革張りのソファーである!!!……その威容に光輝達は度肝を抜かれた。期待通りのものが今目の前にあることに感動して涙が止まらず、雫や優花達は嗚咽を漏らしていた。

 

「本当に……本当に出来たのね」

 

「うん、そうだよ優花さん――ありがとう信治君。信治君が言ってくれなかったらこれは生まれなかったから」

 

 得意げになっている信治にこの場にいた誰もが感謝を述べる。お前がとんでもないワガママを言ってくれたおかげで自分達はそれを享受することが出来た、と。呆れ半分に言ったり茶化すようなものが大半であったが、それでも誰もが彼には感謝していた。

 

 ……事の始まりはなめしについての話を切り出した後のことである。

 

 なめしに必要な材料は既に幾らか確保しており、またハジメの新たな派生技能である“鉱物系探査”により作業に必要な材料も探し出せると話したことで場が大いに盛り上がった。これでようやく寝るのがマシになる。そう誰もが思っていた矢先、信治がとんでもないことを言い出したのだ――頼むから先生ベッド作ってくれねぇ? と。

 

 これには誰もが大いに呆れ、その一言のせいでベッドが恋しくなってしまったほぼ全員が殺意のこもった眼差しを信治に向けたのである。短く悲鳴を上げた信治はそのまま腰を落として後ずさった。

 

『お、俺はただ、先生なら作れると思っただけで……わ、悪気はなかったんだよぉ!!』

 

 自業自得である。

 

 そこで本当に作れるか真剣に考えていたハジメであったが、どうやればいいのか具体的な考えが思いつかず、『ごめんね信治君、ちょっと僕でも無理かも』と返したのだが、ここで信治は折れなかった。

 

『で、でもよ! 確か銃作る時にバネをいっぱい作ってたって聞いたぜ!! さ、さっきのなめしの話を聞いた時、バネのきいたマットレスなんかも作っちまえるんじゃないかって思ったんだよ!!』

 

 ――その瞬間、誰もが電撃に打たれたかのような心地となった。

 

 バネを複数作って並べ、それをなめした革で覆えば作れるのではないか、と。ハジメは更に一歩踏み込み、バネを複数並べただけだと、寝返りを打った拍子にバネが動いて絡まる可能性があるからバネも一つ一つ包んでしまって、それをいくつも並べて革で包めば立派なマットレスになるのではないか、と。フレームに関しては金属で十分事足りる。ならば後は実践するだけ――そう結論付けたハジメは信治の手を取り、感謝を伝える。

 

『ありがとう信治君。おかげで前言撤回出来るよ――皆、ベッドで寝たくない? 僕は寝たい。正直背中とお尻が痛くて辛いからね……そこで、皆が手伝ってくれると僕もすごい助かるんだけど、やってくれる?』

 

 ……その時ハジメが浮かべたゾッとするような笑みを誰もが今も忘れられなかった。恵里ですらあの顔をしたハジメには敵わないと心の底から思ったのである。あれは悪魔の笑みだ、と。絶対に逃す気のない奴が浮かべる笑みであった、と。

 

 そこから先は銃作り以上にヤバかった。まずは革の用意。これが無ければバネもマットレスもフレームであっても包めない。それにバネに関しては自分じゃなければ作れないため、革は他の誰かに作ってもらう必要があった。そこでなめしに関する知識のあった鈴とやり方を再度確認し合い、その後言いだしっぺである信治を含めた大介ら四人に白羽の矢が立ったのである。

 

 彼らもベッドが作れるなら何でもやる、と息巻いて必死にやり方を覚え、皮についた皮脂などをこそげ落とすなどといった面倒な作業も黙々とやった。全ては理想のベッドのため。メルドからも狩りの免除を許してもらったこともあって、鈴と一緒に全力でなめし作業をやっていたのだ。

 

 一方、ハジメもバネ作りを気が遠くなるような程の試行回数を繰り返し、何度も何度も作っていた。革で包むことを考えると弾力はどれぐらいにした方がいいのかを常に考え続け、いくつもサンプルを作ってはひたすら試し、時には恵里や鈴、大介達に実際に試作したマットレスに寝っ転がってもらって調整を繰り返した。その回数は千を優に超えた。

 

「正直ドンナーを作る時以上に苦労したし、しんどかったよ……流石にそこまでの知識はなかったから。でもね、でもこうして出来たんだ」

 

 だがその結果、こうしてダブルサイズのベッドが完成したのだ。血のにじむような努力の果てに、『どうせだしソファーも作ろう』と自分から言ったことで余計に苦労を背負い込む羽目になりながらもハジメは見事に成し遂げたのである!!

