おかげさまでUAも117676、しおりも329件、お気に入り件数も756件、感想数も369件(2022/7/3 17:45現在)となりました。此度も本当にありがとうございます。
古戦場で色々と時間が無かったものでちょっと投稿が遅れましたが、どうにか仕上げることが出来ました。これもひとえに拙作を見てくださる皆様のおかげです。ありがたやありがたや。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき、誠にありがとうございます。似たようなフレーズばかりで心苦しいのですが、こうして拙作を再評価していただけたおかげでまた筆を進める気力が湧いてきました。感謝いたします。
では今回の話を進めるにあたっての諸注意ですが、まずかなり長め(14000字程度)となっており、また普段に増して原作じゃあり得ないような展開が起きますのでご注意を。では本編をどうぞ。
“なぁ先生、それと中村も。ちょっと頼みたいことがあんだけどいいか?”
解放者の住処で過ごすこととなって早三日を迎えた一行は、狩りを兼ねた午前の訓練を終えて昼休憩をしていた。
そんな時、鈴と談笑していたハジメと恵里に向かって礼一と良樹はそれぞれ“念話”で話しかけてきたのである。
“一体どうしたの礼一君? 話しぶりからして鈴は巻き込めないみたいだけれど”
“そうだよ。でも別に頼みなんて檜山……は無理か。でも中野や浩介君、幸利君にでもすればいいでしょ? どうしてボクとハジメくんだけなわけ? 鈴をないがしろにした理由は? 返答次第じゃただじゃおかないからね”
そこですぐに二人は何故二人が鈴も巻き込まなかったのかに気付き、相変わらずの察しの良さに驚くと同時に恵里のヤバさを再度実感してちょっと股間の辺りがキュッとなった。
“流石先生も中村も察しがいいな……中村、取り合えず落ち着いてくれ。ちゃんと理由はあるんだって”
“いやその、な……信治のことで話があるんだよ。出来ればあんまり顔に出ない奴を探してたんだ”
“……そっか”
“なるほどね……確かにそれなら鈴は難しいだろうね”
すぐさま良樹は言い訳をし、礼一もその理由を明かすと二人は納得した様子を示してくれた。そこで二人が鈴に『ちょっと待っててね』と言うのを待ってからすぐに説明へと移っていく。
“浩介や幸利の方にも一応相談はしたんだよ。どっちも『俺らで何か元気づけたらどうだ?』ってぐらいでよ”
“あんまり具体的な考えが俺達じゃ浮かばなかったんだよ……それで、ハジメと中村だったらどうにかなるかな、って思ってよ”
二人のその言葉にハジメも恵里も首をひねった。
――信治の調子がおかしくなったのは言うまでもない。アレーティアが幽閉されていた真実を知り、彼女が罪の苦しみで嘆き壊れそうになってた時である。
後に地面に頭をこすりつけてまで謝罪しようとしたアレーティアを見て彼も必死に止めようとしたし、今のところもう何でもないように振る舞っていた。だが、あの事を引きずっている様子なのは誰の目にも明らかであった。
“そう言われてもね……僕が見た感じだと信治君は引きずってはいるけれど、普段通りに振舞おうとして空回りしてるだけだと思うんだ”
“ボクもハジメくんの意見に賛成かな。下手に指摘したらかえってギクシャクする感じだよ、アレ”
こうして相談を持ち掛けられた二人も、先に相談した浩介と幸利と同様の答えを出した。信治の引きずり具合が中途半端なせいで下手に対応できないことである。
あの事件の後、アレーティアがゾッコンな大介以外の四人で彼を慰め合い、一緒に涙を流した。その後アレーティアからも何度も謝罪を受けてもおり、そのため心の傷の治りはいくらか早かった……のだが、信治はあと一歩で振り切れそうなところを足踏みしている様子なのだ。
要は礼一と良樹はそれがもどかしく感じただけでしかない。いつも通りに駄弁って、くだらない話で盛り上がって、と普段通り過ごしたい。ただのワガママで彼をどうにかしたいと願ってるだけでしかないのだ。
“……わかってるよ。わかってるけどよ”
“これが俺らのエゴだってのはわかるけど、でも……あぁもう!!”
それも二人は薄々感づいていた。普段通り過ごせないことへのイライラが軽く爆発しそうになっているのだ、と頭では気づいていた。それでも、と思ってしまうのはいつ何が起きるかわからない大迷宮での生活と別れを告げたことや、そんな生活の中でも一緒に馬鹿をやっていたが故かもしれない。それをこの場で“念話”していた四人全員がわかっていた。
“うーん……それなら、ちょっとぐらい羽目を外してみたらどうかな?”
