あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは拙作を見てくださる皆様への多大な感謝を。
おかげさまでUAも107049、お気に入り件数も722件、しおりも306件、感想数も322件(2022/5/16 9029現在)となりました。誠にありがとうございます。

……いやね、幕間四の雫が光輝に惚れ込む話ばりに滅茶苦茶ビビりながら投稿したんですが、今回も杞憂で済んだのは驚きました。やだもう皆、心が広くて素敵……(トゥンク)

そしてAitoyukiさん、卯月幾哉さん、拙作を評価及び再評価していただき本当にありがとうございます。まさか今回の話で評価していただけるとは思ったなかったので感慨もひとしおです。

まず先にゲロっておきます。また分割しました。いつもの悪癖です。なので今回は短めとなっております。では上記を注意して本編をどうぞ。


四十五話 欠けた望月

「あぁああぁあー!!!」

 

「ぐっ――うわぁあぁぁぁ!!」

 

 ユエの叫びと共に放たれる凄まじい魔力。恵里達はそれに思いっきり叩きつけられてしまい、身構える暇すらなく全員が吹き飛ばされる。

 

「――ふっ!……っとと、ハジメくんも鈴も皆も大丈夫?」

 

「うん、どうにか!」

 

「鈴も大丈夫!――でも、ユエさんが……」

 

 しかし全員既に“空力”を如何なく発揮できるようになっていたため、魔力の足場を作って跳躍を繰り返して着地するなり一度宙返りをして勢いを殺すなりしたことで、誰も地面に体をしたたかに打ち付けることは無かった。

 

 とはいえ今の一撃でダメージはともかく距離を開けられてしまったため、“縛魂”がギリギリ届かない範囲へと恵里は移動してしまっていた。そのことに内心舌打ちをするも、状況はそれを許してはくれない。ただむき出しの魔力を叩きつけてくるだけでなく、それが風や水などの属性魔法として形を結んでいるのだ。それがいつ撃ちだされるかわかったものではない。

 

(ったく、厄介なことしてくれるよ!! こうなったらハジメくんからあの盾を貸してもらって、被弾覚悟で突っ込んで――)

 

「落ち着いてくれユエさん! 俺達の、俺達の何が悪かったんだ!! 言ってくれれば謝る! だから――」

 

「五月蠅い! それが……それが本当に気に食わない!!――“炎槍”!! “水槌”!! “海炎”!!」

 

 悲痛な表情で必死に説得しようとする光輝の言葉も空しく、ユエは中級魔法を乱射していく。今の彼女の心の内を示しているかのように魔法は滅茶苦茶な軌道で飛んでいき、明後日の方向や彼女のすぐ近くにも着弾していく。

 

「――“聖壁”!!……ユエさん!」

 

 そんな中、唯一こちらへと向かってきた炎の津波だけは光輝が詠唱した“聖壁”によってどうにか防がれ、光の壁がたった一撃で砕けると同時にちょっとした熱波が自分達の体を撫でていった。

 

「“鋭迅”!! “辻波”!! “隆槍”!! “風灘(かぜなだ)”!!」

 

 そんな自分達にユエの魔法が容赦なく降り注いでくる。とはいえかんしゃくを起こした子供が物を投げつけるのと大差無い程度の精度でしかなかったため、避けるのは容易であった。

 

「……消え、ろ。消えてしまえ……!!」

 

「どうして、どうしてだよ……」

 

「私達、何か……何を間違えたの……?」

 

 だが自分達に怨嗟をぶつけてくるユエの様子に誰もがショックを受けており、これまでの経験故に体が勝手に反応して避けてはくれるものの、多くはそれ以上が出来ずにただただ魔法を撃っていくと同時に段々と衰弱していく様子のユエを見ることしか出来なかった。

 

「うだうだ言ってる暇があったらとっとと動く! あっちが手遅れになる前にね!!――“邪纏”!」

 

