あまりありふれていない役者で世界逆行   作:田吾作Bが現れた

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先程話を投稿しましたが、そちらは色々と欠けてた部分があったので急遽削除しました。皆様方、大変失礼いたしました……。


では改めて読者の皆様がたへの感謝を。おかげさまでUAも119605、しおりも334件、お気に入り件数も769件、感想数も376件(2022/7/16 0:19現在)となりました。誠にありがとうございます。こうして自分の作品が色々な方に読まれていると思うととても感慨深いです。

そしてAitoyukiさん、ダンボールパンダさん、拙作を評価及び再評価していただき誠にありがとうございました。こうしてまた拙作を書く気力が湧いてきました。本当にありがとうございます。

それとタイトルからお察しの通り、長くなったので分割しております。はい、いつものヤツです(白目)

では少々長め(10000字程度)となっておりますので、それに注意して本編をどうぞ。


幕間二十三 雨降って地固まる(前編)

「ハジメくん、別にソレはいらないよね?」

 

「そうだよ。別に人手は足りてるんだし、なくたって構わないよね?」

 

 解放者の住処で過ごして十日目が経過した日のこと。

 

 生成魔法が『あらゆる無機物に魔法を付与できる魔法』とわかり、また全員に“錬成”を付与した金属製のガントレットを渡して皆でアーティファクトを製造することになって三日が経過した時のことである。この時、恵里と鈴はハジメに対して珍しく不機嫌さを露わにしていた。

 

 口角こそ上がっているものの、目が一切笑ってない恵里と鈴は存分に威圧感を出しながらハジメへと詰め寄っている。しかし、普段ならそうなってしまった二人にひたすら平謝りするはずのハジメは、この時ばかりはそれに屈することなく二人を見据えている。

 

「イヤだ。絶対捨てない――コレはオスカーさんから託されたものなんだ。だから僕はその遺志を継ぐ。たとえ誰が相手であっても僕は絶対に屈しないよ」

 

 解放者オスカー・オルクス。世界をエヒトの魔の手から解き放たんと戦い続けていた解放者の一人。そんな偉大な人物が後世に残したある存在を、自分は受け継ぐのだという不退転の決意がその瞳から感じさせられる。たとえそれが自身の恋人であろうと、今の彼は決してひるまなかった。

 

「ふーん、そっかぁ……そんなにそのメイドゴーレムが大事なんだね?」

 

 ……それがたとえ、二人から守ろうとしているのがオスカーの趣味を存分に発揮した代物であっても。なんか色々と台無しであった。

 

 日々の鍛錬とアーティファクトの製造、そして夕食も風呂も済ませて後は寝るだけのわずかな時間、それを利用してハジメは恵里達と一緒にオスカーの作品が数多く残る宝物庫を巡っていたりした時にそれを発見したのである。

 

 わざわざこのゴーレムの保管用のスペースまで作ってあったのを見た時は恵里と鈴も大いに呆れたものの、ハジメはそれにいたく感動していた。

 

「前に私達がメイドの恰好をしてた時は結構ダメ出ししといて“やっぱりいつもの二人がいい”って言ってたよね?……鈴達じゃ不満なのにそういうのは別なんだ?」

 

「ちゃ、ちゃんと後で謝ったよね!? 掘り返さないでってば!!」

 

 だがそのメイドゴーレムにご執心なハジメに対し、二人の反応は実に冷ややかなものであった。これもそれも今鈴が語ったように、中三の時に起きたあることが原因であった。

 

 それは当時受験勉強を頑張っていたハジメを元気づけるため、彼の自宅で勉強会を終えて帰ろうと支度をしながら何かいい方法がないかと二人とも考えていた時のことである。その折、ハジメがトイレに行ったため、こっそり二人で話をしていた時に恵里の脳裏にあるアイデアが浮かんだのだ。

 

『お菓子とかじゃちょっとありきたりだし、どうせだから……そうだ! メイドさんの恰好をして給仕すればハジメくんも喜ぶかも!』

 

『いいねそれ! じゃあ、早速衣装を借りに――』

 

