おかげさまでUAも120422、感想数も381件(2022/7/17 6:03現在)となりました。誠にありがとうございます。こうしてかなり多くの読者の方々に読まれていると思うと、どうしても顔がほころんでしまいます。ありがたい限りです。
そしてAitoyukiさん、今回も拙作を再評価していただき誠に感謝いたします。また筆を執る力が湧いてきました。
では拙作のハジメ達がケンカした後の話となります。また今回の話も割と長い(約13000字)ので、それに注意して本編をどうぞ。
「じゃあ私達は外にいるからね――絶対に逃がさないから」
ハジメは優花に連れられて、恵里と鈴はそれ以外の面々に取り押さえられたことで解放者の住処の居間で面することとなった。
しかも扉の隙間からそう伝えてくる香織のプレッシャーはかなりのものであり、とてつもない気迫を三人は感じていた。しかもそこから漏れるのは香織だけでなく他の面々もである。
完全に逃げ場を絶たれたことにハジメ達はうなだれながらも、仕方なくお互いに向き合う……ミノムシのように体中に鎖を巻きつけられているため、絵面はかなりシュールであったが。
「えっと、その……二人とも、僕に話があるんでしょ?」
「……何? ハジメくんが話を聞きたいからこうして来たんでしょ?」
「そうだよ。ハジメくんが頭を下げたい、っていうなら許してあげてもいいけど」
お互いどうにかして和解の糸口をつかみたいのに、結局三人とも意地を張りあってしまう。悪いというのはわかっているのに、一度張ってしまったものを簡単には撤回出来ず、そのことにハジメ達は自己嫌悪に陥ってしまう。
「クソ面倒くせぇ……謝っちまえば済む話だろうがよ。こんな時まで意地なんて張りやがって」
「本当そうよね。大体、好き合ってる同士なんだし、お互いに好きだなんだ言えばもうそれで終わりでしょ? 普段から言い合ってるのにどうしてこういう時に躊躇なんてするのよ」
「うんうん。幸利、っちと優花っちの言う通りだよ。ちゃんと本音で言い合えばわかりあえるのにね」
思いっきり顔をしかめながらボヤく幸利に優花は同意し、奈々もそれに乗っかりながら好き勝手に言う。そんな幸利達にギャラリーも好き好きに言い合っていた。
「幸利や優花さん達の言いたいことはわかる。でも、意地って一度張るとそれを撤回するのって結構勇気がいるからな……そう思うだろ、龍太郎?」
「あー、確かにな。小一の時でも喧嘩して、お互い反省してたのがわかっててもお前に謝るのは結構怖かったしよ。今のアイツら、お互いにまだ意固地になってるから余計に怖いんじゃねぇのか?」
幼少のやらかしを思い出して気まずい感じになった光輝と龍太郎は、お互い探り合っている様子のハジメ達の方に同情しながら意見を述べる。
「あーうん、わかる。自分が悪いって思ってると、善意で差し伸べてくれた手もおっかなくて思えたからなー」
「なっつかしーなオイ。俺も大介も先生に誘ってもらった時はそんなんだったっけ」
「あーもうもどかしいなホント……ハジメの奴も、俺らがこー見えてたんだろうな」
「今となっちゃハジメ様々だけどよ、あの時は何か裏があるんじゃねーか、って思ってたしなー。あーもうなんかねーか。こう、パパっと解決できる方法とかよ」
そしてそれに大介達が同意する。過去の自分達のやらかしを思い出して少し恥ずかしくなったのだが、それ以上に目の前の探り合いが見てられなくなっていたのである。
「やめておけお前達……こういうのは当人同士で解決しないと駄目な問題だ。下手に外野が突っ込んだらかえってこじれるぞ」
そしてメルドも頭を手で押さえながらもハジメ達を眺めていた全員に忠告する。部隊を率いる者としてこういう問題に何度も直面したことがある。だからこそいち年長者として手出しをしないよう伝えたのだ。
「いや、まぁそうですけど……ん? おい香織、お前何ふくれっ面してんだよ」
「あぁもうこの子は……香織、何か言いたいのはわかるけれどダメよ。貴女は当事者じゃないでしょ」