 だが恵里だけは違った。効き目は薄いのがわかっていても闇属性の魔法を使ってユエの魔法を妨害し、必死に止めようとしている。

 

「――“ふう、じん”っ!!」

 

「“邪纏”!!」

 

「え――“炎刃”!!」

 

「“邪纏”――あぁっ、クソッ!!」

 

 とはいえ尋常ではない程に魔力への抵抗能力が高いせいか、恵里の力を以てしてもほんの一瞬気をそらすのが精一杯でしかない。そうして悪態を吐いてもなお、恵里は必死に抵抗しようとしている。

 

 あのエヒトが固執するほどの相手であり、そして今までこうして行動を共にしてきたからこそユエの尋常ではない程の強さはわかっているつもりだ。だからこそ手駒として失えないし、何より――。

 

(あんな顔見せられて――放っておけるもんか!!)

 

 自分と、どこか似ていた。

 

 今目の前で暴れている少女が前世? で『あの人を誑かすなんて』と母に頬を張られて何もかもに絶望した時の自分のようで。エヒトの居城で鈴と戦った時に何もかもが裏目に出た時を思い出すようで。そして“縛魂”が解けてしまった光輝の顔を見た時に絶望を感じたあの時の自分みたいで――手を伸ばしたくなってしまった。

 

 今の人生で鈴に手を伸ばした時のように、命を削りながら暴れるユエにも手を伸ばさなければきっと、きっと後悔するだろうという確信があった。だから恵里は必死になって止めたくなった。たとえそれがただの感傷であっても、そうしたくなってしまった。

 

「“火球”!! “火球”!! “火球”!!――」

 

「しまっ――!?」

 

 だがそれをユエは払おうとしていた。

 

 シャウアーを見て思いついたのか、初級魔法を無数に唱えてこちらへと叩き込んできたのだ。数発そこらであれば避けるだけで済むだろうが、何十発ともくればそうもいかない。これはもう無理か、と思ったその時であった。

 

「――“聖壁”!!」

 

 鈴が張った“聖壁”がそのことごとくを防いだ。無数のヒビが入ったものの、何十発もの初級魔法にも光の壁は耐えきったのである。前世? で“結界師”という防御のエキスパートであった彼女の技量と才能は伊達ではなかった。

 

「……ごめんね、恵里。鈴も、戦うよ」

 

「……遅いよ、もう!」

 

「本当にごめん!――あんな、あんな顔のユエさん、絶対に放っておけないもの!!」

 

 そう言って鈴は再度“聖壁”を発動して幾枚もの光の壁をせり出すように張っていく――鈴も今のユエを他人のように感じられなかったのだ。自分が幼い頃に孤独でそれをずっと我慢していた時のようで、ハジメと恵里が背中を押してくれたことで親の前で初めてワガママを言えた時の自分の様に感じて。

 

 どんな形であれ、ようやく本音を出してくれたユエを鈴は失いたくなかった。ここで見殺しにしてしまっては過去に自分を受け入れてくれた両親を、最高の恋敵(親友)を、自分が愛し、自分を愛してくれる人を裏切ってしまいそうな気がしたから。だから鈴も懸命に戦う。

 

「大介君! しっかりするんだ!!」

 

「俺は……俺は……」

 

 そしてハジメもまた、呆然としていた大介の両肩を掴んで必死になって説得していた。

 

 ハジメが彼を選んだのは手の平を返した礼一達や、彼女が暴れ出したことで敵意をにじませている浩介と幸利と違って困惑の色が強かったからだ。だからきっと大介ならユエを『止められる』と直感したのである。

 

「今ユエさんは恵里と鈴がどうにかしてる!――彼女が好きなんでしょ! 今でもそれは変わらないよね!!」

 

「それは、それは……」

 

「もし、もしまだ彼女が好きだったんなら早く行くんだ!! 彼女が欲しいんだったらすぐに抱きしめてあげて!! 今動かなきゃ絶対に後悔するよ!!」

 

