あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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では拙作を読んでくださる皆様に盛大な感謝を。
おかげさまでUAも102283、お気に入り件数も708件、しおりも294件、感想数も295件(2022/4/28 6:46現在)となりました。毎度毎度拙作をひいきにしてくださり、誠にありがとうございます。こうして拙作をお気に入りに入れてくれる皆様も、そうでなくとも見てくださる皆様にも頭が上がらない思いです。

そしてAitoyukiさん、Nazuna.Hさん、拙作を評価及び再評価していただき、誠にありがとうございます。これからも皆様の期待に応えられることを願いながら筆を執らせていただきます。

今回ようやく例のメインヒロインにも光が当たる回となりました。いやー、長かったです。ちょっと長めのお話になってますので、それに注意して本編をどうぞ。


四十三話 邂逅

「――いよいよだな」

 

 光輝の言葉に拠点にいた全員がうなずく。

 

 ――『果物狩り事件』で全員が我を失ってしまい、それを恥じた光輝達はその後戦いを楽しむことなく階層を進んでいった。恵里と四馬鹿に関しては微妙であったものの、特段調子に乗ることもなく、冷静に対処していたこともあってメルドに叱られることもハジメ達から咎められることもなく、食事の席でも気まずくなることも無かった。むしろかまぼこ作りや五右衛門風呂完成の時などで一緒になって馬鹿騒ぎまでしたぐらいである。

 

 そうして二尾狼や蹴りウサギ、爪熊がいた階層を一階層目とすると、現在五十階層目まで進んでいた。今の彼らの内、何人かのステータスを例に挙げるとこのようになっている。

 

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中村恵里 16歳 女 レベル:41

 

天職:闇術師

 

筋力:620

 

体力:640

 

耐性:550

 

敏捷:610

 

魔力:660

 

魔耐:660

 

技能:闇属性適正・闇属性耐性・気配感知[+特定感知]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力]・風爪・夜目・遠見・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

 

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南雲ハジメ 16歳 男 レベル:38

 

天職:錬成師

 

筋力:530

 

体力:580

 

耐性:510

 

敏捷:630

 

魔力:470

 

魔耐:470

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・気配感知[+特定感知]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力]・風爪・夜目・遠見・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

 

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天之河光輝 16歳 男 レベル:43

 

天職:勇者

 

筋力:700

 

体力:720

 

耐性:660

 

敏捷:760

 

魔力:680

 

魔耐:680

 

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読み・高速魔力回復・気配感知[+特定感知]・魔力感知・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力]・風爪・夜目・遠見・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・限界突破・言語理解

 

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 ……といった具合だ。

 

 誰も彼も光輝程高いステータスにこそなっていないものの、どいつもこいつも高いステータスの数値は600を超えているのが普通で、低い数値でも大体500前後といった具合になっていた。これを見たメルドは『……手段の確立と忌避感をどうにか出来るのなら魔物の肉を食べた方がよほど戦力増強になるな』と遠い目をしながら語っており、それを誰もが何とも言えない顔で見ていたりする。

 

 閑話休題。

 

 現在彼らは拠点にてテーブルを囲んであることについて話し合っていた。

 

「マッピングも完了。ここの魔物の肉も全部食った。後は例の“門”だけだな」

 

 “門”という言葉に全員がうなずくと、全員が気を引き締めた様子でお互いに見つめあった。

 

 龍太郎が述べた通り、既にこの階層でやるべきことは()()全て終わってしまっている。下へと続く道も既に見つけていた彼らであったが、ある場所だけは手つかずのまま放置していたのである。

 

 それは脇道の突き当りにある空けた場所のことであり、そこには高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

 それを見つけた恵里達の班全員がその空間に足を踏み入れた瞬間全身に悪寒が走るのを感じ、これはヤバイと一旦引いたのである。もちろんこの事は全員に話し、後で装備を整えて次の階層へといつでも逃げれるようにした上で対応しようということになった。それが今だ。

 

「武具の修繕も全部完了、弾薬の補充も終わってるよ。後は……“新兵器”のチェックも終わってるからいつでも大丈夫」

 