「そうだけど……でも、でもこれじゃあどうにもなんないよ。きっとここを出る時もずーっとあんなままだよ。皆はそれでいいの?」
もどかしさを感じつつも結局様子見するしかないと諦めていた浩介であったが、先程から不満気な雰囲気を放つ香織の方を見れば一層顔を膨らませてハジメ達の方を見やっていた。
絶対に何かやらかすと確信した雫は頭痛を堪えながら諌めるものの、当の香織は逆に疑問をぶつけてくる始末。しかもそれに答えられないものを突き付けて来たせいで押し黙るしかなく。すると先程から何か思案していたアレーティアも大介の袖の一部を引っ張り、彼の意識を持ってこさせた。
「どうしたアレーティア? 何か、言いたいことでもあるのか?」
「……ん。耳、貸して」
そして軽くかがんで彼女の方を向くと、すぐにアレーティアは大介に耳打ちをし始める。適度に相槌を打ちつつ、思わずため息を漏らす彼を見て何か感づいた香織はすぐに大介へと声をかける。
「アレーティアさんも、私と同じなんだよね?」
「さっすが珍獣だわ。こういうのホントよく気づくな」
核心を突く言葉に大介も冗談めかしながらそれに同意した。そう。アレーティアも今の状況を続けてはいけないと思っていたのだ――過去に自分が彼らにやってしまったことを覚えていたからである。つまらない意地を張って、余計な恨みつらみを持ち込んで彼らの心を傷つけた。だからこそ今の状況を続けさせてはならないと必死に大介に訴えていたのである。
「珍獣じゃないもん……じゃあアレーティアさんもどうにかしたいって思ってるんだよね、檜山君」
「ああ、そうだ……コイツも、どうにかしたいって思ってるみたいだしな」
大介の冗談にブー垂れながらも、香織は彼の後ろにまた隠れたアレーティアに大介越しに意を伝え、大介もアレーティアの頭を軽くなでながらそれに同意する。それをメルドや他の面々も軽く呆れた様子で見つめつつも決して反対をする雰囲気ではなく。とりあえず香織が何かやらかそうとしたらその前に止めるか、と全員が思っていた。
「でもどうするの~? まだ三人とも、じっと見つめ合ってるみたいだけどぉ~?」
が、現状はただじっと三人が見つめ合っているだけ。このままにっちもさっちもいかないかと思った時、遂に状況が動いた。
「……ごめん無理っ! あは、あはははっ!!」
「ぷっ、くく……あははははっ!! ひーダメダメ! やっぱりおかしいや!」
「~~~~~~っ! アッハハハ! ダメ、流石にダメ! こんなの我慢できないよ!!」
笑ったのだ。ハジメが吹き出すと同時に恵里と鈴もつられて笑った。何かを我慢していたのを堪えきれなくなったのである。一体何が、と思って覗いていた光輝達であったが、次に出たハジメ達の言葉でそれに遂に気づく。
「ごめ、ごめんね二人とも……ぼ、ぼく、僕も含めて、皆で鎖でグルグル巻きにされてる、って思うとなんだかおかしくって……」
「ハジメくんもなんだ……あははっ! ダメ、ハジメくんも鈴も、ボクだって雁字搦めなんだもん!! 三人ともだよ三人とも! それで不愉快そうな顔してるとか、コントか何かだよ!」
「ホントだよぉー! 流石にこんな状態で意地張ってたら逆に笑えてきちゃって……あーダメダメ! 笑わないようにしてるの辛かったよ!!」
ここでようやく光輝達もハジメ達が捕縛魔法で雁字搦めになっていたことを思い出し、全員軽く吹き出す。自分達でやっておいて中々に薄情な奴らであった。
「あはは……もう、ごめんね二人とも。変に意地張っちゃって」
「ハハハ……うん。ボクもごめんね。大嫌い、なんて言っちゃって」
「あーもうおかしい! ホントおかしいったら!……もう、意地張ってるのも馬鹿馬鹿しくなっちゃった。仲直り、しようよ」
するとすかさず鈴が“光絶・桜花”を発動し、器用に自分達を縛る鎖を破壊していく。それを見ていた光輝達もこれなら大丈夫だと確信し、再度捕縛魔法をかけ直すことはしなかった。
「ごめんね。恵里、鈴。二人をないがしろにしてまでフリージアの研究や整備なんてやるつもりは無かったけど、不安にさせちゃってごめん」