 

「本当に苦労したよ……素人なりに各場所に使うスプリングの固さとかを色々変えてみたり、ちゃんと革を糸で縫い合わせたかったけれどリュックに入ってる糸は服の補修程度のものしかないから無駄遣い出来ないし、だから必要最低限の箇所以外は仕方なく針金を使ったりしたし、結構継ぎ接ぎだらけだから座り心地も寝心地も地球の家具屋とかに置かれてたのとかお城やホルアドの宿屋にあったベッドなんかと比べたらお世辞にも良い出来とは言えないさ――でもそんなのはどうだっていい」

 

 感慨深げにそうつぶやくと、ハジメは手のひらを上にしながらベッドとソファーの方へと向ける。

 

「恵里達や大介君達に手伝ってもらったおかげで出来た自信作――早速使って見ない?」

 

 そうハジメが言った途端、光輝達の間でざわめきが起きる。しかしそこに恵里と鈴が笑みを浮かべながら口をはさんできた。

 

「あ、そうそう。もうハジメくんはベッドに使うバネの作り方も覚えた、って言ってるから革さえあればもっとハイペースで量産は出来るみたいだよ」

 

「うん。それとね、もうベッドの方は二つ、ソファーの方は三つがもう完成間近だから。革の大きさの関係でシングルベッドぐらいのと二人用のものが限界だけどね」

 

 そう二人が述べたことで光輝達はハジメ達に謎の感動と畏敬の念を覚えた。彼らには絶対に足を向けて眠れない、と。そして食事もそこそこに光輝達も試しに使ってみた結果――。

 

「うん、無理だ。もう動けない。もう雫とイナバと一緒にこれずっと使いたい」

 

「私も……もうここから動きたくなんてないわ。光輝とイナバちゃん、二人と一緒にここでずっと寝てたいもの」

 

 爪熊の革をマットレスに使ったダブルベッドに寝ころんだ光輝と雫がダメ人間になった。だらしない顔でゴロゴロしたり、イナバを二人で挟み込んで抱き合うなどしている。その様子を見て『わかる。気持ちがわかるぞ……俺も本当にベッドから離れられなくなった』とメルドがつぶやいたのを聞いた多くの面々がそれにうなずいた。

 

「お尻があんまり痛くない……すごい」

 

「うん……流石に三人だと狭いけど、お尻が痛くなくて済むならこれぐらい我慢できるね」

 

「だよねぇ~……あー、ハジメ君ありがとぉ~。ここに来て一番幸せを感じてるよぉ~」

 

「おう、わかるぜぇ。俺らも席を取り合ったぐらいだからな」

 

「そうそう。試作の段階でも先生がマジでこだわってくれてたからそこまで痛くなかったんだよな。マジ先生スゲぇわ」

 

「それな。あ、でもお前ら。発案者の俺をないがしろにして座りまくったの今でも恨んでるからな」

 

「お前はまだいいだろうがよ、信治。俺なんてちゃんと座れたの片手で足りるレベルだぞ。ホントお前らろくでもないよな!」

 

 優花らも二人掛けのソファーにいつもの三人で座りながら各々感想を言い合った。それを聞いた大介達四馬鹿も試作の段階で取り合ったことを感慨深げに話し、優花らから呆れられていた。

 

「……みーんな骨抜きになってるね」

 

「うん。あんな体験したらもう戻れないと思う。鈴だって正直、渡したくないもん。出来ることなら独占したいよ」

 

「こんなに喜んでくれると僕としても嬉しいけど……これ大丈夫かなぁ。まぁ細かいことは後で考えるとして、完成間近のベッドとソファーを仕上げにかかろっか」

 

 恵里とハジメ、鈴以外の面々が思い思いに過ごす中、意気揚々であった恵里と鈴はハジメの手伝いに移った。今回もハジメの魔力回復のために“天恵”を何度も何度も乱打したのとステータスの向上もあってか、鈴は中級の治癒魔法が使えるようになっており、他者の魔力を回復させる“譲天”でハジメの魔力回復に一役買っていた。恵里は言わずもがな一つのことに集中させる“鋭識”でのサポートである。