 ハジメの言葉に全員が自分達の武器や防具などを見てうなずいて返した。こうしてオルクス大迷宮を潜っている間、ちゃんと合間合間に全員の武具のアップデートもハジメがしっかりとやってくれていたのである。

 

 性能はほぼ全てが向上しており申し分ないものとなっているが、光輝の持っていた聖鎧に関してはハジメの腕を以てしてもあまりいじれず、聖剣に関してはちょっとした調整ぐらいでしかない。とはいえ既に十分すぎる性能ではあったし、光輝もハジメの腕を信用しているため、特に何も言わなかった。

 

 なおその代わりにこちらの方が光輝も使いやすいだろうと考えて新たに作った刀を光輝に進呈しようとした際、やたらと聖剣がチカチカ光り出したため、コレに意志があることが発覚していたりする。放った光は地味にまぶしく、遺憾の意の類だろうと全員が推測している。ちなみに刀は新たに一振り作って雫と浩介の予備の武装ということでハジメが管理していた。

 

「確かサブマシンガンだっけか? しかしよくまぁ作れたよな」

 

 浩介の言葉にハジメも『まぁね』と頬をかきながら答える――当初は機関砲を作る予定であったのだが、持ち運びの観点から断念してこちらの方に着手したのである。

 

 にわか雨を意味する“シャウアー”という名前がついたそれは試射の段階で電磁加速も試しており、連続で発射される電磁加速した銃弾の反動に耐えられるフレームの強度も破壊力も検証済みである。ただし、弾倉二つ分使ったらもう銃身が焼け付いてしまうためあまり無理は出来なかったりするが。

 

「なら問題ないよね……よし、行こう皆。多分この先にボクとハジメくんと鈴が探してたヤツがいるはず――お願いします」

 

 そう言って恵里はハジメと鈴と一緒に頭を下げる。実はここに来るまでの間、トータス会議でも話題となった“金髪の少女”のことも全員に話していたのである。エヒトを信奉しているメルドがいる手前、少しぼかしながらも恵里の魂を治すためのキーマンであることを打ち明けたり、彼女を探すこともここに来た目的であると語ったのだ。

 

 それを聞いた光輝達は皆驚き、三人の抜け目のなさに感心したり呆れていた。とはいえその少女を探すことも保護することもメルド含めて全員が賛成しており、おそらくあの門の先に幽閉されているのだろうと全員があたりをつけていた。

 

「なぁ中村、マジで俺が口説いていいんだよな?」

 

「は? 何言ってやがんだ大介。ソイツは俺が口説くんだぞ」

 

「おいアホ礼一に馬鹿大介。その子は俺の彼女予定だから。お前らのじゃねーから」

 

「ふざけんな馬鹿三人。将来の俺の彼女勝手にかすめとるなクソが」

 

「あー、うん。別に誰が口説いたっていいよ……ハジメくんにつく害虫はいらないからね」

 

 なおその際、六馬鹿に『別にソイツを彼女にしてもいいよ。ていうかやって』と頼み込んでいたりする。鈴なら一緒に幸せになろうと思えるだけで別に浮気を許した訳ではないし、いくら自分を助けてくれるかもしれない存在といえどハジメを狙うような女なんぞハエ扱いで十分だと考えていたからである。

 

 ちなみにその話を切り出した際にハジメと鈴から大いに呆れられ、光輝達からは信じられないものを見るような目で見られて恵里は割とへこんだ。

 

 また浩介も幸利も弱みに付け込むようで罪悪感が湧いたことからあまり乗り気ではなかったが、四馬鹿どもはノリノリであった。三組ものカップルを見続けていたせいで女に飢えたということもあったが、やっぱり根っこはまだまだろくでなしのままである。

 

「まったく大介も礼一も信治も良樹も……お前達は……まぁともかく、準備が出来たのなら行こう。目標は門の突破、そしてその先にあるものの確認だ!」

 

 ため息を一度吐きながらも、光輝は全員を見ながら指示を出す。同時に鬨の声が上がり、トレントモドキ以外の()()が拠点を後にするのであった。

 

 

 

 

 