 だが理由はそれだけでない。封印されていたユエに告白をしたり、自分一人で助けて好感度を上げるとのたまったり、礼一達に助けてもらったのに彼女を巡って大喧嘩したり、彼女にどうにか話しかけようとして空回りした大介を見て、ふとどこか自分のように感じたのだ。きっと恵里と鈴の目に映った過去の自分も彼のように必死だったんだな、と。

 

 そのせいか自分のことを時折持ち上げて、調子のいいことや下世話なことを言ったりする彼にどこか親近感が湧いたし、彼の応援をしてあげたいと思った。

 

 きっと自分達のことを応援してくれた、見守ってくれた親友達もこう思ってたのかもしれないから。だからハジメは必死になっている。ただの一目惚れで終わらせていいのか、と。

 

「わかんねぇ……もうわかんねぇよ!! 俺も、俺もハジメや龍太郎、光輝みたいなことしてみたいって思ってただけなのに、なんで、どうして……」

 

「だったら!! まだ始まってなんていないでしょ!! ユエさんの告白の返事だって聞いてない、デートだって一緒のご飯だってまだじゃないか! 告白してハイ終わり、なんてそんなもったいない終わり方でいいの!! よくないでしょ!!!」

 

「――!」

 

 ハジメの言葉に大介の瞳が揺れる。そうだった。まだちゃんとした返事も聞いてなかった。自分とあまり行動を共にすることもなく、ずっと羨ましがってたことも何一つやっていない。我欲まみれでくだらない、けれども彼にとっては何よりも重要なことを思い出した。その途端、彼は大きくうなずき、ハジメの手をどかす。

 

「――サンキュー、ハジメ。やっと目が覚めたわ」

 

「うん、行ってきて。僕がコレで守るから」

 

 花を生やした魔物達にいつ組み付かれてもいいように持ち出していた盾を構えると、彼の手を引いて走っていく。目的は大介のエスコート。いつも調子のいい悪友が本懐を果たせるように。

 

「――“光纏”! ハジメ、コイツで少しはマトモに耐えられるはずだ!!」

 

 大介の手を引いた直後、光の膜が盾を包む。声のする方を見れば幸利が手を突き出しており、今のは彼がやってくれたのだとすぐに分かった。

 

「ありがとう幸利君!」

 

「おう!――大介、しっかり決めてこい!!」

 

「――ああっ!」

 

「俺達もハジメの援護に回るぞ!!」

 

 幸利に向かって二人が親指を上に立てると、今度は光輝の声が響いた。すぐに壁状に各属性の魔法がハジメ達の横に前にと展開されていき、ユエが見境なしに撃ってくる魔法からの二人を守る文字通りの壁となった。

 

「遅くなって悪かった!――俺達もユエさんを失いたくないんだ!! だからハジメ、大介、頼む!!」

 

「まだちゃんとごめんなさいも言ってないもの!! ユエさんを止めてあげて!!」

 

「正直あの女の頬を殴りつけてやりたいぐらいだが――今はお前達に任せた!!」

 

「もう、メルドさん!――お願い、二人とも!! 私もユエさんにちゃんと謝りたい!! ずっと気づいてあげられなくてごめんなさいって!! だからお願い!!」

 

「俺も香織と同じだ!! 正直何回頭を下げりゃいいかわかんねぇ! でもここで助けなかったら謝ることすら無理だからな!! だから頼んだぞ!!」

 

 光輝が、雫が、メルドが、香織が、龍太郎が託してきた。今も闇の中で泣き叫ぶ彼女を救い出すことを。盾に魔法が当たる毎に張られた膜が軋み、ヒビが入っていくのを感じながらも二人はうなずいて返していく。

 

「あのクソ女の目を覚まさせてやれー!」

 

「ヒス女なんかに負けるな先生!! 大介も!!」

 

「お前が告白する分俺らの分もフれ大介ー!! そんぐらいやらねぇと気が済まねぇ!!」

 

「あーもう礼一も信治も良樹も……! ハジメ、大介!! 頼んだからな!!」

 