申し訳なさそうな顔をしながらハジメは恵里達の許まで行くと、そっと二人を抱きしめた。今回のことで改めて思ったのだ。自分にはやはり二人がいないと駄目なんだ、と。二人がいるからここまでやってこれたんだ、と確信したのである。
「そうだよ、もう……いなく、ならないでよ。ボクを、置いてかないでよ」
「うん、ごめんね」
恵里は拗ねながらもハジメの胸に体を預け、ふとそんなことをこぼした。ようやく出会えた愛する人が消えてしまうかと思うとずっと気が気でなかったが故に甘え、悪態を吐く。すると彼もそれにうなずきながらも自分の頭を撫でてくれる。やはり『南雲ハジメ』という少年はただの依存先でなく、自分の寄る辺そのものなのだということを恵里は再確認していた。
「うん……ねぇハジメくん。鈴達のこと、嫌いになんてなってないよね?」
「なる訳がないよ。心配、かけちゃったね」
鈴も彼の腕に抱かれながらも少し心細そうにつぶやくが、ハジメは鈴の背中に回した腕に少し強く力を込めて抱きしめ返しながら言葉を返していく。それだけで胸の中の不安が消え失せ、目を細めながら鈴は彼の腰に手を回していく。
「ねえ、二人とも。恵里も、鈴も、僕のことを好きでいてくれる?」
「うん。ずーっと、大好きだよ。ハジメくん」
「いつまでも、愛してるよ。ハジメくん」
ようやく元の調子に戻った三人を見て誰もが安堵し、恋人のいる面々は互いに意地を張ることはやめようと思い至る。
(……なんかいいな、こういうの。俺も、好きな人が出来たら、こうなるのかな……)
(なんで、どうしてユキの顔が浮かぶのよ!……アイツに甘えるなんて、そんな、バカなことある訳ないでしょ!! ナナやタエと話したりとか、そういうのでしょ!!)
そんな時、ふと自分も誰かを好きになったらこういう風に甘ったるいことをするんだろうかと幸利は考え、優花も『疲れたし、どうせだから誰かに甘えてみたい』と思った時に何故か浮かんだ少年の横顔を必死に否定していた。
(今、なら……幸利……幸利っちに甘えても、大丈夫かな?――あれ? でも、なんで? どうして幸利っちに甘えたいなんて……)
そして奈々もふとそんなことを思う。ふと近くにいる
「良かった……良かった。けど、すごい辛い……頼むハジメ、早くフリージアにハグする機能つけてくれ……!!」
一方、浩介は三人が元の関係に戻れたことを祝福しながらも、非モテである自分の境遇を恨み、しょうもない願いをハジメに託していた。
解放者の住処で過ごすことになった二十日が経過したある日。バイクの三度目の走行試験を終え、それを元手にハマーに近いデザインの車を設計していた頃のこと。それと並行してハジメが作っていたある『モノ』が遂に完成を迎えることとなった。
「……なあ先生、本当にコレで大丈夫なのかよ?」
「大丈夫だよ良樹君……一番頑張ってくれてた君にそう言われると、僕としても心配になっちゃうよ」
居間でそれをお披露目した際、ふと心配そうにつぶやいた良樹にハジメも少し口をとがらせながら返せば、彼も悪い悪い、と反省した様子で頭をかいていた。
「ハジメ、お前のやったことを否定したい訳じゃないが……その、コレで恵里が操られずに済むのか? その、どう考えてもただの“耳栓”だぞ?」
「はい。これが必要なんです」
いぶかしげに問いかけるメルドにハジメも強くうなずいで返す――そう。ハジメが作ってこうして皆にお披露目したのは恵里用の耳栓だったのである。それも神の使徒対策の目的に作られたものだ。
「恵里が操られた時のことを色々と考えて、それでたどり着いたのがコレだったんです――メルドさん、覚えてますか? 恵里と、他の人が操られた時のことを」
「ああ。あれは確かにショックが大きかったからな。流石に覚えて……そうか。そういうことか」
ハジメからの問いかけを聞き、思い出したメルドは何故ハジメがこれを作ったのかをようやく理解した。それは製作に関わった面々やこの場にいた光輝達だけでなく、単に話を聞いていただけのアレーティアもまた理解していた。