「イナバちゃん、そっちは何か匂うかしら?」

 

「クンクンクン……キュ! キュキュ!」

 

「うんうん。匂いがするのね。じゃあイナバちゃん、それって生き物のニオイかしら? もしそうなら右の前足だけ上げて。違ったら両足ね」

 

「キュゥ!」

 

 門の方に鼻を近づけて臭いを嗅いでいたイナバに雫が質問をすると、小刻みに頭を縦に動かして同意を示した。続けざまに問いかければイナバも右足を上げて手招きをするようにクイクイと動かす。そんな愛らしさ満点なイナバを見て雫の心はまたしてもきゅんきゅんする。

 

「~~~~~~~~~!! あーもう可愛い! 流石、流石よイナバちゃん!!」

 

「ギュ、ギュゥ゛……」

 

 辛抱たまらず思わず抱きしめて頬ずりをすれば、イナバも苦し気に鳴き声を上げて助けを求める――そう。今回の探索()イナバは参加していたのである。

 

 イナバがこうして雫達と行動をするようになったのは階層が十ほど前の時のことであった。ずーっと拠点の中にいて暇で暇で仕方なかったらしいイナバが、狩りに行こうとする恵里達の後をついていこうとしたのだ。

 

 アニマルセラピー目的で連れてきているイナバが怪我したらたまったもんじゃないと女子~ズだけでなく男子~ズも猛反対してイナバを上手いこと置いていったり、ダメだと言い聞かせたものの、それでも諦めなかったイナバが渾身のあざとい仕草をキメ続けたのだ。切な気な声と顔で鳴いたり、帰ってきた雫や鈴の足に頬をすり寄せたり、食事が終わったらすぐに女子~ズ全員の許を回って甘えに甘えるなどをして悩殺したのである。

 

「ま~た雫がイナバちゃんに甘えてる……また嫌がられるよ、もう」

 

 そこでちゃんと誰かが見ていることを前提に、戦力の増加となるならと恵里とメルドからも了承をもらって連れていくこととなった。当初はそこまで期待してなかったものの、面白半分に何度も神水を飲ませたり、日々激化する大介達とのナワバリ争い――原因はイナバが寝る時以外は勝手に大介達の使うソファーを占拠しようとしていることである――によってあまり戦いのカンが落ちていなかったこともあってか色々と重宝しているのだ。

 

「で、でも……ちゃんと出来たらほめないといけないし……」

 

「何事も限度があるしょ、ていっ」

 

 と、相も変わらずデレッデレな様子でイナバを可愛がる雫に、鈴は結界を器用にハリセン型にしたもので軽く小突いた。あぅ、と短く悲鳴を上げて腕の力が緩んだところでイナバは鈴の方に飛び込み、彼女の両腕にポフンと収まった。

 

「雫……この前やっとイナバが機嫌を直したばかりだろ? また可愛がり過ぎるとしばらく寄り付かなくなるよ。ほら」

 

「うぅ……ごめんね、イナバちゃん」

 

 呆れと苦悩、そしてちょっぴりイナバに嫉妬しながらも光輝は雫を注意すれば、雫もまたイナバに頭を下げた。光輝としてもあまり彼女を泣かせたくはないと思っていたのものの、これを許していたら将来雫のためにならないと心を鬼にしてキチンと言う。それを雫もわかっていたため反論はしない。ただ、自分の半身が引き裂かれたような思いでイナバを見つめるだけであった。

 

(……なんだろう。将来光輝君と雫の間に子供がもし出来たら絶対雫がダダ甘やかしにして光輝君が苦労する未来が見える)

 

 そしてそんな様を幻視した鈴はイナバの頭を何度か撫でながらそんなことを考えていた。雫がダメなママにならないように頑張れー、と内心光輝を応援していると、聞きなれた足音が鈴の耳に入った。

 

「相変わらず雫もイナバには甘いよねぇ……アレ、絶対子供をダメにする親になるよ」

 

「あ、恵里……そういう恵里も人のこと言えなさそうだけど」

 

「うっさい、鈴――とりあえず中に何かがいる、ってのは確定したね。じゃあこの門をどうにかして開けないと」

 

