あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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まずは読者の皆様に感謝の言葉を。
おかげさまでUAも111529、お気に入り件数も730件、感想数も340件(2022/6/4 17:55現在)となりました。本当にありがとうございます。こうして作者が筆を執っていられるのも拙作を見てくださる皆様のおかげです。

そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき誠にありがとうございます。こうして何度も何度も評価していただけることで作者も励みとなります。ありがたいです。

ではまず今、回の話を見るにあたっての注意を……かなり長く(約18000字)なりました(白目)

それとあと個人的に思っていることですが、読んでる時にス〇ロボJの方の「Doomsday」が脳内でかかったらいいなー、と思って執筆してました。

では今回の話が長いことに注意して本編をどうぞ。


四十八話 最奥の死闘

「「「――“聖絶”!!!」」」

 

 四つの魔物の頭が放つ攻撃が視界いっぱいに広がっていく。

 

 迫り来る鮮やかな必殺の攻撃を見た瞬間、全員肌が粟立つような感覚に襲われ、即座に鈴、光輝、香織は“聖絶”を発動する。直後、迫りくる死の一撃を全てを弾く絶対の防御が受け止めた。だが――。

 

「ぐっ……!! なんて、破壊力だ!!」

 

「駄目っ!! 防いだそばから壊されちゃう!!」

 

 放たれた攻撃の全てが凄まじく、最強の守りと謳われた“聖絶”すらほんの数秒で溶かし、砕いていく。三人で交代しながら張ることでどうにか防いではいたものの、多様な致命の一撃は衰えを知らぬまま自分達に迫ってきていた。

 

「“緋槍”、“砲皇”、“凍雨”、“裂塊”……駄目!」

 

「“凍雨”、“凍雨”!――あーもう、あの頭が邪魔ぁ!!」

 

「“炎天”!――クソが! 倒してもすぐに全回復とか意味わかんねーぞ!!」

 

 ユエや奈々、信治などの術師のグループを筆頭に“聖絶”の外から魔法を展開して頭を全て叩こうとするものの、肥大化する黄色の文様の頭によってその全てが防がれてしまう。一度全員の魔法を当てて倒しはしたが、白い文様の頭がひと鳴きすると同時にダメージを受けた頭が光に包まれ、逆再生でもしたかのように完全に回復してしまう。

 

「まだどうにか攻撃は食い止められるけれど……!」

 

「攻撃も全然収まる気配が無いなんて……!!」

 

 途切れることも弱まることもない敵の攻撃に押され、攻撃を仕掛けても傷跡一つ残すことすら難しい。これまでの魔物とは一線を画す存在を相手に、恵里達は久しく恐怖を覚えていた――最初に二尾狼と戦ったあの時のように、あまりに絶望的な相手と向き合っているかのようであった。

 

 ――この場にいた誰もが知らぬことだが、今回現れたヒュドラのような魔物は大迷宮の魔力溜りと繋がっていることで全ての首が()()()()()()()()ようになっている。

 

 つまり、本来登場するはずの魔物では存在していた隙がないのだ。本来ならばこれ程の猛攻を続ければあっさりと魔力が空になってしまって勢いを保てないが、それも莫大な魔力を大迷宮から貰っていることで解消している。隙が無い。故に強いのである。

 

「張り直しても張り直してもキリがないよ!! このままじゃ――!?」

 

 そんなシャレにならない敵を相手に全員がパニックを起こしかけていたその時、いきなり鈴の顔が青ざめていく。“聖絶”の展開も出来なくなり、額から脂汗を流しながらその場にくずおれてしまった。

 

「し、ぬ……? ハジメ、くん……え、り………うぁ……ハァ……ハァ…………」

 

「鈴!? 鈴、しっかりして!!」

 

「神水! これ、これを今すぐ飲んで、ほら!!」

 

 すぐさま恵里はハジメと共に彼女の許に駆け寄り、ハジメは自分の持ってた神水の容器の端を砕くとすぐに彼女の口へと突っ込んだ。するとすぐに鈴はかぶりを振り、頭の中に巣食う何かを払うかのように大きな声を上げる。

 

「――あぁああぁぁぁあああぁ!! こんな嘘、怖くなんか……怖くなんかない!!」

 

 突然強烈な不安感に襲われた鈴の脳裏に広がっていたのは最初に二尾狼に襲われたあの日のような光景――自分達の力が足りず、ハジメと恵里が紅黒い電撃に身を焼かれて生きたまま貪り食われるというあまりにもおぞましく絶望的なものであった。

 

 だが突然聞こえた二人の声と口から広がっていく活力――神水の効能が彼女に力をくれた。そして気づけたのだ。これは現実でなく、よくわからない恐れなのだ、と。それを払うべく雄叫びを上げ、その幻に抗ったのである。

 

「鈴っ!!――もう大丈夫? 平気なの?」

 

「鈴、僕達は生きてる! 生きてるよ!!」

 

「……あり、がとう。ハジメくん、恵里……」

 

 息を荒げながらもどうにか鈴は復帰したものの、未だ本調子とは言えない。血色は幾らか戻ったものの、体は震えがまだ走ったまま。すぐに魔法を行使出来るようなメンタルではなかった。

 

「ごめん鈴ちゃん! 早く、早く戻って!!」

 

 だが無数の死神の鎌は弱まる事無く迫ってくる上、間断なく叩き込まれてきている。鈴が動けなくなっていた間“聖絶”を張っていたのは光輝と香織、そして仕方ないとばかりに参加したユエの三人。この三人でどうにか食い止めていたのである。

 

「……早く、早く“聖絶”を!」

 

「このままじゃ俺達がもたない!! 早く……早く“聖絶”を展開してくれ!!」

 

「お願い鈴ちゃん! もう、これ以上は……!」

 

 だが急拵えの連携な上、ユエは“聖絶”を使った経験があまり無い。そのため、息を合わせながら展開していたものの、鈴が加わっていた時よりも何割も早くこちらへと向かってきていた。

 

「ここはとりあえず穴作って全員で逃げるぞ!! 馬鹿正直に付き合ってたら死んじまうしな!」

 

「大介の言う通りだな! その間どうにか時間稼いでくれ!!」

 

「ああ、任せてくれ!!」

 

「お願い檜山君達! それぐらいなら頑張れるから!!」

 

「わ、かった……鈴、頑張るからっ!」

 