『話は聞かせてもらったわ! 資料として買ったのがあるから二人ともそれを着てみなさい!!』

 

 恵里が出したアイデアに鈴が乗っかり、その場にいなかったはずの菫もどこからともなく現れ、菫に仕事現場に連れて行かれた二人。クローゼットに保管されていた()()()()()()()()()()メイド服をアシさん達に手伝ってもらいながら着た恵里達は、すぐさまハジメの下へと向かったのである。

 

『入るよー、ハジメくーん』

 

『うん? 恵里、どうした……の……』

 

 そうして部屋をノックして入ると、既に帰ったと思われた二人がメイドの恰好をしながら現れたため、ハジメの頭は一瞬でフリーズしてしまう。どこぞの聖地のエセメイドでなく、正真正銘の美少女メイドさんがそこに立っていたのだ。それもほんのりと頬を染めながら、だ。

 

『ど、どうかな……』

 

『に、似合ってる……?』

 

『う、うん……すごく、かわいい……』

 

 軽く息を荒げながらも返事をしてくれたハジメに二人は内心ガッツポーズを決める。期待以上の成果が出たことにテンションが上がり、ならば愛する人のためにもう一肌脱ごうと決意する。

 

『じゃあボク達はお茶沸かしてくるから』

 

『お菓子も用意してくるね。一から作ったら時間がかかっちゃうから、ハジメくんの家にあるのでいい?』

 

『え、えっと……お、お願いします……』

 

 そんなこんなで二人は若干の緊張をしながらも、手馴れた様子で用意したお茶を淹れ、袋入りお煎餅の入った菓子受けを彼の机の邪魔にならない場所に置いた。甲斐甲斐しいお世話にハジメも照れつつも、出されたお茶を飲んでお煎餅を一枚食べる。幸せそうな顔をするハジメを見て二人は大成功だと確信する……ここまでは良かった。そう、ここまでは。

 

『ねぇハジメくん。メイドさんやってみたけど、その……どうだった、かな?』

 

『率直な意見、聞かせてほしいな。ね、お願い』

 

 そう、ここで二人が欲をかいてしまったのである。

 

 かなり好感触であったため、もしかするとメイドにかなりこだわりのあるハジメであっても、それなりにいい評価をもらえるのではないかと期待して言葉をかけてしまったのだ。コレが本気でマズかった。

 

『えっと、その……本当に、いいの?』

 

『うん! もし次もやるなら参考にさせてもらいたいから』

 

『少しでもハジメくんの色に染まりたいから。お願い。ね?』

 

 そうして恵里が目を輝かせたり鈴が可愛らしくおねだりしたのもつかの間、結構な照れが入っていたこともあってかそれを払うためにもハジメは()()自分目線で()()()の意見を口にしてしまう。

 

『えーと、コホン……まず二人にはもう少し楚々とした佇まいをしてほしかったな。二人が僕のためにやってくれているのはわかってるけど、やっぱりメイドさんだし、一歩引いた姿勢で主人をもてなすところとかは再現してほしかったよ。それと声をかけてくれたのは嬉しいけれど、メイドさんは主人が話しかけてからしゃべるのが暗黙の了解だから次はそれを守ってね? あとそれから――』

 

 メイドガチ勢であるハジメから次々と出てくる注意にアドバイス、果ては注文の山が矢継ぎ早に繰り出されたのだ。

 

 聞き始めた当初は二人とも『メイドって奥が深いんだなー』と思って耳を傾けていた程度であったが、段々とヒートアップしていって更に話も長引いていくと、いくらハジメのことが好きであっても恵里と鈴はその話に辟易し出していった。聞かなきゃよかった、と思いながらも我慢してハジメの話を聞き続けていた二人であったが、最後に付け加えた一言で遂に堪忍袋の緒が切れることとなる。

 

『……っと、他にも言いたいことは色々あるけどさ。でも、その……二人がやってくれたのは嬉しかったよ。でも、でもね……やっぱり恵里と鈴はいつもの方がいいかな、って思ったんだ』

 

