あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずはお詫びを。目次の部分にも書きましたけれど奈々の親しい相手に対する呼び方が間違ってたんで大慌てで修正かけました。誠に申し訳ございません。

アフターのトータス旅行記⑱をそっくりそのまま見落としてたんです……。とんだ大ポカやらかしました。



……では、改めまして拙作を読んでくださる皆様がたに感謝の言葉を贈ります。
おかげさまでUAも103578、お気に入り件数も709件、しおりも299件、感想も303件(2022/5/3 7:37現在)いただきました。本当にありがとうございます。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。おかげさまで筆を執る力が湧きました。感謝いたします。

ようやくサソリモドキ戦となります。それと注意点として今回は長めのお話となっております。
では上記に注意して本編をどうぞ。


四十四話 光が差し込む時

 現れた魔物は体長五メートル程で四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。一番分かりやすい例えをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。だが――。

 

「はい“縛魂”……っと、なんか結構効きが悪いなぁ。ちょっと維持するの面倒かも」

 

 間髪入れずに恵里が発動した“縛魂”によってあっさりとイニシアチブを握ることが出来た。

 

 だが、魔法のかかりが妙に浅く、まるで強い意志のある人間相手にかけているかのような具合であった。たとえ“縛魂”をかけ続けていてもちょっとした刺激ですぐに解けるだろうと確信した恵里はすぐに全員に注意を促す。

 

「とりあえず“縛魂”はかかったけど、正直あんまり保たないかも……刺激とか衝撃とかがちょっとでもあったら多分すぐ解けるだろうから今の内に移動して」

 

 その言葉にハジメも鈴も大介達も無言でうなずくと、魔物を刺激しないよう全員ゆっくりと門のほうまで動いていき、光輝達と合流する。そしてそのまま後ずさっていき、魔法の射程の問題上あまり動けない恵里の周囲を加工用に全員が配置に着く。

 

「こっちは念のためあの魔物が襲い掛かってこないように“縛魂”をかけ続けるから、そっちの方で作戦の立案しといてくれない?」

 

「ああ。任せてくれ、恵里……それで、どうする? まずは鈴と香織の“聖壁・刃”で手足にダメージを与えてから俺の“神威”で仕留めようと思ってるんだけど、どうだろう?」

 

「とりま作戦は光輝達に任せるとして……コイツを飲めよ。一発で動けるようになるからよ」

 

 恵里は“縛魂”の発動を継続し、様子をうかがうことにして作戦は全て光輝達に任せることに。光輝も力強く返事を返し、その後すぐに作戦会議を始めた。一方、大介は抱えていた少女を下ろし、自分の分の神水の入った容器を取り出し、端っこを砕いて飲めるようにした状態で彼女の口元へと持っていった。少女もゆっくりとうなずくと、口を開けて大介にすべてを委ねた。

 

「これ、って――あなた達は、一体……」

 

「ま、そこら辺は俺達の拠点に戻ってからだな。後は俺らに任せろ」

 

 力のない状態でどうにか嚥下すると、途端に体中に活力が戻ってくる感覚に少女は目を剝く。すると大介は得意気な様子でそう返し、礼一らからの羨望の視線を受けながら光輝達の作戦会議に耳を傾けた。

 

「そうだな……悪くはねぇと思うぜ、光輝。けど、アイツは他の魔物とは段違いに強い。そんな気がする。だからよ、もう一押しあった方がいいんじゃねぇか? やるんだったら確実にやっといた方がいいはずだ――ハジメ、閃光手榴弾はあるよな?」

 

 すぐさま光輝が立案し、敵の強さを甘く見ていない龍太郎がそれに軽く待ったをかける。そこで龍太郎から尋ねられたハジメはそれにうなずくと、すぐにポーチの中から言われた物を取り出して見せる。

 

「とりあえず手持ちは三つ。焼夷手榴弾も二つ持ってきてるし、普通の手榴弾も四つあるよ。それとシャウアーもまだ使ってないからマガジン二つ分の弾はバラ撒ける。後は……錬成があるから、それで足止めぐらいは出来るかな?」

 

 いつも頼りにしている少年が返した言葉に『流石ハジメ』と誰もが思い、なら作戦をより具体的なものにしようと光輝が話を他のメンバーにも振ろうとした時、先程から“縛魂”をかけ続けていた恵里が声を上げた。

 

「ごめん! “縛魂”をかけ続けてるけど、やっぱり洗脳は無理!!――どうする、皆? 神水を何本か使えばもうちょいマシには出来るだろうけど」

 

「いや、十分だ恵里。それと、もう離れても大丈夫そうか? もし大丈夫だったら一度門の外まで下がろう」

 

「余計な刺激をあっちに与えなければね……わかった。すぐ行くよ」

 

 念のために更に深く洗脳をするかどうか提案するもそこまでやらなくてもいいという光輝の判断に従い、その指示に従って恵里は物音を可能な限り立てないように慎重にハジメ達と一緒に門の外へと下がっていく。そして全員が門の外に出て、再度隊列を組み直すとほぼ同時に光輝が新たな指示を出す。

 