 その一方ですぐに地面に穴を掘って逃げることを思いついた大介達は作業に取り掛かっていた。光輝と香織もそれに賛成し、どうにか“聖絶”を張り続けていれば、鈴も息を荒げながらもう一度バリアを張ろうとしていた。

 

「大丈夫なの、鈴!?」

 

「やる、しか……無いでしょ!……ここで、鈴がやらなきゃ、皆が死んじゃうんだから!!」

 

「ああ、頼――っ!?」

 

 しかし今度は足元からも魔の手が忍び寄って来る。黄頭が叫びを上げると同時に地面が一瞬揺らぎ――その直後、結界の内側から槍の形に圧縮された土が射出された。

 

「ぐあぁあぁああぁ!?」

 

「あぁああぁあぁああぁ!?」

 

 想定外の方向からの一撃。それは必死に“聖絶”を展開していた三人だけでなく、攻撃を続けながらも出方をうかがっていた恵里達すらも襲い、貫く。だが、魔物は追撃の手を止めることは無かった。

 

「――ぁっ……うぁああぁあああぁ!?」

 

「……こうき、くん!?」

 

 臓腑を貫かれる痛みに耐えながらも鈴が再度“聖絶”を使おうとした際、今度は光輝の方に異変が起きた。地面からの奇襲も聖鎧に守られたことで軽い打撲で済んでいたのだが、さっきの鈴のように光輝もいきなり強い恐怖に襲われたのである。

 

「やめ、ろ……みんなを、ころさないでくれ……やめて、くれ……」

 

 光輝の脳裏に広がったのはベヒモスが現れたあの六十五階層、それもノイントに自分が打ち倒されて目の前で仲間が蹂躙される幻影である。自身は何も出来ないまま、ただただ肉片へとなり果てていく恋人と親友達、恩師を見るしかないというあまりに凄惨な光景が。

 

「――“せい、しん”っ!!」

 

 だがそんな時、恵里の叫びが階層に響き渡る。

 

 腕と腹の痛みにあえぎながらも恵里は何が光輝と鈴に起きたのかを正確に看破したのだ――鈴と光輝が挙動不審になったのは自分のように相手が闇魔法を使ってきたからだ、と。すぐに“静心”を発動して光輝の心を落ち着かせることで対処する。

 

「“せい、てん”……っ!」

 

 そして香織も痛みに耐えながら光系統最上級回復魔法である“聖典”を発動し、全員の傷を癒していく。最低でも半径五百メートル以内の人間を対象にし、絶大な癒しをもたらす正に最上級の名に恥じぬ凄さの魔法である。

 

 無論、その分魔力の消費も尋常ではなく、持ち前の魔力の大半を持っていかれてしまい、肩で息をしながらも今は全員の治癒と“聖絶”の維持に意識を注ぐ。

 

「白崎! 俺らの魔力を持ってけ!!」

 

「お前がぶっ倒れたら時間すら稼げねぇからな! 早く!!」

 

「ありがとう近藤君、檜山君!―― “廻聖”!!」

 

 光系の上級回復魔法である“廻聖”を発動し、香織は魔力を二人から幾らか拝借する――これは元々、一定範囲内における人々の魔力を他者に譲渡する魔法である。その使い方の一つとして領域内の者から強制的に魔力を抜き取り他者に譲渡する事も出来、いわばドレイン系の魔法として今回使用したのだ。

 

 尤も、他者から抜き取る場合はそれなりに時間がかかり、一気に大量にとは行かず実戦向きとは言えないが、そこは“魔力操作”と歴戦の経験が可能にしていた。二人から行動の支障がないレベルまで魔力をもらうと、すぐに香織は“聖絶”の維持に努める。

 

「――“れん、せい”っ!……クソッ、僕だけじゃ抑えきれない!! 誰でもいいから土属性魔法が使える人は地面からの攻撃に対処して!!」

 

「わ、わかった!!――“出盾(しゅつじゅん)”!!」

 

 その一方でハジメも地面からの更なる攻撃を防ぐべく、再度射出された土塊に手足を貫かれながらも“錬成”を発動する。

 

 だが、相手が間断なく魔法を発動しているせいか完全には抑えきれない。そのためすぐに声をかけ、同じく痛みにあえいでいた浩介や他の面々も穴を掘るのを止め、岩の盾を地面から出現させる“出盾”を発動する。地面そのものを一枚の岩の盾にすることで相手からの干渉を防いだのである。

 

「……雫! 今すぐ、光輝君を抱きしめて元気づけて!! 早く!!!」

 

「わ、わかったわ――光輝ぃ!!」

 

 痛みこそ残っていたものの、どうにか傷がふさがったことで動けるようになった皆を見て恵里はすぐに指示を飛ばす。説明して種を明かせば対処できるとは思ったものの、それを相手は許してくれないだろう。そう考えながら恵里は視線をヒュドラのような魔物へと向ける。案の定、黒い文様の頭がこちらを睥睨(へいげい)していた。

 

「こっちの闇魔法は効かない癖に……よくもやってくれたなぁ!!」

 

 忌々し気に恵里は黒頭をにらみつける。恵里は魔物が出てすぐ“邪纏”や“堕識”をかけていたのだがそれらはことごとく効いていなかった。万全な対策をした上で自分の十八番が使われていることへの怒りを湧かせ、戦う意志を燃やし続ける。

 

(こんなところで……負けるわけにはいかないんだよ!! アイツだって勝てたんだ、ここで負けてたまるかぁー!!)

 

 自分達を心底弄んでくれる相手への怒りを燃やさなければ折れてしまう。前世? であの化け物(ハジメ)とおそらくいたであろうユエもこの魔物を突破したのだという未来にすがらなければ絶望に沈んで動けなくなる。それを理解していたが故に、である。

 

「――ぅ、ぁ……いやぁあああぁああぁぁああぁあぁ!!!」

 

「香織!?――“静心”!! 龍太郎、早く!!」

 

「お、おう! 任せろ!――香織、俺はここにいるぞ!!」

 

 そして今度は香織にまで黒頭の魔の手が及ぶ。龍太郎が二尾狼に食い殺される幻が脳内に広がったことで戦意が折られてしまったのだ。すぐに恵里が“静心”をかけることでひとまず収まったものの、そのダメージは決して浅くはない。

 

『どうして、たすけてくれないの……?』

 

『うそつき』

 

「――ぐっ、あぁああぁああぁ!!!」

 

