あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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やらかしたので再々投稿です。本当にすいません(土下座)

今回の話を読むにあたっての注意点を幾つか列挙させてもらいます。

・去年のエイプリルフールのお話が割とガッツリ関わってきます。

・今回の話も『ありふれ原作のキャラ』に対してアンチ・ヘイトをするつもりで書いたつもりではありません。

では上記に注意して本編をどうぞ。


四月馬鹿なお話「兵器誕生_if」(前編)

「ぐぅ、ガァァアアアァァ!!」

 

「なん、で……どう、して……」

 

 目の前にいるのは誰?

 

 オルクス大迷宮のとある場所へと連れて来てもらった白崎香織は、目の前で吠え猛る少年を前にただ腰を抜かして体を震わせることしか出来なかった。

 

「……予想がつかなかった訳じゃ無いけどね」

 

 同行してくれた白髪赤目の少女は未だ刀を構えたままである。その彼女がぽつりともらした言葉も香織の耳には入らず、ただなんで、どうして、という言葉が頭の中でリフレインするばかり。

 

「“錬成”っ! “錬成”! “錬成”! “れんせぇ”っ!!」

 

 そして目の前の少年は岩の鎖に()()を当ててひたすらある技能を発動するだけ。その名前を叫ぶごとに鎖の一節二節がローマ字のCのように変形して緩んだり外れていく。けれども地面から新たな鎖が生えて彼を縛り続ける。

 

「殺す……絶対、殺して喰ってやる!」

 

 それでも必死に抜けようと()()()()が無くなった左腕をも含め、手足をバタつかせてもがき続けている。わずかにも鎖が緩む気配はないものの、それでも歯を食いしばって必死にあがく様は『獣』のようにしか香織には見えなかった。

 

「私、魔物じゃないよ……食べ物じゃないよ、南雲くん」

 

 だからこそ彼女は怯えていた。守ると約束した相手が、尊敬していた優しい少年が鋭い眼光でこちらを射貫いてくることに恐怖していた。彼の行動だけではない。自分が約束を守らなかった、助けられなかったせいでこうなってしまったことへの後悔も香織を苛んでいるためだ。

 

「どこまでも白崎のマネが上手いな。それでだませると思ったか」

 

「あーもう、どうにもならないわね……香織、どうするの?」

 

 血走った目で、ドスの効いた声で少年はこちらを見つめるだけ。そんな時、ふとそばに立っていた少女に問いかけられ、香織はゆっくりとそちらに顔を向ける。

 

「どうする、って……ひゃっ!?」

 

 香織がその質問の意図を尋ねようとした時、舞った血しぶきが彼女のほほにかかる。血が飛んできた方を見やれば狼のような魔物が複数体、左右に両断されているのが見えた。その直後、幼馴染みによく似た少女から再度香織は問いかけられる。

 

「南雲君のことよ。あきらめるの? それとも、助ける?」

 

「私、は……」

 

 こちらを見下ろしながら投げかけてきた少女の問いに、香織は言葉を詰まらせてしまう。どうすればと思いつつ、香織はもがき続ける少年の方へと視線を向けるのであった……。

 

 

 

 

 

「そういえばトカゲの魔物もすごかったね。おっきくて魔法もあんまり効かなかったし」

 

「そうね。まぁおなかが柔らかかったのはありがたかったわ。ひっくり返せばどうにかなったもの」

 

 事の発端はさかのぼること一時間前のことであった。夕方ごろに大迷宮での訓練を終えてホルアドの宿へと戻った香織は、八重樫雫と共に夕闇が差し込む自室で歓談にふけっていた。

 

 風呂も既に済ませ、互いにネグリジェへと二人は着替えている。備え付けのイスに座り、テーブルをはさんでくつろいでいた。

 

「とっさに香織が“縛印”を使ってくれなかったら厳しかったかもしれないわね」

 

「ふふん。だっていっぱい特訓してるか――あいたっ!」

 