 このとってつけたようなフォローが原因で、恵里と鈴は完全にキレてしまった。

 

 ……散々二人にダメ出しをしたものの、自分のためにやってくれた純粋な好意はやはり嬉しかったため、ハジメが照れ隠しでそんなことをつぶやいたのだ。

 

 これがサラッと注意してからこう締めくくったのならまだ恵里も鈴もちょっと不機嫌になりながらも呑みこめただろう。だがよりによって十数分もの説教染みたアドバイスの後にやってしまったものだからどうにもならなかった。

 

『ふーん、そっかー……』

 

『ハジメくんはそう思ってたんだね……』

 

『え? あ、あの……二人、とも? ちょ、ちょっと怖いよ? お、落ち着いて。ね?』

 

 と、ここでようやくハジメも自分のやらかしに気が付いた。どうやら自分は二人を本気で怒らせてしまったらしい、と。

 

『うんうん。貴重なアドバイスありがとう。それじゃあ――』

 

『そうだね。鈴達にメイドさんが似合わないってことはよーくわかったから。だから、これはそのお礼だよ――』

 

『ふ、二人とも! ちょ、ちょっとタンマ――』

 

 いつになく不機嫌な様子の二人をどうにか止めようと言葉をかけようとするももう遅い。すこぶる笑顔で青筋を何本も立てながら、スカートをつまんで大きく足を後ろに振り上げる。

 

『『くたばりなさいませ、ご主人サマッ!!』』

 

 そして二人で息を合わせ、自分達の方を向いていたハジメのむこうずねを思いっきり蹴っ飛ばしたのである。

 

 ……その後、恵里と鈴は二度とメイド服に袖を通すことは無くなり、メイド関連の話が出たら軽く不機嫌になってしまうようになった。

 

 なお、この程度で済んだのはやられた直後に激痛に耐えながらもハジメが誠心誠意謝り倒したのと、思いっきりスネを蹴って恵里と鈴が軽くスッキリしてたからであった。ちなみに今回の話の顛末を聞いた菫はゲラゲラと笑い、しっかりと漫画のネタにしていたりする。

 

 閑話休題。

 

「あ、あのことはちゃんと謝ったし、僕の不注意が原因で二人がメイドさんのことで怒るようになったのもわかるよ……でも、それでも! これだけは絶対に譲れない!! メイドは人類の宝だから!!!」

 

「よし壊そう。鈴は“聖絶・桜花”で上手いこと運んで。とりあえず外に出せればいいから」

 

「うん、わかった。じゃあ恵里は“炎天”使って。鈴の“聖絶・光散華”で一緒にブッ飛ばそう」

 

 そして謝りながらもメイドゴーレムは何としても守ろうとするハジメにやはり恵里と鈴は本気でキレた。自分の愛する人を惑わす憎いあん畜生は絶対に破壊してやると息巻いたのである。

 

「ちょ、ちょっと待った――」

 

「「待たない。くたばれクソメイド」」

 

 そう言って鈴は最強のバリアを桜の花びらのように散らせて操る“聖絶・桜花”を発動し、恵里も即座にハジメに向けて“縛岩”を発動して雁字搦めにしようとしたものの、“限界突破”と“魔力放射”でそれを破壊する。

 

「大人しくしててよハジメくん! ボク達はそれを壊したいだけなんだからね!!」

 

「そうだよ!! どうせ鈴達がここで見逃しても研究だなんだってかこつけて絶対そのゴーレムにつきっきりになるでしょ! それぐらいお見通しなんだから!!」

 

「そうだけど、でも!――僕には、守りたいものがあるんだ!!」

 

 守るものがせめて故人の趣味を存分に反映させたものでなければ存分に格好がつくはずの言葉を吐きながらも、ハジメはメイドゴーレムに向かう光の花びらを全て“魔力放射”で吹き飛ばし、破壊していく。

 

(このままじゃ鈴の魔法でオスカーさんの遺産が破壊される――だったら!!)