 それは恵里にも及ぶ。恵里が皆のリカバーをしているのに気づいた黒頭が今度は彼女自身を狙ってきたのである。

 

 突如目の前に広がる魔物に食い殺され、空虚な瞳で自分を恨めし気に見つめるハジメと鈴が首だけになっている光景が広がったものの、からくりを理解していた恵里はそれに耐え――そして思い出す。

 

『……帰ろう、皆。僕達の世界に。自分達の家に』

 

『そうだよ……鈴達を待ってくれてる家族のみんなにごめんなさいして、それからまた、いっぱい楽しいことをしようよ』

 

『……あぁ、ハジメ達の言う通りだ! 皆、帰ろう。地球へ、俺達の家へ!』

 

 二尾狼と初めて戦った後、全員で誓った時の記憶が。

 

『ハジメ、くん……』

 

『うん。僕が、僕らがいるから――』

 

 絶望で心が砕けた時に口づけをしてくれた彼との記憶が。

 

『苦しいことも辛いことも一緒に背負おう。それが出来ないなら僕にぶつけて。僕はずっと恵里のそばにいるから』

 

 全てを打ち明けた時、それでもなお自分のそばにいてくれることを伝えてくれた愛する人の姿を思い出したのだ。希望が、生き足搔く気力が蘇っていく。

 

「嫌……いやぁ……」

 

「やめろぉ!! いやだ、みんな死なないでくれぇー!!!」

 

「負ける、もんかぁー!!――“静心”!!!」

 

 恐怖を振り切り、自分以外にも恐慌をきたしていた全員に向けて即座に“静心”を放つ。それも本来ストレスや恐怖を多少緩和させる程度に抑えていたものを全力で、強制的に落ち着かせた。

 

「皆聞いて!!――黒い文様のヤツは皆に恐怖を植え付けてくる! でも、思い出してよ!! 皆で一緒に帰ろうって言ったでしょ!! だったら! こんなペテンなんかに負けてる暇なんかないでしょ!!!」

 

 そして恵里は叫ぶ。かつての誓いが、このオルクス大迷宮で戦い続けた記憶が、彼らの力になると信じて。

 

「……そうだな。恵里の言う通りだ――お前ら、自分達が戦ってた理由を思い出せ!! それはこの程度の恐怖と苦しみで簡単にあきらめていいものなのか!!」

 

 黒頭の闇魔法を食らってもどうにか耐えていたメルドが全員を一喝し、恐怖に怯えていた全員の心に再度火が灯った。そうだ、ここで負けていいはずがない。負けるわけにはいかないのだ、と立ち上がる勇気が湧いた。

 

「そうだ……皆、ここで負けたら全部終わりだ!! 勝つぞ、俺達は勝つんだ!! 今回も、ずっと!!」

 

 光輝の叫びに誰もがうなずく。こんなところで死にたくない。ここで負ける訳には絶対にいかない。まだ夢を叶えていないと決意を新たに全員が立ち上がる。

 

「――でも、正直もう時間がないよ!! 頑張ってたけど、もうこれが限界……!!」

 

「私も……早く、打開しろ……!」

 

 だがタイムリミットも既に近くなっていた。ヒュドラも考えながら攻撃をしており、容赦のない波状攻撃で全員を壁際まで追い詰めていたのだ。

 

 黒頭のせいで仲間がことごとく不調になった間も鈴が、闇魔法を食らっても()()()で耐えたユエと協力しながら前方だけでなく地面の方にまで必死に“聖絶”を展開し続けたことで破局は免れていた。だがそれももう限界を迎えようとしている。

 

「あークソッ! ハジメ、幸利、中村! 何か、こう何かねぇのか!? 逆転ホームラン決められるような奴をよ!!」

 

「閃光手榴弾と音響手榴弾を投げれば少しは時間を稼げるけど、攻撃が止む間に逃げ切れるかどうか……」

 

「クソッ! ハジメが無理じゃあもう幸利と中村ぐらいしか頼れるのがいねぇぞ!!」

 

「いきなり大きな隙を作れ、って言われたって無理があるってば!! それが出来たら苦労なんてしてない!!」

 

 再度焦りに苛まれた礼一と良樹に詰め寄られるも、ハジメも恵里もすぐには解決を導き出せない。ひとまず地面の方に干渉して攻撃そのものの発生を防ぐしかなく、その分鈴とユエの負担を減らすぐらいしか思いつかなかった。

 

「……いや、あるかもしれねぇ。ただ、失敗したら皆仲良くお陀仏だ」

 

 だが、幸利だけは違った。

 

 他の皆と同様に地面に干渉しながらもヒュドラの攻撃を見続けてあることに気付いた。赤い文様の頭の放つ炎と、青い文様の放つ氷の弾丸が別方向から自分達を襲ってきている、と。

 

 それがわかった時はお互いに威力を殺し合わせないための知恵があの蛇共にはあるのかと忌々しく考えていた――が、ここ今に至ってあることを思いつく。()()()()()()()という悪魔的発想が。

 

「何でもいい! 早く言いやがれ!! このままじゃ皆仲良く死ぬだろうが!!」

 

「そうよ! こんな時に悠長になんてしてないで!!」

 

「……わかった。じゃあ言うぞ――」

 

 そして幸利は自分の思い付きを口にした途端に全員の顔が引きつった。なるほど確かにこれは言うのをためらってしまう、と。だが既に追い詰められて覚悟が決まっていた皆は決意に満ちた表情で幸利の方を見返した。

 

「やろう、幸利君。正直作戦なんて選んでられない。だったら少しでも、どんな方法でも勝てる可能性に賭けるしかないんだ!!」

 

「そうだね、ハジメくんの言う通り。こうなったら死なばもろともで行くしかないでしょ!!」

 

「うん! もう私達は覚悟を決めたからやっちゃおうよ!!」

 

 ハジメと恵里の言葉に全員が力強くうなずき、それに乗っかっていく。誰もが決意を露わにしたことで幸利の方も覚悟が決まる。こうなったらとことんやってやろうじゃないか、と口を三日月形に歪めながら。

 

「オーケー、なら行こうぜ――地面の方はハジメと浩介が、火属性が使える奴は氷の方に、水属性が使える奴は炎にぶつけろ!!」

 

「防御は俺達が受け持つ! みんな、思いっきりやってくれ!!」

 

「いくよ、皆! せーのっ――」

 

「「「「「「“炎天”!!!」」」」」

 

「「「「「“水槌”!!!」」」」」

 