 茶化してこそいたものの、礼一達は真剣にハジメ達を魔法で守っていた。あれだけひどいことをされたにもかかわらず、まだあんな女にお熱な馬鹿な親友の恋路を応援するために。そして浩介もそんな彼らに呆れつつも、援護の手を緩めなかった。

 

「ユエのこと、頼んだわよ!!」

 

「もうユエさん限界みたい! 早く行ってあげて!!」

 

「お願い二人とも~!! 神水飲んだけど、やっぱりキツいのはキツいよぉ~!!」

 

 優花、奈々、妙子も声をかけてきた。全員既に神水を服用しているし、あちらも無理して魔力を絞り出しているものの、それでも気を抜けば全員倒されかねない程の猛攻となってしまっている。幸利のかけてくれた“纏光”が既に剥げ、盾本体も亀裂が無数に入っているのをわかっていながらもハジメと大介は走ることを止めない。

 

「――“邪纏”!! ハジメくーん!!! 檜山ー! いっけー!!!」

 

「“聖壁”!!……もう、限界。二人とも、後はお願い…………」

 

 魔力を限界まで使い切り、肩で息をしながらも叫ぶ恵里と、最後に一度だけ援護をしてその場にくずおれる鈴。二人の後押しを受けながらハジメはボロボロになった盾を捨て、その身一つで大介の盾となって進む。

 

「ぐっ! うぐっ!……」

 

「ハジメ、もういい!! 後は俺に任せて――」

 

「まだ、だよ……! 君を連れてく、って言っといて、ここで倒れるなんてカッコ悪いからね……!!」

 

 ハジメの方は既に体中が傷まみれの火傷だらけであったがそれでも倒れずに駆け抜ける。

 

 彼自身語ったように自分の意地もあったが、もう肌が土気色になりながらもまだ魔法を撃ってくるユエの存在と、その彼女を救おうとまだ諦めてない親友が後ろにいたことがその理由となっていた。ここで絶対倒れられない。何としても助けなければ、と足を動かす。

 

「ぐふぅっ!!」

 

「ハジメぇ!――あんのヒス野郎、まだキレてんのかよ……!!」

 

 だが、何度目かの“風球”の直撃により遂にハジメは後ろへ吹き飛ばされてしまう。吹き飛んだ彼が地面に叩きつけられる音や、心配する声を聴いてひどく怒り狂いながらも大介は走る。

 

「“かきゅう”……“ふうきゅう”……“すい、きゅう”……」

 

「いい加減に――しろやぁあああぁ!!!」

 

 そして自身も幾度も魔法の球を食らい続け、それでもなお足を止めなかった大介は大きく跳躍し――遂にユエを押し倒した。

 

「――ぐぅ!?……ゲホッ、ゴホッ……」

 

 命そのものを代償にして魔法を撃ち続けていたせいか既に肌はひび割れ、美しかった金の髪もくすんで褪せてしまっている。ルビーのように赤く輝く瞳からも光は失われ、最早生きているのが不思議なほど。むせ込む度に口元から血を流していく少女に大介は予備の神水を取り出し、それをユエの口に突っ込もうとしてためらい――その容器の端を自身の歯でかみ砕いた。

 

「……よくもやってくれたなこの野郎」

 

「……ころ、せ……わたし、は……もう……」

 

「ハッ、死に損ないが何抜かしてんだよ――テメェは負けたんだ。なら別に、俺が何したって構わないよな?」

 

 怒りと憎しみ、そして悲しみに満ちた瞳を向けられながらも大介は容器の中の神水を煽っていく。

 

「――!?」

 

 そしてそのまま、口移しで彼女に神水を飲ませた。

 

 たとえかすかな力であれ、身じろぎするユエを押さえつけて口内に無理矢理流し、嚥下させていく。

 

 するとひび割れた肌も少しずつハリを取り戻していき、髪の毛も徐々に(つや)やかになっていく。その瞳は未だ負の感情に満ちて濁っていたものの、光が完全に失われていくことは無かった。間に合ったのだ。