 

「殴る気!? だったらボクでも容赦しな――うわっ!?」

 

「そんなに、そんなにあれが守りたいの!? だったら絶対壊して――きゃっ!?」

 

 魔法そのものをピンポイントで破壊することが出来れば、と思いながらもメイドゴーレムを死守し、このままではジリ貧だと確信したハジメはすぐに二人を両脇に抱え、保管スペースの壁を蹴り破る。その後、地面へと押し倒した二人にハジメは“錬成”を使って地面を変形させて拘束しようとする。

 

「ごめん。恵里、鈴……二人には悪いけど、諦めてもらうから!!」

 

「――!! ハジメくんのバカっ! 大っ嫌い!!」

 

「ハジメくんのアホぉ!! 浮気ものー!!」

 

「い、一体何があったんだ三人とも!?」

 

 自分ごと体を地面に沈めて二人を拘束しようとし、それに抵抗した二人が“魔力放射”で床面を破壊し続けたのもつかの間のこと。その轟音に気付いた光輝達がすわ何事か、と急いで音のする場所へと向かい、遂に三人は見つかった。そして三人の言い分と破壊された現場を見て誰もが大きくため息を吐きながら三人を見つめる、

 

「――ほう、そうかそうか。痴話喧嘩をする程度の余力はお前らには十分あったということだな」

 

 もちろんそのしょうもない経緯を知ったメルドはキレた。

 

 最高にいい笑顔をしながら両の指の骨を鳴らし、“威圧”を容赦なく三人に叩き込んでくる。それを見たハジメ達は確信した。これ絶対にヤバい奴だ、と。

 

「あ、あの、メルドさん……こ、これはその、みんなの家事や労働の負担を軽減するために……」

 

「ぼ、ボク達はハジメくんが余計な仕事を抱え込まないで済むように説得してただけで……」

 

「そ、そうです! 決して嫉妬してたとかそういう訳じゃ――」

 

 三人揃って脂汗をかきながら必死に言い訳をするものの、そのどれもが届いてないことは目の前の偉丈夫の顔面にとてもよく現れていた。無数の青筋が浮き出ているのだ。だがそれでもどうにか助かろうと言い訳を続けていると、メルドが()()の笑顔を浮かべながら言葉をかけてきた。

 

「ああ、みなまで言わんでいい――少し手合わせを願おうか。対人戦の訓練にもなるし、寝つきも良くなるぞ。返事は?」

 

「「「……はい、お願いします」」」

 

 そして三人はメルドと対峙する羽目に遭ってしまう。城での訓練をしていた時ぶりに行われた一対三、一対一の戦いはいずれもメルドの勝利に終わった。ここオルクス大迷宮を切り抜け、更に戦士として仕上がったメルド相手では非戦闘職と術師である三人ではどうにもならなかったのである。ちなみに最初にやったのは三人まとめての相手であった。

 

 なおその後、女に飢えた浩介、礼一、信治、良樹ら四人の必死過ぎる嘆願によってこのメイドゴーレムは運用することとなった。

 

 どうやったら起動するかもわからなかったものの、メイドゴーレムの周囲にあった装置を調べたことで解決した。装置に刻んであった魔法陣の一つに魔力を流すことで魔力が注がれる仕組みとなっており、十分な量を注いだことで起動し、今ではこのメイドゴーレムのおかげで全員の家事の負担が減ったのである。

 

「……ハジメくんが悪いもん」

 

「……ハジメくんの馬鹿」

 

「……浮気じゃないし。ないがしろになんてしてないのに」

 

 ……だが問題は完全に解決したという訳ではなかった。

 

 

 

 

 

「――えーと、ここをこうして……よし。じゃあ優花さん、動かしてみて」

 

 ハジメ達がメイドゴーレムを見つけたあの日から二日後。一メートル大の大きな箱をいじり終えたハジメは優花にそれを起動するよう促す。

 

「わかったわ――うん。動かすのが少しラクになったわね。ありがとう、ハジメ」

 

 そして優花も少し緊張しながらもそれに施された魔法陣に魔力を注ぎ込んでいく。すると箱から何かが回る音が聞こえ出し、それは次第にうなり声を上げるかのように大きくなった。若干とはいえ以前よりも効率よく動くようになったことに驚きつつも、優花はハジメに礼を述べる。