 自分のはたらきを褒めてくれた雫のカップはもう底が見えそうになっている。自慢げに軽く胸を張りつつ、おかわりを注いであげようかと香織はポットに手を伸ばそうとした。だがそれも向かい合う親友のデコピンによって止まってしまう。

 

「ただでさえ頑張ってるのにこれ以上やろうとするんじゃないの……南雲君に会う前に体を壊したら意味がないでしょう」

 

 ちょっぴり赤くなった額を両の手でさすっていると、軽く呆れた表情を浮かべた親友からのありがたい説教が飛んでくる。これには思わず香織も苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「明日は休みなんだし、一日出かけましょ。ほら、南雲くんに再会した時のプレゼント探すとか」

 

「……うん、そうだね。ありがとう雫ちゃん」

 

 何をどう言ったものかと迷う香織だったが、ふと雫がお出かけしないかと誘われてしまう。二週間前にいなくなってしまった彼の名前を出され、彼女なりに気遣ってくれているということに気づいた香織は微笑みながらこくりとうなずく。

 

「風? 窓なんて開けて――」

 

「えっ。私、ずっと閉めてて――」

 

 そうして明日の休養日にどこを巡ったりどの店で食事をとるかを話し合っていたところ、いきなり風が体をなぜる感覚に香織は襲われてしまう。雫と一緒に風が吹いた方へと目を向けた瞬間、香織はその場で固まってしまった。

 

「「えっ」」

 

「ぐぇーっ!」

 

「あ、アレーティアさーん!」

 

「え、ちょ、雫ちゃーん!」

 

 穴だ。壁も何もない場所に空間に一メートル大の穴が開いていたのである。しかもその穴の先には水路で囲まれた小島があり、そこにいた何人もの人間の悲鳴や名前を叫ぶ声が聞こえてきたのだ。

 

「わぁああぁぁ!?」

 

「「えぇーっ!?」」

 

 しかもその穴からどこか見覚えのある顔立ちの少女がこちらへと向かってくるのである。雫と仲良く香織は驚いてしまい、どうすればいいのか考える間もなく少女は二人の間を縫ってスッ飛んでいく。

 

「っとと……ふぅ。どうにか着地出来たわね」

 

「っ! 香織、穴が!」

 

 幸い、穴から出てきたポニーテールの少女は猫のように両の手足を床について着地していた。彼女が無事であったことに香織も思わずホッとするも、いきなり雫が穴のことを叫んだためすぐにそちらの方へと顔を向ける。

 

「あ……消えちゃった」

 

「なくなっちゃった、わね……」

 

 なんと謎の少女を吐き出した途端、空間に開いた穴は勢いよく小さくなって消えたのである。何か変な夢でも見たのかと思いつつ自分のほっぺを引っ張ったり、雫と顔を見合わせたり少女の方に視線を向けるなどした。

 

「あー、もう……アレーティア、気合い入れ過ぎよ」

 

「……雫ちゃん、何か言った?」

 

「何も言ってないわよ……えっ」

 

 痛みからして夢でも何でもないとぼんやりと理解した香織であったが、ふと雫と同じ声があの少女の方から聞こえてしまう。ただの勘違いかと思って目の前の彼女に問いかけるも、雫はぽかんとした表情で否定するだけであった。

 

「……しずく、ちゃん?」

 

 じゃあもしやと思って声のする方に香織は顔を向ける。そうしてこの場に現れた少女を見れば、あまりにも親友と酷似していたのである。

 

 顔立ちに声色、訓練の時と同じ格好までしている。違うのは白髪と赤目にちょっとだけ高い身長、そして鞘入りの刀らしき武器を持っていたことぐらいだ。故に香織はコテンと首をかしげながら幼馴染みの少女の名前をつぶやいてしまったのである。

 

「……えーっとね。その、人違いよ。私はえっと、あの、ティア。うん。冒険者のティアって言うんだけど」

 