かといって冷たく突き放すことはハジメにも出来なかった。浩介や幸利と大差ないアドバイスしか送れないとしても、どうにか力になりたいと願ったのである。そこで出てきたのが先の提案だ。
“羽目を外す、って……あんま下手なこと出来ねーぞ? メルドさんいるし”
“そうそう。どういう風にやるか、ってのが問題じゃねーか”
“それは……うーん……”
しかし問題は具体的に何をするかである。体を動かすのは日常的にやっているし、ナンパは不可能。あまり妙なことをやったらメルドの雷が落ちるし、風呂でものぞこうというのなら女子~ズ全員で袋叩きにした上でメルドに報告するだろう。
あまり派手過ぎず、騒ぎが起き辛い。そんな具合のものを思いつけ、といきなり言われても中々に難しかった。
“面倒臭いなぁ……じゃあ手に入った生成魔法でも使って遊んでなよ”
と、ここで恵里が心底煩わしげにそんなことを言い放った。
“え、生成魔法?”
“そう、それ。テキトーな石っころとかにでも魔法を付与して遊んだら? ここで手に入った珍しいおもちゃなんてそれぐらいしかないでしょ”
恵里も正直その程度しか思いつかなかった。今この場にある中でまだ彼らが手を付けてなさそうなのはせいぜいそれぐらいしか無かったのである。
現在、生成魔法を一番多く利用しているのは適性が最も高かったハジメである。アーティファクトの製造に用いたり、自身が扱うドンナー、そして前々からリクエストを受けていた幸利の分のレールガンにも使っている。
次いで適性の高かった幸利と光輝の二人だ。ハジメが作った包丁などの生活グッズといったある程度効果が落ちても問題ない、もしくは落とす必要があるものに対して彼の代わりに付与する作業を担っている。
後は生成魔法を付与する際に各魔法のエキスパートである奈々やアレーティアに良樹、恵里などが付与したい魔法を展開する際にお呼ばれする程度で、三人以外のあまり適性の無かった面々は生成魔法は一切使っていなかったのである。
そもそも入手出来なかった恵里と入手自体しなかったメルドは言わずもがなだ。
“……そっか。ハジメも手に取らないようなクズ素材なんかにやってみたら……よし、これだ!!”
“まぁ、確かに使わないのだったらいいけれど……”
“いけそう、いやイケる! サンキューな中村!! あと先生も!”
と、恵里のアドバイスを受けて色々と考えが浮かんできた二人はすぐさま礼を述べながらそそくさとその場を後にしていく。
「……ごめんハジメくん、鈴も。なんか、早まった気がする」
「多分大丈夫だよ、うん……きっと」
「ねぇ二人とも何を言ったの? ちょっと、一体何やらかしたの?」
そしてそんな二人を見て心底心配そうに見つめる恵里とハジメ。二人を見て不安が伝播した鈴も二人の服の袖をつかんで問いかけるのであった……。
「……しっかし、じゃあどうするかだよな」
「うーん……とりあえず信治を誘ってからでいいだろ。考えるのは後にしようぜ」
道すがらどう生成魔法を使おうかと頭をひねっていた礼一と良樹であったが、中々面白いアイデアは浮かばず、とりあえず信治を誘ってから考えようかと良樹が告げる。礼一もそれでいいかとうなずいて返し、今日も彼がいるであろう場所へと向かっていく。
「おーい、しーんじくーん!」
「あーそびーましょー!」
そして今日も九十九階層の拠点で一人呆けていた信治を見つけて二人は声をかける。すると、一拍遅れて気が付いた信治は彼らの方へとゆっくりと視線を向けた。
「……ん、あぁ、礼一と良樹か。今は一応鍛錬の時間だろ? 俺はちょっと休憩してるだけだからほら行け行け」
うっとうしがるように信治は手を動かすが、その顔に申し訳なさが多分に含まれていることに礼一と良樹は内心ため息を吐いていた。
彼の言う通り、信治本人はここでずっと何もしてなかったという訳ではなく、むしろ少しでも調子を取り戻せるよう得意な炎系統の魔法をがむしゃらに練習していた。しかし、アレーティアに真実を知るための手がかりを教えてしまったことがどこかでくすぶっていたようで、展開した魔法もどこか精彩の欠くものばかりであったのである。
結局今日も上手くいかず、どうすればいいのかと思って腰を落としてあぐらをかいていたところに二人が来た。そこで二人のためにも追い払おうとしたのだが、そんなことは関係ないと言わんばかりに二人も信治の両横に腰を下ろし、それぞれ肩を組んで軽くニヤつきながら顔をのぞきこむ。