「はい――あの時、冒険者の方達はあの女の方を向いてました。それと恵里も最初にあの女に操られそうになった時、視線が合ってたって言ってたよね?」
「うん。アイツの目が光った瞬間に頭がボーっとして、考えるのがおっくうになったからね。とはいえ壁に手を叩きつけた時の痛みと、魔力を使って壁を作って弾き返すイメージを浮かべたらどうにかなったけれどね」
二人が述べた通り、神の使徒ことノイントはあの時
「これでとりあえずあの銀髪の女は目を合わせることで相手を洗脳する能力があると判断しました。けれどベヒモスがいた階層であの女がやってきたことは違いました。何か命令をした途端にいきなり恵里の体が勝手に動いたみたいなんです。しかもそれは恵里が黒幕の前でやられたのと奇しくも一致しています」
「そうか。だから耳栓なのか!」
「うん。光輝君の言う通り。多分あれは
多分バックドアの類が仕掛けられてるせいで、恵里があの女の声に反応するようになったんだと思う。そう付け加えればどよめきが走り、どうして耳栓を作ったのかと誰もが理解を深めた。
事実、ハジメの指摘はほとんど当たっていた。エヒトが使った“神言”及び、ノイントが下した命令が恵里の肉体を支配したのも全て『声』から由来するものであったからだ。
エヒトは恵里の魂に仕掛けられた細工を介して抵抗させることなく操った。そしてノイントの場合はエヒトが恵里の頭に『神の使徒の声を自身の“神言”として認識し、従わせる』ように改造を施していたのである。その結果、恵里はノイントの言葉によっていいようにされてしまったのである。
流石に詳細まではわからなかったものの、ハジメはそのからくりを見抜いた。故に彼はそれを打破するための一手となるのが音の遮断、つまり耳栓を着用することだと考えたのである。
「結構苦労したよ……恵里の耳の大きさに合わせるのもそうだけど、タール鮫の革をゴム代わりに使って塞いだだけじゃ微妙だったからね。良樹君に手伝ってもらって間を真空にした二重構造にしたおかげでようやく実戦でも使えそうになったし」
そう振り返るハジメと付き合わされた恵里に良樹、そして手伝いをした鈴の顔からはかなりの苦労がにじみ出ていた。部品作りやサイズの調整、それを幾度も繰り返した果てに何度も没になったからである。
しかも兵器や車、薬を作るのを優先していたため、コレに割ける時間も余力もあまりなかったのだ。爪に火を点す思いでコツコツと時間を費やし、ようやくこの耳栓が完成したのだ。だが完成したからこそ、それまでの苦労も笑い話の一つとなった。故に彼らの顔に満ちているのは苦渋でなく満足感であった。
「……じゃあ恵里、つけてくれるかな?」
「うん、ちょっと待ってて」
そしてハジメから受け取った耳栓を両耳に入れてみれば、最後の試験の時よりも周囲の音が拾い辛くなっており、ほとんど聞き取れなくなっていた。それこそ耳元で鈴やメルドが大声を上げたらなんとか気づくといったぐらいで、これなら十分使えるだろうと恵里もハジメ達も心の中でガッツポーズを決めていた。
「……すごい。これなら、これならもう操られなくって済むよ絶対に! ありがとうハジメくん!! 鈴! 斎藤君!」
少しの間入れていた耳栓を外し、そう熱弁する恵里の様子に誰もが笑みをこぼす。これならきっと恵里が敵に回ることは無くなっただろう、と。
「これで恵里が操られる可能性はかなり減ったな……問題は耳栓をしながらで戦闘が出来るか、か。音が拾えないってだけで相当支障は出るだろうし……」
「そこは僕と鈴でどうにかするよ。“念話”っていう便利な技能がちょうどあるしね」
光輝も慎重な見方をしながらも安心していた様子ではあったが、耳栓による弊害について心配していた。その懸念についてはハジメがそう返すと同時に恵里にだけ“念話”を飛ばす。
“ごめんね、恵里。君に最初に贈ったものがこんなのなんかでさ”