 そして放たれた魔法は幸利の指示通り、対になる属性の攻撃へと向かい――大爆発を起こす。幸利が狙ったのは“水蒸気爆発”を起こすことだった。

 

 水は熱せられて水蒸気になった場合、体積が1700倍にも膨れ上がる。そのため多量の水と高温の熱源が接触した場合、水の瞬間的な蒸発による体積の増大が起こり、それが爆発となる。それを幸利は狙ったのだ。

 

「「「「「「「クルァアアァァァン!?」」」」」」」

 

「――ごふっ!!」

 

「あぐぅ!!」

 

 この威力にはヒュドラも耐えられずに大きく吹き飛ばされ、恵里達も展開していた“聖絶”を全て割られた上で壁に叩きつけられてしまう。だが、その甲斐あって大きな隙は作ることが出来た。

 

「……ハジメ、くん。ちょっと、かりるよ――みんな、目をつぶってて!!」

 

 激痛に悶えながらも恵里は気絶しかかっていたハジメの許へと這い寄ると、リュックサックから二つの手榴弾を拝借し、それを点火して投げつける。

 

 その瞬間、おびただしい光と耳をつんざくような爆音が階層を支配した。恵里が投げつけたのは先程ハジメが述べた閃光手榴弾と音響手榴弾の二つだったのである。

 

 音響手榴弾とは八十層で見つけた超音波を発する魔物から採取したもので作った手榴弾だ。体内に特殊な器官を持っており音で攻撃してくる。この魔物を倒しても固有魔法は増えなかったが、代わりにその特殊な器官が鉱物だったのでハジメが音響爆弾に加工したのである。

 

「さい、ていの目覚ましだな……ったく!」

 

「おかげで目は覚めたでしょ……? ほら、行くよ!! 神水飲んで!」

 

 悪態を吐く気力が残ってた龍太郎がそうつぶやくものの、恵里は構わず声を上げる。いつまで相手が動けないでいるかはわからないからこそこの一瞬を無駄に出来ない。それをわかっていた皆も神水を煽り、体中に走る激痛に耐えながらも全力を振り絞ろうと立ち上がった。

 

「“限界突破”と“神威”で俺が奴を倒す……! それでも死なかった時のために、ハジメはシュラーゲンを! 皆はやれる範囲で奴を攻撃してくれ……!!」

 

 光輝が聖剣を支えにしながら指示を出す。神水を飲みこそしたものの、未だ体に残る痛みで意識が飛んでしまいそうになっている。それでもここで立ち上がらなければ皆が死ぬことを確信し、そのためにも戦う意志を誰よりも早く示した。自分が皆の旗印とならんとして。

 

「ごめん……さっき、壁に叩きつけられたせいで、ひしゃげちゃったっぽい……」

 

「なら直すまでの時間もボクらで稼ぐよ!! いいね!?」

 

「だな! 俺らでハジメを守るぞ!!」

 

 だが指示を受けたハジメの表情は暗い。彼の言う通り、さっき吹き飛ばされた際にシュラーゲンが大きく壊れてしまい、発射機構もバレルも使い物にならなくなってしまっていたのだ。即座に恵里が声をかけ、それに浩介がうなずけば他の皆もそれを承諾する。

 

「じゃあハジメくんは鈴が守――!?」

 

 全員が行動をしようとした時、目の前に極光が広がっていく。自分達が痛みを堪えながら立ち上がって話をしていた間にヒュドラは体勢を立て直してしまっており、侵入者を屠ろうと必殺の一撃を叩き込んできたのである。

 

「――“限界突破”! “神威”ぃいぃぃぃ!!!」

 

 光輝もすぐに“限界突破”を使った状態で“神威”を放ち、極光すらも呑みこむほどの光の奔流を叩き込んでどうにか拮抗まで持ち込む。

 

 だがその光の外からはすさまじい炎や氷の塊が射出され、地面も揺らぎだした。既に相手は持ち直しており、このままではさっきの二の舞、いや全滅にまで持ち込まれるだろう。

 

「動ける奴は全員散開しろ!! この際穴でも結界でも何でもいい! 身を守りながら離れるんだ!!」

 

「鈴がバリアを張るから皆は私に従って動いて!! 鈴がハジメくんを守るから!! だからシュラーゲンを早く直して!」

 

「わ、私も残る! 光輝は私が守るんだから!!」

 

「頼むよ鈴、雫!!――ハジメくん、ドンナーとシャウアーそれと手榴弾の入ったリュックを借りるよ!!」

 

「わかった! 後は頼んだよ!!」

 

 だが、メルドが号令を出し、鈴もハジメを、雫も光輝を守ると宣言する。その言葉に全員が力強い笑みを浮かべ、すぐさま動いた。鈴が“聖絶”を張ると同時に“念話”で誘導し、恵里達は体を土くれの刃に貫かれながらも進んでいく。

 

「“せい、てん”――!! 皆、傷は私が治すから、気にしないで動いて!!」

 

「香織は俺に任せろ! 動き回ってりゃ当たらねぇはずだ!!」

 

 胸や腹、手足が貫かれる痛みで気が狂いそうになりながらも香織は必死に“聖典”を発動する。龍太郎も香織が治療に専念できるようにすぐさま横抱きをし、“天歩”や“縮地”、“空力”を使いながら狙いをつけられないよう不規則に動く。

 

「助かる!――“纏炎”、“纏光”……よし、これで大丈夫だ優花、妙子!! 奈々は俺と一緒に魔法で攻撃だ!!――“炎天”!!」

 

「助かったわユキ――はぁあぁっ!!」

 

「うん、わかったよ幸利っち!!――いくよー!! “凍雨”!!」

 

「ありがと幸利ぃ~――“雷蛇”!!」

 

 “纏炎”と“纏光”を優花と妙子の武器にそれぞれかけると、奈々と息を合わせて魔法を発動する。そして優花と妙子もそれぞれの間合いにまで猛攻をかわしながら詰め寄り、それぞれの武器を使ってヒュドラを攻撃していく。

 

「「「“風爪”!!」」」

 

「グルゥアァアァア!?――クルァアアァァァン!!」

 

「――クソッ、そう簡単には切れねぇか!!……っとと、危ねぇな!」

 

「んだよどこにも弱点なんてねぇじゃねぇか!! クソボスがよぉ!!」

 

「少しぐらいは可愛げを残していてほしいものだがな――くっ!!」

 