 

「気にしないで。バイクのタイヤを動かす試験とか実際に走らせたおかげでどうすれば効率よく動かせるかわかったしね。そういえば注水機能とか水を抜く方は大丈夫?」

 

「そこは特に問題ないわ。アンタとナナがしっかりやってくれたおかげでね。ドラムの回転だってちょっとした不満程度だったのを改善してくれたんだし、これ以上文句なんて言えないわ……まぁそもそも洗濯機が出来るなんて思わなかったけれど」

 

 ハジメが整備していたのは洗濯機……のようなモノである。これは元々バイクのタイヤを回転させる機構について色々と試行錯誤していた際、ふと女子~ズが洗濯の手間を嘆いていたことを思い出し、そこで試作品を流用して女子~ズと一緒に作った代物であった。

 

 十数回に渡る試験の末に完成した洗濯機モドキは流石に地球のソレとそん色ない出来栄えとまではいかなかったものの、『もう洗濯板でゴシゴシしなくて済む!』と感激した女子~ズから感謝されたのは記憶に新しい。ちなみに洗剤は削って粉微塵にした石鹸をお湯で溶いたものである。こちらの方は女子の方で色々と試行錯誤しているらしい。

 

「そっか。それならいいんだけど、その……」

 

「何よ、煮え切らないわね。ほら、言ってみなさい……どうせエリとスズのことなんでしょ?」

 

 そして自分が悩んでいたことを見透かされ、ハジメは顔を赤くしながら軽く縮こまってしまう。

 

 ……実は今回、優花に洗濯機モドキの改造に立ち会ってもらったのはちょっとした下心があったからだ。それも彼女の言う通り、恵里と鈴のことについてである。

 

 奈々と妙子よりはハッキリと意見を言ってくれそうだし、アレーティアに関しては今の彼女の気性的にちょっと相談し辛いかった。香織は現在龍太郎と一緒に一対一の訓練――先日メルドがハジメ達に稽古をつけたのを見て、自分達も神の使徒相手に戦えるようになりたいと発奮したのが原因である――をしているため無理である。それと何を言われるかわからなくて怖かったのだ。

 

「とっとと謝んなさいよ……それで粗方済む話でしょ? アンタが“フリージア”に現を抜かす、って思ったからあんなにムキになったんだし」

 

 ……とはいえ、付き合いが長いこともあって優花も中々に容赦のない言葉を投げかけてきたため、ハジメは胸の辺りを抑えて軽くうずくまってしまう。先日見つけたメイドゴーレムこと“フリージア”のせいで実はまだ恵里と鈴と仲直りはしていない。そこで優花に頼ったのだが、彼女も彼女で結構忌憚のない意見をぶつけてきた。

 

「で、でも……フリージアの整備とか、研究とかは僕じゃなきゃ出来ないし……」

 

「それも行き詰ってる、ってシズから聞いたわよ。分解とか出来ないことを嘆いて頭かきむしってた、って言ってたけど?」

 

 それでもどうにか反論しようと試みるも、叩き込まれたカウンターのせいでハジメは四つん這いになってへこんでしまう。実は、フリージアの研究は既に暗礁に乗り上げていたのである。それも鈴が恵里と一緒にフリージアを破壊するために“聖絶・桜花”で持ち運ぼうとしたことが原因であった。

 

 恵里達にとっては一緒に爆破出来ればそれでよかったこともあってか、運び方が雑だったのだ。適当に破片となった“聖絶”に乗っけて運ぼうとしたせいで表面にかなりの損傷が残っていたのである。それもハジメが頑張って防いだにもかかわらず、だ。

 

 そこでとりあえず表面の傷だけでも、と思ってフリージアを修理した際にハジメはある違和感を感じ取っていた。魔力が、通り辛かったのである。流石にアレーティアを封じていたあの封印石よりは遥かに楽ではあったが、それでもどこか抵抗を感じていた。“鉱物鑑定”で素材を調べた感じでは様々な金属の合金でしかないはずなのに、それでも金属を自在に変形させられる“錬成”が効き辛かったのだ。