“うん……嬉しくない訳じゃないよ? ボクのためにこうして試行錯誤して作ってくれたものが嬉しくないはずがないよ。でも、でもさ……やっぱりボクだって女の子だよ? こういうのよりも先に、指輪が欲しかったな”
申し訳なさそうに語るハジメに、恵里も仕方ないとわかっていながらもついねだってしまう。作って贈ってくれるものの順序ぐらい、選んでほしかった、と。するとハジメは真剣な声色で恵里にこう返す。
“ごめん。結婚指輪はまだにしてほしい――全部が終わるまで、待ってほしいんだ。だってさ……僕が贈ったものが少しでも傷ついたらと思うと、恵里が悲しむだろうから。それを見たら苦しくて耐えられないから”
その言葉に恵里は頬をほんのりと染めてハジメの方を見つめる。そこまで大切に思ってくれていたのか、と胸の内が温かくなり、瞳を潤ませた。
“もしかすると身に着けやすさとかで指輪型のアーティファクトも作るかもしれない。けれどそれは本命じゃないから。実用性のある
「……うん、待ってる」
感激のあまり恵里の口から言葉が漏れたことで皆のじっとりとした視線が向けられてしまい、ハジメも恵里も軽く赤面してしまう。
「……二人だけズルい。鈴は? 鈴にも何か言ってよハジメくん」
「えっと、その……わかった――鈴、全部終わったら結婚しよう。その時指輪も贈るから」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
二人の雰囲気の変化にいち早く気付いていた鈴は空気を読んで黙っていたものの、おそらく一区切りついたんだろうと予想しておねだりする。なおすぐさま覚悟を決めたハジメからとんでもない言葉をもらい、多幸感でいろんなものがぶっ飛んでしまった。
「いやー流石先生だわー。歯の浮いたセリフ平気で吐けるとかパねぇわー」
「よっ世界一のスケコマシ! ハーレムの味はどうよー?」
「エロいこともやっといて二人とも本気とか流石地球のハーレム王! ハジメ様だよなぁ!!」
「そ、そうだよ!! エロいことだってしたし、二人とも結婚するから!! 僕をなめんなぁ!!」
無論礼一達は即座にからかいに来た。口々に好き勝手言って茶化されたハジメは茹った頭でとんでもないことを言い出してしまう。もちろん煽りがヒートアップした。
「あ、アレーティア……その、ひ、人前ではちょっと……な?」
「……後で言ってくれるの?」
「いやそういう訳じゃ!?……あああ泣くな泣くなよぉ! おいハジメぇ! 恨むぞチクショウ!!」
服の裾を引っ張って物欲しそうに見つめるアレーティアに大介はタジタジになってしまい、ヘタレてしまったことでアレーティアの顔が悲しみで満たされていく。やっぱり自分じゃ駄目なんだと思い込んでしまった彼女の両肩を掴みながらも大介はなだめ、そしてこんな事態を引き起こしたハジメに怒りと恨みのこもった眼差しを向ける。
「……ねぇ龍太郎くん。結婚指輪は龍太郎くんが作ったものがいいな。それと式はやっぱり教会で挙げたいんだけど」
「おい香織いきなり話を飛躍させんな……その、不格好でいいならよ、頑張って作ってみるから。それと結婚は地球に戻ってからな」
「――大好き! 大好きだよ龍太郎くんっ!」
香織のキラキラとした眼差しに屈し、龍太郎も約束してしまう。満面の笑みで抱き着いてくる香織を優しく受け止めつつも、『コイツにゃ絶対敵わねぇや』と多分の幸せが伴った諦めに満たされていた。
「……えっと、その、雫」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「お、俺が責任をとれるようになってから……ちゃんと仕事が出来るようになってから、責任、とるから。悪いけれどそれまで待っててくれないか?」
「…………うん。待ってる。ずっと、待ってるから」
ハジメ達や龍太郎達の空気にあてられて見つめ合っていた光輝と雫であったが、責任をとるには順序があると考えて先延ばしを選んだ。だが雫もそんな光輝を責めることはせず、微笑みながら彼を見つめるだけ。さわやかで、甘い空気がその場に漂っていた。