「……なんだよ気持ち悪ぃ。用がねぇならとっとと帰ってくれ」
「オイオイつれねぇなぁ信治く~ん」
「そうそう。俺らは信治君のために面白い遊びを用意したってのにさぁ~」
「面白い遊び? どうせしょうもないこと――」
ウザ絡みをしてくる二人に軽くイラッとしていた信治の目の前で、二人は拾った小石に生成魔法を発動する。“風灘”を付与したものを良樹が軽く放ると何秒かその場でふよふよと浮かんでから落ちた。礼一が“滴垂”を付与した小石はぽつぽつと水滴を垂らしてつまんでいた彼の指を湿らせている。それを見て一瞬信治の顔があっけにとられた。
「神代魔法なんて大層な名前の割に、大したことは出来ねぇなー」
「ホント魔力食うばっかでこの程度だもんな……でもよ、結構面白くねぇか。な?」
「……あぁ」
いいおもちゃを見つけたとばかりに無邪気に笑う二人を見て、自然と信治もうなずいていた。
「お、こっちの石はいい具合に風を出してくれるじゃねぇか。んじゃこっちは……あ、割と強いな。あと時間もスゲー短い」
「土属性の魔法だと単にデカくなるだけかと思ったら“縛石”だと鎖が垂れんだな。へー、意外」
それからというもの、三人揃って生成魔法でいろんなことを試していた。良樹はお得意の風属性のものを付与して石ころから放たれる風の強弱を楽しんでおり、礼一もこのオルクス大迷宮攻略で磨かれた土属性の魔法を色々と付与した石ころがどうなるかを興味深げに眺めていた。
「だぁー!! 今この時ほど俺が炎属性に特化してたことを恨んだことはねぇー!!! 石ころが燃えるのばっかじゃねぇかー!!」
一方、信治は得意なのが炎属性なのもあってか割と似たような反応ばかりで悔しがっていた。だがその顔には一切の憂いは浮かばず、ただ目の前で起きる現象をただ無邪気に楽しんでいる。礼一達が見たかったものがそこにあった。
「よっしゃ、じゃあ次は“隆槍”――これぐらいのデカい奴に試してみようぜ」
「お、いいないいな! んじゃ俺も!」
「よーし、今度こそただ燃える以外に面白ぇーの見せてやらぁ!!」
そして礼一が“隆槍”である程度の大きさを保った岩の塊を出すと、二人は更にヒートアップする。自分の方がより面白い結果が残せるように、と一つ試してはまた塊を用意するのを繰り返した。
「けっこういい風来るな……なぁコレ、エアコン作れねぇ?」
「マジじゃん。マジで異世界でエアコン出来るのか!? アレーティアの奴……はとりあえずやめとこう。宮崎とハジメに頼みこんでよ、いい素材貰うついでに氷属性の魔法も付与してもらえば作れるってことだろ! さっすが良樹!!」
「っかー!! やっぱ良樹、お前ズルいなホントー!! 俺なんか燃えたり焼けたり熱持つのばっかしかねーぞ!! 芸ってもんが……いや、待てよ。これ出す熱を調整出来たらオーブンにならねぇか? 後はテキトーに岩で覆っちまえば完成するぞ?」
「うわお前、ここでも女子の好感度稼ぐかー」
「流石火の神様だよなー、信治君ってば」
「よせやい照れらぁ」
そうして色々と試していっては異世界版エアコンやオーブンの原型になりそうなものを生み出し、テンションも青天井に。結果、段々とタガも緩み出していった。
「……なぁ、もっとこう、色々と試さねぇか?」
「色々、って何だよ? 何やるんだ? 教えろよ礼一くぅ~ん」
「面白いネタだろうな、礼一? ここに来てガッカリさせんなよ?」
更に色々と生成魔法で遊び、残りの魔力が三分の一を切った辺りで礼一がそんなことをつぶやき出した。するとまだ半分程残っている良樹と信治もそれにアッサリと乗っかり、体を前のめりにしながら礼一に尋ねる。すると礼一も一層あくどい顔を浮かべながらこうつぶやいた。
「色々だよ。い・ろ・い・ろ――モノも大きさも関係ねぇ。こうなったらそこらの岩でも落ちてるモノでもいいから片っ端から試していかねぇか? 石ころだけじゃつまんねぇだろ?」
「いいなそれ! ここらにゃ捨てたゴミとかも他の階よりは残ってるし、やってみようぜ!!」
「やるやるー!! まだまだ遊び足りないって思ってたんだよ! じゃあ早速――」
そうして良樹と信治も久しくしてなかった悪人面を浮かべ、一緒になって色々なものに生成魔法を試すのであった――。
「……で、他に何か言いたいことはあるかしら馬鹿三人?」
「「「何一つございません……」」」
……そして時は過ぎてその日の夕方。とある
「呆れたよもう……何やってるの三人とも……」
「馬鹿だね」