「嘘つくときいつも手を前に出してるよね、雫ちゃん。気まずいときとかいっつもこういう風に話すよね」

 

「えっ、そうなの香織……どうなの?」

 

 そこで汗をダラダラ流しながら否定してくる彼女を見て、目の前の少女が雫であると香織は確信してしまう。彼女の普段の動きの癖まで同じであったからだ。ふと雫から向けられた視線に気づくと、香織はこくりとうなずいて彼女の疑問に答える。

 

「あー、もう……光輝に見つかるよりはマシだと思ったけど、こうも早くバレるなんてね」

 

「えーっと、その、誰なの? もしかして未来から来た私?」

 

「もしかして、雫ちゃんに何かあったの? それでこんな髪色と目になっちゃった?」

 

「ちゃんと事情を話すわ。まぁその……黙ってちゃんと聞いてくれる?」

 

 すると例の少女は額に手を当てて深くため息を吐いてからこちらを見てきた。雫と共に予想を口にすれば、雫らしき少女はひどく疲れたような表情で見つめ返してくる。彼女からの頼みを聞き、香織は一度雫とアイコンタクトをしてからうなずいて返す。

 

「じゃあ私、こっち座るね。えーっと、あのね」

 

「まぁ私は()()()の香織とは面識はないし、名字の方で呼んでちょうだい。じゃ、イス借りるわよ」

 

 雫らしき少女に香織は座っていたイスを譲り、自身はベッドの方へと腰掛ける。そうして雫らしき少女こと八重樫がイスに座ると二人に自分が何者なのかを語っていく。その内容に香織は何度も雫と顔を見合わせ、大声を上げそうになってしまった。

 

「……冗談か何かだと思いたいわね。まさか平行世界だなんて」

 

「違う世界、っていうのは一応知ってるけど、本当にあったんだ……」

 

 彼女の正体は『平行世界の八重樫雫』であり、また例の事件で香織に手を掴まれて一緒にハジメと落ちた未来の世界からやって来たと言われたからだ。あまりに現実離れしているせいで、香織は向こうの世界の自分に嫉妬すら出来なかった。

 

「こうして体験するのは私も初めてなんだけどね。あとその知識、南雲君のことを調べて知ったやつでしょ?」

 

「えぇっ!?……そっか。そっちのしず、じゃなかった。八重樫、さんも知ってるんだね」

 

 そんな時、不意に八重樫から投げかけられた質問に香織は思わず目を白黒させてしまう。が、彼女が言い当てた理由も『向こうの自分と一緒にオタク知識を深めたから』だということにすぐ気づく。それを口にすれば八重樫も微笑みで返してくれた。

 

「……まぁ香織が言いづらいんだったら好きにして。じゃ、話を戻すわ。私は元いた世界で地球に戻るために神代魔法を集めてた。各地の大迷宮を巡ってね」

 

 そして八重樫は再度話を進めていく。向こうの世界のハジメと香織と共にあの崖から落下した後、魔物の肉を喰らいつつそれを癒やしながら進んでいったこと。そうして仲間を得て、最奥の死闘を制したこと。神代魔法の入手とこの世界の真実を知り、地球に戻るために大迷宮巡りをしていたことなどをだ。

 

「ハルツィナ樹海にある大迷宮をクリアして、手に入れた神代魔法で地球に戻れるかどうか魔法に精通している仲間に頼んでみたのよ……そしたらものすごい張り切っちゃってね。それでこっちと繋がっちゃったみたい」

 

 雫と共に相づちを打ちつつ話を聞いていると、八重樫がこの世界に来てしまった理由を語ってくれた。

 

「えっと、その……ものすごい勢いで色んなとこから血を出してた子?」

 

「あー、そっちの香織も見てたのね……」

 