 

 また今回の家具作りの副産物として、ハジメは“精密錬成”、“鉱物分離”、“鉱物融合”の三つの派生技能に目覚めており、また銃弾の作成も一発あたり小一時間ほどかかっていたのが三十分足らずで出来るようになっていた。情熱の力は偉大である。

 

「“錬成” “錬成” “錬成” “錬成” “錬成”――」

 

「はいハジメくんちょっと待ってね――“譲天” うん、もういいよ……あ、恵里。そっちの方上手く貼り合わせてね」

 

「うん、わかった。じゃあ鈴も厚みの調整お願い。それとハジメくん、そろそろ切れる頃だし“鋭識”かけ直そう?」

 

「ううん、大丈夫。まだやれるから――“錬成”」

 

「またやってやがる……相変わらず熱心だよな、アイツら」

 

 そうして他の皆に呆れられながらも恵里達は家具の制作に勤しむのであった。自分達の作ったもので友達が喜んでくれることを思いながら。

 

 

 

 

 

「……どう、ハジメくん。こっちの方は使えそう?」

 

 ベッドとソファーのお披露目をしてから三日。心配そうに声をかける恵里であったが、ハジメは渋い顔を浮かべたままであった。

 

「……やっぱり駄目だ。ちゃんと魔法陣も再現したつもりなのに起動しない。もう片方のものを参考にしたつもりだけど復元は失敗……頑丈な武具以上にはならないかな」

 

 そう言ったハジメは一度目の前のガントレットに視線を移すと、声をかけた恵里の方を見ながらそう答えた。

 

 ある目的のために回収したこのガントレットはかつてノイントが使っていたものであり、この階層に上陸した地点に壊れた状態で放置されていたものをどうにか頑張って修復したものである。が、その目的のために運用することは出来ず、雫にでも防具として使ってもらうしかないかと考える他なかった。

 

「じゃ、じゃあハジメ……それ、結局使えないってことだよな? ホント、なのか……?」

 

 わなわなと震えながら幸利が尋ねるものの、ハジメは力なく肯定するだけであった。途端、幸利だけでなくハジメと恵里、そしてメルド以外の全員がその場にくずおれてしまい、全員の顔に絶望が広がっていった。

 

「ハジメくん、どうにかしてよ……今までだって何度も解決できたでしょ。今回もさ、やってよ。お願いだから……」

 

「……ごめんね、鈴。今回だけは、今回だけはどうしても駄目なんだ」

 

 ぺたんと座り込んだ鈴がハジメのズボンのすそにすがりつきながら懇願するも、ハジメはうつむいたままそう返すのが精一杯であった。

 

「……もうさ、皆諦めようよ。諦めた方が気が楽だよ?」

 

 諦観に満ちた眼差しを全員に向けながら恵里が言えば、香織は悲しみをこらえながらそれに反論する。

 

「できるよ……今までだって、どんな不可能なことでも皆で乗り越えてきたんだもの!! 諦めないでよ恵里ちゃん! ハジメ君も!」

 

「あぁ、そうだ!! この程度乗り越えられなくてどうやって奥までたどり着くってんだ! 俺も諦めねぇぞ! 香織と一緒だ!!」

 

 香織が叫ぶと共に龍太郎もまた吼える。不退転の意思を明らかにした二人を見て、光輝と雫の瞳にも光が宿った。

 

「あぁ、そうだ……ここで屈する訳にはいかないんだ! “勇者”という天職を与えられた俺だからこそ、ここで屈する訳にはいかない!! ここで俺が屈したら皆が絶望に沈む! だったら立ち上がってみせるさ!!」

 

「ええ……私だって、やれることは全部やるつもりよ!! この程度の理不尽なんかに負けてたまるもんですか!!」

 

 立ち上がって決意を示す四人に触発されたのか、浩介や幸利、優花らも立ち上がって前を向いた。

 

「はは……そうだな。この程度で弱気になってちゃ駄目だよな。どっか、どっかに抜け道があるはずだ。俺達ならやれるはず!」

 

「そうだな。最悪もっと強い魔法をぶつけちまえばいいんだよ。俺らの力ならやれないことなんてねぇ」

 