 念のため周囲を索敵していた他のメンバーに声をかけ、門の突破に移ろうと提案する。誰もがそれにうなずいて同意し、目の前の門を見据える。

 

「パンドラの箱、かな。希望が残っててくれるといいけど」

 

「希望以外のものもまだ詰まってたとしても開けるしかない。そうだろ?――皆、行こうぜ」

 

 ふとハジメが心配と緊張の入り混じった様子で漏らした言葉に、幸利が門をじっと見つめながらそう言った。その言葉に誰もが心の中でうなずき、それぞれ配置につく。一番体が頑丈な龍太郎が門を開けるのを担当し、鈴と香織がいつでも結界を張れるよう準備、他は周囲の気配をうかがいながら待機するという形である。

 

「うん? 何かくぼみがあるぜ?……なぁ皆、これにはまりそうなヤツって何か見かけたか?」

 

 そうして門に手をかけようとした時、ふと龍太郎は門に二つのくぼみがあることに気付いた。そこで気を緩めることなく全員に声をかけるも、誰もが首を振るかあるモノ――門の両隣にある守護者のようなオブジェに視線を向けていた。

 

「アレだよね……」

 

「アレね」

 

「アレだよな」

 

 いかにもなオブジェに多くが怪訝な目を向けている。そこで押しても引いても全然ビクともしないことから龍太郎も一度門を開けるのを諦め、皆の元へと戻ってすぐさま作戦会議へと移った。

 

「何をくぼみにはめるんだろうな。首か?」

 

「いや、首にしちゃちょい小さいな。あの門番、一つ目っぽいし目ん玉じゃねぇか?」

 

「でもあんないかにもな形してるし、何かの拍子に動くかもしれないね。倒した時に落とす物かもしれないけど……どうする? 先制して倒す?」

 

「いやー、ちょっと可哀想だよ……でもどんなのが相手かわからないし、不安な要素は削っといた方がいいね」

 

 と、色々と相談した結果……。

 

「えーと、その……空気が読めてなくてごめんなさい」

 

「うん。鈴達が悪いと思って許して」

 

 本来ならもっとちゃんとしたイベントの後に現れるであろう門番に向けて鈴と香織は頭を下げると、光系中級防御魔法である“聖壁”の発動に移った。

 

 もちろん自分達を攻撃から守るためでなく、その強力なバリアを刃に見立てて相手を切るという二人の唯一と言っていい攻撃手段として使うためだ。

 

「「“聖壁・刃”」」

 

 さながら断頭台の刃のように半月状に作られた計八つの光の刃は、たたずむ二つの門番の彫刻の肩口と足の付け根を同時に切り落とさんと迫る。ギリギリ死なない程度にダメージを与え、戦闘態勢に移行した直後に仕留めるスタイルであった。

 

――オォォオオオオオオ!?

 

 その直後、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた……肩と股関節の辺りが深々と切られた状態で。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌も暗緑色に変色していたが、それも倒れ込んだ際に傷口から吹き出た鮮血で段々と赤く染まっていく。

 

「……罪悪感すごいわね」

 

「うん。不意打ちってやってる方はこんな気分になるんだ」

 

 『嘘だろコイツらマジふざけんなよ!?』と言わんばかりの表情をしている巨人を見て優花と奈々はつぶやく。トレントモドキを狩っていて悦に入っていた時のことを思い出した時以来の気まずさで、大介達でさえもやり過ぎじゃないかと思ってしまうレベルの惨劇が目の前に広がっていた。

 

「別にあっちに合わせてやる必要なんてないよ、優花も奈々も。はいとっとと死んだ死んだ“堕識”、“隆槍”」

 

 そして特に罪悪感を感じてない恵里は容赦なく“堕識”で二体の意識を幾秒か奪い、その隙に“隆槍”で地面から岩の槍を生やして首を貫いた。血も涙もないダーティな戦法になす術もないまま一つ目の巨人達は死んだ。ついでに場の空気も死んだ。

 

「ちょっと“堕識”の効きが悪かったけど倒せはしたね……さて。コイツらも倒したことだし、扉が開くかどうか調べよっか。ね?」

 

