おかげさまでUAも95580、お気に入り件数も683件、しおりの数も282件、感想数も260件(2022/4/3 18:16現在)になりました。こうして拙作を見ていただき、ひいきにしていただき、誠にありがとうございます。
そしてAitoyukiさん、小焼夕焼さん、拙作を評価及び再評価していただき本当にありがとうございます。月並みではありますが、こうして皆様に評価していただけると執筆のモチベーションが上がってもっともっとと書きたくなります。重ね重ねお礼を申し上げます。
んで、例によってまた文字数増えそうだったので分割しました……うん、知ってた(白目)
という訳で今回は短めです。では本編をどうぞ。
「いやー、“勇者”様カッコよかったわねぇ~」
「ホントだよな。あんな若い子がめきめきと頭角を表していってる、って神父様もおっしゃってたぜ」
昼の王都の酒場でも朝方行われたパレードの事で持ちきりであった。
魔人族の方の動きが変わった事で暗い噂が王都でもここ最近続いていたものの、今回行われた神の使徒のパレードを見たことで全員があの熱狂にあてられているのであろう。誰もがパレードで姿を見せた“勇者”や彼と共に戦う神の使徒の話題で持ちきりであった。
「勇者様に付き従う神の使徒様もお若くて経験が浅いらしいけれど、もう騎士団の人達と対等に渡り合えるって話よ」
「いやー、流石はエヒト様から遣わされた方々だ! ぜひとも魔人族を皆殺しにしてほしいな!」
誰も彼もが歓喜に沸く中、カウンター席で一人、ハイリヒ王国筆頭錬成師であるウォルペンは耳に入ってくる情報に対して何とも言えない顔をしながら出された飯をかき込んでいた。
「あんな若いナリで結構体つきもしっかりしてたよなぁ。あれならどんな魔物が来たって
「そうそう。
「寡黙そうなトコも含めて素敵よねぇ――
「あぁ。俺らの永山様なら魔人族も――」
止まぬ喧噪。静まらない熱狂。しかしウォルペンだけは唯一その場の空気に染まれずに居心地が悪そうにしており、それも遂に限界が来たのかやや乱暴に席を立った。
「……すまない。馳走になったな」
「おい、もういいのか?」
普段の彼をよく知っている酒場の店主は心底気まずそうな様子でお代を置いていくウォルペンに声をかけるも、当人はやはり苦い顔を浮かべたままであった。
「お前さん、まだ今日は肉を食っとらんじゃろ。もう少しで出来るからそれまで――」
「すまんな。今日は少し食欲がない。釣りはいらん。飯を無駄にした迷惑料代わりだと思ってくれ。それと、無駄にした奴は数か月前に来た新人のまかないにでもしとけ」
ではな、とだけ告げるとウォルペンはそそくさと酒場を出ていった。
今しばらくはこの熱狂も収まらないと考えると外で食事をとるのも憂鬱になるものの、別段自炊が出来るわけでもない。
これを機に誰かに尋ねてみるべきかと思いながらも更人に物を聞けるかと考え、しばらくは人がいない時間帯を狙うべきかと結論付けながら職場である工房へと戻っていく。
その途中耳に入った“勇者永山”という単語に内心うんざりしながら足早に向かう。
「……何が勇者だ。どいつもこいつもまがい物をありがたがりよって」
誰にも聞こえぬように漏らした言葉は、自分への侮蔑がひどくこもっていた。
「あ、頭領お帰りー!」
「お帰りなさい。ウォルペン師」
工房へと戻ったウォルペンを真っ先に出迎えてくれたのは彼が昔から目をかけていたアディン・グーニットとその兄のオデルであった。
「ああ、戻った」
そして出迎えてくれた彼らに一言返すと、そのままウォルペンは工房の奥へと向かっていく。普段ならばもう少し口数が多い自分達の師を見て何かあったと思った二人はすぐさま彼へと声をかけた。
「師匠、何かあったんですか」
「その顔は……やはり勇者のことが話題になっていましたか」
オデルの言葉にウォルペンは一層渋い表情を浮かべ、何も言わずに首を縦に振る。それを見たアディンもオデルも同様に苦々しい顔をしながら師の後をついていく。
「……俺達の作ったものが世に出回って、それで誰かのためになるってのは嬉しいんだけどさ。でも、よりによってアレだしな」
「アディン、よせ……申し訳ありませんウォルペン師」
「気にせんでいい。俺の気持ちもアディンと同じだ――あんな偽物を世に知らしめて、誰が喜べるか」
ウォルペンの握る両の手に力がこもる……彼らが造ったものは国威発揚のために造れと王直々に命じられたものであり、先のパレードにて勇者と称された少年が身に着けていたものはすべてイミテーションでしかなかったのだから。