 浩介と礼一、そしてメルドは“気配遮断”を使って胴体の方まで忍び寄り、“風爪”を纏わせた刃で白頭を支える首を切り落とそうとしていた。

 

 だが光輝が放つ“神威”の余波が首のあたりで飛び散っていることもあって近づくことも出来ず、ならば胴体の方をと攻撃を仕掛けた三人だったが、深く傷つけた程度で威力が足らず、回復を許してしまう。そして今の攻撃で緑の文様の頭がこちらを向くのに気づいた三人はすぐに遁走を図る。

 

「浩介、アレを!!」

 

「あっ、はい!!――悪いな、お前にくれてやる土産を忘れてた!!」

 

 メルドからの指摘に気付いた浩介は、すぐさま恵里から受け取ったリュックからありったけの焼夷手榴弾を取り出して勢いよく投げつけていく。瞬間、大地は燃え盛り、その中心点にいたヒュドラも炎に炙られていく。

 

「「「「「「グルァアアァア!?」」」」」」

 

「ったく、そう簡単には行かないよな――“砲皇”!!」

 

「ホント質が悪い、ってな!!――“緋槍”!!」

 

 浩介達が離脱するのを見届けると同時に良樹と信治がそれぞれ上級魔法を叩き込もうとする。だが黄頭がそれに気づいて自身の頭を肥大化させて盾になると、すぐに地面がまた揺らぎ始める。

 

「ユエっ!!」

 

「――!……助けなんて、いらない。“砲皇” “緋槍” “緋槍”」

 

 一本一本が子供と同じ程度の太さと長さの土くれの棘が地上にいた全員を貫かんと四方から生え、それに気づいて“空力”で空へと恵里達が逃げたように大介もまたすぐにユエの手を取って跳躍する。

 

 ユエもそれに苛つきながらも攻撃の手は緩めず、こちらに伸びてくる棘を魔法で破壊しながらヒュドラの首を狙っていく。

 

「くたばれぇー!!」

 

 恵里も空中を自在に動きながらハジメから借りたドンナーとシャウアーを乱射していく。ダメージが即座に回復されても知ったことではないとばかりに電磁加速された弾丸を恵里は撃ちこむ。少しでもヘイトを自分達に向けるために、今もなお地面からの敵の攻撃にさらされているハジメ、鈴、雫、光輝の助けにならんとして。

 

「ハジメくん、まだなの!?」

 

「ごめん鈴! もう少し、もう少しなんだ!!」

 

 鈴は必死になって地面を含む自分達の周囲に“聖絶”を展開し続け、ハジメを守っていた。時折結界ごと土で覆い尽くして潰さんとする黄頭の企みも、“聖絶・桜花”によって盛り上がった地面ごと切り裂いて阻止してはいたが、もう鈴の方も限界を迎えようとしていた。

 

 既に神水は自分の分を一つ使っており、今予備の一本を口の端で砕いて煽っている。残るのはハジメの持っている予備の一本だけだが、そのハジメはシュラーゲンの修理にかかりっきりで到底見込めそうにない。

 

 ハジメも必死になって修理を続けているが、それも焦りのせいで上手くいかない。一刻も早く皆を助けなきゃ、何とかしなきゃという思いに駆られてしまったせいで細かいミスを頻発していたが故に一層ミスを起こしてしまうという悪循環に囚われていたのである。

 

「雫! 俺のことはもういい!! 早く、早く離れてくれ!!」

 

「ぜったい、嫌……しんでも、はなれない、んだから……!!」

 

 光輝の周囲を土属性の魔法で固めて守っていた雫であったが、その魔法で固めた範囲の外から飛来する圧縮された礫や土の刃によって体を何度もズタズタにされている。香織の“聖典”が無ければ死んでもおかしくない傷を何度も負っており、ひとえに彼女が生きているのは香織の回復と先程服用した神水、そして光輝への思いを支えにしているからであった。

 

 光輝もそんな雫を気遣いながらも必死になって“限界突破”を維持したまま“神威”を撃ち続けている。だが、これ程長いこと“神威”を撃ち続けていたことが無かったがために本人の気づかぬうちに集中が段々と途切れかかってきており、少しずつヒュドラの極光に押されてしまっていた。

 

「「クルァアアァァァン」」

 

「あぁああぁああ!?」

 

「嘘っ!? アイツ、水蒸気爆発を使ったわよ!?」

 

「そんな……これじゃ勝てないよ!!」

 

 立て続けに悪いことは続く。鬱陶しいハエを払うかのようにヒュドラの赤頭と青頭は息を合わせ、自分達の放つ炎と氷の弾丸をかち合わせて水蒸気爆発を起こすようになったのである。しかも自分達に被害が及ばないようごく小規模に、そして恵里達のみに被害が及ぶよう計算した上で起こしていた。

 

「もう、駄目なの……?」

 

 幾度手を打てどもその手は届かない。

 

「クソがっ! このままじゃ――」

 

 どれだけ足掻いても全てが無に帰る。

 

「龍太郎くん!?」

 

「この程度の傷、なんてこたぁねぇ……! 香織、回復を続けろ!! 早く!!」

 

 立ちはだかる壁はあまりに分厚く、あまりにも高い。

 

「もう“空力”を維持するのもしんどくなってきたぞ!! どうすんだよ!!」

 

 死神の鎌はもう自分達の首に添えられている。

 

「まだだっ!!」

 

 だが、それでも全員が諦めた訳ではなかった。

 

「まだ、ボクらが負けた訳じゃないでしょ!! ハジメくんが、光輝君がいるじゃんか!! だからまだ負けてなんてない――“炎天”!!」

 

 シャウアーもドンナーの弾丸も尽き、もう自身の魔法以外使えるものが無くなった恵里はその魔力を使い尽くさんとばかりに上級魔法を撃ちこんでいく。自分の一撃が、ハジメ達に繋がると信じて。

 

「もう一度胴体を狙うぞ!! ついてこい礼一、浩介!!」

 

「うっす! 行こうぜ浩介ぇ!!」

 

「おう! 今度こそだ!!」

 

「よっしゃ、援護だ援護!! “塞炎”!!」

 

「中村の言う通りだな! 俺らはまだ負けてねぇんだ、頼むぞ皆――“砲皇”!!」

 

「ああ! こんなところでくたばってる場合じゃねぇ!! “纏炎”」

 