 そんな惨劇を引き起こした張本人である恵里は、上機嫌な時にいつも見せる笑みを浮かべながら門へと歩いていく。それを見た全員の表情は言うまでもなく引きつっていた。

 

「……相変わらず敵だと考えたら容赦ないね、恵里ちゃん」

 

「ごめんなさいサイクロプスさん達……でも僕達も死にたくなかったし、死ぬわけにはいかなかったんです」

 

「……まぁすぐに動かなかったアイツらが悪い、ってことにしとこう。そうしないと俺らが罪悪感で死ぬ」

 

 誰もが言い訳をするように独り言を吐きながら門と門番の死体を検分していく。

 

 門は相変わらず押しても引いてもどうにもならなかったため、こうなったら土属性の魔法か錬成で門を変形させるかと恵里や龍太郎らが考えていた時、ふとハジメが『魔石をくぼみにはめたら開くんじゃないかな?』と言ってきたため、とりあえずやってみようということで実践。光輝、雫、浩介、大介、メルドといった剣や刀を扱うメンツや結界を刃代わりに使える鈴、香織らを中心に全員で解体してどうにか魔石を摘出。その後の処理は光輝と奈々に任せることに。

 

「……カニバリズムになるのかな、コレ」

 

「かも、しれないな……でも選り好みをしたせいで死につながるぐらいなら我慢した方がいいさ。最悪俺が指示した、って体にしとけば――」

 

「えいっ」

 

 奈々の尤もな疑問に苦い表情をしながら光輝が返すと、奈々はすぐさま彼の頬を指で突っついた。そちらの方を光輝が見れば奈々は腰に手を当てていかにも怒ってますという風で彼をたしなめる。

 

「ダメだよ光輝っち。私達のために気を使ってくれてるのは嬉しいけど、それ雫っちが悲しむからね」

 

「……ごめん。じゃあ早速やろうか、奈々」

 

 雫のことを出されては返すに返せず。相変わらず雫が弱点であることを自覚しながらも光輝は奈々と一緒に氷属性の魔法“冷結”を発動する。五つほど前の階層辺りから使えるようになった魔法であり、もっぱら肉の冷凍に使っている。

 

 結構な勢いで凍るし、しかも中々解けないこともあってか肉の保存にピッタリなのだ。贅沢かつ間違った使い方で二人は活用していた。

 

「こっちは開いたぞー!! とりあえず誰か門を固定していてくれ。いきなり閉じると困るしな」

 

「そうね浩介君。だったら何人か門の近くで待機しておいた方がいいわね。じゃあ誰が残るか話し合いをしましょう」

 

 そうしてどのメンバーが中に突入し、誰が残るのかを話し合いで決めることに。いきなり門が閉まったり背後から強敵が現れることも鑑みて、光輝と雫、龍太郎と香織といった主力メンバーに器用に立ち回れる優花、奈々、妙子と幸利は門を固定し、そこで周囲の警戒に回ることになった。そのため――。

 

「確か美少女だ、って言ってたけどどんな奴なんだろうな」

 

「中村のヤツ、テキトーこいたら許さ……あ、すいませんごめんなさい何でもないです」

 

「ババアくんなババアくんな……」

 

「おいロリ介。オメーの場合小学生より上は全部ババアだ、って前に言ってただろうがよ。どんだけストライクゾーン狭いんだテメー。ま、そん時は俺らのもん、ってことで」

 

「はいはい。おしゃべりはその子を助けてからにして。どこから敵が出てくるかわかんないんだし」

 

「四人ともー、あんまり気を抜いちゃ駄目だよー」

 

「んーと、今のところ気配は奥の方に一つだけ……あ、でもどっかに潜んでるかもしれないな」

 

「クンクン……キュ、キュー」

 

「イナバちゃん、やっぱり匂いがするんだね……上からも、なの?」

 

「なるほど。気配は一つだけだが臭いは誤魔化せんということだな――よし、全員上からの襲撃にも警戒してあたれ!」

 