 その際香織もやらかした相手……金のもやに包まれ、鼻と耳から勢いよく血を吹き出してた金髪の少女ではないかとアタリをつける。すると八重樫も額に手を当てて思いっきりため息を吐いたため、香織は雫と顔を合わせて互いに引きつった笑みを浮かべてしまう。

 

「そっか……そっちの雫ちゃんもお疲れ様」

 

「そうね。悪気はないんだろうけど相当振り回されてるのかしら?……同情するわ」

 

「うん……的外れなことはまず言わないし、余計な気を遣うことぐらいだから。だから質が悪いんだけどね」

 

 顔を引きつらせたままではあったが、香織は雫と一緒に八重樫に気遣いの言葉をかける。だが彼女は窓の外を見つめ、半笑いを浮かべながら軽くボヤく。あぁ、これは自分達の幼馴染みの光輝とは別方面で面倒な相手だと香織は直感した。

 

「さて、雑談はここまでにさせてもらうわ。私はこの世界の異物でしかないもの」

 

 八重樫が息を短く吐いてこちらに向き直ると、イスから立って少し寂しげな顔をしながらつぶやく。その言葉に香織は一抹の寂しさを覚えるも、彼女も向こうの世界の自分達が待っていることを考えれば仕方が無いと出かかった言葉を飲み込む。

 

「“禁域解放”」

 

 八重樫が聞き覚えの無い魔法か技能の名前をつぶやいた途端、彼女の体を真紅の光が包む。香織はそれが彼女の持つ魔力の光であり、自分の隣にいる親友の持つものと比較にならないほどにとてつもない力であることを瞬時に理解する……彼女に何かあったこともだ。

 

「“界穿”……駄目ね。流石にアレーティアぐらいじゃないと無理かぁ」

 

 そしてまた別の名前を八重樫がつぶやく。だがすぐに首を横に振ると同時に彼女の体から発していた莫大な魔力がかき消えた。とりあえず今の彼女がすぐに戻ることはないということに奇妙な安堵を香織が感じていると、ふと彼女の脳裏にあることがよぎってしまう。

 

「……ねぇ、向こうの方の雫ちゃん。あのね、ちょっとお願いしたいことがあるの」

 

「……こっちの世界の南雲君のことかしら」

 

 少しうつむきながら声をかければ、八重樫も少し困ったような顔でこちらの真意を見透かしてきた。違う世界といえど流石親友だと思いつつ、香織は顔を上げて彼女にあることを問いかける。

 

「うん。こっちの南雲くんを助けられるかどうか教えてほしいの」

 

「香織っ」

 

 雫が悲痛な声で自分の名前を呼んできたが香織はあえて無視する。

 

 一緒に落ちた八重樫達の世界と彼ひとりが落ちて二週間が経過した自分達の世界で同じことが起きることはない。それぐらい香織もわかっていた。

 

 だがそれでも南雲が生きている可能性がわずかでもあるなら、助けられるのならば何であろうとやりたいという衝動に香織は駆られてしまっていたのである。

 

「……最初に言っておくわ。私とこの世界の香織がたどった道は違う。だからアテになるとは思えないの」

 

「いいの!……お願いします。私、南雲くんが生きてるかどうか知りたい」

 

 だから香織はためらうことなく八重樫に頭を下げた。彼女の過去に何かヒントがあるかもしれない。今自分が何をすべきかが見えるかもしれない。そう信じて。すると香織の耳に長いため息を吐いた音が届く。

 

「ホント、南雲君のことになると変わらないのね。わかったわ。協力する」

 

「――っ! ありがとう雫ちゃん!」

 

 顔をガバッと上げて八重樫の方を見れば、ひどく苦笑しながらもこちらに優しいまなざしを向けているのがわかった。嬉しさのあまり彼女に抱きつこうと一歩踏み出そうとした香織であったが、それはこちらの自分がやっていいことかという疑問が脳裏をよぎる。

 

「……っ。そ、それでね。そっちの雫ちゃんがどうやってオルクス大迷宮を突破したか、教えてほしいな」

 