「よし――皆、配置に着いたな! 鈴と香織は“聖壁・刃”をアイツの手足の付け根に当ててくれ。俺は“限界突破”と“神威”を使って倒す。出し惜しみをしてたら負けそうだからな。もしそれで倒れてなかった場合は雫と浩介が先行して前衛の皆が突撃、後衛が魔法と銃による援護を。ただ、最悪の場合は……ハジメ、閃光手榴弾を使って一度隙を作ってくれ」

 

 『了解!』と全員が光輝の支持に了承し、すぐさま各々が準備に移る。光輝も全身に紅色の光を纏わせ、“神威”を撃つための莫大な魔力を聖剣に宿す。鈴と香織も魔力を練り上げ、計十の光の刃を出現させる――準備は、整った。

 

「よし! 鈴、香織! 先制攻撃を!!」

 

「わかったよ! やろう鈴ちゃん!」

 

「了解したよ光輝君。うん、行こう香織」

 

 二人は発動した魔法の名前を口にすると同時にその刃を飛ばす。かかしのように突っ立っているサソリのような魔物の手足の付け根目掛けて吸い込まれるようにそれらの刃は向かっていく。しかし……。

 

「嘘っ!? 弾いた!?」

 

「駄目なの!?――光輝君!!」

 

「クッ!――とりあえず“神威”をひと当てする! ハジメ! その直後に投げてくれ!! 鈴と香織は結界の準備を!!」

 

 今までどの魔物にも少なからず効いてきた必殺の一撃である“聖壁・刃”だったが、間抜けな音と共に光の刃は弾かれてしまい、その刺激で虚ろであった魔物の瞳に光が戻っていく。

 

「――“神威”っ!!」

 

「全員、目をつぶって!!」

 

 すぐさま光輝も最強の攻撃を発動し、光の瀑布を叩き込む。それからほんの少し遅れてハジメも閃光手榴弾を投げ込むと、辺りは一気に光に包まれていく。

 

「キィシャァァアア!!」

 

 サソリのような魔物が悲鳴を上げる。だがそれは表面を軽く焦がした一撃でなく、目を潰す程の光が原因でしかないことはこの場にいた誰もが理解していた。光輝の全力の一撃であってもその程度の傷しかつけられず、作戦は失敗に終わったと誰もが理解するのにそう時間はかからなかった。

 

「くそっ……ハジメ! ドンナーと焼夷手榴弾を用意してくれ! どれだけのダメージを与えられるか確認だけでもしておきたい! 香織、鈴!! ハジメの攻撃が終わったらすぐに結界を張ろう! その後でもう一度作戦会議だ!!」

 

「わかった、光輝君! これは、どうだ――!?」

 

 光輝から指示を受けるとハジメはすぐにドンナーを構え、目がくらんで周囲で暴れまわる魔物に電磁加速した弾丸を叩きつけるも、貫くどころかわずかな傷すらつけたようには見えない。しかしそれでも、と焼夷手榴弾を投げ込んで起爆させる。

 

「キシャァァァァア!!!」

 

「流石にちょっとへこむなぁ……! 鈴、光輝君、香織さん! バリアの方よろしく!!」

 

 爆発と同時に三千度で燃える泥をまき散らしたそれは体を焼きこそしたものの、致命傷になってるようには到底見えず。自信作だったのに大したダメージにもなっていない、と密かにプライドに傷がつきながらもどうすればいいと考えるハジメ。しかしそんな彼にわずかばかりともダメージを与えられた魔物は激昂し、叫び声を上げながら尻尾の先端をこちらへと向けてきた。

 

「了解だ、ハジメ! 行くぞ二人とも!」

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

「「「“聖壁”!!」」」

 

 怒り狂った魔物は尻尾の先端から針を射出すると、それは途中で破裂して散弾のようにばら撒かれ、三人の張った結界へと降り注いでいく。

 

「ぐっ!! これは……!」

 

「も、もう二枚割れちゃったよ!?」

 

「残る一枚もボロボロ……もう一度張り直そう!」

 

 それぞれが一枚ずつ張った光の壁もたった一撃で二枚が砕け散ってしまい、残る一枚も穴まみれでズタボロとなっていた。幸いにも三枚の壁のおかげで勢いが完全に死んでいたため、誰かに当たるということは無かったが、それでもあの針の威力は尋常でないことだけはこの場にいた全員が嫌というほど理解できた。

 

 だがサソリのような魔物の攻撃はまだ止まらず。もう一本の尻尾から紫色の液体を出し、張り直した三枚の壁の一枚に当たると同時にそれがジュワーと音を立てて溶けていく。凄まじい威力の溶解液のようであった。

 

「こうなったら貼れるだけ貼るぞ、二人とも!!」

 

「わ、わかったよ!!」

 

「うん!! このままじゃ簡単にやられそうだからね!!」

 

「こっちも手伝う! “邪纏”!!」

 

 すぐに香織と鈴は持てる魔力を全て使って、光輝も少しでも魔力を温存するために“限界突破”を解除した上で“聖壁”を発動し続ける。“限界突破”の反動である倦怠感に光輝は苛まれながらも必死になって結界を貼っていき、恵里もすぐさま“邪纏”で少しでも動きを止められるようサポートに移る。