“王国錬成師”という誉れある肩書を持つその老人にとって、いかに国の命であってもそれは許しがたいことであった。自身の持てる技術はそのようなものを造るために磨いてきたのではないという憤りもある。だが何よりウォルペンにとって辛く苦しいのはそれを引き受けてしまったことであり、何故跳ね除けなかったのかという後悔であった。
彼が唾棄すべき依頼を受けたのはかれこれ二週間ほど前のことであった。
ホルアドの方で勇者を含む神の使徒一行がオルクス大迷宮にて実戦訓練をするということを錬成師仲間から聞き、しかしその後どうなったかが全く分からないことにどこかきな臭いものを感じていたウォルペンであったが、そんな時、勅命により彼含む筆頭錬成師全員が王城へと呼び出されることとなった。
オルクス大迷宮から戻ってきた神の使徒の武具の修復や新造といったものであればいいが、と考えながら出向いた訳だが、そこで下された命に愕然としてしまう。
――聖剣及び聖鎧のイミテーションを作成せよ。
その場にいたすべての筆頭錬成師がその言葉の意味を理解できないでいた。
修繕や研磨でなく、まがい物を作れ? 何故そのようなことをする必要がある? ならば勇者はいずこに――そう考えた途端、ウォルペンを含む全ての錬成師が二つの結論にたどり着いてしまった。
それは勇者が帰還しなかった、という絶望に等しいものと偽りの勇者を用意することでその事実を覆い隠そうという国の意志の表れである、と。
他の筆頭錬成師よりも先にそれを考えついてしまったウォルペンは茫然自失となってしまう。
とりわけ勇者は別格の力を持っていると城で神の使徒の武具の修理や研磨をしていた時に耳に挟んでおり、魔人族を打倒し得る希望そのものが消えてしまったということがいかな意味を持つのかをウォルペンはわからない訳ではなかった。
(勇者様が単に亡くなられたというならばまだ、まだ良かったと思えるなど……! 本当に行方がわからないというのならばいい。正直それでも十分マシだ!! だが、だが……)
彼だけでなく他の錬成師の脳裏にもある
単にこの国にいられなくなったのならばもうこの際構わない。同盟国であるヘルシャー帝国であってもアンカジ公国へと移ったとしてもどうでもいい。
だが、もし仮に魔人族へと下ってしまったとしたら? それを考えると凄まじい怒りと共にこの上ない恐怖と絶望に誰もが襲われてしまう。
ただでさえ魔物を大量に使役するようになったことで人族の数の有利を覆されてしまったというのに、勇者がそこに行ってしまったら? ただそこにいるだけで士気は下がるし、とりわけ他の神の使徒よりも強い存在を相手に勝てるのかもわからないのだ。
だがそれだけではない。それだけならまだ、不敬ではあるがまだ救いがあったかもしれない。他の全ての神の使徒の力を結集すれば勝てるのかもしれないのだから。その力を以てすれば魔人族を倒せるのかもしれないのだから。
――もし仮に
『――して、イアン師は野村様の儀礼用の武具を仕立てよ』
『……は、はっ!』
『そしてジョブ師は仁村様の――』
だがそんな自分達に構うことなく下知は下されていく。名前を呼ばれた錬成師達は慌てて返事をし、承っていく。
『――してウォルペン師は聖剣を作成せよ。よいな?』
『――!……しかと、拝命しました』
そしてそれはウォルペンもまた同様であった。エリヒド王の下知を受け、我を取り戻したウォルペンは顔を青ざめさせたままではあったものの、それに応える。どのような内容であれこれは勅命であり、これに背けば職も筆頭錬成師としての名誉も失われる。自分と共に仕事をしている錬成師達を路頭に迷わせ、彼らが後ろ指をさされることになる。そう考えて彼はそれを承諾したのだ。
……本当は怖くて逃げ出したかった。自身が思いつく最悪の予想から、そこから来る恐怖から。もう考えずにただ無心に何か打ち込めるならそれでもう何でも良かったというのもあった。だが武具の修繕などで国防にも関わっていたウォルペンはそれを受けざるを得なかったのだ。
自分がそれを放棄してもし、自分の知る人間が不安になってしまったら、と考えるとそうするしかなかったのである。たとえそれが現実から目をそらすだけでしかないにしても、彼の人生において最も愚かしい決断であったとしても、そうしなければならないとウォルペンは考えたのだ。
「――俺はそれを間違いとは言えません」
「……そう言ってくれると助かるぞ、オデル」