「香織……」

 

 踏み出した右足に力を入れて踏み留まり、無理にでも笑みを浮かべてただお礼を伝えるだけで堪える。すると両肩に暖かなものが触れ、親友の声が香織の耳に届く。声のする方を向けば雫が後ろからそっと手を肩に回してくれたのがわかり、雫の気遣いに香織はほんの少しだけ瞳がうるむ。

 

「それで、そっちの私……八重樫さんのたどった道筋は」

 

「さっきも言った通り、私達が助かったのは本当に偶然。まさか川みたいなところにいるとは思わなかったもの」

 

 そして雫が振り返ろうとして、八重樫が一度うなずいてから自身の経緯を再度話していく。

 

「私達が落ちて目を覚ました時、洞窟の中に流れてた水……っていうにはちょっと量が多かったわね。地下水だったかもしれないわ。ともかく、そこから三人で大迷宮を進むことになったわ」

 

 八重樫から再度説明を聞き、香織もどうして彼女があり得ないと言ったかを改めて理解する。香織の目から見てもハジメが落ちた箇所はわずか先すら見通せないほど暗く、相当深いことが容易にわかったからだ。

 

「そうだね。だからあり得ない、って……」

 

 先程ダイジェストで聞いた時も自分達の時と同様に深かったように聞こえていた。それに向こうの世界とこちらの世界で同じ地形であるとも限らない。だから偶然と言ったのかと香織もネグリジェのすそを掴んできゅっと握った。

 

「確かに運がよほど良くないと無理ね……ま、それでもこの子は行くんでしょうけど」

 

「うん。その偶然を抜きにしてもそっちの雫ちゃん達は生き伸びることが出来たんだよね。魔物の肉を食べても死ななくて済む水の力で」

 

 だがそれで香織はあきらめなどしなかった。

 

 たとえ絶望的に低い可能性といえど尊敬する彼が死んだと確定した訳では無いし、もしかしたらその幸運に恵まれたかもしれない。ならばそれに賭けたいと香織はかすかに手を震わせながらも顔を上げた。そして八重樫がどうやって生き延びたかについて触れる。

 

「ホントにもう……確かに香織の言った通りよ。でもね、この世界じゃあの日から既に()()()が経ってる。二人とも、その意味はわかるでしょ」

 

 すると苦笑し続けていた八重樫はため息を吐き、無視できない事実をこちらへと突きつけてきた。香織はうつむいてまたネグリジェのすそを強く握りしめてしまう。

 

「希望的観測ならどこかのタイミングで戦う覚悟を決めて、神結晶も神水も手に入れて進んでいるかもしれない。けれど」

 

「魔物に既に食べられててもおかしくないものね……」

 

「でも、可能性はゼロじゃないんだよね」

 

 どうにか生き延びているかもしれない。けれども既に食べられて死んでしまったかもしれない。経過した時間を考えれば死んでいる可能性の方がよっぽど高い。だがそれでも香織はその絶望に抗おうとした。

 

「「香織ってば……そうね。香織はいつもそうだったわ」」

 

 二人の雫は困ったような笑みを浮かべている。世界も姿も違ってもやっぱり変わらないんだと思いつつ、互いに顔を合わせて笑ってる二人に微笑みかける。そして香織はベッドから立つとそのまま八重樫の両手をぎゅっと握った。

 

「ねぇ、あっちの世界の雫ちゃんは強いんだよね。オルクス大迷宮を突破できるんだから」

 

「私に南雲君がいるはずの場所へ連れて行ってほしい。そういうことでしょ香織」

 

「うん」

 

 そうして八重樫に前置きを語れば、こちらの意図を察した彼女が真剣な面持ちでそれを言い当ててきた。香織がゆっくりとそれにうなずくとすぐに雫が声を荒げる。

 

「ほ、本気なの香織! 確かに私達は前より強くなってはいるけど、それでも――」

 