「ホントね……まだ大人数で試してないでしょ? だったらやってみなきゃわからないじゃない!」

 

「うん。皆の言う通りだよ……私、やるよ」

 

「そうだよ。こんなとこで、めげちゃいけないよね。私だって、やってやるから!」

 

 その熱意は大介達にも及び、彼らもまた立ち上がった。

 

「あぁ、そうだな……せっかく作ったってのによ、こんなとこで無駄にしてたまるか、ってんだ」

 

「そうだな。俺ららしく行こうじゃねぇか。邪魔すんだったらぶっ壊すだけだ」

 

「言えてんな、オイ――行くぜお前ら。俺らの底力を見せるぞ」

 

「いいこと言うじゃねぇか礼一、信治。よしじゃあ早速――」

 

「駄目だ」

 

 ……だがそんな決意を胸にした彼らの耳にメルドの無慈悲な言葉が突き刺さった。あまりに冷たく、悲壮に満ちた言葉を発したメルドに彼らの意識は釘付けになる。

 

「言ったはずだ。ハジメの錬成も、俺や遠藤の土属性の魔法すらも効果がなかったんだ――残念だがお前らには諦めてもらう」

 

 憎まれることは覚悟のうえでメルドは容赦なく()()を切り捨てにかかった。だがそんな非情な判断に光輝は真っ先に反論しようとする。

 

「でも、でも! 俺の“神威”だったらやれるかもしれません! メルドさん、どうか許可を――」

 

「くどい!!……ここから先、一体何が出てくるかもまだわからないというのに無駄に魔力を使うな。それは俺が許さん。諦めるんだ」

 

 それでもどうにか食い下がろうとする彼らを再度容赦なくメルドは切り捨てる。これもまた“大人”の務めだと、聞き分けのない“子供”を諭すためにも必要なことなのだと苦渋に満ちた表情を浮かべながら。

 

「いや、あのね……皆がそんなに大切に思ってくれるのは嬉しいんだけどさ。その……マットレスはともかくベッドとソファーをそのまま運ぶのは無理だってば」

 

 ……そう。彼らが必死になって反論していたのは『是が非でも次の階層にベッドとソファーを持ち込む』ためであった。

 

 彼らがゴネ出したそもそもの原因はベッド及びソファーのお披露目した翌日のことが原因である。その頃には光輝達の班もハジメ達の班もこの階層のマッピングを完全に終えており、結論を出さざるを得なくなっていた――ここへと侵入したルートを逆走し、国相手に喧嘩を売りながらさすらうか、下の階層へと足を踏み入れて更なる地獄へと突き進むか、である。

 

 いくらここで相当の強さを得たといえど、軍隊を相手に生き残れる自信は誰にもなかった。大介達であってもそこまで自惚れてはいなかったのだ。そのため全員があるものにすがることとなった。ハジメが本来たどるはずであった未来である。

 

 上への通路が作れない以上、本来の未来のハジメもまた下に下って行ったのだろうということは誰もが想像がつき、こうなった以上はもう腹をくくるしかないと誰もが覚悟を決めた……のはいいのだが、ここで新たな問題が浮上する。作ったベッドとソファーをどうするかについてであった。この時点では誰もが下へと運んで使いたいと考えていたのである。全員文明の利器に毒されていた。

 

 そこで翌日、ハジメ達の班は下へと続く階段のある部屋へと向かい、実際に通ってみて思ったのだ――真っ暗で家具を運ぶのが絶対面倒。あとちょっと狭い、と。

 

 ひと一人が通る分にはともかく、ベッドとソファーを持っていくにはちょっと狭めの幅だったのだ。何とか持っていけはするけれども、一つずつ運ぶのが精一杯。台車に載せて運ぶ事も考えたのだが、途中で道幅が更に狭くなっているせいでそれも無理であった。それも天井含めてであり、“錬成”や土系の魔法で広げようとしても一向に反応しなかったのだ。先日メルドが述べたあの現象がそこでも発生したのである。

 

 マットレスだけを鎖か何かで体に括り付けて運ぶのであれば、固定する向き次第でどうにかなりそうではあったが、ソファーは引っ掛かりそうになっていたのである。ならば分解して運べばいい、と思ったもののそこは次の階層の暗さと魔物がネックとなった。実際に進んだ際に六本足の猫のような見た目の魔物に襲われたのである。