 

「あークソッ!! 色気もクソもありゃしねぇ!!……最低のキスじゃねぇか、バーカ」

 

 そうして彼女の命を繋いだ大介であったが、彼は彼で余韻もへったくれもない言葉を吐き捨てていた。思い描いていたのと違う、期待していた甘さも高揚感もない口付けに苛立ちを隠せず、怒りのままに言葉を叩きつけていた。

 

 こんな状況でせざるを得なかったことも、よりによってこんな相手に最初にキスをしたことも、彼女をこんな風に追い詰めてしまった友人達や自分にも、全てに対して。胸の中に溜まった感情を吐き出さないとやっていられなかった。

 

「……どう、して?」

 

「……あ? んなもん、アレだよ……俺が惚れたから、って言っただろうが」

 

 年齢がアレだけど愛ちゃんの方が良かったかもなー、と中々にデリカシーの無いことをつぶやきながらも大介はその場を動こうとはしない。彼女を押し倒したまま、目を一度も逸らさず、ただその場にいる。

 

「……そ、う…………」

 

「……ん? いや、ちょ、オイ待てって!!――あ、生きてら」

 

 そして大介の言葉にそう返すと、ユエはまぶたを閉じてしまう。それに一瞬大介も焦ったが、よく見れば胸がかすかに上下しており、まだ生きていることに安心して大きくため息を吐く。ここまでやって死んでしまった、なんてあまりに後味が悪い。だからこそ彼女がまだ生きてることに安堵すると自分のすぐ近くにゆっくりとなじみの気配が寄ってきているのに気づいた。

 

「お疲れ様、大介君」

 

「……先生。それに中村と谷口、あとお前らも」

 

 信頼し合っている友人達である。ハジメは恵里から肩を貸してもらい、彼と同じぐらい青い顔をしていた鈴から支えられながらこちらに来て労いの言葉をかけてきた。

 

「……お疲れ、檜山。まぁそっちにしちゃあ上手くやったんじゃない?」

 

「こういう時ぐらい素直にほめてくれよ……」

 

「恵里、もう……お疲れ様、檜山君。カッコ、良かったよ」

 

「……おう。サンキュー」

 

 恵里と鈴も彼女達なりに大介をいたわった。恵里も言葉こそやや上から目線のものではあったが、その表情は少し柔らかい。高校にいた頃にハジメに暴力を振るおうとしたことをまだ根に持っているだけで、決して今の彼にまでケチをつける気は無かったからである。

 

 鈴は既にわだかまりも何も無い。ハジメに変なことを言う困った男友達にただ、頑張ったその姿が素敵であったと伝えたかっただけであった。その彼も気恥ずかしさで目をそらしながらぶっきらぼうに答え、鈴もそれに満足してハジメをどうにか支えるのに専念する。

 

「よう大介、ボロボロじゃねぇかよ」

 

「ホントホント。そんだけボロボロになってんのによく悲鳴の一つも上げなかったな」

 

「あの狼に噛まれた時は痛てー痛てーって言ってたのになー」

 

「うるせーぞテメェら。馬鹿にしに来たんだったらとっとと帰りやがれ」

 

「はは、悪い悪い……ま、お疲れ」

 

 にひひ、と笑いながら言う礼一達に大介も悪態を吐く。やっといつものじゃれ合いが出来てホッとしたのだ。こんな何気ないことが、どうしてか嬉しい。やっと、やっと終わったのだと心の底から思えたのだ。

 

「なぁ大介、立てるか? キツい、ってんなら肩貸すぜ」

 

「頼むわ浩介……さっき神水飲んだ時に傷は軽く治ったけどよ、やっぱキツいわ」

 

「俺もやるよ――ほら、腕回してくれ」

 

「おう……ありがとな、幸利」

 