 恵里、ハジメに鈴といつもの四馬鹿に浩介、そしてイナバとメルドが向かうことになった。そして突入班の彼らが行く前に待機班の光輝達が門を大きく開けて固定し、恵里達が中に入ろうとした時に門の奥、部屋の中央から声が聞こえた。

 

「……だれ?」

 

 かすれた、弱々しい女の子の声に突入班と待機班どちらも反応すると、声が聞こえた屋の中央の方へと視線を向ける。すると、先程の“生えている何か”がユラユラと動き出し、差し込んだ光がその正体を暴く。その正体は人であった。

 

 上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が(のぞ)いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

「こんな……こんなのって……」

 

「一体誰が……誰がこんなことを……」

 

「……見た目最高だけどややババアめ? いやギリストライクゾーン。あ、でもそれはともかくとしてまずは――」

 

 多くがその姿の痛ましさに唇を嚙み締めたり、強く手を握る中、ぶつぶつと何か独り言をつぶやいていた大介がいきなり猛ダッシュして土煙を上げながら少女の元まで走っていく。

 

「おい大介! 上に魔物がいるかもしれんのだぞ!!」

 

「あ、大介ズリぃ!!」

 

「あのクソ野郎! 抜け駆けすんじゃねぇってんだ!!」

 

「おいロリ介ぇ!! 後で半殺しにしてやるからな!!」

 

 メルドの制止も聞かずに全力ダッシュをキメる彼を見て礼一達が騒ぎ立てるも、それでも大介は止まらず。すぐに少女の元まで駆けつけると、キキィと甲高い音を立てて止まると同時に彼女にひざまずき、頬を染めながら少女に言葉をかける。

 

「い、いい、今すぐ俺が、その……た、た、たた、助ける、から付き合ってくれぇ!!!」

 

「…………は?……え?」

 

 女に飢えたウブなロリコンはかくも変に大胆になるのか。そんなことを考えながら恵里達は頭を手で抑えながらため息を吐き、件の少女は間抜け面をさらしていた。

 

「……ホントブレないな、大介。んじゃ俺達も――」

 

「待った!――ここは俺がやる。俺一人で助けて好感度上げんだよ! お前らは邪魔すんな!!」

 

 そして最低の動機と共に自力で何とかすると述べればハジメと鈴と浩介は思いっきり渋い顔を浮かべ、恵里も心底呆れる他なく。礼一達は『いいぞやれやれー』と大介の自滅待ちに移り、メルドは独断専行を決める大介に向けて青筋を立ててイナバはいつもの四馬鹿の様子を見て鼻で笑った。無論礼一達はキレてにらみ返し、鈴もめっ! とイナバを叱った。

 

「……え、と……ほん、とう……?」

 

「お、おうよ!! 俺強いし……これぐらい余裕、うん超余裕で助けられるし――“穿土”ぉ!!……あれ?」

 

 大介は啖呵を切ると同時に拠点作りでよく使う、穴をあける土属性の中級魔法である“穿土”を発動する……が、少女を拘束する立方体は抵抗するようにその魔力を弾いた。まるで蹴りウサギ達がいたあの階層で、ハジメが上へと続く道を作ろうとして失敗した時のようであった。

 

「おーい、大介くーん。今なら助けてやってもいいぞー?」

 

「あ゛? うるっせぇ!! 俺一人でやるっつってんだろ! こんの……こなくそ!!」

 

 信治から茶々を入れられるも、大介は諦めることなく魔法を発動し続ける。すべては目の前の金髪の美少女を手に入れるため、と下心全開で更に発動し続ければ徐々に少女を捕えている立方体がわずかに、徐々にだが変形していった。

 

「ふんぬぎぎ……も、もう無理! 魔力が空になる!!」

 

 既に上級の魔法と同じくらいの魔力を注ぎ込みながら“穿土”を発動し、立方体を変形させていたものの、このままでは少女を解放する前に魔力がスッカラカンになってしまうと大介は感じ取っていた。すぐにでも神水を飲みたいが、下手に集中を解いたらもうこれ程集中して魔法が発動出来なさそうで引くに引けず、情けない悲鳴を上げる他無かった。

 

「“穿土”!……悪い大介、俺も手伝わせてくれ」

 