「それでもだよ!……だって私、約束破っちゃったんだよ」

 

 遠回しに馬鹿げたことはやめてと訴えてくる雫に香織もまた大声を上げてしまう。そして自分の抱え続けていた後悔を二人に漏らしていく。

 

「南雲くんに守るって言ったのに。南雲くんに無理させて、助けられなくて……だからもし、もし生きていてくれたなら今度こそ守りたい。私の全てを懸けてでも守りたいの!」

 

 あの日彼の部屋でした約束が、奈落の底へと落ちていく彼の顔が脳裏に焼き付いて離れない。一度たりとも忘れることすら出来なかった。じくじくと胸を苛む痛みを香織は涙を流し、声を震わせながらも伝える。

 

「それに、今こんな機会なんてもう、もう二度と来ないって私だってわかる。だから、だから……」

 

 自身の後悔を吐き出すと、香織は鼻をぐすぐす鳴らしながらも八重樫の手をきゅっと握ってすがる。違う世界とはいえ自分の知っている友人が、それも未来の強くなった状態で現れるなんて幸運なんて二度と手に出来やしない。

 

「さいていだって、わかってる……ひどいにんげんだって、わかってるよ……でも、でも……」

 

 それをわかっているからこそ香織はすがる。彼女に軽蔑されても、呆れられてもいいから彼を助けたいと香織はまたしてもうつむきながら八重樫に訴える。すると短いため息が聞こえ、優しく自分の手が握り返されたことに香織はハッとした。

 

「……同じ状況なら私だって迷うわね。いいわ。条件付きで付き合ってあげる」

 

「雫ちゃんっ!!」

 

 顔を向ければ八重樫は苦笑いを浮かべたままであったが、口元は柔らかいものであることに香織は気づく。『条件付き』という前置きを含めてもなお彼女が手を貸してくれることに、彼女は喜びのあまり抱きついてしまう。

 

「わっ……とと、もう。“鎮魂”」

 

「ありがとう、ありがとう……ごめんね。雫ちゃんの親友、汚しちゃった」

 

 抱きついた八重樫がたたらを軽く踏んだ後、彼女が何かつぶやくと共に心が一気に落ち着いてしまう。否、落ち着くというより()()()()のが近いと感じつつ、これも神代魔法なのかなと思いながらも香織は感謝と謝罪を口にした。

 

「……ありがとう。どれだけ感謝してもしきれないわ、八重樫さん」

 

「構わないわ。さっきも言った通り私だって同じ状況じゃすがりつくと思うから……じゃ、いつ迎えが来るかもわからないし話を進めるわよ」

 

 雫からの感謝の言葉にも首を横に振り、気にしてないという風に八重樫は答える。すると香織は八重樫に肩を掴まれ、そっとイスに座らされてしまう。そのまま八重樫は備え付けのテーブルに寄りかかるように右手を添えると、左の人差し指だけを立てて条件を口にしていく。

 

「私からの条件は二つ。一つは私の仲間達が迎えに来た場合、元の世界に戻ることを優先すること」

 

 最初に提示されたものはあまりにも当然なものであった。八重樫のいる世界はこちらではないことを考えればその通りとしか言えず、またすぐに打ち切ると言わないだけ自分達を気遣ってくれていることに香織は気づいた。

 

「……うん。わかってる。そこまで無理は言えないから」

 

「そうね。八重樫さんの世界の香織と南雲くんだって相当心配してるでしょうし」

 

「ありがとう。でも可能な限り掛け合ってみるわ――それともう一つ。そっちの私はここに残ることよ」

 

 最初の条件に香織は雫と共に理解を示し、互いに顔を合わせてうんうんとうなずき返す。だが八重樫が出してきたもう一つの条件に香織はきょとんとしてしまうのであった。




続きはまた今度、ということで(白目)

2025/4/2 色々と修正しました_:(´ཀ`」 ∠):
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