「そうね、まだ私達は生きてんのよ!! お行儀よく諦めてなんている暇は無いわ!! “炎天”!!」

 

 決死の覚悟で再度猛攻を潜り抜けんとするメルド、礼一、浩介。そんな彼らの助けにならんと信治と良樹が、幸利や優花らがそれぞれ魔法を使っていく。

 

「あぐぅううぅぅ!!」

 

「ハジメくん!?」

 

 長時間複数の魔法の行使によって段々と制御がおざなりになってきた鈴の結界の一部が砕け、ハジメが魔の手にさらされる。弱まっていた箇所から飛び出した土の塊がハジメの胸をまた貫き、彼の口元からもかなりの血がこぼれてしまう。

 

「まだ、だよ……この程度で、止まってなんて……やるもんか……!!」

 

 だが、この激痛に耐えながらもハジメは必死になってシュラーゲンの修理を続ける。すべては勝つために、自分を待ってくれている皆のためにと歯を食いしばりながら。

 

「あぐっ!? う、あぁ……」

 

(どうすればいい!! どうすれば押し返せる!? どうしたら雫をこれ以上危険な目に遭わせないで済むんだ!?……考えろ、考えろ俺!! ここで俺が負けたら皆が死ぬんだぞ!! 何か、何か方法は――)

 

 死をもたらす光が徐々に迫りくる中、焦りながらも光輝は必死になって打開策を練っていた。共に抗ってくれている皆のために、攻撃を受けて血溜まりを作ってもなお自分を信じて傍に立ってくれている愛する少女のために。自身の肩に載った重みを感じながらもひたすら光輝は考える。絶対に勝つ。ただそれだけを信じて。

 

「ユエっ、俺の血を吸え!! こうなったら一番強いのを乱射して叩きのめすぞ!!」

 

「チッ……心底嫌だけど仕方ない――んぅ」

 

 大介は抱きかかえたユエに声をかける。もうなりふり構ってなんていられない。たとえ自分の血が無くなろうとも仲間の無事と勝ちにこだわるべきだと思い直し、必死の覚悟で彼女を見る。ユエもこのままでは共倒れになると考えて嫌々ながらも大介の首に牙を立てた。

 

「効かない、ってばぁ~!!」

 

「そう、だよっ!! こんなの、もう、乗り越えてたんだからぁ!!――“冷結”!」

 

 黒頭の干渉を受けながらも妙子は炎や冷気、風の刃を潜り抜けて鞭を振り回し、奈々も“縮地”と“空力”を何度となく使い続けて一か所にとどまらず魔法を撃ち続ける。

 

「少しでもダメージを与えろ!! その分だけ隙が出来る!」

 

 いかに絶望が立ちはだかろうと誰も膝を屈しない。

 

「予備の神水を使おう皆!! まだ、まだ時間を稼ぎきれてない!!」

 

 幾度となく苦痛に塗れようともその手を止めない。

 

「――あ、れ……?」

 

 ――故に、奇跡は起こる。諦めない者達の前に勝利の女神が今、微笑んだ。

 

(……目の前がモノクロだ。全部が色あせて見える。それになんだか全部の動きが、遅いような……)

 

 魔物の肉を食べた全員の頭の中にスパークが走ったかのような心地がした。途端に世界が色あせて見え、すべてのものがゆっくりと動いているように彼女達には見えた。

 

(いや、動く。俺の体はともかく、意識はもっと早い――もしかしてコイツは!?)

 

 音すらも例外ではない白黒の世界で、唯一自分だけが普段通り動けているような感じがしていた。

 

 芽生えたのだ。新たな技能が。“天歩”の最終派生技能、知覚機能を拡大し、合わせて“天歩”の各技能を格段に上昇させる[+瞬光]という技能が。誰もが壁を越え、ようやく勝利の鍵を()()手にしたのである。

 

(……いや、それだけじゃない! 体が、体が軽い!! それに体を覆うこの何か――まさか!!)

 

 手にしたものはそれだけではなかった。幾度となく激痛に耐え、必死に足掻きながらも敵を倒せぬまま、それでもなお“死”を前に挑み続けた彼らの体が覚醒したのだ――“限界突破”。自身の限界を超え、勝利を手にするべく光輝だけでなく恵里達もその力を手に入れたのだ!!

 

「まだまだぁあぁー!!」

 

「へへっ、面白いぐらい切れらぁ!!」

 

「これなら、これならいけるぞ!!――うぉおぉおおぉぉ!!!」

 

 真紅の光に包まれたメルド達は更に勢いを増してヒュドラの首を、胴体を切り刻んでいく。流石にあちらの回復が間に合うレベルではあったが、それもギリギリ。そこまで押し込めるようになったのである。

 

「――ぷはっ……“蒼天” 左、右、上、下」

 

「いけー! ユエー!!!」

 

 大介に抱えられながら吸血を終えたユエも炎属性の最上級魔法である“蒼天”を放つ。タクトを振るうように指を動かし、一つ一つユエが伝えてくれる動きを大介も“念話”でメルド達に伝えていく。

 

「「「「「「クルァアアァァ!!!」」」」」」

 

「――! ぐっ、うぅ……」

 

「ユエっ! 俺が、俺がいる!! もう一度吸え!!」

 

 だがヒュドラも間抜けではなかった。すぐに“蒼天”の脅威を感じたヒュドラは白頭で回復を続けながらも肥大化した黄頭と赤頭、青頭を盾代わりにして受け止め、緑頭が強力な風を吐き出し続けて熱を部屋中に分散させ、トドメに黒頭がユエを狙った。

 

 結果、緻密なコントロールを乱されて“蒼天”は霧散し、ヒュドラもかなりのダメージを負ったものの、白頭がひと鳴きしたことで火傷したり炭化した頭も瞬く間に回復されてしまう。

 

(もう駄目だ!! クソっ! もっと威力が……せめて、せめて“神威”で漏れ出てる光を無駄にせずに済んだら――それだ!!)