 幸利の力を借りて立ち上がった大介は、すぐに浩介の肩も借りて二人に支えられながら光輝達の方へと向かっていく。一方、ユエを誰が運ぶかについて礼一達が揉めたものの、ユエのことが気にかかってこちらへと来た香織が背負うと伝えたことですぐにそのいさかいは鎮火する。

 

「近藤君達、そこまで嫌がるなんて……まぁ、仕方ないのかな?――後でいっぱい謝ろうね、ユエさん」

 

 思いっきりババの押し付け合いにしか見えないやり取りをしていたことに苦笑いをしつつも、香織は小柄な少女をおんぶしながらそう漏らす。香織とて思うところがない訳ではない。だが、それでも無事でよかったと今は思う。

 

「……ユエの奴、思いっきりやってくれたね」

 

「まぁまぁ恵里、落ち着いて。あんなにあっても食べきれなかっただろうし」

 

 そしてハジメの肩を支えながら歩く恵里は目の前の光景を見て忌々しそうにつぶやく――ユエが大暴れしたせいで戦利品(倒した魔物の肉)の大半が炭化していたり、汚れにまみれた状態でミンチになるなどしていたからだ。

 

 確かにハジメの言う通り、何百もの魔物を、それもこの階層のほとんどすべての魔物を倒したと言って差し支えがなかった量のため、どれだけ頑張っても食べきれる自信は無かった。が、それでも仲間割れという形で頑張りが無にされるというのは腹立たしく感じたのだ。たとえそれが自分がまだ必要だと思った相手でも、同情した相手であってもである。

 

「……運びやすくは、なったじゃない?」

 

「鈴、無理して喋らなくていいから……ま、それは言えてるけどさ」

 

 だがその全てが無に帰した訳でもない。メルドが中心となって死体の選別をしているが、恵里が思っている以上には食べれるものも多いようだった。

 

「ソリを全部持ってきて……いや、ハジメにもう少しだけ頑張ってもらわないとかな」

 

 そう、光輝が漏らす程度には。

 

「流石にハジメ君には悪いわよ……私達で、頑張りましょ」

 

「……そうだな、雫。あーもう。何かあったらハジメに頼る癖を直さないと」

 

 雫に窘められてばつの悪い顔を浮かべる光輝に、その場にいた誰もが苦笑しながら『確かに』とうなずいている。ハジメを必要としてくれているのは嬉しいことではあったものの、頼りきりにならないでほしいと恵里は思う。

 

 かくして激昂したユエとの戦いが終わった恵里達は、多大な疲れと少なくない傷を負いながらも拠点へと戻っていく。

 

「どう、謝ればいいんだろうな」

 

「……ホントにそうね。ユエ、許してくれるのかしら」

 

 彼女が残した傷跡は決して浅くはなかった。彼女の心の叫びは力を合わせてこの地獄を進んできた彼らにとって予想外で、そして自分達の未熟さを知る一つの答えであった。

 

「許す許さないの問題じゃねぇさ……まずは謝る。そっからだ。だろ?」

 

 迷っている皆であったが、そこで龍太郎がかけた言葉に全員がうなずいた。自分達のやってしまった事を詫びて、ちゃんと謝って、そこからもう一度始めよう。そう決意した恵里達は荒れ果てた樹海を後にする。

 

(……ユエ)

 

 香織の背中におぶさって眠る少女を見て、大介はふと心の中で彼女の名を呼ぶ。一目惚れして、自分の友達を傷つけて、苦しみを吐き出し続けて死にかけた少女を思う。怒りでも心配でもなく、ただ彼女の様子を思って。

 

 だが月の名を貰った少女は答える事なく、ただ友人の背で揺られているだけ。それでも大介はただ彼女を見つめる――その目にある意志を宿しながら。




残りは今週中に投稿できたらなー、と思っております。

あと今回の話、実は下書きの段階ではユエが魔法撃ちまくって自滅してそこで回収、というもっとどんよりした感じでした。ナイス大介。

それとここ数話を見て原作魔王が概念魔法発動寸前までブチギレそうだなーと思いましたまる(小並感)
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