 そんな時、影が薄めの親友の声が大介の耳に届いた。振り向けば、仕方ないなぁと言いたげな顔で加勢してくれた浩介がそこにいた。

 

「浩介ぇ……マジでありがとよ!」

 

「あぁ。それじゃあ早速――」

 

 親友をないがしろにした事を内心恥じながらも礼を述べ、一緒に少女を助けようとした時、更に幾つもの足音が響いてくる。また振り向けばいつも馬鹿やってる三人が、いつも世話になっている三人が来ていた。

 

「ったく根性ねぇなぁ大介ちゃんはよぉ……仕方ねぇから俺らも手伝ってやるよ!」

 

「手伝ってやる代わりに、俺らにも口説くチャンス寄越せよ!」

 

「しっかり恩に着ろよー大介。あとついでに浩介もな」

 

「大介君、ごめんね! 恵里の説得にちょっと時間がかかった!!」

 

「ごめんね二人とも! 鈴もこれから頑張るから!」

 

「ったく、ハジメくんに余計な虫がつく可能性は少しでも低くしたいってのに……感謝してよね!」

 

 友人を助けることへの気恥ずかしさからかいつものような憎まれ口を叩く礼一達や素直に詫びるハジメと鈴、そして自分の都合をいつも優先する恵里も手伝いに駆けつけ、すぐさま全員で“穿土”と“錬成”を発動する。

 

「お前ら……先生……! っしゃオラぁ!! 絶対助けてやるからな!! 待ってろ!!!」

 

 友人に助けられる気恥ずかしさとありがたさを感じながらも大介も残りわずかな魔力を女の子を封じる石に向けて使っていく。

 

「くっそ……こりゃ大介が苦労するはずだよ!!」

 

「土属性に適性の高い浩介でコレかよ! ったく、面倒だな!!」

 

「知ったことかよ! コレぐらいぶっ壊せないでここの突破なんざ出来るか!!」

 

「そうだそうだ! 大介一人じゃ無理でも俺らと先生にかかればなぁ!!」

 

「はは……皆の信頼には応えないとね!!」

 

「中々キツいけど、でも!」

 

「ま、これぐらいならどうにかなるでしょ――いっけーーーーー!!!」

 

 ハジメは専門家である“錬成”を使い、浩介は土属性に適性の高いものの、他の面々にとってこの属性はお世辞にも高い適性を持っているとは言えない。だが、使い慣れたこの力が、少女の戒めを解いていく!!

 

「コイツで、どうだぁーーーー!!!」

 

 叫びと共に大介は最後の魔力を振り絞って“穿土”を維持する――遂に、女の子の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出していく。

 

「―――――っ! よっしゃぁ!!」

 

 魔力も底をついてしまい、倦怠感に襲われた大介は尻餅をつく形でその場に座り込む。だが、晴れ晴れとした顔で雄叫びを上げ、同じく疲れた様子の浩介や礼一達、恵里達を見て、グッと親指を上げる。そして解放された少女を見て大介や礼一達は思わず見とれてしまう。

 

 一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。髪の艶は幾らか失われているものの、それでも部屋から差し込む光によって照らされた金の髪は未だに美しい。髪に隠れて中々見えない紅の瞳もくすんだルビーのようであり、生気を取り戻せば何物をも凌駕する輝きを放つであろうことが容易に想像できる。

 

 体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んでいる少女を見て大介だけでなく礼一達と浩介も思わず唾をのむ。立ち上がる力こそ無いらしいが、それ以外にこれといった異常も無いらしい。そんな少女を見て礼一達がホッとしていると、鈴の声と共に体に力が戻ったかのような具合となった。

 

「“譲天”――はい。とりあえず檜山君以外はこれで大丈夫だよ。そっちは神水飲んだ方が早いだろうしそうして」

 

「サンキュー、谷口。悪いな、そっちもあんま余裕ないだろうに」

 

「全員神水飲むよりはマシかなー、って思っただけだよ。別に気にしないで」

 