 

 “気配探知”や“特定感知”に引っ掛かりこそしてくれたものの、凄まじい速さでこちらに迫ってきたため、まだ生物相手に上手く当てることが出来てないハジメのレールガンは体の小ささもあって避けられてしまう。

 

 そこで猫に襲われそうになったハジメであったが、とっさに鈴と香織が“聖壁”を発動してくれた事で直撃は避けられた……が、取り付いた六本足の猫が放ったボクサーのラッシュもかくやの猫パンチによってあっさりバリアにヒビが入っていき、もう一枚のバリアにさえその余波が及んで少しずつ亀裂が増していったのだ。死を直感したハジメが即座にレールガンを叩き込んだ事でどうにか仕留めることは出来たが、生きた心地がしなかったという。

 

 とりあえずその場は何とかなったものの、うかつに入り込んだらどうなるかを嫌というほど理解させられたハジメ達は猫の死体を持ってそのまま拠点へと撤退。今回のことを話しながら猫を食べた。なおその後激痛に襲われ、また神水のお世話になった。

 

「あのガントレットの収納能力さえあれば良かったんだけど、ねぇ……」

 

 どうしたものかと考えたハジメはあることを思いついた。ノイントが使っていたガントレットの再利用である。あれが光ると同時に剣が出てきたことを考えると、あれは一種のアイテムボックスの類ではないかと考えたのだ。

 

 そこで急ぎ上陸地点に向かって破損したガントレットを拾い、家具作りのかたわら修復作業に勤しんでいたのである……が、どうにか修復し終えてもその道具を格納する機能は一切発動せず。ただの防具として生まれ変わっただけに終わってしまったのである。そのため諦める他無かったのだ。

 

「運ぶのが一つ二つだけだったらいいけどさ……もう、かなり増えちゃったしね」

 

 そう言って部屋の隅に視線を向ければシングル・ダブル含めて五つ、ソファーに至っては六つと大幅に増えてしまったのである。流石にそこまでとなるとあの暗い中往復するか、全員でパーツ毎に分けて運ぶしかない。緑光石を使うにしても片手が塞がってしまうこともあってハジメは持っていくのを諦めたのである。

 

 階層を一つ二つまたぐならいいにしても、それを何度やるかわからないなら現地で作る方に切り替えた方がいいとハジメは考えた。が、今度は鈴達がそれが嫌だとゴネだしたのだ。こうして増えた今でさえもベッドで寝る時は二人、ソファーも寝床代わりに使っており、カツカツながらもそれで皆妥協していたのである。

 

 そこで寝床を取り上げられてはたまったものじゃない、と既に諦めた恵里とハジメ、メルド以外の皆が怒りに怒って駄々をこねだしたのだ。

 

「俺は……俺は認めないぞ!! ハジメにも恵里にもメルドさんにも止められてたまるもんか! 俺は絶対に諦めないからな!!」

 

「私もよ! だって、だってやっとちゃんと寝られるようになったのよ!! それをこんな……いっそ、いっそ殺してよぉ!!」

 

「キュゥキュウ!!」

 

 光輝が意固地になり、何故かくっ殺精神を発揮しだした雫を抱きしめながらハジメ達を涙目でにらむ。イナバもまた何となく嫌な予感がしたのか鳴き声を上げて抗議していた。

 

「やっと……やっと龍太郎くんと一緒にベッドで寝れるようになったのに……恵里ちゃんもハジメ君もメルドさんもひどいよ!! 三人には人の心が無いの!?」

 

 わんわんと泣き出した香織を龍太郎は無言で抱きしめながら目で訴えてくる――頼むから何とかしてくれ、と。三人は首を横に振った。

 

「マットレスなら! マットレスだけだったらどうにかなるんだよね!? ねぇハジメくんも恵里ももっと考えてよ!! 鈴とハジメくんで作ったんだからベッドもソファーも実質二人の子供だよ!! 認知してよぉ!!」

 

 初めの方はともかくとして、後半意味不明なことを鈴が言い出した。ハジメは顔を引きつらせるしかなく、恵里も恵里で必死過ぎる鈴を見て絶句するしかなかった。

 