 

 だがサソリモドキの魔物は時折意識を飛ばされながらも針や溶解液をまき散らし、時にはハサミをハンマーのように振るいながら鈴達が張っているバリアを景気よく破壊し続け、少しずつ進んでくる。

 

「ガラスみたいにガンガン割りやがって!! クソ、どうすんだ!?」

 

 礼一の叫びに光輝も鈴も香織も返さない。もう余裕がないのだ。どうにか“聖壁”を連続で張り続けているおかげで割るのに手間取ってこちらにはすぐに来れないようだが、それもいつか限界が来る。

 

「あぁもう! どうしたらいいのよ!!」

 

「マジで方法が無ぇのかよ! あんな硬さじゃ何やっても通じないだろ!!」

 

「落ち着け、落ち着くんだお前達!……何か、何か無いか。逆転の、逆転の一手が……」

 

 ヒステリーを起こす優花に苛立ちを見せる大介。それは他の面々もそうであり、全員の脳裏にはなぶり殺しに遭う未来がありありと浮かんでいる。

 

「生き物なんだから腹の方は柔らかかったりしないか?」

 

「でも焼夷手榴弾は地面にバウンドしてから爆発しただろ? それでも余裕で動けてることを考えるとまず無理だろ!」

 

「他に、他に何か……目! 目はどうかな! 閃光手榴弾が効いたんだし、虫ってまぶたが無いからそこは弱いんじゃない?」

 

「アリだな!……あ、でもどうやって近づくんだよ! 今は光輝達が“聖壁”張りまくってんだろ!!」

 

 だが、誰も考えることは止めていなかった。必死に足搔き続けていた。思い付きでも何でもいい。とにかくあのサソリのような魔物をどうやれば倒せるかをただただ考え続けている。

 

「こうなったらハジメ以外の全員で魔法を叩き込んでみたらどう? もしかするとまぐれ当たりが起きるかも――」

 

「悪くはねぇが手で覆われたら多分アウトだ! あー、クソッ! 他に他にどうすれば……」

 

「……どう、して」

 

 その光景を見た少女は不意にそう漏らした。自分を見捨てて逃げれば助かるかもしれないのに、何故誰もそうしない? 迫りくる絶望を前にどうして諦めない? と疑問に思うばかりであった。彼らはあの魔物を倒すことだけを考えていて、()()()ことは考えているように見えない。それが、それがあまりに不思議でならなかった。

 

「どうして、逃げないの?」

 

「……ごめん、ちょっと待っててぇ。私も、皆も、余裕が無いから」

 

「ぜってぇ助ける。だからよ、すまねぇがもうちょい待っててくれ……何か、何かねぇのかよ……」

 

 いつもなら間延びした様子で返事をする妙子すらも少女の問いかけには答えず、目の前の強敵相手にどうするかだけを考えている。先ほどいさかいを起こしていた大介達も悪態を吐きながらも真剣な様子で打開策を練っており、到底声をかけられるような状況ではなかった。

 

「……キュ? キュゥ」

 

「……魔物? でもなんで……」

 

「キュ!?……キュゥ……キュゥ」

 

「お腹、見せて……媚び、てる?」

 

 その様子を見て感じるものがあったのか少女は口をつぐんだまま。そこにイナバが体をすり寄せると、人を襲おうとしないイナバに少女は怪訝な視線を向けたが、一転して必死になって媚びを売る様子を疑問に思ってそれ以上は何もしなかった。

 

「“邪纏”!――目……目以外にどこか、どこか弱点は……口? 確か鳴き声を出してたはずだけど、口なんてどうやって……」

 

「それだ、恵里!!――浩介君!」

 

 少女がイナバに関心を抱いていた一方、恵里達は何度も何度も耳に届く“聖壁”の破れる音を聞いて神経をとがらせながら必死に考え続けていた。そこで何か他にいい案はないかと漏らした恵里の言葉で、ハジメはあることを思いついた。

 

「ハジメ、何か思いついたのか!?」

 

「うん! もしかするとやれるかもしれない! 今すぐ僕が通路を作るからこれを持っていって!! あのサソリモドキの魔物を倒すために使ってほしいんだ!!」

 

 すぐにハジメは背負っていたリュックごと浩介に押し付け、大声を出して説明を始める――内容は簡単。ただサソリモドキの口の中に閃光手榴弾以外の全ての手榴弾を投げ込んで爆破するということである。

 

「いくら外側が硬くっても口の中――内臓はそこまで硬くないはず! そこなら焼夷手榴弾も通るはずだよ!!」

 

「流石ハジメくん! あ、でも万が一倒しきれなかった場合も考えてドンナー……ううん、シャウアーも渡した方がいいと思う!」

 

「ハジメが通路作るんだったら私達もやるわ!! 全員でやった方が早いはずよ!!」

 

「だな! 俺も優花の案に賛成だ!……それと、浩介以外にも誰かついていった方がいいぞ! サポートするヤツはいるだろ!」

 

「なら俺が行く! アイツの口をこじ開ける必要がもしあったなら、俺が適任だ!!」

 