「恵里、めっ!……その、信治君が元気になったんだし、許してあげようよ。ゴーサインを出しちゃった僕の方にも責任はあるから」
鈴は大いに呆れ果て、ある種元凶である恵里も自分のことを棚上げしながら蔑み、ハジメはそんな恵里を軽くたしなめつつも信治達を擁護しようとした。
「流石先生……恩に着る――あ、すいません。調子にのってました」
「ありがとうハジメ……今お前が神様に見え――ごめんなさいすいません反省してます」
「くぅー、やっぱり持つべきものは頼れる親友――マジ悪かったですごめんなさい」
ハジメが自分達をかばおうとしてくれた時、礼一達は地獄に仏とばかりにハジメに感謝のまなざしを送ったが、被害を受けた優花及びとんでもないイタズラを働いた三人におかんむりとなったメルドを筆頭にした周囲の冷たい視線を受けて即座に頭を下げまくった。
「お前ら……まぁ俺もアレーティアがいなかったら一緒に馬鹿やってたと思うけどよ」
「ん……」
自分とアレーティアを標的にしなかったことには感謝したものの、それはそれとして大介も三人の行動に呆れてしまっていた。
アレーティアの方も何をやってるのやらと思いはしたが、自分が前に彼らにやったことがチラついたせいで何とも言えない顔をするのが精いっぱいであった。なおそんなアレーティアの体を引き寄せ、大介は彼女の頭をなでている。
「……で、馬鹿達、アンタらは私達に渡した
「良樹、お前なら風属性の上位互換、雷系の魔法も使えるよな? 飲んだ瞬間にでも何かやったか?」
そして三人は改めて優花とメルドから尋問されると、信治達は顔を青ざめさせながら自分達がやったことを白状していく。
「お、俺はその……台所にあった塩にちょっと“纏雷”を生成魔法でつけて、それで水で溶いただけで……」
「お、俺はコップの方に……ちょ、ちょっとした茶目っ気だよ? 許してくれ、な?」
「あ、俺はえーっと……直接水に“纏雷”をくっつけただけで……いやー、その、二人と同じじゃちょっと芸がねーよなー、って。やったらなんか出来たし……」
そう。三人がやらかしたのは何らかの形で“纏雷”を生成魔法で付与したものをターゲットである光輝達に接触させたのだ。もちろん威力は触ったらちょっと痺れる程度に抑えてあるため、怪我なんて一つもない。まぁそれはそれ、これはこれというものだ。見事にターゲットを引っかけることが出来、ご満悦になった三人を見てキレた奴らが恨みを晴らすべく追いかけた、というのが今回の経緯である。
「……いや、どうして? なんで? 生成魔法にはそんなこと出来ないはず」
「……光輝達を見た限りじゃ怪我の一つもなさそうだが、よくもまぁそんなしょうもないイタズラを思いついたものだな。本気で呆れたぞ」
メルドは大きくため息を吐きながら三人を見つめる。いくらちょっとしたからかい程度であれ、仲間にいらんことをしたのは事実である。今後二度とこんなことをしないようにもう一度げんこつを落とそうかと彼は考えていた。
「ハジメくん? どうしたのハジメくん?」
「もしかして僕らが知った扱い方は表面的なもの? だとするとどうして――」
「驚いたよぉ~、ホントにびっくりしたんだからぁ~!」
妙子の間延びした非難の声に多くの面々がうんうんとうなずいて返す。妙子は良樹が“纏雷”を付与したコップに触ったのだが、その際めちゃくちゃ驚いてコップを落としてしまい、ひざから下を思いっきり濡らしてしまっていた。
「そうだよ! そのせいでうっかり吹き出して龍太郎くんに水かけちゃったんだから! 恥ずかしかったし気まずかったんだよ!!」
「マジであの時は驚いたからな……香織が吹き出した水のせいででしばらく顔痛かったんだぞ。ピリピリする程度だったけどよ」
「いやマジであのイタズラは割とシャレになってなかったからな!? テレビで見たことあったけど、実際にやられるとこんな痛いとは思わなかったぞ!」
「いやー、経験があって助かった……前に道場で訓練の一環でやったことあるけどアレよりマシだし」
「ね、ねぇ浩介っち。雫っちもそうだけど、八重樫道場って一体何を目指してるの……?」
「……きっとどんな状況でも対応できるようにしてるんだよ、奈々。でもさっきのは結構痛かった……あれ?」
他の皆も水を吹き出したり、体の一部を濡らしたりと散々な目に遭っている。三人の目論見は大成功で心底浮かれまくっていたのだが、しっかり恨みは買っていた。奈々などが裏の八重樫とは一体何なのかと意識がそれたり、光輝がちょっと引っ掛かりを覚えたぐらいで他の皆は良樹達に怒りのこもった視線をぶつけている。