「俺は絶対持ってくからな!! もう俺の心を癒してくれるのはベッドしかないんだよ! どこ向いてもカップルばっかだから夢の中でハーレム満喫するしか救いがねぇんだ!!」

 

 切実な願いを叫ぶ浩介を見た恵里達は半目で彼を見つめた。気の毒に思わない訳ではないのだが、その苦しみをこんな形で当たり散らさないでほしいと心の底から恵里とハジメは感じていた。なおメルドは『もし無事に地上に出れたら女遊びを教えてやろう』と心に固く誓っていた。

 

「なぁハジメ……マジでどうにかなんないのか!? ほら、小説とかアニメだとこういう時新たな力に目覚めるとかそういう定番のシーンだろ!? 頼む、頼むよ……俺、今なら何でもするからさ、助けてくれよ……」

 

 四つん這いになって顔を上げながら幸利が心底情けない声ですがりついてきた。だがハジメはそんな彼に申し訳なさそうな様子で自分のステータスプレートを見せてやり、以前と変わらないことを認識させて奇跡もへったくれもないということを彼に教えるしかなかった。一気に顔が土気色になってそのまま倒れたのは言うまでもない。

 

「ウソよ……こんなのウソに決まってるわよ!!」

 

「私、悪い夢でも見てるのかな……こんな、こんなことって……」

 

「ベッドは……ソファーは……私専用の家具はどこ……?」

 

 優花らは軽く現実逃避していた。ベッドとソファーでローテーションを組んでいた三人の今のひそかな夢が『自分一人だけで使えるベッドをもらうこと』だったのである。このままベッドを人数分作ることが出来ればいつかきっと叶うと思って我慢していたのだ。だがもし、ここでもしベッドを置いていくとなればその夢が遠のく……否、砕かれてしまったのだ。そのため今、優花と奈々は錯乱し、妙子は夢の欠片を求めてさまよう亡者となってしまった。

 

「ふっざけんなよオイ!! 俺らから天国を奪う気かよ!……ははっ、メルドさんがそう言うならよぉ、徹底抗戦といこうじゃねぇか。もちろん土下座でな」

 

「お願いします神様仏様ハジメ様メルド様ぁーーー!!! 俺もう床で寝るのだけはイヤなんですぅーーーーーー!!」

 

「絶対イヤだかんな!! 俺もっとベッドで寝てぇんだもん!! やだやだやだぁー!!」

 

「なぁ先生、メルドさん。俺ぁさ、コイツらみたいに優しくなんてねぇぞ……泣くぞ? もう恥もへったくれもなしで全力で泣くからな? 俺に恥をかかせたくなかったら今すぐ――」

 

 そして四馬鹿は四者四様であった。

 

 大介は土下座交渉、礼一は既に土下座してからの懇願、信治は寝っ転がって駄々をこね出し、良樹は自身の尊厳を人質に泣くぞと脅してくる。どうにもならんレベルであった。

 

 こうして誰も彼もがゴネにゴネ出し、メルドの方も仕方なく『狭くなったところをどんな方法でもいいから広げられたんなら許す』と言ったことで全員が躍起になった。各属性の魔法やら“限界突破”を使った上での“神威”が飛び交ったが、結果は無傷のまま。

 

 ハジメと恵里は『知ってた』とばかりに乾いた笑みを浮かべ、龍太郎とメルドが漢泣き、残りの全員がギャン泣きした。ちなみに流れ弾で魔物が何匹か跡形もなく消滅しているが、それは誰も知らない。

 

 ……その後、泣きながら拠点に戻った恵里達は思い思いに泣きはらした。そして少しスッキリしたところで話し合いをし、とりあえずマットレスだけを運ぶのとその際どういった人員で進むかを決めた。浩介と雫が偵察をしつつ、恵里、ハジメ、鈴、光輝、龍太郎、香織の面々で魔物に対処。残りの面々は隙を見て家具の運搬ということになった。

 

 また糸でなく針金で止めていたことからベッドもソファーも解体は容易であったものの、それらのフレームが流石に大きすぎるため分割して運ぶことになった。最悪それらはパイプ椅子に転生する可能性があったため、そうならずに済んで誰もがホッとしていた。今日も奈落は平和である。




ちなみに分割せずに済んだ場合、光輝達がゴネるシーンが冒頭に来てミスリードを狙うつくりになってました。
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