「あぁもうアンタら……! ハジメ、エリ、スズ! アンタ達のせいでなんか変な空気になったじゃないの!! どーすんのよ!!」
そしてこの甘い空気に耐えられず、どうしてか苛立ってしまった優花がハジメ達に当たり散らし出した。
「えぇっ!? 理不尽すぎない!?」
「は?……優花、頼むからボクとハジメくん、それと鈴の間の空気ブチ壊しにこないでくれない? 怒るよ?」
「い、いいじゃん優花! せっかくなんだからもう少しこの雰囲気に浸らせてよぉ!」
「おい優花、お前今のは流石に理不尽だろ! ちょっと落ち着けって!」
「あぁもう黙ってなさいよぉ! 特にユキ!! アンタ見てると余計にムカムカすんのよ!!」
「ひどいよ優花っち! 幸利っち何も悪くないよ!?」
ショックを受けるハジメと奈々に一瞬で目がすわった恵里、ぷんすか怒る鈴。そして止めにかかった幸利にひどく苛立ちを感じ、知らない感情に振り回される優花を全員でなだめる始末。なお最終的にはメルドのげんこつで強制的に黙らせられてしまう――ようやく彼らの日々にほんの少しだけ穏やかさが戻ったのであった。
「オラオラ行けや礼一ぃー!!」
ハジメ達が解放者の住処で暮らすことになって一ヶ月が経過した頃。彼らは今、オルクス大迷宮の中にあるだだっ広い荒野のような階層の中で、魔力で動く仕組みの車両の試験を行っていた。
「邪魔なの全部はね飛ばしちまおうぜ!! あ、でも修理はお前担当な」
「ふざけんな信治クソが!! 煽ったんならちったぁ手伝え!!」
礼一が運転するのはウニモグを模した形の車であり、備え付けられた巨大なタイヤで悪路をものともせずに進んでいく。そしてウニモグ似の車と並走するのはハマーのような車であった。
“礼一君、信治君、良樹君。一応多少の高低差でも大丈夫なようには作ってあるし、サスペンションもついてるけれどあんまり無茶させないでね。壊れたら直すのも手間なんだから”
“わかったわかった。気ぃつけるから――よし、くたばれぇー!!”
軽く困った様子でハジメが“念話”を飛ばして注意するも、言ったそばから礼一の乗った車は地面から勢いよく出てきた魔物をはね飛ばしていた。直径が一メートル程度、全長が二メートル足らずの巨大なミミズのような魔物は体の一部を残して千切れて宙を舞い、頭から地面に叩きつけられて動かなくなった。匂いに敏感な魔物であったが故に起きた事故に関して、とりあえず見なかったことにしてハジメは試験を続ける。
「あんまり雑に扱わないでほしいんだけどなぁ……まぁこの程度で壊れるようなヤワなつくりにはしてないけどさ」
軽く圧縮したタウル鉱石によってこれらの車のフレームや装甲――厚みや強度を考えると板金というよりはこちらの方が近い――は作られており、魔物を一、二体はねたところで壊れはしないとハジメは自負している。
とはいえこのハマー型のものは四回目、ウニモグ型のものはまだ一回目の試験走行をやっている最中なのだ。採っているデータの絶対量が足らないのだから、あまり無茶はしないでほしいというのがハジメの願いであった。
「本当にアイツらは……ハジメくんが造ったものはお前らのおもちゃじゃないんだからねぇ……! 後で絶対とっちめてやる」
「やっぱり龍太郎君達に任せた方が良かったね……壊れたら三人でとりあえず直そう。ハジメくん、恵里。あと近藤君達は二度と乗せないようにしないとね」
助手席に行儀よく座る鈴がため息を吐き、運転席の真後ろでやや不機嫌な様子で座っていた恵里も礼一達の暴れっぷりに憤慨している。ハジメもそれに苦笑いしつつも『もし壊したら二度と触らせるもんか』と静かに決意していた。なんだかんだ容赦がなかった。
そうして車を走らせていると、ふと目の前にミミズ型の魔物とハゲワシ型の魔物が立ちふさがった。だがハジメは焦ることなく車の特定の部位に魔力を流し込んで隠されたギミックを起動させる。
ボンネットの中央が縦に割れ、そこから長方形型の機械がせり出てくる。そして長方形型の箱は、カシュン! と音を立てながら銃身を伸ばしていき、最終的にシュラーゲンに酷似したライフル銃となった。