「え、えっと……どうかしたのハジメくん? い、今は近藤君達のお話だよ? 何かあったの?」
「うん。正直おかしいところがあってね……その、出来ればもう一度礼一君達にやってほしいところなんだけど」
「え、正気?……あの馬鹿ども、ハジメ君に馬鹿をうつしたなぁ!!」
「え、恵里、どうどう! そういうのじゃなくって――」
そうして三人に尋問が行われる中、一人ブツブツとつぶやいていたハジメに恵里も鈴も気になって声をかけ、一体何があったのかと尋ねてみると奇妙なことを言い出したのである。まさか遂にあの四人の馬鹿が感染したのかとキレそうになった恵里をハジメが必死になだめ、すぐさま二人に“念話”で自分の気づきを伝える。
「――えっ、どうして……?」
「ホントだ……なんで、どうしてなの……?」
「ホントこの馬鹿は……タエ、この馬鹿三人に思いっきり“雷蛇”叩き込んでやって――」
「――待った!!」
そして恵里と鈴が告げられた疑問にショックを受ける中、また三人が断罪されようとしたその瞬間にハジメが文字通り待ったをかける。
「ど、どうしたのよハジメ。いきなり大声出すなんてビックリしたじゃない……」
「優花さん、ごめん。それと皆も。礼一君達に何かする前にちょっと思い出してほしいことがあるんだ」
いきなり大声を出されたことで優花はビクッとなり、軽く不機嫌な様子でハジメに言った。一方、言われた当人は優花を含めて一度皆に頭を下げると、先程抱いた疑問を口にしようとする。
「思い出す?……なぁ、ハジメ。それってまさか――」
「……光輝君が考えていることと一緒かも。多分気づいてない?」
そこで光輝も何かに思い至った様子でハジメに声をかけようとし、ハジメも同じ疑問を抱いてくれたのならありがたいと思いつつも自身の疑問を口にする。
「――僕達が生成魔法を手に入れた時、どんな説明だったかな?」
言葉にすればひどく単純で、なんてことはない疑問でしかない。一体何を言い出すのやら、と既にハジメから問いかけられていた二人以外の皆がそれを考えた瞬間……時が、止まった。
「……え? なんで? どうして……」
「お、おい……せ、説明が食い違ってるぞ! な、なぁハジメ、どうなってんだ!?」
ほんの少しの硬直の後、ハジメが呈した問いかけの意味に気付いた全員はその場で震え、答えをくれとばかりに視線も声もかけていく。
「そう、だよな……俺が間違って覚えてた訳じゃないんだよな?」
「私、間違って覚えてないはず……光輝も、皆もそうよね!?」
「ど、どうなってんだよ!? おかしいじゃないか! だって、だって生成魔法は――」
――鉱物に魔法を付与する代物だろ!?
浩介の叫びが解放者の住処でこだまする。それに誰も反論を挟めず、困惑は深まるばかりであった。
そうなのだ。取得できなかった恵里としなかったメルドは又聞きでしかないのだが、皆が生成魔法とはどういったものなのかを知っている。だからこそおかしいとしか思えなかった。
どうして鉱物に付与できる魔法が塩にも使えた? 何故鉱物にしか扱えないはずの魔法が水にも作用した? 何故説明が食い違う? どういう意図であんな説明をした? それら全てが不可解だとこの場にいた皆が感じたのである。
「……ふん。反逆者の言葉もアテにならんな。こういった使い方を伏せていたなど、結局ここを攻略しに来た奴らのことを信用してなかったのではないか? お前達も災難だったな」
自分達に神代魔法を授けてくれたオスカーを侮蔑し、かつそれに振り回された皆をねぎらう言葉をメルドがかけたことも誰の耳に入らない。ただ『何故』という単語だけが幾度も幾度も浮かび上がるだけ。
深まる困惑と疑念に、イタズラを仕掛けた信治達もが救いを求めてハジメに視線を向ければ、ハジメも真剣な様子で深くうなずいて返す。
「……調べよう。生成魔法はどこまで、何が出来るのかを」
その言葉に誰もが深くうなずいた。
「……これがさっき良樹君達がイタズラに使ったのと同じものです」
ハジメの指示の下、各人は実験が見やすいようにリビングの家具を動かしたり、テーブルの上に材料を用意するなりした。準備を終えた全員の視線は、テーブルの上にある水が八分目程入った三つの金属のコップ、一つまみ程度の岩塩が盛られた陶器の小皿に注がれている。
「まずは良樹君がやったこと、コップそのものに生成魔法を付与することの再現をします」