 

 一方、銀頭の放つ極光を“限界突破”を併用した“神威”でどうにか受け続け、それでもなお緩慢に死が迫りくる中、必死になって考え続けていた光輝も遂に逆転の一手にたどり着く。

 

「――“聖絶”」

 

 絶対の守りとなる光の壁を“神威”の()()へと無数に展開していき――漏れ出た光の瀑布を光の壁で中心へと押し込んでいく。

 

 光輝が考えたのは“神威”の収斂。銃身のように“聖絶”で壁を作り、拡散しないようにするという方法であった。その名は――。

 

「……“神威・(たばね)”」

 

 聖剣の切っ先より放たれる光が集まり、極光と同じ太さとなった瞬間――拮抗し、少しずつ押し返していく。

 

「いっ……けぇー!!!」

 

 幾つもの魔法を同時展開している分魔力の消費もけた違いに早く、負担もひどく強い。ひどい頭痛がするし、鼻から血が垂れ始めている。だがこれしかないと光輝はひたすらに魔力を注ぐ。ようやく見えた勝ち筋を、手放しはしなかった。

 

「皆、お待たせ!!」

 

「待たせてごめんね、皆!」

 

 ハジメも“限界突破”と“瞬光”の併用で作業スピードを格段に上げることが出来、そのことで落ち着きを取り戻せたためにシュラーゲンの修復も完了させた。そして今、同じく“限界突破”と“瞬光”を使いながら“聖絶・桜花”を展開していた鈴の手を取って皆の下へと駆けつけた。

 

「ったく、待たせすぎだっつの先生!!」

 

「本当だよハジメくん!――よし、じゃあ次はあの頭をどうにか抑え込もうか!!」

 

「本当にゴメン! 絶対に、仕留めてみせるから!」

 

 ユエの“蒼天”を白頭と銀頭以外を犠牲にし、食らってもなお回復を続けたことで全部の首の再生を今しがた終えたたヒュドラに向け、ハジメはシュラーゲンを構える。狙うは白頭ただ一つ。だが、次の瞬間、またしても赤頭と青頭が炎と氷の礫を合わせたことで水蒸気爆発を恵里達の近くで起こした。

 

「――間に合った!!」

 

「無事か皆!!――よし」

 

 だがその爆発も香織が“聖典”と共に発動した“聖絶”によって無事に防がれ、一切の被害は無い。その様子に安堵した龍太郎も香織を抱きかかえたまま、再度縦横無尽に動き出す。

 

「こっちは大丈夫!! だけど、あれをどうにかしないと……」

 

「だったら皆、捕縛魔法使うよ!! 全部の頭、雁字搦めにね!!」

 

 このままだと狙いをつける以前の問題だと苦い表情を浮かべるハジメに、恵里は不敵な笑みを浮かべながら作戦を提案する。そして頭の中で描いたそれを“念話”でこの場にいた全員に伝えれば、誰もが愉快げに口角を上げてそれに賛成する。

 

“了解した!! お前ら、ここが踏ん張りどころだ!!”

 

“雫は光輝君の補助に努めてればいいし、光輝君はそのまま“神威”を撃ってればいいからね!! 無理はしないで!”

 

“すまない皆! 後は任せる!!”

 

“大丈夫よ恵里!! 今なら――今なら何でもできそうだから!!”

 

 そしてメルドの号令と共に“神威・束”を撃ち続けている光輝以外の全員が一斉に捕縛魔法を行使していく。

 

「「“縛光鎖”!!」」

 

 鈴と香織が展開した光り輝く鎖が赤頭と青頭両方の顎に絡みつき、そのまま強固に閉じた状態で向き合わせる――強引に魔法を展開したらそのまま自爆するように、だ。

 

「“縛地陣”!!」

 

『“縛岩”!!』

 

 浩介の発動した土属性の捕縛魔法が黒頭を、幸利以外の皆が発動したものが白頭と緑頭そして黄頭を拘束していく。黒頭、白頭、緑頭が互いを見るように向き合わせ、黄頭は地面に叩きつけるかのように全力で縛り付ける。

 

「ぜんぶ纏めて“纏光”!!!――後は任せたぞハジメ!!」

 

 そしてその鎖を補強するために幸利が付与魔法を駄目押しで発動し、捕縛が完了する――それが出来たのはほんの一秒にも満たなかった。だが、十分すぎる時間を全員が稼いだ。

 

「ありがとう皆――とっととくたばれクソ野郎!!!」

 

 既にシュラーゲンを構えていたハジメが荒ぶる怒りのままに引き金を引く。

 

 紅いスパークを起こした銃身から大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に特製の赤い弾丸が飛び出し、周囲の空気を焼きながら突き進んでいく。その様は正しく極太のレーザー兵器のようであり、今光輝が放っている“神威・束”にも負けぬ程の光をまき散らしながらそれは正しく白頭を捉えた。

 

「「「「キュワァァアァァアアアァ!?」」」」

 

 その破壊力たるやすさまじく、白頭は頭部が綺麗さっぱり消滅してしまっていた。ドロッと融解したように白熱化する断面が見え、また近くにいた黒頭も緑頭も前半分が同様の状態となった。その余波もまた恐ろしく、かすっただけのはずの赤頭と青頭も皮膚が爛れており、シュラーゲンの一撃で残った頭全てが悶え苦しんでいる様子であった。

 

「もう逃げられると思うな――“天灼”」

 

 そして唯一捕縛魔法を使わなかったユエは再度大介から吸血を行い、十分な魔力を得たところで風属性の上位である雷属性の魔法を発動する。

 

 四つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

 中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。銀頭以外の三つ全ての頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

 

「「グル、ウゥゥゥゥ……」」

 

 そして十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、四つの頭は断末魔の悲鳴を上げ、赤頭と青頭は消し炭となったのである。黄頭はその頑丈さで死ななかったらしく、また銀頭は別格であったのかこの一撃にも耐え、まだ極光を放ち続けている。

 

「ぐっ……もう、限界が――」

 

 ユエが息を荒げながら大介の胸に倒れこんだと同時に光輝もまた膝をついてしまった。“限界突破”のタイムリミットはまだ先であったが、それよりも先に魔力が尽きかけようとしていたのである。

 

 また“神威・束”を維持するのに必要な“聖絶”の展開に“瞬光”を使い続けていたこともあってか頭のダメージも深く、もう光輝の意識はブラックアウトしそうになっていた。そのため聖剣の先から放たれた光は霧散しかけ、それを見た全員の悲鳴が階層に響き渡る。

 

「こう、き……んっ――んむっ」

 

 だがそこで満身創痍であった雫が予備の神水を口に含み――光輝の両頬に手を添えると、そのまま自分の方を向かせて神水を口移ししたのである。雫の口内でほのかにぬるくなった神水が彼の喉を通る度、口づけが長引く度に光輝の意識がハッキリとしていく。体中に活力があふれていく。

 

「はぁっ……ありがとう、雫」

 

「ぷはっ……お礼なんて、いいわ」

 

「「――それじゃあ、一気に行こう/行きましょう!!!」」

 

 雫も迫りくる滅びの光を見つめると聖剣に手を添え、そして愛しい人の体を支える。再度聖剣の先端からあふれてきた光が、バレルのように伸びた光の壁を通るようにして突き進んでいく。

 

「これで――!!」

 

「終わりよ――!!」

 

 “神威”本来の詠唱の一節にもある「神の息吹」が今、致死の光を押し流さんと、塗り潰さんとばかりに溢れ、吞みこんでいく!!