そして勅命を受けた後、すぐにウォルペンは自身の工房へと戻り、今回受けた勅の内容を部下全員に述べた。
無論、アディンといった自分の仕事にちゃんとプライドを持っている部下達は、彼の意をわかりながらも何故受けたと非難したものの、あくまでそれだけ。彼らとて理解できていたからだ。この勅の重みが。そうせざるを得ない状況であることが。
その後、すぐさま職人をそれぞれの班に分け、作業を分担して進めていった。聖剣そのものは宗教画に描かれていたこともあったため、それを参考にしながらも儀礼に用いるという役割上ある程度華美なものとして造り上げていった。
そうして出来上がったのは二日ほど前のこと。元々半月後にパレードが予定されていたため、いなくなった勇者の代わりをでっち上げるためにも急いで仕上げたのである。こうして全員が全力で作業に取り組んでくれなければ間に合うことは無かっただろう。出来栄えとて決して悪いものではない。
「……俺達は、一体何を作ってしまったんだろうな」
だが後悔が残らなかった訳でもなかった。
自分達が作ってしまったものは単なるまがい物なのか。それとも偶像の勇者なのか。はたまた王国の暗い未来を覆うだけの膜でしかないのか。その問いに答えてくれる者は、誰もいなかった。
「――よし、本日の実戦訓練はこれまで!!……全員、よく頑張った!」
騎士団長の一言で張っていた緊張の糸は幾らか緩んだものの、永山も彼を仰ぐ野村達もまだ気を抜かなかった。既に騎士団や神殿騎士が索敵を済ませており、周囲に敵影がないとわかっていても、だ。
神の使徒も自分達七人だけになったことでオルクス大迷宮を攻略する速さは落ちてこそいるが、その分濃い経験を積めるようになったことで彼らの精神はより戦士のそれへと近づいていたからである。そのため未だ敵地の中である大迷宮の中で軽口こそ叩いても、気を緩めるということは誰もやっていない。
そして今回参加した一同と共に、誰一人怪我することもなく今いる三十七階層から地上へと向かっていく。途中、討ち漏らした魔物が襲い掛かってきたものの、今の彼らであれば難なく排除できる相手しかおらず、その歩みが止まることは無かった。
今回も無事に入り口まで戻ることが出来、受付をやっていた人間や見張りからも『流石は神の使徒様だ』と褒め称えられて内心気を良くしながら彼らはホルアドの宿へと歩いていく。ここまで来れば流石に気を張ることもなく各々が思い思いに会話をしている……ただ、永山グループの皆はどこか暗い面持ちであった。
そうして宿まで戻り、一同を食堂に集めた後、騎士団長のクゼリーが告げる。
「これより各員自由時間とする……見事だった。流石は神の使徒様だ。貴公らを指導できることを私は誇りに思う」
「……なぁ重吾。やっぱりクゼリーさん、変じゃないか?」
解散後、割り当てられた部屋に戻る途中であった野村は親友の永山に問いかける。その顔を一瞥すれば、やはり不安に襲われていたようであった。
「……あぁ、そうだな」
永山は
「そう思うよな? やっぱりあの日以来じゃないか? クゼリーさんがやたらと俺達を手放しで褒めるようになったのって」
先の質問に同意すると、また問いかけてきた野村に対し、永山は自分の心の内を悟られないよう視線を前へと向けながらそれにうなずく――やはり“あの日”から何もかもがおかしくなってしまった、と考えながら。
あの日、とは彼らが光輝達と一緒にオルクス大迷宮へと向かい、そして彼らと別れ、命からがら戻ってきた日のことであった。
『今回のことは直談判させてもらう!!』と大迷宮から戻った次の日にはもうクゼリーは馬を走らせ、王城へと向かっていった。そして永山達は朝食をとった後、馬車に揺られながらゆっくりと戻り、その日の昼頃には城門へとたどり着いた。そこで一日養生した後、翌朝からまた訓練が再開することとなったのだが、その時にはもう人が違っていたのである。
『――あぁ、戻ったのだな
自分達への態度があからさまに軟化していたのだ。宿を発つまでは自分達を修正してやるとばかりの態度であったそれは憑き物が落ちたかのように穏やかになっており、また自分達のことは苗字呼びであったはずなのに“使徒様”などと呼んでいる。これには誰もが違和感を覚え、一体何があったのかと尋ねるとニコニコと微笑みながらクゼリーはこう返したのだ。
『あの後エリヒド王と教皇に話をしに行ったのだが、処分に関しては追々となってしまってな……自室に戻って憤っていたのだが、そこで教皇の遣いが来てくれたのだ。私のために話の席を設けてくれてな。そこで今回あったことを話し、教皇から説法を受けた際に感激したのだ――人間誰しも過ちを犯す。それを寛大なるエヒト様は許した、と。本来ならば