 ハジメの立案に誰もが納得を示し、むしろそれをより良くせんとばかりに恵里や優花らが意見を出していく。その結果、幸利の提案した浩介の同行者に龍太郎が立候補し、結界を張り続けている三人とアシストをしている恵里以外で外へと通じる通路を作ることになった。

 

「もう少し天井を高めに!」

 

「二人が四つん這いで動くことを考えたらもうちょっと広く……こんな感じ!?」

 

「横は最悪一人分でも構わん!! まずは外へ出るために掘り進めろ!!」

 

 すぐに結界の中は通路作りで紛糾する声で満ち、メルドの指揮の下、急ピッチで作業が行われていく。だが何かをハジメ達がやろうと察知したサソリモドキは光の壁を砕いて進みながらも更に手を打ってくる。

 

「キィィィィィイイ!!」

 

「――!? れ、“錬成”!!……この、地面まで干渉してくるなんて!」

 

 魔物の絶叫が空間に響き渡ると同時に、突如として作業をしていたハジメ達の周囲の地面が波打ち、轟音を響かせながら円錐状の刺が無数に突き出そうになったのだ。

 

 必死に穴を掘ることに集中していた彼らであったが、その不意打ちにいち早く気付いたハジメはすぐに錬成で壁を固定し、自分達と光輝、鈴、香織の立っている地面に影響が出ないように必死に魔物の攻撃を防ぎ続ける。

 

「ごめん皆! 僕はこっちをどうにかするから」

 

「悪い、先生!!――そっちは大丈夫か、光輝!」

 

「こっちは大丈夫だ、皆!……鈴、香織、恵里!!」

 

「保たせるよ、絶対に!! ハジメくんが考えてくれた最高の作戦、絶対に成功させてみせる!!」

 

「うん! もう少し、だね!!」

 

「やってみせるよ! だって、ハジメくんが考えてくれた必勝の策だから!!」

 

 それを聞いていた光輝達も脂汗を流しながらも一層バリアの展開に励み、恵里も必死になって“邪纏”による足止めをし続ける。そして四人とも隙を見てはしまっていた神水入りの容器を取り出して中身を煽り、底が尽きかけていた魔力を補充していく。自慢の親友達が勝利をもたらしてくれることを信じて。

 

「………………私、は」

 

 一方、助け出された少女はただそれを見つめるだけであった。その瞳には迷いが映り、思ったことを言い出すべきか、それとも彼らにすべてを任せるべきなのかで揺れている。

 

(血を吸えば万全な状態になる。それなら少しでも役に立てる。でも、もし悲鳴を上げたら……)

 

 もし仮に考えていることを実行してしまった際、懸命に動いていた彼らの手を止めてしまうかもしれない。穴を掘る作業が遅れたりあの結界が消えてしまうかもしれない。それで彼らを死なせてしまうかもしれない。故に動けない。動き出せないでいた。

 

「キィシャアアァアァァァア!!!」

 

「冗談じゃない! お前なんかに、鈴を、皆を、やらせてたまるかぁあぁああぁ!! “邪纏”! “邪纏”! “邪纏”!!」

 

「まだ……まだ終われるか!!――“聖壁”!!」

 

「こんの……鈴達を、なめるなぁ!!」

 

「まだ……まだ死ねないんだから!! 皆で、皆で生きて帰るって決めたんだから!!」

 

 少女が逡巡している間にも事態は動いていく。遂に自分達を守る光の壁がたった数枚だけになり、それでもなお必死に“聖壁”を順繰りで張り続けて時間稼ぎをしているものの、いつ攻撃が自分達に届くかはわからない。それでもなお光輝は、鈴は、香織は、恵里は足掻く。必死に足搔き続けている。

 

「――よし、通ったぞ! 浩介、龍太郎、頼んだ!」

 

「わかりました! 皆、晩飯のサソリのロースト、楽しみにしてろよ!!」

 

「俺らに任せておけ! 絶対に勝ってくる!!」

 

 メルドの号令に従い、浩介と龍太郎の二人はそれぞれ“気配操作”と“気配遮断”を使って通路を一気に駆け抜け、上へと登っていく。出たのはちょうどサソリモドキの真後ろ。浩介と龍太郎は気配を殺したまま魔物の腹の下を駆け抜け、口元まで急ぐ。

 

「キシャァアアアァアァア!!!」

 

 展開し続けていた“聖壁”も残り一枚だけとなり、それを砕かんと片方のハサミを叩きつけようとしていた魔物。もう後がない。もうどうにもならない。そんな時、こちらに迫ってくる親友を見て恵里は亀裂のような笑みを浮かべた。

 

「……信じてたよ、皆――“堕識”ぃ!!!」

 

 残りの魔力がもうほとんど無いのと、この場で一番適しているのは“相手の意識を奪うこと”だと確信した恵里は“堕識”によってほんの数瞬だけサソリモドキの意識を奪い、()()()()()()()

 

「ナイスだ恵里!――よし、こじ開けたぜ!!」

 

「最高だよ二人とも!!――くたばれ化け物、まずはオードブルからだ!!」

 