 他者の魔力を回復させる魔法、“譲天”を鈴が使用したのだ。ポケットから一本神水入りの容器を取り出すと、すぐに端を砕いて一気に飲み干していく。連続の魔法の行使で鈴の方も魔力が尽きてしまったらしい。礼一達が口々に礼を述べる中、ハジメは自分の分の神水の容器を取り出し、端を指で砕いてから大介の方へと歩いていく。

 

「はい。お疲れ様、大介君。すごかったよ」

 

「サンキュー、ハジメ……あ゛~、染みるぅ~」

 

 息も絶え絶えの大介であったが、渡された容器の中身を煽るとすぐに体に活力と魔力が戻っていく。ハジメに向かってニカっと笑みを返すと、大介は座り込んでいた少女に手を差し伸べようとする。

 

「――ぁっ」

 

 差し伸べられた手を見て思わず声を漏らすも、大介は構うことなく手を伸ばしたまま……と、そこに礼一達も加わって来た。

 

「オイコラ大介テメェズリぃぞ。なーに抜け駆けしてやがんだ」

 

「は? 俺が最初に声かけたんだけど? 助けてくれたのは感謝してるけどよ、後からしゃしゃり出てきたお前らが何言ってやがんだ? あ?」

 

「は? 俺らにもチャンス寄越せ、って言ったよな? だったら俺にも口説くチャンスあるだろ――あ、礼一と良樹と浩介は下がってていいぞ。後は俺がやっとくから」

 

「何しれっと俺ら引っ込めようとしてんだ便利屋信治クンはよぉ~? テメーいっつもいっつも火の番して女子からチヤホヤされてんじゃねーか。それで我慢しろよ、な? ここはこの俺、斎藤良樹の番ってもんだろ。何せ俺はあの毒ばっかの階層で大活躍したからな、だ・い・か・つ・や・く。お前らは命の恩人である俺に免じて、機会を譲ってくれればそれでいいんだよ」

 

「いやそれ割と前のことじゃんかよ。そりゃ感謝してるけどさ……それよりも。なぁ大介、礼一、信治、良樹。俺はな、ガキの頃からずーっと、もうずーっと幼馴染三組のカップルの甘ったるい空気にあてられ続けたせいで毎日嫉妬の炎を燃やしてるんだわ――お前ら親友だよな? だから俺をその炎から助けるためにもそちらの美少女とお知り合いになる権利を譲って――」

 

「「「「いや無理。ぜってー譲らねぇ」」」」

 

 ……そして馬鹿五人の心底醜い争いが始まった。

 

 『テメェ乗り気じゃなかったじゃねぇか浩介ぇ!』だの『俺だって美少女とお付き合いしてーわ!! もうぼっちは嫌なんだよぉおおぉ!!』だの『ぜってぇお前らに渡さないからな!! だって惚れたし! 超惚れたし!!』だの『うるせぇくたばれロリコン! こんな美少女だったら俺だってロリコンになるわ!!』だのと聞くに堪えない言葉が掃いて捨てる程出るわ出るわ。

 

 控えめに言って毒にしかならない言い争いを見る羽目に遭った少女も恵里達も、突入班の様子を遠くから見守っていた光輝達も本気で頭を抱えたくなった――が、それも束の間のことであった。

 

「上から来たぞ! 全員散れぇーーーー!!!」

 

 メルドの怒号混じりの命令と共にこの場にいた全員が散開していく。立ち上がる力のなかった少女は大介が抱えていったため怪我一つない。

 

 イナバの嗅覚のおかげで既に敵がいることはわかっていたし、メルドがいいタイミングで号令をかけてくれたことで誰も怪我をすることなく奇襲を免れた。大介も少女を一度下ろすと、すぐに他の面々と同様に武器を構える。

 

 幽閉されていた少女を助けるための、最後の戦いが始まろうとしていた。




これはただの独り言なのですが、皆様が既にご存知の通り、拙作に聖域とか安全地帯なんてありませんよ?
主役であるエリリンしかり、鈴しかり、ハジメ君しかり。そしてそれは他のキャラであっても同様です。しいて言うなら親~ズ(一部除く)ぐらいがマシなぐらいです。まぁつまりそういうことです。ええ。
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