意味が、わからなかった。
あれ程怒りを露わにしていたクゼリーが、自分の訴えが退けられたことで怒り狂うのならまだしも、それがたった一日で、それも話を聞いただけで霧散するようなものには思えないし、そういう人物ではないと短い付き合いながら永山達は理解できていたからだ。
だからこそ怖かった。自分達が糾弾されることなく、穏便に終わったことは嬉しいが、こんな結末を迎えるなんて誰も思わなかったからだ。そうして不安になった彼らは『きっと明日になったら元に戻るはず』と根拠のない考えを浮かべながらも訓練をこなしていく……事あるごとに褒めてくるクゼリーの態度に薄ら寒いものを感じながら。
「……今日までずっとあんな感じだ。いや、むしろもっと悪くなってんじゃないか? その内俺らを崇拝しそうでなんか、なんか怖いんだよ……」
「…………あぁ」
怯えを見せる野村に永山はただ一言だけしか返せなかった。自分もまた恐怖を感じていたのだから。知らず知らずのうちに袋小路に追い詰められているかのような心地がして気が気でなかったのだ。
「なぁ重吾、後で王様に相談してみようぜ。クゼリーさんの様子が変だってさ。今のお前だったらきっと話を聞いてくれるだろうし」
「……あぁ、そうだな」
先日のパレードでお飾りとはいえ“勇者”として扱われ、こうして対外的には勇者――本来勇者であった光輝は“剣王”という天職の少年として既に流布されている――となった以上、自分達の訴えを
「……はぁ」
そして一人、部屋のドアを閉めると永山はベッドに腰かけて大きくため息を吐く。約束のことも考えればすぐにでも着替えるべきなのだろうが今はそうしたいと思えない。
「……俺は“勇者”だからな」
クローゼットに入った服は上等なものであり、普段着というよりは平服の類であった――永山は求められているのだ。ハイリヒ王国の有する戦力の旗頭として。人族の希望として。故に相応の振る舞いを身に着ける必要があった。
それは玉井達や親友の野村もそうだが、街に出るにしても模範となるような行いをしなければならない。“勇者”という肩書を与えられた永山であれば一層それが求められるのだ。これから外に出るにしても威圧感を与えるような今の戦闘時の恰好は許されないし、部屋着といったラフな格好もNGだ。クローゼットの中に入った服を身に着け、“誰にでも優しく”、“勇敢”な青年として動かざるを得ない。その重圧に彼は押し潰されそうになっていた。
(天之河だったら……苦も無くやってのけたんだろうか)
もし失踪しなければ天之河がそれを担ってくれただろう。彼ならばその役割に応じたマナーも所作もあっという間に身に着けるだろうということは永山も容易に想像が出来た。不慣れながらも必死になって一から覚えている自分にとっては今はいない彼が妬ましく、そして今一番欲しい存在であった。
(これで……これが正しいんだよな? 俺は、間違ってなんていないんだよな?)
友人と自分をリーダーとして頼ってくれるクラスメイト達にとって最善の道を選んだはず。そのことに後悔も迷いも無かったはずだった。なのに、なのにどうして、違和感がつきまとい、不安が募るばかりなのか。本当にこれで良かったのかと永山は考える。あの時怒りを堪えてでも、信用出来なくても天之河達と一緒に動くべきだったのではないかという馬鹿馬鹿しい考えが浮かんでしまう。
「……シーナ」
そんな時、ふと自分を慕ってくれるメイドの少女のことを永山は思い出す。彼女なら何と言ってくれるのだろうか。こんな弱音を吐く自分を情けないと思うのだろうか。けれども――。
「シーナ、お前に……お前に会いたい」
いつも自分の話を楽しげに聞いてくれて、ニコニコと笑いながら自分の世話をしてくれる少女が、今は、今はあまりにも遠い。振り向いても彼女はそこにいない。手を伸ばしても彼女のブロンドの髪を撫でれない。そのことがあまりにも辛く、苦しい。
「俺、は……俺は……」
家にも帰れず、自分と同様の苦しみを抱えている親友にも頼れず、心の支えとなってくれた少女もいない。答えの見えない暗闇に沈んだ少年を見ていたのは、部屋に飾られていた蘇芳花とよく似た鉢植えだけであった。
後半は火曜日前後に挙げられたらいいなぁ……と思っております。
多分次回、あるキャラに関して解釈違いが発生するかも……とご存じビビりの作者が早めにゲロっておきます。