 意識が無くなってだらんと垂れた口を龍太郎が無理矢理大きく開けると、即座に浩介は持っていたありったけの手榴弾を口の中へと投げ込んでいく。そして浩介と目が合った龍太郎は即座にアッパーをキメて強引にサソリモドキの口を閉じた――刹那、くぐもった爆音と飛沫の舞う音が階層の中で鈍く響く。

 

「グゲ、アァ……」

 

「龍太郎、ブチ込め!!」

 

「応よ!!――さて、と。今までの恨み、たっぷり食らいやがれぇええぇ!!」

 

 今度は浩介が魔物の口を空中からの蹴りでこじ開け、龍太郎は預かっていたシャウアーを構えるとそれを口の中に突っ込み、雷を纏わせる。そして力強く引き金を引き、けたたましい音と共に放たれた無数の弾丸で焼け(ただ)れた内臓を更にズタズタにしていく。

 

「ギィ、イィィ……!?」

 

 空の薬莢が何度も地面を打つ音が響く。

 

「まだまだぁああぁあぁぁ!!」

 

 マズルフラッシュが幾度も魔物の口の中から漏れる。

 

「グ、ギギ……」

 

「これで無理かよ……だったら、“縮地”ぃ!!」

 

 マガジンすべての弾丸を使い切っても尚、ハサミを振り上げて魔物は自分を殺そうとしている。それを見て恐怖と共に武者震いを起こした龍太郎はすぐに地面に降り、マガジンの外し方を知らなかったことからシャウアーを地面に置いてそのまま駆け出す。

 

「おい、龍太郎! 何を――」

 

「やっぱ俺はこっちの方が性に合う、なぁ!!――“剛力”!! “集中強化”!!」

 

 そしてサソリモドキの腹のど真ん中で止まり、震脚をすると同時に右腕に持てる魔力全てを集中し、自身が持てる最高の一撃を打ち込まんと構えをとる。

 

「“浸透破壊”――これで、どうだぁあぁぁああぁ!!!」

 

「ギィイイイィ!?」

 

 持てる全ての技能、経験を活かした一打――それが腹に打ち込まれ、魔物の体が軽く浮く。潰されることを考えてあえて残心はせず、すぐにその場を“縮地”で後にする。

 

「キィ、ィィ……」

 

 ズゥン、と巨体が地面に叩きつけられる音が響き、最後にかすれた声を上げて魔物は痙攣すら起こすことなくその場で永遠の眠りに就く。遂に最後の守護者はここに倒れた。

 

「……やった、のか?」

 

 魔力が真っ先に底をついて四つん這いになった光輝が不意に漏らす。そこで浩介が試しに魔物の目に刀をブッ刺したり、幾度も上下に動かして(えぐ)ってもピクリとも反応しない――そこで表にいた全員が確信する。勝った、と。自分達はあの化け物相手に勝利を収めることが出来たのだと。

 

「勝った……」

 

「勝っちゃった……」

 

「勝てたんだ……」

 

「……そ、そうだ!――雫ー!! ハジメー!! みんなー!! 勝った! 俺達は勝ったぞー!!!」

 

 恵里達は未だ実感が湧かなかったものの、すぐに我に返った光輝は地下にいたハジメ達に声をかける。途端、両方の穴からわらわらと地下で作業していた面々が現れ、魔物にまたがってピースをする浩介と龍太郎を見て理解する。勝てたんだ、と。あんな規格外の強さを誇る魔物相手でも勝つことが出来た、と。皆大きな怪我をすることなく勝利を収めることが出来たのだ、と。

 

「やった……やったー!!!」

 

「勝った、勝ったぞー!!!」

 

「勝てた、勝てたのね!!!」

 

「あーもうお前達!! 浮かれるのは後にしろ!! 今すぐ死体を拠点に運び込め!!――馬鹿騒ぎはそれからだ!!!」

 

 静謐に満ちていたはずの空間は瞬く間に歓喜の渦に包まれ、誰も彼もが浮かれ騒ぐ。比較的落ち着いているはずの光輝と雫も、ハジメと恵里もお互いに抱き合って喜びを分かち合い、唯一檄を飛ばしたメルドであっても顔がニヤけるのを止められてない。最初に二尾狼の群れに襲われた時振りのジャイアントキリングに、多くが喜びを分かち合っていた。

 

「勝った。勝ったんだ……」

 

 ……だが唯一、助け出された少女の顔は未だ浮かないままであった。

 

(どうして私を……何のために)

 

 自分を助け出した少年少女達の目的が見えないために、ただ自分をものにするためだけにしてはあまりにお人好し過ぎる彼らを不気味に思ったがために。

 

 

 

 

 

「え、えっとよ……良かったら俺の上着も貸すけど……」

 

 大介の言葉に少女は首を横に振るだけだった。

 

「えーと、その……きょ、今日はいい天気だよな!」

 

「…………空が見えるの?」

 

「ぁ、はい……すいません」

 

 どうにか話題を出そうと必死に考え、明後日の方向へと大暴投してしまった礼一に少女は半目で答える。礼一は撃沈した。

 