そう述べるとハジメはコップを一つ自分の手元へとゆっくり動かし、一息吐いてから生成魔法を発動する。付与するのは彼らがやったのと同じ“纏雷”。それもちょっとピリッとくる程度に抑えつつ作業を終える。
「良樹君達が使ったコップは金属製で、これも同じ。そして生成魔法は鉱物、つまり金属には確実に付与出来ます。出来る、んだけど……」
そして良樹がやったことをハジメは口にするも、どこか歯切れが悪い。その原因は、彼の隣で涙目になっていた先の騒動の犯人どもこと礼一達のせいであった。
「も、もうちょい待ってくれよ。い、今心の準備してるとこだからよ――」
「ほら早く、とっととやりなさいよ斎藤」
……この実験をする際、当初はハジメが実際に被害を受けてみる予定だったのだが、ハジメにしょうもないことをやらせたくないと駄々をこねた恵里と、さっきのことを根に持った優花らがゴネたことで三人が自分のやったことを自分で受ける羽目になったのである。自業自得であった。
「うぅ……はい――痛ってぇ!?」
そして良樹がコップに指を触れた途端、バチッと強めの静電気が走ったかのような心地となってすぐに彼は指を引っ込めて地面に倒れこむ。わかっていても結構痛かったようだ。
「は、ハジメぇ~、加減、加減したんだよな!?」
「……黙秘権を行使します」
「うぉい!?」
なお、実際はもっと抑えるつもりだったのだが、恵里達の視線にハジメは屈していた。恐怖政治ここに極まれり。
「やりたくねぇ、やりたくねぇよぉ~」
「謝るから、マジで謝るから許してくれぇ~」
「うっさいアンタら。この程度で済ませてるんだから文句言うんじゃないわよ」
まだ刑罰の執行が待っている礼一と信治が泣き言を言うも、優花らのブーイングを受けて結局それ以上は言えず。そしてハジメも視線で急かされ、罪悪感を抱きながらも次の実験へと移った。
「次は礼一君……確か塩に生成魔法をかけたんだったね。じゃあこれに生成魔法をかけて水に溶く前にちょっと説明させてもらいます」
そうして次の作業に移る前にハジメは塩を指さすと、どうして塩に生成魔法をかけることが出来たのかの説明に入った。
「まず第一に、塩はミネラル……これも鉱物の一種です」
その言葉にアレーティアとメルドの二人は大きく驚き、恵里と鈴、幸利や光輝といった頭のいい面々以外は軽く驚いた様子を見せた。
「……いや、そう言われても俺はわからんぞ。どういうことだ、ハジメ?」
「……どういうこと、大介?」
「いや俺もさっぱり……おい先生、どういうこったよ」
「言葉の通りだよ、大介。そもそも塩は塩化ナトリウムがちゃんとした名称で、そのナトリウムが鉱物そのものなんだ。そうだろ、ハジメ?」
メルドは思いっきり首をかしげ、アレーティアも自身の知らない知識を披露されて困惑し、隣の大介に助けを求めたものの、その彼もそうだったっけかと考える始末であった。そこですぐさま幸利が自身の知識を披露し、ハジメに確認を求める。するとハジメもゆっくりと大きくうなずき、それに同意した。
「うん。そうだね幸利君……とりあえずここで重要なのは塩も立派な鉱物の一種だ、ってことです。それさえ頭に入ってればいいので――では」
そしてハジメは塩にも“纏雷”を付与していく。そして塩の盛られた小皿を手に取ると、近くに持ってきた別のコップに塩が全部入るよう傾ける。そして小皿の上に塩が無くなったのを全員に見せると、気まずそうな顔をしながら礼一の方を見やった。
「……ごめんね。無力な僕を恨んで」
「せ、先生は悪くねぇし……が、がんばる――うげぇ!?」
そしてなけなしの勇気を振り絞りながらも礼一はコップに口をつけ、その瞬間唇に走った電気にたまらず悲鳴を上げて倒れこんだ。
「いてぇ……めっちゃ痛ぇ」
「こういうイタズラはもうやめましょう、三人とも。ね?」
そして涙目になる礼一らに向けて軽く呆れた様子ながらも雫が諭す。礼一がぐずってからちょっと経って落ち着いた後、ようやく最後の実験に取り掛かることとなった。
「じゃあこれで最後――水そのものに付与する実験だ」
そう告げたハジメだけでなく、この場にいた全員が思わず息をのむ。信治の言葉を信じるのならば鉱物以外にも生成魔法は使えるということになる。つまり傷薬や魔力回復薬もこの住処にある水を元手に作り放題ということにもなるのだ。
ここ最近神結晶から出が悪くなってしまった神水のことを考えると嬉しい誤算であり、否が応でも期待が高まる。そしていざ、ハジメはコップの水面に向けて手をかざした。