「よし、車両内蔵型シュラーゲンの展開も問題なし。照準合わせ」
「“堕識”……はい。これで大丈夫だよ」
「いつでも“光絶”も展開出来るよ、ハジメくん」
「ありがとう二人とも。いつも助かるよ」
ギミックの一つが問題なく作動したことを確認しつつ銃口を魔物に向ければ、恵里が目の前の魔物全部に“堕識”をかけてほんの数秒ながらも意識を失わせた。そして返り血対策として鈴が“光絶”を張って車につかないようにする準備が出来たと伝えると、ハジメは相変わらず手際の良い二人に感謝を述べつつも魔力を更に流し込んでいく。
「よし――発射!」
四輪内蔵型シュラーゲンから紅いスパークが迸り、アームが角度を調整すると同時にドウゥ!! と射撃音を轟かせながら一条の閃光が魔物達を呑み込んでいく。その一撃で全ての命を刈り取った訳ではなかったが、それでも三割ほどの魔物が一瞬で絶命した。それを確認したハジメは再度アームの角度を変え、二度、三度と撃ち続ける。そして魔物がいなくなったのを確認すると、展開していたシュラーゲンをすぐに車体に収納していく。こちらの方も問題なかったようだ。
“……ホント息ピッタリだよな先生達は”
そしてハジメの乗る車の後ろから魔力で動くバイクが近寄ってくる。“念話”を飛ばしてきたのは大介であった。
“ずっと昔から三人一緒だったからね。息を合わせるぐらいなら訳ないよ”
“っかー、お熱いねーホント。その分なら
さも当然とばかりに返すハジメを下世話な話題も絡めて茶化す大介であったが、次のハジメの言葉で思わず赤面してしまう羽目に遭った。
“もう、大介君……そういう大介君だってアレーティアさんと一緒でしょ? 四六時中一緒なんだからアレーティアさんの言いたいこともわかると思うし、
「な、なななななぁああぁぁぁっ!?」
「だ、だだ大介っ!?」
こうして今もタンデムシートの後ろで自分の腰に手を回しているアレーティアのことを言及されたのだ。ぼかしながらも下品な話も交えて、だ。まさかハジメからからかわれるとは思いもせず、思いっきりうろたえてしまった大介はバイクを軽く蛇行させてしまう……が、そこは男の意地。アレーティアに無様をさらしたくないと必死になってコントロールを取り戻し、運転を再開する。
「……だ、大丈夫? 何か南雲さんに言われたの?」
「ハジメの野郎……あ、あぁ! な、何でもねーぜ何でも!!」
心配そうに尋ねてくるアレーティアに、大介は軽く声を上ずらせながらも平静を装おうとする。やり返されたことで恥ずかしさと怒りと悔しさで頭がいっぱいになったものの、そういう話題になったら絶対に勝てないと確信していた大介はそのままバイクの操作に意識を集中する……ヘルメットが無かったらアレーティアにバレて恥ずかしくて死んだと確信しながら。
「……大介。その、これが終わったら……私に、甘えてもいい。相談でも、何でも乗る。だから、私を頼って?」
なおその反応から、また心配になったアレーティアが更に言葉をかけてきたせいで色々と吹っ飛んでしまった。大介は『後でアレーティアに慰めてもらおう。うん』と考えながらも、ただ黙ってバイクを動かしていた。
「とりあえずあっちもこっちもサスペンションの具合は問題ないみたいだね。しかもあっちはこの車だと厳しそうなところでもガンガン突き進んでいくし、結果として任せても大丈夫だったかもね」
そして色々と頭がぐちゃぐちゃになった大介を横に、ハジメは少し前を走っているウニモグ型の車に視線を向ける。ハマー型では少々厳しそうな地形も車高の高さとタイヤの大きさから問題なく進めている様子であり、スピードが落ちていないことからサスペンションも問題なく働いている様子であった。
「でもよく酔わないよねアイツらも。それだけハジメくんが作ったあの車が優秀だ、ってことかな」
「一応辛くなったら地面をならしてもいいよ、って言ってるんだけどね……多分、楽しんでんじゃないかな」