 

 関節ごとにパーツ化されてはいるものの、やはりネジや整備用のパネルなどの継ぎ目といったものも見当たらない。そのため、下手にいじったら二度と動かなくなるのではないかと危惧したため、ハジメは表面の修理だけにとどめたのである。研究が進んでいない、というのはそういうことであった。

 

 なお、これを優花が知ったのは偶然でなく、女子~ズの方でハジメの具合を知るべく工房に雫が送られたのが真相であったりする。とはいえ馬鹿正直に答える気は優花には無かった。

 

「僕だって二人に謝りたいよ……でも、でもさ、趣味の一つぐらい認めてくれたっていいじゃん……」

 

「その趣味に入れ込み過ぎる、ってのがわかってたから二人があんなに反発したんでしょ? 他の趣味は一緒に楽しんでるんだし、メイド嫌いになったのはアンタの自業自得でしょうが。頑張った二人をけちょんけちょんに貶したアンタが全面的に悪い」

 

「あうぅ……」

 

 か細い声で自分の意見を申すものの、またしても優花の辛辣な言葉にハジメは遂に泣き出してしまった。

 

「わかってるよ、僕のせいでこうなったって。二人がムキになったんだってことぐらい。でも、でも……怖いんだ。恵里も鈴も本気で好きなのに、二人に嫌われて……大っ嫌い、って。浮気者、って。どうやって謝ればいいの? どうすれば元の関係に戻れるかわかんないよ……うぅ、恵里、鈴……」

 

 そして鼻をグスグスと鳴らしながら泣き言も漏らしていく。そんな様子に優花も深くため息を吐くしかなかった。一度決めたら頼まれなくっても勝手に動く頼りがいのある少年が、今は恋人の放った言葉一つでここまでうろたえている。らしいといえばらしいのだが、いくらなんでも面倒くさい。そんなことを思いつつも目の前のコイツに何て言ってやろうかと考えた矢先、優花はいきなり繋がった“念話”に思わず顔をしかめた。

 

“ゆ、優花っち助けて! 急いでこっち来てよー!!”

 

 しかも相手は奈々だ。唐突に“念話”を繋げてきた親友の焦った様子にため息を吐きたくなるのをこらえつつも、冷静に対処しようと優花は声をかける。

 

“どうしたのよナナ。何があったかちゃんと説明して”

 

“妙子っちと一緒に休憩してた時に恵里っちと鈴っちが来て、相談に乗ってたんだけど、いきなり泣き出しちゃってどうしようって思って!”

 

“……まさかエリとスズがハジメに嫌われたくない、って叫んでるの?”

 

“そのまさかだよー!!”

 

 目の前の少年のことからしてもしやと思い、適当にカマをかけてみたところドンピシャであった。

 

“ハジメ君とどうやったら仲直り出来るか尋ねてきて、それで話聞いてたらいきなり二人とも泣いちゃったの!! ハジメ君の好きなものを否定して『大っ嫌い』とか『浮気者』って言ったから絶対怒ってるってすごいうろたえてて、でもフリージアにハジメ君がとられるのはやだー!! って言ってるからどうすればいいのかわかんなくったのー!”

 

 あっちもこっちも似たような状況で同じようなことを言っていたことに優花は思わずげんなりしてしまう。ここ最近の三人は顔を突き合わせる度に反発し合ったり、あんまり一緒に行動をとらないようになっていた。そのせいで訓練の際の動きもどこかぎこちなくなり、メルドがため息を吐くのもここ最近では当たり前のようになっていた。

 

 だがそれも結局、どいつもこいつも同じ悩みを抱えてるときたものだから嘆息するしかない。嫌われたくない。けれどもどう謝ればいいのかわからない上に変に意地を張っている。心底面倒臭くなった優花は頭を軽くかきむしりながら奈々にあることを伝える。

 

“あーもう面倒臭いったらありゃしない……ナナ、今すぐここにいる馬鹿を送るからとっととエリとスズが逃げないようにしといて”

 

“え、馬鹿って……ハジメ君、そっちにいたの!? あー……わかった。私達の方で恵里っちと鈴っち抑えておくから、早く連れてきてあげて!”