「いきます……んっ」
そして手のひらから漏れた紅い魔力が水面へと伝っていくことしばし。手をどけるとハジメはそこから一歩引き、信治に向けて頭を下げる。
「……ごめん、信治君。お願いします」
「嫌だぁ……絶対イヤ――あ、はい、やります。誠心誠意喜んでやらせてもらいます」
そしてハジメに頭を下げさせたことを恨んだ恵里からの視線に怯え、嫌々ながらも信治はコップへと近づいていく。そしてコップの前に立つと、周囲を見渡しながら彼は確認を取った。
「こ、これ、別に口をつけなくってもいいよな? 触るだけでもアリだよな?」
「まぁやるんだったらそれで構わないぞ信治。もし実験が成功であっても、俺は確かめてみたいから……なぁそんな目で見つめないでくれ。俺だって傷つくぞ!?」
すると光輝がそんなことをのたまい、他の面々が信じられない目で見てきてギョッとする。これは信治が演技でないことを証明するために述べたのだが、周囲からはそういう風には見られなかったらしい。雫にさえ疑惑のこもった眼差しを向けられて光輝は軽く涙目になった。
「じゃ、じゃあいく。いくぞ――あぁぁああ!!」
光輝が説得を終えた後、おっかなびっくりな様子で信治はコップの水面へと人差し指を伸ばし――触れた瞬間、大きくのけぞった。
「いてっ、痛ぇー! 強めの静電気みたいな感じで痛ぇー!!」
いささか大げさに見えなくもないリアクションではあったが、なんだかんだ付き合いがそこそこ長い皆はこれが嘘のリアクションでないことを見抜いていた。そこで光輝も試しに最後に生成魔法を使ったコップへと手を伸ばし、水面に手を触れ、そして大きく跳ねた手をもう片方の腕で掴む。
「~~~!……本当に、痛いな。信治の言う通り、これ静電気がバチッときた感じだ……」
雫に指先をさすってもらいながらそうつぶやくと、他の面々もそれに興味が湧いてきてしまう。信治のあのリアクションに加えてリーダーである光輝が言うのだから間違いない。だがそれはそれとして確かめたくなってしまったのである。
「……じゃ、じゃあ私、やってみるね――痛っ!?」
「鈴がやるんだったらボクも――ぐぇっ!?」
「え、えっと……さっき吹き出しちゃったのと同じかどうか確かめて――痛いっ!?」
「お、おい……そこまで言われるとちょっと気になるだろうがよ……お、俺も――ぐぉっ!?」
そうして始まる度胸試し。次々と全員がコップの水に指を突っ込み、本当に痺れるのかを確かめる。結果は言わずもがな。どいつもこいつも痺れに痺れて指先の痛みに悶えながらも新たな発見に心を躍らせた。
「信治君、大手柄だよ! おかげで回復薬も用意出来るし、もしかすると他にも生成魔法が使えるのかもしれない!! ありがとう!!」
「お、おう……その、先生、早く離れて。中村に殺される。今にも殺そうかってすんごい殺意マンマンの視線向けてくるんだよぉ!!」
そして自分も試してみたハジメに抱き着かれ、信治は嬉しいやら背後の視線が怖いやらでパニックを起こす。その後は手に入れた様々な物に向けて生成魔法が使えるかどうかの実験が始まり、大いに盛り上がったのは言うまでもない――。
「……じゃ、じゃあ、いいんだな? 俺が最初にやるぞ、文句は言わねぇよな!?」
そして時が経ち、解放者の住処で信治達が過ごすことになって一週間が経過した現在。金属製のガントレットを身に着けた信治は工房の作業机に置かれた鉱石の前に立ち、周囲の期待の視線を受けていた。
「大丈夫、絶対に他の誰にも言わせないから。ほら、やってみてよ信治君」
「よ、よし……じゃあやってみるぞ――“
そして鉱物に手を触れると、本来天職が“錬成師”であるハジメにしか使えないはずの“錬成”を詠唱する――その瞬間、ぐにゃりと鉱物が変形した。実験は大成功である。
「スゲー!! マジでハジメの錬成が使えるのか!!」
「……出来た。マジで出来やがった!! 俺も、俺にも錬成が使えるのか!!」
「うん! 本当にすごいよ! まさか魔物の固有魔法だけじゃなくて、僕の錬成まで使えるなんて思わなかった!!」
信治はガントレットを身に着けた手を何度も開閉してはまじまじと見つめ、世紀の瞬間を見ていたギャラリーも歓喜の声が湧いている。
今、彼が身に着けたガントレットは“錬成”の魔法陣が刻まれているだけでなく、生成魔法でハジメの“錬成”が付与されている――つまり、これを身に着ければ誰でも“錬成”が使えるようになるという代物だ。世界がひっくり返るとんでもない発明である。