呆れた様子で礼一達の乗るウニモグを眺める恵里に、ハジメはそう伝える。実はこの車両とバイクの車底にも仕掛けがあり、あのガントレットと同様に“錬成”が使えるのだ。目的は一つ。揺れに悩まされることなく安定して進むために地面をならす。このためであった。
ただ、今回はサスペンションのテストも含めた試験走行であったため、既に完成したバイクの“シュタイフ”に乗った大介以外は使っていない。それだけ両方の車が優秀である、ということの証左であった。
「そっかー……でもさ、あれだけ無理しても大丈夫だったら十分キャンピングカーに使えそうだよね」
鈴の言葉にハジメも苦笑しながらもうなずく。実は、わざわざ異なる車種のものを一台ずつ造ったのもこれが理由であったのだ。
当初はハマー型のものとバスさえあればいいかと考えていたハジメであったが、組み立てる最中に女子~ズから『キャンピングカーもあるといいんじゃない? というか欲しい』という意見が出てきたのだ。
その理由を聞いてみれば、『きっと国から追われるだろうから、屋外でもちゃんとした寝床や炊事が出来る場所が欲しい』という真っ当なものだった。テントでも立てればいいんじゃないかと考えていたハジメだったが、流石にそれだけじゃ厳しいと思い知り、当時造っていた車の組み立てと何度か試験を終えてちゃんとしたものが造れるようになってからという条件付きでそれを承諾した。
そしてハマー型の魔力駆動四輪車でトライアルを繰り返し、十分なデータを取ってから着手したのだが、その際にハジメはどういった車がいいかとインターネットで調べていた時の記憶を思い返していた。それで出たのがウニモグだった。これがキャンピングカーの母体としても使われていることに驚いたのを思い出し、こうして造り出したのである。
「うん。ただ、トレーラーの方を造るのはもう一度走行試験をしてみてからかな。一回試験をしただけで使える、って判断するのはまずいかもしれないし」
「慎重だなぁ、ハジメくんってば……」
「うん。そこまで慎重にならなくったって誰も怒ったりしないよ」
「だってあれをあと二、三台造るんだよ? 皆が使うモノを半端な出来で出したくないってば」
恵里のボヤきに鈴もまた同意し、ハジメもまた苦笑しながら答える。人数の関係上それだけの台数が必要というのもあったが、これ程までの台数を造っても問題ないと思ったのはある物をハジメが手に入れていたからである。
その名前は“宝物庫”。オスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるというものだ。要は、ゲームで勇者が使っている道具袋みたいなものである。
空間の大きさは正確には分からないものの、相当なものだとハジメは推測している。あらゆる装備や道具、素材を片っ端から詰め込んでもまだまだ余裕がありそうだからだ。そしてこの指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れ、それも半径一メートル以内なら任意の場所に出すことが可能なのである。故に車も何台も造ろうとハジメも考えていた。
「はいはい……じゃあまずはこの試験を終えないとね」
「私達が満足できる素敵な車、造ってよ?」
「うん。じゃあ、行こうか」
そしてそうつぶやく恵里と鈴に、ハジメは微笑みながら車のスピードを上げていく。迫る悪路にも屈することなく駆け抜ける様はまさに彼らのようであった。
ちなみにウニモグが出てきたのはとある方が感想で言及してくださったおかげです。
キャンピングカー自体も言及してくださった方がいたおかげで是非とも出そうとパク……参考にさせてもらってたのですが、そこでウニモグのことが話題となり、実際ggってみたら作者の琴線にバチクソ触れました。やだカッコいい……。
そこでただ出すのももったいないと思ってふと「ウニモグってキャンピングカーにも使ってたりしねーかなー」と考えて再度ggった際にそれを発見したんです。なのでウニモグを使ったキャンピングカーがトータスの大地を駆け抜けるのはそう遠くない未来に訪れたり。