 

“大丈夫よ。どうせ何度か尻蹴っ飛ばせば勝手に動くわ”

 

“えぇ……あんまり厳しくしないであげてね?”

 

“軽くお灸据えるぐらいでちょうどいいわよこの馬鹿は”

 

 そうして何度かやり取りをした後、“念話”が切れたことを確認した優花はかがんで未だ泣いて迷っているハジメに声をかける。

 

「恵里と鈴もアンタと同じことで悩んでたわよ……ったく、とっとと行ってきなさい。んで仲直りよ仲直り」

 

「……ぇ? で、でも、なんて言えば……二人とも、絶対怒ってるし……」

 

 軽く苛立っているのを隠さずにそう言うも、当のハジメはオロオロとうろたえるばかり。どうしてこう普段は歯の浮くようなことをしれっと言う癖にここぞという時に迷うのか。更にイラついた優花はハジメの両肩を掴み、真っ向から言葉を叩きつける。

 

「今更小学生みたいなこと言ってんじゃないわよ。それとも、アンタはこのままでいいっていうの?」

 

「そ、そうだけど……でも、でも……」

 

「――あーもう面倒臭い!!」

 

 遂にキレた優花はハジメの腕を掴むとそのまま引きずり出し、今度はこちら側から奈々に“念話”でコンタクトをとる。

 

「ゆ、優花さん!? ぼ、僕は一人で歩けるから――」

 

「うるさいドヘタレ。アンタが尻込みばっかしてるからこうしてやってるんでしょうが――ナナ、二人は逃げてない?」

 

「ど、ドヘタレ……」

 

“優花っち!? あー、こっちもヤバいよー!! 二人とも勘づいて逃げ出そうとしてるー!!”

 

 ドヘタレ扱いされてしょんぼりしているハジメを横に恵里達の様子を聞けば、やはりと言わざるを得ない状況になっていた。余計に頭痛に襲われながらも、優花は努めて冷静であろうとして指示を出していく。

 

“本当にもうエリもスズもハジメの奴も……! こうなったら片っ端から使えそうな奴かき集めて! こっちはこっちで絶対に引きずり出すから!!”

 

“う、うん! 今光輝っちとか龍太郎っちにも皆で声かけてるから!――あ、浩介っちが今香織っちも一緒に連れて戻って来た!!”

 

 きっとあちらは相当ドタバタしているのだろう。そう思いつつ優花はノールックでナイフを後ろに投げ飛ばし、逃げ出そうとしていたハジメの服の裾を地面に縫い付けた。

 

「いぃっ!? ど、どうして……」

 

「どうせ逃げ出そうとしてたんでしょ? どんだけ長く付き合ってると思ってるのよ――こうなったら絶対にアンタを連れてくから。ユキ、そこにいるんでしょ! この弱虫連れてくの手伝って!!」

 

「うぉっ!?……優花か。んで弱虫って……あー、ハイハイ。わかったわかった」

 

 そして偶然そこに幸利の気配を感じた優花は声をかけると、すぐに応援を頼み込んだ。幸利もすぐに事情を呑み込み、優花が“縛石”を発動するのと合わせて“纏光”を重ね掛けする。

 

「ゆ、幸利君!? 幸利君まで裏切るの!?」

 

「うるせぇ。こっちだってお前らに振り回されてんだよ……とっとと仲直りしていつもの感じに戻ってくれ」

 

 涙目になっている少年にやや辛辣な、軽い照れ隠しの入った言葉をかけつつ、付与魔法のせいで“錬成”でこじ開け辛くなった岩の鎖が巻き付いたハジメを二人して引きずっていく。そうしてハジメ達はロクに心の準備も出来ないまま、会談の席を設けられていくのであった……。




続きは日曜の10時に投下するつもりです。
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