 

「グル、ウァァ――」

 

 それは正しく邪悪を滅ぼす一撃となった。先のユエの一撃でかろうじて生きていただけの銀頭は光の激流によって跡形もなく蒸発していく。

 

「クルゥァアアァァア!!」

 

 そして唯一残った黄頭も悲鳴を上げながら地面を操り、目の前の敵を排除しようとする。だが――。

 

「忘れてると思ってた? ばぁーか」

 

「さーて、さっき人を散々串刺しにしてくれやがったな。その恨み、晴らさせてもらうわ」

 

「アンタのおかげで散々苦労させてもらったわ――お礼、ちゃんとしないとね」

 

「……間抜け」

 

 ()()()()()を浮かべた恵里達は悪あがきをしようとしている黄頭を睥睨していた。それもいつでも魔法を発動できる状態で。

 

「クルゥ――」

 

『“炎天”』

 

「“砲皇”」

 

「「“緋槍”」」

 

 固有魔法を発動するよりも前に恵里達の様々な上級魔法が黄頭を襲う。すぐに頭を肥大化させてしのごうとするも、圧倒的な数の暴力と破壊力を前にチリ一つ残すことなく黄頭は首から上を失うのであった。

 

「終わった……」

 

 地鳴りの音と共に遂に最後の番人も地に伏せた。それを見届けた後、誰からともなくぽつりとそんな言葉が出てきた。

 

 勝った。勝ったのだ。ようやく勝利を手にすることが出来たのだ、と全員がじわじわと自分達のやったことを噛みしめたその時であった。

 

「――あれ?」

 

「ぅぇっ?」

 

 緊張の糸が切れてしまったのか、皆仲良くその場で膝をついてしまい、そのまま倒れこんでしまったのである。

 

「もう、無理……」

 

「あー、しんど……死ぬまで寝かせてくれー……」

 

 肉体精神どちらも疲弊しており、魔力の欠乏によるだるさで誰も立ち上がれはしない。それはメルドも同様であり、手元にもう神水が無いことから立ち上がる気力も残ってなかった。

 

「……ふん、しょせん人間。この程度で音を上げるなんてだらしがない」

 

 その様子を見てユエが皆を鼻で笑うものの、彼女とて倒れてマトモに起き上がれないのは同じである。それを恵里や礼一達が軽く鼻で笑うと、ユエは顔を真っ赤にしながらも怒りを堪えて恵里達を見ていた。

 

「……この程度、馬鹿にされた内に入らない。私は偉大な吸血鬼。だからそれぐらいは許す」

 

「はいはいえらいえらい……ハジメ、くん」

 

「……これ、止めた方がいいんだよな? おーい、ユエ。礼一達はいいけど先生と中村と谷口には厄介になってるから馬鹿にするのやめてくれー……」

 

 どういう意味だゴルァと親の仇でも見るかのような形相でにらむ礼一達と『いや俺のユエに粉かけようとした恨み忘れてねぇからなクソが』と“念話”でケンカする彼らを他所に恵里はハジメと鈴の許へとどうにか四つん這いになって向かう。

 

「……恵里、おつかれさま」

 

「うん。お疲れ、恵里……」

 

 感知系技能に引っ掛かるものがないことから新手は来ないのだろうと推測し、意識が途絶えそうになる中、恵里は無事に二人の許へとたどり着く。

 

「ボク、いっぱいがんばったよ……ほめて。ほめて……」

 

「うん……すごかったよ。ぼくのえりはやっぱりすごいよ」

 

「たしかにえりはがんばったよね……ねぇハジメくん、えり、すずもほめてよ……」

 

 手を伸ばして自分の頭を褒めながら撫でてくれるハジメに恵里は柔らかい笑みを浮かべる。たったこれだけで全てが報われたかのような、何物にも勝るかのような幸せに包まれているかのような心地であった。そして恵里もハジメと一緒に鈴の頑張りを褒めていく。

 

「うん……すずのおかげでみんなでかてたよ。すずもえらいよ……」

 

「そうだね……こんかいばかりはボクのまけだよ……すごかったよ、すず」

 

「……えへへ」

 

 はにかんでいる鈴の頭もハジメが撫で、恵里もそんな鈴をうらやむことなくただ彼女の頑張りを心の底から褒め称えていた……次は絶対自分が一番褒めてもらおう、と考えてもいたが。

 

「敵は、来ないな……じゃあいいか。俺はもう休むぞ……お前らもひと眠りしとけ……」

 

 扉が独りでに開いたことに誰も気づかないまま、メルドがそうつぶやくと同時に誰もが寝息を立てていく。この大迷宮の中で一番の激戦を終え、そしてここはもう安全であるということがわかってしまった以上、誰も睡魔には抗えなかったのである。

 

「あり、がとう……しずく……」

 

「おつかれ、さま……こうき……」

 

「よくがんばったな、かおり……」

 

「うん……おやすみ、りゅうたろうくん……」

 

 香織も龍太郎も、光輝も雫すらも眠気に身を委ね、誰もが夢の世界へと旅立っていく。

 

「だいすき……ハジメくん……」

 

「ハジメくん……ずっと、ずっといっしょだよ……」

 

「えり……すず……いっしょだからね……」

 

 そして恵里達もまたその場で眠る。愛しい人の体に抱き着きながら。愛しい二人を脇に抱えながら。

 

 激戦を終えた彼らの顔に苦悶は無く、ただ穏やかな寝顔が浮かんでいるだけであった……。




読んでる皆様が逆転するまでの間、ちょっとでも絶望出来たらいいなー、と思って書いてましたまる

……さて、ようやく原作第一章の終わりも見えてきました。とはいえ拙作の第一章が終わるまでは修行やら何やら含めてもう少しかかる予定です。さぁ次は拠点の中でのお話ですよ!!
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