「何か……何かないか……あ、そうだ! そういやそっちがいた場所の近くによ、なんかこう、紋章みた――あ、ごめんなさいすいません」

 

 少しでもアピールしようとして絞り出した答えが、少女を救出した後で地面を見た時に確認した紋章に関する質問であった。が、あの部屋に対して当然いい思い出が無い少女からすれば心底不愉快なものである。わざと自分を怒らせたいのかと少女が本気で睨んできたため、信治は何度も何度も頭をペコペコと下げた。

 

(とりあえずアホ信治は死ね!……あーもうマジでどうすればいいんだよぉ!? 実は()()()からずーっとキレっぱなしなんてことはねーよな!? さっきキレてない、って言ってたから信じていいんだよな!? あー、クソぅ!! どうして俺はあの時あの子を構わなかったんだよぉ!!)

 

 先遣部隊がことごとくお陀仏になっていく様を見て良樹は心の中で悲鳴を上げていた。あのサソリモドキとの戦闘の際、少女が声をかけようとしたのに彼も気づいてはいたものの、それよりも自分達がどうやれば生き延びるかを考えることを優先してしまった。そのため表に出してないだけで実はキレまくってるのではないだろうかと内心怯えてもいたのである……別に少女はあの場で自分を無視したことに対して仕方ないとは()()()()()のだが。

 

「えっと、さ……マジで大丈夫か? 良かったら俺がおんぶするけど……あ、そう…………」

 

 浩介の提案にも少女は首を縦に振らない。いくら神水を飲んだからってまだ調子を完全に取り戻せたわけじゃないだろうと考えたが故のものであったが、少女はそれを不要だと断じただけである。

 

 ――サソリモドキを倒し、ほとんど全員が歓喜し盛り上がった後、すぐに一行は高いテンションのまま死体を分割し、持ってくるのも面倒になってその場で作った数個のソリに全部載せて拠点へと引っ張っていた。

 

「……いつもこんな感じ?」

 

「うん。割とこんな感じだよ。檜山君達、戦闘の時以外は結構おしゃべりだから。それでね、えっと……」

 

「そう……」

 

 少女は大介が貸したコートを羽織りつつ、そのまま恵里達と同行している。

 

 そんな折、少女のふとした言葉に香織が答えるも、あることが原因で言葉に詰まってしまう。それは少女から名前を教えてもらってないからだ。一緒に動く際に尋ねても全然答えようとせず、『貴方達の拠点に行ってからでいい』とはぐらかすばかりだったからである。

 

「取り付く島もないね……」

 

「そうだよねぇ~……うぅ、やっぱりちゃんとお話しすればよかったよぉ……」

 

 その上少女自身があまり饒舌な質でないのが拍車をかけた。壁を作られてるかもしれない、と奈々や妙子ら女子のほとんどが少女の受け答えから推測しており、恵里もまた『コイツ絶対心を開いてないな』と、鈴も『ハジメくんと恵里と会う前の私みたいだ……』と考えていたりする。そのため香織としても仲良くしようと話しかけてもどこかギクシャクしてしまっていた。

 

「別に蔑ろにした事を怒ってはいない」

 

「えーと、本当……?」

 

「ん……」

 

 とはいえ一切会話が成り立っていないという訳でもなく、むしろこちらの意図を察して言葉をかけてくるため、印象がそこまで悪い訳でもないというのもわかっていた。故に気まずい。そしてその雰囲気は上機嫌だった面々にも伝播し、サソリモドキ討伐で盛り上がっていた雰囲気は今や微妙な空気に変わっていた。

 

「……っと、着いたな。よし、それじゃあ俺が開けるよ」

 

 ようやく拠点に戻ってこれたことで光輝があえて皆に語り掛け、土属性の魔法で壁に大きく穴をあけていく。拠点をお披露目すれば少しでも空気が和らぐかと考えた上でのパフォーマンスである。そしてそれは効果てきめんであった。

 

「…………えっ」

 

 ――同行していた少女の目に飛び込んできたのは想像とは正反対と言っていいほど文明的な施設であった。

 

 削りこそ荒いものの広々とした空間にきちんと整えられた炊事場と食事の席と思しき幾つもの円卓が並ぶ。部屋の奥にはベッドとソファーまであった。内訳はダブルサイズが三つ、シングルサイズが五つ、二人掛けのソファーが六つである。かつて自分が使ったり見たものと比べることすらおこがましい出来ではあったが、こんなもんがあること自体想定外もいいところであった。

 

 しかも岩で作られた仕切りのようなものもあり、それが何らかの目的で造られたスペース――ちなみに脱衣場とお風呂場である――であることも少女は即座に見抜いていた。

 

「思ってたのと違う……」

 

 少女は戦慄する。確かここは“反逆者”の造った迷宮であったはずだと記憶していたが、どうしてこいつらはこんな真っ当な生活を送っているのか。何の目的で自分のいる場所まで来たのかが本当にわからなくなってしまったからだ。

 

「あ、あはは……ここに来たときは違うよ? ハジメ君が床をならしてくれてはいたけれど、皆で地面に寝そべってたし、ちゃんとした台所も作ってなかったから」

 