これは元々、生成魔法の可能性を調べていた時に恵里が漏らした独り言が原型であった。『魔物の固有魔法も付与出来るんだし、ハジメくんの“錬成”とかもやれそうだよね。そしたらハジメくんの負担も減るよ』と。そこで試した結果、ハジメ特有の技能である“錬成”も付与できることがわかり、これまた場が大いに沸いたのは言うまでもない。
その後、ハジメ以外で“錬成”を最初にやる権利を恵里が主張したものの、そこでハジメが待ったをかけた。生成魔法の既成概念を打ち崩してくれた信治にこれを譲ってあげたい、と。もちろん恵里は泣きじゃくって駄々に駄々をこねにこねまくったが、そこはハジメと鈴の手腕でどうにか抑えた。そのため信治が栄えある第一号として“錬成”を発動したのである。
「よし――それじゃあ皆、お願いします」
『了解!』
そうしてハジメが頭を下げると、既に身に着けていた信治以外の全員が“錬成”の付与されたガントレットを身に着けていく。既に全員分量産されていたそれは、着脱のしやすさに重きを置いてあることで全員が身に着けるのに大した時間もかからなかった。
「じゃあ恵里と鈴、それと幸利君は僕の補佐を。他の皆は練習ついでにサイズ調整をお願いします!」
おー! と全員が声を上げるとすぐに各々の作業に分かれていく。先に挙げた三人はオタクとしての素養やイメージ能力が高いことから大まかに形成する係を、他の皆はハジメから指示された通りのサイズと形状に簡単に鉱物を整える役割を任された。
「しっかし……こうなるとは思わなかったよなー」
「ホントだよなー。まさか俺達がイタズラしたら、それが原因で全員で先生の手伝いすることになるなんてな」
「風が吹けばなんたらって言うけどよ、それよりもすごいこと起きてるもんな」
そして礼一、良樹、信治も雑談を交えながらハジメから受けた指示通りに作業をこなしていく。あーだこーだと言いながらもその顔に不満は一切ない。むしろ新たなおもちゃを与えられた子供のような気持ちで作業をしている。
「……こうして俺らが作ったこの塊が、バイクに変わるんだよな」
そう感慨深げに信治がつぶやくと、つられて二人も笑みをこぼす。彼が述べた通り、今回ハジメが手掛けるのはバイクだ。それもこれから作る四駆や全員で移動できるバスを造る際、車輪の駆動についてデータを取るために造るとのことである。
とはいえバイクだ。男のロマンだ。それを造るのに自分達が一役買っており、もしかすると自分達にそれを回してくれるかもしれないと思うと心が躍らないはずがなかった。
「ちゃーんと作るぞ。これで手を抜いて駄目になったらお前らのせいだからな」
「ハッ、誰が手を抜くって礼一くぅ~ん? マジメにやるに決まってるだろうがよ!」
そうしてテンションを上げながらあのイタズラの犯人達は作業に没頭していく。
「……こう?」
「あ、いいんじゃね? どうだ谷口、アレーティアの出来は?」
「うん、いいと思うよ。あ、次は――」
「とりあえず大まかなパーツは出来たけど、車輪をどうやって動かそうか……いいアイデアないかな、恵里?」
「んー……じゃあミニ〇駆でも参考に――」
「絶対ヤダ。なんか参考にしたらチープになっちゃう気がするし、負けた気がするからやだ」
「え、ちょ、ハジメくん? べ、別に作れるんだったら何でもいいんじゃ……」
「やだ。絶対やだ。作るから、ちゃんと動くやつ作るから。だから絶対やだー----------!!!」
「うぉ、ハジメ!? き、気持ちはわかるから抑えろって!!」
「は、ハジメくーん!? あわわ……ちょ、ちょっとアレーティアさん、檜山君もごめんなさい! 今ちょっとハジメくんなだめに行くからー!!!」
こうして今日もまた、解放者の住処は騒がしいままに時が過ぎていくのであった……。
本日の言い訳
原作だとハジメ以外がアーティファクトそのものを手掛けることなんてしませんでしたよね? それこそ魔法なんかを付与する時以外は。多分それってパーツやら何やらを作る際に形成するイメージ能力が他の人物では足らなかったからだと思うんです。
じゃあ他にも自分並にイメージ能力が高くて信頼できるオタクがいて、かつ手伝える方法があるとするなら?……今回の最後らへんの展開が作者の答えです。
別にやれるんだったら皆でやってもいいでしょ? 細かい仕上げは自分がやればいいんですし。ね?