 引いた様子でつぶやく少女に香織も苦笑しながらそれに答える。前は割と原始人みたいな生活してたと誰もが思い起こしつつ、それをやってのけた当人以外は改めて心の中でハジメに感謝していた。

 

「まぁそこは()()()()()ハジメくんのおかげだしね。ボ・ク・と、す・ず・の、ハジメくんのねぇ~」

 

 香織が答えて間もなく、恵里はあえて自慢気に語る。目的はもちろんハジメが自分と鈴のものだとアピールするためである。

 

「……そう」

 

 が、当の少女の反応はドライであった。確かに“ハジメ”という少年が、先程声をかけてきた奴を叱っている少年がやってのけたというのは事実なのだろうと理解していた。もし違ったり、単なる誇張であるのなら誰もこんな感謝に満ちた表情や自慢気な顔をするはずがないと見抜いたからである。

 

「あのね恵里……僕のことを自慢してくれるのは嬉しいけど、だからって初対面の人にそんな態度とらないでよ。()()恵里が嫌な女の子だって他の人に思われるのは僕だって嫌なんだ」

 

「う、うぅ……でも、でもぉ……」

 

「大丈夫。浮気なんてしたくないし恵里と鈴がさせないでしょ? だからちゃんと謝る。いい?」

 

「………………うん」

 

(あんな女に現を抜かしてる……しかも浮気とかいきなり言ってる辺り、技量や力はともかく変人か何かに違いない)

 

 ……それと同時に女を見る目がないか相当趣味が悪いのだろうと考えてもいたが。

 

 新参者である自分にいきなりマウントをかけてくるような女に対して、恋慕や愛情を抱いているであろうことも叱っている様子から察したからである。もう一人の自分と大差ない身長の少女に関してはともかくとして、一癖も二癖もあるに違いあるまいと見切りをつけていた。

 

「……ごめんなさい。気に障るようなこと言っちゃって」

 

「ん、気にしてない」

 

「あー、うん……さて皆、今日は一旦ここで探索は打ち切ろう! 彼女も体力が戻ってないだろうし、とりあえず今晩はここで休憩。動くのは彼女の様子を見てからにしようか」

 

 渋々ながら恵里が謝罪する様子を見て呆れる多くの面々が呆れたものの、この空気を断ち切るべく光輝は全員にわかりやすく声掛けをする。その意図に気付いた皆も努めて明るく振る舞い、拠点の壁を塞ぐと同時に各々が行動に移った。

 

「皮をはぐのは今日は浩介と俺、それと龍太郎に雫か」

 

「確かそうね。じゃあ光輝、すぐに済ませてご飯の用意をしましょう」

 

「ねぇ、流石に檜山君の上着だけじゃちょっとキツくない? 革でよかったらスカートぐらいは作れるだろうから、ちょっと向こうで採寸しようよ」

 

「ん……ん?」

 

 すぐに和やかな空気となっていく中、新参者の少女は一層強い違和感を覚えた。サソリモドキと一つ目巨人の死体をハイテンションで解体している彼らを眺めていた際、気になることを耳にしたのだ。『今日の食事はコレか』と。着替え用のスペースと思しき場所に連れられて黙って採寸を受ける中、少女はその疑問を口にする。

 

「……倒した魔物はどうするの?」

 

「え? 食べるけど?」

 

 少女を連れ出し、こうして採寸をしている奈々は事もなげにそう答える。途端、少女はその場で固まった……まさかとは思っていたが、本気で魔物を食べる気であると目の前の女は考えていたからだ。もしやと思って同行していたおっとりした様子の女にも目を向けたらちょっと困った様子でボヤいた。

 

「虫も嫌だけどあの、巨人の方って食べても大丈夫かなぁ~。人が人を食べるのって……」

 

「えーと、うん。カニバリズムだよ妙子っち……そう考えると虫はまだいいんだけどね。まぁ食べないで弱いままなせいで死んじゃったら元も子もないよ。我慢我慢」

 

「うぇぇ……嫌だよぉ~……あの果物のおかげで最近やっと血を飲まなくて済むようになったのにぃ~」

 

 マジだった。本気で食べる気満々であった。頼むから食料はどこか別口で持ち込んでいて欲しいと思ってたのにそれが叶わないと知った。正気の沙汰でないと少女は戦慄する。

 

「ねぇみんなー。あの一つ目の巨人のお肉、割と脂肪が少ないからとりあえず蒸す方向でいいかなー?」

 

「あ、ハジメー。俺は串焼きで頼むわー」

 

「先生ー、俺は蒸すのでオッケーだ」

 

「とりあえずハジメ達に任せるー……そういえばあのサソリ型の魔物はどうするんだー?」

 

「そっちはとりあえず焼く、ゆでる、蒸す、燻すの全部のパターンを試してからにするわ。あ、でもリクエストなら受け付けるわよー」

 

 炊事場と思しき方向からまた耳を疑うような言葉のオンパレードが続いて少女の精神が一層悲鳴を上げる。単に食事として用意するだけでなく、()()として出す気なのだと。どんな方法を使っているかは知らないが、()()()()()()()()()代物でよくそんなことを考え付くな! と本気で思ったからだ。

 

「なんで……どうして……」

 

「え? だってそっちも食べてたんじゃないの?」

 

 そんなバカな話があるか、と本気で否定しようとしたところで新たな気配が現れる。自分を巡って醜い争いをしたあの五人であった。その手にはトレントモドキから収穫した例の果物が握られている。

 

「よ、よぉ……良かったら、その……食うか? や、病み上がりだし、肉よりもこっちの方がいいかなー、って思ってさ……」

 

「コイツとれたてだし、その……美味いんだよ! スイカみたいな味でさ!」

 

「その、よぉ……()()ヤツを、受け取ってくれないか? お前のためにとってきたんだ」

 

「肉はともかくコイツは絶対美味いから……な? 食ってくれ」

 

「採寸中にごめんな。でもさ、食べないとしんどいだろうし、やっぱ食べるんだったらこっちの方が――」

 

「出てけアホ男子ー!!」

 

「女の子の裸を見ないのぉ~!!」

 

 そして即座に放たれた初級魔法で男子全員を奈々と妙子が叩き出す。ぎゃぁ~、と情けない悲鳴を上げながら伸びる馬鹿を見て鼻を鳴らすとすぐに二人は震える少女に向き直った。

 

「ごめんねウチの馬鹿が馬鹿ばっかりで」

 

「気遣いはいいんだけどねぇ~……あ、コレ。良かったら食べる? そこにいた樹の魔物がね、生やすんだよぉ~」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 

 少女はもうどうにかなりそうであった。どいつもこいつも口にしたら確実に死ぬ代物を平気で食べる気でいる。人に色目を使う馬鹿がいるだけのよくわからない集団だと思ったら狂人どもの集まりだったなんてわかりたくなかった。

 

 だが、いかに頭がおかしい奴らの集団といえど、自分を助けてくれたのは事実だ。だから逃げ出す前に一縷の望みをかけて少女は自分の思いを口にする。

 

「ま、魔物は……」

 

「? どうかした?」

 

「魔物は……食べ物じゃ、ない……!」

 

 その瞬間、世界が凍った。

 

「食べたら……食べたら死ぬものを、普通は食べない! だから、いらない……!!」

 

「で、でも!! 食べても神水を飲めば死ななくって済むし……あれ?」

 

 少女の言葉に反論しようとした鈴もすぐに言葉に詰まってしまう――そして全員が思い出す。魔物は食べたら死ぬのだ、と。自分達が忘れてしまっていた常識を今、思い出した……。

 

「私は吸血鬼……血さえあれば問題ない。だからいらない……!」

 

 そこでぽろっと自分のことを明らかにしてしまうも、楽し気に会話していた恵里達の耳には届かない。一度気まずい感じになって、そこから和やかになった雰囲気は完全に死に絶えた。空気が一気に淀んでいくのが誰の目にも見えていた。

 

「そう、だよね……無毒化しなきゃ普通は食べないよね……」

 

「僕、あの人に食べたら死ぬようなものを出そうとしてたんだ……何やってたんだろう」

 

「あ、うん……そういえばそうだった。長いこと魔物ばっか食べてたせいで完全に頭から抜けてたよ……」

 

「……なぁ、そうなるとこの果物もヤバくね?」

 

「……俺らで食おっか」

 

「いや、その……本当にすいませんでした……」

 

「調子乗っててサーセンっした……うん、死ぬ可能性のあるのを食わせるとかねーわマジで」

 

「うん、ごめん……そっちの立場、っていうか常識を考えずに自分の気持ちだけでやるなんてさ……はは、そりゃ奈々も妙子もまどかもミサキも俺をフるよ。そうなるよ……ハハッ」

 

「あ、あの……あの! え、えっと、えーっと……」

 

 だがここまでひどいことになるとは思っておらず、吸血鬼の少女は本気で慌てだす。常識も良識もあったことには安心できたものの、まさかこうなるのは想定外だった。だから必死になって声掛けをするも誰の耳にも届くことは無く、ただただむなしく響くばかり。

 

「キュ?……キュ、キュゥ……キュゥ……」

 

 事態を理解できていないイナバとトレントモドキは心配そうに彼らを見つめるだけ。魔物である彼らからすれば当然のことなのだがうろたえるしかない。

 

「ど、どうしよう……わ、私のせい……? 私、どうしたら……?」

 

 自分のせいで国葬ムードとなってしまった状況を解決する手段をこの少女は持ち合わせてはいない。どうしようどうしようとオロオロする少女の周りをただ軽く焦げた肉の臭いが漂うばかりであった……。




あれれーー? おっかしいぞーー!? どうしてユエ(仮)さんは助けてもらったのに浮かない顔してるんだろー? 普通は一緒になって喜ぶよね? 多分何か考えてたり事情があるんだろうけどボク子供だからわかんないや(EDGWKNN並の感想)

……書いてたらちょっと着地点が変な方向にズレたのはここだけの秘密です。











あ、それともう一つ。光が差し込んだ時って、余程強くない限りは影って出来ますよね?
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